逃走する危険
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■ショートシナリオ
担当:塩田多弾砲
対応レベル:1〜3lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:02月15日〜02月20日
リプレイ公開日:2005年02月21日
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●オープニング
かつてその村には、一人ぼっちの老人が住んでいた。ケチでごうつくばりな商人で、隠居し、村に屋敷を建てて、そこで悠々自適の生活を送っていたのだ。
凝り性のくせにあきっぽい彼は、金にあかして様々なものを買い集め、余生の時間を潰していた。
ある時は骨董に手を出し、ある時は武器を、ある時は彫像を、ある時は書物を、それぞれ買い込んでは蔵にため込んだ。
やがて彼は、その収集癖を生きたものに向けるようになった。動物を、様々な生きた動物を愛玩用にと飼い始めたのだ。
最初は犬や猫だったのが、次第に欲が出て、熊や狼を買い、自分の庭に据え付けた檻で飼ったりもした。
月道経由でインドゥーラの豹やイスパニアの雄牛まで買おうとしたが、さすがにそれらは高価すぎたために、家族の反対にあって止められたが。
ともかく、彼は多くの動物を購入しては飼っていた。世話はみな、下男や小間使いなどにやらせ、自分は時々出てきては眺めて満足するだけだった。
が、その無駄遣いの罰があたったのか。老人はある時に、買った動物の一匹に殺された。大猿の檻に近づいた時、格子の一つがはずれていたのに気がつかなかったのだ。そしてたまたまその時は、猿は餌を与えられておらず、空腹で気が立っていた。
猿の腕が老人の首をつかみ、老人はあっさりと絞め殺された。
その後、現在の商店の店主、すなわち老人の甥が、老人の葬式を出した。老人が買い込んだ高価ながらくたも、その多くは売り払ったり、そのまま保存したりと、処理される事になった。
骨董や武器、彫像や書物はなんとかめどが立ちそうだが、問題は動物だった。犬猫は村の人々に譲り、熊や狼などは人を雇って遠くの山に放したり、金持ちに売ったりした。
が、一つだけ問題があった。
老人を絞め殺した大猿。その姿がなかったのだ。檻の一つは中が空になっており、中の動物は既に別の場所に運び終わったものと思われていた。
しかし、檻の鍵がこじ開けられており、さらに大猿の姿が最初から見当たらなかったことから、ようやく逃げられたと知った。
そして、気づいたその次の日から、大猿が村の畑に出てきては作物を荒らしたり、近くの炭焼き小屋を襲ったりなどといった事件が起こり始めた。
「下男が見かけましたが、猿は今、村の裏にある山。そこの洞穴を棲家にしているようです。叔父の下男から聞いた話では、あの大猿は月道経由で手に入れた異国の殺人猿で、気性が荒く、叔父のところに買われるまでに何人もの人間を殺したというもっぱらの評判でした。叔父はそれを聞き、買い付けたわけですが。ともかくやつは、大食いで、たっぷり餌をやってもいつも腹をすかしていたそうです。このままでは、村の人々に合わせる顔がありません」
ギルドに来た若き商人、国枝文左衛門は言った。
「叔父は確かに、問題がありました。ある意味、ああいう死に方をして当然と言われてもしかたのないところもあります。ですが、それでも私にとっては優しい叔父でした。これ以上、叔父の名前を汚すような事はしたくないのです」
さらに文左衛門は、言葉を続けた。
「勝手とは思いますが、どうかこの事は内密にお願いします。村の人々は、まだこの騒ぎが叔父の逃げ出した大猿の仕業とは気づいていない様子。なるべく周囲に知られないように、大猿を捕まえるか、でなければ退治するかしていただきたいのです」
彼は懐から財布を取り出し、それを差し出しつつ頭を下げた。
「むろん、謝礼も十分にお支払いさせていただきます。どうか、よろしくお願いします」
●リプレイ本文
