【大火の爪痕・九支・那須落王】江戸城襲撃

■ショートシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:7〜11lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 6 C

参加人数:8人

サポート参加人数:6人

冒険期間:11月29日〜12月02日

リプレイ公開日:2005年12月09日

●オープニング

●ゆらりと揺れる水底の色‥‥
「おっかぁ‥‥」
 親を探す子がとぼとぼと江戸市中を彷徨う‥‥
 あるいは声もなく御堂の下に蹲ってげっそりと痩せ細る少年少女‥‥
 誰それと声をかけるものもなく‥‥
「あっ‥‥」
 思わず声をかけようとして野垂れ死にの遺体が人違いだと気がついて思わずホッと胸を撫で下ろす罪悪感‥‥
 大火という大事件によって狂乱状態にあった江戸において多くの者たちの尽力によって江戸は落ち着きを取り戻しつつあったが、それは狂乱が恐怖となって人々の心の奥底に沈みこんだだけのこと‥‥
 江戸の街中で目撃されたという白面金毛九尾の狐と赤面黒毛四尾の狐、そしてその配下と思われる黒服の一団と人に変化する狐たち‥‥
 ついにその場に姿を見せなかった大妖狐一党のことが噂の端々に上り始めたのは最近のことである。
 曰く、この大火の原因は彼らであると‥‥
 ただ、真実は全て闇の中‥‥ 人々の心の奥底に眠る黒々とした暗黒の水面が僅かに波紋を立てた‥‥ そう言う者もいる。
 全ての恨みを転嫁させることで人々は絹糸よりも細い心の均衡を保っているのだと‥‥
 無論、噂はそれだけではすまない‥‥
 曰く、神剣騒動で成すところのなかった平織虎長公や藤豊秀吉公が家康への腹癒せに火を放ったのだと‥‥
 己の成すところがないのを転嫁させた‥‥ そう言う者もいる。人の欲が、嫉みがそうさせているのだと‥‥
 尤も、こんな噂がないこともない‥‥
 曰く、奥州の忍びを使って伊達政宗公が家康公の追い落としをしているのだと‥‥
 上州の反乱‥‥ 果ては京の黄泉人と呼応して三頭体制から群雄割拠へと推し進めているのだと‥‥

●落王
 果てさて‥‥
 那須与一は浪人となり冒険者に身を落とした‥‥ こんな噂も聞こえてくる‥‥
 与一公が江戸を離れずに那須にいないというのは確かで、時折江戸城へ登城する姿に見(まみ)えた者もいる。
 しかし、那須の藩医局から纏まった量の薬草が届いているのも確かで、江戸城から奉行所を通じて町衆や寺社などへ配布が行われているようである。全体の必要量に比して少ないのは仕方ないことではあるが‥‥
「薬草をよく送ってくれたものだ。本当に助かった」
「玄白殿が小山様に直訴したそうで‥‥」
「あの理詰めで攻められては小四郎も大変だったろうな」
「まぁ、殿の変わり者好きが此度は功を奏したようですな」
 江戸市中の商家の庵にて話す数人の者たちの姿‥‥
 その内の1人のことを、見たことのある者ならば誰と気づくだろう。那須藩主・喜連川那須守宗高公、つまりは那須与一である。
「しかし、大丈夫ですか? 殿は杉田殿と暫く会っておられないのでしょう? 小山様ならまだしも、新参者の杉田殿では‥‥
 信頼してた那須藩士たちすら扇動されて此度のようなことになったのですし‥‥」
「いえ。私は今も家臣団を信頼してますよ。那須の民たちも。当然、那須藩士として迎えた杉田玄白のことも。
 死んだ父にもよく言われました。お前は甘いと‥‥ いつかそれが元で身を滅ぼすと‥‥
 でも、それは私の責任であって、彼らの責任ではないのです。
 私がどうすればいいのかは霧の中ですが、やらなければならないことはわかっているのです」
「大変ですよ。殿の歩む道は‥‥」
「それに付き合うのもね」
 男たちは顔を見合わせて苦笑いとも微笑みともつかない笑みを浮かべるのだった‥‥

