シフール特急便 〜 届くか、その想い 〜
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■ショートシナリオ
担当:シーダ
対応レベル:7〜11lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 45 C
参加人数:10人
サポート参加人数:3人
冒険期間:09月01日〜09月06日
リプレイ公開日:2005年09月09日
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●オープニング
江戸の町が騒がしい‥‥
「蜜姫様、こちらです」
「や〜ん」
「逃がさなくってよ♪」
派手派手な‥‥ いえいえ、豪華な着物を着た少女と、その御供と思しき2名がシフールを追いかけている。
「お手紙を届けるのが仕事なのでしょ?」
「そうだけど〜」
追いかけられているのはシフール飛脚便江戸支局局員・月華。
いつもなら要らぬ仕事まで取って来るな‥‥と上司に溜め息をつかせてしまうほどなのだが‥‥
「この手紙を届けてほしいの」
身なりからして、それなりのお嬢様。立ち振る舞いなどから武家の娘だろう。
御付きの者がいるところを見ると、家格が高いか金持ちのどちらか‥‥
「だって、そのお侍さん‥‥ 亡くなられたんでしょ?」
やっぱりこういう展開だ。
「だから、あなたに届けてほしいんじゃない」
「三途の川を渡ったら、素寒貧だから帰って来れないよ」
「大丈夫、身銭くらい持たせてあげます」
「ホント?」
「武士の娘に二言はありません」
そういう問題か?
「冒険者に手伝ってもらっていい?」
巻き込むな‥‥
「構いませんわ。恋文を頼むならシフール便の月華。あなた以外に考えられません」
とまあ、特急便の新たなる話が幕開けたわけである。
さて‥‥
「御武家のお姫様から依頼とってきました♪」
「ここは冒険者ギルドじゃないぞ」
シフール飛脚便江戸支局でのお約束。月華の上司が仕事を続けながら、さり気なく突っ込みを入れる。
「そんなんじゃないですよ。お手紙の配達ですってば」
「ならいいが‥‥」
上司は溜め息1つつくとお茶に手を伸ばす。
「で? どこまで配達するんだ? そんなに貰って」
月華が台の上に置いた巾着から結構な金額が入っていそうな音がした。明らかにシフール飛脚便の料金の範疇ではない。
「お届け先は神田川沿いで見かけるお侍様でね。
気持ちを伝えたいけど伝える勇気がないから代わりにお手紙を渡してほしいって♪」
「そんなもん。普通に冒険者ギルドに持ってけばいいだろ?」
「だって、恋の手紙を運ぶなら月華にすべし。百年の恋が実るって言われてるんだって」
「また、そんな根も葉もない噂を‥‥」
「そこまで言われて運ばなかったらシフール飛脚便の名折れでしょ?」
「違う違う。特急便の月華の悪名が高まっただけだろ?」
「ひっど〜い♪」
相変わらずである‥‥
さてさて‥‥
江戸冒険者ギルドの依頼掲示板の前‥‥
『幽霊侍・戸田大和への手紙配達の護衛を募集』
こんな依頼が張り出されてギルドの親仁も苦笑いするしかない。
「月華が持ち込んだ依頼だって? 毎回毎回、変てこな依頼を持ってくるもんだ‥‥」
「私の大切な方ですから無下に討つなど許しませんからね」
「はぁ?」
「この手紙の差出人ですわ。依頼の報酬も私が出してますの。ですから‥‥ね?」
「冒険者たちがどうするかは知りませんよ。幽霊侍に手紙を届ければ依頼は達成ですからね」
「そんなこと私は知らないわ」
「確認をとって声をかけてはみますがね。ギルドからできるのは、そこまでなんで」
どうなることやら‥‥
●リプレイ本文
●届け、その想い
「恋文を月華が運ぶと百年の恋が実るのかや〜。すごいの〜」
「いやぁ、それほどでも〜♪」
きらきら尊敬の眼差しで見つめるレダ・シリウス(ea5930)に照れ照れする月華。
「恋文‥‥ ちゃんと届けてあげないとね」
「はい。しかとお届けしたく思いまする。恋に生まれや生国の隔たりはないとか、恋する想いは絶対無敵と申しまするゆえ!」
「恋する想いは絶対無敵かぁ。そうだよね♪」
照れるように赤くなる所所楽石榴(eb1098)に釣られるように火乃瀬紅葉(ea8917)も赤面して力説する。
まぁ、こういう話になると盛り上がるのが乙女というもので‥‥
「恋のことは良く分からないですよ。でもでも、死んだ幼馴染への褪せぬ恋心ですか〜。ちょっと憧れちゃいますけどね」
ほんわか笑顔で浸る月華や七瀬水穂(ea3744)に火乃瀬たちも恋する乙女の顔になっている。
そういや火乃瀬は男の子だっけ? ま、それは置いといて。
「じゃが、侍はその‥‥亡くなっておるのじゃろ? もしかして生霊かや?
