【大火の爪痕・九支】赤面黒毛四尾の狐

■ショートシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:7〜11lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 6 C

参加人数:8人

サポート参加人数:6人

冒険期間:11月29日〜12月02日

リプレイ公開日:2005年12月14日

●オープニング

●九支の影
 江戸近郊の紅葉の美しい秋山で九尾の狐の姿を見た‥‥
 あの伝説の大妖である白面金毛九尾の狐を‥‥
 冒険者から依頼報告を受けた江戸冒険者ギルドに衝撃が走った瞬間であった。
 冒険者たち全員が重傷を負ったものの土地の代官の計らいによって大事に至らなかったのが、せめてもの幸いとギルド上層部は胸を撫で下ろしたが、事は一大事であり、事態は急を要するものであった。
 早速ギルドマスターは江戸城に登城して源徳家康公に事件の詳細を報告した。
 事実であれば一大事‥‥、いや事実だからこそ一大事。
 混乱にならぬように江戸城の兵こそ動かさなかったものの家康公はギルドと協力して偵察を出した。
 しかし、報告にあった場所に九尾の狐の姿は既になく、気味悪さや気持ち悪さだけが残る結果となってしまった。
 いつ江戸市中が狙われるかわからない‥‥ その恐怖と不安に江戸が見舞われるのは時間の問題であった‥‥

「では、九尾の狐が江戸に‥‥」
「えぇ、ギルドマスターから聞きました。そういうことがあったということを皆も心に留めておくように」
 目の前に座る数人の男たちに那須藩主・那須与一公は静かに語った。
 江戸の那須藩邸は、その声さえ通りそうなほど静かである。
「那須はどうされるので?」
「予定通りに運びます。那須をいつまでもあのままにしては置けません。
 それに、あの女狐が動き出したのなら何か起きる‥‥、いや、既に何か起きているのかもしれません‥‥」
 旅装の男を始めとして、その場の者たちは黙り込む与一公に視線を集めた。
「何やら気になりますか?」
「懸念が懸念のままであれば良いのですが‥‥
 兎も角、まだ江戸を動けないのですから急いても仕方ありません。
 気に掛けなければならないことが増えましたが、やることは同じです。頼みますよ」
「はっ」
 短く答えると男たちのうち数人は与一公を残したまま席を立った。
 これは江戸が例年以上の大火に見舞われた、その数日前の話‥‥

●ゆらりと揺れる水底の色‥‥
「おっかぁ‥‥」
 親を探す子がとぼとぼと江戸市中を彷徨う‥‥
 あるいは声もなく御堂の下に蹲ってげっそりと痩せ細る少年少女‥‥
 誰それと声をかけるものもなく‥‥
「あっ‥‥」
 思わず声をかけようとして野垂れ死にの遺体が人違いだと気がついて思わずホッと胸を撫で下ろす罪悪感‥‥
 大火という大事件によって狂乱状態にあった江戸において多くの者たちの尽力によって江戸は落ち着きを取り戻しつつあったが、それは狂乱が恐怖となって人々の心の奥底に沈みこんだだけのこと‥‥
 江戸の街中で目撃されたという白面金毛九尾の狐と赤面黒毛四尾の狐、そしてその配下と思われる黒服の一団と人に変化する狐たち‥‥
 ついにその場に姿を見せなかった大妖狐一党のことが噂の端々に上り始めたのは最近のことである。
 曰く、この大火の原因は彼らであると‥‥
 ただ、真実は全て闇の中‥‥ 人々の心の奥底に眠る黒々とした暗黒の水面が僅かに波紋を立てた‥‥ そう言う者もいる。
 全ての恨みを転嫁させることで人々は絹糸よりも細い心の均衡を保っているのだと‥‥
 無論、噂はそれだけではすまない‥‥
 曰く、神剣騒動で成すところのなかった平織虎長公や藤豊秀吉公が家康への腹癒せに火を放ったのだと‥‥
 己の成すところがないのを転嫁させた‥‥ そう言う者もいる。人の欲が、嫉みがそうさせているのだと‥‥
 尤も、こんな噂がないこともない‥‥
 曰く、奥州の忍びを使って伊達政宗公が家康公の追い落としをしているのだと‥‥
 水戸の騒動‥‥ 上州の反乱‥‥ 果ては京の黄泉人と呼応して三頭体制から群雄割拠へと推し進めているのだと‥‥

