●リプレイ本文
●松と梅
「落ち着いて話してごらんよ。そんなに興奮してたんじゃ。探せるものも探せないじゃないじゃんか。
とりあえず落ち着けな、旦那よぉ。まずは茶ぁでも一杯飲んでみたらどうだ?」
鷹波穂狼(ea4141)は、長屋の松を訪ねていた。
ギルドの親仁の話では、急に娘さんがいなくなったので探してほしいという話なのだが‥‥
「梅が‥‥ どこの馬の‥‥ 何で‥‥ 私を‥‥捨て‥‥ えっ‥‥」
泣きながら話をするので、どうにも必要な情報が手に入らない‥‥
(「楽して聞き込みしようと思ってたのに、面倒くさい‥‥」)
下手に聞きまわるよりも楽だと長屋に残った天藤月乃(ea5011)も溜め息をついた。
ポンポンとお松の背中を叩きながら話しかけて鷹波が慰めているが、あんまり効果はないようである。
「松っあん、邪魔するぜ」
八がビックリしたような顔で大変だぁという雰囲気を醸し出している。これが天然だからね。まぁ、なんだ‥‥
「大変なことになってるみたいだな。力になれることがあれば何でも言ってくれ」
「えぐっ‥‥」
顔馴染みの平治と八でも、この調子だ‥‥
「あんたらが冒険者かい?」
「そうだけど‥‥」
「もしかして、あなたが平治親分?」
何者だ? と言わんばかりの鷹波に比べて、天藤は平治を知っているらしい。
「この辺は、あなたの縄張りでしょ? 名前も売れてきてる岡っ引きだものね。もしかして‥‥と思ったのよ」
「察しの通り、あっしは平治。こっちは八兵衛。ま、呼び方は好きにしておくんなせぇ」
頭を下げる平治と八。
「松さんがこの調子でね。とりあえず、梅を探しに仲間が聞き込みに出かけてるんだけど、どんな娘さんかわからないで探してるのよ」
「そうそう。それで平治親分は、お梅ちゃんについて知ってることはないかい?」
鷹波は2人分の茶を注いでさりげなく出す。
「年の頃は15。目はクリッとしててポッチャリ顔。背丈は5尺くらい。右眉の上に黒子(ほくろ)が2つ並んでる‥‥と、こんなもんかね」
「男なのかい?」
「馬鹿いうねぇ。女さぁ」
「そういうことじゃないんだよ。早とちりしやがって」
平治が八の額をペシと叩く。
「そう、あんたらの思ってる通り、男がらみだね。ベタ惚れの若旦那がいるのさ」
「ぞいづが〜‥‥」
話がややこしくなると、八が松の話を聞いてやりながら気を逸らしている。
‥‥で、つまりはこういうことらしい。
ここから、ちょっと行ったところにある店(たな)の若旦那と神田明神の縁日で知り合ったお梅が付き合い始めたが、双方の親が猛反対。松はと言うと、その男が世間知らずの凡々なのが気に入らない。男の親はと言うと、縁談を用意しているのに女がいるなんてとんでもない。
と‥‥ こんな、どこかで聞いたような話が本当に起きているわけだ。
「さすが平治親分だね。調べる前からこんなにわかってるんだもの」
天藤はこっそりと八に耳打ちした。
「当然じゃねぇか」
「噂に名高い銭投げの平治の仕事ぶりを勉強したいのよ。あたしもついて行っていいかしら?」
「あたぼうよ」
上機嫌の八は二つ返事で天藤に答えた。
「親分、この姉さんがあっしらの探索について勉強してぇと言ってるんですが、いいですかね?」
「構わないですが、勉強になるかはわかりませんぜ」
「構わないわ」
笑顔で即答する平治に天藤も即答した。
「それじゃ、俺は引き続いて松さんの相手をしておくよ」
天藤は平治たちと出掛け、鷹波は長屋に残ることになった。
●長屋
「梅ちゃん、探してるんだけど知らないか?」
「この前、見かけたよ。松さんちの娘だろ?」
長屋で聞き込みをする男が1人。久留間兵庫(ea8257)は途方にくれていた。
取り乱してる松の相手をして少しでも早く落ち着いてもらった方が早かったかもしれない‥‥
聞き込みを始めて、そう思い始めていた。
『梅という娘がいなくなった』
それっきりしか手がかりがないのでは探しようもないのである。
しかも、肝心の松‥‥
彼は取り乱していて、ギルドの親仁もよくあそこまで情報を引き出せたものだと久留間は感心せずにはいられなかった。
「お、天藤‥‥ その2人は?」
松が落ち着いていたら梅のことをよく聞き出そうと長屋に戻ってきた久留間は、松の長屋でバッタリと仲間に出会った。
「噂の平治親分。詳しくは八さんに聞いて」
面倒くさそうに天藤は後のことを全部八に任せた。
「成る程‥‥ 事情はよくわかった。それで岡引の親分さんにも協力してほしいんだが‥‥いいかい?」
事情を飲み込んだ久留間は探るように聞いた。
「当然、構いませんぜ。というか、何をそんなに気にしてるんで?」
平治は目ざとく久留間の語感に何か隠されていることを見破っていた。
「できれば土地に明るい地元の岡引に協力を仰ぎたいが、冒険者と与力、同心の仲は決して良いとは言えないからな。
身の軽い岡引とはいえ、力になってもらうのは少し気が引けるんだよ
駄目元で頼んでみたんだが、こうも簡単に見破るってのは流石だな」
「よしてくだせい。褒めたって何にも出やしませんぜ。
それよりも、もう一度手がかりを整理しやせんか?
