【蒼天十矢隊・外伝】七夕に想いは届く‥‥

■ショートシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:15人

サポート参加人数:6人

冒険期間:07月06日〜07月11日

リプレイ公開日:2005年07月14日

●オープニング

 時間は少しさかのぼる。
 下野国那須藩の馬頭において那須藩遊撃部隊・蒼天十矢隊の巡察が終了しようとしていた頃‥‥
「お師匠、誕生日ですよね。おめでとうございます」
「師匠、おめでとう」
 穂筒を被せた短槍とライトシールドを背負った足軽が八瀬草太。
 同じくライトシールドを背負い、月露を腰に差した足軽が幸彦。
 2人とも線は細く、笑顔に時に幼さが見え隠れしている。
 尤も見かけとは裏腹に、この1年近く蒼天十矢隊と戦場を共にしており、武士たちに戦闘力では及ばずとも実戦経験では負けていない。
「あ、ありがとう。嬉しいよ。
 でも、20歳を過ぎると、よりおっさんに近づいたとしか感じないんだなぁ。これが」
 蒼天十矢隊の一員で那須藩士の風御凪という歳若い街医者が頭を掻きながら照れ笑いを浮かべている。
 苦楽を共にした大勢の仲間たちが彼を祝ってくれている。色んな想いが去来して思わず目尻がじわっと湿ってくる。
「師匠、目をつぶって両腕を真っ直ぐ上げてくれますか?」
「何が始まるんです?」
「いいから、いいから」
 幸彦に促されるまま風御は両手を上げた。
 しゅるしゅると手早く何かが巻かれていく。
「お師匠、いいですよ」
 幸彦の声に風御が目を開けると両腕には包帯が巻かれている。
「綺麗に巻けているね。合格」
 3人は嬉しそうに笑う。

「あの2人、仲はいいんだけどなぁ」
「草太の奴、意気地がないからな。告白くらいしろっての」
 蒼天十矢隊の他の足軽たちが小声でぼやきあっている。
「くっつく時には自然に付くと思ったんだが、何か手を考えないといけないのか? 私もいい加減焦れてきた」
 纏め役の足軽も呆れ顔で溜め息をついている。
「草太、まだ告白もしてないのか? 局長から指輪を送られたんだろ?」
 戦闘馬に跨り、蒼天の羽織をはためかせている神聖騎士が、これまた呆れ顔で苦笑いを浮かべている。
「そうなんですよ。何か時々指輪を見つめちゃあ溜め息ついて、渡そうとして渡せず‥‥」
 ようするに草太が優柔不断なんだと全員の意見が一致する。

 そう、忘れないうちに説明しておこう。
 幸彦というのは、云わば通り名みたいなもので、本名は日吉雪子。正真正銘、少女である。
 親を魔物に殺され、女1人で生きていくには少年の格好をしなければならなかった。
 そして、生きていくために那須軍の足軽に志願した。ぶっちゃけ仇である魔物への恨みを晴らすため、給金のためであった。
 だが、たまたま差配されたのが風御という街医者であったことが彼女の人生を大きく変えた。
 命の大切さを説かれ、戦いの意味を考えさせられ、救うことの意味を知った。
 そんな大事なときに、いつも傍らにいたのが先程の優柔不断君・八瀬草太だ。
 いつの頃からか互いに好意をよせるようになっていた。
 ただ、それを口にしていないだけなのだ‥‥

 そんなことがあってから暫くして、江戸の冒険者ギルドに1つの依頼が舞い込んだ。

『星降る谷と呼ばれるところに生えている貴重な薬草の株を持ち帰ってほしい。
 ついでに、八瀬草太と日吉雪子を連れて行って2人きりの状況を作り、無事に八瀬草太に愛の告白をさせること』

 場所は変わって、ついこの間の那須‥‥
「草ちゃん‥‥ 草ちゃんでしょ?」
「鈴ちゃん?」
 草太の顔にパッと光が射す。
 あ〜懐かしいねという顔で近況など聞きあっている。
「ちょっと待ってくれよぉ‥‥」
 仲間の足軽が振り向くと、メラメラとか、ずごごごごごとか音が聞こえてきそうな背景を背負った感じで米神をヒクッとさせた幸彦が‥‥
「幸彦、紹介するよ。俺の幼馴染みの鈴ちゃん。薬屋さんで奉公してるんだって」
「どおも、始めまして」
 気づかない草太も草太だ‥‥ 仲間の足軽たちは、とうに逃げている。

