名残桜の鬼退治

■ショートシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:1〜3lv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月13日〜04月20日

リプレイ公開日:2005年04月20日

●オープニング

 事件の起こりは、ある村での鬼騒動‥‥
「なぁ、これじゃ年に1度の花祭りもできないぞ」
 村人は桜の大木の下にある祠(ほこら)を見つめて溜め息をついた。
 斜面に山棚のようになっている場所に立つ立派な桜‥‥
 自慢でもある、この桜の下で行う花祭りは村人の数少ない楽しみの1つであった。それが今年に限って遅れていた。
 原因はアレ‥‥
 祠の供え物を食い漁っている4頭の鬼たち‥‥
 桜の近くの洞窟に棲みついた鬼たちが、現れては荒らしていくのである。
 このままでは桜は散ってしまうし、何より鬼たちに棲み付かれてしまっては安心して暮らすことができない。
「やっぱり冒険者ギルドに頼むしかないかな?」
「皆に相談して、そうするとしよう‥‥」
 かくして村人は冒険者ギルドへ鬼退治の依頼を出したのである。

 さて‥‥
 ここは江戸の冒険者ギルドと呼ばれる場所。
 依頼人から受け付けた仕事を冒険者たちに斡旋する施設であり、彼ら冒険者たちを束ねる組織の拠点でもあった。
 猫探しから大妖怪の退治まで様々な依頼が舞い込む場所である。
 名残桜の舞う頃‥‥ 新たな冒険に旅立つ冒険者がいた。そう、君のことだ。
 逸(はや)る気持ちを抑えつつ、君は当たりを見渡す。
 斬馬刀を背負った屈強なジャイアント、日本刀を差した武士風の男‥‥
 他にも異国から来た者たちだろうか‥‥ 見慣れない髪の色をした者や見慣れない武器や防具を着けた者たちも歩いている。
 あの耳が長いのが噂に聞いたエルフだろうか‥‥
 胸を躍らせながら歩いていると、壁に張られた依頼の1つが気になって足を止めた。
 これなら自分にもできるかもしれないかなと思っていると、すかさず男が寄ってきた。
「よぉ、新入り。依頼を探してるのか?」
 この男、ギルドの親仁(おやじ)とでも言おうか‥‥
 依頼人から仕事を受け付けたり、斡旋した依頼を冒険者に説明したりするギルドの構成員の1人で、冒険者として登録した時に受付をしてくれた男だ。
「まぁ、難しい依頼ではないが、依頼の内容を聞いてからやるかどうか決めればいい」
 気が付けば、君の周りにも何人か冒険者らしき者たちが集まっている。
「目的の村は江戸から歩いて2日のところにある。
 そこで茶鬼と小鬼を倒してほしい。
 数は茶鬼が1頭、小鬼が3頭確認されている。
 駈け出しの冒険者である君たちでも十分に倒せる相手だ。
 ただし、油断は禁物だぞ。油断した冒険者が茶鬼の一撃をくらって重傷を受けたなんて、たまに聞くからな。
 雑魚だなんて高(たか)をくくらないことだ。
 それから‥‥
 これが一番大事だぞ。
 くれぐれも依頼人である村人が損をするような解決は慎むように気をつけてくれよ。
 冒険者ギルドの信用にも関わるからな。
 よろしく頼むぞ」
 ギルドの親仁は集まった冒険者たちの肩を叩いた。

●今回の参加者

 ea1236 桃華院 獅子丸(35歳・♂・僧兵・ジャイアント・ジャパン)
 eb1216 山田 太郎(35歳・♂・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb1247 月華 双子(27歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb1601 彩 露蝶(29歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)