見落としがあっちゃいけねぇや。それに、松さんの鳴き声も止んだみたいですし‥‥」
流石は平治‥‥ 噂に聞くだけはある。久留間は目端の利くこの男に感心していた。
戦いの技量は見ていないからわからないが、冒険者として立身すればかなりの手練になるであろうことは、久留間にも容易に想像することができた。
●神田明神
「猫のことだたアルね」
神田明神で聞き込みをしていた羽鈴(ea8531)と結城友矩(ea2046)は、いろんなところで入手した情報から梅が猫だという結論に辿り着いていた。
「お参りに来る人たちは、みんな梅を娘のように可愛がっているという話だしね」
「ソウソウ。ここ何日か姿をみかけない。みんなそうイてたよ」
情報をくれたお礼に肩揉みをしている羽鈴は、お爺さんの気持ち良さそうな顔に満足していた。
「娘さんのかどわかしでなくて、ホント良かったヨ」
「フワフワして柔らかくて撫でると気持ちのいい三毛でなぁ。あの娘がいないと、わしゃ寂しいよ。ところで飯はまだかいのぅ」
「お爺さん、昨日もおとといも食べたよ。忘れちゃダメね」
10回、20回は同じやり取りをしたはずだが、羽鈴が笑顔を崩すことはない。
「おぅ、そうじゃった、そうじゃった。すっかり忘れとった」
か‥‥ か‥‥ と笑う好々爺に羽鈴は笑顔を返した。
「鈴風にも来るといいヨ。気持ちいいネ」
「そうさせてもらおうかの」
果たして憶えていられるかは置いといて‥‥
羽鈴と結城は猫を追い詰めるべく作戦を実行した。
「ギルドの親仁さんもダメね。ちゃんと依頼人の話は聞かないと」
「雌猫がいなくなったって話だからな」
三毛の毛並みが美しいスラッとした体躯の若い猫で、ニャフッと時々くしゃみをするのが特徴らしい。
お気に入りの場所は神田明神の社の廊下の一画。日向ぼっこをする梅を撫でて帰るのが、参拝客のお楽しみのようだ。
「いた‥‥」
「若くて三毛の美猫。スラリとした姿で尻尾が長いと」
聞いていた情報と一致する。偶然にも2人は境内に入ってきた猫を発見していた。
ニャフッとくしゃみをすると、陽でよ〜く温まった石の上に気持ち良さそうに丸くなった。
間違いない。
「私はこっちから行くネ」
「それでは拙者は風上から」
2手に分かれた羽鈴と結城は三毛猫に近づいていった。
「なぁ?」
只ならぬ雰囲気を感じたのか、三毛猫が気持ち良さそうに閉じていた目をうっすら開いた。
「ほら、いい子ネ。大人しくするアルよ」
羽鈴の言葉に反するように三毛猫は立ち上がって少し姿勢を低くした。
回避の体術には自信のある羽鈴である。動きで猫に遅れをとる訳がない。
逃げ出そうとして1歩踏み出そうとする猫の先を読んで威圧する。
その優しい笑顔とは裏腹に彼女の身のこなしに隙はない。
「暴れないでほしいでござるよ」
三毛猫はトロンとしたような表情になってクタッと横になった。
梅を目当てに来ていた参拝客にまたたびを貰っていたのが役に立ったようだ。
三毛猫は気持ち良さそうにウットリとして転がっている。
結城が抱き上げても三毛猫は暴れず、その腕の中でジッとしている。
「これで依頼達成ネ。簡単すぎたけど、たまにはこんなこともアルね」
かくして羽鈴と結城は松の長屋に戻ることにした。
●ひょっこり
羽鈴と結城が長屋に帰ってくると、松の長屋の前で仲間たちが男2人と話していた。
「梅を連れて帰ったヨ。これで依頼は達成ね」
羽鈴の言葉に仲間たちは不思議そうな顔をしている。
「あはは‥‥ いや、すまねぇ。その猫は隣長屋の竹蔵さんとこの梅だよ」
