●リプレイ本文
●それぞれの想い
「よく来たな。修行には長いようで短い期間だが、何か得て帰ってくれよ」
ギルドの受付に案内されて一行が施設の奥へ入っていくと、道場の中には何名の人物が待ち受けていた。
「抜刀術を教えてくれる師範はいるですか?」
月詠葵(ea0020)は道場に入ると、師範らしき人物の中から剣の使い手を探しはじめた。日本刀を腰に差している人物はいるが、抜刀術を教えてくれそうな人物となるとパッと見ではわかるものではない。
「キミは夢想流の使い手なのかな? そうであるならば私が指導しよう」
髪をまとめ、ポニーテールのように頭の後ろで括った凛々しい表情の剣士が、月詠に近づいてくる。声の感じからすると女性のようである。年の頃は20代前半くらいだろうか‥‥
「え、えっと‥‥ よ、宜しくお願いしますです!!」
「それでは、まずは基礎を見てみよう。抜刀術や応用はそれから!」
「はいぃっ」
優しそうな表情からは想像もつかない、気合の入った声にビクッとしてしまった。一瞬の後、我に返った月詠は、スタスタと道場の一角に歩いていく女性剣士を慌てて追いかけた。
「俺もあの人にしよう」
流水無紋(ea3918)は2人の後を追った。
「‥‥自分の役割、きちんと果たす為に必要なのは‥‥ 今は戦闘術より魔法知識だから。そちらの指南をどうぞ宜しくです」
「なるほど‥‥ この者への教授は私に任せてもらってよろしいですね?」
クレリックの問いに師範たちが同意を示すと、胸で十字を切り、アキ・ルーンワース(ea1181)の前に進み出た。年若い聖職者だが知性を感じる面持ちにアキは満足し、クレリックに誘われるまま道場を後にし、一緒に講堂へと足を向けた。
皆、それぞれに思い思いの師範のところへ向かった。
●黒談義
「まず忘れてはならないのは神の存在。当たり前のように思うでしょうが、中には神を信じぬという破戒者もおります。このような者たちは神聖魔法を使うことはできません。あなたも神への感謝を忘れずにおくのですよ」
年若い聖職者はクレリックの心得を説いていく。真新しいものではないが、確かに忘れてはならないことばかりだった。そして、その談義はアキの拠って立つところである神聖魔法(黒)の細かい内容へとうつっていった。
「ミミクリーを使ったとき、服はどこへ?」
「体全体を変化させたのなら、その場に脱ぎ去られる。ですから、気をつけなければね」
「なるほど‥‥ それでは、ジャパンではエンジェルはどういう姿で現れるのかな?」
「ジャパンでエンジェルを見たという例は報告されていませんね」
2人の談義は、アキの探究心も相まって時間を忘れるほど盛り上がっている。
「メタボリズムの効果は、対象者の全魔法力を耐久力に変換して回復させるということなの?」
「結果だけ見れば、その通り。ただし、魔力が少ししか残っていなければ、メタボリズムが効いたとしても効果が現れないから気をつけなければならないよ」
「‥‥ 対象者が術師系だった場合は耐久力回復後の魔法使用ができないことに?」
「そうですね。使い所を誤れば仲間を危機に陥らせることになるかもしれません。しかし、考え様によっては、敵対する魔法使いの魔法を封じるために使うという手も‥‥」
年若き聖職者はニヤッと笑った。
「抵抗されたら終わりですが、一気に敵を無力化できるかもしれませんよ」
その言葉にアキは満足げに頷いた。
「そろそろ実践もやってみましょう」
「ハハハ、痛くも痒くもありませんよ」
ひとしきりの談義の後、年若き聖職者はブラックホーリーの的になっていた。アキの手から黒い光が飛ぶが、邪悪でない者にダメージを与えることはできないため、思う存分練習することができた。
●戦技1
「刀や槍、弓とこれから拳で戦い渡り合っていく為に何を注意すべきですか? また、その差を埋める為に何をするべきですか?」
「そうだな。武道家は得てして手数が多い。それは君にも当てはまるであろう。それを利用しない手はない」
剣豪の侍は、オフシフトでかわしながら接近することや、敵の得物をディザームしてしまうこと、間合いに入ったときに効果的にダメージを与えるためにダブルアタックやストライクなどの技を覚えておくことも効果的だと話してくれた。
「まぁ、その‥‥何だ。自分の戦い方を見つけて、それに必要な技を習得していくことだな。いきなり大技を覚えて、それを決めるための修練を積むやつとか、まずはかわすことに専念するやつとか‥‥性格もあるだろうしな」
