【江戸の吟遊詩人】 さらわれた吟遊詩人
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■ショートシナリオ
担当:シーダ
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月08日〜09月13日
リプレイ公開日:2004年09月16日
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●オープニング
「誕生日の祝いなら先月に済んだはずですが?」
戦闘能力もない吟遊詩人1人相手に男たち6人がかり‥‥
近頃の江戸ってのは、どうしてこんな奴がうろつく様になったんだか。
「そんなこと関係ねぇよ。あんた、吟遊詩人ってヤツだろ?」
「如何にも、蛸にも」
って笑いなさいよ。折角、場を和ませようとしてるんだから‥‥
「俺たちのこと、江戸を守った英雄として歌にしてくれ」
「お頭、歌にしろ! でしょ?」
そんなもん、この状況でどう違うって言うのよ。
あらら、ボコスカに殴られてる‥‥
「まったく‥‥ この私を誰だと思っているのですか」
吟遊詩人は憤慨していた。
「シーダだろ? それは何度も聞いた。ここに来るまでにな。
それよりも!! 早く俺たちのこと、歌にしろっての」
彼らの態度はあくまで硬質的だ。その手には割いた竹の棒が握られている。
「確かに歌っておりますが、私は事実に基づいたことしか歌にはしないのです」
ちょっとは脚色することもあるけどね。心の中で呟きながら、蒼い髪の吟遊詩人は紅の瞳に怒りの強さを込めて睨んだ。
しかし、初めからその気の彼らにそんなものが通用するはずもなく‥‥
「お前じゃなくてもいいんだぞ!!」
バシィと竹の棒が床に叩きつけられ、私も一瞬身を硬くする。
なら、なんで私をさらったのさ‥‥ って言いたい。
「‥‥」
何かを思いついたようにニヤリと微笑む。その目に蔑みの色をたたえて‥‥
「こんなところで歌なんて作れないわ。場所を移して、専念できる場所を用意してもらわないと」
「何ぃ?」
誘拐魔に聞こえるか聞こえないかくらいに吹き出す。
「何がおかしい!!」
「おや、知らなかったのですか? 私たちギルドのお抱え吟遊詩人は、それなりの地位や待遇で扱われるものなのですよ」
確かに『それなりの地位や待遇で扱われる』が、今回の場合はただのハッタリだ。
『それなりの』がどの程度かはっきり話さないところがはっきり言って姑息だけど、この場合は許されるわよね。
別に嘘を言ったわけではないし。
「お‥‥お頭に聞いてくる」
「お待ちなさい」
かかった!! そう心の中で歓喜の声をあげながら、役人に向ける表情は眉1つ動かさない。
必死に笑いをこらえながら静かに語り始める。
「でも、そんなこと言ったら、あなたまたボコスカに殴られるわよ。
私くらいの待遇になると、どれだけ金がかかるかわからないもの」
私は大げさに頭を振って、溜め息を漏らした。それにしてもハッタリにも限度があると思うけど‥‥
「そ、それは困る」
効いたわよ‥‥ はっきり言って馬鹿ね。
「それでは、私の荷物から筆と紙を持ってきなさい。
手紙を書きますからギルドの人に渡して私の愛用の筆と紙を渡してもらうの。お頭には内緒でやるのよ」
「わ、わかった」
渡された紙をつかんで子分が座敷牢を出て行くまで私は必死に笑いを殺していた。
(「ギルドのみんな、冒険者のみんな、後は任せましたよ」)
その紙には、ジャパン人に読まれることを恐れたのかラテン語でこう書かれていた。
『吟遊詩人のシーダです。
俺たちの冒険譚をでっち上げろと誘拐されて、江戸郊外の座敷牢に囚われております。
今のところは大丈夫だと思いますが、いつどうなることか‥‥
とらわれている場所の地図や誘拐魔たちの人数は別紙に書きましたので、冒険者を救援をよこしてください。
