3匹の豚鬼

■ショートシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月10日〜07月15日

リプレイ公開日:2004年07月20日

●オープニング

 江戸近郊の峠道。交通の要衝であれば問題になっていたであろうが、人通りの少ないこの峠道では力を入れて問題解決しないのは仕方ないのかもしれない‥‥
「ブヒブヒオーク」
「ブブヒイオーク」
「ブブヒオーク」
 近頃、この街道には体格の違う豚鬼が3匹棲みついていた。藁で作った掘っ建て小屋、土壁の家、石造りの小屋、別々に暮らしているらしい。目撃者の話によると仲の良い兄弟のようであったと言う。その話はともかくである。特に里へ被害が出ていないからいいようなものの、何とかしなくては里の者たちは安心して眠れないとギルドに依頼を出したというわけだ。

 村の若者曰く。
「鬼は邪悪なもの。相場ではそう決まってらぁ」

 ギルドの受付曰く。
「原則的に悪とは言え、臆病な鬼や優しい鬼がいてもおかしくはない。倒しちまうのが手っ取り早いが、聞いた感じそんなに悪い奴らには見えないんだよな。何も考えずに倒しちまうのも気持ち悪いっちゅうか‥‥ まぁ、依頼の希望をどう判断するかは君ら次第だがな‥‥」

 物知り曰く。
「鬼たちの言葉を解することはできない。しかし、何を言っているのか、なんとなくわからなくもないことがあるし、魔法や闘気を用いれば意志の疎通が可能かも知れぬ。何事も試すのが大事‥‥」

 さて、あなたたちの判断は如何に?

●今回の参加者

 ea0176 クロウ・ブラッキーノ(45歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea0452 伊珪 小弥太(29歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 ea0646 ヴィゼル・イヴェルネルダ(27歳・♂・ウィザード・人間・ロシア王国)
 ea0789 朝宮 連十郎(37歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea1170 陸 潤信(34歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea1454 安西 玉助(32歳・♂・忍者・ジャイアント・ジャパン)
 ea2001 佐上 瑞紀(36歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea2046 結城 友矩(46歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2900 河島 兼次(40歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea3550 御子柴 叶(20歳・♂・僧侶・エルフ・華仙教大国)

●リプレイ本文

●鬼といえども
「あいつらやっつけっちゃってください!!」
 村の若者たちは滅多に見ることのできない冒険者を目にして興奮気味だ。
「よく考えて下さい、彼らは貴方達に何か悪さをしてますか? 彼らを外見や人外の者だからと、それで全てを悪いと判断してはいけません」
「でもよぉ」
 陸潤信(ea1170)が真摯な眼差しで若者たちを見つめると、彼らは少したじろいた。
「まずは、豚鬼さんを何とかするのが先決だすね。オラは、忍者で言葉の疎通が出来るほどの魔法は持ってないだす。でも、一生懸命がんばれば、きっと豚さんだって解ってくれる筈」
「立ち退いて解決するのなら、それにこしたことはないじゃないですか」
 不満を表す若者に安西玉助(ea1454)と潤信が熱心に説いてゆく。
「豚鬼達を立ち退かせるだけとは不本意だ。将来に禍根を残すだけだろうに」
「だろ、だろ?」
 結城友矩(ea2046)が不満を漏らす。現実問題としてはその通りだろう。冒険者の中に賛同者を見つけて若者たちも士気を盛り返すが、他の仲間の視線も痛い。
「そりゃ、違うんじゃねーの? 完全悪でない限り、例え鬼でも生奪することはないってばよ。互いの領分をわきまえた暮しが望ましいけどさ、その上で共存が望めるのなら是非推奨するぜ」
「そうですよ〜。もともと臆病で大人しそうな感じの豚鬼さん達ですし、少し脅かしたら立ち退いてくれますって」
 取り敢えず殴ってから考える伊珪小弥太(ea0452)も今日は坊主らしくしているし、御子柴叶(ea3550)も殺生に関して坊主同士気が合うらしい。
「やってもみないで決めつけるのは良くないですよ」
「‥‥」
 自分も真剣に物事に取り込むほうだ。結城は潤信の真っ直ぐな視線に根負けした。
「奴等を始末するほうが余程世の為人の為になるはずだ。だが、仕方ない。仲間の意見がそちらに傾いたのだから。豚鬼どもめ不穏な動きがあれば容赦なく斬り捨て刀の錆にしてくれる。そなたらもそれでよいか?」
 唯一の味方であったはずの結城が折れたことにより里人たちは一応の納得をした。

