《那須動乱》強行偵察 岩嶽城
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■ショートシナリオ
担当:シーダ
対応レベル:3〜7lv
難易度:難しい
成功報酬:3 G 69 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月15日〜12月25日
リプレイ公開日:2004年12月26日
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●オープニング
伝承にあったエルフたちの末裔を発見することができた那須藩であったが、エルフたちへの冒険者の心配りから隠れ里の所在地が秘匿され、それに伴いエルフたちの返書には月華たちを通して交渉してほしいと記されていた。現在、エルフの里への使者は再び送る手はずが整えられている。
さて、エルフの長老から得られた有益な情報は多い。
まずは、八溝山の悪鬼・岩嶽丸の存在。
復活しているかどうかは不明だが、封印されたままならば岩石に変じているということであった。
それまでに関東にあった結界を流用して作られた結界に八溝山ごと閉じ込め、鬼の国をも封じたのだと言う。百鬼夜行で結界が損なわれたことが、今回の那須での鬼騒動の発端だろうという話である。
次にエルフの神弓の存在。
これは、エルフの隠れ里で神弓の実在が確認されている。神木から特殊な技術で作り出されたこの弓矢に代わりはなく、新たに作り出すことは無理だろうということだ。
八溝山での狭い岩屋の中での戦いは熾烈を極め、エルフたちに弓術の手解きを受けていた藤原権守貞信(ふじわらの・ごんのかみ・さだのぶ)の放った矢が岩嶽丸を射抜き、封じたのだと言う。相当の体力や技量が必要であり、エルフがこの戦いで自ら神弓を用いなかったのは彼らの体力不足が原因らしい。物としては長弓が自在に扱えなければ、能力を自在には引き出せないだろうという話である。
そして、エルフたちに参戦の意思があることがわかった。彼らの戦力は未知数だが、援軍がありがたいことには変わりはない。
神弓は大事な宝であり、おいそれと貸し出してもらう訳にはいかないようだが‥‥
この件に関しては、月華たちの動向を見守るしかないだろう。
※ ※ ※
現在、那須軍の侵攻は順調とは言えないが、包囲網の構築や残党狩りが進行中である。
しかし、相手は天然の要塞『岩嶽城』に篭る鬼たち。過去に封じられたはずの鬼の国なのである。どれだけの勢力が、強敵が潜んでいるのかわからない。しかも、八溝山の山腹の顔を見せる岩窟‥‥、張り出した岩場‥‥、麓に広がる急峻な地形‥‥、そういったものが那須軍の攻略を遅らせていた。
雪の季節の到来する予感‥‥ 楽しみな温泉祭り‥‥ 悲喜交々(ひきこもごも)ではあるが、不安と恐怖一色の雰囲気は消えつつある。藩士も領民も勝利を予感するに十分な材料が揃い始めているからである。だが、勝利したわけではないのである。詰めをしくじれば、勝利が泡と消える可能性は十分にあるのだ。
蒼天十矢隊を経て那須藩からの依頼の申し込みがあった。
八溝山の岩嶽城の強行偵察‥‥ はっきり言って危険極まりない依頼である。
「那須軍に先行するように八溝山に潜入して情報を集めて帰還する。
こんな危険な依頼‥‥ ホントに受けるのか?」
江戸ギルドの親仁が大きく、深く息を吐く‥‥
●リプレイ本文
●潜入
何度目かの挑戦で強行偵察部隊は岩嶽城のかなり深いところまで進入することに成功していた。
「先には鬼がいっぱいいるよ」
薄闇の中をミラルス・ナイトクロス(ea6751)が飛んでくる。
羽音は小さいとはいえ隠密行動に向いているとは決して言い難く、他人より優れた視力を持つとはいえ薄闇を飛び回るのは危険である。だが、麓から攻め上ろうとしている那須軍の存在が羽音を気にしないで済む程に八溝山は戦の喧騒に包まれている。
「まっずいな」
平島仁風(ea0984)が考え込む。もう少し先を見ておきたい気がするが‥‥
「挟まれてしまった。一度退くか?」
刀武神・キサラ・ブレンファード(ea5796)と言えど、鬼族に数を寄せられ、連戦に継ぐ連戦になれば無事ではいられない。それに仲間もいる。連携してくれる仲間が、いつ護らなければならない枷になるかもしれないのだ。今回のような超絶に危険な場所への潜入は引き際が成否を決する。
「この期に及んでは、退くも潜むも困難は同じ。少し戻ったところに潜めそうな場所がある。そこでやり過ごして、いざとなれば退こう」
今日の紅闇幻朧(ea6415)はどこか冴えている。忍者としての本分が仲間たちをここまで連れて来たと言ってもいいだろう。
少数でなればこそ発見され難かったことや喧騒に助けられなければ、ここまで上手くいかなかっただろうことも明白だが‥‥
(「見上げるなよ」)
キサラが祈る。だが、この緊迫感がたまらないのも確かなのだ。
(「おいおい‥‥」)
平島は小鬼の松明の明かりが照らすキサラの顔が笑っているように思えた。
「行ったね‥‥ 道は迂回していこう。険しくなるが、敵に会うよりはいいだろう?」
