●リプレイ本文
●ど自慢の始まり、始まり〜
「でっかいニャンコだぁ♪」
まるごと猫かぶりを被ったクロウ・ブラッキーノ(ea0176)に少年が飛びついた。
「おやおや、積極的な息子さんだね」
「すみません。猫好きだという息子の我が儘を聞いて頂いて」
母親が頭を下げた。
「お任せ下さいお母サン。この私自ら息子サンにスんバラシイ世界を教えて差し上げますョ。ウフ」
微笑んだ細身で色白な薄幸の美少年と母親は、クロウの真意を知らない。
「ニャンコさんも冒険者なの?」
クロウニャンコに包まれた少年は無邪気だ。
クロウは古褌屋の若葉屋で開いたおーくしょん(闇)の話をした。
褌に覗き穴を開けて頭から被った者たちによる壮絶な欲望の果ての出来事を‥‥
「普段は肩身が狭いアッチ系の方々もそれはそれは輝いていましたョ‥‥」
少年を品定めをするようにニヤッと笑うクロウに依頼人親子は気がついていない。
何かと戦う話はないかと聞かれ、李飛(ea4331)が手を上げた。
「俺はまだ修行中の身。未だ功成らぬ身で、他者に自慢する事など有ろう筈もない。
しかし、少しでもお前の力となるならば、意義の有る事だ。一つ過去の武勇談を語ってみよう」
李飛は戸を開け、話し始めた。
「俺は江戸の祭りの余興として行う闘牛に参加してみないかと誘われた。
まだ駆け出しだった俺は迷った。負ければ己の武名に傷が付く。
だが、己の力を試したいと言う思いに勝てず、参加する事にしたんだ」
庭へ降りた李飛は十二形意拳・寅の構えをしてみせ、牛の役の知り合いを呼んだ。
突進してくる牛役を受け止め、交差しながら拳を一撃。打ち込む振りをする。
「鼻息を荒げた牛は、再びその角を振りたてて襲い来る!!」
間一髪な感じで角に見立てた木の枝を避けると、すれ違い様に蹴りを放ってみせた。
「この蹴りに、俺は僅かに牛が怯むのを見たんだ!」
左右の連打で次第に牛役を追い詰めていく。
止めを狙うように拳を振り上げたところへ牛役が猛然と突っ込む。
すかさず腰を落とし、李飛は牛役を受け止める。
思わず少年が、あっと声を上げた。
圧されながら踏ん張ると牛役の突進を止めた。
拳を突き出し、角に見立てていた枝を砕く。
「俺は牛の勇戦に敬意を表す為、今の『爆虎掌』‥‥ 我が拳の奥義を以って牛に止めを刺したのだ」
「すご〜い。冒険者って、そんなことができるんですね」
少年の上気した顔に李飛は満足げだ。
「我が輩はな‥‥」
ルミリア・ザナックス(ea5298)が見世物小屋の芸人カワウソ・ごるびーとの真剣だが珍妙な騒動や五輪祭という河童たちの団体競技に参加して一度優秀な成績を収めたことなど話すと、少年は声を上げて笑った。
「青龍衆の頭領河童の穏行術などは冒険者にもかなう者はおるまいなぁ」
息子の笑顔に母親も嬉しそうだ。
「武闘会を知っているかな?」
強い者への憧れか、詳しくは知らないものの少年の関心は強いようだ。
「我は3度ほど参加した事がある。
そのうち最初の武神祭においては1回戦敗退し、負ける事の悔しさと辛さ、そして実戦に際して最も手酷い傷を経験したものだ。
だが、この大敗があったからこそ、後に優勝まで登りつめる事ができたと思っている。
傷を受ける事に対する痛みへの覚悟、そして力及ばぬ事を恐れず常に前へ歩を踏み出す勇気を身につける事ができた。
実際、あと一歩気後れしていたら武神祭の王者・マグナ殿や那須の英雄・夜十字殿などに果たして勝利できていたかどうか、今でも自信は無い」
