自信のお守り

■ショートシナリオ


担当:塩田多弾砲

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 52 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月14日〜02月19日

リプレイ公開日:2005年02月20日

●オープニング

 山奥にある、とある村。そこでは半月に一度、村相撲が行われていた。
 あと七日もすれば、近隣の小さな村々から力自慢の若者達があつまり、村相撲が行われる。力をもてあましている若者たちは、こぞってこの村相撲に参加していた。
 田舎の村相撲の大会。いつもそれなりに盛況していたが、今回はより一層盛り上がるのは間違いない。なぜなら、江戸の相撲部屋の親方が噂を聞きつけ、見物しにくると聞いたからだ。更には、今度の相撲で一番になった者は、望むなら親方の相撲部屋に入って本職の力士を目指すことも可能だと。
 村はお祭り騒ぎだった。ひょっとしたら、未来の横綱が村から出るかもしれないと。

「あの‥‥それで、あんちゃんの事なんだけど‥‥」
 ギルドに来たのは、可憐な少女。年の頃はまだ13〜4才くらいだろうか。
 慣れない場所に来ているためか、彼女はやや落ち着かない様子で周囲を見回していた。
「あんちゃん、本当に強いんだ。だから、あんなものなくても、お相撲で一番になれるはずなんだよ。なのにあんちゃん、あれが無いとだめだって、自信無くしちゃうんだ」
 彼女の名はあゆ、件の相撲が行われる村からやって来た。
 あゆの家は、母親が病弱で、父と兄、そしてあゆが働いていた。が、貧乏暮らしが続き、貧窮に喘いでいた。
 一番の悩みの種は、あゆの兄、辰吉である。少々気が弱いが、身体が大きく、力もある辰吉は、正直者で働き者であった。父とともに彼は、いやな顔一つせずに毎日朝早くから夜遅くまで畑に出ては、クワを振るい続けていた。
 しかし、その分食費もかかる。身体が大きい分食べる量もまた多く、辰吉は両親と妹が食べる量の倍を食べていた。
 そして、辰吉は何より、気が優しかった。人を傷つけたり、争ったりする事が嫌いなせいで、小さな頃はよくいじめられた。
 現在、彼は大きくなり、村で一番の力持ちになった。が、それでも気が弱い事が災いして、一昨年までの相撲大会では予選で負けていた。
 そこであゆは、うまい考えを思いついた。河原で拾ったきれいな小石を、隣村の神社からもらったお守り袋に入れ、兄に渡したのだ。
「この中には、持ってると誰よりも強くなれる神様の石が入ってるだよ。このお守りを持ってたら、あんちゃんは村一番のお相撲さんになれるよ」
 あゆの嘘を信じ込んだ辰吉は、お守りを身に着けて去年の相撲大会に出た。
 結果は優勝。辰吉は自信を持ち、気が弱いのも少しではあったが直っていった。
 それ以後、村で行われる相撲では、対戦者と圧倒的な実力差を見せて勝ち続け、彼は村一番の相撲取りになっていった。それだけでなく、本当に江戸で相撲部屋に入って、本職の力士になりたいという夢を持つまでになった。
 両親もあゆも、彼の夢を心から喜び、応援したいと思った。そこで、今度の相撲部屋での話。まさに辰吉にはぴったりの話だ。
 しかし、ここで問題が起きた。お守りを無くしてしまったのだ。
「あんちゃん、いつもお守りを首から下げてたんだ。それで、こないだ隣村までお使いに行ったんですけど、峠で、小さな鬼に襲われたんだって。その時は逆にやっつけちゃったんだけど‥‥」
 その際に、彼は首から下げていたお守りを落としてしまった。そして運の悪いことに、峠の道のすぐ脇には、縦穴が開いていた。
 穴は深く、洞窟に続いているらしい。そして、その中からは獣のものらしい何かの気配があった。
中に入るわけにもいかず、意気消沈して辰吉は家に戻ってきた。
 それからというものの、彼は以前と同じように気弱になり、自信を失ってしまった。
 あゆは必死になって「あれはただの石ころで、あんちゃんは本当に強いんだ」と訴えかけたが、彼はどうしてもそれを信じられない様子だった。
もうすぐ相撲大会だが、こんな様子では辰吉が勝ち抜けられるとは思えない。
「それで、あの、して欲しいことは、あんちゃんのお守りを見つけて欲しいんだ。明るいうちに、あたしも行ってみたけど、お守りはきっと、あの洞穴の中にあると思う。けど、深くて降りられないし、それに‥‥中に何かが住んでいそうで、ちょっと怖いよ」
 あゆは、擦り切れた銭入れを取り出した。
「これ、死んだ婆っちゃが貯めてたお金。これだけあれば足りるでしょ? お願いだよ、あんちゃんのお守りを取り戻して!」

