銭投げ岡引 平治走る
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■ショートシナリオ
担当:シーダ
対応レベル:2〜6lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 69 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:05月31日〜06月05日
リプレイ公開日:2005年06月08日
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●オープニング
さてさて‥‥
事件の起こりは江戸。
神田明神の辺りといえばわかるだろうか?
またまた神田明神下の長屋は少々騒がしいようで‥‥
「親分、親分‥‥」
スパァン!
壊れそうなほどに勢い良く長屋の戸を開いたのは小柄な男。
「八ぃ‥‥ 大概にしろい。今度は何が大変なんだい」
瓶の水をゴクッと一息つくと八と呼ばれた小柄な男は、煙管を吹かしている男の傍ににじり寄っていった。
家は6畳2間に入口が2畳、そこに台所まであるという狭さだが、磨きこんだ長火鉢と立派な神棚が印象的だ。
「大変‥‥ いや、それは伝わってるんでしたね‥‥ えっと‥‥ 何だったっけ」
「しっかりしねぇか」
パンといい音をさせて親分と呼ばれた男が八の額を叩くと、目を白黒させて八は深呼吸した。
「三木屋さん」
「2つ通り向こうの、小間物屋の」
「へぇ、そこで殺しでさぁ」
「それを早く言わねぇかい」
親分は煙を大きく吐き出して煙管を鉢の縁でカンッと鳴らすと煙草の火が鉢の中に転がって灰の上でコロコロと転がった。
「それで様子は」
サッと立ち上がって出掛ける用意を始める。
「見回り同心の方々が騒ぎを聞きつけて踏み込んだらしいんですがね。
凶器を持って血まみれで見つかった三木屋の奥さんが下手人でしょ引かれたらしいんでさぁ」
「お竹さんが?」
「へぇ、只野様は合点がいかねぇ様子で‥‥」
「俺だってそうだぃ。まぁ、調べてみなきゃわかんねぇが‥‥」
「それで只野様からご伝言が」
「何でぃ」
スパンと音を立てて袷(あわせ)をシャキッとさせる。
「三輪の旦那がひどい風邪で寝込んでるんで、冒険者ギルドで探索の助っ人を雇っておいてほしいってんで」
「おぅ、そいつはいけねぇやな。見舞いに行かねぇと」
「そいつはぁ‥‥」
「これで良しっ!」
八が何か言おうとしたみたいだけど‥‥ まっ、いいか。
‥‥と、その前に説明しとかないといかないね。
この親分と呼ばれていた男、『明神下の親分』とかって名の通り始めた売り出し中の『銭高平治』という岡引。年は28。
岡引っていうのは奉行所の与力に雇われて、探索とか捕り物を助ける者のことさ。武士ではないよ。
そして、八と呼ばれてた小柄な男は『八兵衛』という平治の子分。年は26。
毎度毎度、慌しく走ってきて『親分、大変だぁ!』が口癖。真面目で頑強なのが取り柄なんだけど、お調子者なのが玉に瑕。
次に只野様というのは奉行所の与力で『只野新三郎(ただの・しんざぶろう)』という方。れっきとした武士だね。
平治たち神田明神の界隈を縄張りにする親分たちを纏める方だ。昼行灯とか呼ばれてるみたいだけど‥‥
最後に三輪の旦那‥‥ 『三輪章宏(みつわ・あきひろ)』という岡引だ。
平治親分とは好敵手らしいけど、今は風邪を引いて寝込んでるらしいね。
さて‥‥
鮮やかな薄緑の組紐で巻かれた柄と同じ色の房であしらわれた片刃の十手を神棚から取って腰に差すと、捕り物縄と穴に紐を通したカッパー銭の束を腰に吊るして平治は拍手(かしわで)を打った。八も倣って手を叩いている。
「行くぞ、八!!」
「へいっ、親分」
平治と八は、小走りに駆けはじめた。
●リプレイ本文
●昨日の夕方・噂・三木屋・裏手
「はは、そろそろ放してくれぬかな?」
風斬乱(ea7394)がご近所のおばさんをようやく振り切ってやってきた。
「そちらはどうでやした?」
「昨日の夕方、三木屋の夫婦が言い合っているのを聞いた者がいた。その頃には生きていたということだな」
「それはあっしの方でもつかんでやす」
「ってぇことは、殺されたのは夕方から明け方ってことになりやすね」
