シフール特急便 〜 不吉なる便り 〜

■ショートシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:6〜10lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 48 C

参加人数:10人

サポート参加人数:3人

冒険期間:03月31日〜04月05日

リプレイ公開日:2005年04月09日

●オープニング

「これ、届けていただけませんか?」
 ここに来て暖気と寒気の車掛り。それでも冬の気配は確実に去りつつある。
 春の陽気にシフール飛脚便江戸支局の受付でうつらうつらしていた月華は、ハッと目を覚ました。
「お手紙ですね。どこまで届ければいいのですか?」
「息子のところへね」
 少し疲れた表情を見せる初老の女性が受け付け票に届け先を書き込んでいく。
「あら? 江戸なんですね。ご自分で会いに行かれれば良いのに」
 上司が後ろで溜め息をついている。
「会ってくれないのよ。私が嫁のことを悪く言うからって‥‥」
 初老の女性は悲しそうな顔をして語尾を濁した。
 月華はバツの悪そうな顔をして後ろを振り向いたが、上司はそれ見たことかと自分の仕事に没頭しはじめた。
「悪いことを聞いちゃったかな‥‥ これを息子さんのところに届ければいいんだよね?」
「はい‥‥」
「息子さんのこと、お好きなんですね」
「お願いします」
 初老の女性はシフール飛脚便江戸支局を後にした。

 ※  ※  ※

「聞いてくださいよ〜」
「却下」
 上司は月華に背を向けて座りなおした。
「実はあの時のご婦人に息子さんからの返事を運んだんだけど、頼み事をされちゃって」
「聞かなかったことにする」
「でも‥‥」
「君はシフール飛脚便で働く者だ。配達のことならいざ知らず、個人的なことにまで首を挟むのはどうかと思うが‥‥」
「そうじゃなくて」
 月華は上司の前に受け付け票とお金の入った袋を置いた。そして手紙が一通‥‥
「随分多いな」
「あの人の全財産‥‥」
「死んだのか」
 上司が振り向くと月華は頷いた。
「このお金で昔の息子さんに戻してほしいって」
「あ〜、聞こえない。聞こえない。それよりも月華、受け付け票くらいちゃんと書けるようになれよ」
 上司は受け付け票に線を引き、シフール便の正規の金額へと書き直すと、料金を数えた上で経費の分を袋に返した。
 再び上司は月華に背を向けた。
「手紙は受け付けた。経費は正規の分しか出ないからな」
「ありがと。何か悪いものでも食べた?」
「怒るぞ」
 月華は江戸ギルドを目指してシフール飛脚便江戸支局を後にした。

 ※  ※  ※

「また、配達の護衛かい?」
 ギルドの親仁が驚いた声を上げた。
「どうなんだろ?
 亡くなった女の人から預かった手紙を息子さんに渡さないといけないんだけど、そうなるのかどうかを聞きに来たんだ」
「それで?」
 2人は腰を落ち着けると状況を整理し始めた。
「その女の人が言うには、お嫁さんが来てから息子さんが変わってしまったんだって。いや、ちょっと違ったっけ。
 突然、夫婦になるって連れてきたこともおかしかったし、お嫁さんが家に来た後も些細なことでお嫁さんを虐めるって喧嘩になったみたい。
 家事を手伝ってほしいとか、ホントに些細なことだったみたい。
 でも、それが原因で息子さんが一方的に怒って、夫婦で家を出て行ったんだって」
「穿った風に考えれば魅了されたってことかなぁ。それだけじゃ何とも言えないけど」
「それだけじゃなくてね。
 息子さん、段々元気がなくなったって聞いてたんだけど、ボクが少し前に手紙を届けた時にもあんまり元気じゃなかったなぁ。
 気落ちした風だったしね」
「成る程‥‥ 魔物、妖怪の類には、精気を吸い取ったり、魔法を使ったりする奴がいるからな。
 報酬を出せるなら冒険者を雇っておいた方が確実だな」
「それじゃ。募集してくれる? 今日は自腹じゃないんだ」
「珍しいな。ま、これなら何とか10人くらいは集められるか」
 親仁は、月華の取り出した袋を覗き込んで言った。

