《那須動乱》殺生石 〜 斬込抜刀隊 〜
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■ショートシナリオ担当：シーダ 対応レベル：4〜8ｌｖ 難易度：やや難 成功報酬：2 G 88 C 参加人数：10人 サポート参加人数：-人 冒険期間：02月11日〜02月18日 リプレイ公開日：2005年02月20日 |
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●オープニング
「八溝山への伝令はどうなっておるか！！」那須藩重鎮の小山朝政殿の怒声が響く。
「早馬を送っております。しかし、そうそう簡単には着けませぬ。軍勢の移動ともなれば更に！」
「足軽の招集はぁ！！」
「進めておりますが先の戦いから間もなく、急の軍備なれば藩内は混乱しておりますれば、直ぐには」
部下の報告に唇をかみ締めて、今にも噛み千切りそうである。
「えぇい。朝政、一生の不覚！ 伝説の妖狐の復活だと！！」
茶臼山の地図が広げられた台を荒々しく叩きつけた。
「長老、何か知りませぬか」
喜連川那須守与一宗高公が盟友であるエルフの隠れ里の長老に話しかけた。
「そういえば神弓で他にも狐を封じたとか‥‥ 古い話じゃ」
「何故、その様に大事なことをぉぉ」
朝政殿の顔が青から紫に、そして真っ赤に染まっていく。
「ワシらは岩嶽丸を倒すために共に立ったのじゃ。そのための同盟じゃったからの。それに古い古い言い伝えでのぅ‥‥ 」
歯切れが悪いところを見ると、忘れていた可能性が高いようですな。
「役立たずめ‥‥」
ボソッと吐き捨てる。
ゴッ！！
朝政殿が吹き飛んで矢盾と一緒に床に転がった。壊れてしまった矢盾をバキバキといわせながら朝政殿が立ち上がる。
そこには拳を握り締めた与一公の姿が‥‥
「殿！！」
朝政殿は口から血を流し、殴られた跡の色が変わっている。
「落ち着きなさい！ 那須支局、源徳殿、江戸ギルド、それぞれに使者は送ったのです。那須藩は那須藩でできることをするしかない」
「殿‥‥」
うなだれる朝政殿に与一公は懐から紙を取り出して渡した。口の端に当てると、じわりと紅に染まる。
長老は髭を指で扱（しご）き、いつにない真剣な眼差しで立ち上がった。
「我らエルフはこの戦いにも加勢いたしますぞ。茶臼山に封じられている物が殺生石に相違なければ、復活したのは我らの仇敵‥‥」
握りをしっかと掴むと、杖の先を床に叩きつけた。
「復活したのは白面金毛九尾の大妖狐。古（いにしえ）に玉藻と呼ばれて朝廷を乱しに乱した華国渡りの大妖怪じゃ。
残虐非道の限りを尽くす傾国の大妖魔。大陸の数多（あまた）の国々を滅ぼし、転々とする諸悪の根源。
江戸を襲ったという白面銀毛七尾の妖狐、地孤の阿紫など玉藻の部下に過ぎぬ。比べ物にならん相手じゃ。忘れておったわ」
ばらすな‥‥ ともあれ、どうやら色々と思い出し始めたらしい。
「大妖狐‥‥」
その場にいた藩士が将几に腰を落とした。
士道を求めて信じる道を進んできた道志郎たちのもたらした情報は、八溝山の決戦、鬼騒動の収束、戦勝の騒ぎ、そういったものに隠れ、後回し先延ばしとされてきた。獣人らの暗躍など那須藩にとって二の次の事件だったはずなのである。
それがどうだろう‥‥
開けた箱は２重底。大切なものは、その下に隠されていたのである。
もっと早くに道志郎たちの報告に目を向けていれば‥‥ いや、あの時期の状況を考えれば、それは無理な話と言ってもいいだろう。
「百鬼夜行のときから妖狐と鬼は手を組んでいたのか‥‥
江戸の気脈を乱して結界を弱め、阿紫は殺生石の‥‥、鬼たちは岩嶽丸の‥‥八溝山の封印を解かんとした‥‥
数の少なかった阿紫らは殆どが討たれて、事変の舞台から消えた‥‥
しかし、残った者たちで着々と茶臼山に及ぼす呪力を弱めていったのだな。
我らが八溝山に目を向けている間に‥‥」
朝政殿がポツリポツリと話し始めた。
