蛙屋 新たなる品書き キノコ丸かじり!!

■ショートシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月06日〜09月11日

リプレイ公開日:2004年09月14日

●オープニング

 げげ〜ん。
 皿に盛られたその姿は、はっきり言って店の目玉である毒蛙料理を上回る。
 毒々しい極彩色で傘を彩った巨大な茸‥‥
「う‥‥」
「きっつ〜‥‥」
 客が完全に見た目で引いているのに蛙屋の主人は満足していた。
「ここまでは思惑通り‥‥」
「そうですか?」
 店員が不安そうに様子を窺っている。
「いくか?」
「いかなきゃ、食いに来た意味がねぇ」
 客は恐々(こわごわ)と箸で極彩色の物体を摘むと、目をつぶってポイと口に放り込んだ。
「‥‥」
「どうだ?」
 怪訝な顔で口の中の味を確かめ、慎重に2、3度軽く噛んで少しだけ飲み込んだ。
「うまい‥‥」
「俺も!!」
 2人の男は、皿に盛られた特大茸をペロリと平らげた。
「確かにいけるぜ!! 蛙屋の主人さんよ。江戸で触れ回ってやるよ。今回の御代はそれでチャラなんだろ?」
「左様で‥‥」
 蛙屋の主人は満足げに頭を下げている。

 江戸で毒茸料理が噂になり始めたころ‥‥
 と言っても、料理に使われてるのって大紅天狗茸って毒のない茸なんだけどね。まあ別にどうでもいいことね。

「蛙屋からの食材調達の依頼だ。
 江戸から片道1日くらいの場所に古の王の墓がある。
 そこに生えている極彩色の特大茸を取ってきてほしいってことだ。
 道中の食費なんかは蛙屋持ち」
「もしかして、それだけ?」
 ギルドの親仁の言葉に冒険者が首を傾げる。
「そんな訳ないだろう。
 この前の雨で古墳を覆っていた盛り土が流れて、墓が暴かれてしまってな。
 墓の守人が動き始めたんだよ。
 報告してくれたヤツの言うことにゃ、『はにゃっ』て感じの埴輪がたくさん現れてあまりの可愛さに逃げ帰ってきた‥‥んだそうだ」
「それで冒険者の出番か‥‥って、あまりの可愛さに逃げ帰ってきた?」
「そういうことにしとけ。
 守人の埴輪の1体1体の強さはそれほどでもないが、数が集まると一角の武将でも逃げ出すって言うからな。
 気をつけるんだぞ。
 それから王の墓だからなぁ。何があるかわからん。その辺も気をつけてな」
 ギルドの親仁は軽〜く言ってのけた。

 さてさて、行ってみるかい?

●今回の参加者

 ea0028 巽 弥生(26歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea0167 巴 渓(31歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea0547 野村 小鳥(27歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea0758 奉丈 遮那(32歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea2266 劉 紅鳳(34歳・♀・武道家・ジャイアント・華仙教大国)
 ea2722 琴宮 茜(25歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea3107 月詠 御影(27歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea3899 馬場 奈津(70歳・♀・志士・パラ・ジャパン)
 ea5897 柊 鴇輪(32歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea6496 ジェガン・アルバトロス(29歳・♀・ファイター・ジャイアント・イギリス王国)