●黒の狐軍
「シズナ様、吉次から繋ぎが‥‥」
「で?」
 振り乱した黒髪にどこか狂気を帯びた視線‥‥ その体から漂ってくる臭気、いや雰囲気は心の臓を縮こまらせ、不安にさせる。
 この老婆、大勢の男女を従えており、その場の邪な雰囲気から考えても只者ではない‥‥
 それは雰囲気だけのものではない。今や日本各地で見られるような衣装でもないからだ。かといって異国のものかと言うと、これまた違う気がする。
 各地の伝承に精通した者であれば北方の民族にこのような意匠の着物を着ける者がいるという者もあるだろう。特に老婆の意匠は独特で、イタコ‥‥ そのような北方の巫女の着衣がこれに似ているか‥‥
「御大の出陣とのこと。大火の残り火を焚き付けに行くと忍びの者が」
 どことなく狐顔の女で、口の端がすうっと水を引くように笑みを帯びていく。その笑みは冷たく、ともすれば身動きのできなくなるような氷のような‥‥
「おぉ‥‥」
 その言葉を待っていたとばかりに他の者は腰を浮かして座の中心に居座るシズナと呼ばれた老婆へと視線が集まった。
「あの地狐と呼ばれた阿紫ほどの御方を討ち取った者どもじゃ。この戦いで一族も多く討たれた。
 あちらはあちら、こちらはこちらじゃ。努々(ゆめゆめ)油断するでないぞ」
「わかっておるよ、御婆。しかしじゃ。
 江戸が燃え、仇敵である家康の臣民も冒険者たちも死に、傷ついておる。折角暴れるのじゃ。皆殺しにしてくれるわ」
 その場の全員がくくくっと忍び笑いを漏らした。
「では‥‥ 行くとするかの」
 一斉に腰を上げた男女に続いて老婆が静かに立ち上がった。その姿は冒険者と見紛う‥‥ 果たしてそれが何を意味しているのか‥‥

●江戸冒険者ギルドの変事
「行かれたか‥‥」
 那須与一が冒険者たちを募って江戸城へ向かったのは四半刻前‥‥
 果たして襲撃の情報は本当であったのだろうか‥‥ 偽の情報であれば困るのは与一公自身‥‥
 江戸城襲撃の首班に仕立てられてもおかしくない暴挙と言えなくもない。
「神様、仏様、ジーザス様‥‥ この際、宗旨はいといませぬ。どなたでも構いませんから御加護を‥‥ 与一公、御無事で‥‥ 」
 老獪な‥‥と噂されることもある家康公であれば、このまま与一公の完全なる失脚を狙っても‥‥ そう思うとギルドの親仁の心中は穏やかではいられないのである。
「与一公が賊を追って江戸城へ向かわれたとか!!」
 数名の冒険者がギルドへと踏み込んでくる。噂を聞きつけたのだろうか‥‥
 ギルドの親仁は、長年の経験からか、それとも一抹の不安がそうさせたのか、何か引っかかる心を感じながら冒険者たちを迎えた。
 江戸城へ冒険者たちを向かわせたせいでギルドにいる冒険者は多くない。与一公が手練を連れて行ったせいで実力に乏しい冒険者たちが残されてしまったのも事実であり、状況が状況だけに親仁も心細いのだろう。
「あぁ‥‥ 助かる。今は1人でも動ける冒険者が多い方がな。何か知らせが入ったときのために」
 考えすぎだ‥‥ 親仁は冒険者たちを招きいれる。
 ずさっ‥‥
 その時、間口の辺りで誰かが倒れた。あれは‥‥ 大火で焼かれた人のためにと江戸近郊から出てきたと言って屈託のない笑顔を見せてくれた新人の若い冒険者‥‥ その瞳に精気の色はない‥‥
「死ね、冒険者ども。恨みの霊たちがお前たちを待っておるぞ」
 雲を割って照らされ月明かりに浮かび上がるように赤面黒毛四尾の狐が喉を鳴らしているのをギルドの親仁は愕然と見つめるのであった。