「簡単に戦乱が起こる時代だ。後悔がないように生きなよ。それが無理なら、後悔を背負う覚悟だけは持っていなよ」
 とは誰の言葉であったろうか‥‥

●今回の参加者

 ea0031 龍深城 我斬(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea1488 限間 灯一(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2473 刀根 要(43歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2476 南天 流香(32歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea2478 羽 雪嶺(29歳・♂・侍・人間・華仙教大国)
 ea3054 カイ・ローン(31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3225 七神 斗織(26歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea3302 ミリコット・クリス(21歳・♀・バード・シフール・ノルマン王国)
 ea3546 風御 凪(31歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea3744 七瀬 水穂(30歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea4536 白羽 与一(35歳・♀・侍・パラ・ジャパン)
 ea8917 火乃瀬 紅葉(29歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea9853 元 鈴蘭(22歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb0479 露草 楓(20歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb1608 八幡 玖珠華(40歳・♀・志士・人間・ジャパン)

●サポート参加者

小鳥遊 美琴(ea0392)/ グラス・ライン(ea2480)/ 南天 輝(ea2557)/ 陸堂 明士郎(eb0712)/ キャット・テイル(eb0936)/ 名越 彦斎(eb2880

●リプレイ本文

●深く静かに
「ふふ〜ん、出来たです♪ 新しい水穂印の特効薬〜♪」
 謎の液体が入った小壷を持った七瀬 水穂(ea3744)が走ってくる。
 鈴の働く薬屋の調合部屋で何をやっていたのかと思えば‥‥
 スコケッ!
 ヒュルッと弧を描いた壷の中身は狙い通りに鈴の頭上へ。
「鈴殿、大丈夫かひら?」
 八幡玖珠華(eb1608)が手ぬぐいを差し伸べ、あまりの臭いに慌てて鼻と口を押さえた。
「ごめんなはいでふ〜。うぇほ! ずぐに着替えた方が良いでずよ」
 鈴を連行する2人を見た仲間たちはハアッと溜め息をついて大いに咳き込むのであった。

 結局、鈴を置いて一行は薬屋を後にした。
「これでお邪魔虫はいないですよ」
 悪びれない七瀬に溜め息をつきながら八幡は草太と歩調を合わせた。
「これから行くのは恋人たちが結ばれると噂の星降る谷ですか‥‥」
「そうらしいですね。いい薬草が採れるといいなぁ」
「草‥‥」
 言葉の意味に気づかない草太に思わず声をかけようとした風御凪(ea3546)を元鈴蘭(ea9853)が制止する。
「私は親同士が決めた方いましたが、草太さんにはそういう方はいないのですか?」
「僕ですか?」
 ちらっと幸彦を見て視線を戻すと目をパチクリしている。
 聞いていた通りわかりやすい人ですね‥‥と南天流香(ea2476)も思わず声を殺して笑う。
「七夕の星語りは知ってますよね?
 織姫様と彦星様も心が通じているからこそ、年に一度逢える一時を待てるのだと思います。
 伝えないと伝わらない想いってあると思いますよ」
「まあ、俺があまりどうこう言うのもアレだが、後悔だけはない様にな‥‥」
 真面目な表情の龍深城我斬(ea0031)に草太も表情を引き締める。
「折角、師匠に指輪を貰ったのに何だか申し訳ないです」
「そうか。いきなり指輪を渡すのが恥ずかしいなら、おいちゃんがこういう物をあげやう」
 苦笑いする草太に龍深城は布の包みを渡した。
「矢は射なきゃ当たらないよ。あんまりもたもたしていると俺が取っちゃうぞ!」
 そう言うカイ・ローン(ea3054)の笑みは優しかった。
「そうでございまする。草太さん、『いつまでも、いると思うな想い人』にございます。男と生まれたからには勇気を出しませ」
 火乃瀬紅葉(ea8917)の押しに草太は呆れ顔で頷いた。