●黒の忍軍
「手はずは?」
 中年の商人と思しき男の姿形が変化して浅黒い筋骨隆々とした姿の男になっていく。
 黒脚絆の忍び装束で背には刀を背負っており、皮製の小手には手裏剣が刺してある。
 顔は狐の半面と布で隠されており、この巨漢が忍びであるのは疑いようもない‥‥
「万端‥‥」
「では御大のお出ましといくか。大火の残り火を焚き付けに行くぞ」
「はっ‥‥」
 1人が灯りを吹き消すと、静かに立ち上がった男たちは巨漢に従って闇に消えて行く。
 その直後のことである。焼け残った金売吉次の商家の蔵の壁がズズズッと音を立ててずれ始めたのは‥‥
 その場を物陰から覗いていた1人が近くにいたもう1人に目配せすると、言葉を交わさずに1人は何処かへと消えていった。

 暫くして‥‥
「ひぃ‥‥」
 足軽兵が腰を抜かして悲鳴も上げられずに震えている‥‥
 彼の足元には、ついさっきまで愚痴を言い合っていた友人ともいえる仲間の頭が転がっている。胴はと言えば無残に引き裂かれて血溜まりに沈んでいる。
 黒脚絆の忍び姿の男たちが周囲を取り囲み、目を光らせているが、遠くに見える篝火や武士たちに慌しい様子はない。
「くくっ‥‥ 江戸城と言っても忍び放題。よくもこれで日本の摂政の本拠などと大口が叩けるものだな。
 兎も角、この姿を見た者を生かしておく訳にはいかぬ。己の運を恨め」
 白面金毛九尾の狐‥‥ 今や知らぬ者のない大妖の姿がそこにはあった。
 その鋭い爪が足軽の命を絶ち、その骸は江戸城に転がるのだった‥‥

●与一出撃
「ギルドマスターはおられるか! 与一で御座る!! 火急にあれば失礼する!!」
 濡れたような黒髪に鉢巻、鎧を着けずに陣羽織に太刀を佩き、長弓を携えた騎馬武者が江戸冒険者ギルドに乗り込んできたのは陽が落ち、雲間から月の覗くころ‥‥
 それが那須与一だということが知れたことで、その場は騒然としていた。
「少々お待ちを!」
 ギルドの親仁が血相を変えて与一公を奥へと通し、僅かの後に江戸冒険者ギルドのギルドマスター・幡随院藍藤(ばんずいいん・らんどう)とその姿を見せたことで、その場の冒険者たちは何事かと色めきあっている。
「暴族による江戸襲撃を家康公に伝えねばならない。事は一刻を争う! 数名、私に付き従ってほしい!!」
 与一公が声を張り上げた。夜ともなればギルドに集う冒険者も少ない‥‥
「まさか九尾が‥‥」
 冒険者の1人が、ふと口にした言葉‥‥ それは誰もがそう思いつつ憚った言葉である。
「そうやも知れぬ! それでも命を預けてくれる者はあるか!!」
 咄嗟に何人かが手を挙げ、また与一公の前に進み出た。
「殿! 黒脛巾組(くろはばきぐみ)は江戸城に向かったようであるとの由!!」
 ギルドに飛び込んできた旅装の男が隙のない動作で与一公に軽く頭を下げて注進するのを冒険者たちは唾を飲んで見ているしかない。
「いざ、江戸城へ!!」
 江戸城ならば大挙する訳にもいかぬと数名に声をかけた与一公は、冒険者と共に一路江戸城へと突っ走るのだった。

●江戸城襲撃
 金色の大狐と忍軍の突然の襲撃を受けて江戸城内は浮き足立っていた。
「そなた、味方ではなかったのか‥‥」
 同僚であった男に刺され、武士が倒れる。
 意識を失いつつあるその視界に最後に映ったのは同僚の顔が見知らぬ男の顔に変わってところ‥‥
 忍者に討たれ、同僚と思っていた者に討たれ、果ては壮絶な同士討ちまで行われ、江戸城の中でこの一画は完全に阿鼻叫喚と化している。
「我こそは那須守、喜連川宗高!! 源徳家康公に御加勢仕る!!」
 そこへ轟いたのは凛とした武者の覇声!
「南無八幡大菩薩!」
 ビョウと風を切って一矢が忍者の胸に突き刺さり、敵味方の区別なく耳目は矢の放たれた1点に注がれた。
「那須与一!?」
「与一公?」
 江戸城兵も賊たちも一様に戸惑いを隠せずにいる。しかも、冒険者と思しき者たちを引き連れているとすれば‥‥

