シフール特急便 〜 猫平太 〜

■ショートシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 72 C

参加人数:10人

サポート参加人数:1人

冒険期間:05月01日〜05月08日

リプレイ公開日:2005年05月09日

●オープニング

 とある山村でのこと‥‥
「困ったねぇ」
 村人の表情は冴えない。
 表で男たちが騒いでいるのを家の裏で震えながら声を潜めている。
 柄の悪そうな男たちが、食べ物を漁っては口に運んだり背中に担いだりしている。
「それじゃあ、お布施を貰っていくぜ!!」
「御仏のご加護があるといいよなぁ!!」
 空になった鍋を蹴飛ばして男たちは去っていった。

 村人たちが集まって話をしている。
「なぁ、何とかしないと! このままじゃ、飢え死にしちまう」
「長、お役人様は来てくれんのか?」
「それがな‥‥ 人死にが出たわけでも悪鬼妖怪が棲みついた訳でもあるまいと‥‥」
「つまりは来てくれんのだな?」
 村長は無言で頷いた。
「それより問題なのがな‥‥ 我らの村の寺との問題なのだから自分たちで解決せよと」
「どういうことだ?」
「オラたちの村の寺に和尚様がいねぇことはお役人様も知ってなさろうに」
 村人たちが長に詰め寄った。
「それよ‥‥ 多分これでも貰ったのだろう‥‥」
 村長は袖の中に手を入れた。
「そんじゃ、お役人様は助けてくれねぇのか?」
「恐らくな‥‥」
 村人たちはコソコソ話し始めた。
「他のお役人様に申し出てみてはどうじゃ?」
「難しいし、命がけじゃな。村のために何とかしたいが、ワシも命は惜しい。しかし、このまま居座られてもなぁ‥‥」
 村長は眉を顰めて、すまなそうに頭を下げた。
「冒険者を雇って追っ払ってもらったらどうです?」
 声がした方には猫を抱いた女が座っていた。村人たちの視線が彼女に集まる。
「しかし、冒険者を雇ったら、えらい金がかかると聞いたぞ」
 村人の1人が心配そうに尋ねた。
「心配はいりません。兄たちに助けてもらいますから」
 猫を抱いた老夫婦はニッコリと微笑んだ。

 ※  ※  ※

「おや? またかい?」
 ギルドの親仁が笑った。
「ううん。今日は依頼じゃないの。
 お手紙を届けないといけないんだけど、その辺りに山賊が出るって噂を聞いたんだよね。そんな話を聞いてないかと思って」
 そう言うと、シフール飛脚便江戸支局に勤めるシフール・月華とギルドの親仁は、茶を飲みながら話を始めた。
「あ〜、そこか‥‥ 頻繁にって訳じゃないけど近くに山賊が出ることがあるんで、できれば近づかない方がいいって知り合いの商人が言ってたな」
「そっか‥‥ 飛び越えられればいいんだけど‥‥」
 シフールは空を飛ぶ事ができる。しかし、危険な場所があるからといって安直に飛び越えればいいという話ではない。
 手紙などの装備を抱えて機動力の落ちたシフールがヨタヨタ飛んでいれば、肉食の獰猛な鳥などの餌食になりかねない。
 戦う技術を持たない飛脚便の月華にとって狙われたら最後、逃げられる可能性の少ない空は人間たちが思うほど安全ではなかった。
「あの‥‥ 依頼をしたいのですが‥‥」
 男が1人立っている。
「すまんな、月華。ちょっと待っててくれるか?」
「構わないよ♪」
 ギルドの親仁は、男と話を始めた。
 どうやら訳アリの奴らを追っ払うか、ふん縛ってほしいということらしい。
 そして月華とギルドの親仁は、その村の名前を聞いて驚いた。
「ボク、その村の猫屋敷の平太に手紙を届けないといけないんだ。なんだったら組ませてもらえない?」
 月華の手紙の配達先は、まさに男の言っていたその村。渡りに船と思わず口を挟んでしまった。
「その猫屋敷に住んでいる方は私の主人でございます。平太様を知っておられるとは、貴女様はどのような方で?」
 月華と男の遣り取りにギルドの親仁が苦笑いしてる。
 とりあえず互いに情報交換。斯く斯く然々‥‥
「奇遇だよね♪」
「確かに‥‥」
「兎も角‥‥ 彼女は村へ行くのに護衛が欲しい。あなたは村から追っ払ってほしい奴らがいる。
 依頼の内容からいって大変さを考えれば費用の大半はあなた持ちだが、彼女に彼女自身の護衛分を出してもらえば、あなたの負担が減る。お互いに利があると思いますが、どうします?」
「わかりました」
「それじゃ、決まりだ」
 ギルドの親仁は受け付け票を書き始めた。

