シフール特急便 〜 猿山の大将 〜

■ショートシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:4〜8lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 92 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月26日〜03月03日

リプレイ公開日:2005年03月08日

●オープニング

「珍福じいさん、元気かな♪」
 月華は笑顔でシフール飛脚便江戸支局へ入っていた。
「珍福って、あの?」
「そ、薬屋さんの」
「あそこに手紙を届けるのか」
「そですよ」
 何が言いたいのかと、月華は上司の顔を覗き込んだ。
「あそこ、猿が出るって話だぞ」
「お猿さん、可愛いよ」
「1匹や2匹で、腹を空かせてなければな」
 上司が仕事の手を休めて月華に向けて筆を突きつけた。
「今、あそこらには腹を空かせたのがわんさといるらしいぞ」
「え〜」
 上司がニヤリと笑うのを見て、月華はガックリと肩を落とした。
「念のために冒険者を雇っておいた方がいいだろうな」
「じゃあ」
「出ないぞ。だけど、あそこはお得意さんだしな。少しくらい必要経費に色はつけてやろう」
 打てば響くといった遣り取りに一瞬の間が入った。
「ホントですか?」
「嘘ついてどうする」
 月華の持っていた受け付け票を受け取ると、袋に幾許かの金を入れて目の前に置いた。
「ホントに少しですね」
「いらないのか?」
「いります」
 ゆっくりと伸ばす上司の手より早く、月華はお金の袋を掴んだ。
「それじゃギルドに行ってきま〜す」
 ちょっぴり語尾が消え入り気味で、ふらりと飛びながら月華はシフール飛脚便江戸支局を後にした。

「お前さんも大変だな〜」
 ギルドの親仁が月華を慰めている。
「明花ちゃんとゆっくり温泉に入れると思ったのになぁ」
「何しに行くんだよ」
「配達だよ」
 けろっとした顔で月華が答えるのを聞いて親仁は溜め息をついた。

●今回の参加者

 ea0489 伊達 正和(35歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea1170 陸 潤信(34歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea2331 ウェス・コラド(39歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea2482 甲斐 さくや(30歳・♂・忍者・パラ・ジャパン)
 ea2831 超 美人(30歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea2989 天乃 雷慎(27歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea3358 大鳳 士元(35歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 ea4653 御神村 茉織(38歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea5989 シャクティ・シッダールタ(29歳・♀・僧侶・ジャイアント・インドゥーラ国)
 ea7278 架神 ひじり(36歳・♀・志士・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●出発
「いつも不肖の妹がお世話になってます」
 体の前に拳を合わせて陸潤信(ea1170)が頭を下げた。
「雷慎ちゃんには、いっつも助けられてるからなぁ」
「いいの。好きでお手伝いしてるんだから。でも、よかった。今回は兄貴と一緒だから、いつに増して心強いよ」
 月華が天乃雷慎(ea2989)の肩に留まった。
「月華、依頼については聞いているだけの情報しかないのか?」
「うん、ボクが1人で行けるくらいだから普段は危険なんてないんだけどね」
「楽そうな仕事だが、猿が出るかもしれないってのが面倒だよな。やれやれ」
「フ‥‥ 予想される障害は猿だけ。簡単な依頼だ。まるで『子供のお使い』じゃあないか‥‥」
 超美人(ea2831)と御神村茉織(ea4653)の横で、防寒服の襟を合わせたウェス・コラド(ea2331)は白い息を吐いた。
「集団のサルは危険でござるよ。奴らは動きにくいような所も自由でござるからな。月華、離れないでほしいござるよ」
「わかったよ、さくや」
 胸を叩く甲斐さくや(ea2482)に、月華は微笑を返した。
「ところで、明花さんという子とは親しいのでござるか?」
「うん。お話したり、温泉に一緒に入ったり」
「ふむ、依頼を果たした後に温泉に寄って行くのも悪くないのう」
 架神ひじり(ea7278)は楽しそうに思いを馳せた。
「特急便は結構大変なんだと思ってたんだけどねぇ‥‥」
 大鳳士元(ea3358)が思っていたほど大変そうに見えないのは月華のせいだね。きっと‥‥
「それにしてもまったく、その爺さん、悠々自適なんて羨ましいね」
「わたくしは伊達様と悠々自適に暮らしたいですわ」
 伊達正和(ea0489)と同じ仕事ができるとシャクティ・シッダールタ(ea5989)は完全にのぼせあがっている。
「準備もできたみたいだし、出発しよう♪」
 月華たちは珍福さん家に向けて出発した。

