シフール特急便 〜 やるならやらねば 〜

■ショートシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:5〜9lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 64 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月14日〜06月21日

リプレイ公開日:2005年06月22日

●オープニング

 ここはシフール飛脚便江戸支局。
「すん‥‥」
「茶〜が美味いな‥‥」
「聞いてくれないんですね」
「また。ろくでもない話だろ? 聞かんでも、それしかないじゃないか」
 大きく溜め息をついて拗ねたように転がる月華をチラッと見て、上司が窓辺でお茶を啜っている。
「可愛そ‥‥」
「追加の予算はないからな。人手がいるなら今からでも発送人と交渉するなり、自腹を切るなりお好きにどうぞ」
「まだ、何も言ってないじゃないですか〜」
 ぶ〜ぶ〜文句を言う月華を尻目に上司はシフールサイズの団子を頬張ると、よ〜く味わって飲み込んでお茶を全部飲み干した。
「よしっ、休憩終わり」
「冷たいな〜」
「何言ってる。お前さんが留守の間、お前さんの分を代わりに配達してやってるのは誰だ?」
「うにっ‥‥ い、いつもお世話になってます‥‥」
 月華は自分の机の前に座ると目の前の手紙に視線を落とした。

 ※  ※  ※

 江戸神田明神の界隈が少々騒がしいようで‥‥
「はぁ‥‥ はぁ‥‥」
 男が物陰に身を潜めて息を切らしている。
 腰には大小の刀。武士であろうか‥‥
「いたか?」
「いや。くそっ。取り逃がしたか!」
 十手を腰に差し直し、悔しがる同心の周りに数人の男たちが集まってきた。
「三木屋殺しの下手人だ。草の根分けても探し出せ!」
 同心の号令で岡引たちが一斉に散っていく。
(「もう駄目か‥‥」)
 男は暗闇の中で静かに息を落ち着かせていった。


 ※  ※  ※

 ここは江戸冒険者ギルド。今日も依頼を求めて多くの冒険者たちが訪れている。
「いいか、役人との揉め事は御免だからな」
「うん、わかってる」
 釘を刺すギルドの親仁に月華は頷いた。
「でも、あんなに優しかった人だもん。訳もなく人を殺(あや)めたりしない。ボクはそう信じてる。
 それにこの手紙がきっと役に立つよ。ボクは人と人の心をつなぐ仕事をしてるんだから」
「わかった。冒険者には声をかけとくよ。探せば手伝ってくれる奴らはいるだろう」
 報酬は少なく、普段の依頼とは違った意味での身の危険がある依頼だが、月華の頼みとあれば‥‥
 ギルドの親仁としては、そこにかけて冒険者を募るしかなかった。

●今回の参加者

 ea0957 リュカ・リィズ(27歳・♀・レンジャー・シフール・イギリス王国)
 ea2482 甲斐 さくや(30歳・♂・忍者・パラ・ジャパン)
 ea2989 天乃 雷慎(27歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea5930 レダ・シリウス(20歳・♀・ジプシー・シフール・エジプト)
 ea7692 朱 雲慧(32歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 eb0406 瓜生 勇(33歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb1098 所所楽 石榴(30歳・♀・忍者・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●金野
「これが金野狩杉さんですか‥‥」
 番所の立て札を覗き込むリュカ・リィズ(ea0957)たち。
 やっぱり顔くらいは確認しておかないと探索はできないと見に来たのだが、さすがに団体さんでとなるとちょっと目立つ。
「ごめんね。ボクが似顔絵描ければ良かったんだけど」
「月華の仕事は手紙を届けることでござる。ここで確認できなければ何か方法を考えただけの話。問題ないでござるよ。
 しかし、下手人に手紙でござるか。親としては心配でござろうな。
 まあ、追われる立場になるかもしれないという意味では私も‥‥ 何時なる事か忍びの仕事もあるでござるしな」
 肩に立つ月華を見つめて、甲斐さくや(ea2482)は苦笑いした。
「それにしても、今回は行き先が動くから大変だね〜」
「でも、絶対に届けるよ。」
「頑張ろ♪」
 甲斐の肩から天乃雷慎(ea2989)の頭の上へ飛び移る月華に、天乃は思わず笑いをもらす。
「ところで月華は金野のことを知っておるのじゃな。どのような人なのじゃ?」
「私の見た金野さんは優しい人だったよ。
 真面目そうに見えたし、病で倒れたお父さんのために家を継ぐんだって頑張ってたよ。
 お父さんは最近亡くなってしまったんだけど‥‥」
 レダ・シリウス(ea5930)の問いに、そう答えた月華。
 所所楽石榴(eb1098)とリュカが成る程と頷く。
「これは父親の薬代のためにお金を借りていたという線だな」
「私もそう思います」
「そっか‥‥ そうかもしれないね」
 下級武士では手に入れることが困難な高価な薬があることは月華も知っている。
「裏は採っておいた方が良さそうやな。もっとも今更、薬は必要ないかもしれへんが」
 朱雲慧(ea7692)は、しっかりと目に焼き付けるようにその顔を憶えた。
「金野さんが何を想い、何度も三木屋に顔を出したのかは知りませんけど、あの様な行動では疑われるのは必至ですよね。
 追われたとなっても見に来るのであれば、何らかの理由があるということでしょうが‥‥」
 大勢で立て札の前に集まっている瓜生勇(eb0406)たちを番所の者がいぶかしみ始めたのを感じ、月華たちは立て札の前から離れていった。