まだ日が高いというのに、森の中はうっそうとした雰囲気をかもし出していた。
「どうやら、この広場がいいだろう。地形的にも罠を張るにはもってこいだ」
無表情で淡々とした口調で、幼い顔付きの忍者、戸来朱香佑花(eb0579)は周囲を見回した。この場所は木がまばらで、大猿の体重を支えきれるほどの枝はない。つまり、跳躍して枝から枝へ‥‥といった逃走を防げるわけだ。
「そうだな。落とし穴を掘って、それにはまってくれたら、空を飛べない限り逃げられないだろう。見たところ、この辺りの木の枝も猿の味方をしそうにないし」
ケイグロリアス・サード(eb0757)、小柄なシフールのウィザードは請合った。
もう一人のウィザード、レヴィン・グリーン(eb0939)も周囲を見回す。
「人家を襲うのは、おそらくこの森には大猿の飢えを満たすほどの食物がないからでしょう。夕べにまた村の畑が荒らされてましたから、おそらく夕方から夜当たり罠を用意しておけば、きっと罠にかかると思います」
「おびき出すための餌は、依頼人が用意してくれた量で足りますか? 足りず、直接攻撃するはめになるのはちょっと非合理的ですからね」
ヘリオス・ブラックマン(eb0938)、イギリス王国のナイトが問いかける。が、その疑問は赤き髪の志士、壬生桜耶(ea0517)が答えた。
「大丈夫でしょう。あれは、依頼人が一度に与えていた餌の二倍だそうです。ですから、量は十分のはず。問題は、食べる大猿が今どこにいるか、ですけどね」
壬生がそこまで言うと、突如近くのやぶがガサガサと揺れた。一瞬緊張が走ったが、それは仲間が戻ってきた合図だった。
「猿はいたぜ。依頼人の情報どおり、ここからそう遠くは無い洞窟に入っていくのを見た。見たところ、かなり不機嫌そうだった」
銀髪のパラにして武道家、白九龍(eb1160)は、自分が偵察してきた洞窟に関する事を告げた。
「しかしやっこさん、とんでもないものを口にしてたぜ。運悪く近くを飛んでた小鳥を掴み、そいつを食っちまったんだ。よっぽど、腹が減ってるんだろうな」
「‥‥まずいですね」
白の言葉に、レヴィンはうめいた。
「猿は雑食ですが、基本的に草食です。しかし、肉の味を覚え、それが人間にまで及んだら‥‥」
「僕が猿なら‥‥村に下りるね。獲物がいっぱいいるし、子供だったら森の獣より捕まえやすく、腹持ちもいい。で、既に肉を口にしている。となると‥‥」
ヘリオスが言わんとする事が、その場の人間に理解できた。
「‥‥おしゃべりしている暇は無さそうです。急ぎましょう」
沈黙が走ったが、壬生がそれを破った。
夕刻。
皆かなり疲労したものの、罠は仕掛け終わった。
果物を一つづつ、誘い込むようにして道に置いておく。
そして撒き餌の先には、山盛りになった餌がある。餌にかぶりつくと同時に、冒険者達が落とし穴や罠に追い込み、落とす。追い込まずとも、餌につられて落とし穴に落ちてくれたら、それに越したことは無い。
落とした後、上から攻撃を仕掛け、弱らせてから縛り上げ、生け捕りにする。
以上が、彼らの考案した計画だった。
「僕が囮になろう。子供だと思って油断するかもしれないし、追い込む時にも何かの役に立つかもしれないしね」
「俺も、香佑花といっしょに生餌になるか。最悪みんなの攻撃が間に合わなかったとしても、魔法を使えるからなんとか時間が稼げるだろうしな。ま、このくらいの危機を乗り越えられないようでは、誇り高きグロリアス家の家名が泣くってもんだぜ」
用意した餌‥‥たっぷりと野菜や果物が盛られた籠‥‥を地面に置き、戸来朱とケイグロリアスは腰を下ろした。
二人の周囲には、回りこむようにして落とし穴が掘られていた。更に落とし穴の中にも、罠が仕掛けられている。レヴィンがライトニングトラップを仕掛けたのだ。
戸来朱は小さな火を焚き、カゴから芋を取り出すと焼き始めた。
残りの四人は、その様子を風上の適当な茂みから見守っていた。
「これで、戸来朱とケイグロリアスに引っかかってくれればいいんだけどね。じゃ、動きがあったら起こしてくれ」