●リプレイ本文

●江戸ギルド
 初めて依頼を受けるということで、ギルドの親仁(おやじ)が出発前に冒険者たちを集めていた。
 普段、ここまで親切にすることはないのだが、今回は特別ということだろう。
 というのも‥‥ 
「僕もお花見が好きなので鬼たちは許せませんね! 皆と協力してやっつけます!」
「4人か‥‥  茶鬼相手にこの人数じゃ大変かもしれないけど頑張ってくれよ。死んじまっちゃあ元も子もないからな」
 意気込む山田太郎(eb1216)にギルドの親仁は笑顔を投げ掛けた。
「今回ご一緒させていただく山田太郎です。たろーって呼んでください」
「私は彩露蝶。よろしくね。るぅって呼んで」
「俺は桃華院獅子丸。露蝶は妹みたいなもんだな。俺にとっては大切な子だ」
 桃華院獅子丸(ea1236)は彩露蝶(eb1601)の肩を叩いた。
「私は月華双子。よろしくお願いします」
 月華双子(eb1247)は会釈した。
「そうだ。保存食はちゃんと持ったか?」
「当然。村につくまでは色々自分もちなんだろうから食料とかは多めにしたけど、忘れた人がいたらどぞ」
 彩露蝶(eb1601)が保存食を出して見せた。
「自前の食料は自分で用意するってのが基本だな‥‥って1日分足りないぞ。
 行きと帰りの分、つまり依頼で示された期間の分は持って行った方がいい。
 早めに解決して帰ってきたらその分は残ってしまうけど足りないよりはいいだろう?」
「足りなかったら野山で何かとれるものもあると思うけど?」
「ん〜‥‥ 確かにお前さんたちの先輩冒険者にも仕事の片手間にそういうことをやってる奴はいるにはいるがな‥‥
 必要な分を持って行って、うまくいけば保存食を使わずに済むって感じの方が確かだろうな。
 いざ、足りないじゃ話にならない。入手できるかわからないものに頼るのは、どうかと俺は思うぞ。
 ま、皆とりあえず保存食を出してみろ」
 山田は20食分の保存食をドサッと台の上に出した。
「こっちは多いのか」
 ギルドの親仁が笑った。
「でも、持ち運びに苦労しないなら多いに越したことはない。今回使い切れなくても次の依頼で使えるしな」
「小さい頃から気がついたら人の後始末をしてることが多いんですよ。それで‥‥習慣ってやつですかね」
「成る程な。それで他の2人は?」
 どうやら持ってきていないようだ。
「腹が減っては戦はできぬって言うからな。越後屋に寄って足りない分を買ってから出発してくれよ」
「ありがとう。親仁さん」
「じゃあ、行ってくるね」
 4人はギルドを後にした。

●誘き出し
 村に着いた冒険者たちは問題の祠を確認したうえで作戦を立て始めた。
「もしかしたら、鬼たちが中にいるうちに、住処の洞くつの前でいぶりだしちゃったりした方が確実なのかしら? 
 いぶされて出てくると、目とか痛いし苦しいから動きも鈍いだろうしね」
「いや〜‥‥ 動物を狩るのにオラたちも猟で使うことがないわけじゃないけど、やるほうも結構キツイだよ。
 追い出された動物も暴れまくるしな」
 彩露蝶の作戦に村の猟師が異を唱えた。確かに一方的に有利とは言えないだろう。
「それなら逃がさないように囲めるような場所はないかな? 食べ物で誘き寄せて、そこで戦うの」
「おぅ、それなら‥‥」
 桜を傷つけないように離れた場所に誘き出して倒す。これが冒険者たちの立てた作戦だ。
 村人たちの協力も得て少人数でも戦えるような場所を教えてもらっている。そこまでうまく誘き出せれば‥‥
 相手任せなのがちょっと心配どころだが、桜の木を守りながら戦う余裕がない以上、最善と言ってもいいだろう。
 誘き出す場所は崖を背にした小じんまりした広場。
 そこに誘き寄せて囲めば、4対4である。そうそう逃がすことはないだろうと思われた。

