悪魔の山
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■ショートシナリオ
担当:シーダ
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 78 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月16日〜09月22日
リプレイ公開日:2004年09月21日
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●オープニング
行商から帰った商人。彼は江戸に着くなり、そのまま息絶えた。
これは彼の遺言とでも言うべき依頼である。
彼が最後に訪れたのは、江戸から2日ほどの山間の宿場町。
近頃、何件か神隠しがあったと噂になり始めている町だ。
江戸への妖狐の来襲の後ということもあり、ギルドも目を光らせている場所の1つだった。
ここは一旦、男の話に戻ろう。
行商を終えて江戸に戻ろうと帰路についたときに何かに襲われたらしい。
不意に腕に激痛を感じて逃げ出したそうだが、咄嗟のことと恐怖でどんな状況だったのかわからないそうだ。
そう‥‥、彼には連れがいた。
剣の修行をして旅をしている侍だったらしいが、無我夢中に逃げたときに連れとは途中ではぐれてしまったらしい。
遠くで物凄い叫び声を聞いたので、多分連れは生きていないだろうと語っていたそうだ。
それで命辛々江戸まで逃げてきたんだが、人気のあるところまで辿り着いて行き倒れたらしい。
そこで介抱され、一度は意識を取り戻したそうだが、事の顛末を伝えると息絶えたらしい。
彼は右腕の二の腕から先を失っていたそうだ。
傷ついた体で江戸まで逃げてきた無理が死んだ原因だろうと、彼を見た医者は言っていた。
その傷口は、鈍(なまく)らで斬られたか‥‥、腕の悪い奴に斬られたか‥‥、断ち切られたような傷口であったということ以外に詳しいことはわかっていない。
今際の際(いまわのきわ)に言い残した事があるんだ。
報酬は自分の手持ちの金と長屋に残してある売り物を全部金に換えて構わないとさ‥‥
悲しいもんさ‥‥
しかし、依頼は依頼だ。冒険者は、それをこなして報酬を得る。
相応の危険もあると考えて、そのうえで報酬額と人数はギルドの方で決めさせてもらった。
さて、事件の起きたと思われる宿場町の話をしよう。
神隠しにあったという事件。
未だに、いなくなった者たちは帰ってきてはいないそうだ。
行方のわからない者は、女の子供1人、大人の男1人。
いなくなった時間は、まちまち。
近頃、ギルドへの依頼で山鬼が2体退治されている。
宿場町から山鬼の潜伏していた洞窟へ向かう途中に血溜りがあったそうだ。
江戸襲撃事件の後だから、まだ近くに潜伏している鬼がいるかもしれないが、今のところ鬼が出たという報告は得ていない。
知っている情報はみんな伝えた。何とか事件の真相を突き止め、依頼人の無念を晴らしてほしい。
●リプレイ本文
●商家、噂話
「え、亡くなったんですか?」
壬生天矢(ea0841)に商家の旦那が驚いたように詰め寄った。
「襲われて‥‥ 江戸まで辿り着いたんですが、傷が重くて」
「そうかい‥‥ あいつが‥‥死んだ‥‥」
肩を落とす旦那を見ていると、こちらまで気落ちしてしまいそうだ。
「えぇ、それで彼が最期に事件の解決をギルドに依頼したんです」
「それならば何か私にできることはないか? 弟同然に可愛がっていたあいつの無念は私の無念‥‥」
「それならば俺たちが逗留する場所を世話してもらえないだろうか?」
「おぉ、それならば我が家をお使いください」
仲間たちが口々に礼を言っていると、暖簾(のれん)を割って男が入ってきた。
「宿を探すついでに色々聞いてみたんだけどよ。みんな口が堅い。
神隠しに山鬼、江戸を襲った妖狐たちのこともあって余所者には疑り深いみたいでね。なかなか難しいもんだ」
壬生たちの姿を見つけ、店先だというのに開口一番、丙鞘継(ea2495)は愚痴を吐いた。
「それでは私が口添え状でも書きましょう。丁稚を付けてやってもいい」
「さすがにそこまでは。丁稚に危険が伴うかもしれないから口添えだけお願いする」
旦那の申し出に壬生が慌てて口を挟む。
