卵だけにたまたま〜♪
 |
■ショートシナリオ
担当:塩田多弾砲
対応レベル:1〜3lv
難易度:易しい
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月22日〜12月27日
リプレイ公開日:2004年12月30日
|
●オープニング
「はやくはやく! なにぐずぐずしとんねん!」
大慌てでギルドに駆け込んできたのは、どこかの店の若女将といった感じの、やたらと元気のいい女性。ものすごくあわてて急いであたふたしているのは、見ずともわかった。
「たったった、たまたまたま‥‥卵の襲撃にいくつ犬鬼を仕入れなあかんねん!!」
数分後、彼女は出されたお茶を飲み干し、落着きを取り戻した。
「はあっはあっ‥‥いや、取り乱したところを見せて悪かったで。もう大丈夫や。あまり大丈夫やないけど、大丈夫やで」
どうやら、まだ混乱は去っていないらしい。君たちはそれを指摘せず、用件を聞くことにした。
「ウチは、『甘味堂』ちゅう菓子屋の店主やっとる、樫原結井や。よろしゅう。それで、ちょっとした面倒が起こったんで、はやいとこ解決して欲しいんや。なあ、お願いや、聞いてや〜、なあなあなあ〜」
再び混乱し始めた彼女をなんとかしずめ、君たちは話を聞いた。
彼女、樫原結井は、手作りカステラが売りの菓子屋「甘味堂」の店主であり菓子職人である。輸入西洋菓子屋の「猫魚屋」の女店主、猫実詠子とは友人であり喧嘩仲間であった。
お互いに仲良く喧嘩しつつ、それぞれの店を経営し数年。互いの店の者同士が交際し、結婚することになった。
甘味堂からは、結井の一番弟子であり、将来有望なカステラ職人、瀬馬裕介。
猫魚屋で働いている看板娘、椎野佐織。
知り合った二人は、逢引を繰り返し、やがてはお互いに身を固める事となった。
結井も、「ちょうど良い暖簾分けになる」と、二人の結婚を心より祝った。
「イギリスやノルマンでは、祝言挙げる時にはケーキっちゅう菓子を作って祝うそうや。ならウチは、どでかいカステラ作って祝ったるで!」
もちろん、猫魚屋も負けてはいない。佐織の事を好いていた詠子も、
「ふっふ〜ん、甘味堂なんかじゃつくれないくらいの、西洋のすっごいすっご〜〜いお菓子や食べ物でお祝いしてあげるからね〜♪」
と張り切っていた。
そして、二人の結婚式が一週間に迫った昨日。結井は大変な過ちを犯してしまった。
カステラに使う卵の数がいくつなのか、わからなくなってしまったのだ。
「そ、そないな目で見んといてや。ウチかてカステラの他に色んな菓子作らなあかんかったんや。菓子だけでなく、ご馳走も作らんとあかんかったし、他にも用意するもんがあったし。なあ、わかるやろ? なあなあなあ〜」
言い訳を聞き流し、話を進める。
卵は、江戸から三日かかる村の農家から買う事になっている。彼女が信用している、最高の卵を供する養鶏家だ。しかし、今年の鶏はあまり卵を生まないので、不必要に多く仕入れるわけには行かない。だからといって、少なめに仕入れるわけにも行かない。
ちょうどぴったりの数だけ仕入れるべし。甘味堂の女店主は、このあたりの計算もキチっとするタチだ。
「それでな、あんたらにして欲しい仕事は、その養鶏家のとこに行って、卵を運んできて欲しいんや。山道の途中に、最近になって犬鬼の連中が出るようになったんで、ちゃっちゃっとやっつけてもらいたいわけや。簡単やろ?」
道筋を聞くと、行き帰りはなんとかなりそうだ。しかし、肝心の卵はいくつ運ぶのかを聞いたら、結井はなぜか口ごもった。
「あ、いや‥‥それなんやけど。猫魚屋の詠子の娘、幸っちゃんに聞いたら、『簡単な算術を使えば、わかるですよ? 結井おばさんもわかりますですよね?』って言うてたから、あんたら冒険者にもわかるはずや。な?」
彼女によると、
:店で今作っている水ようかんの数の三分の二が、やはり今作っている大福の数と同じ。
