●リプレイ本文
●那須
「いい感じです‥‥」
「この間、支局を設置に来て、今度は那須藩の作戦の手伝いか。とかく世の中忙しいものだな」
感慨深げに那須支局の看板を見上げる大宗院透(ea0050)。その隣には、建設の進む那須支局を眺める佐々木慶子(ea1497)。
「行くぞ。折角、依頼成功したら温泉に入れるって約束取り付けたんだ。頑張ろうぜ」
そこへ、彼女(?)と彼女の肩を叩く男が1人。山崎剱紅狼(ea0585)である。
「蒼天十矢隊の奴らに背後の憂いを忘れてもらえるように成功させんとな」
「知ってる奴が蒼天十矢隊や僧侶連続自殺調査、ついでに強行偵察に関わってたりするし、自分も頑張らんといかんね」
ここにも支局設置の尽力者が‥‥ 南天輝(ea2557)とキルスティン・グランフォード(ea6114)である。
ここに集った15名。蒼天十矢隊や強行偵察部隊との横の繋がりが多いようである。
「蒼天十矢隊の方々、それに鬼の山に赴かれる方々‥‥ 御武運をお祈りします」
限間灯一(ea1488)の祈りの声は届くのか。
蒼天十矢隊とは入れ違いで那須城へ入った収穫作戦護衛部隊。
「皆の者! 大切な作物を収穫するだけなのに、この騒動。
私が到らないばかりに‥‥ 本当に申し訳ない。家臣たちに護らせるゆえ、安心して収穫してほしい」
「殿様‥‥ ありがてぇ」
「オラたち頑張るだよ」
概ね藩主とは思えない言葉だが、気さくな藩主だからこそ藩のために命を投げ出してもいいという領民が現れるのだと思いたい。
尤も、この作戦が失敗すれば自分たちもお飯にありつけない。だからこそ必死になっているとも言えるのだが‥‥
「これ以上、妖怪たちの勢力が増す前に、此方の体勢を整えねばな。この戦、落とすわけにはいかぬ」
護衛の冒険者たちの決意も固い‥‥
●静かなる暴風
パチッ‥‥ 薪の弾ける音に鬼たち寝返りをうつ。夜も明けようという時でもあり、彼らは未だ夢現(ゆめうつつ)であった。
敵地に攻め入ったというのに全く反撃がないことに安心しているのか、見張りらしき鬼も得物を胸に、柱に寄りかかって眠りこけていた。冷たい夜風に鼻水をズズッと鳴らすが、起きる様子はない。
足音もさせずに近づく巨大な影が壁に映る。影は足音も立てずに部屋の中の山鬼へと近寄っていく。
怪力に物を言わせ、十分に重さまで乗せた長巻の一撃は山鬼の急所を貫いた。
完全な闇討ちに成功した影は、容赦なく山鬼を襲う。引き抜いてもう一度突き刺すと、山鬼はその瞳から光をなくしていった。
生暖かい血の煙と一瞬のうめき声に鬼たちの一部が目を覚ます‥‥
「オガ‥‥?」
もう1頭いた山鬼が痛みで目を覚ます。手の平を濡らす胸の暖かいぬめりが自分の血だと気づくのに数瞬も必要なかった。
目の前には巨大な影‥‥ 自らも巨躯を誇る山鬼であるが、それを上回る影に怯え慄(おのの)いた。
「オ‥‥」
立ち上がろうとするが、自分の血で滑って上手くいかない。必死になって伸ばした脚は、盾で軽くあしらわれた。
「ギャッ、ゴブゴブブ!!」
眠気眼(ねむけまなこ)に小鬼たちが起き上がってきた。ハッと状況を理解して得物を取る小鬼もいたが、大半は何が起こっているのか把握できていない。
巨躯の影は山鬼の喉許へ長巻を押し込んだ。ゴロと転がる山鬼の首を寝ぼけた小鬼が拾い上げて見つめた。
「ギャアア!!」
小鬼の悲鳴で、他の小鬼たちも一斉に目を覚ました。
「そのまま眠っておればいいものを」
暗殺剣士マグナ・アドミラル(ea4868)は、我先に逃げ出そうとする小鬼を容赦なく斬りつけた。
自分たちの倍はありそうに見える巨躯に、小鬼たちはそれだけで恐慌状態に陥ってしまった。
「ギャッ!!」
転んだ仲間を踏み越えて、小鬼たちは庭へと転がり出て行く。庭から外へ出ようとした‥‥その時。