ここでは何だからということで奥へと通された。
「旦那さんは何か気がついたことはないか?」
「特には」
「叫び声、鈍ら刀か何かで断ち切られたような傷口、鬼の噂、神隠し‥‥
俺もララ殿も噂に聞いた山姥の仕業じゃないかと思うんだが‥‥」
鞘継が出された茶に少し口をつける。
ララ・ルー(ea3118)の表情は確信めいていたが、どこか自信なさ気だ。
噂は噂にすぎない。聞いた知識も学んだ知識も過信は禁物である。それがわかっているだけに特に‥‥
「この町に住んでいるお婆さんのことを聞きたいの。もしかしたら山姥かもって気になってしまって」
「多少大きな所ですし、江戸から逃げてきた人たちも結構いますからね。
あえて怪しいと言えば、寺の近くに住む老婆くらいですが、違うと思いますよ。
神隠しで連れていた子供をなくした方ですからね。
気が触れてしまっているようで、哀れなもんです」
旦那が首を振って大きく溜め息をついた。
「そうですか」
がっかりしたように、ララが小さな溜め息をつく。
「その線で当たるのもいいが、神隠しにあった男が犯人とも考えられる」
気分を変えようと壬生が口を挟んだ。
「人なり妖怪なり相手がある場合は退治、手に負えないような相手ならば真相究明に止め、戦わず撤退すべき‥‥だな。
色々情報を集めないと話にならんが、もう遅い。今日はさっさと休んで疲れをとろう」
見れば外は暗くなり始めている。
もうそんなに時間がたったのかと、みんな外を眺めた。
そういえば、町のこととか最近の出来事など色々聞いたのだから時間も経とうというものだ。
「そうですね。今は悩んでいても仕方ありません。
まずは何が正しくて、何が噂に過ぎないのか、それを見極めないと。
それに疲れていては頭も回りません」
壬生はすっと立ち上がると、大きく伸びをした。
「それじゃあ、食事でもしながら、今日は供養代わりにあいつの話でもしましょう。
少しでも知っている人がいてくれれば、あいつも寂しくはないでしょうから」
パンパンと手を鳴らすと使用人が現れた。
「夕餉(ゆうげ)の支度(したく)はできてるかい?」
「あと少しかかりますので、湯にでも入ってこられたらどうでしょう?」
宿場町の共同風呂で旅人や店の者に噂話を聞いたが、収穫はなし。
勿論、恥らう者は特別に商家の湯を使わせてもらっている。
夕餉をいただいて、鞘継たちは眠りについた。
余所者への雰囲気こそ多少ギスギスしたものを感じるが、平穏な町の風景に見える。
とても事件の起きている町には思えなかった。
●侍、老婆、子供、鬼
「みんな深く考えすぎだよ。怪しいのは連れの侍さ」
虎玲於奈(ea1874)は宿場町の神隠しなんか信用していなかった。退治された鬼にも興味はない。山姥に関しても同様だ。
最初から強盗が目的で連れのふりをしたことだってありえる。
裏なんか読まなければ、そっちの方がよほどしっくりくるのは確かだ。
(「侍が生きてはいないと証言したのは、襲われたときの正確な情報すら持ち合わせていない死んだ商人だよ。死者の言うことに耳を貸せば死者に引き込まれる」)
華国語しか話せない玲於奈は心配する仲間をよそに単独で走り回っている。
しかし、当てもなく探し出そうというのはかなり無理があった。
ただ、時間だけが過ぎていく。
ララは商人から聞いた老婆に会いに行くことにした。どうしても気になるからだ。
自分の目で確かめて、違うなら諦めもつくという思いもあった。
神隠しの子供の線から事件を調べようと考えていた南天桃(ea6195)も同伴である。
2人は寺の住職に会い、老婆と子供の話を聞いた。
「そうですか‥‥ 子供2人を連れて江戸から」
「そのときにはもう口が聞けない状態でした。江戸で余程怖い思いでもしたんでしょう。
おまけにここへ来て、子供が神隠しですからね。
気が触れてしまっているので、近くの木こり小屋を使ってもらって食事の世話だけはしております。
人と交わりたくない様子なので、しばらくはそっとしておこうかと」
「そろそろ食事の時間ですね。私たちで運んでもいいですか?」
「構わないですが、深入りしないようにお願いしますよ。最近落ち着いてきているので‥‥」
「わかりました」
2人は膳を持つと木こり小屋へと向かった。
「あの‥‥」
ララが声をかけると小屋の奥のボロ布から呻き声がした。