:大福と仕入れたみかんの数を足すと、特大せんべいの焼き上げる数と同じに。
:栗まんじゅうに使う栗の数は十三個で、大福の半分。
:水ようかんと大福と栗の数を合計したら、特大せんべいの倍と同じ数になる。
:水ようかんと大福とみかんの数の合計に一足して二倍にした数が、特大カステラを作るのに必要な卵の数。
「‥‥なんや、その顔は。ひょっとしてわからんとか言わへんよな? それに、いつもこないな事はしてへんで? 最近、たまたま忙しかったからねん。ちゃんとした書付を残しとる暇は無かったんや。わかるやろ? な? 卵なだけにたまたまや〜。なんてな〜、にゃんにゃん♪」
しら〜っと流れた空気を感じ取り、彼女はこほんと咳払いした。
「っと、ともかく。使う卵の数をきっちりと確認してから、卵を仕入れて持ってきて欲しいんや。もちろん、犬鬼のあほが襲ってきたら、しばき倒したってや。一個でも多すぎたり、少なかったらあかんねんで? もし間に合ったら、お礼に、報酬と別にウチが直々に焼き上げた、特別うまいカステラをおまけに付けたる。せやから、お願いするわ〜。なあなあなあ〜」
●リプレイ本文
「よお来てくれたなあ〜。来てくれて嬉しいで〜♪」
菓子屋の女店主は、満面の笑みを浮かべて冒険者たちを出迎えた。
「ウチが樫原結井や、よろしゅう。で、早速やけど、話はギルドで聞いた通りや。大八車はこっちにあるで。ともかく、ひとつ頼むわ。ええと‥‥」
「あ、あたしは天霧那流(ea8065)っていいます」
「うん、ええ名前やな。頼りにしてるで!」
「僕は風月明日菜(ea8212)だよー♪」
「ん〜♪ めんこいやんか、気に入ったで!」
「イツキ・ロードナイト(ea9679)です。よろしく!」
「ほう、異国の猟師さんか。頼もしそうや! ‥‥ええと、三人か? 四人って聞いたんやけど?」
その四人目が、指先でリズムを奏でつつ現れた。ついーっとすべるように後ろ向きで近づくと、くるりと一回転し、
「ポォォ〜〜! オ〜〜、ミヒャエル・ヤクゾーン(ea9399)って言います。アオッ!」
「‥‥‥‥」
「オ〜〜、僕のナイスな踊りに言葉がナッシングか〜い?」
「‥‥‥‥な、なかなか個性的やな。ま、ひとつよろしゅう」
山道。
あれから結井より大八車と手形を預かり、四人は卵を受け取りに向かっていた。
『これを持ってけば、先方にはウチからの使いって事がわかるはずや。もしも何か言われたら、この手形を見せれば良いで』
結井がそう言って差し出したのは、半分に割れた小さな板だった。表面には文字が描かれているが、やはり半分になっている。先方の持っているもう片方をあわせぴったりになれば、甘味堂からの使いであると証明できる、との事だ。
大八車を引くのは天霧。その周囲を、ミヒャエルが踊りつつ付いてくる。
車を一緒に押しているのは風月。彼女は周囲に視線を向け、犬鬼の襲撃に備えていた。
イツキは先行し、偵察している。
「風月、どうかな?」
「大丈夫だよー♪ 僕の見たとこ、周囲には犬鬼は見当たらないからねー♪」
「オ〜〜、その通り! 僕のナイスダンスで犬鬼だけでなく、山の獣たちもビックリドッキリ大作戦さ〜♪ 回って回って回って〜、おいしいバターになりました〜、ちびっちゃいブラック坊やの虎印〜♪ アオッ!」
風月の言うとおり、犬鬼が近づいてくる様子は無い。もっとも、いくら野生の獣とはいえ、奇声とともに踊りまくる訳のわからん存在に近づきたくないだろうが。
実際、天霧は山道に入ってから、動物達が猛烈な勢いで逃げ去るのを何度も見ている。約一名の踊りがその原因である事は、考えるまでも無いだろう。
「こっちも大丈夫、どういうわけか、動物が見当たらなくてね」
戻ってきたイツキは、進行方向に邪魔者が存在しない事を告げた。
「‥‥‥‥ま、悪いことじゃないよね」
一抹の疑問を抱きつつ、天霧は大八車を引き続けた。
「むむっ、貴様らが甘味堂の使いだと!?」
「一応、そういう事になってます。はい」