負けてなるかと口を挟む八の額を平治が軽く叩(はた)く。
「僕の方は、暗くなりはじめた頃に醤油を借りに行ったご近所さんが戸を叩いても三木屋が出て来なかったって」
「成る程‥‥ それじゃ殺されたのは夕方から後ってことですねぇ」
飛んでくるロニー・ステュアート(eb1533)を珍しそうに見つめながら平治は腕組みして頷いている。
「それにしても物騒な世の中になっちまったな」
「人が多くなってきましたからね。仕方ありやせんや。善人が増えるだけ悪人も増えるんでさ」
複雑な表情をする風斬に平治は困ったように笑った。
「本当に‥‥ この僕が刃傷事件の探索方を手伝うことになるとはね‥‥」
「何か言いやしたか?」
「いや、別に」
「ならいいんですが‥‥」
いつもなら下手人側に回りかねない彼岸ころり(ea5388)が、素知らぬ顔でその碧眼を平治の視線から外した。
「ボクは噂を聞いたよ。三木屋の主人は小間物屋稼業の裏で金貸しをしていたと。
そういう話が出たのが最近のことなんで本当かどうかわからないって注釈が付いていたけれどね」
「そいつはあっしも知りやせんでした」
平治が意外そうな顔で先を促す。
「武家の人が三木屋を訪れたこともあるみたいだね。
買い物をするでもなし、商談があるからと三木屋の主人がそそくさと出掛けてったのを見たことがあると。
問題なのは、この話をしていたのが1人しかいないことと裏付けが何もないことなんですが」
「それなら僕も似たような話を聞いたよ。三木屋のご主人、時々だけど賭場に顔出してたみたいだって」
「そいつはすぐに裏が取れやす。金がらみなんですかね‥‥」
話を続けるロニーに平治が相槌をうつ。
「そうだ。さっき裏に侍が立ってましたよ。僕と目が合って行っちゃいましたけど」
八が慌てて裏口に回るが、外を覗いて振り返ると首を振った。
「ところで下手人の得物は何だったんだ? まずは凶器の特定が先だよな。それによって犯人像が違ってくるだろうし‥‥」
「小太刀という話でさぁ」
おどけたように言うファルク・イールン(ea1112)の疑問に答えると、平治は話を続けた。
「只野様やあっしが引っかかってるのは普段のお竹を知ってるってこともあるんですが、凶器が小太刀だったと聞いて益々怪しくなってきやした」
「出処が問題だな。これが凶器って線だと、やっぱ下手人が小間物屋の奥さんとは考えにくいかんな。直接、話は聞けないのかい?」
「本格的に与力の方のお調べが始まってないでしょうから、まだ揚屋に押し込まれてるはずでさぁ。行ってみやしょう」
平治も直接言い分を聞いておきたかったらしい。ファルクの申し出に二つ返事を返した。
「ボクは、このまま聞き込みを続けみるよ。何か出てくるかもしれない」
「俺ももう少し聞き込んでみよう」
「それでは聞き込みをお願いしやす。あっしらはお竹に会ってきやすんで」
聞き込みを続けるという彼岸や風斬たちを残してファルクと平治は早速出掛けていった。
●小太刀・包丁・かんざし・血糊
三木屋の主人が近所の寺に運び込まれていると聞いた風斬と楼焔(eb1276)が訪れたとき、三木屋の主人は死に支度をしている最中であった。血まみれの着物は奉行所が持っていってしまうからと桶にそのまま入れられているが、遺体の傷は洗われ、血糊はきれいに拭き取られている。
「平治親分の手伝いをしている者だ。仏を見せてもらえないか?」
手を休めて席を空けた坊主と入れ替わるように風斬と楼焔は遺体を覗き込んだ。
「これは‥‥」
風斬は刀創を見て唸った。
これは大刀の創(きず)‥‥ 彼にはそうとしか思えなかった。
確かに非力な者による小太刀の創に見えなくはないだろう。
ましてや女が血まみれの小太刀を持っていたのだとすれば尚更だ。
しかし、いくつもの斬り創を見てきた風斬の経験は、そうは言ってはいない。
大刀の創、そして斬れ味のわりに傷が浅いのは斬り手が躊躇ったからだと風斬は直感した。
「よし‥‥ 何一つ分からない」
華国人である楼焔にとって日本刀の斬り口の違いなどわかるはずもなかった。
「乱の旦那、焔の旦那、来てたんですかい」
「俺にはよくわからんな」
「そうなんですかい? 困りやしたね」
部屋に入ってきた平治とファルクの姿を見て楼焔は首を竦めた。