●今回の参加者

 ea0707 林 瑛(31歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea0780 アーウィン・ラグレス(30歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea2478 羽 雪嶺(29歳・♂・侍・人間・華仙教大国)
 ea2482 甲斐 さくや(30歳・♂・忍者・パラ・ジャパン)
 ea2989 天乃 雷慎(27歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea4660 荒神 紗之(37歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea5979 大宗院 真莉(41歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea5980 大宗院 謙(44歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea6264 アイーダ・ノースフィールド(40歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea8917 火乃瀬 紅葉(29歳・♂・志士・人間・ジャパン)

●サポート参加者

ロリア・バッドウェザー(ea0824)/ 観空 小夜(ea6201)/ 銀 千邦(ea9793

●リプレイ本文

●出発
「今回のこと、月華さんは本当にお優しゅうございますね。その思いに答える為にも、この紅葉、必ずや力になりまする!」
「おや、美しいお嬢さんだ。今度、花見にでも行きませんか?」
「紅葉は男にございます‥‥」
 大宗院謙(ea5980)に声をかけられて火乃瀬紅葉(ea8917)は困ったような表情で俯いた。
「ほぅ、こんなに可愛らしいのに」
「でも、紅葉ちゃんは男の子だよ♪ 姉様に憧れてるから似ちゃうのかな?」
「そうなのでしょうか‥‥ でも、御神籤の恋愛運二重丸がこのことだったら嫌です」
 火乃瀬が顔を赤らめた。
「大丈夫、紅葉ちゃん可愛いんだから絶対お嫁さんになれてるって♪」
「月華ちゃん、違うって」
 火乃瀬の頭を撫で撫でする月華に天乃雷慎(ea2989)が思わず吹き出した。
「月華殿、食事に誘ってもいいかな?」
 謙が月華に言い寄ったのを真っ先に阻止したのは‥‥
 ピキッ‥‥
「本当に仕方ない夫ですわ。月華さん。お騒がせして申し訳ありません」
 容赦なくアイスコフィンをかけた大宗院真莉(ea5979)がホホと笑った。
 甲斐さくや(ea2482)が機先を制されて苦笑いする。
「月華、亡くなった依頼主の願いは叶えてやりたいでござるな。
 この間、行った際には月華はどう見えたでござる? 些細な事でも判断材料にしたいでござるからな」
 月華の顔を覗き込みながら甲斐は訊ねた。
「太一さんの顔色悪かったし、ホントに元気なかったよ。お梅さんとは仲がいいように見えたけどな」
 月華は、その時の様子を冒険者たちに話し始めた。
 特に何が怪しいとかいうことはなく、ただ太一の元気がなかっただけで‥‥
「う〜ん、真相はどうなんだろうねぇ? まぁ、色恋沙汰は当人の問題だとは思うんだけど」
「魔物の類なら捨てては置けませぬし、只の心のすれ違いなら、あまりに悲しすぎます‥‥」
 荒神紗之(ea4660)の心配も尤も、また、火乃瀬の懸念も尤もであった。
「うん。亡き母のお願いか〜‥‥ 叶えてあげたいよね。
 それが、もし物怪が関わっているなら絶対に息子さんを元に戻してあげなくちゃね」
 笑みを投げながら、天乃は月華を見つめた。
「みんな、頼りにしてるからね。がんばろ♪」
 月華の声に一斉に頷いた。

●聞き込み
「突然息子が結婚して、人が変わった‥‥ 何となくお宮みたいな嫁を想像してしまうけど‥‥」
「ハンター依頼ではないしさ‥‥ 人と共存をしてたりする雪女もいる事だし、魔物、即退治とは繋げたくはないな」
 魔物ハンターであるアイーダ・ノースフィールド(ea6264)の呟きに、同じく魔物ハンターの羽雪嶺(ea2478)が軽く突っ込む。
「太一さんの命に関わり話が通じない時には狩るだけだけど」
 拳を握り締める羽雪嶺を見て、アイーダは笑った。
「そうね。平和的に解決ができるか試みて‥‥ でも、駄目な時は迷わず退治するしかないよね。
 息子さんが衰弱しつつあるのは、お婆さんと喧嘩別れしたことが原因の精神的なことからか? 
 それともお嫁さんが人外で糧として食われていたか?」
 林瑛(ea0707)は考えながら首を振った。ここで悩んでも何も解決しない。
「何はともあれ、情報を集めないと何もわかりそうにないね」
 荒神の言葉に全員が同意した。
「私は妖怪だという線で調べてみたいと思います」
「こちらは人の線で調べるでござるよ」
「お願いね。みんな♪」
 梅が人である場合、妖怪の類である場合、両方で対処の仕方は雲泥の差となるだろう。
 という訳で、両方の線で調べることになった。