報酬は私が持ちますので‥‥』
ギルドの親仁は続けて2枚目の手紙に視線を落とす。
それを読みながら目の前の男に静かに厳しい表情で話し始めた。
「筆と紙は届けさせる。君もすぐ帰らないと困るだろう?」
「じゃあ、見張りには俺が立つようにするから、バレないように渡してくれよ‥‥」
「了解した。できるだけ早く届けよう」
「頼んだよ」
男の情けない返事が返ってくる。
「くれぐれもお頭にはバレないようにね」
「は、はいっ」
男は慌てて駆け戻っていった。
「全く‥‥ 自分を冒険譚のネタにしおって」
親仁は溜め息をついた。
「おい‥‥ ちょっと‥‥」
ギルドの親仁が冒険者に耳打ちして、しばらく話し込んでいる。
「じゃあ、そういうことで頼むよ」
冒険者は頷いた。
シーダの渡した手紙の2枚目に書かれた作戦が実施されようとしている‥‥
●リプレイ本文
●ギルド
「さてと‥‥」
ギルドの親仁は溜め息をついた。
「ん〜? 面白そうなことでもあったんですか?」
「は?」
「やっぱり。あったんだ」
円らな瞳をキラキラさせながら、アイリス・フリーワークス(ea0908)が親仁の顔をツンツンしている。
「吟遊詩人のシーダが何者かに誘拐されたんだ。待ってるから冒険者を助けによこしてくれだと‥‥ 要は依頼だな」
「囚われても英雄譚を創ろうなんてすばらしい方ですね」
大宗院鳴(ea1569)が頬を紅潮させて身を乗り出す。
「全く何考えてるんだ。あの人は‥‥ とにかく助けるのが最優先だな」
腐れ縁とばかりに佐々木慶子(ea1497)が仕方ない顔で親仁に近寄ってくる。
「依頼なら詳しい話を聞かせてくれ」
ファラ・ルシェイメア(ea4112)の耳がピクッと動く。
「実はな‥‥」
親仁が粗方の事情を話し終えたころ‥‥
「そういうことでしたか‥‥」
上の方から声がしたと思ったら、シタッと華麗に着地する忍者が1人。
「かどわかしとは不届きな奴らです」
湖心の術でも使っていたのか、音も立てずに着地する忍者の人。闇目幻十郎(ea0548)。
親仁から手紙を受け取ると熱心に読み始めた。
「おてんとさんのおぼしめし〜っ☆」
明るい女の子が親仁に近寄ってくる。
「シーダさんって、おいしゃさんのおはなしをうたったひとでしょっ?
シーダさんがいなくなったら、すてきなひとのおはなしがきけなくなっちゃうじゃない?
それはたいへんよ! はやくたすけにいきましょっ♪」
ぷにぷにやわらかい両手をギュッと握ってジュディス・ティラナ(ea4475)が飛び跳ねている。
「お譲ちゃんがか?」
ウンウンとジュディスが首を振るたびに髪飾りが揺れる。
「事情は兎も角、無頼の輩は放っておけないな」
浪人風の涼しげな顔の男が近寄ってくる。
「夜神十夜‥‥」
ギルドの親仁が表情を明るくする。
そう、彼は妖狐襲来の際も江戸にその活躍を鳴り響かせた鬼道衆の頭目。
夜神十夜(ea2160)の名は江戸に知れ渡っていた。
乳愛好家としても‥‥
「助かるための努力をしてくれているのはいいんだが‥‥ 何かこう‥‥釈然とせんものがあるな」
「やめるか?」
「いや、やる。話を聞いてしまった以上、放って‥‥」
不破恭華(ea2233)は夜神の問いに頭(かぶり)を横に振った。
「どこを見ている‥‥」
「いや、いい乳してるな‥‥と」
不破の鋭い裏拳ツッコミを夜神が辛うじて受ける。
「十夜、何してもかまわないがきっちり仕事しろよ」
傍らにいた鷲尾天斗(ea2445)がククッと声を立てて困った笑いを見せている。
「まぁまぁ、仲良くいきましょうよ」
山本建一(ea3891)の仲裁に、不破は溜め息をついて拳を引っ込めた。
「報酬とかの話をするぞ。集まってくれ」
親仁の声に一行が動き始めた。
●屋敷
「おてんとさんおてんとさん、あおいかみのおんなのひとはどこにいるのかしらっ? おとこのひとはどのくらいいるのかなっ?」
