●リプレイ本文
●真夏の太陽
「ジャパンの夏は‥‥ 本当に暑いな‥‥などと私が呆けている場合ではないな。
救いを求める者らに手を差し伸べるは、聖なる母の御教え。微力ながらも力を尽くさなければ」
手綱を引くニライ・カナイ(ea2775)が暑さにめげそうな自分を奮い起こして気合を入れる。
確かに北国ロシアの出身となれば、このジメジメした暑さは堪えるだろう‥‥
他でもない日本人でさえ堪えているのだから‥‥
「そろそろ目的の村か‥‥」
手をかざして見上げる天螺月律吏(ea0085)にも、容赦なく天日が降り注ぐ。
「そのようじゃな。しかし、夏は暑くて当然とはいえ、それにしても暑いのじゃ‥‥」
田畑の草が伸びているのを見て、馬場奈津(ea3899)は一息ついた。
少し行くと風御凪(ea3546)と七神斗織(ea3225)、そして火澄八尋(ea7116)が村人たちに指示を出しているのが見える。
「風御殿、お疲れ様に御座いまする」
白羽与一(ea4536)は愛馬の歩みを速め、彼らに近づいた。
「あぁ、早かったですね。とりあえず、一通り村を回って状況を把握しておきました。
えぇと‥‥ それぞれの家の状況を纏めたものはどこにあります?」
「あ‥‥ 確かここに‥‥ あ、ありました。わたくしがもっと手際良くできれば良いのですが‥‥」
「気にしないでください。慣れていないのですから仕方ないですよ。
衰弱が激しいのは、この4名。天さん、着いて早々ですが回復の術をお願いします」
彼らが村へ一路急いだのは状況把握と応急処置的に治療を始めておくためだ。その成果の一部がこれである。
「相分かった。早速拝見するのである」
天涼春(ea0574)に症状を伝えながら一行は歩き始めた。
「それにしても早かったですね」
「別に急いではおらぬよ。お主らこそ、少し休んではどうじゃ?」
「大丈夫です。少しでも早く、本格的に病人の診察・治療にあたらなくては‥‥ 想像よりも良くないですからね」
「あまり飛ばしすぎては身がもたんのじゃ。年寄りの言うことは聞いておくものじゃ」
「はい‥‥」
仲間たちが道程を急いだわけではないのだが、彼らにしてみれば、もう追いつかれたのかという気分なのだろう。
それ程に刻を忘れて仕事に没入していた証だ。
「自分たちまで倒れては医者の不養生ですね」
時間経過を実感したせいだろうか、お腹がきゅ〜っとなって赤くなる七神。
「そのようですね。意気込みすぎたのかもしれません」
「かもしれない」
その隣にいた風御と火澄も釣られて、ぐぅ〜〜とお腹を鳴らした。
「ほれ。な?」
馬場に軽くねめつけられた風御たちを、一行は軽く笑って促した。
七神に案内された天涼春は一軒の村人宅を訪れた。
「お坊様に来ていただけるなんて‥‥ ありがたや、ありがたや」
「自分にできることを致しておるだけに過ぎないのである。しかし、これも御仏の導きであろう」
地獄の沙汰も金次第‥‥ 裕福ではない農民たちにとって、僧に治療してもらえる機会はそれ程多くはない。
今回の依頼参加者にリカバーを使える僧が交じっていたのは、まさに御仏の導きであろう。
リカバーで病気自体を治すことはできないが、病気に打ち勝つための体力を回復させることは可能だ。
その証拠に、天涼春がリカバーを施すと病人の荒かった寝息が少し落ち着いた。
「これでさっき飲ませた熱さましが効けば大丈夫。起きたら、嫌がっても粥でも何でも軽いものを食べさせてあげてくださいね」
リカバーの施術と効果の具合を書き留めた七神は、風御の診断書にあった今後の治療方針を家族に告げると、次の家へと急いだ。
