●リプレイ本文
●知る人ぞ知る
ギルドで依頼を受けてシフール飛脚便の建物へ来た一行は、上司にしぼられている月華と遭遇した。
「貴女が月華さんですか。義妹の雷慎からどういう方なのか、話は聞いていますよ。何はともあれ、めげずに配達の仕事を頑張りましょう」
「あうぅ。どんな話なのか気になるけど聞きたくない‥‥」
優しく微笑む陸潤信(ea1170)の周りをテレテレしながら月華が飛び回っている。それを見て南天輝(ea2557)が笑う。
「この子がさくやが気にしていた月華ですか。さくやはこの手の子が好きなようだな」
「はぅっ、こんなところにも前の依頼のこと知ってる人が‥‥」
「まあいい。さくやに頼まれた以上、俺が頑張ってやるさ。よろしくな、月華」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
台の上に舞い降りて月華がペコリと頭を下げた。
「しかし、シフール飛脚便って言っても間抜けよね。送り先もしっかり確認しないで、仕事受けちゃうなんてね〜〜。お陰で、受取人も探さないといけないなんて、面倒くさいったらありゃしないよ」
御藤美衣(ea1151)が小悪魔的な笑みを浮かべて月華をつつく。
「住んでる場所の大体の位置は教えてもらったんでしょう? まずはそれを確認しましょう。河童は水辺の生き物だから絞り込めるはずです」
潤信の言うとおり目的地の近くには池と川があった。
「人との接触が稀だと言う事だすから、人が滅多に行かない所を中心に調べていけば見つかる筈だすね。オラは忍者だすからそう言うところを移動していくのは得意だす。きっと見つけてみせるだよ」
安西玉助(ea1454)がポンと胸を叩いた。
「とりあえず、河童探しは‥‥やっぱりキュウリで釣るのが一番かな? どうせ、持ってく荷物ってキュウリなんでしょ?」
「そうなの?」
「これだ‥‥ しっかりしなさいっての」
「だって荷物は開けちゃいけないんだもん‥‥」
美衣のツッコミに月華は口を尖らせる。
「キュウリは旬だからどこでも手に入わよね。少し買って行きましょ。それくらいは経費で落ちるんでしょ?」
「はい‥‥」
美衣の迫力に月華が思わず頷く。
「自腹な〜」
遠くの机から上司の鋭いツッコミが飛んだ。
「シクシク‥‥」
そして、部屋の片隅でジタバタして唸ってるシフールが1人‥‥
「重い〜」
身動きできないほどに荷物を背嚢に詰め込んでいるリュカ・リィズ(ea0957)だ。パタパタ羽を動かしているが1歩も身動きがとれない。
「シフールってのはお間抜けばっかなのかね」
月華とリィズが美衣にブーイング&反撃の視線。楽しげに美衣は軽く視線をそらせた。
「とりあえず情報の確認と買出しに行かない?」
ともかく、リィズの荷物は余裕のあるものが持つことにして、一行は飛脚便の建物を後にした。
●池、池
「前回は蛙だったのか‥‥ 河童の話を聞く限りでは同じ水棲動物の仲間と言えるかな‥‥ ふむ‥‥ 変な配達ばかりだな」
漸皇燕(ea0416)が苦笑いする。月華の苦労話(失敗談?)をネタに大いに笑いながら目的地へ向かっていた。
「誰もが嫌がった配達を率先して受るたぁ、月華お嬢ちゃんは偉ぇなぁ」
「や〜ん」
胡瓜を買い出したついでに買った茄子をポリッと頬張りながら山崎剱紅狼(ea0585)が月華の頭をグリグリと撫でる。
勿論、相撲の話題も忘れない。
「相撲か‥‥ そういえばモンゴルの民族にそんなのがあると聞いたような気がするな‥‥ 詳しい決まりごとは全然知らんがね」
相撲を知らない者もいるので、みんなで知っている知識を教えあった。
「月華よ。スモーは『2人が裸でくんずほぐれつ』らしいが『くんずほぐれつ』とはどういう意味だ?」
「月華、わかんな〜い」
デュラン・ハイアット(ea0042)と月華の間に白々しい空気が流れる。
「あんた、それじゃわかってますって言ってるようなものじゃない。隠すほどのもんじゃないでしょ。抱き合ってあんなことやこんなことするのよ」
「フム」
デュランの周囲の空気がピンク色に混乱してくのを美衣が楽しそうに見ている。
「違〜う。デュランさん。組み合ったり、解れたり、激しく動くって意味だからね」
「またまた〜」
必死に説明する月華と混乱しているデュランを見て、美衣が笑う。