「今回は十分な体勢を整えている暇はありません。ある程度の準備が整ったら出陣します。そのための準備もお願いします」
「は‥‥ は、はい！」
与一公の声に朝政殿の瞳に力が漲ってきた。
那須藩士たちの動きが再び慌しくなっていく。
※ ※ ※
一方、江戸では‥‥
「蒼天十矢隊に直ぐに連絡を！ 何してる！ お前も行くんだよ！！」
若いギルド職員を蹴飛ばして表に放り出したギルドの親仁は、焦る気持ちを抑えて依頼文を掲示板に張り出した。
１つは蒼天十矢隊向けのもの。そしてもう１つは彼らを支援するための有志を募るという下野国・那須藩からの依頼である。
依頼の内容は、殺生石から復活したとされる白面金毛九尾の大妖狐を那須藩と共に追い、倒すというもの‥‥
尋常ではない依頼ではある‥‥
しかし、一刻も早く那須藩に冒険者たちを送らなくては‥‥
今なら復活したばかりで力を取り戻していないかもしれない。はやる気持ちを抑えて、親仁は冒険者を待った‥‥
※ ※ ※
那須の地に聳え立つ北の霊峰・茶臼山。
こ〜〜ん‥‥
どこから集まったのか、多くの狐の鳴き声が響いている。
彼らがこの地に居座っている理由は何なのか、どれだけの戦力を整えているのか、それはわからない‥‥
●今回の参加者
ea0167 巴 渓（31歳・♀・武道家・人間・華仙教大国）ea0828 ヘルヴォール・ルディア（31歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国）
ea1488 限間 灯一（30歳・♂・侍・人間・ジャパン）
ea1856 美芳野 ひなた（26歳・♀・忍者・人間・ジャパン）
ea2614 八幡 伊佐治（35歳・♂・僧侶・人間・ジャパン）
ea3269 嵐山 虎彦（45歳・♂・僧兵・ジャイアント・ジャパン）
ea3597 日向 大輝（24歳・♂・志士・人間・ジャパン）
ea6114 キルスティン・グランフォード（45歳・♀・ファイター・ジャイアント・イギリス王国）
ea8470 久凪 薙耶（26歳・♀・浪人・人間・ジャパン）
ea8917 火乃瀬 紅葉（29歳・♂・志士・人間・ジャパン）
●リプレイ本文
●茶臼山茶臼山を見上げる一団がいる。寒空の中でも顔を上気させ、１歩１歩斜面を踏破していた。
「全く、祭りの季節にゃ早いってな‥‥ へへ、わくわくすんな！」
巴渓（ea0167）は震える拳を握り締めた。
「今回の任務、重大だね‥‥ でも、絶対に成功させる‥‥ こんな事で躓く様なら、私が追ってる奴等に勝つなんて無理だしね」
ヘルヴォール・ルディア（ea0828）の心中を表情からは窺えない。
しかし、どれだけの間、この山は人との交わりを絶ってきたのだろう‥‥
霊山として奉られながらも、毒の霧に覆われているこの山の実像を知る者は那須の民にはいないはずだ。
「その狐ってさ、いくつも国を滅ぼしてきた狐なんだろ？
そんなのを野放しにするわけにはいかねぇし、しっかり褌締めてかからないとな」
念のために湿らせた布で直接外気を吸わないようにしながら日向大輝（ea3597）たちは歩を進めた。
さて、少し前のこと‥‥
美芳野ひなた（ea1856）は大凧に乗り込んで上空から茶臼山の地形を確かめていた。
「やっぱり高い所は怖いですゥーッ！！」
怖いのが紛れるぜと巴渓が渡してくれたお札を握り締めて恐怖を薄れさせようと思ったが、手を離すと真逆様に落ちそう‥‥
ドキドキしがら眼下を見渡すと、山肌の毒霧は大半が晴れてしまっているのがわかる。
「えっと‥‥」
必死に地形を覚えると高度を落とし始めた。
その時‥‥
ビクッと視界の１点に意識が集中した。
何かに射抜かれるような視線‥‥
美芳野は高度を下げながら恐る恐るその方向を見た。
その先には‥‥陽に照らされて金色に輝く沢山の尾を持つ狐の姿が‥‥
「ひ〜ん」
慌てて高度を落とす。
「どうしたよ。ちびったか？」
巴渓は大凧を引き寄せると、しがみついてきた美芳野を抱きとめた。
