【魔物ハンター】奥の秘密

■ショートシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:2〜6lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 3 C

参加人数:6人

サポート参加人数:4人

冒険期間:10月18日〜10月23日

リプレイ公開日:2005年10月26日

●オープニング

 刀を向けた武士は、その刃が女の姿をすり抜けるのを見た。その姿は半ば後ろの風景が透けている‥‥
「助けてくれ!?」
 振り向いた先にいるはずの仲間の姿がない‥‥
「うわぁあああ!!」
 自分が見捨てられたのを知った武士は形振り構わずに逃げようとするが、足腰に力が入らないのか、その歩みは遅い‥‥
「ふふふ、私たちが生きられなかったのは、つまらない武家の体面のせい‥‥
 重蔵様、あなたを殺した武士たちを皆殺しにして差し上げますわ‥‥」
 若い武家の女の忍び笑いが武家屋敷の一角に静かに染み渡る‥‥

 さて‥‥
 冒険者ギルドに舞い込む様々な依頼の中には依頼自体が世間的に秘密であるものも多少はある。
「よく来たわね。ここは魔物退治専門の請負人、魔物ハンターの部屋。
 いつもならもっと熟練の冒険者に頼むのだけれど、依頼人が渋ったせいで今回は予算も少ないの。
 それで、あなたたちに声をかけたのだけど気を悪くしないでね。
 まぁ、あなたたちくらい経験を積んだ冒険者なら倒せるとふんで頼んでいるわけだから仕事はしっかり頼むわよ。
 尤も、その分だけ報酬も多いのだからいいわよね」
 江戸冒険者ギルドの一室に円卓に7つの椅子。そして、机の上には木板が置かれている。
「今度のターゲット、つまり退治する目標は、怨霊と化した武家の女よ」
 鳥仮面の女・イェブは、冒険者たちが何か言い出そうとするより先に話し始めて木板を指差した。
「事情があって恨みを残したらしいけど、生きている者たちにとっては迷惑この上ないって訳」
 イェブが指差す木板には武家の女が描かれている。
 服装からして家格の高そうな、もしくは財産を持っていそうな様子の女の姿が描かれている。
 姿を見る限り危険ではなさそうだが、相手は怨霊である。一筋縄ではいかないだろう。
「とある武士たちが退散させようと押し寄せたらしいんだけどね。幽霊と戦う術を知らないようでは返り討ちという訳。
 そこで魔物ハンターの出番よ。依頼人の面子に関わることだから、できるだけ目立たないように確実に倒して欲しいの。
 幸いにも屋敷から動く気配がないから探す必要はないわ。残り半分は、勝って帰った後に空けましょう」
 イェブは魔物ハンターたちを見渡すと、ワインをベルモットをコップに注いでいく。
「それでは乾杯」
 冒険者たちがコップに口をつけたのを見て、イェブは自分のコップを傾けた。

●今回の参加者

 ea6161 焔衣 咲夜(29歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ea8388 シアン・ブランシュ(26歳・♀・レンジャー・エルフ・ノルマン王国)
 eb2585 静守 宗風(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb2658 アルディナル・カーレス(38歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 eb2905 玄間 北斗(29歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb3496 本庄 太助(24歳・♂・志士・パラ・ジャパン)