 ※  ※  ※

「お頭、そろそろ実入りが少なくなってきやしたね」
「和尚と呼ばんか」
 いかにも悪人顔の僧がごろつき風の男の頭を扇子で軽く叩いた。
「あの猫屋敷には手をつけてなかったな?」
「へぇ、猫どもが五月蝿くつきまとうので後回しにしたんでさぁ。
 下手に騒ぎを起こすなってお頭‥‥ いや、和尚に言われてましたしね」
「働きもせずに、あれだけの猫たちと楽隠居か‥‥ 貯め込んでそうだな」
「やりますか?」
 嬉々とする男の額を扇子で押さえると僧はククと笑った。

●今回の参加者

 ea0028 巽 弥生(26歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea0541 風守 嵐(38歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea1856 美芳野 ひなた(26歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea2473 刀根 要(43歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2478 羽 雪嶺(29歳・♂・侍・人間・華仙教大国)
 ea2482 甲斐 さくや(30歳・♂・忍者・パラ・ジャパン)
 ea2989 天乃 雷慎(27歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea3055 アーク・ウイング(22歳・♂・ウィザード・人間・ロシア王国)
 ea3744 七瀬 水穂(30歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea6177 ゲレイ・メージ(31歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)

●サポート参加者

黒畑 丈治(eb0160

●リプレイ本文

●猫、猫、猫〜〜〜!!
 さて‥‥
「シフール特急便の仕事って、やっぱり大変なの?」
「あはは、大変にしてるのはボクのせいだって怒られてばっかりだけどねぇ」
 アーク・ウイング(ea3055)たちと歓談しながら月華たちは村へ帰る依頼人を伴って、件の猫屋敷へ向かっていると‥‥
「そなたが月華か‥‥ 弟と妹が、度々世話になっているようだな」
「お、弟? 妹?」
「フッ‥‥ まぁ、いい。あいつらを色々と、こき使ってやってくれ。
 でなければ、ワザワザ里を連れて出しての修行にもならん。
 まだまだ、面倒をかけると思うが、あいつらの事よろしく頼むぞ」
 男はそういうと驚く月華の前から姿を消した。
「ねぇ、さくや。あなたの配下?」
「いや、月華の忍は私だけでござるよ」
 甲斐さくや(ea2482)が首を振る。身のこなしからして、かなりの実力の忍‥‥
「ところで平太にまた何かあったでござるか? 家が危ないとか?」
「違うよ♪ 鼠獲りのお仕事。ほら、あの猫屋敷に住んでもいいかわりに条件があったでしょ?」
「そういうことでござるか。心配したでござる。それでは物見に出てくるでござる。
 私がいない間は、刀根さんの後にいたらいいでござるよ。見た目通り頑丈でござるからな♪」
「確かに承った」
 刀根要(ea2473)は、頷くと胸を叩いた。
 岩嶽丸、牛頭鬼、九尾‥‥ 多くの強敵と対決して、少し自信がぐらついていた気がする‥‥
 自分の腕を自分が信じなくてどうする‥‥
 そう、心を新たにして、刀根は胸を叩いていた。
「修行あるのみ‥‥ いや、何でもありません」
 不思議そうな顔をする月華に、刀根は照れ笑いした。
「それにしても御久しぶりですね、月華さん。共同の依頼とは面白いことを考えるのですね」
「いやぁ、それほどでも♪」
 照れるな‥‥ 褒めてないって‥‥
「でも〜、平太さんに猫たち‥‥ 聞いただけでも、はにゃ〜んって感じです」
「そうなのですよ。それはもう‥‥天国です〜♪」
「もう春真っ只中なんだし、あそこも子猫とかが生まれているんじゃないかな〜♪」
「「「や〜〜ん」」」
 美芳野ひなた(ea1856)と七瀬水穂(ea3744)と天乃雷慎(ea2989)は、着く前からすっかり蕩けていた。
「猫屋敷の猫さんたちは一時期薬屋さんで預かって一緒にご飯を食べた家族ですから、危ないときにはすぐに駆けつけるですよ。
 それに美少年と猫さんを苛める奴は悪人と決定なのです。私が今決めました」
「そうだね。猫を苛める奴は悪人♪」
「決定です〜」
 3人が手に手を取り合って互いの意思を確認しあっている。
 そしてそこに何故か4人目の手が‥‥ 見るとゲレイ・メージ(ea6177)がウンウンと頷いていた。

