【江戸の騒擾・九支】妖狐の逆襲
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■ショートシナリオ
担当:シーダ
対応レベル:7〜11lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 45 C
参加人数:8人
サポート参加人数:4人
冒険期間:10月28日〜11月02日
リプレイ公開日:2005年11月05日
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●オープニング
●九支の影
江戸近郊の紅葉の美しい秋山で九尾の狐の姿を見た‥‥
あの伝説の大妖である白面金毛九尾の狐を‥‥
冒険者から依頼報告を受けた江戸冒険者ギルドに衝撃が走った瞬間であった。
冒険者たち全員が重傷を負ったものの土地の代官の計らいによって大事に至らなかったのが、せめてもの幸いとギルド上層部は胸を撫で下ろしたが、事は一大事であり、事態は急を要するものであった。
早速ギルドマスターは江戸城に登城して源徳家康公に事件の詳細を報告した。
事実であれば一大事‥‥、いや事実だからこそ一大事。
混乱にならぬように江戸城の兵こそ動かさなかったものの家康公はギルドと協力して偵察を出した。
しかし、報告にあった場所に九尾の狐の姿は既になく、気味悪さや気持ち悪さだけが残る結果となってしまった。
いつ江戸市中が狙われるかわからない‥‥ その恐怖と不安に江戸が見舞われるのは時間の問題である‥‥
「では、九尾の狐が江戸に‥‥」
「えぇ、ギルドマスターから聞きました。そういうことがあったということを皆も心に留めておくように」
目の前に座る数人の男たちに那須藩主・那須与一公は静かに語った。
江戸の那須藩邸は、その声さえ通りそうなほど静かである。
「那須はどうされるので?」
「予定通りに運びます。那須をいつまでもあのままにしては置けません。
それに、あの女狐が動き出したのなら何か起きる‥‥、いや、既に何か起きているのかもしれません‥‥」
旅装の男を始めとして、その場の者たちは黙り込む与一公に視線を集めた。
「何やら気になりますか?」
「懸念が懸念のままであれば良いのですが‥‥
兎も角、まだ江戸を動けないのですから急いても仕方ありません。
気に掛けなければならないことが増えましたが、やることは同じです。頼みますよ」
「はっ」
短く答えると男たちのうち数人は与一公を残したまま席を立った。
●町屋での惨殺
神剣探索の騒動にあやかってか浪人や無宿者が増えてきた江戸‥‥
江戸の奉行所も人を繰り出して治安維持に当たっているが、そうそううまくいかないのが世の常。
刃傷事件や押し込み、かどわかし‥‥ 捜査しなければならない事件はいくらでもあり、とてもではないが見回りにまで割く与力や岡引が足りないのが現状である。
そこで奉行の1人である遠山金四郎は事態を懸念して主君である源徳家康公に事態と解決のための方策を注進した。
江戸冒険者ギルドに依頼して冒険者に見回りをさせようというのである。
与力か岡引が隊を統率すること、それを条件に許可を得た遠山金四郎は早速ギルドマスターと会見し、依頼は実行されるに至った。
「神剣騒動は終わったと思ってやしたが、こんな形で騒動が続くとは思いやせんでした」
冒険者たちと一緒に神田明神に足を向けるのは『明神下の親分』として通っている若き岡引・銭高平治だ。
‥‥と、そこへ大音声が飛び込んでくる。それを追いかけるように悲鳴が響く。
「親分、てぇへんだ!!」
こけそうになりながら慌てて走ってくるのは平治の子分である八兵衛だ。
その襟首を掴みながら平治は八兵衛が走ってきた方向に走り出す。
「八、どうしたぃ!!」
「2つ先の通りで、でっけぇ狐の化けもんが町屋の人たちを襲ってるんでさ!」
きっと妖狐だ! 一人の冒険者が叫ぶ。
尾は何本あったかという冒険者の問いに八兵衛は、4本までは見えたが咄嗟のことで何本だったかは自信がないと返す。
「他にも何匹いるかわかりやせんが、狐も人を襲ってやす!!」
「出番ですぜ。行きやしょう!」
駆け出す平治と先を争って冒険者たちが走る!!