ルミリアは、その時の様子を身振り手振りを加えて話した。
「負ける事も後の大きな力となる事もある。無駄でない経験など無いのだ。
例えば、おぬしならば‥‥病気が辛いのはよく知っておろう。
だから他者よりも病の事を知り、病に苦しむ者の心も理解し易いであろう?」
「僕もいろんな人を助けてあげたい」
「いい心構えだ。頑張れ、少年」
ルミリアは少年の肩に手を置くと優しく微笑んだ。
「あたしも武闘大会無差別級で優勝したことあるのよ」
すごいすごいを連発する少年に昏倒勇花(ea9275)たちから笑いが漏れた。
「あの時は、1回戦では武器を装備し損なって攻撃を受けれなかったし‥‥
2回戦は短刀のみで戦ったり、3回戦は盾が矢襖になったり、色々大変だったわ。
でも、あたしよりまだまだ強い方はいるし、ルミリアさんみたいに華のある戦いはできないから、精進したい所ね」
「あら、勇花さんほどじゃ」
ジャイアントの2人が謙遜しあう様子は、内容からいっても少なくとも乙女の会話ではない。逞しい巨躯同士の遣り取りに、周囲から声を殺した笑いが起きた。
「そうね。もう1つ話をしてあげようかしら」
昏倒は、人間災厄とも呼ばれる黒衣のジャイアントのウィザードの話を始めた。
そう‥‥ いかにして山鬼に襲われた村が、山鬼ごと壊滅していくかという様をまざまざと‥‥
「ジルマさんが山鬼を素手でばったばったと倒して凄かったわね。
あたしも負けずに、素手で戦ったけれど、やり過ぎるジルマさんを止めるのには苦労したわ‥‥
問題は、村への被害が大きかった事かしら‥‥」
遠い目で溜め息をつく昏倒の姿は恋する乙女のそれのように思えた‥‥
「そうだ。百鬼夜行の話は知っておろうか?」
「おっきな狐が庭の上を飛んで行って、冒険者の人たちが追っかけてったのを見たよ」
「そうなんです。怖かったですわ」
「そうか。あの時は山鬼の群れと戦って金棒を叩き壊したりしたものだが、2人とも無事で何より」
ルミリアの言葉でその時を思い出したのか依頼人親子たちが見詰め合ったのを見て、ルーラス・エルミナス(ea0282)が話し始めた。
「俺は、ジャパンより遠く離れたイギリスの騎士のルーラス・エルミナスと言います。騎士とはジャパンの侍のようなものです」
「異国の話?」
「はい。イギリスに居た頃に人々に仇為す怪樹を鎮める依頼を受け、人々と怪樹の間を取り持った際に『調和の騎士』と言われるようになったのですが‥‥」
ルーラスが説明を始めたが、どうもうまく伝わらないようだ。
「怪樹と言っても想像つかないかな? それなら、百鬼夜行の鬼に関わる話をするね」
少年は少し残念そうだ。
「あれは、ある人の手助けに赴いた時。那須では作物の収穫を行っていたんだ。
生きていくには食べなければいけないでしょう? その大事な食料の収穫を邪魔していた鬼たちを打破する為、俺達冒険者は鬼たちが小さなの集団に分かれていることを利用し、先手を打ったんです。
鬼たちの寝床へ鬼たちが気付く前に一つ一つ攻撃を仕掛け、首級を上げて行ったのさ」
静かに低い声で話すルーラスに少年はゴクリと唾を飲んだ。
「ギルドの精鋭には、俺より頭一つ高い山鬼のような剣士や凄腕の剣客などが居て、俺も負けられないと思ったのが印象深いな。
残念な事に、見上げるほどの背丈の鬼たちの首領は仲間の戦士が討ち取ったけど、俺も豚の頭をした鬼を1人ずつ、全身の力を乗せた突撃で貫いていき、鬼たちから大切な食料を取り返したのさ」
「やっぱりすごいなぁ」
少年は溜め息をつくと羨望の眼差しでルーラスを見つめた。