「そうだな。ま、鬼の糞にされるよりはマシか」
敵の姿も多くなってきたし、これ以上は道を進むのは逆に危険かもしれない。平島は納得して、キサラの猟師としての勘を頼りに獣道を遡行していくが、そういう場所を歩くのは考えていたより難しい。倒した鬼の皮でも被って臭いを消そうと思ったが、さすがにそんな暇はない。逆に血の臭いをかぎつけられるのがオチだろう。それよりも‥‥
八溝山のこんなところに獣道があるってことは‥‥
「こんなところへこんな道があるってことはよ」
「何ですか〜?」
平島の肩にミラルスが降りてきた。
「出やがった‥‥」
やまり‥‥ 平島の予感が的中した。だが、まだ気づかれてはいないようである。
「ミラルス、気を引いてくれ」
「は〜い」
一度上昇して回り込んで、降下しながら鬼たちの背後へと出る。
「こんばんわ」
相手は小鬼たちである。当然、会話は成立しないが、気を引くくらいは。
不思議そうな顔をする小鬼の喉が掻き切られ、3人がかりで止めを差されていく。
「獣道から外して」
キサラと平島が小鬼を抱えて捨てる。その間、紅闇とミラルスは周囲を警戒する。幸いにも他の鬼には見つからなかったようだ。
「甘く見ていたかな」
神出鬼没に徹し、鬼たちを翻弄しながら八溝山の防備に切り込んでいこうと考えていた紅闇だったが、正面切って攻め寄せる那須軍に対して鬼たちは十分に地の利を活かしている。岩嶽丸の存在を確認することも大切だが、これら獣道の存在も莫迦にはできない。むしろ、戦全体に影響を与える情報とも言えた。
●撤退
「出城の岩屋の奥‥‥みたいだよな」
「こんな岩窟があったのか」
岩嶽城の規模は思ったよりも広い。
広間には多くの鬼がいた。小鬼、茶鬼、山鬼、熊鬼‥‥ 体格の良い者や装備の整った者もいる。
その中で一際目立つのが‥‥
「ガゥゥィオオオオガ」
屈強な筋肉を身に纏った赤銅色の肌を持つ巨躯の鬼。見たところ対比で小太刀かと思うが得物は野太刀、防具は胴丸と面頬という出で立ちの鬼がいる。あれだけは格別に何か雰囲気が違う。
「オガオガ‥‥ !」
「オガ」
刀を大振り、返す刀で山鬼は動かなくなった。他の鬼たちは怯えたように縮こまっている。
「あれかな?」
「じゃないのか? どっちにしても退いた方が良さそうだぞ」
平島の頭に張り付いたミラルスが、一緒に壁から少し顔を出して覗いている。
不意に茶鬼と目があった。
「マズい」
「逃げる準備だ」
ここで一目散に逃げないのは流石。撤退戦には撤退戦のやり方ってものがある。
平島は、あらかじめ古布が差してある油壺を取り出して火口(ほくち)から火を移した。原理は蝋燭と同じ。
あとは上手くいくかだが‥‥
「そぅら鬼さん、こんなのは好きかよぅ!!」
平島は油壺を次々と投げた。壺は割れ、油が床を濡らす。いくつかは火が消えてしまったが、残りの火種から炎が上がる。これで床が木ならもっと効果があるのだろうが、この際、目くらましできればいい。炎と煤が鬼たちの追撃を緩めた。
「こっちだ」
紅闇が手招きする。
「れっつ! いぐにしょん!!」
ミラルスのファイヤーボムが足の止まった鬼たちに炸裂する。
「‥‥‥‥」
岩嶽丸と思われる鬼が身じろぎもせずにヤバい眼光を飛ばしている。
視線を外さず、足元に転がっている小鬼を摘み上げて投げ、それは嫌な音を立てて転がった。
「うへぇ‥‥ ありゃ、郷里のお袋とタメ張る恐ろしさだぜ‥‥」
どんなお袋さんや‥‥ 平島たちは広間を後にした。
「帰りは念のために別の道を取るよ」
キサラは猟師の勘を信じて下山し始める。仲間はキサラを信じるだけ。
後方で鬼の短い悲鳴が聞こえた。紅闇が引き際に所々置いてきた石に躓いたのだろう。通り慣れた道だからこそ、暗闇の中でも注意を払わずに駆けてくる。そう読んでの初歩的な罠だったが、これで鬼たちの追撃の手も緩むに違いない。
「どっちに行きます?」
「まっすぐ降りる」
「それじゃあ、この先で落ち合いましょう」
ミラルスが高度を上げていく。
「おい‥‥」
「あの娘は空から逃げられる。何かやるつもりなんだろう。行くぞ」
ミラルスの姿を目で追う平島の手をキサラは引っ張った。
先を急ぎ始めた紅闇たちの背後で爆音が響き始めた。
●陽動
「あれは‥‥」
独自に築いた取っ掛かり程度の橋頭堡でキルスティン・グランフォード(ea6114)たちは数度に渡って鬼を撃退していた。
そうして鬼たちの目を引き、潜入している仲間たちを支援しているのである。いわゆる陽動ってやつだ。
「ここも捨て時だな」
保存食を食(は)みながらマグナ・アドミラル(ea4868)が時間をおいて光る火球の明かりを眺めている。
闘武神キルスティンと祭武神マグナ‥‥ ここにも武神の姿が‥‥
「合図があったか。さて‥‥あと一仕事。皆の衆、突っ込みますか?」
アーウィン・ラグレス(ea0780)の一声で、それぞれ装備を纏め始めた。
「罠は張ったな?」
「こっちは大丈夫」
マグナとアーウィンが物陰に帰ってきた。
彼らの視線の先には鬼たちがいた。さっき火球の起きた方向を指差して何か騒いでいる。
「行こう」
キルスティンとマグナは得物を構えて鬼たちに近づいていく。鬼たちはキルスティンの物音に気づくが、遅い!