●今回の参加者

 ea0270 風羽 真(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea2831 超 美人(30歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea3610 ベェリー・ルルー(16歳・♀・バード・シフール・イギリス王国)
 ea4734 西園寺 更紗(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea7755 音無 藤丸(50歳・♂・忍者・ジャイアント・ジャパン)
 ea8531 羽 鈴(29歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 eb0712 陸堂 明士郎(37歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb1148 シャーリー・ザイオン(28歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)

●サポート参加者

カイ・ローン(ea3054)/ 馬場 奈津(ea3899)/ 白羽 与一(ea4536)/ アルディナル・カーレス(eb2658)/ 西天 聖(eb3402)/ アルスダルト・リーゼンベルツ(eb3751

●リプレイ本文

●突入
「『義を見て為さざるは勇なきなり、勇なき男は侠に非ず』! この義侠精神に則り、義侠塾弐号生・風羽真! 与一つぁんの助太刀にて参上!!」
「誠刻の武・主席、陸堂明士郎、推参!」
 既に与一公の矢は放たれている。風羽真(ea0270)や陸堂明士郎(eb0712)は迷う必要もなかった。まずは黒脚絆の者を倒す。敵の迂闊を利用しない手はない。
「蹴散らせぇ!」
 与一公のために少しでも武功をと死力を尽くす彼らの気迫は敵も無視できなかった。
(「人生一度くらい、こんな大博打も悪くないですね」)
 借り物の短弓+1を構え、シャーリー・ザイオン(eb1148)は忍者の目を射抜く。忍者は狙いが定まらず、陸堂にかわされた挙句に手痛い反撃を被った。
「舞いし龍の牙、義によって飛ぶネ」
 分身した音無藤丸(ea7755)の姿を囮に羽鈴(ea8531)の龍叱爪が黒脚絆の男の胴を薙ぎ、龍飛翔が顎を砕いた。
「数で押せ! くそっ」
(「面白くなってきやがった‥‥」)
 手下に指示を出す黒脚絆の男を見て、風羽には自然と笑みが浮かんでいた。 

●乱戦を制したのは
「与一が何人も‥‥」
 本物と見紛うベェリー・ルルー(ea3610)の作り出した幻影は、忍者たちの混乱に拍車をかけている。
 ともあれ乱戦は長時間に及んでいた。
「光を」
 超美人(ea2831)の言葉に隣で戦う風羽の答えはなく、超は問答無用に斬りつけた。虫の息で自らの胸に突き立てようとする男の小太刀を払うが、男の口からは血の泡が溢れた。
「空へ。ぞっとするぜ。忘れちまったらと思うとな」
 肩で息をしながら合言葉を言う風羽が超と背中合わせで得物を構えた。
「奴らに2度と後ろは見せられん! いつまでも同じと思うなよ!」
 気合を入れ直した超が黒脚絆の男の剣をオフシフトで回避して反撃する。以前の戦いに比べて敵は圧倒的に手が少ない。組織だっての戦闘できない乱戦であることが、超たちに味方していた。
「ボクらを狙って変化して近づいてくる忍者さんに飛んでけ〜〜〜ですぅ〜〜」
 ベェリーが源徳武士の1人に与えたムーンアローの一撃はかすり傷だが、それを目安に陸堂の一撃が斬り伏せる。
「何をするか! この賊が!」
「よく見ろ!」
 倒れた武士の顔がタイミングよく変わり始め、逆上していた源徳武士の顔色が変わる。それは彼の知る男ではなかった。
 相手の変装が解けてよかった‥‥ 陸堂は荒い息を吐きながら冷汗を拭った。

