追儺式(ついなしき)〜 下野国・那須 〜
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■ショートシナリオ
担当:シーダ
対応レベル:フリーlv
難易度:易しい
成功報酬:0 G 71 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:02月02日〜02月08日
リプレイ公開日:2005年02月13日
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●オープニング
八溝山決戦から、もうすぐ1月。
かの鬼の国は雪に埋もれ、温泉祭りの喧騒もあって鬼の騒動は大衆の記憶からも薄れつつあると言ってもいい。
そんな時期に福原八幡宮で追儺式が行われる運びとなった。
関東の鬼門を護る那須では、もともと毎年行われていた儀式ではあるが、今年は少し意味合いが違う。政治的な狙いもあって鬼騒動を内外に払拭する行事として温泉祭り同様に盛大に執り行われるようである。
『追儺式』は、もともと宮中で行われる貴族や皇族の行事である。
毎年、神皇らは宮中、宮中百官は朱雀門に集まり、罪や穢れを払う『大祓え』の行事を行う。『追儺』の儀式は、大祓えの後に行われる『鬼やらい』のことを指し、悪鬼を払って新年を迎えるというものである。
その儀式に則ったものが福原八幡宮でも行われるのである。
福原八幡宮についても少し説明しておこう。
福原八幡宮は那須喜連川家の氏神様であり、祭神は誉田別名(ほむたわけ)と須藤貞信(すどう・さだのぶ)。
那須家の祖である藤原権守貞信(ふじわらの・ごんのかみ・さだのぶ)が八溝山に住む悪鬼・岩嶽丸討伐のため出陣するにあたり戦勝を祈願し、見事討伐した。藤原権守貞信は、その恩賞として那須地方の支配権を得て須藤を名乗り、八幡宮を改築。この八幡宮の東に神田城を築造し、参道を整備して那須の中心都市・福原の基礎を作ったのである。
さて‥‥
鬼との棲み分けを示唆する問いに対して返された那須藩主である与一公の言葉が伝えられている。
「政(まつりごと)とは大多数の幸福を追求するためにのみ行われるべきものです。
しかし、人の意思が介入する以上、それが透徹されることはないでしょう。
鬼との共存は那須では難しきこと‥‥
例年行われてきた追儺式を中止にすることはできませんし、今は鬼に対する那須の民の気持ちを抑えつけることもできません」
各々に様々な思いを抱きながら、刻は刻々と過ぎる。
追儺式の手伝いに呼ばれた冒険者たちの心中は如何に‥‥
●リプレイ本文
●追儺
思いがけず悪言を吐き、些細なことで人を憎み、心ならず人を傷つけることはある。大小の罪を犯し、穢れを避けることはできないだろう。そんな穢れを四節を前に祓い清める。そうしなければ魂は失われ、段々と消え去っていくと信じられている。だからこそ祓い、祭って神や祖霊に魂に息吹を吹き込んでもらうのだ。この信仰に華国からもたらされた『追儺』、または『鬼儺(おにやらい)』と呼ばれる厄払いの儀式が加わり、陰陽道の呪術が加わったものが日本で行われている追儺式である。
陰陽五行で『金』を表す豆を『火』で煎って『火剋金』とし、丑寅の方角へ穢れを表す鬼を追い出す。すると旧年と新年の直前を表す丑寅は祓われ、新年となって土気から木気へと変じる。そうして春が到来するという意味もある。
「勉強になるのじゃ」
神主に祭祀を司るための修行をしていると話したところ、祭りの準備は済んでいるから色々教えてあげようと教授を受けていた緋月柚那(ea6601)は、こんがらがった頭を冷やすために境内を散策していた。
「追儺式、これは年末の行事なのか?」
「その通りじゃ。大祓えを以って旧年を払い‥‥」
受け売りにひどく感心しつつ南天輝(ea2557)が聞いていると、神主が現れた。
「よく憶えましたね」
「それが修行じゃ」
緋月の勝ち誇ったような様子に、神主は笑った。
「そうだ、神主。鬼役がいるのだろう?」
「えぇ、あなたたちの何人かに頼もうと思っています」
「俺がしてやろう。そこでな、神楽用でもなんでもいいが鬼の面を貸してはくれぬか?」
「大丈夫ですよ。用意してありますから」