●リプレイ本文
●妖狐襲来
見廻りを始めて数日、よもや妖狐騒ぎに遭遇しようとは‥‥
「レヴィン殿、何処へ行く! 行き先はこちらだぞ!」
超美人(ea2831)たちの背後から影が飛び出し、長屋の屋根に一躍した。
「ぃょっ。お先にな」
米神の辺りで指を振りながらシュッと口を鳴らして日比岐鼓太郎(eb1277)が凄い速度で追い抜いて行く。
ズバァン!!
騒動の元凶であろう2mもあろうかという狐の影が長屋の屋根や柱を撒き散らして宙へ躍り出る。
黒狐が宙を蹴るように地面に突っ込むと、飛散する木材と一緒に血霞を引きながら人影が吹き飛ぶ。
「怖いよ」
シュテファーニ・ベルンシュタイン(ea2605)は高度を落としてレヴィン・グリーン(eb0939)にしがみついた。
「派手だけど妙にせこいな‥‥ 陽動か?」
屋根の上を駆け、日比岐は路地を飛び越える。視界の端に別の場所で煙が上がっているのが映った。
遠い‥‥ 冒険者長屋の方だろう。
「まさかな‥‥ 八が惑わされてるってことも‥‥ だとしたら?」
一抹の不安を覚えた日比岐は黒狐から離れるように神田明神を目指した。
「日比岐様、いずこへ」
「神田明神から目を逸らしているのかもしれない。俺が確かめに行く。皆は四尾の黒の妖狐を頼む」
「わかりました。こちらは任せてください」
頭上を飛び越える日比岐と交差するように松浦誉(ea5908)たちは轟音を上げる方向へ全速で駆けた。
血まみれで倒れる者たち‥‥ 倒壊した長屋‥‥
「こ、これは‥‥」
あまりの惨状に超が絶句する。
「しっかり。気を確かにもって」
璃白鳳(eb1743)が地に伏せ動かない者に手を当ててリカバーをかける。
「新手か‥‥ 雑兵どもが」
恨みがましい、しかし鈴のような艶っぽい声が響く‥‥
全身を覆う艶やかな黒毛に顔の周りの炎のように揺らめく赤みがかった山吹色の体毛‥‥
通常の狐ではあり得ない大きさの体躯に四支の尾‥‥
月明かりを背景に燻り始めた炎の明かりを浴びて赤面黒毛四尾の狐が姿を現す。
「四尾‥‥ 那須の火種は貴女か?」
限間の問いにクククと笑うだけで黒狐の答えはない。
「あれが噂に名高い妖狐ですか‥‥ 話し合いは‥‥ できそうにありませんね」
動物学者であり動物を愛するレヴィンとしては狐を倒さなければならないことに迷いで心が揺れ動くが、長屋の様子や倒れている人たちを見れば何をしなければならないのかは一目瞭然だ。
「江戸で何をしようというのですか!」
経巻を開いた字冬狐(eb2127)が雷撃を放つのと同時に、レヴィンもライトニングサンダーボルトを高速詠唱する。
チリチリと毛の焦げたような臭いがし、黒狐の毛を逆立たせただけ。
そのことがこの戦いが一筋縄ではいかないことを予感させた。
●潜む影
「皆頑張ってね♪」
体勢が整うまでは‥‥ 避難が済むまでは‥‥
シュテファーニは元気になる歌詞をメロディーの魔法に乗せて歌う。
「瓦礫の下にも生存者がいます!」
ブレスセンサーを成就させたレヴィンが叫ぶ。
野次馬を掻き分けるように現れた男が長屋の壁板の下に肩を入れると押し上げるようにひっくり返した。
「平治! こいつは俺に任せて、お前も早くあいつらを非難させるんだ」
「え!? 御奉‥‥」
野次馬を指差した男に平治は絶句する。
「余計なことは気にすんな。遊び人の金さんとでも呼んでくれ」
粋な着流しで町人風体だが、見覚えのある顔は間違いなくあの‥‥
「早くしねぇか! 十手は飾りかよ!!」
血まみれの女を担ぐと遊び人は平治の尻を蹴飛ばす。
「銭高さん! 長屋の人たちのことは頼みますね!! 四尾の妖狐ともなれば、こちらにも余裕はありません」