「いい気になっているな、与一。自らの無力を知るがいい」
 九尾の狐は源徳兵を蹴散らして作った血溜まりの一画を支配下に置いた。
「一度妖狐に完膚なきまで叩きのめされた身。この身で良ければ存分に使われよ。もちろん致命の一撃は与えてみせるがな」
 苦しいが、それが超の体を動かす原動力になっていた。重い体に鞭を入れ、超は与一公と妖狐の間に立ちはだかる。フレイムエリベイションの効果が残っていなければ妖術の類で操られてしまう可能性はあった。それでもこの場を去るわけにはいかなかった。
 グシャ‥‥
 妖狐が虫の息であがく足軽を鋭い爪で裂き潰した。
「酷い‥‥ 何でこんなことするですかぁ〜〜!!」
 ベェリーが飛んで行こうとするのを西園寺更紗(ea4734)が捕まえる。
「あんたなんか怖くないです! 鐡様の方が怖かったです!!」
「過去の見識だ」
 唇を噛み締めるベェリーに妖狐は冷ややかに微笑む。
「黙りなさい‥‥」
 シャーリーが妖狐の目を狙って矢を放つが、突き刺さらずに弾かれた。
「与一公、下知を。蒼天の一矢として及ばずながら、この剣を預けますぇ」
 西園寺は深く数回息を吐き、長巻を構え直して言った。
「皆の命、預けてもらいます」
 与一公の声に冒険者たちは頷いた。
「九尾の大妖よ! 好きにはさせぬ!! 南無八幡大菩薩‥‥」
 梓弓が与一公の闘気の篭った矢を運び、九尾の身に突き刺さった。
 グッと妖狐がくぐもった声を上げるのを合図に冒険者たちが地を蹴った。
「あの時の礼は返させてもらいますぇ。巌流西園寺更紗、参ります」
 九尾への突進を食い止めるべく西園寺の行く手を遮る黒脚絆の男の攻撃は空を斬り、斬撃が男を血に染めた。
 更には手裏剣を投げようとした忍者は与一公が2人いることに惑わされ、一瞬動きが止まる。勝ち誇ったようなベェリーの隣で与一公とシャーリーが矢を放ち、忍者の手足を狙った一撃が戦闘力を的確に削いでいく。
「一の太刀!」
 妖狐に放った斬撃は、今一歩で空を斬った‥‥
(「もう少しで届く‥‥」)
 西園寺は妖狐の反撃を、その身で以て受け止めた。傷は思ったより深い‥‥ だが、まだ諦めるわけにはいかなかった。

●倒れた者
 その時、城内が僅かに暗くなった。月が雲に影って姿を消していた‥‥
「今ぞ! 月の隠れておるうちに九尾を追い詰めよ!!」
 与一の矢が妖狐を射る。冒険者たち全員が天佑を信じた。月の魔法を使われないのであれば、あるいは‥‥
 西園寺は纏わりつく忍者に一太刀浴びせると薬を飲み干した。
「油断したな」
 隠身の勾玉で気配を消した風羽が九尾の背後を取って一撃を加える。しかし、その傷は微か‥‥
「それしきで我を倒せると思うてか!」
 ならばと覚悟を決めて肩口を狙う九尾の牙をくらい、闘気を纏った日本刀を突き立てた。
 ボタボタと零れる風羽の血と引き換えに、金毛を傷つけて妖狐に僅かに血が滲む‥‥
「割りに合わないな‥‥」
 血を失って遠くなる意識を気力だけで必死に引き止めた。
「くっ‥‥」
 傷こそ負わせられないものの、止めを差そうとするところを矢で気を逸らされた妖狐の瞳がシャーリーに向けられる。
「敵わぬまでもせめて一矢! これでもくらえ!!」
 九尾の爪が軍配を弾き、陸堂はその胸に傷を付けられた。痛みに耐えて日本刀「相州正宗」+1を振るう。
「何‥‥」
 金毛が血でどす黒く染まる‥‥ 深手を負わされたカウンターの一撃に妖狐も驚愕の声を上げていた。
「これぞ陸奥‥‥流‥‥」
 しかし、手数で上回る妖狐の猛攻に堪えきれず、陸堂は地に口付けした。
「しつこうおますな」
 その間、西園寺は与一公を守り、忍者を寄せ付けないように長巻を振るう。
 そのときである‥‥
「退け。これ以上戦っても疲弊するばかりだ。御前もどうか御退きあるよう」
 浅黒い肌の巨漢の忍者は壁に横向きに仁王立ちになり、腕組みをしていた。シャーリーの矢もベェリーの魔法の矢も巨漢の忍者を傷つけることあたわない。
「吉次、必ず討つ‥‥」
「与一、落王に落ちぶれたお前にそれができるのか?」
 巨漢の忍者は与一公を嘲笑して闇に消えた。黒脚絆の男たちも闇に消えて行く‥‥
 最後に地を蹴った妖狐に与一公の放った闘気を纏わせた矢が突き刺さる。
 体勢を崩したところへ陸堂の居合い抜き一閃、闘気を付与された龍叱爪による羽の龍飛翔がどす黒く汚れた腹にめり込む。
「まさか‥‥ 我が‥‥ このような‥‥ところで‥‥」
 金毛の妖狐は遂に江戸城に倒れた‥‥のである。