●リプレイ本文

●出発
「こんな所にある茸なんぞ、わざわざ使う事もなかろうに‥‥」
 巽弥生(ea0028)のボヤきももっともだ。
 だが、遺跡の警報として生えていることもあるらしい大紅天狗茸を食材に選ぶのは料理人、いや店主のこだわりである。
 ゆえに今回の場合、仕方ないと言えば仕方ない。
「奈津ばあさんは大何とかってのキノコを採りに行ったこと、あるんだろ?」
 巴渓(ea0167)が馬場奈津(ea3899)に話しかける。
「大紅天狗茸狩りも埴輪も2度目じゃのう」
 馬場が感慨深そうに話し始めた。
 生えていそうな場所や菌糸に触れたら叫びだすこと、毛布に包んで採取することや採取後に適度に攻撃して黙らせること、耳栓の着用などなど色々なことを教えていく。
 体験が元とはいえ、どこまでが本当かわからない。効果の程も、その場の状況になってしまわなければわからなかった。
 しかし、何も情報がないよりいいのは確かである。
「蛙屋さんの依頼で茸を取りに行った人の話では、付近の茸は取ってしまったから古墳の中に入ろうとしたんだそうです。
 茸を取るなら古墳に入るしかないですね」
 運良くギルドに来ていた目的の人物から話を聞けた琴宮茜(ea2722)が入手した情報を仲間に伝えるが、あまり良い情報とはいえない。
「仕方ないさ。それより、みんな持ってきたか?」
 槌に大槌、六角棒と各々の得物を取り出した。
 噂や馬場の話によると、刀などの武器では岩を砕くような奥義でも使わない限り埴輪を傷つけることができないらしい。
 しかし、埴輪が出るとわかっていれば、この通り。
 あとは無駄でないことを祈るのみだ。

●古墳荒らし?
 古墳は天蓋を流され、半ば地表に現れていた。
 周囲には大紅天狗茸が生えていたと思われる菌糸の跡が残っていた。
 薄暗い通路には大紅天狗茸が生えているのが見えるので奥に行けばもっと手に入るかもしれないと冒険者たちは奥へと向かうことにした。

 一行の前を野村小鳥(ea0547)の提灯が、後ろの方を劉紅鳳(ea2266)の松明が照らす。
 柊鴇輪(ea5897)たちが床や壁に注意しながら先へと進んでいく。
「そうそう、うまくはいかんのう」
 馬場たちは他の仲間に守られながら大紅天狗茸を収穫した。
「少し黙っとき〜。美味しく食べたるからな〜。ぐふふ」
 叫び続ける茸を月詠御影(ea3107)が鉄拳でどつくと、程なく静かになる。
 入り口近くの4本目までは叫び声にうんざりしたくらいで襲われることもなかった。
 叫び声がもれないように毛布をかけようと思ったが、そこへ辿り着くまでに叫び声を上げるので、叫び声は諦めるしかなかったのだ。
 しかし‥‥ 奥へ入って採りはじめたときの5度目の叫び声の後‥‥
「何かいますね」
 琴宮が目を凝らしているが、薄明かりではそうそう見通せない。
 けたたましい叫び声と共にカランコロン音がする。
 茸を小柄で刈り取って抱えると隊列の中心へと下がる。
 馬場の味方の元へ下がりながら手裏剣を投げるが、威力が足りないのか弾かれる。
「任せ‥‥ました‥‥」
 胞子を吸わないように越後屋手拭いで鼻と口を被った柊も茸を短刀で刈り取って下がる。
「柊、おったのか‥‥ いや、それどころではなかったな‥‥ あとは任せたぞぃ」
 馬場たちの呼びかけで前衛が入れ替わった。
「来たか‥‥ 小鳥は俺が守る!!」
「?」
 声色を使っているので小鳥も奉丈遮那(ea0758)の声とはパッと気づかなかったようである。
 キリッと目つきを鋭くさせ、槌を構えて埴輪の群れに飛び込んでいく。
「可愛いけど‥‥ 御免!」
 バカンッと音がして埴輪の愛くるしい顔が壊れた。
「わっ!!」
 埴輪の剣の見かけ以上に鋭い切っ先が遮那がチクチク刺されている。
 幸い掠り傷で済んでいるようであるが、鬱陶しいのは間違いない。
「なんとなく‥‥ 安心して戦える気がする」
 小鳥が闘気の力を撃ち出して、遮那が槌を振るった。
 まるで餅つきの要領で2人は埴輪をパカパカ割っている。
(「避けられなかった‥‥ 防具をつけてなかったら、やばかったな」)
 遮那は鋭い埴輪の攻撃をくらいながら、横で不気味な笑い声を聞いた。
「ふふふ‥‥ 埴輪ども、貴様等全員ここで血祭りに上げてくれるわ」
 巫女の清楚な姿とは反する大槌を構えた邪な笑みが、松明の逆光の影で更に強調される。
 はっきり言って埴輪は何とも思っていないが、仲間たちが引き気味である。
 ガバンッ!!
 大槌が振るわれると埴輪はボロボロになった。
 剣を繰り出してくるが、さっきまでのような鋭さはない。
 弥生は辛うじてその剣をかわした。
「大した数だ‥‥ だが、所詮は雑兵。物の数ではないわっ!」
 埴輪との戦闘に夢中になって周りは見えていないようだ。
 脆くなった壁を粉砕しながら埴輪を破壊していく。
「や、弥生ちゃん暴走してる〜」
 しかし、狭い古墳の通路である。大槌をくらう危険を冒してまで止めに行く馬鹿はいない。