バサァ。投網が小鬼たちを絡める。
「俺の出番はなかったか‥‥ おっとォ! テメェの相手は俺だぜ!」
両手に炎を纏った日本刀を構えた変形二天一流が垣根を掻き分けようとする小鬼を捕える。
よもや山鬼2頭を1人で倒してしまうと思っていなかった山崎は驚きつつも、逃げ出そうともがく小鬼たちを斬り伏せていった。
散発的に攻撃を仕掛けてくるが、所詮は小鬼だ。油断さえしなければ、数に頼らない小鬼など物の数ではない。活躍の場がなかった憂さを晴らすように小鬼たちを切り刻んでいく。
「逃がしません‥‥」
「いつもこう上手くいけば苦労はないけどな」
大宗院が引いた縄に脚を取られて小鬼が倒れこんだ。頭を踏みつけられて暴れる小鬼に南天が止めをさす。
「終わったようですね」
屋敷の周りを固めていた仲間たちが庭へ集まってくる。
「一足先に本隊に連絡に行ってきます」
突入を確認して馬を駆け寄らせた限間が手綱を引いて馬足を緩めた。
「好機を狙って時間をくいましたからね。皆さんも片付いたら一刻も早く合流してください」
「了解した。ここは任せておけ」
話をしながらも南天たちは限間は手綱を引いて馬首を廻らせると、腹を蹴った。
「出る幕がなかったですよ」
「うまくいっただけだ」
「にしても、山鬼2頭をあれだけの手際で倒したのには感服します」
調和の騎士と暗殺剣士‥‥ 意外な組み合わせだが、何より彼らはどことなく気が合っていた。
庭へ降りた2人の許へ冒険者たちが集まってくる。
「これ‥‥ さっさと片付けて‥‥」
大宗院が蠢く網を押さえつけている。
「了解だ」
マグナは網を取り払うと小鬼を斬り伏せた。南天、山崎ら手練を前に戦意をなくした数頭の小鬼など物の数ではなかった。
限間の言う通り、ボヤボヤしている暇はない。鬼たちに占拠されている地域の真っ只中なのだから‥‥
●収穫部隊
「周囲に鬼は見えなかったのじゃ」
「こちらも今のところは大丈夫のようでござるな」
シフールの空からの偵察と甲斐さくや(ea2482)の警戒網に敵が引っかかった様子はない。しかし、油断は禁物。小鬼の戦士が徘徊しているからだ。
「弥生殿、そう気を張っていては保たないぞ」
気負いすぎの感のある巽弥生(ea0028)の肩を佐々木が叩く。
「しかし、もう何度も襲われているんです。幸い被害は出てないけど」
敵の数が少ないこと、神出鬼没に現れること‥‥、小鬼の戦士たちの襲撃は収穫部隊の神経をすり減らしていた。このままでは士気がもたない。佐々木もそれを心配していたが、先に捕捉するしか十分な迎撃をする手段はなさそうである。
そこで鳴子などの罠を張り巡らし、警戒態勢をとってマグナたち先発隊の帰還を待つことにしたのである。
しかし‥‥
カラッ‥‥
「来たようでござるよ」
遠くに田に掛けられた稲穂から覗く顔‥‥ ひょっこり顔を出しては、ササッと近寄ってくる。小鬼だ‥‥
「作戦通りにいくよ」
甲斐は収穫物の陰に隠れながらその場を離れ始めた。
「収穫部隊は一時退避を! ここは我らが食い止めます!!」
射程に入ったのを見計らって雷撃を放った佐々木が藩士に向かって叫んだ。
小鬼たちは魔法での先制攻撃に怯んだ様子もない。散開して雷撃を潜り抜けるあたり、油断ならない相手だ。
「ゲコォォォオオ!」
小鬼の戦士たちの背後に大ガマが現れた。甲斐の姿が見える。
同時にあらかじめ仕掛けておいた荷車にシフールのサンレーザーが火をつけた。
退路を塞がれた小鬼の戦士たちは大ガマに追われる形で佐々木たち、いや収穫部隊の方へ突入していく。
「ここは私たちに任せろっ! お主らは自分の任務に集中するんだ!」
「その通り! 護るものがあっては我々が存分に戦えない! 退いてほしい」
巽とキルスティンが小鬼の側面に襲い掛かる。
「やるわね」
