渡る世間は熊鬼戦士ばかり

■ショートシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:7〜11lv

難易度:やや難

成功報酬:4

参加人数:10人

サポート参加人数:2人

冒険期間:08月07日〜08月14日

リプレイ公開日:2005年08月18日

●オープニング

「いやぁ、良い品物が手に入った。商売が楽しみだよ」
 浮かれ気分で江戸への道を急ぐのは1人の商人。
 驢馬の背に乗せた荷物に目をやっては顔をニヤつかせている。
「おっと‥‥ どうした?」
 急に立ち止まった驢馬に驚くが、気を取り直して商人は手綱を引いた。
 しかし、驢馬は1歩も動かず、何となく不安そうに鼻を鳴らした。
「熊でも出たんか?」
 さすがに不安になったのか、商人の顔から笑顔が消えている。
 ざざっ‥‥
「ひぃっ‥‥」
 商人が悲鳴を上げる‥‥
 そこに現れた巨体は確かに熊だった。ただし、顔は猪‥‥ 俗にいう熊鬼だ。
 その数を数える余裕は商人にはない。兎に角、囲まれたことだけは真っ白な頭の中で理解した‥‥

「長巻を佩いた熊鬼たちが峠を襲うので困っておる。そちたちも、そうであろう?」
「はい。峠を越えるのに、わざわざ護衛を雇わなくてはならぬのでは商売上がったりでございます」
 愚痴を漏らす役人風の武士に商人風の男たちが相槌を打っている。
「10頭近い熊鬼ともなれば近くの本陣に兵を差し向けてもらわねばならんが‥‥」
「それはもう、退治していただかねば‥‥ おや、どうしたので?」
 あまり乗り気ではなさそうな武士の表情を察して商人の目が鋭く光る。
「これ以上、代官に手柄を立てさせるのは‥‥な」
 表情がヒクついたところを見ると何か因縁でもあるのだろうか‥‥
「それでは‥‥ このようにしてはいかがでしょう? 江戸の冒険者ギルドに依頼を出して退治してもらうのです」
「しかし、冒険者を雇うには金子が必要だと聞いたぞ」
 暗に自分は出さないと主張する武士‥‥
「そうでございますな‥‥」
 要するに商人たちも金は出したくないらしい‥‥
「いくつか仕入れた長巻のうち、業物の長巻一振りが手に入ったので売り手を当たっておいてくれないかと知り合いの商人が文をよこしたのですが、その者は未だ到着しておりませぬ。熊鬼たちが手にしておるのは多分‥‥」
「成る程‥‥ 優れた武具を求める冒険者は多いと聞いたことがありますな。それを金子代わりに‥‥ということですか」
 商人たちがニヤッと笑う。
「そちら、悪よのぅ」
「いえいえ‥‥ 御役人様ほどでは」
 くくっ‥‥
 男たちが忍び笑いする‥‥

 さて‥‥
 江戸の冒険者ギルドに目を引く依頼が張り出された。

『熊鬼の一団を退治する冒険者を募集。報酬は業物の長巻一振り』

「長巻の業物とは珍しいな‥‥ 欲しい気もするが‥‥一振りだからな。報酬の分配が難しいんじゃないのか?」
「売れば纏まった金になるだろうから喧嘩さえしなければ、割りと実入りはいいと思うが‥‥
 ま、分配まで含めて今回の依頼ってことだな。良い経験だと思って‥‥な?」
 冒険者の質問にギルドの親仁の歯切れは良くない。それにしても何が『な?』なんだか‥‥
 さて、変わった依頼だが、どうする?

●今回の参加者

 ea1488 限間 灯一(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2741 西中島 導仁(31歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea2988 氷川 玲(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3582 ゴルドワ・バルバリオン(41歳・♂・ウィザード・ジャイアント・イスパニア王国)
 ea3597 日向 大輝(24歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea3744 七瀬 水穂(30歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea5999 不動 金剛斎(34歳・♂・志士・ジャイアント・ジャパン)
 ea6226 ミリート・アーティア(25歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea9527 雨宮 零(27歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb2001 クルディア・アジ・ダカーハ(40歳・♂・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