●平太
「すまないにゃあ。土産まで貰って」
 猫の形で会話するのはなかなか難しいと人の形に変化した平太は、甲斐の持ってきた煙草を早速吹かしている。
 恰幅のいいおっさん体型になった平太に可愛くな〜いと女性陣から不満の声が飛んだが、まぁ平太にも事情はあるのである。
 すねこすりや猫たちが、わんさと住み着いている屋敷なので彼女たちの欲求を満たすものは十分にいる。
「みんな病気や怪我はしてなくて安心したですよ♪」
 七瀬は猫たちに埋もれながら肉球をぷにぷにさせてご満悦である。
「はぁ‥‥ ネコかわいい‥‥」
 巽弥生(ea0028)たちにとって、とりあえずはそれで十分だったようだ。
 楽しそうに子猫たちと戯れている。
 猫たちに遊ばれている月華を見て、天乃が助け出しながら笑っている。
「しゃべる猫か。猫又かな? 私は猫妖怪に縁があるらしいな」
 膝に数匹抱いて餌をやりながら思索にふけるゲレイの脳裏には以前に出会った2本足で歩く巨大な猫が浮かんでいた。
 あれとは違うような気もするが‥‥ そう感じて、情報が少なすぎると肩をすくめた。
 幸い、ここには暫くいられる。猫又と呼ばれる妖怪なのか、果たして他の妖怪なのか‥‥
 何より、こんなに間近で研究できるのはゲレイの知的好奇心を大いに刺激していた。

「確かに受けた‥‥けど、心配だにゃ。変な奴らが住み着いてるから安心して家を空けられにゃい」
 手紙を開いて覗く平太だったが、顎に手を当て大きく煙を吐いた。
「お、着いてたんだな」
 飛脚の足を活かして韋駄天の草履で先行していた羽雪嶺(ea2478)が、ひょこり現れた。
 短縮した行程で調べ物をしていたのである。
「あ、雪嶺さん。廃寺の方はどうだった?」
「あぁ、ばっちり顔は覚えたよ。襲撃に来たら僕が相手してあげるからね」
 ごめんなさ〜いなどと、あたふた逃げた風を装ったのは襲撃の現場を一網打尽にするため。
 その楽しみを思って、顔には思わず笑みが浮かんでいる。
「おっと、それでね‥‥」
 実際に確認したことや村長からの聞いた情報を羽雪嶺は仲間たちに伝えた。

「それにしてもありがとう。こんなに美味しいご飯まで作ってもらってしまって」
「いいの、いいの。ひなた、御料理得意だもん」
 一行の前には、ひなた特製のご飯が並んでいる。女主人や奉公人、平太や猫たちの分まで作ってあった。
 料理はなかなかの腕前で、味付けもかなりのものである。いい嫁になることまちげぇありませんってな感じで‥‥
「今回は、村を荒らす悪人さんを懲らしめるのが目的ですね。
 でもでも、お役人さんは見て見ぬふり‥‥ だったら、現行犯で捕まえるしかないです!」
 力説する美芳野に平太は然(さ)もありなんと頷いた。
「裏づけが欲しいですね」
「確かに‥‥」
「それじゃ、もう少し情報を集めよ♪」
 天乃たちは甲斐たちを残して更なる情報を集めに出かけていった。

●癒着
「では、頼みましたぞ」
「私としては問題にならずに済めばそれでいい」
「お互いに‥‥」
 役人の言葉に和尚がクククと邪悪な笑みを浮かべた。
 布に包まれたお金を開いて、役人が嬉しそうに笑うと和尚も安心したように席を立った。
「私は、これで‥‥」
 和尚はお金を数えている役人を尻目に部屋を出て行った。
「儲かったわ。ハハ‥‥」
 役人が和尚に出した酒の残りを部屋で部屋で啜っていると‥‥
「!!」
 役人は何が起きたかもわからず気を失ってしまった。

 ふと気がつくと。目の前には顔を隠した黒ずくめの忍者が立っていた。
 刀に手を伸ばそうとする役人の目の前を手裏剣が掠める。
「む‥‥ もしや、御館様の‥‥」
 こういう種類の人間は利にあざとく、被害妄想に逞しい。
 目の前の役人も、その種類の人間に違わずいらぬ勘違いをしているようである。ならば、勘違いさせておくに限る‥‥
 忍者は、無言で男を見つめた。
「どうすれば‥‥」
 真っ青な顔をしている役人の目の前には金が散らばっている。弁解の余地もない‥‥
「あの和尚たちをお前が裁くがいい。幸い、村人が冒険者を雇って捕縛する手はずになっているらしいからな」
「わ、わかりました! そのように!!」
 この手の人間の立場や命に対する嗅覚は抜群である。一瞬にして顔色に赤みが差してきた。
「同様な事を起せば命は無いと思え」
「ははっ!」
 平伏する役人が顔を上げると、そこには既に忍者の姿はなかった‥‥

