草原の戦い

■ショートシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:1〜5lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 62 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月16日〜09月21日

リプレイ公開日:2004年09月24日

●オープニング

 朝夕はそれなりに冷えてきたが、暑さの残る江戸。
 その近郊の武家の領内で戦(いくさ)が始まろうとしている。
 いや、その規模からいけば戦とは呼べないのかもしれない。
 その戦場には12名しかいないのだから‥‥

 足の甲をほんの少し隠すくらいの草の茂る広場‥‥
 その両端に陣取るように幕営が2つ。
 武士が物々しく立ち並び、睨み合っているが縄張りの内側には決して入っては来ない。
 それぞれの幕営の中央にいるのは陣羽織に大鎧という出で立ちの男。身なりや振る舞いから、それなりの格式と実力を持っていることが伺えた。
「油断などするなよ‥‥」
 片方の武士が軍配を振ると、6人が縄張りの中央へと歩を進める。
「勝ってみせよ!!」
 もう片方の武士が太刀を抜いて相手を指し示すと、こちらも6人が縄張りの中央へと歩を進めた。
 後は合図の法螺貝が吹き鳴らされれば、戦闘開始である。

 果たして、なぜこんなことになったのか‥‥
 それは2人の武士の些細な喧嘩の積み重ねだった。
 やれ、私のほうが的の中心を射ているとか、鷹狩りの獲物をどっちが先に見つけただの、大した理由ではない。
 面子にかけて後には引けない。ただそれだけなのだ‥‥

 この間のこと、この2人、危うく斬り合いになるところだった。
 どうしても収まらなくなってしまったのである。
 しかし、軽々しく私闘を演じれば両家取り潰しもありえる。
 そこで考え出されたのが、双方が同じ人数の冒険者を雇って戦わせ、その勝敗を以ってそれぞれの武士の勝敗とするというものだった。
 体面としては座興となっているようだ。

 片方の武家は自分で手を回して冒険者を雇い入れたようである。
 そして、もう片方の武家はギルドへやってきた。
「事情はわかりました。依頼を受け付けます」
 ギルドに断る理由もなく、依頼は受理された。