「やぁああ」
キルスティンの一撃で茶鬼の剣が砕け散る。それでも鬼たちは怯まない。小鬼たちがどっと押し寄せた。
「痛い目に遭うくらいじゃ済まないよ。命の惜しくない奴は来い!!」
かわしもせずに斧を受け、相手の攻撃が終わった瞬間を狙って強烈な斬撃が小鬼を襲う。
「効かないね」
キルスティンの肌に赤い筋が走るが、つっと滲んでそれで終わりだ。
「伊達や酔狂で武神が集まった訳じゃないんだ!!」
斬り込むキルスティン! 肘で日本刀を振り抜き、力任せに小鬼を斬る! 斬る! 斬る!!
敵の攻撃はかわしもしない。
まさにコナン流剣術の使い手といった戦いぶりで、おおよそジャパンの剣術にはない豪快な動きである。
「何か左の方から近づいてくるよ。その後ろにも沢山反応があるよ」
これだけ危険な地で敵の裏をかくようにしてこれたのはアーク・ウイング(ea3055)のブレスセンサーのお陰だ。
「少ない方の数は3つ? 何で? 誰1人欠けることなく帰るって約束したのに」
泣きそうな顔をしてアーウィンにしがみつく。
「ミラルスは反応が小さすぎてわかんないんだよ。きっとな」
確信なんてない。アーウィンは小鬼の斧を盾で受けながらアークへ斧を向けた鬼を斬った。
「さっさと魔法を詠唱するんだ。俺たちが帰れなくなったら元も子もないだろうが」
一瞬振り返って人懐っこい笑顔でアーウィンが笑う。
「うんっ♪」
アークが詠唱に入ったのをキルスティンやマグナも目の端に捉えた。
ジャイアント2人が小鬼を切り倒しながら左右に展開し、一瞬できた隙間にアーウィンが身を滑り込ませる。
「生きて帰るんだ〜!!」
アークの印を組んだ手の先から雷撃が迸り、鬼たちを焼く。
「生憎だが、貴様たちの命。此処で尽きる」
手盾で茶鬼の攻撃を受け流しながら、マグナの長巻が袈裟懸けに引いた。
力で押し切るキルスティンのコナン流と双璧を成すレオン流の華麗な剣捌きである。
急所を突き、隙を見ては深く斬り込み、その無駄のない動きは達人の域を超えようとしている。
「マグナ!! やっぱりここか」
キサラたちが少しだけ高さのある崖の上から顔を出した。
飛び降りられない高さではないなどと考える間もなく、キサラは崖を飛び降りた。着地して転がるが、起き上がり様に鬼を切り伏せた。
器用に崖を蹴り、何気なく紅闇も飛び降りる。
「おい‥‥って、くそっ! やってやるよ!!」
平島も飛び降りた。
「退くぞ」
マグナたち武神が小鬼を惹き付けながら撤退を促す。
突如の援軍に鬼たちは腰が引けたようである。それでもマグナたちが逃げ出すと追いかけてきた。
しかし、そこには黒塗りの縄が‥‥ しかも、転んだところへ上空からミラルスの火球!
マグナたちは、まんまと撤退に成功した。
●帰還
「よかった〜。みんな生きて帰れて」
「当たり前だ。武神が3人もいるのに無様な姿は晒せんからな」
じんわり涙を浮かべるアークの目尻を指で拭いながらキルスティンは自分の子供のことを想った。
強行偵察班が持ち帰った情報は那須軍先遣隊の陣所に届けられた。いくつか手に入れた有益な情報は、彼らをきっと助けるだろう。
「いよいよ決戦間近、うまくやってくれることを祈ろう」
マグナたちは那須藩から追加報奨金の袋を受け取り、八溝山を見上げる。
味気ない保存食と水だけの辛い偵察からも開放されたのである。今は束の間の休息を楽しむことにしよう。
「伝令でござる〜!!」
那須藩の旗を差した武士たちが慌しく本陣へ駆け込んでいった。