●サポート参加者

ニライ・カナイ(ea2775)/ 風斬 乱(ea7394)/ 天霧 那智(eb0468)/ 陸堂 明士郎(eb0712

●リプレイ本文

●起こり
 近所で噂話をするおばちゃん、ごふ‥‥ おねえさんたちの輪にとけこんで玄間北斗(eb2905)は噂話を収集中。
「へぇ〜、大きな御屋敷だと思ったら御武家様のお屋敷なのかなのだ。ここの娘さんが亡くなったって聞いてビックリなのだ」
 依頼人の希望により家名を記すことはできないが、それなりに家格の高い、それに見合った大きな屋敷である。
「器量良しでお年頃だったんですのよ。何でも輿入れ直前の御不幸だったとか」
「うんうん」
 ほのぼのとした風体が油断を誘うのか、おねえさんたちの口も軽めである。
「好いている人と一緒になれなくて駆け落ちしようとしたんですって」
「あら、私は30も年上の男と結婚させられそうになったと聞きましたわよ」
「違いますわ。男が五股かけていたんで怒ったお姫様の父上が手打ちにしたと」
「餅を喉に詰まらせて亡くなったと聞いたのですが、違うのでしょうか?」
 口々に好きなことを言っている気がするが、得てして真実が紛れていることも多い。
「要するに、ぽっくり逝ってしまいそうな老人と無理矢理結婚させられそうになって好いた男と駆け落ちしようとしたのね。
 相手の男は喉に餅を詰まらせて死んで、お姫様は五股かけていた男たちに斬り殺されたってことだわ」
 おねえさんの1人が頼んでもいないのに勝手に話を合成しはじめた。
「ホント怖いですわ」
 こんな風に変節しながら尾ひれまでつくこともあるから噂は怖い。
「そんな悲しい事があったのか、なのだっ」
 玄間は思わずほろり。つか、信じるかっ‥‥

 とまぁ、こんな具合で皆、あちらこちらで情報収集してるうちに依頼人さんの家来の目にとまってしまったらしく、首根っこ掴まれて屋敷へ直行させられてしまった。
「幽霊は屋敷の外には出ないらしいよ。
 それから、これが屋敷の見取り図。終わったら必ず返却することって、御家人までつけられたよ。信用ないのかな」
 本庄太助(eb3496)は、律儀に地図から離れない御家人に苦笑いを浮かべる。
 しかし、武家屋敷の見取り図は言わば城の見取り図や縄張りと同じくらい重要な物なのだから仕方ないとも言える。
「なぜこのような怨霊が棲みついてしまったのでしょう?
 怨霊とは言え、紛れも無く生前は人。できれば、争い事などせず、静かに道を示したいところですが‥‥」
 焔衣咲夜(ea6161)は表情を歪ませた。
「答える必要を感じません。兎に角、あの悪霊を退治してほしいのです」
「もう少し答えてくれないかな‥‥ 相手は人の成れの果てだろ? 気持ち良く退治って訳にはいかないだろうけど少しは納得したい。
 今回の原因を聞いてみたいが‥‥ 素直に教えてくれるかね?」
 問答無用とばかりの御家人の対応にアルディナル・カーレス(eb2658)は、思わず溜め息をつく。
「理由はなんであれ、女の人が悲しい存在になってしまうのは心が痛むのだ。
 ただ生者の邪魔だからと退治してしまったら悲しすぎるのだ。
 出来ることなら、執着を解きほぐし、天に還してあげたいのだ」
「主家に関わることですから‥‥ この辺りでご容赦を」
 玄間の雰囲気にも絆されないところを見ると、これ以上は無理そうだ。
「ところでさ。その幽霊って夜しか出ないの?」
「特にそういうことはありません。庭の桜の木の下によく出るくらいでしょうか。見取り図で言えば、ここです」
 本庄の問いに御家人は淡々と答える。
「ちなみに他の場所にも出ますのでお気をつけて」
 どうやら、律儀だが融通の利かない人間に思えた。
「祖国のイギリスでは幽霊は壁をすり抜けたりすると聞いたが、ここにいる幽霊はどうなのだ?」
「すり抜けるのを見た者がいます」
 アルディナルの問いに御家人は即答した。しかし、要するに与える情報は最低限。余程事情を知られたくないのだろう。
「怨霊が壁をすり抜けるなら‥‥ 裏をかかれない様にな‥‥」
 口数の少ない静守宗風(eb2585)がポツリと言い、熱心に間取りを頭に入れ始めた。
「そうね。外へ逃がすのは厳禁だもの。屋敷の外の様子は、ここに書き留めてあるから参考にして」
「その図面も仕事の後に回収させていただきます」
「構わないわ。依頼が終われば必要ないものだもの」
 御家人の真面目さに苦笑いしながらシアン・ブランシュ(ea8388)は仲間に地図を見せた。
「それにしても魔物ハンターだなんて、俺もこれで一端の冒険者って感じ? 確実に仕事こなさいとな」
「期待しております」
 本庄の独り言にまで律儀に突っ込む御家人に冒険者たちは少し呆れ顔だ。
「せめて怨霊の名だけでも教えていただけないのでしょうか?」
「無用に御座います」
 焔衣たちは、これ以上何を聞いても無駄だということを悟った。

