【江戸の騒擾・九支】急襲!冒険者長屋

■ショートシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:7〜11lv

難易度:難しい

成功報酬:3 G 45 C

参加人数:8人

サポート参加人数:4人

冒険期間:10月29日〜11月03日

リプレイ公開日:2005年11月11日

●オープニング

●九支の影
 江戸近郊の紅葉の美しい秋山で九尾の狐の姿を見た‥‥
 あの伝説の大妖である白面金毛九尾の狐を‥‥
 冒険者から依頼報告を受けた江戸冒険者ギルドに衝撃が走った瞬間であった。
 冒険者たち全員が重傷を負ったものの土地の代官の計らいによって大事に至らなかったのが、せめてもの幸いとギルド上層部は胸を撫で下ろしたが、事は一大事であり、事態は急を要するものであった。
 早速ギルドマスターは江戸城に登城して源徳家康公に事件の詳細を報告した。
 事実であれば一大事‥‥、いや事実だからこそ一大事。
 混乱にならぬように江戸城の兵こそ動かさなかったものの家康公はギルドと協力して偵察を出した。
 しかし、報告にあった場所に九尾の狐の姿は既になく、気味悪さや気持ち悪さだけが残る結果となってしまった。
 いつ江戸市中が狙われるかわからない‥‥ その恐怖と不安に江戸が見舞われるのは時間の問題である‥‥

「では、九尾の狐が江戸に‥‥」
「えぇ、ギルドマスターから聞きました。そういうことがあったということを皆も心に留めておくように」
 目の前に座る数人の男たちに那須藩主・那須与一公は静かに語った。
 江戸の那須藩邸は、その声さえ通りそうなほど静かである。
「那須はどうされるので?」
「予定通りに運びます。那須をいつまでもあのままにしては置けません。
 それに、あの女狐が動き出したのなら何か起きる‥‥、いや、既に何か起きているのかもしれません‥‥」
 旅装の男を始めとして、その場の者たちは黙り込む与一公に視線を集めた。
「何やら気になりますか?」
「懸念が懸念のままであれば良いのですが‥‥
 兎も角、まだ江戸を動けないのですから急いても仕方ありません。
 気に掛けなければならないことが増えましたが、やることは同じです。頼みますよ」
「はっ」
 短く答えると男たちのうち数人は与一公を残したまま席を立った。

●冒険者長屋の戦い
 神剣探索の騒動にあやかってか浪人や無宿者が増えてきた江戸‥‥
 江戸の奉行所も人を繰り出して治安維持に当たっているが、そうそううまくいかないのが世の常。
 刃傷事件や押し込み、かどわかし‥‥ 捜査しなければならない事件はいくらでもあり、とてもではないが見回りにまで割く与力や岡引が足りないのが現状である。
 そこで奉行の1人である遠山金四郎は事態を懸念して主君である源徳家康公に事態と解決のための方策を注進した。
 江戸冒険者ギルドに依頼して冒険者に見回りをさせようというのである。
 与力か岡引が隊を統率すること、それを条件に許可を得た遠山金四郎は早速ギルドマスターと会見し、依頼は実行されるに至った。

 さて‥‥
 江戸の冒険者たちの多くが住む所、それが冒険者長屋と呼ばれる場所だ。
 ここにも多くの無宿人が流れ込んできている。とすれば冒険者たちとの衝突も当然起きるわけで‥‥
 これは小伝馬町での出来事‥‥
「ご苦労なこって」
 無法をした無宿人を殴り飛ばしてふん縛り、これを岡引に引き渡しているのは、顔の左半分に大きな傷を持つジャイアント。
 冒険者長屋のヌシのような山内志賀之助も江戸へ流れてきた無宿者たちの横行には眉を顰める1人だ。
 急な罪人の増加に奉行所の牢屋や伝馬町牢屋敷が一杯になりつつあるとかいう噂もあるほどだ。
「しっかし、荒れてやがるな。最近のお江戸はよ」
 冒険者たちの長屋街を冒険者たちが奉行所に雇われて見回る。山内はそんな奇妙な状況に辟易していた。
 自警団でも編成できればいいのだろうが、神剣騒動の直後というご時勢だ。
 冒険者たちが実態を持って糾合すること自体が混乱を巻き起こす可能性は十分にある。
 とはいえ今は対処療法的に事態に当たらなければならない訳で‥‥
 ピィィィィ‥‥
 言っている端からこれだ。呼子の音が響く。
 与力と冒険者たちは笛の音を頼りに走るが、その音が突然途絶えた。血なまぐさい臭いに身体の血が熱くなるのを感じながら角を曲がる。
「こ、これは!!」
 3人の黒服の男たちの足下に岡引と冒険者たちが血を流して倒れている‥‥
「ひひひ‥‥ また冒険者だな。殺してやる」
 黒服の男とたちとは別の残忍な笑みを浮かべた7〜8人もの男女が、その身を狐に変化させ、地を蹴り、壁を足場に襲い掛かってきた。
「迎え撃つぞ!」
 息も絶え絶えの岡引を壁に寄りかからせると、与力は鍔を切った。
 頭上に宙を踏む金色の影に気づいているものはいない‥‥

