《那須動乱》強行偵察 鬼の山
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■ショートシナリオ
担当:シーダ
対応レベル:3〜7lv
難易度:難しい
成功報酬:4 G 18 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月17日〜11月29日
リプレイ公開日:2004年11月26日
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●オープニング
徐々に明らかになりつつある那須での動乱の真相。それは最悪の想像を絵に描いたものだった。
八溝山の悪鬼・岩嶽丸の復活の可能性。行方のわからないエルフの神弓。
そして、数を増す藩内の鬼たち‥‥
那須の動乱は激しさを増していく‥‥
那須藩内に出没する鬼たち。彼らは那須藩内の村を数箇所占拠している。
藩東部の八溝山に近づくほど徘徊する鬼たちの数は増え、これから先、占拠される村は増えると予測された。
本格的に反撃の準備に入った那須藩にとって、これを放置することは後の作戦の障害になる。それぞれの場所の鬼たちが呼応したりする前に、鬼たちがこれ以上巷に溢れない前に、何とかする必要がある。
しかし、同時にすぐにでも何とかしなければならない問題があった。刈り入れが済んでいるにもかかわらず、収穫の済んでいない田畑のことである。これを収穫するのとしないのでは、この冬の生活が天と地ほど違うのだ。勿論、来年の暮らしや藩政に大きな影響があることは言わずもがなである。そのための作戦が既に動き始めている。
那須兵が動けば、それは鬼たちにも知れるだろう。
仮に八溝山の悪鬼・岩嶽丸が復活しているのなら‥‥
仮に何者かが鬼たちを操っているのなら‥‥
彼らが何らかの動きを見せるかもしれない。
さて、ギルドから派遣されている那須藩士候補生・西園寺 更紗からの具申により、那須藩から冒険者ギルド那須支局・お目付け役の結城朝光殿へ作戦支援の要請がなされた。江戸へ帰還した那須藩士候補生『蒼天十矢隊』からの報告を受けた江戸冒険者ギルドはこれを受諾。早速、依頼を出した。これがそのひとつ、『強行偵察作戦』である。
『那須藩にて今回の鬼たちの騒動の元凶と思われる八溝山へ接近して情報を持ち帰るべく冒険者を募集! 危険な任務ゆえに高額報酬を用意!!』
那須藩東部の八溝山。ここは、かつて鬼の国があったと伝えられる場所で、土地の者は『いい子にしないと八溝のお山から鬼が来て、連れてっちゃうよ』と子供をしつけると伝え聞く。那須藩の記録や藩主に伝わる口伝によると今回の騒動を起こしている鬼たちがここから現れた可能性は高い。8月の百鬼夜行に前後して江戸近辺に鬼が大量発生していることも、那須の件と無関係と考えるのは難しいだろう。
だからこそ、八溝山の悪鬼・岩嶽丸が本当に復活しているのか、鬼たちが八溝山から溢れ出ているのか、そもそも八溝山には何があるのか‥‥ それを調べる必要がある。
この強行偵察は、収穫部隊を囮として行われる。だからこそ手段を問わない。なんとしても八溝山近辺の情報を持ち帰る。それが冒険者たちに課せられた任務である。
「戦わなければならないかもしれない。だが、戦って鬼を倒すことが今回の依頼じゃない。
鬼たちを束ねている者がいるのか、伝説となっている八溝山の悪鬼・岩嶽丸が復活しているのか‥‥
その情報の片鱗でもいい、何かしらの情報を持ち帰ることがお前さんたちの仕事だ。必ず生きて還れ!」
危険なのは確定しているくせに、どれくらい危険なのかわからないとあって、親仁はひどく心配げである。
「生きて還れ」
ギルドの親仁は念をおした。
●リプレイ本文
●強行偵察‥‥ その意味は‥‥