「まあ、いい。どうなれば負けなのかは解った」
何か思いついたようである。デュランに笑みが浮かんだ。
「河童さ〜ん、薬師問屋から遣いで来ましたー。居たら返事して下さーい」
近くの店や民家で河童目撃情報を集めた潤信たちは迷うことなく目的の池に着くことができた。
「河童さ〜ん、どこにいますか〜。薬師問屋の使いでやってきましたよ〜」
「与一〜、与五郎〜」
リィズや山崎も池に呼びかけた。
「何だ〜?」
薬師問屋に名前を聞いておいて正解だった。デュランがブレスセンサーで探すまでもなく、名前を呼ばれて胡瓜に釣られた河童は向こうから現れてくれた。
「意外と簡単に会えたな」
「胡瓜と人の匂い♪」
「これだすか」
安西玉助(ea1454)は腰に下げた胡瓜を見る。
「へ〜、河童って河童語じゃなくてジャパン語喋るんだ」
リィズが目を輝かせる。
「華国にいる仲間は華国語を喋るって聞いたぜ」
「私は語学の先生を目指しているので、こういう情報は嬉しいです」
「それより、俺たち最近暇なんだ。仲間内の相撲では物足りなくてよ〜。俺たちとやらね?」
期待いっぱいの瞳で見つめられると、さすがに断りきれない。
「薬師問屋で聞いたとおりだな」
たぶん、おそらく、かなりの確率できっと相撲する羽目になるだろうと南天は薬師問屋の番頭から聞いていた。となれば、やるしかない。
●河童と相撲
「1番、リィズ、行きまぁす」
「来いやぁ〜」
受けて立つ与五郎の顔が緩みまくっている。
「がんばって、河童さんを倒すのです」
「かっぱ〜」
まわりを飛ぶ、小っちゃくて細くてフワフワしたリィズに完全に心奪われている。
「隙ありです〜。うーん、うーん、動かないよぅ」
顔を耳まで真っ赤にして嘴の先あたりを一生懸命押したり引いたりしているがなんとも可愛い。
「与五郎!!」
兄弟の声に与五郎がハッと我に返る。
「ごめんな〜」
目をギュッと閉じて必死に押しているリィズを掴んで、その手を地面につけた。
「面白勝負はこのくらいにして本番行きましょう。何となく理解した‥‥ 要は相手を倒せばよいのだな‥‥ さて‥‥ 全力で行かせて貰おうかな‥‥」
「おぅ、来い!!」
皇燕と与五郎の視線に火花が走る。
ゴンッ。肉と肉、骨と骨がぶつかる。互いに差し手は取れない。
「やるなぁ」
「おまえもな」
(「オーラパワーで威力を上げてあるんだ。決めるしかないな」)
「勝負の最中に考え事かい?」
勢いよく土を蹴ると与五郎が一気に間合いを詰めて着物を掴みにかかる。
(「今しかない」)
一瞬を見極めてカウンターで顔面に対し掌底を叩き込む。鮮血を飛ばしながらも与五郎は止まらない。続けてもう一発、もう一発と掌底が叩き込まれる。
「止まった‥‥」
「いや、もらったの間違いだ」
与五郎の手が皇燕を掴んでいる。
「こうなれば切り札だ」
爆虎掌に与五郎は顔を歪ませる。
「そりゃぁ!!」
投げ一閃。皇燕に土がついた。
「しかし、なんだな。この間は漁村で漁師と相撲をしたら今度は河童か」
3番手の南天は軽口をたたきながらも油断なく河童を見つめた。
(「組んだら負けだ」)
南天は掴もうとする与五郎の手をオフシフトでかわすのに精一杯で、仕掛けられずにいた。
「はぁ、はぁ、いつまで続ける気だ?」
「わかるか‥‥ はぁ」
「このっ」
さすがに双方疲れてきた。攻撃も雑になって、息を整えるために与五郎が手を止めた。
「行くぞ」
与五郎が、つかみかかってきた。
「今しかない!!」
意を決して南天は与五郎の掴みをかわして衝撃波を放った。
「おおっ」
ペタッ。バランスを崩して与五郎は地面に手をついてしまった。
「まだまだだな、与五郎」
「でも、オラたちが使えないいろんな技を使ってくるから結構強敵だぞ。油断するなよ、与一」
「任せておけ」
ポリッ。わざとらしく剱紅狼が音を立てて胡瓜を齧(かじ)るが、与一も与五郎も気づかない。胡瓜と同じくらい相撲も好きなのである。今は完全に相撲に集中していた。
「そう、うまくはいかんか」
もう1口胡瓜をポリッと齧って、御握りに手を伸ばした。
「キュウリだぁ〜」
与五郎が剱紅狼の手ごと胡瓜を口に入れている。
「焦るな。やるから」
「ありがとな〜」
勝負の終わった者は、剱紅狼の持ってきた弁当をつまんでいる。その隣では、ちょこんとしゃがんだ与五郎が、胡瓜をシャリシャリ齧っていた。