遊び人の態度に憤りを感じながらも限間灯一(ea1488)は抜刀する。
「馴染みの親分様がついて下さるとなれば、皆様も心強いでしょう。
其方に狐達が行かぬよう力は尽くしますので、どうか慌てて余計なお怪我をなさいませんよう」
松浦が宙に留まり見下ろす妖狐に真空波による剣撃を放つが、それを事もなげに黒狐はひらりとかわす。
「こっちはあっしらに任せておくんなせい。行くぞ、八!」
「合点でぃ、親分!!」
平治と八兵衛は腰が抜けて動けない住民を助け、この場から離れさせ始めた。
しかし、与力や岡引の十手の力に従わない者もいる訳で‥‥
冬狐が『頼みます』の一言と笑顔で野次馬根性で集まってくる者たちに戸板で怪我人を運び出させている。
それでも問題を起こしたり従わない者にはチャームの経巻を強制執行だ。
「ここは危険です。皆さん逃げてください」
涙も止まり、震える男の子を抱えて白鳳は長屋の通りを離れた。
戦場と町人たちを分離しようとスモークフィールドの経巻を発動させた白鳳は、直後に大失態をしたと歯噛みすることになる。
「か、火事だぁ!!」
狂乱する人々に白鳳の顔は青ざめるのであった。
さて‥‥
赤面黒毛四尾の狐は素早い動きと平面に捉われない動きで超たちを翻弄している。
「妖狐でもその体力は無限ではないはずです。諦めてはいけません」
消耗覚悟で魔力を集中したレヴィンのライトニングサンダーボルトが何とか傷を与えたが、連射できないために大勢では黒狐に有利だ。
「効かん!? 刀に誰か術による施法を!」
遂に超の剣閃が黒狐を捉えたが、日本刀の刃は黒狐を傷つけることはできなかった。
「これを! 妖狐にも効くはずです!!」
「すまん。恩にきる!」
咄嗟に愛刀を手放して限間が投げた日本刀『相州正宗』+1を超は何とか宙で手に取った。
「くぅぁ‥‥」
ごぅと空を切る黒狐の爪は素早い足捌きでかわそうとする超を捉え、ズズッと何かが体にめり込む感触と共に超の口の中に鉄の味が込み上げる。
「ぬるい」
どす黒く濡れた黒狐の爪からぽたりぽたりと滴が落ちる。
「全力を出さなければ倒せん」
ポーションを飲み干し、超は肩で息をした。すぐさま黒狐に突進を開始する。
その時‥‥
「え?」
怪我人搬送が一段落ついた冬狐はリヴィールエネミーを成就させ、野次馬の数人が光っているのに気が付いた。
「レヴィンさん! 気をつけて!!」
冬狐の声は間に合わない‥‥ 小太刀を抜いた男たちがレヴィンに身を預けるように突っ込む。
平治の投げ銭で2人、遊び人の濡れ手拭いで1人の気をそらせることに成功したが、2本の刃がレヴィンを朱に染めた。
グラッと倒れこみそうになりながらレヴィンは高速詠唱を成し遂げ、雷光が無頼漢らを包む。
「皆の衆、この男から片付けるぞ! ギャンッッ!!」
狐に変じた男へ経巻を開いた冬狐のライトニングサンダーボルトが襲い、体勢を崩した狐が瓦礫で跳ねるように落ちてきた。
「邪魔なやつめ」
無頼漢たちの小太刀と狐の爪が冬狐を襲う。
平治や八は息を呑むが、冬狐は軽やかにかわしながら全ての刃と爪をかわしながら改めて経巻を開く。
空気を裂く轟雷音は一直線に無頼漢たちを貫いた。
●善戦
「ちぇぁああ!!」
「この一撃で決める。喰らえ!」
松浦と超の挟み撃ち! しかし、黒狐の姿は影へと吸い込まれ、別の場所へと浮き上がる‥‥
やがて月明かりに包まれたように黒狐の体が光を放つと、もがき苦しむように超が気絶した。
別の場所ではレヴィンが平治や八兵衛、遊び人と一緒に小太刀を構えた男たちと奮戦しているが、手数の違いはやはり大きい。
そこへ限間の気合一閃。無頼漢を肩から腰までバッサリ叩き斬る。
!!
