渡る世間は小鬼戦士ばかり

■ショートシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:2〜6lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 4 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月21日〜09月28日

リプレイ公開日:2004年09月30日

●オープニング

 巷(ちまた)を騒がせてる鬼たち。
 江戸から2日の距離にあるこの村では鬼たちの出現に戸を硬く閉ざし、昼夜を問わず出歩くものはいない。
 戸がない家では庄屋の家や寺に避難して、ことの沈静化を待っていた。

 村からは少し離れた寺。
 ここ最近、憚(はばか)られるため経も小声で唱えているし、鐘も鳴らしていない。
 全ては、あの小鬼たちのせいである。
 仏具を磨く住職の表情は暗く、重い。
「ぼ〜けんしゃさんたち、どこにいっちゃったの?」
 半泣きの子供が寺の住職の袈裟を引っ張っている。
 ハッと気がついて優しい笑顔を向けると、仏具を置いて子供を膝の上に座らせる。
「用事ができてなぁ。極楽へ行ってしもうた‥‥」
「ごくらくへいっちゃったの? いいなぁ」
 子供の無邪気な一言に、住職は二の句は継げない。
「おらもあそびにいきてぇ」
「もう少し、辛抱しておくれ」
 さっきまで半泣きしていたのに、もう無邪気な笑顔を見せている子供を見ると愛しくなってしまう。
「そうじゃ、わしが何かお話をしてあげようかの」
「みんな、よんでくるぅ」
「これ、騒ぐんじゃないぞい」
 住職の顔に心からの笑顔がほんの少し覘いた。

 さて‥‥
 実は村には、少し前に冒険者が訪れていた。
 偶然、小鬼たちがやってきたばかりの時に彼らは村へ着いた。
 ギルドへ依頼をしに行くところだったので、村人は彼らに事情を話し、その日は寺に泊めてやることにした。
 話を聞いた冒険者たちは小鬼が相手と思ったらしく、気軽に村人の頼みを一も二もなく聞いた。
 一宿一飯の恩だとか、たかが5匹の小鬼なんて敵じゃないとか、ここであったのも何かの縁だとか言って、退治に出かけていったのだ。
 しかし、あまりに冒険者たちが帰ってこないので、村の猟師が危険を冒して小鬼たちの占拠している家を見に行った。
 その庭先には、バラバラに壊された武器や鎧、ボコボコに殴られて醜く腫れ上がった顔や体。
 見るも無残な最期だったという。
 うち捨てられていた人数からして、逃げられた者は1人もいなかったようだ。

 事態を重く見た村の者たちはギルドへ使いを出し、正式に冒険者を雇うことにした。

●今回の参加者

 ea0585 山崎 剱紅狼(37歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea0608 狩多 菫(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea0629 天城 烈閃(32歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea1289 緋室 叡璽(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea2557 南天 輝(44歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3054 カイ・ローン(31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3167 鋼 蒼牙(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea3546 風御 凪(31歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea4868 マグナ・アドミラル(69歳・♂・ファイター・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 ea6717 風月 陽炎(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●到着
 長く江戸を空けるので風御凪(ea3546)は自分の診療所が心配だったが、師匠と居候に留守は頼んである。この際、気にかけてもしょうがなかった。
(「村人に怪我人など出ていなければいいのですが‥‥」)
 重装備で愛馬『早風』を駆る。
(「あいつらはやりすぎだ‥‥ 地獄に帰して反省させてやる」)
 普段見せない激しい風御の一面が垣間見えた。
「天邪鬼、山鬼戦士に続いて今度は子鬼戦士か‥‥ 俺も、いっそ鬼狩りとでも名乗ろうか」
 山崎剱紅狼(ea0585)たちは村へと急いでいた。
 いつ小鬼戦士たちが村人が隠れている場所を襲撃するかわからない。
 ボヤッとしている暇はないのだ。
 幸い、ギルドへ依頼に来た村人は、まだ帰るのは危険という判断からギルドに匿われていた。
 村の中の見取り、村人が隠れている寺への表口や間道、残っている村人の数など、住職と猟師の渡した書付の木簡を元に村人の裏づけを得て、かなり詳細な情報を手に入れる事ができていた。
「悪さする鬼を俺は放って置けないからな。みんな急ごう」
 カイ・ローン(ea3054)は馬を降り、手綱を引いて間道を登って寺へと辿り着いた。

