●リプレイ本文
●褌いっぱい
「なんやの、ライ? うち、今悩んでるの知っとるんやろ。どこに行くんや?」
「いいから、いいから♪」
グラス・ライン(ea2480)の驢馬に荷車を付け、クゥエヘリ・ライ(ea9507)が手綱を引いて道を急ぐ。
「なんか活気のあるところやね」
遠くに白い横断幕や幟が見え、人々の歓声も聞こえてくる。
「あっ、祭りなん? 皆笑顔や、なんかいいね」
グラスの表情が輝く。クゥエヘリは、それを見て微笑んだ。
「ラインちゃん、これが祭りなんですって、凄いですよ勢いがあって。インドーラのあの人込に近いですからはぐれないで下さいよ」
インドゥーラ出身の2人。同郷の誼で、何かと一緒にいることが多い。クゥエヘリは近頃グラスの元気がないことを気にしていた。
「ほらほら、そこ。この祭は見てるだけなんて駄目なんだからね。さっさと着替える」
白褌に晒し姿が妙に似合うジャイアントの女性が腕組みして2人の前に立ちはだかった。
鷹波穂狼(ea4141)が、グラスとクゥエヘリの首根っこを引っこ抜く。
よく周囲を見ると男は白褌一丁、女は白褌に晒し姿だ。
「あれ?」
「そう」
苦笑いを浮かべながら2人は猫のように運ばれていった。
「わぁ〜、これが‥‥ 日本でも、聖夜祭ってやるんやね。でも、あんまり信者っていないやろから厳かに行われ‥‥」
てないよ‥‥
「結構、華やかなんやね〜って!?」
憐れコユキ・クロサワ(ea0196)は近くにいた緋邑嵐天丸(ea0861)たちに担がれて、えっほえっほと運ばれ、天幕が張られている一画に放り込まれる。
「あ! グラスちゃん、お久しぶり〜♪」
「ふみ、コユキさんや。わ〜、久しぶりやな」
褌一丁に晒し姿のグラスにコユキが飛びつく。
「元気にしとった? 怪我とかしてへん? 風邪ひいたらあかんよ?」
クシッとくしゃみするグラスに、コユキが抱きついた腕を緩める。
「ライ、紹介するよ。ジャパンでうちがお世話になった、コユキお姉さんやよ」
「ラインちゃんがお世話になったみたいですね。あ、来た」
クゥエヘリの視線の先を見て、コユキが首を傾げる。
「まだ、こんなカッコしてる娘がいたの? ほら、さっさと着替える」
帯を解かれて引っ張られる。
「あれ? あれ?」
クルクル回らされて肌蹴たところをシュポンと着物を剥ぎ取られた。肌着も取られてオ〜ゥ。
「ほぇぇ‥‥ せめて、晒しをつけさせて‥‥」
そっちが先かい。白褌を穿かされて晒しを巻かれた。
そこへク〜ルクルと空中で弧を描く僧侶の少女が自らの意思とは無関係に乱入! 鷹波が夜十字琴(ea3096)を受け止めた。
「はい終わり〜♪」
コユキの背中をパンと叩くと夜十字を剥き始める。
「お祭り‥‥ お祭り?」
ふに‥‥と夜十字が目を回す。
「肌を晒すのがあまり神聖な感じではないですけど、これが神輿を担ぐときの正装なのですよ。諦めるです」
大宗院鳴(ea1569)が夜十字を支える間に鷹波が晒しを巻いていく。
「はいっ、こっちも終わり〜」
鷹波は満足の笑みを浮かべた。
「薄着なんやね」
「うちは温泉で慣れました。まあ、慣わしなら仕方ありませんよ」
和気藹々とワイワイ騒いでるけど、天幕の外は漢ばっかりなんだけどなぁ‥‥
「あん? やわだな。日頃、海風の中で漁を手伝ってんだぜ俺は。これぐらいの寒さは何てこたぁないぜ!」
エルフ3人の羨望の眼差し。3人束になっても力比べでは鎧袖一触、相手にもならない。
「お〜、ここか?」
覗き込む南天輝(ea2557)の目に火花が散った。
「勝手に入らないの」
頭を押さえていると女性陣が天幕から出てきた。