巽が野太刀を大振りするが、小鬼の戦士はそれをかわした。反撃を受けるが、それでは反撃に繋がらない。
「えぇい!」
キルスティンも手一杯で巽の援護にまで手が回らない。
ガッッ! 巽の目の前を雷光が走った。小鬼の攻勢が一瞬緩んだ隙をついて、必殺の念をこめた一撃を繰り出す。野太刀が二の腕を砕き、痛みに小鬼がのた打ち回った。そこへキルスティンの金棒が振り下ろされ、鈍い音を立てて小鬼の戦士の刀が拉(ひしゃ)げた。
キルスティンと相対していた小鬼が、その隙をつこうとする。僅かに切っ先をずらして掠り傷で済ませ、金棒を突き出した。音を立てて空を切る金棒は小鬼の肉を砕く。
悲鳴を上げ、逃走しようとする小鬼にガマが体当たりした。さすがに1丈もの巨体にぶつかられては、ひとたまりもない。小鬼の戦士は押し潰されるように絶命した。
「やれやれ、大人しく暮らしていればいいものを‥‥」
「お前たちだけで大丈夫なのか?」
那須藩士が、駆けつけてきた雪切刀也(ea6228)に声をかける。
「心配無用。とにかく、収穫部隊を守る事が第一‥‥ 頼みます」
雪切は日本刀を抜くと、そのまま術の詠唱に入った。その周りをジャイアントとシフールが固める。
雷撃を2頭抜けてきたようである。
「れっつ・いぐにしょん!!」
火球が小鬼を包み、ソードボンバーが追撃! 収穫途中だった稲穂を吹き飛ばした。
そのまま雪切は炎を纏った獲物を手に仲間と共に斬り込んでいく。
「自身の咎を悔いるんだな‥‥ッ!」
武器の重さを乗せた必殺の一撃! これが決まれば、流れは一気に雪切たちのものになるだろう。
しかし、小鬼の戦士は、それを軽々とかわした。さすが歴戦の小鬼。地力での勝負になりそうだった。
「ならばっ!!」
大振りになる攻撃を小さく纏めて繰り出していく。仲間たちの繰り出す攻撃と連携すれば‥‥
だが、それでも5分5分といったところか。
運良く駆けつけた限間の助太刀もあり、完全に優位にたった冒険者たちは小鬼の戦士たちを撃破した。
多少荒れてしまった田畑に文句もあがったが、那須藩士が間を取り持ってくれ、事なきを得ている。
●奇襲
偵察の結果は進路上に敵なし!
「さて、総力戦です‥‥ 遠慮はいらないということですね」
限間は日本刀を抜き放った。限られた人数で何とかしてきた戦いもこれで終わりだ。
この豚鬼の駐屯する村を撃破すれば収穫作戦に支障のある鬼は排除できる‥‥はずだ。
事前の偵察のおかげで指揮官らしき豚鬼は見当たらないと判断されている。
那須藩士との軍議の結果、冒険者たち総勢での豚鬼奇襲が採用された。
領地を侵されても反抗してこなかった人間たちに油断しているのか、ここでも豚鬼たちはふてぶてしく村で暮らしていた。
遺恨とならないように冒険者たちは、これを全滅させる気でいた。
「突貫!!」
庄屋の屋敷に居ついていた豚鬼たちは20頭ほど。村の中をうろついていた豚鬼たちは、既に屠ってある。後は仕上げだけである。
限間は日本刀で豚鬼を斬りつけた。ブヨブヨの脂肪に護られているのか、豚鬼はなかなかしぶとい。オーラパワーで威力を上げてあると言っても、これくらいの攻撃は大した傷にはならない。それならと刀身の重さを十分に乗せて斬りつけるが、今度は微妙なところでかわされはじめる。
確実に傷を負わせるか、運に頼って迅速に撃破を狙うか‥‥
(「多少は無理が利く」)
仮に長引いてもオーラリカバーがある。迷うのを止めた限間は、刀身の重さを乗せながらも小さく纏めて刀を振りぬいた。
一進一退‥‥ やはり、長期戦になりそうだ。もっと剣の修行をしておけばよかったと今更ながらに反省していた。
屋敷の庭で爆音が響く。
「いじめる?」
体格を活かして人遁の術で子供に化けた大宗院は、豚鬼たちが組織戦へ移行できないように奮戦していた。
ズガァアン!!