笑いながら解説する平治を見て、仲間たちが『あ〜〜』と納得する。
羽鈴と結城はキョトンとして抱いていた猫を見つめた。
「何だ‥‥ 違ったのか」
「残念アルね。これで最初からネ」
「探索なんて、そんなもんでさ。諦めずにいきやしょうぜ」
がっかりする2人を八が慰めている。
‥‥と、そこへ‥‥
「いやぁ、こんなこともあるのだね〜」
けひゃひゃと笑い声が聞こえてきた。
ひょっこり現れたのはドクターことトマス・ウェスト(ea8714)である。
「お、お梅ちゃん! おとっあんが血相変えて探してるぜ。家出しちまったって」
ビックリしたように八が叫ぶ。
「聞き込みをしていたのだが、そこで声をかけたのが梅君だったのだよ」
「そうなんです。帰ってきてみれば、この騒ぎでしょ? ビックリしちゃった」
お梅は溜め息をついている。
トマスと捜査を手伝ってくれている連れの僧侶はしたり顔で頷いているが、平治たちにしてみれば、いまいち事情がつかめない。
「お梅、事情を話してくれないかい?」
「事情も何も!」
お梅は平治たちを掻き分けると家に入っていった。
「お父さん!」
「お梅〜〜、帰ってきてくれたのかい?」
舞い上がった松は、お梅の怒気を含んだ抑揚のない声に気づいていない。
マズいと直感した鷹波が、そろりそろりと松から離れた。
「何度言ったらわかるの? あの人だって形(なり)こそヒョロッとして、今でこそ頼りないかもしれないけど、家の仕事だってちゃんと頑張って覚えてるの!!」
ようやく怒っていることに気がついて、松はシュンとしてきちんと座りなおした。
「けひゃひゃひゃひゃ、怪我しても我が輩が治してやるから存分にやるのだね〜」
トマスが火に油を注いで笑っている。
‥‥と、ホントに火を注いでしまったのか、お梅は凄い剣幕でまくし立てている。
どうやら、向こうの親に許してもらうために挨拶に行っただけらしい。家に帰ってこなかったのは、嫁としてやっていけるのか働き振りを見るために泊り込みで何日か働いてみろと言われたから‥‥ということらしい。
「大体、言伝(ことづて)を送ったでしょ?」
「でもよぉ‥‥」
「でもじゃない!」
松に何も言わせない程にまくし立てている。
「あ〜あ、とうとうお梅ちゃんを怒らしちまったね」
その様子を覗き込んで溜め息をついている長屋のおばちゃんたちを見て、冒険者たちも苦笑いを浮かべるのだった。
暫くして、お梅の気がすんだのか、長屋が静かになった。
「依頼人は嘘をつく‥‥
冒険者風に言ったらこんなとこなんですかね。
それにしても、松さんが嘘をついてるとはねぇ。あっしもまだまだでさぁ」
平治は苦笑いを浮かべている。
「兎に角、これで依頼は達成だね〜」
「それじゃ、あっしは住職やら、ここの大家やら、行くとこがありますんで、これで失礼させてもらいやす」
「忙しいのだね〜」
「何言ってんですかい。お梅が嫁ぐんですから先手回しに動くんですよ。
八、何ボサッとしてるんだい。行くぞ」
「へぃ!!」
2人は駆け出すと、通りの向こうに消えた。
(「楽だったからいいか‥‥」)
平治から功績を横取りするのを楽しみにしていた天藤だったが、楽〜に依頼を達成するという目的は達成できたのである。
上々の結果だったと言えよう。
そう‥‥ 彼女はこの長屋に来てから、まだ10歩、20歩しか歩いていないのだった。
(「そういえば楽しみにしてた銭投げは見られなかったわね‥‥」)
それは次回のお楽しみということで‥‥
さてさて‥‥