「おう、野郎ども祭りだ景気良く行くぜ! っと、良くみたら活きのいい子供が多いな。
もしかして俺が一番年上かよ。年寄りはこの寒さがこたえて出てこねぇのかな」
「何、年寄りじみたこと言ってんの」
緋邑が背中を叩(はた)くと紅葉が浮かんだ。
「お、嵐天丸。武神祭じゃ完敗だったぜ。俺が手も足も出ないなんてな。凄いぜ」
「照れるだろ」
緋邑が赤面する。
「神主さんに挨拶してきた‥‥」
ず〜ん‥‥ 日向大輝(ea3597)が南天の体つきを見て衝撃‥‥ 背もあって頑丈そうで‥‥
視線を移すと緋邑‥‥ ずず〜ん‥‥ 同い年くらいなのに、かっこいい‥‥
近づいてきた狼蒼華(ea2034)を見て、さらにずど〜ん‥‥ こっちは年下っぽい‥‥ こ、心の汗が‥‥
鷹波を見て止(とど)め‥‥
「俺ももっと鍛えないとなぁ‥‥
でも、鍛えてみてもつかないんだよな。なにかコツとかあんのかねぇ。それに背は鍛えようないしなぁ‥‥」
シクシクしながら正装を脱ぎ始めた日向の肩を南天が揉む。
「楽しもうぜ」
「うん‥‥」
立ち直るのに少しかかりそう。そこへ大宗院がキョロキョロ興味深げに辺りを見回しながら歩いてきた。
「勝てるでしょうか」
「勝てりゃ、それにこしたことはないけど、こういうのはそんなこと抜きに楽しんだ奴勝ちだよ」
「そんなものでしょうか」
「そんなもんだって」
真剣に言う大宗院に日向が答えるが、何だか目のやり場に困ってしまう。
「それにしても神輿担いでぶつけるような祭りは、担げるのは男だけっていうのしか聞いたことないけど、女も晒しと褌でやらせちまうなんて豪気な祭りだよな」
鼻血がタラリ。周囲の男たちも鼻の周りを赤くしているものがチラホラ。
さて、そろそろ祭が始まる。
●クカカ‥‥
村の人が運んできたのは‥‥ 明らかに子供用の神輿‥‥
「あはは‥‥」
南天が大笑いする。
10人中8人までが身長3尺半〜5尺、しかも10人中6人まで女性である。傍から見ると引率2名と子供たちだからなぁ‥‥
「いいです。逆にその方が‥‥」
クカカと笑ったような気がしてコユキが夜十字の方を振り向いた。あれ? 気のせい?
「お祭りは楽しめれば良いと思うけど‥‥」
コユキが周囲の屈強な漢たちに赤面する。
「神輿同士をぶつけ合えばいいのですね」
神輿を担ぐのが初めてな大宗院は決まり事を確認していく。
よく見れば、異国人たち‥‥ 天然お嬢様‥‥ まともに喧嘩神輿を知ってる方が少ない。
「まともにやり合ったら、怪我しちゃうよ」
「大丈夫! やり様はあるさ」
心配そうなコユキに狼蒼華がグッと拳を握って応えた。
(「琴‥‥ 諦めたらそこで、終わりだぜ?」)
朦朧とする夜十字の頭の中にどこぞの赤毛‥‥ そして‥‥
「安西先生‥‥」
琴の頭の中で何かが弾け、才能の種が覚醒した。
円らな瞳は三白眼に、口角がククッと鋭角に切れ上がる。聖なるせいやの戦士の誕生だ。
「せいや祭っ! いっちょうやってやるぜっ!!」
神社に柏手、頭から冷水を被った狼蒼華。両手で頬をぱんっと気合十分。
景気付けに1杯引っ掛けた一行は、周囲の笑いを誘いながら、子供神輿発進!!
微妙に背伸びしているグラス、クゥエヘリ、コユキのエルフ3人が、半分ぶら下がりながらブ〜ラブラ。
夜十字は神輿の上でコパ〜と白い息を吐きながら邪悪な笑みを浮かべている。
「厄落とし! まさに今年一年を締めくくるにふさわしい依頼だぜ。行くぞ!!」
ほとんど四つん這い状態の鷹波が背中に担ぐように引っ張る。
「右! 来るよ」
神輿同士がぶつかる!
「せいやぁあ、せいやぁ!!」
「せいや、せいやっ」
おっ、受け止めた?