●今回の参加者

 ea1488 限間 灯一(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2127 九竜 鋼斗(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea2369 バスカ・テリオス(29歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea3225 七神 斗織(26歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea3874 三菱 扶桑(50歳・♂・浪人・ジャイアント・ジャパン)
 ea6601 緋月 柚那(21歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ea8903 イワーノ・ホルメル(37歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ea9272 風御 飛沫(29歳・♀・忍者・人間・ジャパン)

●サポート参加者

夜十字 信人(ea3094)/ 風峰 司狼(ea7078)/ 暁 鏡(ea9945)/ ペペロ・チーノ(eb1012)/ フルーレ・フルフラット(eb1182)/ 八代 樹(eb2174

●リプレイ本文

●妖狐がギルドに現れた
「与一公の助太刀に間に合いませんでしたか‥‥」
「えぇ。どうかご無事で、与一公‥‥」
 騒ぎを聞きつけて駆けつけた七神斗織(ea3225)や限間灯一(ea1488)は息を切らし、肩を落としている。
「俺ぁ、ロシアの国さ出てきた山師、イワーノ・ホルメルっちゅうだ。依頼が余ってねぇかい?」
「そんなことよりな‥‥」
 ギルドの親仁に後ろ後ろと指を刺されてイワーノ・ホルメル(ea8903)は振り向く。
「‥‥って、なしてこないなとこにおっそろしげな狐がおるんだべ!?」
 イワーノは顎を外して固まっている。
「此方も此方で、厄介な者が現れましたね。遅れても来た甲斐はあったということですか‥‥」
「ふん、いきなり妖狐来襲とはな‥‥ 撃退? いや、とにかく時間を稼ぐかだな‥‥ 騒ぎを聞きつけて駆けつける冒険者はいるさ」
 限間や九竜鋼斗(ea2127)のように僅かな間で自力で現実に戻ってくる者は少ない。
「今回は他の冒険者達が戻ってくるまでのギルドの防衛と考えるか‥‥ 恐らく勝機は薄いだろうからな‥‥」
「近くにお祭り好きでお人好しのあいつがいるはず‥‥ きっと意気揚々と飛び込んでくるでしょうね‥‥」
 バスカ・テリオス(ea2369)はシルバースピアに被せてあったカバーを引き抜くと穂先を妖狐に向けた。
「彼が来るまで獲物が残っていればいいのだが‥‥などと言っても簡単にはいかないか」
「だからと言ってタダでは帰さん。傷くらい負わせて見せるさ」
 九竜もバスカも激しい戦いの予感に苦笑いを浮かべる。
「経験の浅い冒険者は自分の身を守ることだけを考えて!」
 七神の声に多くの冒険者が我に返った。
「妖狐に普通の武器は効かないようです。気をつけて!」
 仲間を叱咤するように叫ぶ限間。
「うだうだ考える必要はねぇだよ。ギルドさ守りきるンが俺らぁが役目だよ!」
 イワーノは早速クリスタルソードを手にしている。戦うしかない‥‥ 簡単なことだが難しい‥‥ それだけのことだ。
「考えすぎたか‥‥ あんた、そいつを俺にくれ」
 手を差し伸べた九竜に水晶剣を投げるとイワーノは再び詠唱に入った。
「そろそろ念仏は済ませたか?」
 四尾の狐は軽く前足を払って果敢な冒険者を薙ぎ払った。
「許せませんね‥‥」
 淡い闘気の光を纏い、オーラエリベイションを発動させた限間は相州正宗と軍配を構えた。
「そうなのじゃ。ただひとつ、負け戦をせぬことじゃ。大丈夫かの?」
 大変なことに巻き込まれたものだと一瞬陰鬱とする緋月柚那(ea6601)であったが、傍若無人な妖狐を放っておく訳にはいかなかった。
「とにかく、冒険者ギルドを潰させる訳には参りません。やれる限りの事をやらなければ」
 月露を構える七神に呼応するように冒険者たちは得物を構えた。
「四尾かよ‥‥ そこの岡引。町民たちを非難させな。俺たちが盾になってる間にな」
 三菱扶桑(ea3874)は日本刀を構えながら岡引と妖狐の間に割り込んだ。
「おっちゃん、ギルドには誰かいないの!!」
「何人かいるはずだ。皆で少し時間を稼いでくれ」
 余分な荷物を床に広げて風御飛沫(ea9272)は大蝦蟇を口寄せすると四尾の狐へ放つ。ギルドの親仁は風御の意図に気がついてギルドの奥へと消えていく。
「小賢しい」
 血に染められたかのような笑みを口の端に浮かべ、伸びてきた蝦蟇の舌を軽々とかわして爪の逆撃をくらわせる妖狐。蝦蟇の背はバックリと裂け、体勢を崩して倒れかけたところへ追撃をくらった。
「蝦蟇ちゃん! がんばって!!」
 叫びもむなしく瀕死の大蝦蟇の動きは鈍い‥‥