 長老たちをはじめとする里人の協力もあって潤信たちは里の近隣で豚鬼たちが住めそうな場所を探索した。
 川が近くにあって、食べ物もそこそこ取れるところ。玉助の探し出した場所は、今は使われていない猟師小屋だった。
「おらも、ある意味バケモノじみているからちょっと阻害されるのはいやだすね。今回の豚さんだって、悪い事はしていないのに、悪者扱いじゃ可哀想だす」
 山菜も自生しているし、実をつける木もそれなりにある。近くには見晴らしのいい岩の張り出しがあったりするから、退屈もしないだろう。

●ファーストインプレッション
「他にもこの峠に豚鬼が住み着いてるよね。君たち兄弟なの?」
 潤信がオーラテレパスで豚鬼と意思の疎通を試みている。
「そうさ。俺たち仲いい。でも、弟たちみたいにするの面倒。俺、ここ好きオーク」
「近くに住んでる人間たちが困ってるんだよ。別に住めそうな場所を見つけたから、そこに移ってくれないかな」
「ヤダよ。ここが気に入ってるオーク」
 折角、潤信や朝宮連十郎(ea0789)や玉助たちが里の者たちに頼み込み、足を棒にして住めそうな場所を探したのだが、それを説明してもそんなことは知ったことではないらしい。
「そうは言っても、みんな困ってるんだ。わかってくれませんか?」
「ヤ〜ダ、オーク!!」
 ブヒッと鼻を鳴らすと潤信に背を向けた。
 小屋から顔を出した潤信の表情を見て、伊珪は交渉が失敗したと直感した。それを決定付けるように潤信が首を振る。
「穏便に話し合いましょう。でないと暴れてしまいそうです」
 通じるわけではないのだが、伊珪はワザとらしく大声で言った。
(「合図だな」)
 程度に差はあれ、冒険者たちは豚鬼たちの命をとろうとまでは思っていない。朝宮もその1人である。来る途中に拾った木の棒を払うと、意外なほど簡単に藁の掘っ建て小屋は吹き飛ばされた。それでも小屋だったとわかるくらいには残っている。
「ハァッ!!」
 大黒柱と思しき柱に結城が体当たりをかける。バキッ!! 軽い音を立てて、一番太い柱は簡単に倒れた。
「ビー!!」
 豚鬼が腰を抜かす。
「豚はシネ!」
 朝宮が倒れずに残った柱を蹴飛ばす。
「豚鬼さんをちょっと脅かすだけですからね。やりすぎたら駄目ですよ〜。手加減して‥‥」
 叶が声をかけると、朝宮はストレス発散にウキウキ気分で藁小屋を破壊している目は爛々と輝いている。
「地獄の沙汰も金次第? みたいな?」
「えっ? 有料ですか!? う〜‥‥ しょうがないです‥‥」
 もそもそと財布の中からお金を出すと、叶は朝宮に1Gを握らせた。朝宮は単にからかっているだけなのだが、叶は本気なのだから面白くてしょうがない。
(「からかい甲斐のある奴だな」)
「毎度あり。よかったなぁ。オラオラ」
 豚鬼をさけるように木の棒が振るわれ完膚なきまでに藁小屋が破壊されると、豚鬼は転がるように逃げ出した。
「土壁の小屋で会おう」
 朝宮はそれを追いかけていく。
「さて、次でござるな」
 結城は、すでに土壁の小屋へ向かって歩き出していた。

(「おしかけ女房大作戦☆ですョ。ウフ」)
「種族や言葉の壁を超えるモノ、それは‥‥愛!」
 里の女子(おなご)の服やら何やらを持ちだして女装して石造りの小屋に躊躇なく入っていく偉丈夫が1人。火を使う術師でクロウ・ブラッキーノ(ea0176)である‥‥ この格好で街中に現れたら怪しい奴と奉行所にしょっ引かれても文句は言えまい。
「ブヒ?」
 小柄な豚鬼は何が起こったかわからない。
「アタイ‥‥ あんたに一目惚れしちまったよ‥‥」
 擦り寄って瞳をキラキラさせているクロウに、小柄な豚鬼は完全に硬直している。
 そのうちに、床にひかれた藁を纏めると箒(ほうき)のようにして掃除を始めたり、クリエイトファイヤーで囲炉裏に火をつけてお茶を沸かしたりしている。
「ブ、ブヒオーク‥‥」
「遠慮しなくてもいいのに」
「ブヒ〜〜」
 豚鬼の悲鳴を引きながら無理矢理に膝の上へ引き倒すと、クロウは膝枕で耳掃除を始めた。
 完全になし崩しに押しかけ女房に納まっているが、違和感は否めない。ラブラブ同棲生活というよりは、豚鬼にとっては天災と言うべきか‥‥