黒狐の牙が背後から襲うのを、限間は手首を返しながらギリギリ刃で受けた。
黒狐の爪が触っている感触が護身羽織の上から感じられる。
直後、反撃の刃をかわした黒狐の体が淡く銀色に光るが、何かが起きた雰囲気はない。
「少しはやる」
黒狐は目を細めて口の端を歪めた。
「志半ばで斃れる事は許されませんので、ね‥‥ 誓いの銀矢にかけて」
オーラエリベイションがなければ限間も超のように倒れていたかもしれない‥‥
九尾との戦いから生還した1人としての経験がもたらした僅かな差だ。
「名を聞いておこう」
「蒼天十矢隊が一矢、限間灯一」
大振りすれば十中八九かわされる。そう感じた限間は新当流の基本である真向上段・相雷刀に構えるのだった。
その頃‥‥
「異常はないな‥‥」
神田明神を一回りした日比岐は、ホッと胸を撫で下ろした。
江戸百鬼夜行では神社仏閣が狙われていたために今回もそれかと思われたが、今のところ違うようだ。
妖怪の出現に周辺は混乱しているが、それだけである。
「考えすぎだったか? いや、油断はできない‥‥」
物陰から神田明神を見張る日比岐だったが、流石に仲間たちが心配になってきた。
疾走の術を使い、日比岐は黒狐の暴れる長屋に急ぐ‥‥
●月夜の決着
「ぐは‥‥」
どしゃりと限間が崩れ落ち、刀を杖に立ち上がろうとするが、血の海に倒れこんで起き上がってはこれない。
「限間様!」
駆け寄ろうとする松浦の肩に黒狐の牙がめり込み、バキリという音と共に限間の上に倒れこんだ。
「阿紫よ、手向けを楽しみに待っておれ。そなたが倒れたこの地に屍の山を築き、弔いとしてやろう」
冒険者たちが黒狐に気をとられている間に、5頭程度の狐が四尾の黒狐に寄り添っている。
黒狐の静かな凍み入るような笑い声と共に狐たちは光を一切通さない暗闇に姿を消した。
「遅かったか?」
真なる暗闇の中から飛び出す妖狐と、それに付き従うように屋根の上を駆け抜ける狐たちの姿を日比岐は目にしたが追撃しなかった。
瓦礫と化した長屋の一画に飛び降りると、傷つきながらもポーションで回復する仲間たちの姿を目の当たりにしてホッと一息つくのであった‥‥
「大丈夫ですかい?」
平治が松浦に声をかけた。
「江戸に現われた妖狐‥‥ 今後を考え、避難所の確保や見回り強化を‥‥お願い出来たらと‥‥存じます」
瓦礫の上に腰を下ろして傾いた柱に背を預けた松浦は、途切れ途切れに言葉を紡いだ。
「わかりやした。必ず奉行所に伝えまさぁ」
平治の言葉に安心したのか、ポーションの空の壷が手の中から転がり落ち、松浦は静かに目を閉じた。
救出や治療が一段落した頃‥‥
「これで大丈夫。次の方を。
それと火消しの方々に1軒1軒、火の用心をお願いできますでしょうか?
火鉢の一つ、行灯の一つでもひっくり返していたら大変なことになりますので」
優れた僧である白鳳のリカバーによって死者以外は何とか助けられた。
的確な指示のもと、与力や岡引、火消しに長屋の住人たちで長屋も落ち着きを取り戻しつつある。
ぱたぱた〜。
「あのね。黒狐さんたち、町外れのお堂に入ってったよ」
ふらりと帰ってきて、ぽろっと重大事項を話すシュテファーニに一同驚きを隠せない。
「しかし、まともに戦える者は、ここには‥‥ 後は他の方に任せましょう」
白鳳は首を振る。
「それじゃ奉行所とギルドに御使いに行ってくるね」
「ちょっと待った、お嬢ちゃん。事の次第はここに書いてあるから、これを持っていきな」
「うん、ありがとう」
遊び人の金さんに書き付けを貰うとシュテファーニは飛び立って行った。
「ギルドへは俺が行くよ」
シュッと口を鳴らす音をさせて、日比岐は片方の手紙を持ち去った。
そんな彼らの後ろで野次馬の中にいた黒脚絆の男が静かに立ち去っていく‥‥
奉行所は冒険者を増援として加え、役人たちはお堂に探索の手を伸ばした。
しかし、そこには新しい若干の血の跡以外、残されていなかった。