ハロウ・ウィン(ea8535)/ シィル・セインド(eb2137

●リプレイ本文

●暁の奇襲
「寝静まってるな?」
「どうかな。流石にこの刻限なら寝静まっていると思うが‥‥」
 廃村の一画を伺う西中島導仁(ea2741)と氷川玲(ea2988)。周囲は静かで襲撃には持って来いな気はするが‥‥
「合計10匹。村から出た様子はないですね。今なら一網打尽にできます」
 高台からの偵察を終えて帰ってきた限間灯一(ea1488)が2人の肩を叩いた。
「ふぅ‥‥ あの毛むくじゃらの熊鬼とやりあうのか‥‥ 考えただけで暑さがましそうだよ」
 そこへ、夜営の片づけを済ませた日向大輝(ea3597)が村を覗き込んでいる仲間たちと合流した。
「それなら暑くなる前に片付けてしまおう。皆もその方がいいだろうからな。さっさと終わらせよう」
 襲撃時間を早朝に選んだため多少眠気はあるが、少なくとも炎天下での熱い戦いになることだけは避けられそうなのは彼らにとっても幸いだろう。
「それにしても熊鬼さんですか〜♪ 装備は遥かに劣るですけど、那須で戦った黒色槍兵団を思い出すですね〜♪
 皆さんで戦力を集中して攻撃すれば大丈夫ですよ〜」
 ストレス発散のために蹴散らされようとしている熊鬼にしてみれば哀れだが、七瀬水穂(ea3744)はそんなこと知ったこっちゃない。
「役人たちは二の足を踏んだようだが、久しぶりの依頼故、実戦の感を取り戻すには、この位が丁度よかろう。な、ゴルドワ殿」
「ふむ! 相手は熊鬼の群れ! 相手にとって不足はないというところだな!!
 知性に欠ける駄筋肉の群れに、真の筋肉の美しさを教育してくれよう!!」
 肩を組む筋肉2人、不動金剛斎(ea5999)とゴルドワ・バルバリオン(ea3582)。
 自慢の筋肉を割って見せることで互いの意思疎通を図ろうとしているようだ。
「熊鬼なんて〜♪ さよならbyebye♪」
「すまんが、気が抜ける」
「ごめんね。な〜んか緊張しちゃって。皆は緊張してない?」
 明るい調子の曲に思わず笑う不動。バツが悪そうにミリート・アーティア(ea6226)が人懐っこい笑いを浮かべた。
「大丈夫ですよ。皆さん、それなりの実力を持ってるんですから」
 腹が減っては戦はできぬと、1人保存食を食べ終わった雨宮零(ea9527)は、御馳走様をすると得物を手に取った。
「頑張ってやっつけないとね」
 ミリートは小さく胸の前で拳を握った。
「勿論である。それよりも、今回の仲間は随分と白兵戦に偏っておるな!
 小細工のできる者がおれば色々やりようもあったのだろうが、こうなっては仕方があるまい! 真っ向勝負しかあるまいな!!」
「だりぃのは御免だな。俺としてはスリルを楽しめれば最高だがね。一角の剣士たちが集まってるんだ。悩むことないだろ」
 クルディア・アジ・ダカーハ(eb2001)は、怪しく微笑みながら鋭い眼光を放っている。
 この熊鬼たちから見事業物の長巻を奪取すれば、それは彼の物になる。彼の雰囲気はそれだけのものではなさそうだ。
 今が楽しければそれでいい。強者と剣を交えていられる、その快楽の一瞬がもうすぐのところまで来ている。それが嬉しかった‥‥
「まあ、戦力は集中してなんぼだ! 相手の得物は長巻!
 アレは結構リーチの長い武器だから、近距離に隙があろう! そのあたりを念頭においてだな‥‥」
「御託はいい。個人の戦法は、それぞれに任せるさ。クク‥‥」
「であるな。行くのである!!」
 冒険者たちは廃村へ向かって歩き始めた。
 相手は格下、正面からの撃破で十分‥‥ この油断が窮地を呼び込むとは知らずに‥‥

●大激突
(「優れた武器が、殺め、奪うだけの為に使われるというのはどうにも、忍びないですね‥‥ いかに優れた武器とて、己の力量に見合わないものならば意味はありませんから‥‥ 自分も、刀に負けぬ使い手にならなくては」)
 後衛の七瀬たちの護衛を固めながら、限間は相州正宗を手を当てた。
 朝の僅かに冷たい風が限間たちを撫でる‥‥
「気づかれた!?」
 前衛の西中島が小声で後衛の仲間に合図をしている。
「何だっての。やつら急に動き始めやがった」
「警戒心の強い動物は沢山いるからね。一度引く? それとも叩くの?」
 氷川のボヤキにミリートが呟く。
「戦ってもないのに引けるかよ」
 クルディアは既に霞刀とライトシールドを構えていた。
「決まりだな」
「ですね♪」
 隊を前進させ、不動と七瀬が詠唱に入ったのを機に氷川・クルディア・雨宮・西中島が前衛を固め、遅らせて詠唱に入ったゴルドワを護るように限間と日向が術者たちを護りに入る。