●膠着
「江戸城の騒ぎといい、この間、長屋上空に現れた九尾といい、最近の江戸は一体どうなってやがる‥‥」
 三菱のような手練を嫌って空中に微妙な間合いを取って四尾は冒険者たちと対峙していた。バスカや限間や九竜といった戦いに長けた者たちの存在も煙たがられ、結果としてギルド内部への四尾の進入を防いでいる。
「好き勝手なんてさせないよ! 蝦蟇ちゃんの仇は蝦蟇ちゃんにとってもらうんだから!!」
 とはいえ、町人を逃がすために盾になって消えた蝦蟇1号に代わって呼び出された2号も四尾には有効打を与えられず、手裏剣などの攻撃も月明かりの結界に阻まれている‥‥
「やっぱり強いや‥‥」
「諦めちゃだめだべ。今回は負けなきゃオラたちの勝ちだからぁな」
「そだね。生き延びて美味しいもの一杯食べるんだから」
 イワーノの励ましに応えて風御が変なやる気を出している。それに応えるようにギルドの親仁も‥‥
「戦えるギルド員が追っ付け来る! 後で美味しいものが食べたかったら死ぬ気になれよ!!」
 これが意外に皆のやる気に火をつけたようだ。応と鬨の声が上がる。
 しかし‥‥
「鬱陶しい。蹴散らせ」
 四尾の声に応えるように狐が屋根の上に姿を現し、一斉に飛びかかってくる。
「自分の身は自分で守らねばの。皆の足をひっぱらぬように気を引き締めてかからねばなのじゃ」
 緋月の施した聖なる結界によって狐たちのギルド内部への侵入は阻まれているが、どこまで持つかはわからない。
 そして‥‥
「やはりいましたか」
 後輩冒険者を貫こうとしていた剣を限間の軍配が受け止めた。
「通行人や冒険者に紛れ込んで不意打ちする。反吐が出ますね‥‥ 皆さんも気をつけて!」
「わかってる。油断するなよ」
 殺気を感じた九竜は偽冒険者の刃を捌いた。強敵との対決の最中に要らぬ気を使わなければならないのは厄介だが、これが相手の戦法であるならば対応しなければやられるのは自分たちだ。
「鬼道衆が一人‥‥ 『抜刀孤狼』、九竜鋼斗‥‥ 必ずお前を狩る」
「できぬことをほざくな」
 水晶剣を突きつけて静かに吼える九竜を四尾の狐は嘲笑した。
「うおっ‥‥」
 四尾との1対1の対決では優位に立っていた三菱も狐たち相手では多勢に無勢だ。1人戦闘不能に追い込む間に三菱自身、生命の危機に陥る。
 その危機を察知して限間が駆けつけるが、防戦一方では瞬く間に危地に追い込まれてしまう。
「抜刀術・一閃!」
「霞刃!」
 だが、九竜、七神が加勢するとなれば話は違ってくる。それでも狐の手数の多さは厄介で、四尾を気にしながらとなれば三菱を大蝦蟇の背に乗せて後退させるのが精一杯‥‥
「済まんが少しばかり頼む」
「喋ると傷に触るのじゃ」
 自由にならない三菱の巨体に緋月が癒しの術をかけるが回復しきれない。
「これを使いな」
「有難いのじゃ」
 ギルドの親仁が差し出したポーションを続けざまに三菱に2本飲ませ、軽くなった傷に癒しの術をかけると傷跡が消えていく‥‥
 その頃‥‥
「無駄な抵抗をせずに恨みの魂を鎮める糧となるがいい」
 四尾の言葉に狐たちが鳴き声を乗せて寒気を覚えるような響きが冒険者たちの間を吹き抜けた。
「守りは得意でしてね‥‥ 期待に添えませんよ」
 バスカの強がりが狐たちの低い唸りを呼ぶ。
「貴女たちが人風情と侮る者たちの底力を知りなさい!」
 限間の一言が呼び水となって乱戦に突入する。しかし、四尾の狐相手に一歩も引かない先輩冒険者たちの姿に感化されたのか初心者冒険者たちが七神たちの背中を守りながら負担を軽減して狐たちの手数を防ぎ始めた。冒険者に化けた敵が背中から襲ってくる危険はあったが、流れを止めては戦機はつかめない。ここは流れを止めるわけにはいかなかった。
「抜刀術・閃刃!」
 九竜が偽冒険者を一閃する。
「恐怖に縛られるがよい」
 四尾の体が淡い光に包まれるや否や、七神は自身の体が狐たちに食べられる感覚に襲われた。僅かに意識が残るうちに自身の足に刃を突き立てて幻覚から逃れようとするが、遂に自らの最後の一片が食されるのを感じて意識を失った‥‥
「馬鹿な‥‥」
「負け犬にも、噛ませ犬にも牙があります‥‥ 我が牙はこの穂先! 願わくば、我が故郷の戦の神よ。私たちに加護を!!」
 失笑する四尾目掛けてバスカが衝撃波を放つ。それを僅かに後ろに跳んで四尾はかわした。
 尤も数匹の狐を巻き込んで吹き飛ばすのと同時にギルドの軒先を吹き飛ばし、善し悪しだが‥‥