●今回の参加者

 ea2724 嵯峨野 夕紀(30歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea7593 聰 緋蜂(33歳・♂・ファイター・人間・華仙教大国)
 ea8339 ファータ・クロリス(30歳・♀・レンジャー・人間・ビザンチン帝国)
 ea8483 望月 滴(30歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ea9850 緋神 一閥(41歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb0368 無姓 しぐれ(28歳・♀・浪人・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

「この辺りが、あんちゃんがお守りなくしたところだよ」
 あゆの案内で、ギルドの一行は山道に赴いていた。確かに、道の脇に縦穴が開いている。
「あれが、話に出てきた穴かな?」
 女性の忍者、嵯峨野夕紀(ea2724)が問いかけた。
「うん。深いし、中に何かいるみたいだから、怖くって‥‥」
「後は任せておけ。俺達が来たからには大丈夫だ」
 不安げなあゆに対し、聰緋蜂(ea7593)がうけあった。
「‥‥なるほど、このような山の中か。この穴にも、どんな怪物が潜んでいてもおかしくはない」
周囲を見まわし、ファータ・クロリス(ea8339)は言った。その眼差しは、全てを見通しているかの様に冷ややかだ。
「さ、後はわたくしたちの仕事。危険ですから、あゆさんは村に戻って、お兄様のおそばにいてください。必ず、お守りを届けますからね」
望月滴(ea8483)の穏やかな口調に、あゆはうなずいた。
村へと戻っていくあゆの後姿を、緋神一閥(ea9850)は微笑みながら見つめた。
「辰吉殿は幸せですね、彼女のような妹を持って。あゆ殿の期待に応えるべく、全力を尽くさねば」
 決意を新たにした志士に対し、女浪人の無姓しぐれ(eb0368)が声をかけた。
「んで、緋神さん。ファータさんに言われたモンは?」
 彼女に促された緋神は、背嚢よりお守りを取り出した。隣村の神社でもらった、あゆが兄に渡したのと同じものだ。
「事情を話したら、快くゆずってくれましたよ。探すお守りも、これと同じです。その時にこの穴の事や、小鬼がでないかなど聞きました。この穴は、ちょっと離れた場所の横穴に続いているそうです」
「その話なら、俺もこっちの村で聞いたぜ。猟師が野宿したら、穴の鼠共に食糧を食われたってな」と、聰。
「で、確かに小鬼が出て悪さをしてはいたのですが‥‥、最近は見かけないそうです」望月が、彼の後に言った。
「では、手はずどおりに始めましょう。私と嵯峨野さんと聰さんが、綱を使って先に降り、中を探る。綱は近くの木につなぎ、しぐれさんと望月さんがそれを切られないように見張る。緋神さんは、この縦穴に続いている横穴から侵入を試みる。以上で、よろしいですね?」
 ファータの言葉に、全員がうなずいた。

 しぐれと望月によって綱で底まで下ろされた三人は、松明を掲げ辺りを見回した。
 提灯と松明から放たれた光が、洞窟内の視界を確保した。よどんだ空気が、洞窟の奥から匂う。獣臭のようだ。
三人は辺りを見回すも、お守りは見当たらない。
「何か、見つかりましたかい?」
 頭上からしぐれの声が響いたが、現状では彼女の期待に応えられなかった。
 足元には下り坂があり、別の洞窟の奥へと続いていた。おそらくは、そちらに転がっていったのだろう。
「‥‥行くしか、無いな」
 顔を見合わせた三人はうなずき、大声を上げてしぐれへと告げた。
「洞窟の奥へと進む」と。
 