●襲来
「来るよ」
 屋敷の警戒をしていたアークが、廃寺に張り込んでいた仲間たちと一緒に駆け込んできた。
 まだ、ブレスセンサーで彼らの呼吸は捉えている。確認できている賊が全員で攻めてきた計算になる。
 やがて賊たちの影が猫屋敷へと差し掛かった‥‥ところで、ベシベシと何人かの賊が倒れた。
「なんだこりゃ」
 足元の草が結んである。どうやらこれに引っかかったらしい。
「月華のお得意先を困らせるでないでござる」
 庭のどこからか声がした。
「誰だぁ、姿を現しやがれ!!」
「まてぃ!!」
 そのまま庭だけではなく屋敷へも踏み込もうとする賊に頭上から違う声が響く。
「猫に囲まれ暮らす生活‥‥ 人、それを『至福』と言う! それを壊す者を私は許さない!!
 あまつさえ人の弱みに付け込み、僧たる者が私服を肥やすなど私は許さん!!」
 襷(たすき)掛け巫女が刀を突きつけた。
「誰だっつってるだろうが!」
「貴様らに名乗る名前は無い!」
 ビシッと決めっ! 会話が成立していないが、その辺は仕方ない。
 ま、兎も角、決まったのは確かだ。まさに吟遊詩人の歌に歌われるべきとでも言ったところか。
「弥生ちゃん、かっこい〜い♪」
 目の前の諸悪への怒りに月華の声は巽へは届かなかったようである。
「構わねぇ。やっちまぇ」
 賊ってのは何でこんなに紋切り型なのか‥‥ 賊たちは一斉に得物を抜いた。
「がはっ‥‥」
 賊の1人がもんどりうって倒れた。
「通さないよ。この屋敷には指一本触れさせない」
 縁の下から飛び出し様に羽雪嶺が爆虎掌を叩き込んだのである。驚いた賊たちの足が止まっている。
 ズガガガ!!
 雷鳴が轟き、同時に横殴りの稲妻が賊たちを襲った。
「ふ〜ん、大人しく改心すれば少しは手加減してあげるよ」
 アーク‥‥ そんな気は毛頭ないのに‥‥
「フッフッフッ‥‥ 魔法が使える‥‥」
 間髪いれずにゲレイのアイスブリザードが炸裂する。こっちも容赦がない‥‥
「猫さんをいじめる人は、このひなたが許さないですにゃ!  ごぉ、ちゃっぴいなのにゃ☆」
「こちらもいくでござるよ」
 そこへ止めとばかりに屋根の上から大蝦蟇が2匹現れて、落ちた。
「猫の恐ろしさを味わうにゃ!」
 しかも、そこへ丸ごと猫かぶりを被った天乃が乱入したから、さぁ大変。
 天乃の見えない位置から手裏剣が突き刺さり、賊が怯む。
 痛みの声に背後から攻撃されつつあったことに気がついて、振り向き様に攻撃した。
「な、なんだぁ! こいつらは!!」
 賊たちは一気に混乱状態に叩き込まれた。
 ビョコタン跳ねる蝦蟇にあたふたと逃げ惑うばかり。
 しかも、太刀とオーラシールドを構えて立ちふさがる刀根の気迫に負けて、うまく逃げ出せずにいる。
 その間にもスタンアタックで次々と賊たちは気を失っていく。