 10本目の茸を取ろうとして、やはり警報を避けることはできなかった。
 前方の敵を弥生たちが叩き始めたころ、カラカラと音を立てながら、ぽてぽてと馬に乗った形の埴輪たちが後ろからも迫ってきた。
「後ろからもかよ」
 巴渓は槌を構えて近寄ってきた埴輪をバンバン叩いた。
 体を左右に揺らしながら動くたびに、はにゃっ、はにゃっと声が聞こえてきそうである。
「惑わされんぞぉ!!」
 チクッチクッと埴輪から反撃がくる。さすがに筋肉で防ぐことはできなかったようだ。
「刀とかはダメでも素手でもイケルはず!」
 ゴンッッ‥‥
 鈍い音が古墳に響き、紅鳳が右の拳を痛そうに振っている。
 金属拳をはめていても痛いものは痛い。
 よく見れば反対側で戦っている琴宮も同じように拳を押さえてフウフウ吹いている。
 ジェガン・アルバトロス(ea6496)の六角棒が振るわれるが、埴輪の表面から埃が舞うだけで大した打撃にはなっていないようだ。
 仕方なく埴輪のはにゃはにゃ攻撃を受けることに専念しはじめた。
 受けには向かない得物だが、辛うじて避けられないことはない。
 巴渓に攻撃が集中しないように今は頑張るしかなかった。

 拳の痛みが引いて紅鳳が見渡すと、辺りには埴輪の破片が散らばっていた。
 動いている姿はもうない。
 弥生の暴れた跡があちこちに見える。その中には崩れた壁もあった。
 奥にも部屋がありそうだ。
「何があるの?」
 紅鳳が弥生の壊した壁の中を覗き込む。
 その中には、暗闇の中に紅く光る2つの玉が‥‥
 松明を恐る恐る照らすと剣を刷き、鎧と盾に身を固めた古代の戦士が骸骨姿で立っている。
「王様‥‥ですか?」
 答えるわけもなく、骸骨は剣を抜いた。ビュッと風を切る音がして紅鳳が飛びのく。
「骸骨の戦士よ。眠ってる王様を起こしちゃったみたい」
 槌を投げ捨て、十二形意拳の辰の構えをとる。
「こんの、ホネホネ野郎がぁ!!」
 龍飛翔が髑髏(しゃれこうべ)を吹き飛ばした。
「ここは私に任せろ!」
 ジェガンが六角棒の重さを乗せた強烈な一撃を繰り出す。
 骸骨はこれを軽々と盾で受け止め、振るった反動のまま繰り出されたもう一撃も軽々と避けている。
 しかし、いかに優秀な戦士といえども生半可な実力では数の暴力には勝てない。
 冒険者たちの猛攻を辛うじて捌きながら、骸骨は剣を振るう。
「うぉぉおおお!!」
 ついにジェガンの大振りが骸骨を捉えた。
 胴と脚が離れ、鎧が崩れ落ちる。
「フッ」
 息を整えると六角棒の石突を床に叩きつけた。