コユキのプラントコントロールだ。枝が頭を垂れるようにして子供神輿を支えている。
「お願いっ! うちに力を貸して‥‥」
枝が神輿を押す。
「一気に行くぞ」
鷹波が相手の神輿に潜り込むように頭から突っ込む。
枝の加勢もあって、掬い上げられた相手の神輿がひっくり返った。
他の場所でも潰された神輿があるようだ。何基かは地に伏している。
「次、左ぃ!! 来るよ〜! せいやぁ! せいやぁ!!」
神輿の天辺で夜十字が棍棒を振り回す。
「か〜っ、神輿のぶつかるこの感覚、いいねえ♪ そりゃ、せいや、せいやっ!」
南天が後ろを固めて衝撃に備える。
「今年最後の厄落とし、熱く盛大にいこうぜ!!」
「受け止めてやる。せいやぁ!!」
右に移動した緋邑と狼蒼華が踏ん張る。
「ぬどりゃぁあ!!」
日向の雄叫び。神輿同士が、がっつり組み合う。
「潰してやる‥‥」
相手の動きが止まった。彼らの目の前にはいかにも華奢で繊細なエルフ3人‥‥
「そこぉ!! 掛け声忘れとる!! 失格じゃ」
審判の神主が榊を突きつける。
「ふっ、戦いの中で戦いを忘れた‥‥」
「残念だったね。せいや!!」
子供神輿は軽さを活かして軽快に駆けはじめた。
●勝負
真っ赤にほてった肌。寒気に触れ、濛々とあがる汗。
「残るは1基!! どぉせいやぁ」
神輿がガチンコで飾りを飛ばした。子供神輿も吹き飛ばされる。
「やるなぁ」
鷹波は神輿を構えなおすと相手の神輿に体当たりをかます。
しかし、流石に最後まで残った神輿である。支える漢たちも屈強揃い。今度こそ分が悪すぎるか‥‥
「たは〜、強いぜ〜! みんな行くぞ!! せいやぁあ!!」
狼蒼華の動きに合わせて、子供神輿が突っ込む。
しかし、相手もここまで勝ち抜いてきた神輿だ。今までみたいにぶつかりだけで体勢を崩したりできない。
「本当に強いです〜」
夜十字の瞳うるるん攻撃。
「効っか〜ん」
しか〜し、本物の漢には、そんな軟派な攻撃は通用しない。
「効かないなら突撃〜!! うらせぇいやぁ!!」
夜十字の目が怪しく光った?
「おうよ!! せぇいゃあ!!」
流石、火消しでならしている狼蒼華!! 周りが声を枯らしつつあるのに気を吐き、1人意気軒昂。大音声で相手を圧倒し、味方を勇気付ける。
「ぜいやぁ‥‥ 生意気なぁ」
「後、ひと踏ん張り! ガキだと思ってなめんじゃねぜっ!! 甘く見てると痛い目みるぜっ!」
きゅぴ〜ん
「今だぁ! せいやぁ!!」
相手の神輿の動きに合わせて狼蒼華が指示を出した。
「うわたたた‥‥」
勢いをつけようと後ろへ力を移動させた一瞬をつかれた相手の神輿が後ろへ転がって潰れる。
「勝負ありぃ!!」
周囲からドッと歓声が上がった。
●あたたかさ
冒険者たちが松明を投げ込むと巨大護摩壇に炎が上がり始めた。
「護摩壇、大きいやね〜。うちあんな大きいの見るのはじめてや。江戸や那須の騒動の全ての厄を払ってほしいわぁ」
そう言うグラスの横顔をクゥエヘリがジッと見つめる。
「怪我してる」
グラスが狼蒼華たちにリカバーをかけながら、燃え上がる巨大護摩壇と仲間たちを見比べて、プッと噴出した。
「楽しかったですね」
「えぇ」
クゥエヘリは満足げに笑った。
「本当に楽しかったですね」
「そやね」
大宗院とコユキは護摩壇に何やらお願い事をしているようだ。
「か〜、うめぇ。でもよぉ、厄なんて、俺、いつだったかなんて憶えてねぇな。
ま、ついでだ。過ぎていようが、これからだろうが、この火で厄を払わせてもらおう」
「やっぱ、この1杯がたまんないよな。来年も良い年に間違いないぜ!」
枡酒を空ける南天と鷹波。勝利の酒だ。そりゃ、格別。上機嫌の南天は祭囃子を吹き始めた。
「何か体が痛いし、何が起きたのか憶えてません‥‥ ぃたたたたぁ」
さすが琴ちゃん、若い! その日にビシビシ痛むなんてね‥‥
「やるじゃないか」
狼蒼華の白褌が後ろから引っ張り上げられた。
「嵐天丸、てめぇ〜、何考えてやがんだ!」
緋邑を巨大足袋に放り込むっ!
「しっかし、気持ちよかったな」
「もごもご‥‥」
威勢良く掛け声をあげ、身体と心を熱くさせれた狼蒼華。褌一丁で大の字に寝転がり、清々しい気持ちで空を見上げた。
シンシンと寒さがつのる中、巨大護摩壇の炎は祭に参加した者たちを暖かく包んでくれた。