亡くなったものと百年の恋が実るというのも何ぞ意味ありげじゃな。まさかあの世でなどつまらぬのじゃが」
「そうなのです? 人が死ぬのは見たくないですよ」
「あれだけ元気なお姫様だから大丈夫だと思うけどね」
レダの言葉に過敏に反応する七瀬に驚きながら月華は答えた。
「しかし、幽霊に手紙とは‥‥ なんともまぁ、酔狂な依頼で」
幽霊に手紙渡すなんて聞いた聞いたことないと鋼蒼牙(ea3167)は苦笑いを浮かべている。
「神田川沿いに彷徨い出るとは‥‥ 水辺は霊が集まりやすいとは聞くが、その場所に何かあるのかの。
大抵は思い出の場所か死んだ場所じゃな。どちらにせよ未練があるのは確かなようじゃが‥‥ はて?」
緋月柚那(ea6601)は、兎も角も戸田大和について調べてみることが先決と提案した。
「なぁ‥‥ 本当は生きてるなんてこと、ないよな?
あぁ、もう。俺の頭の中では『実はドッキリでした!』とか、そんなのしか思い浮かばないんだってば」
「大丈夫、死んでるから」
鋼の懸念にキッパリ返す月華。何が大丈夫なんだか‥‥
「月華様‥‥ 身分違いの恋と聞くと相手の方の非業の死を連想して、どうしても『後追い』の念が消えません。
『恋が実る』の言葉が生きる意味であれば良いのですが‥‥」
「その辺は調べておいた方が良さそうだね」
心配そうなカレン・ロスト(ea4358)を慰めるように、月華は彼女の肩に留まって優しく前髪を撫でてやるのだった。
「幽霊に手紙か‥‥ うん、姫の考える事はわからんな。うん」
そう言いながらも鋼も情報を集めに出掛けるのだった。
さて‥‥
戸田大和という名は知られていなかったが、界隈では神田川の幽霊侍は、ちょっとした有名人(?)だ。
並木に佇んでいたり、釣り糸を垂れていたり‥‥
狭い範囲ではあったが何箇所かで見かけられ、月華たちもその姿を見ることができていた。
背格好などの容姿などは事前に聞いておいた戸田大和に一致する。
「依頼人の蜜姫さんとは幼馴染みだったのですよね? 身分違いながらも好きあってしまい、身を引くために彼は身投げでもしたのでしょうか?」
限間灯一(ea1488)が見る限り、恨みを残した表情には見えないし、噂を聞く限りでは人に害をなしたことはないらしい。幽霊だと知らずに隣で釣り糸を垂らした人もいたという話だが、眉唾な話も目の前の物静かな幽霊侍を見れば何となく納得いく気がした。
「あの幽霊さん、怖いの?」
「俺たちゃ慣れちまったよ。それに襲われたとか取り憑かれたとかいう話も聞かないしね」
怖いもの見たさのような好奇心が首をもたげてくるらしく幽霊侍が出没する場所には屋台がたっていた。今だって数人の客が幽霊侍が釣り糸を垂れるのを眺めながら酒を飲んだり、食事をしたりしている。
「あの戸田大和って幽霊侍さんにお手紙を渡しに行くですよ〜。特急便の月華ちゃんと愉快な仲間達に届けられぬ文はないのです♪」
「へぇ、そいつはご苦労なこって」
屋台の親仁が差し出した椀を受け取り、七瀬が美味しそうに蕎麦を啜る。
「父の故郷のジャパンに来て、最初の依頼が‥‥ ゆ、幽霊侍ですからね‥‥
しかも退治ではなくて手紙を届けるのですから‥‥ それにしてもジャパンの風習とは、このようなものなのですか?」
「気にすんな。そのうち神様にでもなるか、妖にでもなるか‥‥ そん時だな」
同じく蕎麦を食べるマミ・キスリング(ea7468)だが、目の前の幽霊をのんびり見学する日本人の様子に戸惑い気味だ。
「とにかく、頑張りますわ。それにしても、月華殿は厄介事に縁があるのでしょうか‥‥」
「ほへ? ボクと厄介事に縁があるんじゃなくて、厄介事の方からちょっかい出してくるんだもん。
いつ声かけてくるかわかんないんだから気にしてもしょうがないの♪」
「そういうものなの?」
「気にしない、気にしない」
チルチルと1本の蕎麦を啜っていた月華が食を休め、自前で持ち込んだ湯飲みで茶を飲んだ。
●その愛
「大和さん、何か未練があってこの世に残ってるんだって」
戸田家を訪ねた天乃雷慎(ea2989)は、大和の父に会うことができていた。
「そうですか‥‥ 大和が‥‥」
「蜜さんというお姫様から大和さんへの手紙を渡してほしいという依頼を受けているんだ。
でも、手紙を渡すだけじゃなくて、僕としては、ちゃんと成仏して貰いたいの。
永久に彷徨い続けることになっちゃうかもしれないから」
大和の父は天乃の言葉に沈黙を守りながらも、やがて静かに語り始めた。