 目的の10本の茸は確保した。
 新たな敵の出現もあって、さすがに帰ろうということになった。
 しかし、さすがに馬場たちだけでは全部持つのは無理そうである。
「持とうか?」
 1尺半以上もありそうな巨大茸を何個も持つのは大変だろうと遮那が手を貸す。
「それにしてもどう見ても毒キノコにしか見えないけど‥‥ こんなもの食べる人いるんだね。
 毒じゃないってわかってても食べる気がしないんだけど‥‥」
 小鳥がげんなりとした声をさせ、茸を見ている。
「行こう」
 幸い埴輪の襲撃もなく、紅鳳らを殿(しんがり)にして一行は古墳を後にした。

●蛙屋にて
 10本の大紅天狗茸を店主に渡すと、満足そうに傘の状態などを調べている。
「戦闘があったと聞いた割には状態がいいですね。
 これなら数も取ってきてくれたようですし、満足です。手当ての方は弾んでおきますよ」
 出された巾着には見た目で報酬の倍近い金額が入っているように思えた。
「追いかけられて大変だったけど楽しかったな」
 爽やかな笑みを浮かべて弥生が大槌を榊(さかき)を振る要領でブンブン振っている。
 はっきり言って巫女姿との落差が激しすぎる。
 まぁ、依頼人も冒険者たちも満足そうである。それで良しと言うべきなのだろう。
 満足してないのは討ち払われた王くらいか‥‥

 巴渓はこっそり蛙屋の店に回ると店で働く女を物色する。
 といっても彼女にその毛があるわけではない。
「いた。あれだね」
 乳のでかい女‥‥ まぁ、腐れ縁の悪友から噂では聞いていたが確かに‥‥
 近寄って声をかけた。
「ダチの腐れ坊主からの伝言だぜ」
「‥‥ 伊佐さんのこと?」
「ああ、こましの伊佐治だよ。江戸で一番有名な破戒坊主さ」
「あの人、そんなことで有名なの? あなたも」
「はっ! 俺は奴のオンナじゃねェよ‥‥ マブダチさ」
「また、遊びに来てって伝えて」
「さあな、あいつのことだから」
「フフ、そうね。じゃあ、私が誰かと一緒になる前にまたいらっしゃいって伝えといて」
 変なところで意気投合した2人は声を抑えて店の片隅で大笑いするのであった。

「蛙屋ってのは、結構奇抜なもんから料理を作ってるやね」
 採ってきた茸を紅鳳が眺めている。
 華国の人にそれを言われたらお終いな気もするが‥‥
「これから茸の季節だしねぇ‥‥ 茸で美味しいお菓子でも作ってもらえないもんかな?」
「お菓子ですか‥‥ 一応考えておきましょう」
 さすがに紅鳳の頼みが奇抜だったので店主も咄嗟には対応できないようだ。
 それもそのはず。蛙屋は料理や酒を扱う店なのだから。
「それよりも食べて、江戸で触れ回ってください」
「どんな味なんやろ〜。楽しみや」
 店主の思わぬ申し出に御影の表情がパッと明るくなる。
 店主がパンパンと手を叩くと一皿盛られてきた。
 噂どおりの毒々しい盛り。蛙屋の面目躍如である。
「美味いもん食べるのは幸せや〜」
 さほど気にせず茸を一切れ口に放り込んだ御影が明るく笑う。
「ええ‥‥香り‥‥ 着物の酢いい匂いみたいや‥‥」
 毒はないはずなのに柊がヘラヘラケタケタ笑っている。
「大丈夫ですか」
「全然‥‥平気よ?」
「はぁ」
 店主が溜め息をついた。今回は別の意味で聞かれたような気がするが‥‥ まぁいい。

 しばらくして江戸では新たな噂が飛び始めるのであった。