●今回の参加者

 ea3225 七神 斗織(26歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea3597 日向 大輝(24歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea3667 白銀 剣次郎(65歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3874 三菱 扶桑(50歳・♂・浪人・ジャイアント・ジャパン)
 ea7755 音無 藤丸(50歳・♂・忍者・ジャイアント・ジャパン)
 ea9272 風御 飛沫(29歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea9502 白翼寺 涼哉(39歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ea9555 アルティス・エレン(20歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

カイ・ローン(ea3054)/ ウィンディオ・プレイン(ea3153)/ ジュディス・ティラナ(ea4475)/ ゲレイ・メージ(ea6177

●リプレイ本文

●敵意の集団
「見回りの依頼なんてつまらないと思っていたら狐どもが出てくるなんてな」
 日向大輝(ea3597)は迷わず抜刀する。こちらに視線を向ける集団からは敵意をヒシヒシと感じていた。
「やられてるなんて好い態(いいざま)じゃん」
 アルティス・エレン(ea9555)は与力に睨まれるのも気にせずに印を組み詠唱を始める。
「くそ‥‥ 生きていてくれれば戦いも楽だったろうに‥‥」
 白翼寺涼哉(ea9502)は息絶えている僧の目蓋を閉じて短く念仏を唱えた。
 日頃から持ち歩いている薬草も包帯も患者が生きていればこそ役に立つ。ただ歯噛みするしかなかった。
 手近に倒れている岡引も喉を掻き切られ、血溜まりに沈んで生の気配は感じられない。
「狐ってことは、また神社仏閣を狙っているのか‥‥」
「白翼寺さん、まだ息があります!」
 息も絶え絶えの浪人に七神斗織(ea3225)は薬を与えた。
「宜しければ此方をお使い下さいませ」
 七神から文殊の数珠+1を受け取った白翼寺は、辛うじて薬を飲み込むことができた浪人に勇躍として回復の術を唱えた。
「動けますか?」
「あいつら‥‥ 突然‥‥襲い掛かっ‥‥てきて‥‥」
 大量に血を失ったせいか無理はできないのか、その目は虚ろだ。
「ここは通さない! 行くよ、蝦蟇ちゃん!!」
 風御飛沫(ea9272)は大蝦蟇を呼び出すと、白翼寺たちとの間合いを詰めようとしている敵にべろ〜んと蝦蟇の舌で攻撃した。
「えへへ〜、無事に終わったらご飯おごってね〜」
 この期に及んで食い気というのが彼女らしく、七神や白翼寺の表情が僅かに緩んだ。