早い話、自分で考えろ‥‥いやいや、自分のスタイルを思い描けということらしい。
「どんな屈強な相手でも、体勢を崩させれれば必ずそこに隙が出来、こちらが有利に戦えるようになります、理論上は。その為には、何を利用し、何を狙えば良いでしょうか?」
その戦技はブレイクアウト‥‥以外の何者でもない。転ばせるのならトリッピングやスープレックスを使うのもいいだろう。あとはどんな工夫をするかだと剣豪の侍は言った。このときの会話が、後の陸潤信(ea1170)の戦闘スタイルに影響を与えたのかは定かではないが‥‥
「‥‥ さて、生き残る術を学ぶか‥‥」
九十九嵐童(ea3220)は剣豪の侍を師範に選んだ。陸奥流の使い手で忍者である九十九にとって最良の選択とは言えないが、新しい刺激にはなるはずだ。
シュッ、シュッ‥‥ 道場に素振りの音が鳴る。武器の扱い方に違いこそあれ、戦闘技術の訓練は基本的な型の繰り返しだ。
「最低限の戦闘訓練を受けていなければ武器を使うことは、ままなりませんよ。訓練を受けていないのなら格闘に持ち込みなさい。その方が幾分マシです。戦わないつもりなら間合いの取り方など考えるより、仲間の後ろに隠れるか逃げることです」
この機会にできる限りの挑戦だけはと考えたアキは、剣豪の侍の前でメイスを構えていた。そこへ侍は容赦なく打ち込んでくる。勿論、手加減してはいるが‥‥ 殴りクレリックの未来は、まだまだ前途多難だ‥‥(笑)
●戦技2
自分にあった流派を決めかねていた李雷龍(ea2756)は、兎にも角にも武闘家の達人を師範に選んだ。
「ふむふむ、闘気の扱いに長けているのか。師事せずにここまで鍛錬を積んだのなら大したものだ。流派は追々決めればいいさ。特別なことはせずに基本の型をやってみるとしよう」
初めての本格的な手ほどきに李は感心した。型に集約されたものを全て吸収したというわけではなかったが、洗練された動きだと感じることはできる。
「流派ごとに得意な戦法がある。君がどんな戦い方をしたいのか。それをよく見極めて会得することです」
型だけでも感心させられたのである。その極意となれば‥‥ 李は期待に胸を膨らませて鍛錬に没頭した。
●戦技3
旅装束を脱ぎ、軽めの木刀2本を借りうけた流水は、女性剣士と月詠に打ち込んだ。
「いきます」
木刀の2撃に加えて頭突きを繰り出す。ダブルアタックEX、通称トリプルアタックだ。両手利きの流水にとって相性のいい技である。
しかし、必死に試そうとしていた左手を利き腕に見せないように攻撃するのは難しかった。命中させようとすれば演技に見えないし、演技すれば同時攻撃がおろそかになってしまう。技量に差がある月詠相手ならまだしも、女性剣士には通用するかどうかあやしかった。
それならばと2人相手にトリプルアタックの攻撃を割り振ろうと試みるが、同時に繰り出される攻撃を割り振ることはできなかった。
夢想流の真髄は居合い切りにあるといっていい。神速の剣‥‥ 流派の者たちは、これを極めんとしているのである。
「2日間、基本の型を繰り返してきました。これができずに応用はありえないと肝に銘じておきなさい」
正座で向き合う月詠へ女性剣士から刃引きの日本刀が渡された。しかし、居合い抜きの鍛錬は思うようにうまくいかず、期待していたような応用をいつまでたっても教えてくれる気配もなかった。それには理由があったのだが‥‥
そして、ついにやってしまう‥‥
(「できる」)
そう信じて、月詠は鞘で女性剣士の振り上げるような剣筋を防御してブラインドアタックを繰り出そうとするが、居合い抜きにまで動作は続かない。AP不足である。(この場合、『鞘受け(1AP)+カウンターアタック(1AP)+ブラインドアタック(追加1AP) = 3AP』と計算する。さて、防御時に攻撃するためにはカウンターアタックでなければ成立しないと付記しておきます。そのためのスキル修得ですから。なお、鞘という受けにくいもので受けようとしていることをお忘れなく)
「刃引きの実剣をつかっているのだから、鍛錬といえど無茶をすれば大怪我をするぞ。今日はこれまで。頭を冷やして来い!!」
女性剣士は道場から出て行ってしまった。
「ふぅ‥‥」
月詠が井戸で汗を拭っていると、不意に後ろから湯飲みが差し出された。
「私も頭を冷やしに来た。つい熱くなってすまない」
そこには、さっきの激怒した表情はない。
「キミはまだ、体も剣士の腕前も発展途上だ。もっと鍛錬し、自分の体格にあった武具を揃えなさい」