●猿山
「これでは避ける事はできないぞ」
「だって1本道だもん。しょうがないって♪」
 楽しそうに話す月華に超美人が溜め息を漏らす。探せば獣道くらいあるだろうが、結局この道を通るしかなかった。
 御神村が首をコキコキ鳴らした。猿が樹上から襲ってくる可能性が高いとすれば、やはり頭上は警戒しておいて損はない。
「誰か交代して‥‥ いや、来たよ。これは月華の護衛だよな? 猿退治ではなくて」
 2頭、3頭と猿の姿が増えている。結構でかい‥‥
「えぇ、なるべく刺激を与えたり、威嚇をしない様に注意して、その場を速やかに立ち去ってください」
「そうもいかないみたいだ」
 超美人が陸潤信の忠告を遮った。
「こっちは通りたいだけだって言ってくれないか?」
 御神村は取り囲もうとしている猿たちを見て、陸潤信に言った。
「わかりました」
 オーラテレパスのために陸潤信が集中した。天乃は刃を鞘に収めたまま柄に手をかける。
『私たちはあなたたちと争う気はありません。通してもらえませんか?』
『腹減った。お前たち、食べ物持ってる。俺たちそれを食べる』
『食べ物はない。だから、通してほしい』
 猟師の心得のある陸潤信にはわかっていた。食べ物を持っていることが知れれば取り合いになることを‥‥
『お腹が空いているみたいです』
「保存食を投げて気を引いてみるか?」
『止めてください。刺激してもいいことはありません』
「猿さんたちが、それを目当てに旅人襲う様になるんじゃないかな?」
 御神村を陸潤信と天乃が慌てて止めた。
「なぁ、猿は華国では珍味と聞くが、どのような味なのじゃろうか? そういえば、いささか小腹が減ってきたのう」
『止めときましょう‥‥』
 未体験の食に興味津々の架神に陸潤信はそう言うしかなかった。
「彼らが人を襲うのはそれなりの勇気が必要なことでござろう。それに空腹の者をいじめるのも趣味でないでござる」
 今は風向きが悪い‥‥ 甲斐と御神村は春花の術を使えずにいた。
『通してくれるだけでいいんです』
『通さない』
 少ししか話してはいないが、陸潤信は話が通じないことを悟った。となれば‥‥
『実力で通るしかありませんね』
『やっつけろ』
 しまったと陸潤信は唇を噛んだ。仲間に向けた言葉だったのだが‥‥
 群れの主の声と共に猿たちが動き始めた。
「うきゃ」
 突然、枝がしなって猿が木から落ちた。ウェスのプラントコントロールだ。
 地道に‥‥ それが彼を刺激するかどうかは不明だが、陸潤信が時間をかけている間に木へ魔法をかけ続けていたのである。
 木の全てを操ることは無理だが、それでも猿たちにとってウェスの魔法は迷惑この上ない。
「数は15‥‥くらいか」
 範囲外にいれば大鳳のデティクトライフフォースには引っかからないが、多いってことだけはわかる。
「これでも俺は坊主、無益な殺生は好きじゃないんだが、どうにもならなきゃ殺すしかないぞ」
 大鳳は愛刀を抜かず、印を組んで詠唱に入った。
『仕方ありませんね』
 魔法や術の集中に入った仲間たちを支援するように猿たちの前に立ちはだかって陸潤信は拳をふるった。
 その攻撃をくらった数頭の猿が、ぐったりと力を失うように気絶して倒れこむ。
「いつまでももたないぞ」
 猿が投げてきた石が、素早く印を組んだウェスの高速詠唱のサイコキネシスで軌道を変えた。しかし、その全てを相手にできない。
「多少は痛い目をみてもらおう」
 印を組んで別の呪文を唱えはじめた。
「バカヤロ! 俺に近づくんじゃねぇ!」
 大鳳に飛び掛ろうとしていた猿が突然闇に包まれた。恐慌状態の猿へ陸潤信のスタンアタックが決まる。
「戦いたくないのに」
 超美人は峰討ちで猿たちを追い払おうとするが、それだけではどうしようもない。
 天乃も居合い抜きの要領でいちいち鞘に刃を収めながら峰討ちで猿たちの突進を食い止めている。
 ウェスのローリンググラビティで数頭の猿たちが空中に巻き上げられた。これで多少は猛攻を防いだはずだ。
「きりがないが、気合いれてかかるぞ! シャクティ!!」
「はい♪」
 周りは敵だらけとはいえ、ほとんど乱戦状態。伊達は確実に峰討ちを決めていく。
 確実に相手の戦力を奪えないのが痛いが、手紙を運ぶくらいの仕事で殺生するよりマシ。
(「やっぱり優しい‥‥」)
 回避に自信のないシャクティをさり気なく庇うように伊達が彼女の半歩前を固めた。