 ここは太一と梅の長屋の近く‥‥
「仲が良いんだか、悪いんだか‥‥ そのへんはわかんないけどね。
 旦那さん、お仕事から家事一切まで全部やってるんじゃない?
 あんなに尽くしてくれる旦那なら、あたしも欲しいねぇ」
 どぶろくを引っ掛けるように担ぐ謙の隣には駕籠に入れた野菜を抱えて井戸へ向かう女。
 トトッと軽快に歩いて回り込むように太一の長屋の隣人の女房の顔を覗き込む。
「やだよ。あたしには夫がいるんだから」
 女は満更でもないらしいが‥‥
「わ、私は‥‥ 妻がいるから期待には添えないよ。すまないね」
 頬を僅かに引きつらせた謙の視線の先には印を組んだ真莉の姿‥‥
「あなた、ご苦労様」
 ニッコリ笑う真莉に殺気を感じた女は、さっさと野菜を洗い始めた。
「ギルドや書庫では大した情報は得られませんでしたわ。魅了、女‥‥ それくらいの情報では特定しようがないと」
「そうか?」
 横を歩く謙が前方から歩いてくる娘に手を振っているのを見て、真莉は着物の上から脇腹を抓(つね)った。
「ちょっとお茶目しただけじゃないか」
 全く懲りない男である‥‥

 蕎麦屋の2階の部屋を使わせてもらったアイーダは、少しだけ開けた戸の隙間から向かいにある太一夫婦の長屋を眺めていた。
「太一さんが出かけるみたい。月華さんも行く?」
「う〜〜ん、誰か帰ってくるかもしれないからここにいる♪」
 月華が窓辺へ映ったのを見てアイーダは急ぐように降りていった。
(「太一さんが別人だったり、既に人間以外に変わっている‥‥なんてことになってなければいいのだけど‥‥」)
 一般人に扮したアイーダは梓弓の包みと矢の包みを抱えると太一の後をつけはじめた。
 銀髪碧眼の江戸町人は街中でしっかり目立っていたが、太一に気づかれていないので一先ず良しとすべきか‥‥
「お、月華。お前さんが見張りか」
 羽雪嶺が帰ってきた。
「うん‥‥ どうだった?」
 ポカポカするからって早くも寝るな、月華‥‥
「なんか生活感がないって感じだね。それがさ‥‥」
 嗜好品や娯楽、そういったものに梅の興味が全くないことを羽雪嶺は聞き込んでいた。食べ物なども当然‥‥
「‥‥で、どういうことなの?」
「だから、普通の人とは別の好みを持ってるってことだよ。本当に太一さんの生気を食っているのかもしれないってこと」
「でも、それだけじゃ決め手にならない気がするけど♪」
「ま、そうなんだけどね」
 羽雪嶺は戸の隙間から表を窺った。

 場所は変わって依頼人の家があった場所の近くでは‥‥

「いっそ魅了されのたなら、その方が良い気がしまする‥‥ 只の心のすれ違い、紅葉にはその方が悲しく思いまするゆえ」
 太一の実家の周辺で聞き込みを火乃瀬はポツリと洩らした。
 孝行者だった太一が母親のことに気をかけなくなってきたのが梅を娶った頃。
 母親との仲が悪くなり始めたのが同じく梅を娶った頃。
 それまで太一には恋人らしい恋人はいなかったため、周囲の者たちもいぶかしんでいたという。
 昨日まで孝行息子だったのに、連れてきたその日に太一が結婚したのだと聞き、単にべた惚れして母親を蔑(ないがし)ろにし始めたという訳ではないように思われたからだ。