 ぶもぉおお!
 一丸となって迫り来る8頭の熊鬼にミリートの先制射撃!
「何なのよ。硬すぎるって〜」
 急所を狙ったにも拘らず、鎧を着た熊鬼は何事もなかったかのように突進を続ける。
「来ます!」
「おうよ!! 地を這い、汝が主の敵を討て! 我が名は金剛斎ぃ!!」
 重力波が熊鬼たちの中心をぶち抜くが、1頭たりともそれに怯んだ様子もなく地響きを立てて突っ込んできた。
「消し炭になっちゃうですよ〜♪」
 七瀬の火球が熊鬼たちを包むが、熊鬼たちは雄叫びを上げながら突進を辞めようとはしない。
 予想外の出来事に一瞬思考が止まる‥‥
「つーか、手前ら程度だと戦っていても面白くねぇんだよ。返り討ちにしてやらぁ!」
 クルディアが軍配を掲げて敵の突進に備えるのを見て、他の仲間たちも我に返った。
 軍配で叩きつけるような長巻の斬撃を鮮やかに捌いたかに見えたクルディアの喉の奥に一瞬で血の味が広がる。
 クルディアほどの豪の者でも一斉に斬りかかられては捌きようもなかった。
 しかも、その長巻の斬撃は異様に重い‥‥ 歴戦の熊鬼は重い武器の扱い方をわきまえている様である。
「不覚‥‥」
 十手で凌いだ西中島も同様に捌ききれなかった長巻の餌食となっていた。
 辛うじて突進してくる敵に先制できた雨宮の強烈な居合い斬りで、肩ごと腕を落として1頭を戦闘不能にした以外、前線は鎧袖一触総崩れという状態だ。
 いや‥‥ 軽快な動きで連撃を捌ききった氷川だけは無傷だが、ギリギリ受け切れたという感がヒシヒシと伝わってくる‥‥
「マズいですね‥‥」
 回復薬を取り出そうとした限間が仲間に駆け寄ろうとするが、大乱戦の最中である。容易に近づくことはできない。
 そも、片手には正宗、残る片手には十手を構え、その構えを解けば餌食になるのは限間の方だ。
 なら‥‥ 限間は迷わず前衛に飛び込む。これなら7対5、多少は分がいいだろう。
「皆! 態勢を立て直して!!」
「有難いです‥‥」
 日向が雨宮を捉えようとしていた棍棒を受け止めた。
「悪いんだけど、好きにはさせないんだから!!」
 更に狙いをつけて急所を射たミリートの矢に鎧を着けた熊鬼も痛みを訴え、その剣先は日向を襲った。
「甘いよ‥‥」
 攻撃を捨て、防御に専念することにした日向の脇で長巻が空を斬り、地面で石にぶつかって火花を散らす。
 余裕タップリに見せているが、実はそうでもない。当たれば仲間たちのように深手を負うのは間違いなかった。
 反撃しない以上、どこかで一撃食らうのは必定。それまでに仲間が態勢を立て直してくれると信じるしかなかった。
「来い!!」
 普段の限間からは想像もつかぬ口調が、彼の余裕のなさを代弁していた。本当にマズい‥‥
「退こうにも、これでは無理か‥‥」
 西中島は回復薬を呷ると熊鬼たちを睨みつけた。
「このままじゃ、薬が切れちまう。何とかならないのか?」
 懐に飛び込むさえすれば何とかなると高をくくっていた氷川も遂に敵の攻撃に捉まっていた。
 流石に周囲を囲まれて殴りかかられては、自慢の捌きも役には立たない。
 一撃必殺、タイマン勝負に特化されがちな冒険者特有の弱点と言うヤツだ。
 攻撃は最大の防御。確かに一理ある。だが、受けや捌きだけで乱戦を乗り切れるほど戦いは甘くない。
 現に今の状況がそうだ。冒険者側の前衛4に対して諸撃で倍する敵を相手にして前衛が壊滅。
 それでも相手の手数が同数であれば何とかなったかもしれないが、完璧に冒険者たちを上回っている。
 雨宮が1頭を戦闘不能にしなければ回復さえままならなかったかもしれなかった‥‥
「認めねぇ!!」
 1人気を吐き、霞刀を力任せに振り回すクルディアだったが、ごり押しが通じるほど甘い敵ではなかった。
 長巻を装備した熊鬼たちは、クルディアの一撃を多少危なげながらも確実に捌いている。
「ここで援軍かよ‥‥」
 氷川が苦虫を噛み潰したように吐き捨てる。新たに2頭の熊鬼が接近しつつあった。
「このままじゃ‥‥」
 ミリートは、すかさず矢を放つ。
「させないですよ! 豪熱烈破〜♪」
 更に、戦況を見ていた七瀬の火球が2頭の熊鬼を包み、突進の速度が僅かに緩む。
「ふはははは、こちらは我が輩に任せるのである!」
 僅かの間、炎の翼を羽ばたかせ、宙を駆けるジャイアント。
 武者兜と武者鎧に身を固めたウィザードは一気に間合いを詰めると、背後を取って投げっぱなしスープレックス!
「これからであるっ! もういっちょぉお!!」
 残るもう1頭も太腿を取って勢いで体勢を崩すと、掬い上げるように首から落とす。
「ぶもっ、ぶもも!!」
 熊鬼たちは首を振りながらニヤリと笑って立ち上がった。
「ほほぅ、我が輩の投げをくらって余裕であるな。どちらの筋肉が美しいか、はっきりさせてやるのだ」
 得物を構えなおした熊鬼たちの前でゴルドワはムキッと筋肉を見せつけるのであった。