 さて‥‥
 屋根の上が一番安全だろうと猫たちは一塊になっていた。
「じっとしていて下さいです〜」
 なぁなぁ騒ぐ猫たちを七瀬は必死に抱えている。
「和尚が逃げるでござる!」
 気絶させた賊をふん縛っていた甲斐が叫ぶ。
 手足を伸ばした和尚は、器用に塀を越えようとしている。
「間に合わないよ‥‥」
 ライトニングサンダーボルトなら届く‥‥ しかし、詠唱している間に逃げられてしまいそうだった。アークは悔しそうに駆け出した。
 マズい‥‥
 冒険者たちがそう思った瞬間、にゃにゃにゃという声と共に屋根から飛び降りた猫たちが和尚に纏わりついていた。
「ええぃ、鬱陶しい!」
 和尚が振り払うと猫たちがバラバラとその体から落ちる。あちこち引っ掻かれた傷が生々しい。
「許さないですよ♪」
 七瀬は魔法を唱えようとして思い止まった。猫たちが焼けちゃうからである。
「平太さん!」
 追いついた羽雪嶺が爆虎掌を討ちこむと和尚の体が一瞬浮き上がるようにして背中から落ちた。
「助かったにゃ」
「どういたしまして」
 1人と1匹の視線には何か熱い絆が感じられた。
「平太〜、猫ちゃんたちも頑張れ♪」
 月華の声に振り向いて目を細めると、和尚の顔を平太が爪で縦掻き横掻きした。
「うぎゃぁああ」
 和尚のその悲鳴と共に賊の士気は崩壊した。
「命は奪わないけど、恐怖を克服して再起をはかるのに10年くらいかかるほどの地獄を見せてあげるよ」
 アークは賊たちの至近にライトニングサンダーボルトを容赦なく撃ち込んだ。
「悪党に人権なーし!」
 ゲレイも‥‥ いや、こちらはいつものことか‥‥
 容赦なくアイスブリザードを撃ち込んでいる。
 可哀想に‥‥

●裁き
 さてさて、和尚たちは縛られて曳きたてられてくるが、その顔には余裕の笑みが浮かんでいる‥‥
「親分、大丈夫なんでしょうね‥‥」
「心配するな。こんな時のために掴ませてるんだ」
 確かに袖の下は掴ませた。だが‥‥
「へへっ」
 役人の前に座らされた和尚たちがこそばゆいとでも言うように笑い声がこぼれた。
「既に村人らより知らせもあり、お前たちの罪状は明白‥‥」
「どういうことだい!! 約束を反故にするのか?」
「何のことだ! 約束などした覚えはないが」
 役人は、しらばっくれている。
「こいつ、確かに‥‥」
「黙れ!」
「しかし、親分!!」
「和尚、だ。今、喚いてもどうにもならねぇ。村人や冒険者たちの手前、ああ言ってるだけなんだろうよ」
 途中から小声で和尚は配下たちを言いくるめている。
 確かにここで騒いでも和尚たちにとって一文の得にもならないが‥‥
 彼らは、まだ裏事情を知らない。
「厳しい沙汰を覚悟せよ」
 役人の裁可に腕組みをした巽たちが小さく頷いている。
「良かったぁ」
 垣根の隙間から覗き込んでいた村人たちが歓声を上げて喜んでいる。
「さてと、貴方達にはきちんと処罰を受けてもらいますよ。異論があれば私ともう一度勝負をしますか? 今度は手加減しませんよ」
「言ってろ」
 刀根の言葉にも堪えていない様子の和尚だったが、待ち受ける運命に気づいていないのだから仕方がなかった‥‥

●江戸へ
「また会えるかなぁ」
「会えるといいですねぇ」
 七瀬とひなたはすっかり仲良しになっていた。
「いい所でした」
 天乃も幸せ一杯の顔で嬉しそうに歩いている。
「努力は認めるが、羽目ははずし過ぎるな。今回の働きは5点減点といったところだ」
 突然現れた黒尽くめの男に天乃が驚く。
「いつもこんな感じだけど、ちゃんと依頼はこなしてるから安心してっ♪」
 笑って誤魔化してはいるが、天乃の額には汗がたらり‥‥
「えっと‥‥」
「あ、兄貴です‥‥」
 戸惑う月華たちに天乃は風守嵐(ea0541)を紹介した。
「雷慎ちゃんのお兄さんだったんだ」
「陰ながら手伝わせてもらった」
「あ〜〜! もしかして役人のところに行った冒険者って兄貴のことだったの?」
「今頃気づいたのか。更に減点だぞ」
 しまったと苦笑いを浮かべる天乃の頭を風守が撫でている。
「ん、なんだ? 月華。その他人事でなさそうな視線は」
「あはは‥‥ 何でもな〜い♪」
 何となく上司の顔を思い浮かべて、月華は逃げるように飛び去ると、さくやの頭の上に降り立った。
「どうしたのでござるか?」
「ううん。何でもない」
「それならいいのでござるが‥‥」
 江戸は、もうすぐ‥‥

 尚、あの和尚たちは悪事が暴かれて相応の罪に問われたと伝え聞く‥‥
 また、あの役人も禄を召し上げられ、浪人になったというが‥‥
 風の噂である‥‥