「見ちゃったです‥‥ 何だか、ひなたじゃ場違いな気がしてきましたよォ」
「見たって‥‥ まさか狐のヤローか」
「うん。金色の狐に睨まれちゃいました。他にもいっぱいいました」
「茶臼山に集結しているのか、それとも‥‥」
限間灯一（ea1488）の疑念は多岐に及んでいた。
「一度帰還しよう」
限間は愛馬・褐の馬首を返すと那須軍の本陣へ向かった。
３人は帰還すると那須藩の物見たちの持ち帰った情報と合わせて簡単な茶臼山の地図を完成させた。
本当はもっと時間をかけて完全に近い地図を用意することが必要だが仕方ない。
評定の結果、少数精鋭で攻め登るのが最良と、蒼天十矢隊は斬込抜刀隊と名付けられた冒険者の一団は登り口のうちの一つを受け持つことになった。那須軍は別の登り口をいくつか受け持つことになっている。
「それじゃあ、俺たち抜刀隊に、風御たち蒼天隊。全員揃ったな！ ここで‥‥百鬼夜行をぶった斬る！ 信じてるぜ、ダチ公たち！！」
「九尾の大妖狐が相手‥‥ 気を引き締めて行きましょう」
多くの友人が参加している巴渓と同じように、限間も友と共にあった。
斬込抜刀隊の任務は１つ。蒼天十矢隊の主力をできるだけ無傷で九尾の狐の許に辿り着かせること。
全体的に消耗した部隊よりも半数程度でも無傷の部隊をぶつける方が勝率がいいはずだと判断したからだ。
●狐目の美人
だいぶ登ったところで狐を従えた女が２人、斜面に立ちはだかっていた。
「狐目の美人さんが並んでるよ。どうもね‥‥」
粉かけたい衝動に駆られつつ八幡伊佐治（ea2614）は数珠を握った。
「人間を玉藻に会わせてみたくはないか？ 破滅か絶望か、それとも‥‥ 興味はあるだろう？」
「与えられた仕事はお前たちを殺すことだけ。死んでもらうよ」
女は冷たい笑みを浮かべている。
「あぁ‥‥ 美人が勿体ない」
八幡はハァと溜め息をつくと念仏を唱え始めた。
「いつか、与一姉様のお役に立ちとう想い、今まで修行して参りました‥‥
与一姉様と灯一さんは紅葉にとってとても大切な人にございます。だから一緒に必ず無事帰って来る為にも、紅葉、絶対負けませぬ！」
火乃瀬紅葉（ea8917）は早速印を組んで詠唱を始めた。
「やっておしまい」
女がヒラリと手を払うと狐たちは、ダッと駆け出した。
「死にてぇ奴だけ前に出な！ 江戸は鬼道衆の破壊僧、嵐山虎彦推して参る！！」
狐の牙を十手で受けた嵐山虎彦（ea3269）は、浮き上がったその柔腹に六角棒を突きたてた。
「うるさい男だね」
女はその姿を狐に変じると、のたうち苦しむ同胞（はらから）の姿に目を細め、長く鳴いた。
「来るぞ！！」
嵐山は六角棒を片手で振り回すと、握りの位置を変え、十手を体の前に構えた。
マグナブローが２頭の狐を炎に巻き込んだ。
「我らをそこらの妖怪たちと同じに思ってもらっては困るよ」
もう１人の女も狐に変じると群れに飛び込んでいく。
「尻尾が１本しかない。滅法強いって訳じゃなさそうだ」
八幡はグットラックを発動させながら叫んだ。
「俺たちを殺すだけだと！ ふざけんな！！」
オーラパワーを霞刀に付与した巴渓が体の前で刀を左右に振って気合を込める。
「来られませ、お客様。これより先は鉄の規律持ち侍（はべ）る我が領域に御座います。
お客様がお求めになられるならば、如何なるご要求にもお答えさせて頂く所存。
礼節には礼節を、鉄には鉄を、血には血をもって、ご奉死させて頂きます。存分にご堪能下さいませ」
久凪薙耶（ea8470）の薙刀が、横っ飛びに変化した狐を払った。
狐たちは引き裂かれるように左右に分断されていく。
「他愛ない」
久凪が、一瞬だけ眉を顰めた。
「違います」
隊の後尾にいた限間が叫んだ。
狐たちは数頭で隊を組み、左右から挟撃の態勢をとっている。
その動きは宛（さなが）ら蟷螂の鎌。足場の悪い斜面を物ともせずに左右から襲い、その一撃は時に上下に変化した。
狐たちは足元を摺り抜けたり、冒険者たちの頭を足場にして機動力を活かした撹乱戦法を使ってくる。