「親分、凶器は小太刀という話だったよな?」
「へぇ、こいつが下手人の得物って話の小太刀でさ」
平治が差し出した小太刀を風斬は手にとって眺めた。
「やはりな‥‥ 残念だが、こいつは凶器じゃない。血糊がべっとり付いてはいるが、人を斬った物ではないな。
拭き取ってみればわかるだろうが血溜まりに落ちただけのように思う」
「流石ですね。只野様も同じように言っておりました。刃こぼれもしてない刀で人は斬れないと」
「その通りだ。それに仏の創を見てもわかる。これは大刀の創だな」
「そうですかぃ‥‥」
三木屋の主人の創を指差しながら色々と話をしている平治と風斬を見て、ジャパンの役人はこんな風に探索するんだとファルクは感心した。ファルクの祖国では日本刀ほどに手入れはしないから、こんな推理は成り立たない。血曇りがあったとしても水で流して油で拭いて終わりみたいなところがあるからだ。
「現場に落ちてたって血まみれの包丁は柄に握ったあとがなかったから凶器ではないし、かんざしは奥さんの物だって近所の人に確認してもらったしね。
こりゃ、本格的に奥さんが下手人じゃないって感じになってきたかな」
「それでは真の下手人を見つけなければな」
「怪しいのは三木屋の金貸しとか武家らしい男とか‥‥ その辺の裏付けを取れれば先へ進めるんじゃないかな」
ファルクの言葉に平治と風斬は大きく頷いた。
「それはそうと血糊は拭き取られてしまったんだね‥‥」
「着ておられた着物なら御役人の指示通りとってありますが」
遺体を見て残念そうに言うファルクに坊主が部屋の一角を指差した。
「血の固まり具合を見ると殺しの刻限が今朝ということではなさそうだな」
「確かに大分時間が経ってるみたいだけど、集まった情報から考えると昨日の夕方よりも早いってこともないだろうね。
事件が起きたのは夕方から夜中くらいってとこかな」
「醤油を借りに行ったっていう宵の口までということにならないか?」
ファルクの言葉に風斬が不思議そうに切り返す。
「それは裏付けが取れてないからってことでさぁ。実は、あっしもファルクさんと同意見でして」
平治は乾いた血を触りながら着物の斬り口を見ている。
「そう。宵の口までって可能性は高いけど、嘘をついていたり勘違いしてるってこともあるわけだね」
ファルクはニッコリと笑った。
●男、太刀筋、証文、3年前
お竹は無罪を主張している。
夫が武家と言い合いになって自分はそれを止めようとしただけだと‥‥
刀はその時に揉み合いになって手にしてしまったのだと‥‥
一通り聞き込みを終えて得られたのは、小間物屋をやっているだけでは賭場であれ程遊べるほどの稼ぎはないであろうこと‥‥
近頃になって三木屋の主人の周囲に武士の影がちらつき始めたこと‥‥
同じ証言を多数得たことで裏付けは取れたと思っていいと同心の只野殿は言っている。
ただし、これらを考慮したとしても真の下手人が見つからなければ、お竹が放免になるのは難しいだろうと‥‥
現場100回‥‥
そう言う平治に連れられて楼焔たちは三木屋を訪れていた。
「ここにこう倒れていたのだな?」
微かに血の臭いの漂う部屋で三木屋の主人が倒れていた場所に楼焔が現場を再現しようとしていた。
その姿を見て、不意に彼岸の表情が驚きのそれに変わる。
「何故逃げない?」
「どういうことで?」
眉をしかめる彼岸から楼焔へと視線を移すと、平治は考え込んでしまった。
「確かにな。戸口がこっちとそこで、倒れたのがここ。創から考えると下手人がいたのはこの辺り。なら何故逃げない?」
風斬が実際に立ってみたり、刀を振るふりをしたりして仲間に説明してみせる。
「言われてみれば確かにその通りで‥‥」
考え込む平治たちは、三木屋の主人が倒れていた辺りを丹念に調べ始めた。
「ふぅん? 臭うねぇ、コレ‥‥」
彼岸は商品が並べてあった陳列棚の底に手をかけてニヤッと笑った。
「あ‥‥ あの人だよ。戸口の向こう」
ロニーが前に見た武士の姿を見つけて、小声で平治に声をかける。
「皆さん、捕らえやしょう。今、一番怪しいのはあの男でさぁ。手抜かりなく」
平治が腰の銭束に手をかけた。
「ねぇ、そういえば、平治さんは、どうしてお金を腰からぶらさげてるんでしょう?