「安心して術を完成させるといい」
 架神のバーニングソードを恐れたように猿たちはなかなか近寄ってこない。その隙に風上を占めた御神村と甲斐が印を組んだ。
「皆、動くなよ」
 御神村と甲斐の春花の術でバタバタと猿たちが倒れた。残るは群れの主らしき猿と僅か‥‥
「ここはわたくしに任せてくださいませんか?」
 シャクティが前に進み出た。
 両者計ったように飛び出すと引っ掻こうとする猿の手に指を絡めてシャクティが受け止めた。
 その時‥‥
「悪さするんじゃないの」
 陽の光を背に崖の上に現れたのは、棒を片手に構えた人影。器用に斜面を蹴るとクルリと体を捻って着地した。
「明花!」
 月華が甲斐の背中から顔を出した。
「月華〜」
 先程、軽い身のこなしを見せた少女がブンブンと手を振っている。
「悪さばっかりしてると温泉に入れてあげないよ」
 明花と呼ばれた少女が睨むと、群れの主がシュンとなったような気がした。力関係が手に取るようにわかる。
「ほら、山に帰った帰った」
 棒で地面を鳴らすと、猿たちはバッと散っていった。

●配達済んで、日が暮れて〜
「仙人ってのは、こんな感じなのかね」
 珍福の家に入るなり、ズラリと壁一面に並べられた棚を見て、大鳳がもらす。
「珍福さん、お手紙の配達に来ました」
 月華が鞄から手紙を取り出して渡した。
「確かに受け取ったよ。いつも有難うな」
「いいの。おじいちゃんと明花ちゃんに会えるの嬉しいもん♪」
 受け取りの確認をして月華は鞄をしまった。
『初めまして。陸潤信といいます』
『おやおや、華国語とは‥‥ 君は華国の出身か』
 陸潤信と珍福は華国語で話し始めた。
『ボクだって話せるもん』
『それ言ったら俺たちもなぁ』
『わたくしだって』
 月華と伊達、シャクティまで華国語で喋り始めた。
 そうなると他の者たちは、間に入ることはできない。
「何やってるの?」
「うわっ、いくらなんでも幼子相手に博打なんてするわきゃねぇだろ」
 超美人の鋭い視線を感じて大鳳は振り返るなり、弁解した。‥‥が、茶碗の中には賽が転がっていて、みんなの視線が痛い。
「どっちが大きな数を出せるか、勝負してたんだよ」
 異様な雰囲気に何か言わなくてはと、明花が大鳳を庇う。
「何だよ、その溜め息は〜」
 大鳳はガックリと肩を落とした。

 登るのに時間をかけすぎたせいもって、結局というか、予定通りというか、月華たちは珍福さん家に泊めてもらうことになった。
「こんなものがあるんだけど‥‥」
 超美人が洛中絡外図を取り出して机に広げようとしたが‥‥
「おおぅ。これは鬼毒酒ではないか。気の効く男だ」
「あ、あぁ。皆、鬼じゃねえから平気だな。飲もうぜ♪ って、おい」
 珍福じいさんが嬉しそうに鬼毒酒を掲げた。
「ごめんね。爺ちゃん、珍しいお酒に目がないの」
 珍福に見えないように手を合わせて小声で謝る明花を見ると、伊達も笑って許すしかない。超美人も諦め気味に笑って絵図をしまった。
「ほれ、飲め飲め」
 湯飲みに注がれた酒をシャクティたちは楽しそうに飲んでいる。伊達たちは思わず吹き出した。
「シャクティ、2人っきりになろうぜ♪」
 完全に酒を奪われてしまった伊達は、諦め顔の笑みを浮かべてシャクティに耳打ちした。