頭から蓆(むしろ)を被り、正気を失った瞳をギョロッと2人に向ける。
その腕の中には女の子が1人抱かれていた。
「あ‥‥ ぅ‥‥」
2人の方へ手を伸ばすが、抱きしめられて女の子は老婆の腕の中に戻った。
必死に胸の辺りにしがみついている姿が痛ましかった。
「ご飯はここに置いておきますから」
2人にできるのは、これが精一杯だった。
南天は神隠しにあった女の子が無事でいることを願わずにはいられなかった。
「遅くなった。山鬼の事件の情報を持ってきたぞ。それにしても宿でなく、こんなところに泊まっているとはな。少し探したぞ」
木賊真崎(ea3988)は、この町での山鬼退治の情報をギルドで得るため江戸に残っていたのだ。
「こっちは商人を治療した医者の話を聞けた。江戸に残った甲斐があるといいんだがな」
その傍らには紅李天翔(ea0967)と伊珪小弥太(ea0452)の姿もある。
これでようやく今回の仲間が勢ぞろいしたことになる。
その日の夜、冒険者たちは、それぞれの入手した情報を照らし合わせてみることにした。
「埋葬されてたから直接死体を見ることはできなかったけど、右腕を何か刃物で斬られたのは間違いないって」
「その切り口なんだが、鋭い刃物で切られたものではないというのは間違いないらしい。
それで、どういう物で斬ったらそういう傷になるのか、鍛冶屋に行って聞いてみた。
重さを活かして斬る武器、つまり野太刀とか山刀みたいな物が一番それらしいということだった。
ただ、重さを活かして斬る奥義を持つ流派はいくらでもあるから、一概には言い切れないと言っていたな」
紅李と小弥太の得てきた傷と凶器の情報‥‥
一見、役に立ちそうにない情報ではあったが、こういうのが真実ではない可能性を潰すのである。
「亡くなった商人は右腕に激痛を感じて逃げたようだが、なぜ激痛を感じただけで無我夢中で逃げたんだろう‥‥
腕の激痛だけで襲われた‥‥と、すぐに思うものだろうか?
商人の長屋にも行って、何を商っていたのか調べてみたんだけど、飾り物とか割と値の張るものを扱ってたみたいだから右手に金目のものとか下げていたのかも‥‥」
推測交じりで、いまいち押しに欠ける。紅李自身も納得していない顔である。
「山鬼に関してはどうなんだ? 俺が前に受けた依頼で逃がした奴らなら気になる」
孫陸(ea2391)が一番気になっていたことを聞いた。
「現れたのは妖狐による江戸襲撃の直後だし、江戸の方から逃げてきたみたいだしな。多分違うだろう」
「神隠しとの関連は?」
「皆が集めた情報と合わせると、第1の被害者である子供がいなくなったのは山鬼が現れる前、江戸襲撃の直後の話だ。
第2の被害者である男はつい最近いなくなったから、山鬼退治の後だな」
「ということは、神隠しと山鬼は別の事件と見るほうがいいのだろうな」
「多分‥‥」
「やっぱり山姥なのかな?」
ララが心配そうに小弥太の書いた木板を1枚1枚確認している。
「それならそれで目撃者がいてもいいはずだが‥‥」
「情報だけじゃ先へ進めないところに来てるのかもしれないね」
ララの不安は皆が感じているものであった。
「山姥なら戦いも覚悟しとかないといけないな」
小弥太がポツリと呟く。
「俺たちの手に負えるかどうかは別の問題だ。真相を突き止めて、危険そうなら一度ギルドへ報告を入れたほうがいい」
「状況次第だな。それを今決めるべきじゃない」
孫陸の反論に鞘継も納得の意を示す。
「しかし、死して依頼するか‥‥ まあ、もし俺も怪物に殺されでもしたら同じことをするかもな‥‥」
孫陸はゴロリと寝転がり、不貞寝(ふてね)するように目を閉じた。
「あの子やお婆さんみたいな人を増やすわけにはいきません。調査を続けましょう」
南天の声に頷くが、皆の士気はあまり高くはないようだ。
1日、2日と時間だけが過ぎ、仲間たちの探索も行き詰まっていたころ‥‥
くたくたに疲れ果てた玲於奈は、棒のようになった足を伸ばして一休みしようと木陰に入って寝転がった。
(「この臭いは!!」)
ガバッと起き上がって周囲を見渡す。
地面近くで鼻をクンクンいわせる。
鉄のような臭い‥‥ ちがう。血の臭いだ。
(「そういえば、ここは町から江戸へ向かう街道を少し離れた辺り」)
