渡る世間は茶鬼ばかり
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■ショートシナリオ
担当:シーダ
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 48 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月03日〜11月09日
リプレイ公開日:2005年11月12日
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●オープニング
これは江戸近郊の山村での出来事である。2人の男が畑を扱っている。
「今年もこの時期が来たべな」
1人は農民風の男。のんびりと農作業をしている。
「あぁ、やつらが山から下りてくる時期だな」
もう1人は農民には‥‥ちょっと見えない。
頭に白いものがあるところを見ると、それなりな歳なのだろう。
しかし体は頑丈そうで、上半身汗だくで畑をいじっている姿はどこか様になっている。
それでもやはり場違いに見えるのは、その体に無数の傷があるからだろうか‥‥
「大丈夫だべか?」
「おぅ、任せろ! 今年も追っ払ってやるわい」
人懐っこく笑ってドンと胸を叩いたとき、屈強な男の表情が一変して固まってしまった。
「ど、どうしたべ?」
「い、いや‥‥ こ‥‥腰が‥‥」
「ぎっくり腰かいな。大丈夫け? あ、いやいや、動かん方がえぇ」
農民風の男が屈強な男の体を支える。
「‥‥ いかんのぅ‥‥ あやつらが来るというに」
「だ、大丈夫だ‥‥ わしが追っ払って‥‥やるわ」
「無理しちゃいかん。ぎっくり腰は最初が肝心じゃと言うぞ」
この腰を痛めた男、この村に住みついて10年ほどになる。
武者修行の末に、この村に辿り着いたのだが歳も40を過ぎては仕官の口もなく‥‥
将長って名前の浪人、聞いたことある? あ、ない‥‥ まぁ、それは別にいいんだけど。
兎も角、この男、温かく迎えてくれたこの村で厄介になることにしたという話だ。
そして、そのころから毎年のように冬場を前に食料を求めてこの村を襲ってくるようになった小鬼や茶鬼などを退治してやっていたらしい。要するに用心棒だ。
しかし、この様子では今年はどうなることやら‥‥
それから数日後。
『少なくて5頭程度、多ければ10頭前後の鬼の襲撃が予想される村に用心棒として赴いてくれる冒険者募集』
江戸冒険者ギルドの斡旋依頼の中にこのようなものが張り出された。
●リプレイ本文
●三食昼寝付
「実りの秋に作物が荒らされるのは切ないですよね‥‥ 微力ながら頑張りたいと思います」
「いやぁ、こんな田舎だで。御坊様に来てもらえるんなんて、おらたちゃ運がええ」
袈裟に錫杖という出で立ちで村を訪れた僧侶の花井戸彩香(eb0218)は特に大切に持て成されている。
尤も花井戸の方は生来の貧乏性というか生真面目な性格もあって、三食昼寝付でのんびりという訳にはいかないようだ。
「あの人、ホントに大丈夫なんかなぁ。寝てばかりだど」
村人の視線の先には寝息を立てる中道敏晃(eb3764)の姿が‥‥
まぁ、三食昼寝付でいいと言われて本当に三食昼寝付を実行するのは、実は結構大変なものだ。
「大丈夫ですよ。ここに来る途中も小鬼に襲われていた方を誰よりも速く助けに駆けつけておられましたもの」
おっとりとした口調で諭すように話す花井戸の言葉を聞いて、村人もそれを信じたようだ。
「おい、中道‥‥ 薪焚きを手伝え」
腕を引っ張られて起こされても欠伸をして寝ようとしている中道を田原右之助(ea6144)は声を立てずに笑った。