●セカンドインプレッション
「ここ、頑丈だオーク!!」
「そうオーク!! 俺たちの城、お前たち壊せないブヒ〜」
「この城!! 俺たち、守ってくれるオーク」
「‥‥って言ってるよ」
 ここでも潤信のオーラテレパスで豚鬼と交渉を試みたが、体格の良い豚鬼と普通の豚鬼‥‥ どうやら本当に兄弟らしいが、変に頑固で潤信の言うことなんか全然聞こうともしない。それというのも土壁の家の中に隠れていれば大丈夫という訳のわからない自信から来ていた。
「話を聞いて下さーい」
 伊珪の声に豚鬼たちは扉を閉めてしまった。
「では、仕方が無い。これもお互いの平穏のためだ。悪く思わないでくれ」
 河島兼次(ea2900)の掛け声で一斉に仲間の刀が振るわれた。
 ボコッ、ババンッ!! 結城のバーストアタックで土壁は形を失っていく。
「巻き込まれないでよ!!」
 ズババババッ!! 扇状に衝撃波が土壁を襲い、ボロボロと崩していく。当然、仲間を巻き込まないわけない。
「注意はしたからね」
 佐上瑞紀(ea2001)は続けてソードボンバーを放とうとしている。
「つっ、俺もまだまだか‥‥」
 修行中のみである河島は、未だ自分の流派を会得していない。それゆえに、佐上のソードボンバーの巻き添えをくらいながらも、純粋にCOの威力に感心し、憧れていた。
「大丈夫ですか〜?」
 叶がリカバーで河島を回復する。
「そっちも‥‥」
「拙者は心配無用」
 オーラリカバーで傷を癒して結城は攻撃を続けようとしている。
「あの‥‥」
 何度もCOをくらって半壊状態の小屋へ交渉しようと伊珪が試みたが、さすがにこの状況ではどうしようもない。
 結城のバーストアタックが大黒柱をへし折ると家は倒れ、土煙が濛々と起きた。
「ブヒッ」
 河島のすぐ側を豚鬼たちが逃げていく。だが、ここで倒す必要などない。拠って立つ家を壊すことで、豚鬼たちを例の猟師小屋へ移住させるためであった。
 豚鬼たちの逃げていく先は一番体格の小さい豚鬼の住む石造りの小屋‥‥
「個性的な鬼達よねぇ‥‥ こちらの行動に対してどういう反応が返ってくるでしょうね?」
 佐上は純粋に状況を楽しんでいた。

●サードインプレッション
 2匹の豚鬼たちは作戦通り石造りの小屋に逃げ込んだ。
「これからだな」
 硬く石造りの小屋の扉を閉じた豚鬼たちは伊珪たちの呼びかけに応じようとはしなかった。
「それならば俺に任せてくれ」
 河島は石組みを利用して小屋の上に登りはじめた。
「気をつけろよ」
 河島は大丈夫と手を振る。
「ここからなら‥‥」
 屋根の煙抜きの穴から潜り込もうとしたが、河島はお湯を炊いていた鍋に落ちた。
「熱っ!!」
 扉を開け放った河島がお尻を抱えて飛び出す。
「あら大丈夫ぅ?」
 冒険者たちが踏み込んだ石造りの小屋の中には怯えたようにクロウの膝に頭をすり合わせていた。
「大丈夫、私が守ってあげるから」
 囲炉裏で沸かしていたお湯はこぼれていたが、少し残っていたのでそれを冒険者たちに注いだ。
「ああ、私って妻の鏡?」

 結局、豚鬼たちとの交渉は決裂した。
「頼むだよ。おとなしく話を聞くだがや」
「ブヒィブブブッ!!」
 暴れることをやめない体格の良い豚鬼を、玉助はやむなく締め上げて気絶させた。
「大丈夫。気絶しただけだから‥‥ それよりも、とりあえず小屋を壊してしまうだす」