「はいっ、がんばるです」
2人の顔に自然と笑顔が浮かんだ。
「質問してもいいですか?」
「どうぞ」
2人を追いかけたものの声をかける機会を図っていた流水は、ここぞと女性剣士と月詠の隣に座った。
「例えば敵の攻撃を誘うため、集中が必要なオーラを行おうとする演技は可能だろうか?」
「あなたがやっていた砂や石を蹴り上げて虚をつくような工夫と同じで、それは大丈夫。だけど、誘った攻撃を返すような技は修得しているの?」
「いや‥‥」
「まずは何かを身につけること。そこから何ができるのか考えることね」
攻撃を誘発したりするのは、工夫を凝らせばなんとかなる。しかし、カウンターなどの特殊な技巧はCOを修得しなければ効果は期待できない。そのためのスキル修得なのだから‥‥
「なるほどね。技を習得するのが先か‥‥」
道場の片隅でそれを見ていた潤信は、ズズッとお茶を啜った。
●模擬戦
「遅い!!」
COと違って闘気魔法は集中するための間が必要だ。足払いをくらって、李は道場の床に叩きつけられた。
「今度は闘気を使ってから来い!!」
今度は、オーラボディで防御力を上げ、オーラパワーで威力を増して戦いに望む。ガシッ、ゴンッ‥‥ 武道家の達人にかなうはずもなかったが、さっきより良い戦いができているのは実感できる。
接近戦をする者が闘気魔法を用いる場合、高速詠唱を使えれば対応力が上がる。そう言った武道家の達人の言葉が李の脳裏によぎった。
「2人まとめて相手をしていただけますか?」
「いいでしょう。来なさい」
1人で女性剣士の相手をしても勝ち目は薄い。それに月詠と模擬戦をしても技量差が大きく、互いにとって模擬戦の意味はあまりないだろう。流水は格上の相手に連携で挑むことを望んだ。依頼の中でも強敵に仲間と一緒に対することはあるだろう。そういう意味では、この模擬戦は価値ある1戦だった。
「さ〜て、模擬戦やるですよ♪ ガキだと思って甞めると‥‥ 酷いことになりますよ?」
月詠は刃引きの打刀を構えた。居合いを得意とする夢想流にとって初手から刃を晒して戦うことは歯噛みするしかない状況だが、APが不足している現状ではカウンターアタックとブラインドアタックを組み合わせた攻撃ができないのはわかっている。そしてブラインドアタック単体もAP不足で繰り出せないことも‥‥ ならば狙うのはカウンターアタック。
(「頑張って修行の成果を出して、そして‥‥勝つのです♪」)
「月詠‥‥」
流水の目配せに月詠は小さく頷いた。
木刀の2連撃! 流水がダブルアタックを繰り出す。それを女性剣士はオフシフトでかわしていく。
「やみくもに繰り出しても意味はない。そう言ったでしょ。鍛錬を思い出しなさい!!」
不用意に踏み込んだ月詠に女性剣士の剣が打ち込まれ、3人の時間が一瞬止まったような感じがした。
「見事とは言い切れないわね‥‥ 命は大切にしなさい」
月詠の肩には寸止めのはずの剣がめり込んでいた。そして女性剣士の胴には月詠の刃が‥‥ もう少しのところで届いていなかった。
勝てはしなかったが、もう少しで何かがつかめる。そんな感触に流水と月詠は満足していた。
「まったく無茶ですね」
年若き聖職者がメタボリズムで傷を癒すのを見ることができたアキも大満足である。九十九が持ってきた水を張ったたらいや手ぬぐいなどは無駄になってしまったが‥‥
実際に見た武道家の師範の崩しの入れ方を参考に技を繰り出してみたが、該当するCOを持たない潤信にとってそれは難しいことだった。しかし、自分の目指す戦い方の方向性が見えてきたからか、どこか活き活きと組み手をしているように見える。馴れるより習え。習うより慣れろと思っていた潤信だったが、今なら師範の言葉に共感できた。
「参考になりました」
世話になった剣豪の侍に、拳をあわせて礼をとった。
「これで大分マシになっていればいいのだが‥‥」
刀の使い方や忍法の練習に没頭した九十九は、強くなっているのかわからない自分に少し不安を感じていた。
「ま、なんとかなるさ」
気分屋の九十九の頭の切り替えは、夢想流の居合い抜きより早かった。
●サクラさん?
「確かに俺は初心者として誘われたわけだ‥‥ 今回はロハ。そういうことだ」
流水は今回の演習が好評に終わることを望んだ‥‥って良かったかどうか広める第1歩はあなたたちにかかってますって‥‥
まぁ、ともかく今回の演習は無事に終了した。良い噂が広まるのかは、これからに期待‥‥かな?