「大和には悪いことをした。私が妻を娶れと強く言わなければ、あのようなことにはならなかったのだ」
切腹して自害した大和の前には手紙が置いてあったのだという。
父の決めた妻を断ることもできず、かといって蜜姫様を慕う気持ちを断ち切れない自分を許してほしいと書いてあったそうだ。
大和の父は蜜姫の気持ちを煩わせることはないと、その手紙をしまっておくことにしたのだということだが‥‥
「これはあなたに預けよう。大和の霊が出るというのなら、父が済まぬと言っておったと伝えてくれ」
「だったら自分で」
「いや、大和に合わせる顔がない。本当は位牌に手を合わせるだけでも辛いのだ。だから、代わりに‥‥」
天乃の言葉を遮った大和の父の言葉は辛く、そして悲しそうだった‥‥
引っ叩いてでも連れて行こうかと思った天乃だったが、震える手で手紙を渡す姿を見ると、それ以上は強くは言えなかった。
限間たちの探索の結果、蜜姫と戸田の間に何かあったという噂は聞かれなかった。
「幼馴染みだったようだけど、それだけだって。2人が恋仲なんて、ない、ない」
などと言われる始末‥‥
限間たちは思い切って月華に頼んで依頼人の蜜姫に会うことにしたのだ。
待ち合わせた一行は蜜姫にどうして手紙を渡したいのかを聞いた。
「私が自分の気持ちを伝えておけば良かったのです。大和が死んでしまって、あの方に何が起きていたのかを知ったの。だから、せめて今の気持ちはしっかりと伝えたいって」
これが本当にあのしつこく追いかけてきた蜜姫様なの? と首を傾げる月華だが、この際どちらが本当の蜜姫様だとかは関係ない。
「恋仲ではなかったんだよね? 周りはそう言っていたけど」
「言わなくても互いにわかっている‥‥ 私はそう思っていたのよ。
一緒にいなくても、言葉を交わさなくても、2人の気持ちは変わらないって‥‥」
蜜姫が寂しそうな顔をするのにいたたまれなくなってフワリと肩に飛び乗ると月華は頬に手を当てた。
「ですから、あの世で結ばれましょうと書きました。それが私の偽らざる気持ち」
大丈夫と言うように微笑むと蜜姫様はそう言った。
「死んじゃ駄目!」
「そうです。後追いして自害など」
取り乱す所所楽と顔色を変える限間に蜜姫は優しく微笑む。
「那須の動乱では死ななくてもいい人が沢山死んだです。水穂の大切な人たちが沢山沢山‥‥
強くはないといっても、人は簡単に死を選ばないですよ。命って、そんなに簡単なものじゃないです〜」
「そうね。戸田殿が亡くなったのは残念だと思うけど、あなたが命を落とすことはない」
唇をキュッと結んでポロポロと頬を濡らす七瀬の肩をマミがそっと抱きしめた。
「えぇと‥‥ 戸田大和な? 幽霊として出てきてはいるんだが‥‥ 一応、死んだ人だろ?
そんな人にそんな手紙渡してどうするんだ?」
場の重い空気に耐えられず鋼は静かに息を吐いた。
「伝えられなかった気持ちを伝えたいのです。
伝えられるのなら伝えたい! 父上や母上に遠慮などするのではなかったと後悔してるの」
蜜姫の言葉には決意が漲っていた。これからを生きていくには未練を断っておきたい。そんな強い意志が伝わってくるような気がした。
「悲恋ですね‥‥」
カレンは同情するようにポロッと涙を流した。
「幽霊と知りつつも相手を想う。少し憧れまする‥‥ お任せくださいませ。紅葉、その想い、必ずお届け致しまする」
「お願いね♪」
頬を染める火乃瀬に、蜜姫は元気よく笑顔を返した。
「それにしても恋にも様々な形がありまするな‥‥ 灯一さん、これも試練と思うて、共に頑張りましょうぞ!」
照れ隠しに力強くそう語る火乃瀬に、限間は微笑んで頷くしかないのだった。
●さらば幽霊侍・大和よ永遠に
「よく似合っているのじゃ」
「紅葉は男に御座りまする」
蜜姫様と似た格好をした火乃瀬に満足そうに頷く緋月。
「いいお嫁さんになれるよ♪」
「そうですね〜♪」
ウンウンと頷く月華や七瀬と一緒に限間も頷いている。
「紅葉は男に御座りまする‥‥」
じと〜っと訴えかけるような視線を火乃瀬から投げかけられて、限間は思わず苦笑いしてごまかした。
「そう‥‥ですね。これも試練でしょうか‥‥ 戸田大和が成仏できるように頑張るしか‥‥」
蜜姫様と同じような格好をした者がいれば戸田大和の食いつきもいいのではないかという思いつきだったのだが、髪の色やら体型を比べると火乃瀬しかいなかったのである。どキッパリ!