●桜
 怨霊が武士を狙うということを御家人から教えてもらった一行は、静守と焔衣を囮役に配置の展開が容易な庭へ誘き出すことにした。
 やはり、壁をすり抜けることのできる怨霊に対して狭い室内での戦闘は不利だと感じたからだ。
「何とか成仏させてあげたいですね‥‥」
 焔衣は静かに息を吐いた。
「そういうのは倒してから考えてくれ。イェブにも言われたが強敵なのだからな」
 静守は銀の槍を構えながら身だしなみを武士らしく整え、御家人があつらえてくれた着物でビシッと決めている。
「はい。しかし、まずは囮に喰いついてくれるかですね‥‥」
 冒険者たちの思惑はあっさりと効果を表した。
「重蔵様の仇、武士は皆殺しにして差し上げましょう」
 姫の怨霊の形は、美しいだけに凄惨さを感じさせた。
 しかし、美しさに惑わされてはいけない。既に何人かが死に追いやられているのであるから‥‥
「名前を教えてくださいませんか?」
 焔衣は慎重に口を開いた。警戒用に唱えたデティクトアンデットを信じる限り、他に不死者たちの気配は感じない。
 それならば、この場で戦うのが最良。そのためにも仲間たちが配置に付くまで何としても時間を稼ぐ必要があった。
 できればグットラックによる御仏の加護が切れる前に戦闘に入りたいが、やはり多少の時間は必要である。
「名? そのようなことを聞く者は初めてですね。私の名は桜」
「もしかすると重蔵様は桜様のことを想いながら、ここを死に場所にされたのでしょうか‥‥
 そして、桜様は重蔵様が命を落とされた桜の木に執着なさっておられたのですね‥‥」
「そう、この場で重蔵様は‥‥」
 実際に流れているわけではないが、桜姫の怨霊の頬に涙が一筋流れた。
「私どもにできることはないのでしょうか‥‥ できることであれば御力になります」
「要らぬ世話! 武士たちを皆殺しにせねば、この気持ちは収まらない」
 焔衣の説得を桜姫の怨霊は拒絶して吐いて捨てた。
「訳があるのは百も承知‥‥ だが、だからと言ってこのまま放置してはおけないのでね‥‥」
 アルディナルは騎士の赤に彩られたマントをはためかせるように月桂樹の木剣+1を抜き払う。
「貴方の愛した人はすでに天に昇っているのだ。貴方の愛した人はそのような事を望むような方だったのか、なのだ」
 微塵隠れで怨霊から中距離の位置を確保した玄間は手裏剣に長い紐を結わえた自作の武器を構えた。
「戯言を。数を繰り出せば良いとでも思うたか。皆殺しにしてくれる」
 怨霊の表情は恨みに凝り固まっている。説得は無駄なようにシアンは思った。
「事情がどうであれ容赦はしないわ。怨霊として留まる事が彼女に良いとは思わないから。
 愚痴なら生まれ変わった後に聞いてあげる。私、長生きだから待ってるわ♪」
「重蔵様と一緒のこの世でなければ意味はない。殺す‥‥ 武士たちを皆殺しに‥‥」
「斬らねばならない。余計な感情を持ち込むな」
「お前から死ぬのよ」
 静守の言葉に呼応するように桜姫の怨霊が動いた。
「くっ‥‥ 不覚」
 静守は脱力感を感じながら悔いた。
 手にしている銀の槍で銀製なのは穂先のみ‥‥ 触れようとしてくる怨霊の攻撃を反射的に柄で受けてしまったのである。
 魔力以外では特別な素材の武具でなければ怨霊の体に触れることも叶わないと忠告されていたにもかかわらず、相手に傷を負わせることができるという安心からきた油断だった。