村の人には日々の仕事がある。それは冒険者たちも理解しており、7人前の飯炊きと言えばかなりの重労働である。
というわけで飯の仕度くらいは自分たちでということになっているのだ。
「ちょっとした工夫で飯も豊かになるんだぜ。食べてくかい?」
「そんじゃ、お言葉に甘えて」
村人に笑みが浮かぶ。
「な〜にさぼってるんだい。畑仕事が残ってるんだからね」
「おい、御馳走してくれるって言っとるのに」
女房に耳を引っ張られて男が去っていった。笑顔で手をヒラヒラやっているところを見ると満更でもないらしい。
そこに帰ってきたのは、今回の依頼の残る冒険者たち。
「この時期に食糧を失えば、村人は冬を越せなくなってしまう‥‥ 何としても鬼達を退治せねばなりませんね」
鳴子の警報を仕掛け終わった一条院壬紗姫(eb2018)たちの帰還である。
将長の言うことを信用するならば鬼たちは概ね決まった経路を通って村へやってくるらしい。尤も山岳地帯から村へ向かう安全な経路なのだから確率の問題である。鬼がやってきそうな可能性のある場所には全て鳴子の罠を仕掛けてあり、迎え撃ちようもあるという訳だ。
「鬼退治の仕事は俺の居場所‥‥だったんだがな。痛‥‥」
まだ起き上がることのできない将長に花井戸は回復の術を施した。
少しの間なら傷みが引くらしいが無理をすれば痛み出すらしく、術をかけてもらえば他人の手を借りずに御飯が食べられる、その程度の効果しかなかった。将長自身、花井戸の術で腰の調子が戻れば戦うつもりであったらしく、時々残念そうに笑っている。
「養生して無理さえしなければ普通に暮らせるようになるはずですわ。ぎっくり腰はぶり返したら酷くなると聞きますからお気を付けください」
中道は将長のことを疑う素振りを見せていたが、花井戸は疑念を払拭していた。将長の人柄を信じたのである。
「山鬼とか熊鬼だったら大変そうだけど、何が来ようとそう簡単にはやらせはしないさ。
今回無事に退治しても、もしもがないか心配だからな。次回のために養生しておくんだね」
本庄太助(eb3496)は、痛みを抑えるような薬草を布に塗って将長の腰に張った。
「さ、御飯もできたようですよ」
着慣れていないのか、わざとなのかヴェルサント・ブランシュ(eb2743)の着物が着崩れている。
1人者の将長は思わず目をやってしまうが、胸元からの覗くのはまな板‥‥いやいや男の胸だ。彼がエルフで華奢で整った顔立ちをしているために将長が間違ったとしても責めることはできないだろう。将長は苦笑いで頭を掻いている。
「それにしても1人で村を護ってきたなんて凄いですよね」
大まかな話は聞いたものの、昔の武勇談を話したり、この村に住む事になった馴れ初めなどを将長が嬉しそうに話すのをヴェルサントは知っていた。傷は男の勲章ということなのだろうか、その由来を聞くと楽しそうである。
「それで、そのときはな‥‥」
田原の料理を口にしながら将長たちは楽しい一時を過ごした。
「それじゃ少し休ませてもらおう。夜の見張りに備えてな」
食休みにと横になった中道に苦笑いしながら田原は自分も眠りにつくことにした。
●茶鬼の襲撃
村人たちが眠りから覚めようとしている明け方‥‥
一条院に起こされた冒険者たちが先行して確認に向かった田原と中道に合流したのは鳴子が鳴って程なくであった。
冒険者たちが発見した茶鬼の一団の総数は7。
発見地点から少し戻って狭くなっている場所で戦えば、敵よりも前衛の数が少ないであろう不利は補えるはずだ。
さても事前に将長から教えられていた村の地形と用いるべき戦術は冒険者たちの役に立っていた。実際に茶鬼たちは予想通りに動いてくれたからだ。
「か弱き者から略取する下衆共めが。生きて帰れると思うなよ」
一条院たち前衛が茶鬼たちに斬り込む。
ギャリィイイン!!