緋神は件の縦穴に続く、横穴に来ていた。
が、こちらも悪臭が漂っていた。
その源‥‥転がっていた死体に、大量の鼠が群がっていた。大きさから、死体が小鬼であろう。
緋神は、更に奥へと進んでいった。

 坂の底に着いた三人は、松明を掲げた。そしてちょっと離れた場所に、探していた物を発見した。
「どうやら、これで仕事は片付きそうだ‥‥」
 つぶやいた聰は、感じた。獣の殺気を。
彼らは武器を構えた。嵯峨野は忍者刀を、聰は鞭を、そしてファータは弓を。
 洞窟の奥の方から、獣臭の根源が近付きつつあった。しかも集団で。
先頭が襲い掛かった瞬間。ファータはそれを迎え撃った。
放たれた矢は暗闇を切り裂き、目標に突き刺さった。それは矢に貫かれ、絶命した。
「鼠だ! それも、かなりでかいぞ!」
 聰の言うとおり、子牛ほどある大きさの鼠の群れが、冒険者達と対峙していたのだ。ファータがしとめたのは、そのうちの一匹だった。
しかし、洞窟の奥からはさらに数匹が出てくる。鼠の群れは、お守りを取り囲んでしまった。
「これは‥‥早いところ逃げるべきですね」
 ファータの言葉に嵯峨野と聰はうなずき‥‥突進した。
 嵯峨野は鼠の噛み付きをかわし、刀で大鼠の首筋を切り裂いた。
 聰と対峙した鼠は、獲物の喉を食いちぎらんと飛びかかった。が、聰は左手の松明をかざした。鼠は短毛と肉を焼かれ、大やけどを負った。
「食らえ、スマッシュ!」
 のたうちまわる大鼠に、渾身の力を込めた鞭が襲い掛かった。それは大鼠に止めを刺した。
 冒険者達の戦力を見極めたのか、鼠の群れがたたらを踏んだ。それでも飢えには勝てぬのか、二匹が突進してくる。
 ファータが無言で矢を放った。それは鼠の片方に命中し、聰はそのまま、鞭を鼠の首に巻きつけ、締め上げた。もう片方の鼠は嵯峨野の刀が止めをさす。
残った鼠たちは恐れをなし、そのまま洞窟の闇の中へと消えていった。
「‥‥どうやら、後はいないみたいね」
「ああ、早く戻ろうぜ。こんなところ長居するもんじゃあないしな」
 お守りを拾い、三人は周囲を警戒した。どうやら、鼠はもういないようだ。
 ファータは、仕留めた鼠の死体から矢を回収した。が、すぐに気配を感じ、弓を構えた。
 大鼠が一匹、物陰に隠れていたのだ。それが、ファータに飛び掛かった。
が、次の瞬間。
「はあっ!」
 横の洞窟から、姿を現した者がいた。それは刀を振り下ろし、鼠の頭を切断した。
「どうやら、間に合ったようですね」
三人の目の前で、緋神が言葉をかけた。

「じゃあ、横穴の奥へと進んでいくうち、松明が消えちまったわけですね」
 しぐれの言葉に、緋神はうなずいた。
「ええ。それで暗闇に目を慣らし、そのまま進みました。で、前方に光が見えたので、近付いたらファータさんが襲われていたので、切りかかった‥‥と、こういうわけです」
 縦穴から引き上げられ、四人は再び地上に戻った。そして、ファータと別行動をとっていた緋神は、自分の通った道の事を報告していた。
「ですが、良かったです。これでお守りを渡せば解決ですね」
「いや、そうはいきそうにないぜ‥‥」
 望月の言葉に、聰は手のお守りを見せた。
「これは‥‥これでは、渡しても‥‥」
「いや、かえって良いかもしれないですよ」
 望月の言葉に反論するように、ファータは言った。
「このままだと、また無くした時に同じ事が起こるだけです。それより、ちょっと緋神さんと話し合っていた事があったので、それを実行すべきかと。みなさん、耳を」
 ファータの周囲に、冒険者達は集まった。