●今回の参加者

 ea0629 天城 烈閃(32歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea1170 陸 潤信(34歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea1891 三宝重 桐伏(39歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea5999 不動 金剛斎(34歳・♂・志士・ジャイアント・ジャパン)
 ea6419 マコト・ヴァンフェート(32歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ea6657 ルー・エレメンツ(29歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●いざ、参らん
 決戦の場に12名の冒険者が歩を進める。
 遠目には似たような編成で得物もほとんど同じ。
「我が名は赤城烈火! 此度、斯様(かよう)な仕儀により相対(あいたい)することと成ったが、互いに恥じぬ戦いを致そうぞ!!」
 志士が長弓をビンと鳴らした。
「俺の名は武堂金剛。やるからには勝たせてもらうぞ」
 巨躯の志士が刀を抜いて振りかざすが、まるで脇差しのようである。
「拙者、三重桐と申す浪人にて、此度試合に組することとなり候。刀の錆となりたくなくば、疾く立ち去られよ」
 腕を懐に仕舞ったまま斜に構え、目線だけを動かして男が天城烈閃(ea0629)たちを威嚇している。
「私の名はマリア・バンフリート。魔法の威力、見せてあげる」
 法衣の裾をフワッと浮かせてビシッと指を突きつける。
「俺の名は土守潤信!! こんな戦い、俺がいれば、すぐに終わるさ。いや終わらせてみせる!!」
 武道家が虎のような構えを取る。
「騎士となるための試練の旅の途中で、こんな場面に居合わせるなんてね‥‥
 我はノルマンの騎士、ラー・エフメソシ!! 全力で行かせてもらいます!」
 快活な女性騎士が流儀に則(のっと)って長剣を胸の前に構えた。
 彼らは全員が紅い鉢巻をしている。
 対して、こちらは萌黄色の鉢巻である。
「あちらにも武道家がいる様ですね。
 こんな斬合いの場に、拳一つで乗り込んでくる変わり者が私の他にいるとは‥‥
 その気前‥‥ ゾクゾクします」
 ウシッと陸潤信(ea1170)が拳を握り、ワクワクする気持ちを抑える。
(「意地だの面子だのだけじゃお腹はふくれないでしょうに、ツマンナイことに拘るのね‥‥
 私にはお武家様とやらの気持ちは分からないけど、面白そうなことを見逃す手はないわ♪
 相手が怪我しても治療が約束されているのなら、思う存分力を振るえるってものでしょ。
 少しくらい痛い目みるのは、この依頼を引き受けた時点で覚悟出来てるんでしょうし。
 勿論、私自身もだけどね?
 それじゃ‥‥ スリリングなバトルスタートといってみましょうか♪」)
 冒険者同士の戦い‥‥
 普段味わえない状況だけに自制心の強いマコト・ヴァンフェート(ea6419)と言えども、胸の音は速さを上げていく。
 今回は好奇心の方が勝ったようである。
「どうも、イヤな仕事よね‥‥」
 ルー・エレメンツ(ea6657)は、こういった仕来たりがどちらかと言えば苦手である。
 さっさと切り込めばいいのにと思ってしまう。
 スラッと長剣を抜き放つ。
「どうした! お前たちは名乗りを上げぬのか!!」
 雇い主の武士が腹立たしげに膝を叩いた。
 振り向くと眉間の皺がここまではっきり見える。
 三宝重桐伏(ea1891)が名乗りを上げようと一歩前に出ようとしたとき、ヒョウと音を引いて鏑矢が放たれた。
 ビィィユゥゥゥゥ‥‥
「戦の合図じゃ!! 名乗りもできぬとは、何たる恥」
 見れば、向こう側の武士は口を押さえて肩を揺らしている。
 明らかに笑っていた。
「勝ってみせよ!!」
 怒りの形相を見せながら武士が太刀を抜いて相手を指し示し、三宝重たち6名は縄張りの中央へと歩を進めた。
 相手も歩を進める。
「私たちと同じ組み合わせですか‥‥ 顔かたちも似ているし、装備までそっくりですね。何だか気味が悪い‥‥」
 陸潤信はそう言いながらも相手の武道家を注意深く見ている。
 土守と名乗った武道家は縄張りの途中で止まると金属拳を外し、上着を脱ぎ捨てた。
「オイオイ‥‥ あそこまで似てると流石に気持ち悪ぃぜ‥‥」
 三宝重が日本刀を抜きながらボヤく。
「ホント、アタシによく似た人がいるねぇ‥‥ 性格も似てたら怖いけど‥‥ 案外こういうのも楽しいかもね」
 ルーたちもそうだが、向こうも陣を組むように縄張りに展開していく。
 相手の陣は、三重とラーが前衛、武堂と土守が中衛、赤城とマリアが大きく下がって後衛といったところか‥‥
 赤城は短弓を傍らに置くと長弓を構え、矢を10本程度矢筒に仕舞い直している。
 対して天城たちの陣は、陸潤信と三宝重とルーが前衛、不動が中衛、少し離れて天城とマコトが後衛だ。
「私たち後衛は接近戦に弱いから、常に前衛とは距離を置いて」
「突っ込んで切り伏せればいいと思うけど。逃げ‥‥」
「そこ、逃げ腰とか言わない」
 マコトがビシッとルーを指差す。
「か弱いウィザードに前衛で戦えなんて、兵法も知らない阿呆の言い分よ。
 適材適所、だから後ろは任せなさいな♪ 連携が勝利の鍵よね」
「ならば、その役目は俺が」
 不動金剛斎(ea5999)が後衛寄りに下がる。
「あたいは斬り込むだけ。後ろは任せたよ」
 ルーは突っ込む気満々である。
 さて、12名全員が配置についたようである。
「それでは武士の戦に恥じぬ戦いを!!」
 法螺貝が吹き鳴らされた。