「まさか‥‥」
 富士見楼地下遺跡を狙っているのでは‥‥ その疑念を払拭し、江戸城兵によって守りを固めさせるために秘かに戦場を離れ、流言などを画していた音無は信じがたい光景を目の当たりにした‥‥ 江戸城を離れ、闇に消える複数の金色の影を‥‥

●祭りの後で
 騒乱が一先ずの収束を得た頃、江戸城の一角では与一公が源徳信康と対峙していた。
 与一も信康も互いに口にしたことが重みを持つことを知っているだけに無為に時間だけが過ぎている。
「とりあえず応急手当ては終わったよ」
 冒険者、源徳兵の隔てなく診ていたベェリーは、緊迫した雰囲気に耐えられないように羽の胸に飛び込んだ。
「与一公は賊の江戸城襲撃を察知して、危険を顧みず駆けつけたのです。この国の家臣の忠義心は、素晴らしいと思います」
 正確には与一公は大名であり家康公の臣ではないが、余計な争いを好まないのかシャーリーの言葉を訂正する者はいない。
「命が惜しかったら端から此処にゃ来ねぇよ。俺が来たのは与一つぁんの侠気に打たれたのと、これ以上江戸を混乱させる要因を増やす訳にゃいかねぇと思ったからな。ま、この場を死ぬも生きるも一蓮托生って事でよろしゅうに」
 傷の痛みに耐えながら風羽は煙草を吹かした。余計な疑念を生まないようにと与一公以下、既に武装解除を行っている。
「それよりもこれを見な。九尾の成れの果てがこれだとよ」
「九尾の正体は男だったのか‥‥」
 風羽が転がしたのは黒脚絆の男。源徳武士団は疑念と不快を露にしていた。
「分からんよ。違う場所でも九尾は姿を現しているし、自分の目を疑いたくもなるさ。そのイライラを与一公にぶつけるなよ」
 煙を吹きながら庭木に背も垂れている。挑戦的な態度だが、状況を再認識させるのに十分な台詞だった。
「奴ら仲間でも殺す始末‥‥ 結局、賊の目的の程は分からず仕舞いです」
「この襲撃、裏があるやも知れもへんな」
 与一公の傍らで音無と西園寺が呟く。
「江戸に九尾がいる。その真偽が疑わしくなった訳ですね」
「それよりも江戸城が襲撃されたことで周辺諸侯がどう動くか‥‥」
 緊張状態を打破したのは信康と与一。
「反源徳連合も現実味を帯びてくると言うことですか‥‥」
「私にも九尾への因縁があります。関八州が戦火に見えるのも本意ではありません。ただ、色々と家康公の協力を必要とすることは了承していてもらいたい」
「しかと父に伝えます。那須公、長々と御引き留めして申し訳なく思います」
 政とは面倒なことだ‥‥ そう思いながら冒険者たちは与一公と共に江戸城を後にした‥‥