●薬草採り
 薬草がつける花の話で盛り上がる八幡たちを尻目に刀根要(ea2473)たちは着々と仕事を進めていた。
「これだけいても癒しの魔法が使えるのは俺だけか。七瀬計画の重要性を改めて思い知ったよ」
 番号を書いた木札を株に差しながら、カイは周囲の様子を思いつく限り記していく。
「草太と幸彦‥‥ 全く以て進展なしとはなあ」
「力添えをしてあげたい気持ちはあるのですが、どうも自分には色恋沙汰は苦手で」
 龍深城と限間灯一(ea1488)が背負い籠に薬草の株を入れていく。
「私も苦手ですからね。人のことは言えません」
「あの2人、ちょっと悪いけど傍目からは丸分かりだからね。告白さえすれば成功するのに」
 刀根とカイは溜め息をついた。

「似てるよね。違うかな?」
「それは摘んで帰るやつだね」
 幸彦や八幡の指示で羽雪嶺(ea2478)は薬草を摘み始める。
 薬七瀬が『希少な薬草をいっぱい見つけるですよ〜』と飛び出したまま一箇所に落ち着こうとしないのが原因だ。
「ところで幸彦さん、好きな方はおられますか?」
 薬草を摘みながら南天は幸彦の側にしゃがみこんだ。
「え?」
「わたくしはいますわ。今夜にでも想いをぶつけようと思っているんです」
 南天が耳打ちする。
「うまくいくといいですね」
「貴女も草太さんの気持ちを確かめるといいですわ。好きなのでしょう?」
「でも、ずっと男の格好をしてきたから今更自分からは言えないよ。それに、あの娘。草太の許嫁じゃないかな」
 幸彦の笑みに寂しさが混じる。
「本人に聞いたんですが、鈴さんはただの幼馴染みだそうです」
 限間がポツリとつぶやく。
 流石にそれだけでは真偽のほどは確かめられないだろうと思ったが、南天もそんなことを追求するほど野暮ではない。
「あれ? 妙に皆でヒソヒソしてるし変だと思ってたんだ。もしかして、これって師匠の手引きですか?」
「皆、あなたたちのことを気にしてるんですよ」
 元鈴蘭の言葉に周りの者たち全員が頷いた。

「そりゃ、ボクは草太のこと好きだけど、草太が煮え切らないんだもん。待ってるのに何にも言ってくれないんだから」
「そうですか‥‥ 男の人なんて恋に奥手だなんて言いながら、一旦火がつけば結構前に進めるものだと思いますよ。それは、私が保証します♪」
 元鈴蘭はニッコリと微笑んだ。
「もしかして、こんな格好してるから言い難いのかな?」
 幸彦は自分の服をマジマジと見つめている。
「それなら着飾ってみたら? 男って、結構そういうのに弱いからね」
「良い考えですわ」
 羽のの提案に、元鈴蘭がぽむと手を叩く。
「女の身で戦に身を投じる幸彦として生きるのも一つの人生。
 ただ、雪子に戻れる場所もあるはずです。
 傷だらけになっても皺だらけになっても、その手を好きだと言って放さない‥‥
 草太殿ならば、きっとそう言ってくださいまする」
「草太なら言いそうね」
 白羽与一(ea4536)の優しい言葉に、雪子は大きく頷く。
「せっかくの七夕ですし、可愛い格好をして草太様と仲良くしていらっしゃいな。これを持っていれば、きっとうまくいきます」
 七神斗織(ea3225)は恋愛成就のお守りを幸彦の手に握らせた。
『七神君、何の話?』
 人の手の届かない高所や崖の中腹に生える薬草を採ったミリコット・クリス(ea3302)が高度を下げる。
『ふ〜ん、ラブラブなんだ』
 七神の通訳に頷く。ミリコットに何やら思惑ありといったところか。
「世間は夏だっていうのに、あちこちにまだまだ春が残ってるね〜♪
 僕も告白した時を思い出すよ。言い出すまでの心の高まりをさ」
 羽は思い出し笑いした。
「こっちの言葉を覚えたてでさ。ホント必死だったよ。
 それに、僕から見ても世間知らずの子でね。必死に『付き合って! 好きだよ!』って言ったんだ」
 告白したときの必死だった自分を思い返して、羽は苦笑いする。
「できました。あれ?」
 夢中で蔓で編み籠を作っていた露草楓(eb0479)が首を傾げた。
「手伝ってくれますか? 雪子様の恋が成就するように」
「はいっ。頑張ります」
 円らな瞳を輝かせる露草を前にして雪子も後には引けない。戸惑いながら嬉しそうに笑うのだった。
「いい汗かいたです〜♪」
 帰ってきた七瀬は土まみれ。それでも収穫の手応えありとほくほく顔だ。
「あれ? 何の話をしてるですか? サボっちゃ駄目ですよ」
 一行は大きな溜め息をつくのだった。