「那須は大変な事になってるんやなぁ‥‥ フィーちゃんたち、大丈夫やろか?」
コユキ・クロサワ(ea0196)は、心配そうに遠くの山を見つめた。
あの方向の山のどこかに、あのときの迷子のエルフが住んでいるはずなのである。
近くまで送って行った段階で冒険者たちが引き返しているために山麓の森しか知らない。そこから先、どのあたりに彼らが住んでいるかは、とんとわからない。ともあれ、噂になっている八溝山からは遠く、心配ないとは思うが‥‥
「地図、持ってきました」
撫で撫で‥‥
「ごめんな。あんまり可愛いし‥‥」
コユキは月詠葵(ea0020)の前で赤面した。
「周り男の人ばっかりやろ? でも、葵ちゃんは、女の子みたいでちょっと安心なんよ‥‥ なぁ‥‥頭撫でていい?」
「いいですよ」
表情が緩み、嬉しそうに頭を撫でた。月詠も照れた感じで笑っている。
華奢な体つきと整った顔立ちは、確かに異性に間違われてもおかしくはなかった。
「みんな無事に帰れる様にしたいなぁ‥‥ もちろん、情報収集も頑張るんよ?」
「でも、強行偵察なのですよ‥‥ 危険は承知のはずです。確実に情報を持ち帰るためには、死番、そういうものも必要かもしれません」
月詠はキュッと口を結んだ。
「それにしてもよぉ。やーれやれ、鬼退治ならぬ鬼探しかぁ‥‥ 大儀なこって」
そう言いながらっも平島仁風(ea0984)は死番に立候補した。
「月詠がやるより俺の方が腕は立つ。少しでも生き延びられるかもしれない俺の方がいいはずだぜ」
「それならば、もう1人は私ですわね。月詠さんよりは戦えると思いますし‥‥ 全員生きて戻らないと意味はないと思いますので」
神秘的な雰囲気の異国の戦士、レオーネ・アズリアエル(ea3741)。見た目の女性的な形(なり)と雰囲気とは裏腹に剣の腕は確かである。
そう‥‥ 今は月詠らと一緒に那須城まで出張って収集してきた情報を話題にしなければ‥‥
「岩嶽丸の伝承は、記録方の話だと所謂(いわゆる)正史だから、内容は少し変わってるらしいわ。与一公の話と合わせると、討ち取ったと伝えられているのは少し違うみたいね。外見も正史じゃ当てにならないって‥‥
でも、根城は見当はつきそうよ。八溝山の中腹にある山城で、天然の岩場を利用して、それをくり貫いて拡張整備したものみたい。まぁ、これも受け売りだけど」
正史は話半分‥‥ 言い過ぎの感はあるが、歴史を研究する者にとって常識である。裏付ける情報をいくつも積み重ねて初めて信憑性が出てくるのだから‥‥
その意味では那須藩の記録は参考にしかできない。しかし、那須文庫は違う。民間の伝承や口伝が集められており、その裏付けは比較的容易だ。そうではあるのだが、須藤権守貞信は朝廷を介して派遣された武士であるという点からも正史以外の情報は少ない。岩嶽丸を討った民間伝承は、彼が那須を治めるようになってから広まったものであり、その点は信憑性に薄いと言えた。
ただ、嘘であると決めつける情報もないし、八溝山の現状を見る限り、殆ど正しいと言える。なら、何故誤った記載がなされているのか‥‥ 所謂(いわゆる)当時の施政者の思惑の裏を読み解く必要があるのかもしれない。
ともあれ、情報の価値は高そうである。
「その辺は実際に確認するしかないだろう。とにかく八溝山に行かないことには、話が始まらないしな」
生きて還る‥‥ 大事なことだな。
西中島導仁(ea2741)は、そう付け加えた。
那須支局のある喜連川と八溝山には少し距離がある。そして、その間には鬼たちが徘徊する地域があった。
浅く広く探索して手薄な場所を探し、八溝山近くまで深く潜入する。それが、冒険者たちの作戦である。
集まる予定だった8人が6人になったことで、2班に分かれて情報を集めながら潜入経路を決定し、合流後に深く潜入するという作戦自体にも多少の修正が必要だった。初期の段階は3人ずつに分かれて探索するしかなく、後半の主目的を達するためにも6人での探索行では危険度が格段に上がっていた。