●辛勝
 楽勝だと始めた戦闘は、壮絶な消耗戦の様相を呈していた。
 回復薬がなければ、冒険者たちは確実に全滅していた。
「我ながらつまらない戦い方だな、もっと修行しないと‥‥」
 ほんの少しの気の緩み‥‥ 長巻をかわす日向に僅かな隙が生まれた‥‥ 強烈な痛みに、ぐらっと気が遠くなる。
「しっかりいたせ!」
 我が身に降ってくると思っていた白刃は不動によって打ち払われた。
「日の本の民を脅かす悪鬼羅漢の輩、神皇様に代わり、刀の錆にしてくれるわぁ!」
 大振りの野太刀は捌かれてしまったが、兎も角も戦闘の手が一瞬止まった。
 その隙に仲間たちは反撃に移る一瞬の間を得た。
 だが、一気に3頭の熊鬼に挑みかかられた不動に鮮血が舞う!
「そこだぁ!!」
「‥‥」
「やぁっ!!」
 クルディアの霞刀が、雨宮の居合い斬りが、限間の一撃が1頭の熊鬼に止めを刺した。
「余所見かよ」
 体を密着させるように間合いを詰めた氷川が、月露で鎧のないところを切り裂いていく。
 戦意を失って背中を見せた熊鬼に容赦ない追撃を加えた。
「さぁ、次の得物はどいつだ‥‥」
 土煙を上げて倒れる熊鬼を足蹴にして、血まみれの男は駆けた。
「これで終わりだ!!」
 不動の野太刀が体勢を崩すほどに熊鬼にめり込み、そして倒れた。
「長巻を使う奴らの一撃なら、命はなかったかもしれんな‥‥」
 野太刀を杖代わりに不動は膝をついた。
「あっと、逃がさないよ。これでサヨナラ! Bye-bye!!」
「その通り♪ いっくですよ〜♪」
 ミリートの矢が逃げようとしている熊鬼の目の近くに中り、怯んだところに七瀬の業火が待っていた。
 そのまま、どうと倒れて熊鬼は痙攣し始めた。
「ふぅ‥‥」
 追いついて熊鬼の止めをさした西中島が、激戦の跡を見て溜め息をついた。
 ここまでくれば勝利は間違いないだろう。しかし、まさに辛勝と言うべきであった。
「強かったぜ。意外によ!」
 1対1でクルディアたちに叶うわけもなく、数を減らした熊鬼たちはやがて1頭、1頭と片付けられていった。
「中々の強敵であったな。敵ながら天晴れ‥‥」
 ボロボロになりながら、ゴルドワも限間の助けを得て2頭の熊鬼たちに勝利していた。
 兜や鎧がなければどうなっていたか怪しいが、今は置いておこう‥‥
 何はともあれ勝ったのだ‥‥
 刺すような朝日を浴びながら、一行はホッと一息つくのであった‥‥