「ああ、いわく付きの面は勘弁してくれ。顔から離れないなんてのは勘弁願いたいんでな」
「要望とあれば用意しますよ」
「へ?」
「冗談ですよ」
笑いながら去っていく神主に、南天は苦笑いを浮かべながら首を振るのだった。
「これを使ってください」
冒険者たちの前に衣装箱が並べられた。
中に入っていたのは、牛の角がついた鬼の面に虎の皮を意匠した羽織。陰陽に通じた者が伝えた祭祀の作法を守っているのだと言う。
「小鬼や犬鬼とは違うのだな」
南天が繁々と見ていると正装姿の神主が現れた。
「祭祀の衣装ですから、皆さんが普段相手にしている鬼とは違うのは当たり前ですよ」
「これを着けて追い払われればいいんですね? でも、巫女の手伝いがよかったな」
美芳野ひなた(ea1856)は羽織をうち掛けて様子を確かめている。
「何人かならそれでも構いませんよ」
「やった〜」
神主が言うが早いか美芳野は羽織を脱いで、山本建一(ea3891)に羽織らせている。
「寸法を直した方がいいですね♪」
美芳野は他の仲間の背中にも羽織を合わせ始めた。
「それなら、うちもそうさせてもらうのじゃ」
緋月は嬉しそうに笑った。
「会場を一通り逃げ回って鬼門の方角へ逃げてください。そこで衣装を脱いで帰ってきてください」
「なんか簡単な仕事ですね」
「そうとも言えないのです」
「と言うと?」
神主の言葉に山本は首を傾げた。
「昨年来の鬼騒動で那須の民の鬼への感情は最悪です。そしてあなたたちは鬼に扮するのですから‥‥」
「恨みの念を込められた豆を投げつけられるということですね。鬼と人‥‥ 時間をかけて解決していかなくてはいけませんが‥‥」
山本が頷く。
「まあ、那須の人々の気持ちを良くする祭りだ。那須藩にとっては大切だろう? 仕方ないことさ」
「それが祭祀というものじゃ」
「大鬼は消えても未だに鬼が暴れているだろうからな。与一公も大変だ」
南天と緋月は那須で起きた動乱に思いを馳せた。
「追儺式か‥‥ こういう行事には初めて参加するな‥‥」
美芳野が寸法あわせをするために高町恭也(eb0356)に羽織を掛けていると高町恭華(eb0494)が巫女姿で現れた。
こちらの着付けは緋月がやってくれたらしい。
「ふむ、なかなか‥‥ たまにはこういうのも趣向があって‥‥」
レイヴァン・クロスフォード(eb0654)の鬼面の下には怪しい光が宿る。
「2人とも何見てるんだ?」
「‥‥と‥‥すまん、恭華の姿が綺麗だったので少し見とれてしまった‥‥」
恭也が照れ隠しに笑った。
「似合うかな?」
「似合う、似合う」
恭也たちの投げやりな態度に御藤美衣(ea1151)は眉を顰めた。どうやら恭也とレイヴァンには恭華しか見えていないらしい。
暫くして‥‥
「もっと丁寧に煎ってくださいね。そこ、火が強すぎます」
自分も手を動かしながら、美芳野の指示で豆が煎られていく。花嫁修行は伊達じゃないといったところか。
「あ〜、そういや歳の分だけ豆食わなきゃいけないんだっけか? ‥‥‥‥‥‥ どっちだ?」
考え事をしているのかレイヴァンの手は止まっている。
「どっちって‥‥ 実年齢分食っておけ。多くて困ることはないだろ‥‥ 多分」
「あ〜、なるほど‥‥って、なんでやねん。んなに豆好きとちゃうわ」
レイヴァンが豆を投げる。
「鬼やる奴が豆を投げるな‥‥」
恭也はポリポリ豆を食べながらレイヴァンを睨んだ。
「つまみ食いは駄目ですよ」
「「へ〜い」」
美芳野に注意され、レイヴァンと恭也は真面目に仕事をすることにした。
●楽しい鬼儺
南天鬼が両手を大きく上げて観衆に向かって行く。背の高い南天が扮する鬼の姿は、かなり迫力がある。
鬼門の方角から会場へ入ってくると鬼役の冒険者たちは叫び声をあげた。
「このやろ、このやろ!!」
「鬼やらい!」
観衆は、そこへ向けて豆を投げつける。
「うがぁあ」
南天鬼は豆を避け、大きく叫ぶ。
「いなくなれ!!」
「そうだ、そうだ」
豆の集中攻撃が南天鬼を襲う。
「痛、痛た」
観衆に中(あた)らないようにソニックブームの衝撃波を放ったり、襲い掛かるような素振りを見せながら会場を縦横無尽に走り回る。
熱気を帯びた観衆たちは徐々に山本鬼と南天鬼を追い詰めようとしている。