 接近戦になりがちな囮役の静守にとって、防戦一方になれば銀の槍は邪魔になりかねなかった。
「しっかりして。体勢を立て直すんだ!」
 本庄のアイスチャクラが桜姫の怨霊を切り裂いた。
「信じられぬ‥‥ 刀など私に触れることもあたわなかったのに‥‥」
 怨霊は静守との距離を保ったままだ。
「仕方ない!」
 帰ってきたアイスチャクラを何とか投げる。しかし、再び怨霊を切り裂いたアイスチャクラを本庄は受け取ることができなかった。
「無茶なことを」
 焔衣が駆け寄ってリカバーの詠唱を始めた。
「距離をとって戦うのだぁ」
 玄間は自作の武器を振り回すが、揺ら揺らとそれほど素早くは見えない怨霊の動きにもついていくことができない。
「小癪な輩め」
 それでもアイスチャクラの威力を身を以て知って目くらましになったのか、桜姫の怨霊は一度静守から引き離された。
「このままじゃ‥‥ 一気に畳み掛けるぞ」
 再び近付き始めた怨霊を見てアルディナルは静守の不利を悟った。
「お嬢様、力尽くで天国――ジャパンだと極楽? へ送る事になるけど許して頂戴。いつまでも援護できないわよ。さっさと決めて!」
 キューピッドボウ+1から放たれたシアンの矢が怨霊を捉えた。
 短期決戦にかけようとアルディナルは包囲網を狭めるように指示を出し、一気に勝負に出る。
「悪く思うな‥‥」
「邪魔をするな。異国の者よ!」
 触れられて生気が失われるのを感じながら、アルディナルは思い切り威力を載せた月桂樹の木剣をカウンターで叩きつけた。
 宙に結ばれていた像が揺らぐ。
「貴様は殺す‥‥」
 近寄ろうとする怨霊に静守は容赦なく槍の重さを載せた一撃を繰り出す。
「俺は私情を挟むつもりは無い‥‥ ただ、斬るだけだ‥‥
「死‥‥ねぇ」
 容赦なく繰り出される静守の槍は確実に怨霊の姿を捉えていく。
「俺は今までそうやって生き延びて来た‥‥ だから今回もそうするだけだ‥‥」
 銀の穂先は桜姫の怨霊の胸を貫き、象を歪ませる‥‥
「いやぁぁ‥‥ 重‥‥蔵‥‥様‥‥」
 桜姫の怨霊の断末魔が屋敷の庭に響く‥‥
「その人の墓はどこなのだ? せめて愛しい人の元へ、なのだ」
「重蔵様は、その桜の根元で‥‥討たれた‥‥」
「待つのだぁ」
「重蔵様の傍に‥‥いたい‥‥」
 怨霊の姿は一層影を薄れさせていく。玄間の叫びも届かないのか、姫の怨霊は虚空を見つめる‥‥
「御仏の慈悲の光を‥‥」
 像を結ぶことも難しくなってきた怨霊に、焔衣はピュアリファイを施した。
 天に向かって消えて行く光の粒子に冒険者たちは暫し見入っていた。
「怪我をしていたら手当てするから見せてくれって、怪我したのは俺だけか‥‥」
 本庄はリカバーで塞がった傷と自分を見つめる仲間たちを見て苦笑いした。

●後日談
「死して尚、念を残すほどの恨み。何時また同じ事が起こるやも知れません。ここは是非にも‥‥」
 アルディナルはイェブを通じて依頼人に桜に木の下に霊を弔う祠を建てることを提案した。
 依頼人もそのつもりだったらしく、2人を祀ることにしたという話だ。
 後日、焔衣たちは桜に花を手向けに来たのだが、そこには小さな祠が丁寧に祭られていたという。
 イェブたちは勝利の祝いのために残しておいた酒の半分を桜と重蔵のために供えたという話だ‥‥