ひょっとして、おさいふ買うお金にも困ってるんでしょうか。
ほんとにヤですよね。貧乏って‥‥
平治さんも苦労してるんですね。そう、そうです。すべては貧乏が悪いんです。貧乏許すまじ!」
「確かに暮らしは楽とは言いやせんが、そういう意味じゃないんでさぁ」
ロニーとのやり取りの中で平治たちはさり気なく三木屋を出る。
「え、違うんですか?」
「こうやるんですぜ」
チャッと1枚だけ引き抜くと1挙動でカッパー銭を投げた。
ヒュッッ‥‥
銭は男の顔の側をかするように飛ぶ。
男が慌てて振り返って逃げようとして誰かにぶち当たった。
「大人しくしといた方がいいよぉ? どのみちアナタはもう死神に目をつけられたんだからねぇ♪」
刀身を舌なめずりする白髪碧眼の少年が男の前に立ちふさがる。
男は咄嗟に上段に剣を構えた。
「新当流、決まりですな。三木屋の主人を斬った太刀筋だ」
ハッと振り返る男を風斬が太刀を抜いて囲みに入る。
「3年前のこの証文。三木屋殺しは、これが原因だね」
冷たい笑いを浮かべながら彼岸が突き出した証文に動揺した様子を浮かべながらも男は上段から一気に振り下ろした。
その一撃を際どいところで捌いた彼岸。証文を抱えて距離をとる。
「逃がすな!」
楼焔が回り込もうとしているのを見た男は多勢に無勢と諦めたのか逃げを決め込んだ。
金属拳の一撃と蹴り繰り出して転ばせようとするが、男は体勢を立て直して駆け出す。
人混みに駆け込まれてはマズい‥‥
平治はカッパー銭を引き抜くと投げようとした。
「また、お金を投げるんですか?
駄目です! お金を粗末にしちゃ。銅銭を粗末にする者は銅銭に泣くんですよ!」
目の前に現れたロニーに平治は投げる機会を逸してしまった。
「任せて!!」
深緑の光を放つファルクの組んだ手印の先から真空の刃が男を襲う。
しかし、それでも男は止まらない。
男を追った平治たち‥‥
しかし、人混みに紛れられて逃がしてしまった。
「不覚‥‥ 逃がしてしまったか‥‥」
風斬が悔しそうに太刀をしまった。
「そうでもありやせんぜ」
「こんなのもあるしね」
平治の手にはファルクの真空波で千切られた着物の一部が握られていた。
ファルクが染め抜かれた家紋を指差している。
「そして、この証文」
彼岸が証文の名前を指差した。
「更には、この証人たちだな」
楼焔が周囲を見渡して風斬に笑みを送る。
「ごめん、平治さん。邪魔しちゃったかな?」
「いえ、終わっちまったことは仕方ありやせん」
済まなそうにしょげるロニーに平治は笑いかけた。
「あぁ、親分‥‥ 何かあったんですかぃ?」
「大事なときにいねぇ、あいつよりは幾分マシってやつですよ」
駆けてくる八を見ながらの平治の軽口でロニーに笑顔が戻った。
その後の調べで金野狩杉という侍の存在が浮かび探索の手が伸びたが、既に姿をくらませた後だった。
お竹に関しては真の下手人ではないとお解き放しになったという。