「辰吉というやつ、鍛えれば横綱間違いなしだ!」
 相撲部屋の親方は、興奮気味な口調で村長と話していた。
「後で、辰吉の家族と話をさせてもらうぞ。村長、村から近い将来、横綱が生まれる事間違いなしだ!」
「本人も相撲取りになりたいと言ってますし。まずは前祝に駆けつけ三杯!」
 村長は親方に酒を勧めつつ、上機嫌な口調で笑った。
 あゆもいい気分だった。予選直前まで辰吉は怖気づいていた。が、始まる直前に冒険者達がかけつけ、お守りを手渡したのだ。
自信を取り戻した辰吉は、予選の相手を一撃で倒した。その後も順調に勝ち続け、決勝も勝利した。
「あんちゃん、おめでとう! これでお相撲さんになれるね!」
「いやあ、あゆのおかげだよ。お守りの神様のお力があったから、おらは勝てたんだ‥‥」
 あゆと辰吉も、お互いに喜びをわかちあっていた。
「ちがうよ、あんちゃんは本当に強いんだってば」
「ううん、神様のお力があったからだよ。でないと、弱虫なおらが、勝てるわけないだよ‥‥」
「辰吉さん、あゆさん」
 あゆと辰吉へ、声をかける者がいた。六人の冒険者たちだ。
「優勝、おめでとうございます。ところで、謝らなければならない事があるんです」 
 穏やかに語りかける望月の言葉に、二人は顔を見合わせた。
「実は、辰吉さんにお渡ししたお守りなんですが……それは、辰吉さんが落としたものでは無く、隣の村で、緋神さんがもらってきたものなんですよ」
「え、あ‥‥だ、だって、おら‥‥」
 躊躇する辰吉に対し、緋神は懐から、辰吉が縦穴に落としたお守りを‥‥黒く汚れ、ぼろぼろになったお守りを取り出した。
「申し訳ありません。中の石も、落とした時に砕けてしまったようです。ですから、あゆさんに事情を説明し、偽のお守りをお渡ししました。そちらには、河原であゆさんが拾った石ころが入っています」
 緋神の言葉に辰吉は混乱しつつ、交互にあゆと冒険者達を見た。
「そんな‥‥だっておら、神様の石がないと弱虫に‥‥」
「だからさ、最初から無かったんだよ。『神様の石』なんてもんは。それに、弱虫が相撲大会で優勝するかい? 弱虫な辰吉なんてのも、最初からいなかったのさ」
「しぐれの言うとおり。決勝で戦った奴、牛以上の力持ちだってな。そんな奴に勝ったあんたが、弱いわけねえぜ」
 しぐれと聰の言葉にも、辰吉はまだ信じられない様子だった。
「あなたは、そのお守りが無くても強いんですよ。でなければ、にせのお守りを持っていて、優勝できるわけが無いでしょう?」
「あなたが優勝したのは事実。そして、あなたが大会中に持っていたお守りが偽ものだったことも事実。ならば、あなたはお守りが無くても強いのです」
「そうだよ、あんちゃんは強いんだよ! お守りが無くても強いんだよ!」
「あ、あゆ‥‥おら‥‥」
 嵯峨野、フィータ、そしてあゆの言葉に、辰吉は‥‥妹を抱きしめた。
「あゆ‥‥おら、がんばる。江戸の相撲部屋さ行って、もっと稽古する。お守り無くしたくらいでへこたれないくらい、もっと強くなる! だから、その‥‥‥‥あんがとうよ」
「‥‥うん! もっともっと、強くなって! あんちゃん!」
 抱き合う兄妹の姿を、冒険者達は微笑みつつ見守っていた。

 後日、辰吉は親方に連れられ、江戸の相撲部屋に入門した。
 お守りを持って来たか来ないかは定かではないが、毎日稽古に明け暮れるその姿を見た者は、誰一人として彼を弱虫とは呼ばなかった。
 彼が横綱になれたか否かは、また別の物語である。