「このシャクティ、伊達様に一生を捧げる気持ちで一杯ですわっ! ああ、伊達様〜☆」
 つい姿勢を低くして、切ない気持ちを胸に秘め、思わず両手を大きく広げてしまった。温泉を背にした伊達に逃げ場はない。
「ちょっ‥‥」
 力一杯の熱い抱擁と同時に温泉に水柱が立った。
 伊達はというと‥‥ でっかいたんこぶ作ってプカリと‥‥
「あらぁ‥‥? あの、伊達様!? だ、伊達様〜!!」
 激しい愛の形は、リカバーをかけるのも忘れて暫く続いた。
 さて、酒盛りの騒動を避け、月華たちは温泉に入ろうと向かったのだが‥‥
「あらら‥‥ お姉ちゃんたち、どうしたの?」
 明花が声をかけると、シャクティは瞳をウルウルさせて振り向いた。
「おじいに薬をもらうといいよ」
「あ、ありがとう」
 さっと伊達を抱っこするとシャクティは珍福の許へと駆け出した。
「気持ちいいよ。明花ちゃんたちも早くおいでよ♪ 星も月も綺麗‥‥」
「ホントだね」
 天乃は湯に浸かると胸の前で両手の平を合わせて月華を座らせた。
 明花が飛び込んで湯が流れ、月華が流されそうになるのを慌てて掴む。
「ところで月華ちゃん‥‥ 君付きの忍び君は‥‥流石に近くに忍んでいたりしないよね?」
「大丈夫だよ〜♪ 近くにいるとは思うけど覗いたりしないから」
 皆に背を向けて囁く天乃に月華は笑った。
「いつもならお猿さんたち毛づくろいに来てくれるのに。今日はどうしたんだろ?」
 明花が呟いた。
「きっと、さくやの仕業だよ♪」
「なる‥‥」
 月華と天乃は吹き出すように笑い始めた。
「月華殿、濡れ髪だと色っぽいのう♪」
 架神が、にゅっと顔を突っ込んできた。
「にゃ〜ん♪」
「小さいのも可愛いものじゃ」
「おっきくないけど小さくないもん」
「何の話をしておる」
 架神に問い返されて、月華は耳まで真っ赤になった。
「ふぅ。動き回った後は気持ちいいな‥‥ こら、湯を動かすな」
 どぶろくを持ち込んで湯に浸かりながら引っ掛けていた超美人が騒ぐが、誰も聞きゃあしない。
「ま、いいか」
 超美人は湯に飲みこまれないように気をつけながら杯を空ける。
 ぶわっと巻き起こった湯煙に笑い声が響いた。

「おや、どうしたのだね?」
「後で温泉に入れてあげるでござるよ。女性が入っているのでござる。遠慮してほしいでござる」
 甲斐は、月華たちが温泉に入っている間の番兵といったところか。そこらに猿たちが寝転がっている。
「後にした方が良さそうじゃな」
 珍福はカカと笑うと家へと帰っていった。
 さて、男性陣はというと、酒を片手に世間話に花を咲かせていた。
「こんな冬山で薬草なんて手に入るのか?」
 ウェスは素朴な疑問を口にした。
「新鮮な物を使うだけが薬草の処し方ではないぞ。お若いの」
「沢山溜め込んでいるとみえる」
「ホホ、薬師の嗜みというやつじゃな」
「しかし、この山に隠居したのはそれだけではないのだろう? この山で何か珍しい鉱石でも採れるのか?」
「ホッ。面白い男だ。なかなかにきれる」
 珍福はジロリとウェスを見つめた。
「薬師の秘術には様々な物を用いるのじゃよ。処方は秘密ゆえ教えられぬがな」
「無理は言わないさ。情報には価値があるからな」
 顎に手を当てて立ち上がると、ウェスは窓辺へ歩いていった。
「しかし、ドワーフに人間の娘ねぇ。実子じゃないよな、やっぱ。孤児か何かか?」
「友の忘れ形見じゃ。あの子が自分で聞きに来るまでは内緒だぞ」
 珍福は眉毛に半ば隠れた瞳を御神村に向けた。大鳳もなるほどという顔で頷いている。
「あんたがそう言うなら言うつもりはないよ」
 御神村の言葉に珍福は満面の笑みを浮かべた。
「あの‥‥ 珍福翁、あの猿たちをどうにかできないものでしょうか?
 人間の縄張りに踏み込んでしまったらどうなることか‥‥ 容赦しない方が世の中、多くいますから」
 陸潤信は湯のみを机において珍福を見つめた。
「まぁ‥‥ 無理じゃな」
「そうですか。珍福翁ならいい智恵を授けてくださると思っていたのですが‥‥」
「かの太公望や臥龍ではないのだから、そんなに期待せんでくれ。簡単に猿を巧みに操るほどの賢者なら、人を束ねて国でも興すわい」
「そのときには俺を誘うといい。役に立つぞ」
 ウェスがニヤッと笑った。