 さて‥‥
「うが?  うがが♪」
 茶鬼と小鬼たちは、目につきそうな範囲でばら撒いたお供え物を見つけては拾って食べている。
 拾い食いはいけませんって教えてくれる鬼はいなかったのだろう‥‥ 
「上手くいったな」
「そうだね。皆に知らせよっか」
 戦場に設定した場所は目と鼻の先。ここまで来れば、後は待ち伏せるだけ。
 隠れる時間も必要だろうと、獅子丸と彩露蝶は鬼たちに気づかれないようにその場を離れた。

●待ち伏せ
 茶鬼と小鬼たちは相変わらずお供え物を拾い集めては美味しそうに食べている。
 その先に何が待っているのか知らずに‥‥
「ホブ? うがが」
 茶鬼と小鬼が音のする方を向いた。
「どうしますか?」
 山田は太鼓を叩きながらニコッと笑った。
 4対1‥‥ 比較的好戦的な茶鬼たちが、いたぶるのに絶好な状況を見逃すわけがない。
 茶鬼と小鬼は突進し始めた。
 そこに待ち受けていたのは落ち葉などで隠された窪み。
 彩露蝶が提案した落とし穴こそ作る暇はなかったが、転ばせるくらいの穴ならば大した労力も時間も必要ない。
 本当は落とし穴が掘れれば良かったのだろうが、実際には思い浮かべるよりも大変だ。
 草や木の根があれば取り除くのが大変だし、岩があればそこまでである。
 確実に追い込みたいのなら下手な小細工は感づかれる元だと村の猟師に釘を刺されて止めたのだが‥‥
 ともあれ上手くいき、小鬼2体が転んだ。
「先手は取らせてもらうよ」
 彩露蝶は茂みから飛び出した。
 掴んでおいた砂を投げつけると目の前の茶鬼は痛そうに目を押さえた。
 遠慮なくオーラパワーを付与しておいた金属拳を叩き込む。
「俺もいかせてもらう」
 獅子丸は走りこんだ。敵をビカムワースの射程に入れるためにも接近しなくてはならない。
 どうせならと六尺棒を叩き付けた。痛さで目を閉じたまま咄嗟に掲げた盾では茶鬼にも到底防ぎようもなかった。
 ドズッッと嫌な音を立てて茶鬼にめり込んだ。続けてもう1撃!
「ぶほっ‥‥ がががぁああ」
 茶鬼が血を吐きながら、涙をためつつ必死に目を開こうとしている。
「よし!」
 ブブンと六尺棒を構えなおすと数珠を片手に経を唱え始めた。
「さあ、私がお相手しましょう。そろそろお遊びはやめていただきます!」
 奇襲を受けて早くも逃げ出そうとしていた1頭の小鬼の前に月華が日本刀を構えて立ち塞がる。
 先に動いたのは小鬼だ。投げやりに突っ込んでくる。
(「何とかかわせるか‥‥」)
 体を捌いて斧をかわした。続く1撃もかわす‥‥
 目の前には無防備な小鬼‥‥
 月華は迷わずに刃を振り下ろした。ザクリと袈裟懸け、小鬼は血にまみれ血煙が吹いた。
 続けて、鍛錬で培った刀捌きが小鬼を討ち下ろす。
 ガクリと膝をつきそうになるところを踏鞴を踏み、ふらついた。
 血を流しながらヨタヨタと逃げようとしている。
「げ‥‥」
 ビカムワースの成就に失敗して獅子丸が眉を寄せた。
 幸い纏わりついている小鬼の斧程度ではカスリ傷だが、そのせいか上手く集中できなかったようだ。
 再度ビカムワースの詠唱に入る。
「これ以上、邪魔させません!」
 山田が小鬼の足を思い切り蹴りで払った。
「ギャッ‥‥」
 倒れた小鬼に彩露蝶が拳を叩き込む。
 小鬼が立ち上がろうとしたところにもう1発。
「ウギャギャギャギャ!!」
 斧を振り回しながらその場を逃れようとした小鬼の一撃が彩露蝶に当たった。
「大丈夫ですか?」
 月華が目の前の小鬼に止めを刺して駈け出した。
「よくも露蝶に」
 獅子丸のビカムワースが小鬼の体力を奪い、ガクッと力が抜ける。それを見た小鬼が逃げ始めた。
「山田さん、そちらの小鬼が逃げます」
「そーしさん、任せて! 最終決戦秘技! 山田大打撃!!」
 逃げる小鬼の背後から容赦なく助走の勢いを乗せた山田の頭突きが決まる。
 体を海老反りに『く』の字にした小鬼は、勢いよく転がると岩にぶつかって止まった。
「よしっ!」
 山田はグッと拳を握り締めた。
「ヤァッ!!」
 月華は踏み込むと横薙ぎに小鬼の胴を斬った。よろめく小鬼に追い討ち。
「太郎さん、そっちは頼みます」
「任せて」
 息を切らせたまま岩に手を掛けて立ち上がろうともがいている小鬼に止めを刺した。
 彩露蝶の拳が突き刺さるように小鬼を倒すと動かなくなった。
「ウガァ‥‥ ホブ‥‥」
 茶鬼が涙を拭いながら立ち上がる。
「ガァアア!!」
 思い切り振りかぶると山田目掛けて斧を大きく振り下ろした。
 ガィイイン!
 地面の石が火花を散らす!!
 獅子丸の六尺棒が、彩露蝶と山田の拳が茶鬼の顔を胴を抉っていく。
「終わったようですね‥‥」
 月華は刀についた血を払い、拭うと鞘に戻した。