「一生懸命食べて、体を鍛えれば、きっと俺達と同じ様になれるさ。俺が保証するよ」
何の保証もないが、ルーラスの気持ちは少年に随分伝わったようである。
さて‥‥
『桜伐る馬鹿、梅伐らぬ馬鹿』という言葉を勘違いして梅を伐りまくっていたおバカの話をし始めたが、どうにも少年に受けが悪い‥‥
それならばと潤美夏(ea8214)は、遠くノルマンからやってきたという冒険者から酒場で聞いた傑女の話をすることにした。
「遠く異国の地にクレリック、日本で言うと僧侶のことですわね。そのクレリックでありながら、素手であらゆる敵をしばき倒すシスター、これは尼さんと言えば良いのかしら、そういう方がいるらしいのですわ。
海を割り、山を砕き、1000人の兵にも匹敵するという神の力を身に纏った聖なる闘士‥‥だったかしら?」
最後の方、‥‥から後は消え入りそうな声だったが、すかさず話を続けた。
「豚顔の海の王者との大決戦が、痛快だったらしいですわよ。
敵の艦隊を回し蹴りで薙ぎ払い、豚顔の化け物をたこ殴りにしたあげく、後ろに回りこんで頭から地面に叩きつけて神の御許に強制連行‥‥」
潤美夏の話す彼女の英雄譚は出鱈目だと冒険者たちはわかっていたが、依頼人親子たちの楽しそうな様子を見る限り、口を出す気にはなれなかった。
「ま、世界はとても広いということですわ。あなたも元気になってそんな世界の一端に触れることができると良いですわね」
潤美夏が話し終わると、依頼人親子たちは散々笑って肩で息をしていた。
「少し休憩しませんこと? お茶でも入れてきますわ」
奉公人を使って構わないと言われ、潤美夏は台所へと向かった。
●ど自慢、続き〜
多少の笑い疲れが取れた頃、再び話を再会することにした。
「冒険者にも色々いるがな‥‥ 俺は力無き者たちに代わり、刃となって戦っている。
強力な魔物の退治を専門に請け負う『魔物ハンター』という集団があってな‥‥ しかも、たった6人でだ!
いつも! それはそれは恐ろしい魔物と戦っているのだぞ!!」
少年は話し始めた天津蒼穹(ea6749)に興味津々の笑顔を見せた。
「魔物はんたぁ?」
少年が首を傾げた。
「簡単に言うと妖怪の類を狩る者たちだな」
ふ〜んと少年が頷いた。
「数多の戦いの中‥‥ 俺の背丈の倍はある人食い大鬼とも戦ったこともあった‥‥
その時は、俺の一縷の隙も無い作戦と的確な指揮で仲間に1人の犠牲者も出すことなく、見事その鬼を倒し、村を守ったのだ!」
仲間にすまないと思いつつ、派手に尾ひれを付けて話し始めた。
「お前さんは『病は気から』という言葉を知っているか?」
「意味はわかるよ。話を聞いて、元気が出た気がするもん」
「そうか‥‥
どんな病気も気持ちで負けなければ必ず治る。
そして、『心を鍛えるにはまず体から』。毎日、少しずつでいいから体を動かすんだ。
そうすればお主もいつかきっと、冒険者になれるさ!!」
笑う天津に向き合うようにキチンと座りなおすと、少年はウンと頷いた。
「それじゃあぁ、私は自分たち4人姉妹の事にするってカンジィ。
冒険者は、モンスターを倒すことだけでじゃなくってぇ、時には謎を解決したり、探し物をしたりする必要があるのよねぇ」
大宗院亞莉子(ea8484)は気だるそうに話を始めた。
「前のことだけど、鳴がギルドに行ったときに泣いている女の子がいたのよねぇ?」
「‥‥ はい」
そういえば義姉の話に合わせるんだったと大宗院鳴(ea1569)は頷いた。