わざと見つかって適度に惹きつけては、土遁の術や微塵隠れで豚鬼を撒いている。
「鬼が食料を狙うとはセコイな。そんなに食糧不足なのか?」
どうやら挑発されているというのはわかるらしい。豚鬼が鼻を鳴らして槌を構えた。
「俺たちが助けてやろう。お前らが此処で朽ちれば食料は要らないだろ?」
豚鬼の槌の一撃は紙一重で南天をすり抜けた。白刃の光が豚鬼の首を目掛けて伸び、鮮血を飛ばした。見た目の傷の大きさ以上にその傷は深い‥‥
「夢幻の閃光、キサマの首狩らせてもらう」
各個に分断され、数の有利を活かせない豚鬼たちに勝利が舞い込むことはなさそうである‥‥
「ブヒッ、ブヒブヒ!!」
冒険者たちの目を盗んで庄屋の屋敷から抜け出した豚鬼たち2頭の運命は過酷だった‥‥
ズンッ! 地を揺らして舞い降りた巨大な影が豚鬼たちを見下ろしている。豚鬼たちが尻餅をついて、へたりこんでいる。
「残念だったな」
瞬く間に豚鬼たちは切り伏せられていく。
通りの赤鬼に塞がれているとでも言おうか‥‥ マグナのいるこの道は通行止めだった。
「のんびりやってる暇は無ぇ! 速攻でカタだ!」
仲間の援護射撃を受けながら山崎が斬りこむ。それが豚鬼たちの混乱に拍車を掛けた。
「ピギー」
傷を負って逃げ惑う豚鬼を見て、まだ戦える豚鬼まで戦意をなくしていた。
槌で打たれようが関係ない。敵の反撃は散漫だ。流れがこちらにある以上、一気に攻めるのも兵法の1つ!
野太刀を振りかぶった佐々木もそれに倣う。背負った得物を一気に豚鬼に振り下ろした。ぐしゃりと潰れた肩口から肉が覗いている。
「やらせるかっ!」
佐々木の背中を狙ってきた豚鬼をキルスティンが斬り伏せた。
「ありがとう」
「次いくよ!!」
2人は次の豚鬼を求めて斬り込んでいった。
ビシッ!! 豚鬼の頭に風車が突き刺さり、風を受けてカラカラと回った。
「今だ!!」
雪切と仲間たちだ。巽を囲んでいた豚鬼たちに斬り込んで陣容をバラバラにしていく。
「せぇぇい!!」
野太刀を担ぐ巫女‥‥ 巽が横殴りに得物を振り抜いた。巽が太刀を振るう度に豚鬼の肉は潰れ、終には肉塊と化した。
「そろそろ終わりだな」
雪切の言う通り、まともに反撃していた豚鬼はこれで最後。後は掃討戦を残すのみのようだ。
豚鬼の集団から村を開放した冒険者たちは収穫部隊に合流し、無事に任務を果たした。
那須城に入ったときの領民たちの歓声を、これから先、忘れることはないだろう。
●温泉神社
カポーン。湯船と浴場が備え付けられていて、なかなか豪勢である。
「『那須』産の『ナス』はさぞ美味しいのでしょうね‥‥」
大宗院の独り言に、温泉が一瞬凍りついた気がする。
冒険者たちは溜め息をつくと、温泉で体を伸ばした。一仕事後の温泉は格別であった。