それを承知で鬼たちの根拠地と噂される八溝山へ接近するという危険を冒すのだ。生きて帰れると信じ、後は天に運を任せるしかなかった‥‥
●八溝山
街道を通れば何というない行程も、道なき路を通るとなれば途端に険しさを増す。
しかも、遭遇した鬼たちをやり過ごし、襲撃に怯えながら野宿を重ねることはなかなかに辛い。
行動の起点になりそうな廃村をねぐらに、そこから浅く、広く侵入し、手薄そうな場所は見つけた。後は八溝山にどこまで近づけるかだが‥‥ 八溝山の麓から少し分け入って接近するのが精一杯だった。
(「お地蔵様や祠が穢されているというより‥‥」)
村全体が汚されていた。まるで鬱憤を晴らすかのように無体が繰り返された様子である。
焼け落ちた小屋‥‥
焚き火跡の近くに転がる髑髏(しゃれこうべ)‥‥
打ち壊された家‥‥
闇目幻十郎(ea0548)は、それを目の当たりにして表情を曇らせた。
「食料の動きを見れば岩嶽丸の居場所がわかると思ったんですが、ダメでしたね‥‥」
噂の悪鬼・岩嶽丸を見たものはいない。しかし、巨大で食欲旺盛、獰猛な雰囲気を想像する者は多い。頭に浮かびやすいからだ。月詠も、その1人である。
「しかし、八溝山の方へ運び込んでいる食料は確かにありました。今回の件を以って断定はできません」
忍法を用いて実際に近くまで行って見てきた闇目は、そう言った。
強行偵察班の目の前に広がるのは‥‥
八溝山の山腹の顔を見せる岩窟‥‥、張り出した岩場‥‥、麓に広がる急峻な地形‥‥、天然の要塞とも言える原始的な山城であった。
闇目が見えるように手の平を下げ、もう片方の手で1点を指差す。
眼下に1筋2筋と何かが見える。岩陰から覗くその光景は鬼たちの行軍であった。
小鬼を中心に茶鬼や豚鬼や山鬼なども混じり、この偉容を目の当たりにして過去の伝承や記録に鬼の国とあったのが頷ける。
彼らの根拠地がここであるのは間違いなかった。
後は、この情報を無事に持ち帰るだけ‥‥
「無理はしない方がいい。この人数では危険だ。ここで戦いになったら死番なんて関係ねぇ」
平島の手の平に、じっとりと汗が滲む。
「そうですわね。ここまでの無茶は仕方がないけれど、それでも全員で生きて帰れる余力がなくなる前に撤退しなくては。私もここが限界だと思いますよ。闇目さんの偵察もうまくいったからいいものの、これ以上、幸運に任せるのは‥‥」
レオーネは鬼たちを見送りながら体中の血が冷めていくのを感じた。
決して恐怖に駆られているのではない。これだけの敵を僅か6人で相手にするのは無謀だと感じているからである。
冷静に判断しても同じ結論に行き着くだろうが、今は戦士としての直感がそう告げていた。引くべきだと‥‥
●迷いの森
帰途において鬼たちに発見されたのは不幸だったが、行きでなかったのが不幸中の幸いであった。
「うちに考えがあるんよ」
コユキは往路に通った森へ迷いなく分け入った。仲間たちはそれに続く。
「お願い‥‥ うちに力を貸して」
(「何だか、うちは重要な役割になってる様な‥‥ が、頑張らな‥‥」)
コユキの体が淡い光を放ち、フォレストラビリンスが発動した。
しかし、見た目には何も変わったところはない。術をかけられたような感覚はないのである。
それは敵も味方も一緒だった。しかも、フォレストラビリンスの効果は当然ながら術者にも及ぶ。それは避けられない‥‥
「こっちだよ」