夜神に肩車してもらってジュディスが望遠の術を用いる。
そんなことしなくても、人がいるかいないかくらいは十分見渡せる距離しかないのだが‥‥
「きゃあ、おやしきがゆれてるわ〜!」
「おいおい、中の奴らに気づかれちまうだろ?」
夜神もこんな小さい子のすることを強く咎めたりもできず苦笑いを浮かべている。
何とか焦点を合わせることができたとき、格子窓から外を眺めて欠伸(あくび)をする蒼い髪の女の姿を捉えた。
こっちに気づいたのかニッコリ笑って手を振っている。
「まぁ! あんなおへやにとじこめられちゃってるのねっ!」
「無事なのか?」
夜神が見上げる。
「うん☆ てをふってた」
夜神たちは、がっくりと頭を垂れた。
屋敷の1室では6人の男が酒盛りをしている。
ここは派手に補強してある部屋の隣。つまりは牢の隣である。
「シーダ殿、どんな話にしてくれるのでごさろうか。楽しみでござるな。忍忍」
忍び‥‥のような感じの派手な衣装の男が1人。
「浮かれるんじゃねぇよ」
屈強そうな男が1人、膝を崩して酒を煽っている。
雰囲気からいくと、ここにいる者たちの親分といったところか。
「‥‥」
先生と呼ばれていた男が立ち上がると一瞬の動作で日本刀を天井に突き刺した。
幻十郎のすぐ近くに切っ先が突き出している。
(「此処で捕まっては意味がありません」)
梁の上を移動しようとする。
「いやぁ、吟遊詩人の講談では、こんな風に突き刺すと忍者とかいるんだよな」
(「はぁ?」)
現実的に考えてどういうことだろうと幻十郎が首を傾げる。
しかし、先生の剣の腕は確かに見えた。
おそらく夢想流‥‥
とりあえず、幻十郎は仲間のもとに戻ることにした。
「アホですね」
開口一番、幻十郎はそう告げた。
「いや、だから相手の配置は?」
佐々木が怪訝な表情で聞き返す。
「あぁ、調べてきました。こことここに‥‥ それから‥‥」
地面に書かれた間取りに、幻十郎が人の数だけ丸をつけていく。
親分と先生を後回しにして雑魚を片付け、シーダを盾にされないように一部の者はさっさと牢の入り口を押さえ、その身柄を確保することになった。
「相手の方が数が多いんだ。相手の態勢が整わないうちに片をつけよう」
佐々木が得物を抜くと、他の者も戦いの用意を始めた。
●突撃
勝手口をそっと開けると5人の手下が軒先でだべっていた。
「わたくし、がんばらせて頂きますね」
「いきますよ」
鳴と佐々木が集中すると印を組んだ手を突き出して雷撃を放つ。
「ぎょえぇぇ」
「いって〜」
二条の雷光によって5人がのたうち回る。
その隙に不破たちが飛び込んでいった。
「大人しくすれば痛い思いはしないで済むわよ」
日本刀で遠慮なく斬りつけ、相手の体勢が整わないように次から次へその切っ先が閃く。
他の仲間も怒涛のように屋敷へとなだれ込んだ。
仲間たちが突入したのを見て、アイリスは高度を上げると落下の勢いもつけて牢の窓へ飛んだ。
目的の窓で止まろうとするが、止まりきれずに壁にぶつかる。
「痛〜」
アイリスが真っ赤になった鼻を押さえていると女の声がした。
「可愛らしい助っ人ね」
「助けに来たですよ」
アイリスが体の小ささを活かして窓から部屋へ入ってくると手を差し出した。
「ありがとう」
「無事でよかったです〜」
吟遊詩人が指の先で小さな手と握手すると、アイリスは明るい笑顔をふりまいた。
「なんだこいつら!! お、親方ぁ!!」
「うるさい!!」
新たに現れた邪魔な三下(さんした)を佐々木が重さを乗せた一撃で切り伏せながら奥へと突っ込む。
鳴が新たな術をかけて建物に入っていこうとすると三下たちが向かってきた。
「てめぇ」
「触ると危ないですよ」
鳴の言葉なんて聞いちゃいない。
日本刀を持っていても所詮は小娘とでも思ったのか5人は掴みかかってきた。
ババ、バシッ!!