 朝宮たちが石造りの小屋を壊そうとするが、木の棒は簡単に折れてしまい、さすがに相手が石では日本刀で斬りつける訳にもいかなかった。
「拙者の出番でござるな」
 ここでもやはり結城のバーストアタックが物をいった。石の小屋は徐々に壊れていき、豚鬼たちは恐怖に震えている。
「うふふふ‥‥ ソードボンバーで吹き飛ばしてあげるわ」
 佐上のソードボンバーが屋根や窓を吹き飛ばして、最終勧告の雰囲気作りは終了した。

 変に頑固で強気だった豚鬼たちも、さすがに拠って立つものがなくなって震え上がっている。
「これ以上ここにいると危険です。この人達は何をするか解りませんよ、本当ですっ! さぁ、森へお帰り‥‥」
 言葉が通じないが、うるうると涙目で訴える叶の伝えたいことは何となく理解できたのか‥‥、いや単に逃げただけなのだろうが豚鬼たちは石造りの小屋から逃げ出した。
「さようなら豚鬼さん。もう人の居る所に出てきて家を建てちゃあ駄目ですよ〜」
 叶は豚鬼に手を振っている。
「あんたが居ない間、アタイが立派にこの家を守ってみせるヨ!」
 クロウが手をブンブン振るのを見て、一番小さな豚鬼はどこかホッとしているようだ。
「うーむ、イイコトをした後は気分がいいな」
 破壊活動で発散して、程よく叶をかまった朝宮は満足げに小屋を後にした。

●立ち退き完了
 石造りの小屋から逃げた豚鬼たちを追いかけた潤信は山へ逃げ込んだ豚鬼たちに追いつくと回りこんで土下座した。
「手荒なことをして本当にごめん!!」
 しばらくは豚鬼たちも面白がったり、からかったりしていたが、オーラテレパスで謝罪しながら何度も何度も頭を下げる潤信を見て何か思うところがあったようだ。
「もういいブヒ」
「俺たち気にしない、お前も気にするなオーク」
「人間にもお前みたいな優しいやつがいるんだな‥‥ ブヒヒ」
 潤信を立たせると、豚鬼たちは仲良く手を取り合って小屋へ向かった。
(「彼らが例え人外の者だといえ、危害を与えてもいない彼らを問答無用で斬殺させる事はどんなことがあっても許せません。彼らも同じ生き物ですから」)
 潤信の願いは一先ず叶ったと言えよう。豚鬼たちの背に手を振って見送る表情は晴れ晴れとしていた。

●そういう話じゃ
 3匹の豚鬼が里近くの峠から排除され、様々な思惑で満面の笑顔を浮かべた冒険者たちが去ってから数日‥‥ 里の長老とも言うべき翁のもとへ江戸で暮らしている息子夫婦が孫を連れて遊びに来ていた。
「ねぇ、じじ。ぼーけんしゃがたくさん来たんでしょお? そのときのおはなし聞かせて、聞かせて〜」
「しょうがないのぅ」
 童を抱っこした翁は縁側に連れて座った。

 事の顛末を思い出すように話す軒先には鳥の声が響き、燦々と陽がさしている。童は足をパタパタさせ、退屈そうにその話を聞いていた。
「変なの。それで、どんな話だったの?」
「見かけで判断しては危ない‥‥ そういう話じゃ」
「わかんないよ」
 首を傾げる童に翁も苦笑いをするしかない。
「そうじゃ。来てくれた冒険者の中には、里に残ってくれた者もおったんじゃ。手の速い奴じゃったのぅ。ヴィゼル・イヴェルネルダ(ea0646)‥‥ 忘れもせんわい」
 頭のコブをさすりながら続けて話す。
「奴の伝え聞いた昔話を無理矢理聞かされての‥‥ 内容はともかく、言うことはわからないでもなかったの。
『鬼は怖いけど、里に何もしてないし、何もしてない鬼を倒すのっていいとは言えない。下手したら俺達、中身が鬼と変わらなくなっちゃうよ?』
 とな‥‥ 村の人達を責めようなんて思ってないと言うておったが、あれでは暗に責めておるのと同じじゃ。
『おとなしい豚鬼もいるんだよ』
 と言われた時に多少は考えさせられたわい」
「じじ?」
 遠くを見つめる翁の膝を童が揺する。それに気がついて翁はニッコリ笑った。
「実はの‥‥ 3匹の豚鬼は、この里の近くの山に住んでおるのじゃ。潤信殿らの言うておったとおり悪さもせず、のんびり暮らしておるようじゃの」
「あってみた〜い」
「ダメじゃよ。お互いに近づかぬと約束しておるからの」
「え〜。あう〜。あいた〜い」
 翁は駄々をこねる童の頭を優しく撫でた。