イツキが、やや気おされつつ返答した。
養鶏家の住む村に到着したのは、予定より早かった。冒険者達はすぐさま、養鶏家の元へ、村外れの屋敷を訪ねた。
「貴様らが我輩の卵を狙う盗賊や悪者でないという証明はできるのか? 返答によっては災いが降りかかろうぞ!」
やけに自信たっぷりの高圧的な態度と雰囲気に、天霧とイツキはちょっと引いた。でかい顔にでかい態度。無駄にいかつい強面は、犬鬼どころか魔物の群れですら追い払えそうな迫力に満ちている。そのせいか、件の犬鬼どもはこの養鶏家の屋敷には襲撃を仕掛けてこないそうだが。
が、そんなものを全く気にしない様子で、風月はいつもの調子で手形を差し出した。
「樫原さんから、手形を預かってるよー♪」
養鶏家は彼女が差し出した手形を、自分のそれと合わせた。
「‥‥うむ、ぴったりだ。よろしい、お主らに卵を渡して進ぜようぞ。して‥‥」
彼は再び、冒険者達を一瞥した。
「卵の数は、いくつか? 我が同志・樫原結井は卵の数をきっちりと数えるクチのはず。卵はいくつか、返答によっては災いが降りかかろうぞ!」
「あの、わかりましたから顔を近づけないでもらえますか?」
「卵の数は‥‥」
イツキと天霧は、風月が計算し、導き出した内容を頭の中で思い起こしていた。
「卵は‥‥158個です!」
天霧の返答に、養鶏家はさらに顔を近づけた。
「158? 158個? ひゃくごじゅうはちだとッ!? 貴様らぁッ!」
「ま、間違ってましたか!? すいませんすいません!」
「うむ、合格。最近どうも必要以上に卵をちょろまかす不届き者が多くてな。今、持ってこさせよう。それと、同志結井にもよろしく伝えておいてくれ」
「は、はあ‥‥」
「あははー♪ おもしろいおじさんだねー♪」
「そ、そうだね。ある意味、面白いというか、個性的というか」
天霧は冷や汗をたらしつつ、風月の言葉に答えた。
その頃、ミヒャエルは。
「オ〜〜! チキンな鶏君たちもキチンと僕のダンシングを見たら、パーフェクトすぎる位に完璧な卵を産卵するさ〜、アオッ!」
いつの間に入り込んだのか、彼は鶏舎の中でダンスを披露していた。それを見た数羽の鶏は引付を起こし、踊った本人は養鶏家にこっぴどく叱られる事になるが、それはまた別のお話。
「ま、まあこれで、あとは帰るだけだね?」
大八車に卵を積み込み、帰路に着く頃には夕暮れになっていた。暮れなずむ夕日が、周囲を赤く染め上げる。
少々ペースを上げないと、予定の時間に到着できそうにない。そのため、急いで山道を進むことにした。おがくずを詰めた木箱に納められ、卵は大八車に積まれていた。
峠を越し、町が遠くに見えた。夜中までには到着するだろう。
「でも、これでこのまま何事も無く帰れば、この仕事も終わりだよね。なんとかなりそうだよ」
イツキの声に、一同は安堵にも似たため息をもらした。約一名は、喜びのダンスを踊りつつ周囲をくるくる回っていたが。
「さ、あと一息。急ごう‥‥」
そう言った矢先、足元に矢が刺さった。
「!」
一気に周囲の空気が引き締まる。それと同時に、冒険者達も武器を取った。
イツキは弓を、天霧は右手に、風月は両手に刀を握り、大八車を囲むようにして立つ。
「‥‥犬鬼だ!」
多くの小柄な影が、木の陰から出現した。それらは薄汚れた鎧を着て、粗末な武器を手にしている。小鬼に似ていたが、その頭部は犬のそれに似ていた。
犬鬼どもは、大八車の周囲を完全に囲んでいた。
「‥‥ごめん、帰り道だから、油断してたよ」
イツキが謝った。
「しかたないよ、今はこの状況をなんとかしよう!」
無邪気さをどこかに置き忘れたかのように、風月は両手の刀を構えた。
「風月の言うとおりだね。でも‥‥」
天霧は、周囲を見つつ考えを巡らした。ここで戦いを挑んでも、犬鬼を全て倒しきれるものでもないだろう。二・三匹倒したところで、状況は好転しない。
しかしここで卵を置いて逃げたら、自分達は助かるだろう。が、依頼は失敗だ。どうすれば‥‥!