●探索行
「シフールの隠れるところと違って、そんなに複雑なところには隠れられないと思うんだけど‥‥ 見つからないです」
「実家は奉行所の人たちが見張ってたもんね」
「声に出して呼べないし‥‥」
「大丈夫。きっと見つかるよ。それに、この手紙を届けないとシフール飛脚便の名が廃るもん」
 ちょっと涙目のリュカの手を取って月華がギュッと握り締める。
「金野さん、実家に帰れないでしょ? 三木屋の近くにいると思うんだけどなぁ」
「そうでござるな。与力や岡引が調べた場所へ戻るというのはあり得る話でござる。
 相手が必死に探索しているのだとすれば、一通り探し終わるまでは時間が稼げるでござるからな」
 甲斐が忍者として身を隠す心得を説く。一面では、それは真理と言えた。
 しかし、三木屋の近辺を中心に金貸しや物陰、長屋の裏など色々探し回ってみたが、金野は一向に見つからないのである。
 月華、レダ、リュカとシフールが3人いる強みを活かして軒下や屋根の上まで調べたりしているのだが、それで見つからないということは‥‥ 金野は、今はこの近辺にはいないということだ。
「相手も動いているから、ここは下手に動かない方が良いかもね?」
 いかにも見張っていますというのは逆に怪しまれると天乃は笛を吹きはじめた。
「平治親分たちは探索の範囲を広げているようじゃからな。まだ捕まっていないと見ていいいじゃろう。
 現場に何度も現れる大胆な奴じゃ。隠れる場所が意外な場所というのもありじゃな」
 その音に合わせてレダが躍りながら三木屋をさり気なく監視している。
 こういう時にシフールの体の小ささと飛行能力は便利である。あちこちに潜り込むことが容易だからだ。
 時々、シフール3人で実家の周辺の隠れられそうな場所は確認しに行ったり、奉行所の探索の手がどの辺りに伸びているのかを確認しに行っているのだ。
 ただ、サンワードでの探索に失敗したことはレダもがっかりである。黒髪も肌の色も腰に大小を差していることも男であることも似顔絵も、個人を特定する情報にはならなかったのだ。その結果、得られたのは『わからない』という答えだけ‥‥
 これで方向と大まかな距離が判明していれば探し出す手間が省けたはずなだけに、みな残念がっていた。
 瓜生のグリーンワードにしてもそうである。極一般的なジャパン人の武士を江戸で特定しようというのは難しすぎた。
 グリーンワードで追えたのは初期の逃走経路のみ‥‥ 探索の手がかりにはなりそうもなかった。
 とはいえ、そうなると足で稼ぐしかなく‥‥
「隠れるなら、目撃されるような事しないはず‥‥ だから、僕は無実を信じて動くよ」
 所所楽たちは、限られた人数で江戸の町を探索するのは無理だと数箇所に絞って重点的に待ち伏せと探索を続けることにした。

●接触
 花を持った薄汚れた男が三木屋へ裏口から入り込もうとしていた。
 金野本人に間違いはない。
 表口は今はしっかりと閉められている。ここで踏み込めば取り押さえることも可能だろう。だが、月華たちの気持ちは違っていた。
 まずは手紙を届ける。それから先のことは金野自身が決めること‥‥

 気配に気がついた金野が振り向いたときに、そこに立っていたのは数名の人影。
「心配しないで、」
 瓜生たちは敵意はないと示すために両手を見せ、得物は抜いていない。
「ジタバタせんことやな」
 逃げ出そうとする金野を足払いして転ばせ、朱雲慧は出口を固めた。
「少し待つのじゃ」
 レダが詠唱を始める。
 銭の束を下げ、十手を持っている者など江戸にそういるものではない。
 レダのサンワードで平治親分は近くにいないことがわかった。他にも与力や岡引が探索をしているだろうが、探索の方針が変わったのでなければ、彼らも平治親分たちと似たり寄ったりの場所にいるはずである。
「岡引は近くにおらぬようじゃ。安心するのじゃ」
 レダが金野に優しい笑顔を向ける。
「キミの母親から手紙を預かってるんだよ。僕らは、それを届けに来ただけ。
 僕のことは信じてもらえなくてもいい‥‥ けど、母親からの手紙が来ているのはホントだよ。
 僕らは手紙を届けたい。それだけなんだ!」
 天乃は今にも泣き出しそうである。肩に止まっている月華も瞳を潤ませて鼻をスンと鳴らして頷いた。
「月華殿‥‥」
 金野にも月華たちの気持ちは伝わったようである。神妙な面持ちで肩を落とした。
「さあ、月華♪ 母親からの手紙を渡すでござる」
「これ、お母さんからの手紙だよ。何でこんなことになったのかわからないけど、この手紙だけは読んであげて」
 甲斐に促された月華は金野の前でフワリと停止すると手紙を差し出した。
 金野は、それを受け取ると読み始めた。