更に‥‥ 既に変化した２頭の狐の見分けはつかない。いや、狐の姿であった者が化け狐でないという確証もなかった。
「那須を‥‥そしてこのジャパンを‥‥お前達の好きにはさせない」
ヘルヴォールは狐に腕を噛まれながらも鬼神ノ小柄を叩き込んだ。毛皮が血に染まるが、短く悲鳴をあげただけで牙をむいてくる。鬼神ノ小柄が毛皮を更に赤く染め、狐はガクッと体勢を崩したが、ヘルヴォールの傷も浅くはない。
「やれやれ、焔麗の受けてた酔狂な依頼の先にあるのが、まさかこんな大事とはねぇ」
掠る牙に合わせてキルスティン・グランフォード（ea6114）の一閃。
「まあ、いろいろ、ごたごたあったみたいだが、自分にできるのは戦うことだけ‥‥さね」
更に連撃を加えるとヒューヒューと鳴っていた息が大きく吸い込まれて、力を失った。
「んじゃま、狐退治と洒落込みますか！ 江戸霜月闘武神、キルスティン・グランフォードの刀の鞘になりたい奴は、前に出な！！」
集中攻撃を受けた巨漢の女戦士は掠り傷を体中に受けながらも狐たちを威嚇した。
僅かに急所を外し、戦闘力を維持する。熟練戦士のなせる技に狐たちは萎縮した。
「行かせないよ」
隊の中央へ切り込んでくる別の狐の進路を塞ぐヘルヴォールの腹部に熱が走る。
「大丈夫かよ」
巴渓が斬り込んできて狐を切り伏せた。一気に２頭の狐が襲いかかってくるが、一度だけ太腿に噛み付かれた以外は何とかかわした。
「普通じゃないぜ」
回避の鍛錬にも力を入れてきた巴渓でさえ、その牙をかわすのはかなり際どい。
「通すな！」
左右に比べて厚みのある後衛は狐の浸透を食い止めていた。
日向は仕込杖を抜いて上段から力任せにぶった斬った。
いける。その直感を信じて再び仕込杖を振り下ろすと、狐はぐったりしながらも日向を睨みつけて歯をむいた。
そこへ飛び込んでくるのは足軽たちの援護攻撃。
「助かる。そこを塞ぐんだ」
味方の陣の綻びを繕うように、日向はその穴を埋めた。
「足軽たちは十矢隊の人が一緒に戦ってきた仲間。なのに、こちらを信頼して回してくれた。絶対に無事に返すんだ！！」
仕込杖が血煙を呼んだ。
●思わぬ伏兵
ぼわん。
「ごぉ、ちゃっぴぃ♪」
突っ込んでこようとしていた狐たちが煙と共に現れた巨大蝦蟇へとぶつかり、巴渓たちが素っ頓狂な声をあげていた。
「なにしやがるんでぃ」
「だって、だって、手当てなんてしてる暇ないんですもの〜。それとも竜巻の方が良かったですか？」
美芳野の声に周囲の蒼天十矢隊がビクッと引いた。
「なんだっていいや。とっとと殴ってくれ」
「は〜い☆」
巴渓は蝦蟇の上に登ると新しい敵を求めて駆け出した。
さて、蝦蟇に睨まれた狐。ちゃうか‥‥ ともあれ、狐は不意の出来事に硬直している。
「いっけ〜」
そこへ特大蝦蟇の張り手、張り手！ 狐がピクピクと痙攣しながら血を吐いて倒れた。
不意打ちから立ち直った狐たちが一斉に蝦蟇に飛び掛るが、ちょっとやそっとでは倒れない。
（「今だ！！」）
ピィィ‥‥
ヘルヴォールの呼子笛の音が響く。
「押せぇえ！！」
嵐山とキルスティンは指示を受けて方円陣の翼端を担った。反対側は久凪が抑えている。
「後は任せて玉藻の元に‥‥ 終ったら、皆で酒でも呑もう」
声に後押しされて蒼天十矢隊は離脱した。
「とりあえずは送り出したみたいだね‥‥」
ヘルヴォールは得物を構えなおす。その息は荒い。
「胸の内に希望の灯を。それを絶やさず、誰一人欠ける事無く玉藻を打倒し、そして‥‥」
限間は足軽たちを指揮して狐に集中攻撃をかけた。
一斉に襲い掛かってくる刀や槍を全てかわしきることはできない。
「皆で無事帰りましょう！」
一瞬視界の中に映った蒼天十矢隊に向かって叫んだ。
「与一姉様！ 頑張って！！」
火乃瀬たちの声が届いたのか弓使いのパラが振り向いて小さく手を振ったのが見えた。安心したように印を組んで詠唱を始める。
「次、左から来ます！」
それぞれに傷を負っているが、ここを突破させるわけにはいかない。