外れた茶鬼の斧が地面で火花を散らす。
「おいおい、くらったらタダじゃ済まねーぞ」
田原は冷や冷やしながらも二天一流の構えから一撃を繰り出す。
時折見せる茶鬼の大振りの一撃は冷汗ものだが、かわせないほどではない。不運な一撃でもくらわなければ、まず勝てそうな相手に思えた。
それは一条院にしても同じ感想を抱いている。得意とする居合い斬りを使うまでもないだろう。
「ふふ、雑魚相手では父様の技を使うまでもありませんでしたね」
一条院の隣には仲間がいる‥‥ 『個人の剣技に頼って全体に害をなすよりも連携によって勝利を得るべし』、冒険者として世の中を知ってから父の教えが身に染むことが多い。
ギャリン‥‥
自らが狙われれば斧を受け流し、手が空き仲間が狙われれば敵を討つ。鈍重な相手なればこそ戦術の初歩の初歩が役に立つのだと。
「俺が囮になる。皆はできるだけ1対1で戦ってくれ!」
冒険者たちの中で最も回避に自信のあった本庄は自らを囮とすることを買って出ていた。
彼の回避能力の高さは今回の依頼に参加した冒険者の中でも群を抜いており、今回の依頼において彼をおいてこの役目を成しうる者はいない。斧を比較的余裕を持ってかわす姿に躍起になって彼を狙う茶鬼たちもいる。 しかもアイスチャクラという見慣れない武器を使うことで耳目を一身に集めていた。当たらなかったと思った戦輪が背後から襲う。そんな不可思議な武器を使う敵を放っておけないのだろう。
作戦がうまく進んでいることに一安心したヴェルサントはチャームの魔法を成就させて茶鬼に手を振り、投げキッスをした。
対象とした3頭のうち2頭は、それに気がついて何事だろうという雰囲気であるが戦いをやめる様子はない。
「それなら」
ヴェルサントは別の茶鬼を指差して親指を首の前で横に引いた。
だが、ヴェルサントに気づいている茶鬼たちは僅かに眉を顰めるだけで何のことだか理解できていないようだ。
「諦めるには、まだ早い」
ヴェルサントは再び詠唱を開始した。
●決着
魔力の限りヴェルサントは茶鬼にチャームをかけた。
「私の仲間に攻撃しないでほしいね」
話しかけると気にはしてくれているようだし、敵意を感じることもない。しかし、同士討ちをさせたり冒険者を攻撃しないようにはできていない。
それでも全体としては冒険者有利に戦況は推移している。
「ぐっ‥‥」
斧の一撃を受け、代わりに無視できない刃を田原は茶鬼に討ち込む。本当はかわしたうえで反撃できれば良かったのだが仕方ない‥‥
「大丈夫か!?」
「戦える。心配するな!」
中道が田原を助けるように傷ついた茶鬼に一撃を加える。
止めとばかりの本庄のアイスチャクラに切り裂かれて、のた打ち回る茶鬼は痙攣するように岩壁に突っ伏した。
「その調子だ! 押し潰せ!!」
思いがけない声に場の注意が引かれた。鉢金に胴丸を着け、太刀を構えた将長の姿である。
歴戦の武士の風格、そんなものを感じたのだろうか茶鬼たちは壊走しはじめた。
「やってくれるぜ、将長のおっさん」
ホッとしたような表情で中道は一瞬だけ
1頭の茶鬼への止めの一撃と将長の登場が戦いの流れを変えた形である。
いや、この際、形式上のことは関係ないだろう。
有利に戦いを進めていたとはいえ、前衛戦力は茶鬼たちの半分しかなかったのである。
戦力的には同等程度と言わなければならない。戦いが長引けば、いかな回復手段を持つとはいえ、茶鬼たちに勝利が舞い込むことも容易に想像することができた。
だからこそ‥‥ 茶鬼たちが敗走したことを不服に思う冒険者はいなかった。
「我が神速の剣は護る為に在り‥‥ 完全なる結果を得られはしませんでしたが、父上に恥じぬ戦いはできたと存じます」
逃げそこねた茶鬼に居合い抜きで追撃を加えた一条院は鍔を鳴らして静かに息を吐いた。
「傷を見せてください」
花井戸は田原の傷口に手をかざした。なお、敵の攻撃を一身に引き受けた本庄も不運な一撃を被っている。
「他の方も少々お待ちください。順に癒しますので」
兵数で劣っている乱戦の中で前衛が抜けるわけにもいかず、また回復の術を用いる花井戸が乱戦の中に飛び込むわけにもいかず‥‥
その点に関しても率先して追撃を行う理由はなかった。
「にしても無理しすぎだぜ」
田原は脂汗を流す将長に肩を貸した。
しゃがむのも辛いらしい。立っているのが一番楽だというのは何とも難儀なことである。
かくて数日‥‥
この村に茶鬼の襲撃は行われなかった。今年の冬が安全に迎えられるかわかるには、少々の時間が必要となる。