●星の降る夜に
「この提灯、いい香りがするなぁ。それにしても師匠、こんなところで何の用なんだろう‥‥」
 提灯から漂う薔薇の香りの意味に気づかず、草太は風御との待ち合わせの場所へと歩く。
「遅いぞ、草太‥‥」
 月明かりと提灯の明かりによって生まれた闇の狭間に人影が見える。
「あれ? 幸彦?」
 明かりで照らされた浴衣の人影。
 綺麗に整えられた髪の櫻に小鼓の簪が月明かりを映した。
 草太の心の臓がドクンと脈打った。
「どうしたんだい。そんな格好して」
 草太に優しく微笑むと彼女はクルリと振り向いて空を見上げた。
「こんな格好してるんだから今夜くらい雪子って呼んでよ」
「御免‥‥」
 頭を掻きながら草太は雪子との距離を詰めた。
 ‥‥‥‥
 2人の沈黙を壊すように、どこからともなく聞きなれぬ弦の音が響く。
「あ、そうだ。これ、あげるよ」
 懐から鼈甲の櫛を取り出して草太は笑った。
 雪子は何も答えず草太との距離を縮める。自ずと息を感じるほどに2人の顔が近づいた。
 草太は自分でも顔が上気しているのがわかる。見惚れていたことに気づいて思わず空を見上げた。
「綺麗。あ、星が綺麗だね」
 雪子の肩が触れる。浴衣越しに柔らかい肌を感じ、草太の胸の高鳴りは一層激しさを増した。

「そうそう、その調子です。さあ、腰に手を回して接吻です。あ〜、何をやっているですかぁ。そこで押し倒すですよ」
「ほら、興奮しない」
 少し離れたところで2人の様子を伺っていた七瀬を龍深城が嗜める。
 それを見て、羽が笑いを押し殺している。
「うわ〜」
 仲間たちの背中からそ〜っと露草が顔を出す。
 ふと白羽が見上げると流れ星。
『少しでも、お傍に居られますように‥‥』
 白羽はチラッと限間を見て願いをかけた。そこに広がっていた光景は‥‥
「灯一さん、見つかりまするゆえ、もう少し寄ってくださいませ」
「あ、いや、紅葉さん。あの、あまりくっつきすぎるのも‥‥」
 浴衣姿の火乃瀬が限間にくっつき、白羽の笑みが微妙に引きつった。
「灯一さんも、いつか」
 手をしっかと両手で握り、瞳を見つめて小声で限間を応援する火乃瀬。
 しかし、頬を染める限間のその姿は白羽にとってまさに驚天動地。
「そう、だったのですね‥‥ 灯一殿になら、安心して紅葉をお任せできまする‥‥」
「いや、与一さん。違‥‥」
「騒いだらバレてしまいまする」
「だから‥‥」
「どうかお幸せに‥‥」
 火乃瀬に腕を掴まれながら、限間は精一杯の作り笑顔を浮かべる白羽に必死の弁解をするのであった。

 そのころ‥‥
 刀根と南天は河原を歩いていた。
「こんな回りくどいことを‥‥」
「でも、これくらいしなければわかってもらえないですわよね?」
 声に振り向いた刀根は浴衣姿の南天に思わず言葉を失った。
 気まずい沈黙が流れる。
「わたくしは刀根要さまをお慕いしております。どうかわたくしの想い汲み取ってくださいませ」
「流香さん。私は危険な戦いで命を落すかもしれない、それに年が離れている」
 南天に言い聞かせようとして、思わず視線を合う。
「この想いは兄上の友として初めて姿をお見かけした時からなんです。それに年なんて関係ありません」
「困った人ですね」
 南天の真っ直ぐな視線を刀根は外すことはできない。
「私もとても大切な人だと思っていますよ、流香さん。その‥‥」
「好きと言ってください」
 南天は額をコツンと刀根の胸に当てた。
「す‥‥ すいません。性分なんですよ」
 刀根は暫く南天の頭を抱くと、肩を持ってゆっくりと引き離した。
 雌雄一対の駒鳥の首飾りを取り出すと、その片方を南天にかける。
「刀根さま‥‥」
 笑顔で涙を溜めて見上げる南天を刀根は優しく抱き寄せた。