症状の重い4人にリカバーを施した一行は馬場の提案を容れ、とりあえず彼らを村長宅に集めて看ることにした。
アイスコフィンで氷の塊を作り出した火澄は、それを病人たちの側に置いた。風が吹くたび涼しい風が肌に心地よい。
「これで少しは涼しいはず。他の家のも解け始めてる頃だから行ってくる」
火澄は気持ち良さそうにする患者たちの表情に嬉しさを感じて村長宅を飛び出して行った。
「これで他の者が快方に向かえば、村全体としては何とかなるじゃろうて」
「早く治ると良いですわ」
「大丈夫じゃ。皆で力を合わせればの」
うっすら目を開けつつも虚ろな村人に大宗院鳴(ea1569)が匙ですくった水を口に運んでやるのを見て、馬場はそっと肩に手を当てるのだった‥‥
●助っ人
救援物資の荷を解いた一行は、それぞれに仕事を分担し始めた。
「夏の病は必要以上に体力を消耗するからな、早くに快癒するに越したことはない。
さて、まずは掃除だ。それに布団も干したい。すっきり綺麗になれば気分も変わるさ。皆、家事を手伝ってくれるな?」
天螺月の号令に元気を残していた村の女たちが一斉に動き出す。
「参りました。わたくし、家事は得意ではないです」
「いいんですよ。できることをすれば」
シュンとした大宗院を力づけるように風御が箒を渡す。
「あら、箒がけなら得意ですわ。よく頼まれるのです」
水を得た魚のように家の中を佩き始めた。巫女姿に妙にしっくりくるのは何故だろう‥‥
さて‥‥
「気持ちいいですか?」
病気ではなく看病疲れでへばっている者も多い。
そういう者たちを1人1人訊ね、風御はその体を優しく揉み解していた。
「誰かに体を擦ってもらうなんて初めてだから照れちまうぜ‥‥」
「そうなんですか?」
「おっかあの肩なんか揉んでやることはあってもなぁ」
「一家の主としては、そういうものですよね」
日頃の農作業と慣れない看病で、男の肩も腰もガチガチにこっていた。
冒険者たちが手伝いに来てくれたことで、ぐっすり眠ることのできた彼のような村人たちも体調を戻しつつある。
「なぁ、先生。俺に手伝えることがあったら何でも言ってくれよ」
「はい。そういう時には必ず声をかけますから」
先生と言われ、ほんのり赤面した風御は、ふわりふわりと背中を擦っていく。
やがて寝息を立て始めたところで布団をかけると風御は小さく笑った。
さてさて‥‥
数日経って掃除が一段楽したところで、薬が効いたのか回復してきた者たちも出始めた。
そこで、桂春花(ea5944)や天螺月を中心に体調の良い者は畑仕事に出ることにした。
炎天下での作業であるが、草が伸び放題の田畑を見るとそうは言っていられない。
「あはは、泥だらけだ」
田んぼで転んでしまった火澄は大笑い。
「だらしねぇなぁ。こうやって歩くんだ」
そういう村人もズポッと足を抜いた拍子に体勢を崩して顔から田んぼに落ちた。当然泥だらけで周囲に笑いが起きる。
「一休みいたしましょう」
汗だくになりながら田の草を抜いていた白羽があまりの暑さに木陰へと逃れた。
それは村人たちも同じようで一息ついていると、どこかから涼しい風が‥‥
桂春花の扇ぐ涼風扇だ。
「一息つけたよ。ありがとう」
「どういたしまして」
そんなきつい作業の中で、この一時は極楽以外の何物でもなかった。
「さあ、もう一頑張り。草さえ抜いてしまえば、大分楽になるはずです」
桂春花の掛け声に村人たちは元気を出して腰を上げた。
●回復
ある家では、肩を肌蹴た村の女性が七神とニライに汗を拭ってもらっていた。
「あぁ‥‥ 極楽だね」
大げさに言っているわけではない。
2人が小まめにやってきては濡らして固く絞った手拭いで身体を拭き、清潔な着物に着替えさせていたのである。