「村人に怪我人はいないのですね?」
 風御はホッと胸をなでおろした。
 さて、冒険者たちが到着の報告をしていると、猟師が母子を連れて物見から帰ってきた。
「これで村に隠れていた村人は、全部寺に集めた。後は、あんたらが小鬼を倒してくれれば万事解決ってとこだな」
「おぅ‥‥」
 山崎が気の抜けた返事を返す。
 小鬼を倒すことばかり考えていたので、こういうのはありがたいが‥‥
「小鬼たちは村の中をうろついていたりするのか?」
「たまにはな。食べ物がなくなったら家捜ししたり、放し飼いにしてある家畜を襲ったり‥‥ あいつら、やりたい放題やってくれるぜ」
「家捜しって大丈夫だったのか?」
「あいつらが家捜しする目的は食べ物だったからな。探している隙に隠れてる村人を逃がした」
「もしかして、あんた1人でか?」
「あんまり頭のいい奴らじゃないし、夜は寝てるみたいだしな。無茶しなければ、それなりに何とかなるもんさ。
 わざと食べ物を残している家も何件かあるから、時間も稼げるだろう。
 寺が気づかれるのは早くて2日、まぁ3日ってとこじゃねぇかな」
「すごいな‥‥」
 猟師の手並みに山崎は感心を通り越して、呆れている。
「夜寝てるってことは‥‥」
「道々話し合った作戦でいけますね」
 カイたちはお互いの顔を見合わせた。
「あの小鬼たち、今夜倒しに行くからな」
「なるほど、寝込みを襲うわけか」
 山崎の言葉に猟師が頷いた。 
「できれば全滅した冒険者の弔いをしたいし、彼らの身内の為に遺品の回収をしておきたいな」
「今はよしたほうがいい。相手に気づかれたら損だ。食べ物は、親子を助けるために囮に使ったから明日まではもつだろう。
 それまで家からは動かないだろうから、やるなら今夜だな。晴れそうだし、月明かりも期待できる」
 相変わらずこの猟師、手際がいい。カイの知りたいことを全部、いや、それ以上に答えている。
 ともかく、襲撃は夜。小鬼たちがが寝静まってからだ。
 昼間のうちに地形を頭に叩き込んでおくために冒険者たちは猟師に協力を依頼した。

 山の中の獣道。
「件の小鬼、ありゃあ十中八九小鬼戦士だろうな。経験の浅い、しかも軽装の者は苦戦間違いない。
 今回犠牲になった冒険者ってのは最悪の組み合わせだったみたいだな」
 鋼蒼牙(ea3167)の脳裏にギルドの親仁の言葉がよぎった。
 武具を壊したのはバーストアタックに間違いないだろう。
 そうなると問題になるのは相手がどれだけの打撃を与えてくるか‥‥
 鋼たちは不安と隣り合わせになりながら、各々の装備を調整してこの依頼に臨んでいる。
「小鬼らしく、小器用な奴が相手のようなだな‥‥ まぁ、倒して見せるさ」
 鋼は愛用の日本刀をしまい、短刀を腰に差している。
 それを手にとって、思わず不安が口からこぼれた。
 威力に不安があるが、その分は自分のかけるオーラパワーや仲間の魔法で何とかするしかない。
「武具破壊技の遣い手だからな。鎧は脱いで、身軽になる手もあるが‥‥ いや、他に何かあったときのためにこのままで行こう」
 カイも同様の不安を抱えていた。やはり愛用の武具を失うことはつらい。
「ここなら小鬼の棲家と周辺が見渡せます」
 猟師が斜面に張り出した岩の上から手招きをしている。
「あれが小鬼たちの棲家。煙が昇ってるでしょ。あそこです」
「本当だ。それでは‥‥ 逃がさないためにも、あの道は押さえておかないといけませんね。」
 風月陽炎(ea6717)が村の外へと続く道を指差す。
「数は?」
「5」
「得物は?」
「棍棒みたいだが色々細工してあるな。鋲が打ってあったりして、殴られたら痛そうだぜ」
 またもや猟師は、天城烈閃(ea0629)の質問にも的確に答えていく。
「あんたも手伝うかい?」
「いや、いざってときに村人を逃がさないといけないし、あんたらが失敗するとは思ってないが、念のために寺を守る者も必要だろう? 遠慮しておくよ」
 猟師が苦笑いを浮かべた。