「? ねえ、ミヒャエルは?」
風月が、仲間が一人減っていることに気づいた。そして、その疑問はすぐに解けた。
「ボォ〜〜〜!」
犬鬼全員が、奇声がした方向を向いた。
「オ〜〜、こんな山奥でも、僕のステージ満員御礼! 僕のステップ、キミにラブハート!銀河よ、僕のダンスを見よ! 淡い少年時代の思い出の一ページを刻み込め! それは魔がごとき黒く、地獄もかくやに熱く、天使のように純粋で、愛が如き甘い夢‥‥マイステージの魅惑なる空間に、みんな酔いしれ二日酔いになるがいいさ! ウワォッ!」
木の陰に隠れていたミヒャエルが、指でリズムを取りつつ、ムーンウォークで犬鬼たちの前に現れた。
「‥‥‥‥‥‥」
仲間達はもちろん、犬鬼ですら言葉を失い、惚けたように踊り狂う男を見つめていた。襲撃されてる真っ最中だというのに、その中の一名はいきなりダンスを始めたのだ。惚けないほうがどうかしている。
確かに、そのダンスは目を奪われるほど見事だ。が、この状況でこういう事を行うのは、よっぽどの○○か、それとも‥‥。
「? 逃げてくよ!」
イツキの言うとおり、犬鬼どもは恐れをなしたように悲鳴をあげ、逃げていった。文字通り、尻尾を巻いて退散したのだ。
「きっとダンスを見て、呪文か何かだと思ったんだろうねー♪ 不幸中の幸いってのはこの事だよー♪」
両手の刀を納めつつ、風月は安堵とともに言った。
「オ〜〜、僕の踊りにあまりに感激して、帰って日記帳に書き込みたくなったようだね〜♪ 見事すぎるダンスは罪だね〜。僕って罪多きダンサー、生まれてきてアイムソーリー!」
「そ、そうだね‥‥、ははは」
戦ってもないし、苦労したわけでもない。しかしなぜか、天霧は疲れが襲ってくるのを否定し切れなかった。
「いやー、おかげで助かったで! ホンマ、感謝や」
後日、彼らが届けた卵でカステラは作られ、祝言も無事に行われた。
四人の冒険者達もそれに呼ばれ、結井より約束のカステラをもらった。
しかし、一つ問題が起こった。
祝言の余興として、ミヒャエルは頼まれもしないのにダンスを始めたのだ。最初は奇異なる目で見られていたが、次第に場は盛り上がり、しまいにはみんなそろって踊りまくる結果となった。
「ま、ウケてるようやからええけど。冒険者ギルドってとこは、ケッタイな人材がいるんやなあ」
「ま、こちらも色々事情がありまして」
苦笑しつつ、天霧は答えた。
「でも、これがカステラかあ。おいしいね」
「うん♪ とってもおいしいよー♪」
イツキと風月は、そんな中でもカステラに舌鼓を打っている。
そこへ踊りつつ近づいてきたミヒャエルは、手近にあるカステラを取り、踊りながら口にした。
「オ〜〜、新鮮だね〜。まさに大海を泳ぎまくる小魚のごとく! それを生きたまま食するのと同じくらいデリシャスさ〜♪」
「な、なんや微妙な褒め方やなあ。っちゅうか、なんで魚に例えてるんや?」
「オ〜〜、決まってるさそんな事は」
彼は更に踊りつつ、カステラをもう一口頬張って言った。
「これがほんとの、『踊り食い』だからさ。アオッ!」
お後がよろしいようで。