 忍として隠れて敵の動向を探っていた音無藤丸(ea7755)は、狐の襲撃を受けた。
(「昨今、那須の忍が江戸で動く影ありと聞くが‥‥ その者達、妖と繋がりがあるというのは本当だったか」)
 身長が2.3mもあれば見つかって当然のことだが、黒服の男たちと狐に変じた男女‥‥、見えていた敵以外の襲撃ではなかったところをみると、その意図は達成されたと考えてもいいだろう。
「やってやるさ。妖と組む忍に闇霞が負けるはずない」
 音無は忍者刀と銀の短剣を構えた。
「あいつら油断しやがって‥‥」
 倒れている冒険者たちは助かるまい‥‥ 白銀剣次郎(ea3667)は直感した。
 3頭の狐の爪や牙が上下左右、果ては味方の影すら利用してこれでもかと繰り出される。白銀は捌くのに必死で反撃の糸口を掴むことができない。格闘技術には雲泥の差がありながら、このまま捌きに徹していればいずれ不運な一撃を被ることになるだろう。それほどに敵の手数の多さは厄介この上なかった。
 全ては相手に先手を取らせてしまったことにあるのだが、まだ手は残されている‥‥
(「こんな奴らを相手に遅れなんか取るか!」)
 白銀の採った戦法は単純この上ない。
 格闘術を駆使した捌きをせず、体捌きで敵を凌ぐ。その意図は明確なものである。攻撃は最大の防御なり。
 気合一閃、繰り出された蹴りは狐を捉える。壮絶な殴り合いの結果、2体の狐を叩き伏せた代償として白銀は手痛い傷を負った。
「下がるんだ。くっ‥‥」
 苦戦している音無や白銀の有様を見てわかるように、そこらの冒険者に対処は難しいだろう。実際そうなっていた‥‥

●九尾
「やれやれ、これ以上お前さん達に好き勝手させる訳にはいかないんでな。悪いがそろそろ御退場願おうか」
 冒険者たちの連携を絶つように飛来する手裏剣、これを何とかせんと三菱扶桑(ea3874)は巨体を黒服の男たちに突っ込ませる。
 所詮3方から集中して飛んでくる手裏剣を全て叩き落すことなど無理だ。
 更に男たちが三菱の巨体を逆手にとって長屋の屋根を利用して間合いを取っていることが、彼に反撃の機会を失わせていた。
 手裏剣の傷など頑強な三菱にとって大した傷ではないが、その蓄積が自らの生命を奪うことを自覚している。
 手持ちの薬も無限ではない。尤も敵の手裏剣も無限ではないだろうが、それを期待するほど三菱は楽天的ではなかった。
「1人でも捕縛できれば奴らの狙いを探ることもできようが‥‥ それよりも」
「生き延びるのが先決だな」
 三菱を山内志賀之助(ez0031)の太刀の唸りが救った。
「奴らの飛び道具が切れたときが勝負どこか。むかつくぜ」
 三菱は周囲を警戒しながら悪態をついた。人の姿から狐に変じるのを見た以上、敵がこれだけだという保障はないからだ。
 黒服の男たちもあれだけだとは思えなかった。幸いにも殺気を感じるような相手はいない。安心はできないが、当面は目の前の男たちを倒すだけだ。
 ふと気になって別の上方に注意の一部を払ったとき‥‥
「マジかよ‥‥」
 三菱は唇を舐めた。そこには金色の体毛に月明かりを映した巨大な狐が悠々と三菱たちを見下ろしている。
「九尾‥‥」
 山内も金色のその姿を認めたらしく、ふぅと静かに息を吐いている。
「山内、暇なら手伝え」
「居酒屋に飲みかけを残してあるんだ。暇じゃないんだがね」
 ニヤリと笑う三菱に山内が冗談を返す。
 想定外の大妖の登場に冗談でも言わなければ士気を保てそうにないのか‥‥ それとも単に戦を好むのか‥‥
「酒の肴には丁度いいだろう? つきやってやるさ」
「仕方ないな」
 巨漢の双璧は得物を構えた。

 騒ぎを聞きつけて集まってきた野次馬の冒険者たち、それ以外にも岡引や火消したちといった者たちで現場は騒然としてきた。命知らずが意外と多いものである。
「このような者たちに阿紫が敗れたとは‥‥ 信じられぬことよ」
 日向のことなど完全に無視するように九尾は欠伸をした。
 狐の一団を突破して黒服や九尾に肉薄したいが、敵の反撃は熾烈そのもの。個々の武勇で何とかできるような代物ではなかった。
「蝦蟇ちゃ〜ん」
 九尾へ舌を伸ばした風御の蝦蟇が逆襲をくらい、今までの手負いもあって遂に煙に包まれて消えた。
「相手は九尾の狐。わたくしたちが時間を稼ぎますから野次馬を遠ざけてください」
 そう言う七神自身、実力で九尾の狐に対抗できるなどと思ってはいない。
 短刀「月露」+1を構えるものの、いつもより動悸が速いのがその証拠である。
 屋根に飛び乗って回り込んだ狐の爪を皮一枚でかわす。
(「霞刃!」)
 七神は居合い抜きで迎え撃った。悲鳴を上げた狐の毛皮が濡れる。果敢に爪を振るう狐と七神の壮絶な殴り合いで血煙が舞った。
「殺せ‥‥ 後は任せる」
 九尾は優雅に宙を駆けた。