●初手
 前衛がぶつかり合う間に双方、魔法による集中までの間、弓での緒撃を試みる。
「降り注ぐ死の雨、お前達にかわしきれるかな‥‥」
 天城烈閃(ea0629)は、素早く矢を番(つが)えると、2本の矢を同時に放った。
 スカカ。スカカ。三重を狙った矢は見当違いの場所に突き刺さる。
「きゃあ」
 ヒュウ、風を切って放たれた矢がマコトの集中を妨げた。
 赤城がニヤリと笑うのが何となく見えた気がして、冷静な天城にも動揺が走る。
「お前が一番厄介だと見た!! ハッハー! 逝っちまいなァ!」
 三宝重が前衛を突っ切って長弓を放つ赤城へと迫る。
「そこも!!」
 少ない敵前衛を抜けて陸潤信もマリアに迫る。
「甘いわね」
 マリアの起こした暴風で陸潤信と三宝重が吹き飛ばされた。
「何であたいばっかり!」
 結果的に三重とラーを一手に引き受けることになってしまったルーが状況打開の一撃を放つ。
 重さを乗せた一撃をラーが反射的に長剣で受ける。
 バキィイン。
 柄の部分に近い場所から甲高い音を立てて刃(は)が折れた。
「しまった!」
「‥‥」
 ラーの声に束の間の勝利を味わったルーが鮮血に染まる。
 視線を移すと、重さを乗せた一撃で続け様に斬りつけた三重の刀に血がべっとり付いている。
 失血で一瞬気が遠のく。

「うわぁぁ!!」
 ルーが霞む目で三重の刀も破壊しようとするが、大振りで足元も覚束(おぼつか)ない一撃ではそれもかなわない。
 スカカ。スカカ。
「当たらないか‥‥」
 天城の矢は今度も趨勢に影響を与えない。
 狙いもつけられないほど早く多く撃っても意味がないのだ。
 起き上がった陸潤信と三宝重が再び敵後衛に迫る。
「よしっ」
「速い!!」
 陸潤信の爆虎掌(ばっこしょう)に、たまらずマリアが集中を妨げられる。
「こっちだって唱えさせるかよ」
 ヒョウ! 赤城の新たな矢がマコトの顔を苦痛に歪める。
(「矢は防げない。このままじっとしていては仲間が危ないな」)
 突っ込んでくる敵がいないと判断した不動が術の集中に入る。
「好き勝手させるか」
 三宝重の重さを乗せた連撃が赤城を切り伏せる。
 倒れた赤城が落とした弓を拾おうとするのを見て、三宝重が切っ先を目の前に突きつけた。
「それ以上動けば斬る。死んだら損じゃんか。じっとしとけ」
 諦めて傷を押さえてジッとした赤城を見て、三宝重は次の得物を探した。
「これを使え」
 三重が短刀をラーの足元に投げるが、ルーにそれを阻止する余力はなかった。
「降参しろ。命まで取りたくはない」
 ビュッ! 横一閃の血飛沫が飛び、三重の日本刀の血糊が更に血曇りを増す。
「こっちだって‥‥ こんなとこで死にたくないよ」
 ルーは力を振り絞って長剣を草叢へと投げた。
 これを相手の騎士に使われては意味がないからだ。探されたとしても少しは時間が稼げる。
「戦場なら、助かる命もそれで失っていたな」
「じゃあ、取るかい? あたいの命を?」
「私は投降した者の命を奪うほど恥知らずではないよ」
 ラーのゲルマン語にルーもゲルマン語で返した。
 ガックリと膝をつくと、ルーはそのまま仰向けに倒れこんだ。
 次の瞬間、マリアの方を向く三宝重を衝撃波が襲った。
「効かねぇじゃん」
「なんて奴だよ」
 眉間からタラッと血を流しながら視線だけをチラッと送った三宝重を見て、転倒を期待していた武堂はゴクッと唾を飲んだ。