 月明かりが草太と雪子を優しく包む。
「月の精霊‥‥ 噂は本当だったのでございますね」
 火乃瀬が頬を染めた。
「僕と結婚してほしい」
 ようやく草太が声を絞り出し、雪子の手を取った。草太は震える手で誓いの指輪を填める。
「草太、そういうことは相手の気持ちを確認してからするのよ」
「あ、ごめん」
 恐らく草太の顔は真っ赤に染まっているだろう。
「もう1つの指輪。草太につけてあげる」
「うん」
 雪子は人肌に温もった指輪を草太の手から取ると、その指に填めてやった。
「好きよ」
「僕も雪子のこと大好きだ」
 胸に倒れ掛かってくる雪子を受け止めて、草太はしっかりと背中に手を回した。
「よ〜し、よくやった。わ、わわ」
 身を乗り出していた龍深城たちが思わず体勢を崩す。
 どささっ‥‥
「あ〜! 皆、見てたんですか?」
 草太は雪子を抱きしめたまま呆れたように笑った。
「人の気持ちは思うようにいかぬもの。まして必ずしも好きな異性と添い遂げることは叶いませんから‥‥
 若いっていいなあ‥‥」
 我が事のように応援する冒険者たちに八幡は嬉しい気持ちで一杯になる。
「おめでとう!」
 皆の祝福に、草太は込み上げるものを抑えながら礼を返すしかできなかった。

●大宴会
 八瀬草太と日吉雪子の結婚を祝って盛大な宴会が催されることになった。
 参加者たちは皆、ミリコットのリュート『バリウス』の音色や食事や酒を楽しんでいる。
「2人は蒼天十矢隊で出会ったんですね。生死を共にしてきた2人ですか‥‥」
 ちょこんと正座した露草が、楽しそうに草太と雪子の活躍に感心しながら料理をいただいている。
「俺も部下の足軽かわいい娘にすればすりゃあ、良かったかな? まあ、こいつらはこいつらで気の良い連中だが」
 龍深城が胡坐をかいたまま首を伸ばして田吾作と茂助の顔を眺めた。
「そりゃないっすよ」
 3人は杯を呷って愉快そうに笑う。釣られて会場がドッと沸いた。
「もしかして、この2人も? なのです〜♪」
 対の首飾りを見つけて、七瀬が刀根と南天を見比べる。
「そうなんですか?」
 目を輝かせる風御に刀根は否定せず、腕を絡める南天に苦笑いを浮かべている。
「あぁ〜、僕も連れて来れば良かったかな」
「まぁまぁ、素直に祝福してあげましょうよ」
 八幡が羽に酌をした。
「そうだね。福来来! それじゃ、あなたも」
「お受けしますわ」
 羽の返杯を八幡は受けた。

(「ラシュディア様‥‥ いけませんわ。早く‥‥吹っ切らないと‥‥」)
 星を見上げて1人想う七神の窓下の中庭には、七夕飾りが風に枝をなびかせていた。
「何をなさっているのでございますか?」
 それをぼぉと眺めている限間に白羽が声をかける。
「いや、折角だから願い事をね」

『皆、穏やかに、健やかに暮らせますよう』

 限間の指差す先には、そう書かれた短冊が下がっていた。
「灯一殿らしゅうございますね」
 周りの雰囲気に当てられたのか、白羽はそっと手の平を限間の二の腕に添えた。
 限間の心中、腕を上げたり下げたり、躍ったり走ったり‥‥
 風にめくられた限間の短冊がひらり。

『女心を察せる様になれますよう』

 な〜る。
 おやおや、他にも人影が。

『いつまでも一緒にいれますように』

 風御、元、草太、雪子と書かれた同じ文面の短冊が4枚。
「皆、書いてあることが一緒って何だか嬉しいです」
「そうですね。偶然じゃないととこが何とも」
 短冊に触れる元鈴蘭の肩に手を当て、風御は彼女の頭越しに短冊を見つめた。
「わたくし‥‥」
 風御は言いかけた元鈴蘭の唇を塞いだ。
「約束は守ります。全てが終わったら結婚しよう」
「はい」
 どちらからともなくお揃いの指輪を外すと、2人は相手の指にそれを填め直した。