●妖狐と黒服の意図
「はん! 魔法使いをなめんなよ!!」
 爆炎で味方ごと狐たちを薙ぎ払ったアルティスの碧眼は紅に染まっている。
 達人と信じていた仲間たちが簡単に一掃され、または苦戦を強いられていることに‥‥
 そして眼前の凄惨な状況と伝説級の大妖を目の前にしたことで湧き上がる感情を抑えることができなかったのである。
 彼女の笑みは常軌を逸しており、逆立った髪と狂気に満ちた視線は敵味方関係なしに震撼せしめた。
「来るなぁあ!!」
 ファイヤーウォールの高速詠唱で狐を炎に包み込んだアルティスは加虐的な紅葉に包まれている。
 出現した炎の壁は間髪いれずに長屋に火をつけた。炎と煙は風に吹かれて瞬く間に燃え上がる。
 舌打ちする白銀の手刀がアルティスの首筋を討ち、彼女は気を失って崩れ落ちた。
 しかし、この炎の一撃で狐たちの態勢が乱れたのは間違いなかった。
「一気に押し込むぞ! ちぃ」
 息を整えて踏み込もうとした三菱を手裏剣が襲う。
「退け。ここまでだ」
 2.5m程の巨体‥‥ 長屋の壁があたかも地面であるかのように立つ褐色の肌をした、筋骨たくましい黒服の男。
 白銀の必殺の蹴りは捌かれ、手数で押すものの、その打撃に手応えこそあるものの効いたという実感がまるでない。
 三菱や山内の豪剣も威力を十分に乗せた日向の一撃すらも意に介せずに男は反撃してくる。
「うそ〜」
 風御の蝦蟇の体当たりをも物ともしない。
「馬鹿な‥‥」
 よもや1対1で手数に押されようとは‥‥ 音無は愕然としながら一撃をくらって一瞬意識が遠のく‥‥
 明らかに圧倒的だった。

 巨漢に翻弄されて、冒険者は黒服の男たちや狐を逃がした。
 火事を消し止めなければならなかったし、一行の傷も浅くはない‥‥
「さて、洗いざらい吐けと言われても吐くはずもないか」
 白銀たちも甚大な被害を被ったが、倒した敵の1人が生きていたことによって救われる形となっていたが‥‥
「くそっ、口をこじ開けろ!!」
 三菱は咄嗟に手を伸ばすが、女は白目をむいて力を失った。その口からは血が流れている。
「舌を噛み切ったか‥‥」
 一縷の望みを込めて回復の術を施す白翼寺であったが、一見での見立て通り女を助けることはできなかった。
「狐を使う‥‥ それとも狐に使われているのかね?」
 白銀は答えの得られなかった疑問を吐いて捨てた。
「江戸の結界が何のためにあったのか、江戸城の地下遺跡と関係があるのか気になるな。
 関東一円を使った結界なんてものが、もし破れたらどうなるか分かったもんじゃないよ」
 運ばれていく怪我人たちを見て日向が呟いた。
「奴らの意図がつかめなかったのが痛かったな」
 白銀は残念そうに腕組みをした。
「また百鬼夜行や坊さんの自殺騒ぎのように知らず知らずのうちに弱められていないのか心配だよ」
 九尾の狐による襲撃としてギルドや奉行所に報告されたこの事件は彼らの緊張感こそ高めたものの、先の百鬼夜行のような寺社への襲撃がなかったことや被害が限定的であったことからどこまで危機感を高めることができたのか‥‥不安だけが募った‥‥

●ピンナップ

風御 飛沫(ea9272


PCシングルピンナップ
Illusted by ICCO