月詠の手には縄が握られていた。これを伝えば森を抜けられる。後は鬼たちが迷ってくれれば、逃げ隠れするくらいの時間は稼げるだろう。迷いそうな森だったので月詠が念のために用意しておいた脱出の目印である。探索や隠密などに自信のない月詠だからこその工夫だったが、今回はそれに救われた。木の幹に目印の傷を残してはいたが、それでは森の外までキチンと出られるかはわからない。森の外まで繋がる道筋の目印だからこそ意味があり、その点、奇跡的に運が良いと言えた。
「これほど役に立つとは思わなかったが、やっておいて良かったよ」
西中島の注意深い指摘で確実にこれらのことを残してきたことも、彼らを救ったとも言える。
「目印の縄や蔓は辿られない様にするんだ」
鬼たちがコユキたちを追いかけてきた。
「できたら死番なんてものは使いたくないんよ。うちらは生きんと」
言ってて恥ずかしいのかコユキは赤面している。
8人で潜入する予定だった作戦が6人になってしまったのだから、無理はできない。戦闘などしなければ、しないに越さないのである。
「そうですね‥‥」
最悪の場合、自分だけでも情報を持ち帰る覚悟だった闇目は呟いた。確かに彼にはその能力がある。運に頼らなければならない部分はあるが、形振り構わず逃げるのなら、1人の方が安全であるかのようにも思えた。しかし、6人は一蓮托生。欠ければ、後味の悪さが尾を引くことになるだろう。
「森での戦いなら、うちにお任せや。魔法を使う時間だけ稼いで」
コユキが印を組んで詠唱に入ったのを見て、死番の2人が茶鬼を迎え撃つ。
森の中で相手も横に並んで攻撃はできない。1騎討ちである。
たゆたう水の流れのようにレオーネの日本刀が白刃を煌めかせ、傷を押さえた茶鬼はガクリと膝をついて倒れこんだ。
興奮した山鬼が茶鬼を踏み潰して襲い掛かってくる。
平島は十手で金棒を捌くと、日本刀と十手を同時に突き出した。山鬼の両の腹に刀傷と打突の跡が刻まれた。
「気ぃつけてぇ」
コユキが叫ぶと、頭上から降りてきた木の枝には黒い影が‥‥ ズズッと忍者刀を山鬼に突き刺し、そのまま背面宙返り。闇目は、平島とレオーネの肩を叩くと視線で撤退を促した。
「みんな‥‥」
「大丈夫。翻弄して撒くだけなら闇目さんだけでも十分なんだ。腕利きが殿を務めてくれている間に俺たちはこの場を離れるんだ」
西中島は月詠の手を引いて森を走った。
! 目の前に現れた小鬼を月詠が小太刀の居合い切り。西中島の斬撃が小鬼を捉えたところで、光の筋が小鬼を捉えた。チンッ‥‥ 月詠が鍔の鳴らす。呆然と立ち尽くす小鬼に西中島の返す刀が浴びせられ、小鬼は意識が遠のいていくのを感じた。
「みんな、急いで」
コユキが再びフォレストラビリンスをかけている。念のため‥‥だ。
その間に平島が小鬼に止めを刺し、仲間たちに先に行くように言う。
あの枝を山鬼がへし折って飛び出してくるのではないかとレオーネは心配したが、山鬼の足音は遠ざかっていく。ひとまずホッと一息ついた。
「ええよ。行こう」
コユキを護るように平島とレオーネは目印を辿って森を出た。
●帰還・爆睡
「それで、よく戻れたな‥‥」
那須支局の駐在員の第一声はそれだった。しかし、道中の危険を考えると本人たちが一番実感していることだろう。
「ともかく、今は体を伸ばして寝る。報告はそれからだ‥‥」
平島はゴロンと土間口から上がると、床の上に体を伸ばしてそのまま寝息をたて始めた。
「だらしない‥‥です‥‥ね」
そういう月詠も腰を落ち着けた途端、床に突っ伏すように倒れこんだ。
「危ないで」
コユキもそれを支えるように月詠の頭の下に太ももを滑り込ませたところで彼女(?)の背を枕にして寝息をたて始めた。
西中島はというと得物を抱いたまま、いつの間にか腰掛けて寝ていた。
「風邪をひきますわ。何かかける物はあるかしら」
レオーネは各々に毛布をかけていった。
「修行が足りませんね」
闇目は仮眠室へ潜り込むと、そのまま眠りについた。
冒険者たちが目を覚ましたのは翌々日のこと‥‥ なぜ布団で寝ているのか記憶にない者が殆どだった。