「大好きな猫がいなくなっしまってギルドに来らしいんだけどぉ。
お金がなくって依頼にできないって言われたらしいのよねぇ。
頼られてもぉ困るってカンジィって思ったんだけど、鳴が猫探しを引き受けちゃったからさぁ。
私は聞き込みしてぇ、透は忍びの力を使ってぇ、鳴は猫じゃらしを持ってねぇ、沙羅は走り回って探したのぉ」
「義姉さんがいたので心強かったですわ」
「でもぉ、なかなか見つからなかったのよねぇ」
「それなら、お家にもどっているかもしれませんわって、その子の家に戻ったら、しばらくして女の子の猫をつれて帰ってきたんですよ。
折角なので、皆で猫をお祝いしてあげました」
「灯台下暗しってカンジィだけどぉ、冒険者は縁の下の力持ちって仕事もしてるんだよぉ」
「そうですわね。人々の平和を手伝うのが冒険者の仕事ですわ。わかりましたか?」
「うん、小さなことでも志を持たないといけないんだね?」
「そうですわ」
鳴が優しく少年の頭を撫でるのを見て、亞莉子は態度とは裏腹に心中では可愛らしく思った。
「私の吟遊詩人らしく1つ物語を‥‥」
シュテファーニ・ベルンシュタイン(ea2605)は、シフールの大きさに合わせて作られた竪琴をかき鳴らすと歌い始めた。
「あるところに少年が1人♪ 広い世界に憧れる‥‥
旅に出ようと心に決め♪ 広い世界を憧れる‥‥」
吟遊詩人の歌など、ジャパンでは江戸などでもなければそうそう聞けるものではない。
少年は物珍しげに羽根の生えた小さき乙女の歌声に耳を傾けた。
常人よりも体の弱い少年が、親に内緒でこっそり体を鍛えたことを単純な旋律に乗せて歌い上げた。
「親が反対するから‥‥ 黙って出て行こう♪
書置きだけを残し、青年になった少年は旅に出る♪
それを見送るのは、夜空の星々と‥‥ 親心♪」
歌に乗せられた少年のそれからは、いろいろな人と出会いがありました。
冒険に失敗して落ち込む人。
行く道を見失い思い悩む人。
人を騙してまで肉親の行方探す人。
死の間際まで分かれた娘を探す人。
そして‥‥ 沢山の悪人たちとそれに対し立ち向かう冒険者。
「人々との出会いに青年は‥‥ 決意する♪
冒険者になるんだと♪
旅立ちの星空は‥‥ 昨日の夜のあの空のよう♪」
月日は流れ、青年は有名なって仲間が沢山できたことを歌い上げていきます。
少年は、
「青年は‥‥ 故郷の両親にこれまでを♪
伝えようと‥‥ 里帰り♪」
しかし、両親はこの世になく‥‥ あったのはただ1通の手紙のみ♪
息子の名声が聞こえるたびに嬉しく‥‥ これからも楽しみだと♪
青年は誓ったのです‥‥ もっと有名になろうと♪
天国の両親まで名声が届くくらいに有名になろうと♪」
青年が仲間と大冒険をなし遂げ大功をあげ、国で知らぬ者がいないほどの冒険者になったと歌い、琴を爪弾くのを止めた。
「普通にいけばお母様の方が先に死んでしまうのですよね‥‥
大丈夫。僕は黙って出て行ったりはしません。体を鍛えて堂々と大人になりますから」
少年の熱い決意は皆に伝わった。
●冒険者怖い
「フッ‥‥ 報酬は息子さんの療養費に当ててクダサイ」
「それでは申し訳ありませんわ」
渋く決めるクロウに、母親は感謝していた‥‥のだが‥‥
「代わりに息子サンの褌を若葉屋の為にも譲っていただければ‥‥ ウフッ」
続く台詞を聞いて、母親は危険な臭いを感じ取った。
「結構」
「当然ですわね。タダより高いものはないですわ」
潤美夏はクロウニャンコの首の後ろを掴んでズルズル引き摺ると、依頼人親子に困ったような笑みを浮かべた。