「それ! 皆、投げつけるのじゃ」
巫女姿の緋月がハリセン片手に観衆を指揮している。
「右の奴を狙うのじゃ」
緋月の合図で豆が飛ぶ。
「こちらは左から追い込みますよ!!」
自分も豆を投げながら、巫女姿の美芳野は山本を追い詰めていく。
観衆たちもジワリジワリと間合いを詰めて集中攻撃は熾烈さを増していった。
「たまらんわい!!」
「逃げろや、逃げろ」
南天鬼と山本鬼は打ち合わせ通り、鬼門の方角へ逃げ出していく。
「それ、最後の一押しじゃ!」
喚声をあげた観衆が豆を中てると、鬼たちは会場から姿を消した。
●鬼退治劇
さて、別の一画では‥‥
芝居がかった動きで会場の中に御藤鬼とレイヴァン鬼と散らばって観客を脅すような素振りを見せる。
子供を抱えると会場の中に引き込んで下卑た笑いを観衆に向けた。
「子供が危険に晒されているぞ。皆、巫女と童子を呼ぼう!!」
どこからともなく恭華の声がする。
「くそー、鬼どもめぇ!!」
「巫女様、やっつけて〜!」
何なんだ。このノリは‥‥
「那須に現われたる鬼たちも人間たちには敵わない! さあ、叫ぶがいい! 巫女を呼ぶんだ!! せーの!」
「巫女様〜」
老若男女一斉に声をあげると、巫女姿の恭華と童子姿の恭也が観衆の前に現れた。
「ええぃ、鬼どもめ。子供を放せ!」
子供の泣き声が響くなか、巫女恭華が鬼たちを指差すと観衆たちが喚き始めた。
「そーだ、そーだ」
「卑怯だぞ!」
かなり興奮気味。
「放せと言われて放すと思ってるの?」
御藤鬼がククッと笑った。
「隙ありっ! てか、好きじゃっ!!」
鬼に近寄って豆を投げようとした巫女恭華をいきなり抱えて、レイヴァン鬼は両手で抱えて童子恭也と距離をとった。
「く、いきなり暴走か‥‥ 逃がさんぞ‥‥、レイヴァン!」
両手を体の前で交差して、勢いよく開いた右手で童子恭也はレイヴァン鬼を指差した。
「美衣、後は任せたっ」
「任されて」
追おうとした恭也の行く手を御藤鬼が遮る。
「む‥‥ 美衣、そこをどいてくれ‥‥」
「そうはいかない」
御藤鬼のせいで童子恭也は動けない。
「く‥‥ 恭華‥‥を助け‥‥」
その時‥‥
「うぼっ‥‥」
レイヴァン鬼が突然苦しみだした。巫女恭華はクルッと前転して立ち上がり、袖をはためかせながら振り返る。
「那須を鬼の好きにはさせない!!」
歓声で会場が湧き上がった。恭也も見とれて、一緒になって歓声をあげている。
「本気で肘討ちとは‥‥ 卑怯な」
ゴホゴホとレイヴァン鬼の咳は止まらない。
「さぁ、鬼を退治するぞ。皆、力を貸して!!」
応と周囲から声があがって観衆たちは豆を握り締めて腕を振り上げた。
「へ?」
素っ頓狂な御藤鬼の声は歓声にかき消されて聞こえない。
「投げつけろー!!」
巫女恭華の一声で豆が鬼たちにめり込む。
「ぐおぉお」
鬼たちが硬直した。
「ほら、ほら、ほら」
巫女恭華の掛け声で豆が鬼たちに投げつけられ、境内に悲鳴が木魂した。
●祭りの後
祭祀が終わって後片付けも一段落ついた頃‥‥
美芳野は祭壇向かって一心に何かを願っていた。
「え〜と、その‥‥ 今年こそ、もうちょっと‥‥ おっぱい大きくなりたいです。
はうう〜、冒険者の方って‥‥大きい人、多いんだもん‥‥
うう、10歳以下に見られる16歳なんて‥‥ 何だか無性に腹が立ちます〜!」
「その願い、叶えてやるのじゃ‥‥」
「本当ですか♪ 神様、ありがとう‥‥」
美芳野のクリクリッとした瞳が爛々と輝いている。
「信じれば叶うのじゃ」
その声を聞いて美芳野は瞳を閉じて再び一心に祈り始めた。
祭壇の裏からそっと音を立てないように巫女が姿を消したのに美芳野は気づかない‥‥
境内の木には人が吊るされていた。
「何であんな真似したんだ?」
恭也のジト目がレイヴァンにねちっこく絡みつく。
「だってな〜、んな可愛い格好してるの見て、何もせんかったら逆に駄目だろ〜?」
「‥‥ まあ、とりあえず恭華は無事だったからよかったが‥‥」
恭也が大きく溜め息をついてボーっとした目で遠くを見ている。
「何故、俺まで吊るされているのだろう‥‥」
「それはこっちの台詞だよ」
御藤はシクシクと涙を流した。
「何やってるんだ。あいつらは‥‥」
暫くして、通りかかった山本と南天に3人は助けられた。