ブスブス煙を上げて5人が転げまわる。
「危ないって言ったのに」
どうしてわかってくれないの? という顔で、鳴が困っている。
「大丈夫ですか?」
「がぅあおあくを」
鳴に助け起こされた三下がガクガクと体を震わせ、やがてぐったり動かなくなる。幸い生きてはいるようだが‥‥
「あれ?」
首を傾げた鳴が振り向くのを見て、他の4人の目には涙が‥‥
騒ぎを聞いてどんどん手下が駆けつけてきた。
バンッ!!
新たな三下が現れる。
「先に行ってください」
ファラが立ち止まって両手を体の前に突き出した。
「しゃらくせぇぇぇ?」
突進してくる三下たちの体がふわっと一瞬浮き上がったかと思うと転ばされ、屋敷の中を転がるように吹き飛ばされる。
ブワキ、バキッ!!
部屋の向こう側の戸板も外れ、部屋の中は物が散乱している。
立ち上がって逃げようとする三下たちに今度は雷撃。そして、間合いを詰めた不破の刀が襲う。
十把一絡(じっぱひとから)げの三下に敵(かな)うはずもなかった。
屋敷を走り、目指すは吟遊詩人の囚われている牢。
山本が戸を開けるのも厭わしいとばかりに押し破る。
「うぉ?」
親分に先生、忍者風の男、そしていかにも手下といったごろつきたちが戸の方を見る。
ピカ〜ン。
光球を背にして部屋に踏み込んだ一団。
「シーダさぁ〜ん、たすけにきたわよ〜っ☆
わるいひとたちにおどされておはなしがかけなくなっちゃったんじゃないかってみんなしんぱいしてたのよっ!
でもだいじょーぶっ☆ つよいひとたちが、わるいひとたちをこてんぱんにやっつけちゃうんだからっ☆」
夜神の後ろに隠れたジュディスが、やっちゃえやっちゃえとばかりに腕を突き出して飛び跳ねている。
「御用改めだ! お前らが自称美人吟遊詩人をここに閉じ込めているのは分かっている! 鼠賊共、神妙に縛に付け!」
鷲尾が十手をビシッと突きつけた。
「自称は余分よ〜」
奥の方から女の声が聞こえ、夜神たちの士気がそがれた。
「奉行所の奴らか?」
「ばっかやろう!! 返り討ちにすればいいのよ」
慌て始めた子分たちを鼓舞して親分が匕首(あいくち)を抜く。
それを見て夜神が鼻で笑った。
「お前の顔は英雄と言うには醜すぎるぜ? 早々に退場願おうか。鬼道衆が頭目、『血霞の剣士』夜神十夜‥‥ 推して参る!」
「有名人です〜」
別な女の合いの手が入る。
「有名人だってよ」
「そういや聞いたことある名前‥‥」
手下たちが、またざわめき始める。
「慌てるな。私がついている」
他の者たちとは雰囲気の違う男が杯を置いてスッと立ち上がる。
「お、先生。頼みましたぜ」
親分がニヤリと笑う。
「んで先生登場か‥‥ かかってきな‥‥
士道を踏み外した貴様に俺が負けるわけ無いだろ。貴様は刀を持つ資格なんか無いぜ」
鷲尾は十手を体の前に、日本刀を体の横に構えた。
それが合図となって一斉に戦いが始まった。
夜神と鷲尾は背中を預けるような形で親分と先生に対している。
子分たちは他の仲間たちを襲い始める。
「いやぁあ」
気合一閃放たれた先生の居合いを十手で受けた鷲尾が日本刀で反撃する。
「喰らいやがれ、外道が!」
必勝の一撃が、咄嗟に引いた先生の刀に受け止められる。
「やるな‥‥」
「そっちも」
さすがに先生と呼ばれるだけのことはある。
「やられ役はとっとと失せなっ!」
「そっちこそ!!」
夜神と親分は一進一退。
命中に長けた夜神と回避に長けた親分とでは相性が悪く、決め手にかけている。
(「派手に‥‥ 忍びの本分からかなり外れていますが、良しとしておきましょう」)
幻十郎にとって、このような仕事で派手な立ち回りをすることに抵抗があるようだ。
しか〜し、そこはそれ。自分のやり方を貫くのが幻十郎であった。
湖心の術で足音を消して派手忍者の背後から峰打ちをくらわせる。