この時期、べっとり汗で張り付いた服ほど不快な物はない。
落ち着いて寝られやしないとなれば病気はなかなか回復しないし、疲れもとれない。
冒険者たちが溜まった洗濯物を片付けてくれたお陰でもあった。
「今、無理して体調を崩したら元も子もありませんからね。明日までは寝ておいてください」
「怠け癖がつきそうだね。こんなに楽させてもらえると」
冗談ぽく笑う女に洗濯したての服を着せてやりながら、七神とニライは充実感に満ちた笑みを自然と浮かべていた。
さて、村長宅では‥‥
「いやぁ、そんなことまでしてくれなくても‥‥」
「気にするな。鎌を研ぐくらい私にだってできる。刀の手入れと要領は同じだからな」
暫く手入れがされていなかった鎌を、天螺月は手際よく綺麗にしていた。
「いいんですよ。仕事のうちです」
「その通り。気にするな」
「しかし‥‥」
良くしてくれたお礼がしたいという村人が風御たちに少ないながらもお金を差し出す。
「追加の報酬は結構です。そのお金で村の子供たちに甘いものでも買ってやってください」
「そうかい? それなら今度、何か買ってやろうかね」
「やったぁ。おとう、約束だぞ」
明るい子供たちの笑顔を見ているとこちらまで元気になってくるようだ‥‥
「よかったよ。元気になってくれて」
「そうですね」
天螺月が纏わりついてくる子供を片手で抱き上げて指先で鼻を押すと、その子はきゃっきゃと声を上げて笑った。
「お唄、歌って〜」
白い髪、白い肌、長く尖った耳に青い瞳‥‥ 物珍しいのだろう。子供たちはニライの元へも纏わりついている。
「宜しい。そこに座りなさい」
ニライは木陰に子供たちを座らせると、静かに悠久に祖国の歌を歌い始めた。やがて子供たちから寝息が聞こえてくる。
「何だかんだと言っても、まだ疲れていたのだな‥‥ 今はお休み‥‥」
優しい子守唄が子供たちの眠りを包み込んでいった‥‥
●病魔払い
村の中で祭事を行う場所があると聞いた白羽は、村長を伴って天螺月たちとその場所を訪れていた。
病魔払いの神楽舞を執り行うということで、その下準備のためだ。
「折角だ。少しでも皆に喜んでもらえるといいな」
「そうで御座いますね。村長殿、注意しなければならないことなどあれば教えてもらえますでしょうか?」
「そうですな‥‥」
村長が説明する村の仕来りを踏まえながら舞台が組まれていく。
そして、村人たち全員が快癒するか快方に向かった頃、田畑の手入れも舞台の用意も整った。
そこで、ささやかながら快気祝いも兼ねて祭が行われることになった。
「皆様、只今より、病魔を打ち払うために神楽を舞います」
日本刀『霞刀』と短刀『月露』を振るい、拙いながらも真剣に大宗院が舞う。
その本気さは見ている者たちを惹きつけた。
馬場の鳴弦の弓を弾く音、火澄の笛の音、桂春花の華国の調、そしてニライの澄んだ謡が大宗院の舞を勇壮に彩る。
暫時、村人の溜め息と共に神楽舞は終了した。
「よく考えたら、建御雷之男神様では、病を治すのは難しいですね」
「そんなことはありません。名のある大神の御力を借りられるのですから絶対大丈夫です」
鼻息も荒く、力強く頷く村長以下村人たちに大宗院は、はぁ‥‥と分かったような分からないような返事をするだけなのであった。
「折角であるから、ご先祖様の供養もしておくのである」
桂春花の華国の調に遠い祖国に思いを馳せながら、天涼春は祖霊を召魂する念仏を唱えた。
村人たちに見送られて冒険者一行は村を後にした。
心からの精一杯の感謝と共に、冒険者っちゅうのは至れり尽くせりなんだという誤解も残して‥‥