●深夜
 果たして猟師の言った通り、月夜の晩になった。
 小鬼の家が見える場所に冒険者たちは集まっていた。
「得物を壊されたら、これを使ってくれ。ただし、俺の刀を折ったら弁償だからな」
 山崎がドサリと日本刀や太刀の入った袋を木の根元に置いた。
 そこへ風御と天城が戻ってくる。
「同じくらいの大きさの呼吸が家の中に5つ。先程動かなくなりましたから、眠ったんだと思います」
「力を振るい、相手を攻める事には慣れていても、攻められる事には何の備えもしていない小鬼が多いのだが、今回の小鬼たちはどうだろうな‥‥」
「さあな。杞憂だと信じよう。まずはわしらの作戦を信じることだ。それでは配置についてくれ。打ち合わせ通りに頼むぞ」
 熟練の戦士が醸し出す風格、マグナ・アドミラル(ea4868)はそれを持っている。
 背中を預けて戦い、魔法を使う間に敵を食い止めてくれるマグナを、カイは今回も頼りにしていた。
「しっかりいきましょう」
 仲間を頼りにしているのは、緋室叡璽(ea1289)も同じだった。
 今回は、それぞれが得意な分野で手分けしてこそ成功する作戦なのだ。
「マグナさん、今回もよろしく」
 カイがマグナと自分に加護を与えた。
「マグナさんの後ろだと安心して魔法を使えるよ」
「気にするな。わしも魔法の援護あった方が戦いやすい。お互い様だ」
 2人は互いに笑みを返した。
「燃える正義の心で悪を討て! なんちって☆」
 狩多菫(ea0608)も手近な者の得物に魔法の炎を付与していく。
 冒険者たちは互いの顔を見渡すと月明かりの暗闇に散った。

「この恨み晴らさでおくべきか!」
 風御がヴェントリラキュイで庭に倒れる冒険者の死骸から声を飛ばす。
「ぎゃ?」
 小鬼戦士が起き出して、声の方を探るが、そこには死体しかない。
 何が起こったのかわからずに、イライラを隠さずに小鬼戦士は軒先の踏板を壊し始めた。
「馬鹿やろうが、無闇に村の物を壊すんじゃねえよ」
 南天輝(ea2557)の切っ先から放たれた衝撃波が、小鬼たちを吹き飛ばす。
「降り注ぐ死の雨、お前達にかわせるかな‥‥?」
 天城と狩多による矢の雨が小鬼戦士たちに降り注ぐ。
「これが俺の戦い方だ! お前たちに死の制裁を!!」
 鋼の手の平から闘気の弾が飛び、小鬼戦士の苦痛の声がもれる。。
 突然の攻撃に小鬼戦士たちは慌てふためき、庭の外へと駆け出そうとする。
「村人の苦しみ、冒険者達の無念、今こそ晴らす」
 建物の陰に隠れていたマグナの長巻が小鬼の胴を払い、返す刀が同じ部分を斬りつけた。
 小鬼戦士が苦しそうに浅く長く息を吸い込む。
 鎧の隙間からは血がドクドクと流れている。
「今までの報いだ」
 カイの体が淡い光を放ったかと思うと、小鬼戦士は動きを止めてバタリとそのままの姿勢で倒れこんだ。
「まずは1つ」
 カイの短槍とマグナの長巻が小鬼戦士の命を絶った。
「速攻で決める!遅れンじゃねぇぞ!」
 別の場所から斬りこんだ山崎の声が聞こえる。
「カイ、行くぞ」
「はい。青き守護者カイ・ローン、参る」
 マグナを先頭にカイが庭へと飛び込む。2人には余分な会話など必要ないのだ。