 荒神たちは、引っ越す前に太一が通っていた酒場を重点に聞き込みをしていた。
「荒神ねーさま、太一さんて相当な朴念仁だったみたい。お酒も付き合い程度しか飲まなかったみたいだし♪」
「私が聞いたのとあまり変わらないわねぇ。
 働き者だし、親孝行だし‥‥
 嫁を貰った直後から急に元気がなくなって、ちょっと梅のことをからかわれただけでも火がついたように怒っていたって‥‥
 可愛いと言えば可愛いけど‥‥ やっぱり」
「おかしいですよね」
「さぁて、後は集まった情報を元にみんなで動くんだろうけど‥‥ どうなるだろうねぇ」
 くいっと杯を空けると荒神は考え込んだ。

「えぇい、面妖な! 曲者じゃあ!!」
「あたっ‥‥」
 武家屋敷から飛んできた矢が臀部に命中。
 危うくフライングブルームから落ちそうになりながらもアーウィン・ラグレス(ea0780)は高度を上げた。
「ひとっ飛びで楽勝かと思ったけど、結構ヤバかったんじゃね〜の?」
 まぁ、こういうこともあるだろう‥‥
 手に入れた情報も当たり障りのないものばかりのような気がする。
 太一が優れた職人であることや、橋の欄干に佇んでいた梅に声をかけたのが馴れ初めだとか‥‥
 兎も角、一度仲間たちと合流しよう。
 アーウィンは、仲間たちの許へとフライングブルームを飛ばした。

「息子さんの体が弱ってる原因は不明かぁ‥‥」
 簡単に聞き込みをしていた林瑛も、とりあえず仲間たちと合流することにした。

●修羅場
「いい女だ。太一が放っておかないのもわかるな」
「あら、あなたもいい男ね」
 予想に反して、梅は謙にしな垂れかかってきた。
「あなたも私に尽くしてくれるのでしょ?」
 気だるさを感じながら、謙は梅の胸に顔を埋めた‥‥
(「嫉妬深い『人』であってほしかったでござるよ‥‥」)
 その様子を密かに覗きこむ影は、そう思った。
 その時‥‥
 スパンッ!!
 長屋の戸が勢いよく開いた。
 そこにいるのは半ば着物の乱れた男と女‥‥
「わたくしというものがありながら‥‥ どういうことですの?」
 真莉の言葉は尻上がりに語気が固く、うっすらと涙を浮かべている。
「あぁ、真莉‥‥ お前のことは好きだよ。でも、梅のことも好きなんだ」
 どこかトロンとした眼差しで、謙は笑っている。
「只今、梅‥‥ あれ? どなたですか?」
 そこへ、太一が帰ってきた。
「梅‥‥ どうして他の男なんかに?」
「そんなことはいいから、早くいらっしゃい、太一」
「そうだね。僕は梅が愛してくれるだけで十分だよ。嫌いになったりしないでね」
 太一はフラフラと梅の許に歩いて行く。
「馬鹿ね。嫌いになんかなるわけがないじゃない」
 梅の首に手を回して、太一は良かったと呟いた。
「真莉さん、謙さんは何もしてないでござるよ。何かの術にかけられているでござる」
 梅を挟んで縁側に甲斐が姿を現した。
「あら‥‥ 見られていたの? 迂闊だったわ」
 ビシッと指差す甲斐へ振り向いて、梅は邪悪な雰囲気を漂わせた笑みを浮かべた。
「気をつけるでござる。この女、魅了して‥‥くる‥‥で‥‥」
 なんだか許せなかった梅が好きになっていくような感じがした。
「さくや!」
 月華が叫ぶのを聞いて、甲斐は我に返った。
「く‥‥ こんなことで私の月華への思いを超えることは無理でござるよ!!」
 甲斐は忍者刀を抜いた。
「おかしいと思って来てみれば、どうなってるのよ」
 月華を追ってきたアイーダは、様子がおかしいことを察して弓の包みを解いた。
 間合いを詰めると太一と謙に峰討ちをくらわせ、甲斐は容赦なく梅に斬りかかった。
 気絶した太一と謙がドサリと崩れ落ちるが、梅には傷1つついていない。
 甲斐は慌ててさがった。
「さくやさん! 闘気を付与します。それで傷は与えられますから!
 真莉さん! 太一さんと謙さんにアイスコフィンを!! 魅了された相手は仲間でも襲ってくるよ」
 魔物ハンターとしての戦いが、羽雪嶺にこういう敵との対処法を教えていた。
 煮え湯を飲まされた恨みは着実に彼の経験となって活かされている。
「わかりました」
 真莉は涙を拭いた。そこへ荒神が入ってきて、すかさず印を組んで詠唱に入った。
「月華は下がっているでござるよ」
「うん‥‥」
 羽雪嶺が集中し始めたのを見て、忍者刀を彼の前に差し出すと残る手で月華を押しやった。
「集まってきたけど、それで私に勝てるのかしら?」
 梅はニヤリと笑うと、その体は黒い光に包まれた。
「また?」
 アイーダの急所を狙った矢が梅の体の表面で弾かれる。
「紅葉ちゃんも手伝って♪」
 聞き込み中に騒ぎを聞いて駆けつけた火乃瀬は、月華の言葉で状況を理解した。
 アイーダが射た矢は梅に突き刺さった。
「やるじゃない」
 梅は、腕を伸ばしてアイーダを爪で切り裂いた。
「何なの‥‥」
 荒神がウインドスラッシュを放つが、梅にはカスリ傷しか付かない。
「許さないでござる!」
 闘気を纏った甲斐の忍者刀が辛うじて梅に届くが、間髪入れずに振るわれた切っ先は続けて空を斬る。
「これでどうでございますか」
「うぅうう‥‥ 耳障りな‥‥」
 火乃瀬のかき鳴らす鳴弦の弓の音に梅の顔が歪む。
 次の瞬間、周囲が暗闇に包まれた。