「マリアに、よくもやったな!」
 陸潤信へ土守の拳が突き刺さるが、掠り傷程度。
 オーラパワーで威力を上げたはずなのに‥‥と、土守の顔に驚愕の色が浮かぶ。
 慌てて爆虎掌を放つが、それでも大した傷にはならない。
「どうやら、手数を増やそうと考えたんでしょうが、それが徒(あだ)になりましたね」
 逆に陸潤信の拳、拳。土守が苦痛に小さく声をあげる。
 何とか最後の一撃を受けたが、その衝撃は土守の内腑に響く。
「がぁぁあああ!!」
 土守が悲鳴を上げた。
「お前も体を張って刻を稼ぐか? 下手すると死んじまうぞ? 降参しろ」
 三宝重は魔法の集中をするマリアに日本刀を突きつけた。
 その切っ先には血が滲み、首筋には紅い筋がついている。
「フゥ‥‥ わかったわ。降参。でも、赤城の手当てくらいはいいでしょ?」
「あぁ。早く僧に見せてやれ」
 マリアは降参の証に鉢巻を取って捨てると縄張りの外へ駆けていった。 
「よくも2人を!!」
 術の集中に入っていた武堂が叫ぶ。
「次はお前か‥‥」
 三宝重の残忍な視線を受けて武堂が気後れしたように、少し後ずさった。
「天城さんとマコトさんは俺が守る。唸れ! 大地の怒り!!」
 不動の放った衝撃波を受けて、ラーが転倒する。
(「何としても陸さんと三宝重さんが駆けつけるまでもたせてみせる」)
 不動は日本刀を握りなおした。

●決着
「ここで役に立たなきゃ、意味がな〜い!! 猛る風よ、我が手に集いて其の敵の歩み阻まん!」
 傷の痛みをこらえながら何とか魔法を完成させたマコトが暴風が、うまく三重とルーを転ばせた。
「武堂とかいう志士は俺たちに任せて!! 桐伏さんは浪人を!!」
(「最終的にこちらが勝てるなら、俺が犠牲になるのも覚悟の上‥‥ ただ、そう簡単にやられてやるつもりもないがな‥‥」)
 そう考えていた天城だったが、ここは志士の術を自分たちが抑えて、不動が無事なうちに三宝重に加勢してもらった方が分がいいと踏んだ。
「おぅ!!」
 走り出す三宝重を援護するように天城の矢が飛ぶ。
 2本ずつ放った矢のうち、偶然にもその1本が武堂に当たって、その集中を妨げた。
 起き上がった三重に不動が技巧を凝らした攻撃を加える。
「うぉぅ」
 たまらず三重は日本刀で受けて、しまったという表情を見せる。

 天城の矢は相変わらず当たらない。
 マコトは魔法の集中に入った。
「くそっ、武器さえあれば!!」
 ラーの攻撃は不動に傷を負わせていたが、掠り傷にしかならない。
 三重は三宝重の重さを乗せた一撃をかわそうとした。
 本来なら受けで捌くのだが、得物を砕かれては戦えない。そんな気持ちがよぎって、かわす方を選んでしまった。
「ぐはっ‥‥」
 深手を負い、グラリと三重の上体が揺れる。
 ルーの長剣を砕いた初撃が、こんなところで趨勢に影響を与えていた。
「降参だ‥‥ これでは勝ちはない‥‥」
 返す刀を日本刀で辛うじて受けた三重が刀を地面に突き刺すと、傷を押さえながらドカッと地面に胡坐をかいた。

「旋風、回転撃!」
 拳を討ち込んだ後、爆虎掌が放たれて、土守が崩れ落ちる。
「そんなことで私には勝てないよ」
 2虎の戦いは陸潤信の勝利に終わったようである。
 仲間たちが勝利したことを確認すると、陸潤信は深く息を整えて一礼した。

 天城たちは依頼主の幕営が勝ち鬨を上げたのを聞いて、自分たちもそれに倣(なら)った。
 薄氷を踏むような勝利であったが、勝ちは勝ちだ。
 敵味方関係なく負傷者に手を貸すと冒険者たちは傷の手当てをするために彼らを僧の元へと運んだ。

●勝利は誰の手に‥‥
 冒険者たちの何人かは深手を負っており、あまりに痛々しい。
「我らも本気で争っておれば、ああなったのだろうな‥‥」
 敗者の武士が、ふと漏らす。
「恐ろしいことだ」
 勝者の武士も僧たちが治療する様子を見て、首を振った。
「約束は約束だ。1つだけ何でも言うことを聞こう」
「それならば‥‥ あの者たち全員の手当てを頼む。それから、この戦いで失った得物や矢を購(あがな)ってやってくれ」
「それだけで良いのか?」
「あぁ、新たな争いの種をまいては何にもなるまい?」
「そうだな!!」
 2人の武士は、がっしりと手を握り合った。