「ウィザードが相撲なんて大丈夫なのか?」
「心配するな。我に秘策ありだ!」
4番手のデュランは仲間にガッツポーズを見せ、勝負の前に魔法を発動させた。
「それじゃ‥‥」
与五郎が葉っぱを軍配代わりに2人の間に割り込ませて‥‥
「はじめ!!」
引き抜いた。
先に動いたのは河童の与一。大きく突いてきた手の平をかわしきれずに、デュランはそれをくらって下がった。2発、3発。ついに倒れるかと思った瞬間、デュランは地面を蹴った。
止めの一撃と思っていた突きに手ごたえを感じなかった与一は体勢を崩して倒れそうになったが、何とか堪える。
「おしい」
デュランは宙に浮いていた。これでは河童も手が届かない。
「降りてこいよ!!」
「卑怯だと怒るかい? 悪いがこれも冒険者のやり方の1つさ」
しかし、宙に浮いているのでデュランも手の出しようがない。右へ左へとフワフワ飛び回って与一を疲れさせようとするが、思うほど効果はなく、やがて魔法の効果が切れた。
「もらった」
地面に落ちてくるデュランを与一が投げて勝負あった。
「あたいはか弱い女の子だからね〜」
「あぁ、力いっぱい手加減してやる」
「へ?」
5番目は美衣。最初の組み打ちをかわしたところまでは予定通りだった。
「投げてもいいか?」
完全に舐められている。
「いいわよ〜」
カチンときた美衣は足払いで与一をこけさせようとするが、間一髪与一はその軌道から足を抜く。
「危ねぇ、危ねぇ」
体がふわりと宙を舞い、美衣は空を見た。
6番手は玉助。褌一丁で気合十分。
「効かねぇだよ」
勝負開始と同時に突き出した与一の突っ張りは肉の壁に阻まれ、あまり効いてなかった。
「なら、こうだ!!」
与一はガブリ組み合って投げる。
「甘いだよ」
「ぐっ‥‥」
玉助の鯖折で絞められる与一が苦痛の声をもらす。
「これで勝てるだす」
「そうは‥‥いくかよ‥‥」
一瞬の隙を衝いて鯖折から体を抜くと与一が投げを決めた。
「さあ、次!!」
「さぁて、真打ちの登場ってなぁ!」
胸元を開いて腕を抜いた剱紅狼は、袖を托(たく)し込んで与一に近づいた。
「おっ、俺も気合を入れにゃあ。ヤル気出てきた!!」
剱紅狼の筋肉質の上半身を見て、与一の鼻息が荒くなる。
手の平や拳で顔や体を叩きながら両腕をフン、フンと振り下ろして気合を入れる。
「いくぞっ!!」
「おぅ!!」
立会いは互角。互いに張り手を打ち込み、わずかに体勢を崩す。互いに差し手をとろうと攻防戦が繰り広げられるが体に痣が増えるばかり。
「埒(らち)があかねぇな」
伸ばした腕の軌道を途中から変化させ、何とか甲羅の端を掴む。
相手にだけ差し手を取られることを嫌った与一が剱紅狼の着物を掴もうとした。その力を利用して腕を掴んで投げようとするが、与一も何とか耐える。体の崩れた2人がもつれ合って先に倒れたのは‥‥ 投げをくらった剱紅狼だった。
最後は潤信。仲間の様子を静観し、与一の動き、立会い頭の癖などある程度見極めていた。
とはいえ、根っからの武術家。血が騒がないわけがない。
オーラパワーを用意し、金属拳を外すと与一の前に立った。剱紅狼との対戦の疲れが残っているようである。
「‥‥全力で行かせて貰います」
「来い!」
先手を取ったのは与一。張り手をくらわせるが、重心を低く構え、待ち受けていた潤信は倒れない。
逆に零距離に飛び込んできた与一に爆虎掌をくらわせた。与一がたたらを踏む。
「負けるかぁ」
与一が張り手を繰り出すが、かなり疲れているようだ。最初のころの切れがなくなっている。
「いきます!!」
潤信の掌打が連続で入り、ついに与一は地面に腰を落とした。
「負けちまったかぁ」
「こちらは8人がかりですからね」
潤信が手をさし伸ばし、与一が立つ。
一行の周りにはスポーツの後の充足感が溢れていた。
●帰路
「面白かったな」
「さすがに飛ぶのはなしだぜ」
デュランと与一が友好の証しにどぶろくを飲み交わしている。
「そろそろ出発しないと暗くなっちゃうよ」
月華がデュランのマントを引っ張る。
「そうだな。河童膏も手に入ったし、そろそろ帰るか。与一、与五郎、楽しかった。またな」
「おう、強くなって待ってやるよ」
「がんばれよ」
河童膏を手に入れて一行は帰路に着いた。