「何だ?」
 町の一画になぜか暗闇の球のようなものが‥‥ フライングブルームで太一宅の異変を見かけたアーウィンが高度を落とす。
 消え行く暗闇の中から飛び出してきた鳥にぶつかって、諸共に落ちた。
「やるわね! そいつが梅よ。倒して!!」
 荒神が叫ぶ。
「何が!! くそぅ、痛ってぇ」
 アーウィンは越中国則重を構える。
「そうそう逃がすわけないでしょ」
 飛び立とうとしたところにアイーダの矢が突き刺さる。
 羽ばたきを乱したところを越中国則重が捉えた。
 そこへ火乃瀬のマグナブロー。
「天乃さん、鳴弦の弓を!」
「わかった」
 何事かと飛び込んできたばかりで戸惑う天乃は、火乃瀬が何を言いたいのか理解して鳴弦の弓の弦をかき鳴らした。
「体勢を立て直す間もないなんて‥‥」
 人の姿に変じ、梅は呻いた。
「運が悪かったね!」
 アーウィンの一撃に梅がよろめく。
「何で勝手に始めてるのよ!!」
 林瑛が走りこみ様に飛び蹴りから体の軸を捻って槌の一撃。
 傷を負わせられなかったが、僅かに体勢が崩れたところへ羽雪嶺の龍叱爪が梅の体を切り裂く!!
「なぜ私がこんな目に‥‥」
 梅が動きを止めるのに、それほどの時間はかからなかった。

●解決?
 月華たちは太一に手紙を渡し、一切の事情を説明した。そうでなければ謙の件など言い訳できないことが沢山あったからである。
「そうですか‥‥ 梅は‥‥」
 太一の表情は暗く重い。
「色々あると思うけど、頭で読まないで、心で読んで欲しいよ‥‥ そのお手紙」
 天乃の言葉がグサリと太一の胸に突き刺さった。
「どうか母御のためにも生きてほしいでござるよ」
「紅葉にも、そのことが一番の親孝行に思えまする」
「はい‥‥」
 甲斐や火乃瀬が慰めの言葉をかけるが、梅が魔物であったという事実は太一の胸に大きく圧し掛かっていた。
 そして、母が自分を心配しながら死んでいったことが‥‥
「こんなことになって不躾で厚かましいですが、これからの幸せを考えてくださいね」
 林瑛の慰めくらいでは太一の心の傷が癒えるわけもなかった‥‥

 びゅおぉお‥‥
 容赦なく無言でアイスブリザードを放つ真莉に、謙はくしゃみした。
「色んな女性を知ってこそ、男があがるものだ。それを教えようとしただけだろう?」
「太一さん‥‥ 夫婦が長持ちする秘訣は、厳しくなく、甘やかさないことなのですよ」
 太一が困ったように笑みを浮かべた。
「雪女さん‥‥じゃないよね?」
「人‥‥だと思うけど。自信ないなぁ」
 自信なく答える甲斐に月華たちは苦笑いを浮かべるしかないのであった。