 大きな影に小さな影の持つ棍棒のようなものが叩きつけられた姿が、闇の中に魔法の炎で浮かび上がる。
「やるじゃねぇか‥‥」
 意外に鋭い小鬼戦士の一撃をかわしきれずに苦痛に顔を歪ませた山崎は、野太刀で小鬼戦士の一撃を受けた。
「いける!!」
 懸念の武具破壊を耐え切った野太刀を見て、ニヤリと笑う。
 次の瞬間、野太刀の一閃が小鬼戦士を捉えた。
「ゴブゴブ!!」
 3頭の小鬼戦士が山崎に向かって駆け寄ってくるが、天城と狩多の矢と鋼の闘気弾で2体の足が止まった。
「2体はヤバいな」
 続け様に野太刀で小鬼戦士を斬りつけた山崎が間合いを詰めた小鬼戦士の一撃を覚悟したとき、小鬼戦士は血煙の中に倒れた。
「やれるな?」
 そこには赤ら顔の巨躯の戦士の顔。それだけ語るとマグナは踵を返して小鬼戦士たちに切り込んでいく。
「大丈夫ですか?」
 カイの癒しによって山崎の痛みが引いていく。
「ありがとうな!! よっしゃ、いくぜ!!」
 マグナの後を追い、山崎が駆け出した。
「同じ冒険者の命を奪った者として‥‥貴様らはこの場で斬り伏せる‥‥」
 マグナの一撃で体勢を崩した小鬼戦士目掛けて緋室が日本刀を繰り出す。
 小鬼戦士が潰走しようとするのを切り伏せた。
 これだけ相手が崩れてくれれば、厄介な相手でも問題なかった。

「こっちですよ! 風の守り手、風御(かざみ)参る!!」
 少し離れたところにいる小鬼戦士に風御が叫ぶ。
「ぎゃあぁぁぁあおぅ」
 仲間を殺されて怒り狂った小鬼戦士が風御に迫る。
 しかし、小鬼戦士がちょっとした段差に足をとられた瞬間‥‥
「1匹たりとも逃がしはしない‥‥」
 天城の声に呼応するように、狩多も矢を放った。
 カッ、カッ! ズブッ! 
 ボクッ‥‥
 矢で蜂の巣になった小鬼戦士に建物の影から飛び出した風月が当身をくらわせた。
 小鬼戦士がズルズルと力を失ったように風月に寄りかかって倒れる。
「倒れるのはまだ早いですよ!!」
 渾身の3連撃! 風月の拳が小鬼戦士の腹に突き刺さる。
 小鬼戦士が口から血の泡を噴いて弾き飛ばされるように仰向けに倒れた。
 南天が小鬼戦士の得物を蹴り飛ばす。
「いくら破壊力があっても、得物を持っていないのでは役に立たないな」
 念のために日本刀で小鬼戦士の腕を斬りつけた。
「止めです」
 風御の突き刺した日本刀は小鬼戦士の喉に吸い込まれていき、やがて小鬼戦士の瞳から生命の色が消えた。

 天城が視線を庭に戻すと、そこには暴風が荒れ狂っていた。
 マグナの長巻と山崎の野太刀がふるわれるたびに血飛沫が舞う。
 小鬼戦士は虫の息で逃げようとしているが、それを容赦なく切り刻んでいく。

●勝利
 相手は、ろくに武器すらふるっていない。戦いは冒険者たちの完勝であった。
「さて、戦利品はあるかな?」
 鋼は小鬼たちの死体をまさぐった。
「‥‥ さすがにこれじゃあな」
 血糊や黒く固まっ肉片がこびり付いている木の棒に錆が浮いて赤茶けた鉄の鋲が打ってある。
 鎧も手入れをしていないためにかなりの臭気を放っており、どちらも使い物になりそうになかった。
「こんなの使えねぇ。その辺の木の棒の方がマシだぜ」
 山崎は眉間に皺を寄せた。
「何もかんも、いけすかないな」
「まったくだぜ」
 吐いて捨てるように言う鋼に山崎が同意を示した。

「ここからは巡回医師としての出番だが‥‥」
 カイの懸念をよそに仲間たちの怪我はない。
「よかったですね。みんな無事で」
 風御の笑顔につられて、カイも笑顔を返す。

 寺に戻った南天たちは勝利の報告をした。
「泣かなかったか? もう大丈夫だ」
 子供の頭を撫でる南天の表情はひどく柔らかい。
 村人たちもようやく安心して暮らしていけることが実感できたのか、安堵の表情を浮かべている。

 風御たちは、野ざらしにされていた冒険者の遺体を村の寺の墓に埋葬した。
「仇は取りました・・・・・ あなたたちのことは忘れません安らかに眠ってください」
 墓の前には僅かに咲き残っていた真っ赤な曼珠沙華が供えられている。
 風御たちにとっても、村の者にとっても、今回のことは『悲しき思い出』である。
 曼珠沙華が咲くころ、折にふれて彼らを思い出すのだろう。
 そう思うと風御の頬に涙が伝った。