臭いをたどって茂みを掻き分けると、着物の破布(はぎれ)や激しい戦いを物語る刃毀(はこぼ)れした日本刀が見つかった。
この刃毀れが人を斬ってできたものかはわからない。
さらによく探すと骨の欠片が落ちており、この刀の持ち主が無事であるようには思えなかった。
念のためと山鬼の潜んでいた洞窟へ行ってみた木賊、鞘継、ララが再度行った探索は不発に終わった。
情報を検討して、山姥がここに住み着いているかもしれないと意気込んでいただけに落胆も一入(ひとしお)である。
「連れの侍の物だと思う!!」
玲於奈がボロボロになった日本刀と破布を握り締め、華国語で叫びながら駆け込んできた。
「落ち着いて話すんだ」
情報の見落としがないか小弥太らと話していた壬生が、玲於奈の肩に手をやって座らせた。
茶を一杯飲み干すと、玲於奈が経緯を語り始めた。
壬生が訳して小弥太が木板に情報を書き込んでいく。
「これで侍犯人説は消えたわけだ」
「もう1つ気付かないか?」
少しは進展したとホッとする壬生を小弥太が上目遣いで見つめる。
「事件は寺の近くで起きている」
「確かに。寺周辺に絞って見回りをしてみよう」
「あのお婆さんたち大丈夫かな?」
壬生と小弥太のやり取りを聞いてララが心配そうな声を上げる。
●叫び声、死体、月夜の晩、山刀
「仮眠は十分だな? 今夜は徹夜になるぞ。余分な荷物は邪魔になる。置いていけ」
榊原信也(ea0233)がテキパキと仲間に指示を出していく。
商家が好意で貸してくれた提灯と松明が渡ったのを確認して、榊原たちは夜回りに出かけた。
(「さて‥‥ 鬼が出るか蛇が出るか‥‥」)
雲ひとつない月夜、事件など起きそうにない神秘的な夜であったが‥‥
「きゃああぁぁぁ‥‥ぁぁ‥‥」
ともすれば聞き逃しそうな悲鳴。
孫陸は偶然にもそれを聞いた。
「みんなぁ! こっちだぁ!!」
すかさず叫び声のした方に駆け出す。
声と灯りを頼りに他の仲間たちも集まってくる。
「嘘‥‥」
駆けつけたララが思わず絶句する。
そう。ここは木こり小屋。
「踏み込むぞ」
集まった仲間を見渡して榊原は提灯を地面に置いた。
忍者刀を逆手に構えて印を組むのを見て、紅李たちも術の集中に入った。
「絶対に逃がさん‥‥」
日本刀を下段に構え、戸を少しずらして壬生が中を覗き込み、開け放った。
そこには子供を抱えた老婆の姿‥‥
女の子をしっかりと抱きしめたまま、老婆が振り返った。
「いやぁぁ!!」
紅李が悲鳴をあげる。
赤々と闇に光る目に耳まで裂けた口、そして抱えられた女の子には頭がついていなかった‥‥
「うっ‥‥」
凄惨な場面を多少は潜り抜けてきた冒険者たちも、さすがに人間の女の子が今まさに食べられている瞬間を目撃するなんて経験はそうそうなく‥‥ 胃の中の物をぶちまけていた。
「ぼおっとするな!!」
斬り込んだ壬生の重い一撃を老婆は受け止めた。
「山刀!!」
小弥太が叫ぶ。
(「事件のあらましは見えてきたけど‥‥」)
小弥太は歯噛みした。
山刀を砕こうと六尺棒を振るうが、老婆の身のこなしは思ったより軽く、なかなか捉えることはできない。
「うそぉ‥‥ やだ」
(「もっと山姥の線で調べていれば‥‥ こんなことには‥‥」)
ララが後ずさりして泣き崩れる。
壬生や玲於奈や孫陸でようやく互角。
それでも激戦の末、数で勝る冒険者が老婆を追い詰めつつあった。
「ギシャアァァァ!!」
壁板を突き破って外に転がり出た老婆は一目散に暗い森の中へと消えていった。
●一応の解決
「俺1人じゃどうしようもない‥‥」
疾走の術で追いかけた榊原が明け方近くに戻ってきた。
どこまでも逃げる老婆に榊原の体力と精神力が追いつかなくなり、ついに諦めざるを得なかった。
逆襲を受けなかったのは運が良かったと言えるだろう。
「だが、あそこまで逃げたってことは‥‥、もうこの町へは戻ってこないだろうな‥‥」
榊原は商家へ帰ってくるなりバタッと寝転がり、寝息をたて始めた。
壬生は不機嫌そうに煙管(きせる)を燻(くゆ)らせると、バンと火箱に打ち付けた。
犠牲になった者たちの墓には花を供え、詫びを入れてきたが、当分この気持ちは収まりそうになかった。
周りの仲間の顔も怒りとか悲しみとか感情は色々だったが、収まりきれないものを抱えているようだ。
これを機に、この町での神隠しは、とりあえず聞かなくなったという。