●花見
「へ〜、るーさんってもうすぐ誕生日なんですか?」
 依頼が事の外(ほか)上手くいった山田たちは、村人に招待された花見で身の上話などしていた。
「そうなのかね? 節目なら祝わなければな。な〜皆の衆?」
「おぅ、折角のハレの日だ。祝いが重なるのはいいことだからな」
 穢れを払い云々などという細かいことなど気にしてはいないようだ。
 淡々と年中行事をこなすのはジャパン人の特徴でもあった。儀式の目的は大した理由ではない場合が多いのである。
 こういう祭りの場合、形式さえ守れば‥‥ 要するに楽しければいいのである。
「さ、さ。今日は祭り。ハレの日じゃ。村を護ってくれた冒険者の方々には、たんと楽しんでもらわないとな」
 応という掛け声で村人たちが一斉に酒を注ぎに来た。
「飲酒はまだできませんので‥‥ 私はお茶で」
 月華が困ったように杯を断っている。
「いや‥‥ その‥‥」
 困ってはいたが悪い気はしない。
 それを見て彩露蝶は楽しそうに笑った。
 桜の花の間から覗く空は綺麗だ。
「これが私たちの居場所かな?」
「そうかもしれないな」
 獅子丸は彩露蝶の髪を撫でると酒を飲み干した。
「誘ったてくれたのは嬉しいけど‥‥ あ、僕は飲みませんよ、飲んだら大変な事になるから‥‥」
「俺の酒が飲めないのか?」
 ちょっと飲みすぎな村人が山田に無理やり湯飲みを持たせている。
「いや! ちょ、まって! ほんと! それは! マズイって!!」
 必死に抵抗するが、殴り飛ばすわけにもいかずあちこちから伸びてくる手に遂に捕まってしまった。
「おぶおぶ‥‥」
 村人たちが無理やり山田に酒を飲ませている。
 きら〜ん☆
 山田の瞳が赤く染まり、髪の毛が逆立つ。
「綺麗な桜ですよね〜。華国に帰る時、もってかえっちゃおうかなぁ〜」
「駄目ですよ♪」
 これが俗に言うハーフエルフの狂化状態なのだが、ジャパン人にしてみればよく知らない精霊魔法と大差ないわけで‥‥
「それなら相撲でもやるか?」
「いいですな。村にも力自慢はおりますぞ」
 酒が抜けるまで山田の相撲に付き合わされて、村人たちはヘトヘトとになるまで相撲を楽しんだのであった。

 彼ら4人の最初の冒険譚は、これでお終い。
 これから彼らにはどんな出来事が待っているのだろうか‥‥