さて‥‥
釣りをしている戸田大和を発見した月華たちは、早速話しかけることにした。
「足はあるけどなぁ。向こう側が透けちゃってるよ。やっぱ幽霊か‥‥」
鋼は万一に備えて腰の刀の鞘に手をかけた。
手紙を渡すのは仲間に任せるとして、相手は幽霊‥‥ 最低限の警戒は必要だろう。
「大和さん♪ 蜜さんから、お手紙だよ♪」
そんな鋼の心配を余所に、物怖じもせず天乃は幽霊に話しかけた。
「密姫様‥‥」
ぼんやりと幽霊侍が反応した。
「聞いたよ。キミが現れるのって蜜さんとの想い出の場所なんでしょ?」
やがて幽霊は元の姿勢へと戻っていく。
「何かしてほしいことがあったら言ってよ。なにか手助けしてあげたいんだ、無性にね」
「うん、蜜姫がキミのことを気にしてたよ。
なぜ幽霊になってまでこの世に残っているのか、教えてくれたらボクたちでできることはしてあげるからさ」
「そう。いつまでもここにこうしておっては良くないのじゃ。未練の残った霊は悪霊になると言われているのじゃ」
天乃と所所楽、緋月も加わって力説するが、効果は薄いようだ。
「大和、あなたと一緒になりたかった。せめてあの世で結ばれましょう」
「蜜様は、そう言っておられました」
手紙を暗唱する火乃瀬をカレンがフォローする。
戸田大和の霊の意識は薄弱なようだが、『蜜』のことには反応を示している。さて、どうしたものか‥‥
「自分が死んでおることはわかっておるのかの?」
レダの言葉に戸田大和の霊が頷く。
「姫さんを連れて行きたいのかの?」
戸田の霊は、今度は首を振った。
「占い通りじゃ。やはり、この男は姫さんに生きて幸せになってくれと思っているのじゃ」
「手紙‥‥ 蜜姫様‥‥」
力強く頷く戸田大和の霊は涙を流してレダの方を振り向いた。
「キミの遺書、預かってきたんだ。これを蜜さんに渡そうと思うんだけど、それでいい?」
遺書に気づいた戸田大和の霊は、ゆっくりと頷くと天乃にニコリと笑った。
「ピュアリファイは必要なさそうですね」
カレンは姿を薄れさせ、光となっていく戸田大和を見上げて神へ祈りを捧げた。
「2人とも素敵な方だけに悲しゅうござりまする」
「そうですわね。でも、私も一途な恋をしてみたいですわ‥‥」
微笑む火乃瀬とマミの目尻も‥‥、いや誰彼と言わずにうっすらと濡れているのであった。
「ねぇ、月華ちゃん。幽霊さんへの配達の依頼が来るって、一体どんな風に月華ちゃんの評判が流れているんだろうね?
今度、ギルドに調査依頼出してみようか?」
「止めてよ〜♪ あの世のおっかさんに手紙を届けて返事を貰ってきてくれ〜とか、九尾の狐に果たし状を渡してきてほしいとかね、無茶言う人いるんだから」
天乃と月華のやり取りに笑みを取り戻した一行は、その場を去ることにした。
月華たちは幽霊侍が成仏したのを見届けて蜜姫様の元を再度訪れた。
「戸田大和様より密姫様へ、お手紙を届けに参りました」
本人からの返事が来るとは思っていなかっただけに、ひどく嬉しそうな蜜姫を見て、『黄泉で恋が成就すれば良い』というのは悲しいことなのではないか‥‥と限間は思うのだった。何か救われることがあったとすれば、戸田大和の遺書に『私は、あなたの胸の中でいつまでも生き続けたい』、そう書いてあったことだろうか‥‥
そうそう、後に月命日に供え物をして手を合わせている蜜姫様を月華たちは見かけることになるのだが‥‥