牙を軍配で受け止めたと安心したところに跳ね除けた狐の影から別の狐が‥‥
「ぐぁ‥‥」
肩口の痛みを堪えながら相州正宗を振るが体勢が崩れている上に不意を衝かれてしまっている。狐は牙を離して身を捻ると足首に噛み付いた。
「灯一さん！！」
火乃瀬は顔面蒼白にして思わず詠唱を中断してしまう。
「はぁあ！！」
傷の痛みに意識を持っていかれそうになりながら相州正宗を突きたてた。
痛みに暴れる狐に足軽たちの刀が槍が突き刺さる。
もう１頭の狐は、他の狐と合流したようだ。本来なら各個撃破できる好機だけに狐たちの手練さが恨めしい。
しかし、限間たちの一団にほんの少しの時間が得られたことは好機以外の何物でもない。
足軽たちが薬を飲んでいる間に限間はオーラリカバーを唱えた。
傷は塞がっても荒くなった息を整えるには少し時間が必要である。足軽たちにも疲労の色が浮かんでいる。せめて、あと一呼吸だけでも‥‥
火乃瀬は限間にフレイムエリベイションをかけ、八幡は火乃瀬の傷をリカバーで癒す。
「日本の未来の為にも、紅葉の大切な姉様たちには指一本触れさせはしませぬ‥‥」
さっきのようなことだから姉様たちに心配を懸けてしまうのだと思わず悔しくて涙がうっすらと滲んだ。
「さぁ、もうひと働きです！！」
限間の号令一過、足軽たちは鬨の声をあげた。
●金色の狐
乱戦、乱戦、また乱戦‥‥
ともあれ、回復能力に長けた斬込抜刀隊の方が徐々に戦局を物にしつつあった。
煙と共に消えたちゃっぴぃの向こうでは美芳野が狐たちに手を振っている。
「残念でした♪」
ニコッと笑うと新たに印を組んで詠唱に入った。させじと狐が美芳野を狙う。
「させねぇよ」
巴渓の霞刀が狐の胴を切り裂いた。
「はん、こちとら死線をいくつも生き抜いてきたんだ‥‥ 舐めてもらっちゃ困るな！」
嵐山の六角棒が唸り、狐の肉が砕けた。
「これで決まりですね。陣を立て直します」
趨勢が決したと判断した久凪は、ようやく一息ついた。
白い前掛けには赤い染みがいくつも付けられ、牙で破れていた。
「了解」
キルスティンは汗を手の甲で拭うと大きく息を吐いて、ゆっくりと深く吸い込んだ。
体中に力が漲ってくる。疲労を感じるが、息は整ってきた。
炎の柱が狐を焼いたのを合図に双方が再び激突した。
「いっくよ〜☆ ちゃっぴぃ弐号！」
煙と共に新たな蝦蟇が現れたところで明らかに狐たちが引いたのがわかる。
「さぁ、掛かって来いよ」
体から湯気を発し、褐色の肌を赤黒く染めて聳え立つ嵐山に、八幡は背中にそっと触れて傷を癒した。
「ありがとよ、伊佐治！ 生きて帰るためにもう一踏ん張りだな」
振り向いたその時である。金色の影が空を覆うように嵐山の視界を埋めた。
総毛立ち、振り返るとちゃっぴぃ弐号は金色の狐に引き裂かれて地に伏していた。
「永き眠りから覚め、ひと時の午睡を楽しんでいましたのに‥‥」
踏みつけられてジタバタする蝦蟇にウンザリした様子で止めを刺すと、金色の狐は悠然と斬込抜刀隊に向き直る。
「本当に酷い方々ですこと。我が一族を討ったお礼はいずれさせていただくとして‥‥」
これからどうしてやろうと思いを馳せているのか、口元を僅かに歪め、目を細めている。
「今勝負したらどうだ？」
「それはできませんわ。私を取り逃がしたとなると屈辱でしょう？」
歯噛みする嵐山に金色の狐はゾクリとする表情を返した。
「それよ、それ。死の苦痛や恐怖に歪む姿も良いけれども、屈辱の表情がまた格別」
「こいつ！！」
日向が飛び出していこうとするのを八幡が止めた。
仲間たちは傷ついているし、九尾がここにいるということは蒼天十矢隊のことも心配である。とても戦える状態ではなかった。
蝦蟇をあっという間に倒したことだけ見ても脅威だ。見逃してくれるというのなら、悔しいが今はそれを甘んじて受けるのも勇気‥‥
「フフッ‥‥ さて、どこを滅ぼして差し上げようかしら‥‥」
込み上げる喜びを抑え切れないように金色の狐は一鳴きすると、宙を駆けて何処かへと飛び去ってしまった。