『狩杉、元気にしていますか?
 私はお前が借金のために人を殺めたなんて信じていません。
 お前が金子を借りていたことはわかっていたよ。父のために恥を忍んでね。
 そうでなければ、あんな高価な薬なんて買える訳がないわ。
 そんな優しいお前がお金のことで人を殺めただなんて。信じられません。
 与力の只野様を頼りなさい。
 一度屋敷に来られたのですが、あの方なら事情を話せばちゃんと取り合ってくださるはずよ。
 もし、本当に殺めているのなら、二度と母の前に現れることは許しません。
 狩杉、いつまでも逃げ回ってはいられないわ。借金のことは家財産をはたいてでも何とかします。
 お前は、お前のけじめをつけなさい』

「俺はやってない‥‥」
 金野の目から涙が零れ落ちる。
「なら、何故逃げたの?」
「それは‥‥」
 静かな中に激しく追及する瓜生の言葉に、金野は言葉を失う。
「三木屋はこっそり金貸しをしとった。縄張りのヤクザもんも薄々気がついとって、怒ってたらしいなぁ」
 朱雲慧は、どうしようもない奴だと溜め息をつきながら流し目を金野に送る。
 地回りのヤクザたちと酒を交えて聞き出した情報だが、異国からの流れ者相手に話したこと故に信憑性も高いと言えた。
「やったのはそいつらか! 俺が三木屋に踏み込んだときには、主人は亡くなっていた」
「私はあなたが犯人なのかはわからない。だが、違うのであれば逃げぬ事でござる。
 きっと話を聞いてくれるでござるよ」
 金野の足元の花に気が付きつつも、甲斐は気づかないふりをして話を進める。
 探索の間、皆で話し合って決めたことである。
 どうするかは金野次第‥‥
 自首するにしろ、逃げるにしろ、決めるのは彼自身だと‥‥
「これ、キミの好物の団子。お母さんに作り方を教えてもらって僕が作ったんだ」
 所所楽は数歩前に出て包みを開いて置くと静かに後ろに下がった。
「僕にだって母親は居るけど‥‥ 親として接してもらった記憶がなくて。
 もっと言っちゃうと、父親がどんな人かもわからなくて。その、普通の親ってのが、よく判らないんだけど‥‥
 でも、でもね‥‥
 お母さん、キミの事心配してるよ。僕にだって判るくらいなんだから‥‥ 君にだって、わかる、よね?」
 金野はゆっくりと膝をつくと団子を頬張った。
「母上‥‥」
 金野は頬を伝う涙を拭こうともせず、ゆっくりと噛みしめながら団子を食べきった。

●自首
 シフールたちによる上空からの指示を得ながら役人たちの包囲を避けるようにして、月華たちは金野を奉行所与力の只野の家へと連れて行くことにした。
 本当は深く係わり合いになることは避けたかったのだが、月華の頼みとあれば無下に嫌とは言えなかったということもある。
 それに‥‥ 死んだ三木屋の主人に花を手向けに戻ってきた金野が下手人だとは信じたくなかったという思いもある。
 それぞれの思いを胸に秘めながら採った最大の譲歩だったのだ。
「ワイは江戸の民衆居酒屋、竹之屋の用心棒の朱や。
 まぁ、暇があったら、遊びに来てみいや
 いろんな連中が集まる所さかい、なかなかええところやで」
 奉行所与力の只野宅へ入っていく金野に朱雲慧が声をかける。
 そこへ銭の束を腰に下げ、十手を差した気風の良さそうな男が現れた。
「お待ちしておりやした。事情は伺っておりやす。
 月華さんたちの話も伺いたいと思いますんで、宜しければ一緒にどうでしょう?」
 観念している金野は岡引の平治親分に促されるまま入り、そのまま平治の子分である八兵衛に誘われて奥へと進んでいった。
「借金のネタやらヤクザもんのこともあるし、話しておいた方が面倒がなくてええ思うがな」
 渡世の義理を失わない程度に役人とできるだけ面倒を起こさない。この辺の判断は朱雲慧の生活の知恵である。
 他の者も異論があるわけでもなく、月華たちは只野宅に邪魔することにした。

 さて、その後‥‥
 金野に刑が下されたという話は、まだ聞かない‥‥
 尤も家門の再興も難しいだろうが‥‥