「これが‥‥ 本物の忍者‥‥」
「そう、これが忍のやり方です」
派手忍者が崩れ落ちた。
着物をまさぐって鍵を手に入れると、牢の中に入る。
そこには蒼い髪の吟遊詩人がシフールと戯れてくつろいでいた。
「やっと来たですの〜」
アイリスが幻十郎に近寄って、クルッとその周りを1周する。
「あまり変な事を企てないで下さい。ギルドの親仁がぼやいていましたよ」
「いいじゃない。親仁さんも案外いけずね」
囚われの吟遊詩人が悪戯っぽい表情を浮かべて微笑む。
あきらめ顔で幻十郎は入り口の方を向いた。
アイリスは間口の向こうで戦う親分や先生に月明かりの矢を放っているが、掠り傷にしかならない。
「『お姫様、助けに参りましたよ』って、英雄譚では云えば良いんですよね。あっ、でも抱き合うと危ないですよ」
間口から鳴が覗き込んでいる。
「ざけんなぁ」
吟遊詩人を渡してなるものかと駆けつけた三下が鳴を捕まえようとして、シビビと痺れる。
「ね」
吟遊詩人はクスリと笑う。
「あとはあいつらを倒すだけね」
手下どもを抜けてやって来た佐々木が親分と先生の動きを見極める。
確かに2人とも三下どもに比べれば強いが、大したことはない。
親分の素早い攻撃は手数が多いだけで何ということもなさそうだし、先生の鋭い切っ先も何とか受けで捌けるだろう。
「私の刀で斬ってくれる」
山本の一閃がかわされる。素早いだけあって親分の回避は軽やかだ。しかし、紙一重であり、そのうち当たるだろう。
「シーダ殿、私も行ってきます」
佐々木は間口から離れた。
「手間取ってしまいました」
ファラが戦場となっている部屋へ入ってくる。
「もう終わりそうですね」
一瞥して集中に入った。
「くそっ、何人いやがるんだ」
さすがに側にいた手下の数も減って、親分の士気は崩壊寸前だ。
「お望み通り、吟遊詩人に詠ってもらいましょう。ただし、やられ役の方だけどね‥‥」
そのとき、ファラの体が淡い緑色の光を放った。
空気を引き裂く音をさせながら強力な光が親分の体に突き刺さる。
総毛立たせて親分がそのままの体勢で倒れる。
「やめだ!! こんなの割りにあわねぇ」
先生が刀を床に放った。
「終わったようですね」
吟遊詩人が牢の中から出てきた。
「ご無事ですかシーダ嬢。貴女の為に我ら一同、ここに馳せ参じました」
芝居がかった身振りで夜神が刀をしまう。
「みんな、ありがとう」
ニコリと笑って会釈をする。
「ここまで来るときのこととか聞かせてちょうだい。約束どおり歌にしますので。いいですよね? 親分さん」
「ぐっぞ‥‥ぅ」
気を失った親分を見て、みんな大笑いを始めた。
●晴れ時々雨
ギルドの親仁が気を利かせて奉行所に連絡を入れたらしく、戦いが終わってすぐに役人が屋敷に踏み込んできた。
「おぅ、こりゃまた派手にやったもんだねぃ」
岡引たちが親分や先生たちを縛っていく。
死人はなしということで、その点ではお咎めなし。
囚われの者を助けるためであったとして、屋敷の損害への弁償は後片付けの手伝いだけで済むように同心が屋敷の持ち主との仲立ちをしてくれたようだ。
役人たちは縄をうつこともせずに冒険者たちを解き放ってくれた。
「すまん‥‥」
「気にしないことです」
すまなさそうにしているファラの肩を山本が叩く。
奥では夜神たちが部屋を片付けているのが見える。
「よかったです〜」
ジュディスが飛び込んでシーダに抱きついてくる。
「ありがと」
「どうですか、良い詩は創れましたか?」
勝手に茶を入れて鳴が運んできた。
「えぇ、彼らのへっぽこぶりを存分に歌にしてやれるわ」
「よかったですねぇ」
「えぇ」
片づけが終わるのを待つシーダたち。
まだ少し残暑を感じる縁側には、ほんわか時が流れるのであった。