●援軍
 妖狐たちは月の魔法を使うという。月の魔法は月明かりがなければ使えないものも多い。駆けつけた冒険者が印を組んで詠唱すると淡い光を発すると同時に雲が蠢き始めた。
「月が‥‥」
 傷を癒して戦線復帰した三菱が放った一閃を影に紛れて避けようとした四尾の狐が、驚愕の表情で水晶剣をその身に受けた。
「くっ、天の利に逆らっては勝てるものも勝てぬか‥‥ 退くぞ」
 一目置かれるような冒険者たちも駆けつけて、あちこちで狐たちが討たれ始めたことで妖狐一派も撤退を決意したようである。
 冒険者や町人たちに1人2人死者が出てしまったが、奇襲を受けてこれなら悪い結果とは言い切れない‥‥ 後味が悪いのは四尾の狐たちにぶつけるしかないだろう。
「お腹すいたぁ〜‥‥」
「だな」
 ペタンと座り込む風御の頭をギルドの親仁が優しく叩いた。
「怪我をしている者はいうのじゃ」
「遠慮するでねぇよ」
 緋月たちやギルドが放出した薬などによって治療が行われていく。
「奴らの意図が、いまいち読めんな‥‥」
「単に人間を殺したいだけかも‥‥」
 かくて江戸冒険者ギルドは赤面黒毛四尾の狐一党の襲撃を退け、防衛戦に勝利した。なお、大量に消費された薬などはギルドマスターの好意で補填され、ギルド防衛戦に功のあった冒険者たちには金一封が送られたという。