あくびをし、ごろ寝したヘリオスに対し、レヴィンがたしなめた。
「ヘリオス! こんな時に不真面目ですよ!」
「不真面目? 俺は穴掘りでちょっと疲れてるんだよ。それに、こんなくたくたの状態より、休める時に休んでおいて、体力を回復させといた方が合理的だろ? 見張りはおたくらが交代でやればいいしな」
「確かに、ヘリオスさんの言う事も一理あります。ですが、疲れているのは皆も同じです。ヘリオス、一時間経ったら起きてください。良いですね?」
が、壬生の言葉が終わる前に、ヘリオスは眠っていた。
夕焼けが夜の闇におちいりそうになった時、ヘリオスは激しく揺り動かされた。
「来たか?」
「ああ」
白は、ヘリオスとともに森の闇に視線を向けた。すぐ近くには、壬生とヘリオスが同じく鋭い視線を向けている。
視線の先には、戸来朱とケイグロリアスの姿があった。二人もまた、交代で休みつつ周囲を見張っていたが、迫る殺気に目を覚ましているようだった。
大猿が、森の奥から姿を現していた。
獣臭が、辺りに漂う。ばかでかい体躯を長い毛が覆い、その顔は激昂しているかのように歯をむき出していた。長い腕が地面に落ちている果実を拾うと、貪婪に口に放り込む。
鎚矛で小石を叩き潰すように、大猿は林檎を咀嚼して飲み下した。
「動物ではなく‥‥怪物だな」
白はうめいた。
大猿は、目前のたっぷりした食べ物の山を認めると、それに突進した。
「今です!」
壬生の声とともに、風下から四人の冒険者が、そしてすぐ近くから二人の冒険者が、動き始めた。
それと同時に、大猿は落とし穴に落ちた。完璧なタイミングだ。
穴に落ち、猿は更にダメージを受けた。穴の底に仕掛けられたライトニングトラップが発動したのだ。
混乱していた猿だが、すぐに立ち直り、穴の内壁に指を食い込ませ、地面にのぼった。思ったよりも立ち直りが早い。
だが、冒険者達も無力ではない。武器を持つものはそれを構え、丸腰の者は警戒し後方に待機していた。
大猿の拳が叩き潰さんと振り回される。それをかわした壬生の刀とヘリオスの剣が、毛むくじゃらな身体を切り裂き、どす黒い血を流した。
気合を一閃させ、白が刃と同じくらい鋭い蹴りを大猿に放つ。ヒットしたその一撃は、かなり効果があったようだ。
足元がふらつき、大猿は別の落とし穴へとよろけていった。それに向け、戸来朱の手裏剣が大猿を襲う。大猿の顔に命中したそれは、獣のバランスを崩し、別の落とし穴に落ちる手助けをした。そしてまた、穴の底の電撃が更なる打撃を与える。
「‥‥大いなる水の精霊よ、我が命の下、凍てつく吹雪の嵐を巻き起こせッ! アイスブリザード!」
ケイグロリアスの唱えた呪文が、大猿を気絶させた。獣は無力化し、そのまま動かなくなった。
「‥‥よかった、殺さずにすみましたね。さあ、今のうちにロープで縛り上げましょう」
大猿の無力化を認めると、レヴィンは背嚢からロープを取り出した。
「どういうことですか! それでは、いくらなんでも!」
レヴィンは激昂していた。
「‥‥冒険者様、私だって、こんな事は不本意です。ですが‥‥こうするしかないんです。でなければ、また再び‥‥こんな事件がおこるやもしれません」
冒険者達は大猿をしばりあげ、依頼人に連絡しにいった。国枝文左衛門はすぐに、多くの人間をともなって檻を運ばせ、現場に赴いた。
が、意識を失った猿を檻に入れた後、戸来朱の何気ない一言、
「この猿、このあとどうするの?」
彼女のこの一言から、彼らは依頼人と言い争う羽目になってしまった。
文左衛門によると、すぐに毒を飲ませて殺してしまう、との事だった。
「この猿は、異国の殺人猿‥‥と最初に言いましたよね。私もいろいろ調べたところ、どうやら、小猿の時から麻薬やら何やらを投与して、人を殺すことしかできない猿を作っていた者がいたそうなのです」
「動物の暗殺者を作って、王族や貴人の手ごまにする、か」
吐き捨てるように、白はつぶやいた。
「これは、そやつが作り出した、最後の一匹です。この猿は自分を造った者を殺した後、何人もの持ち主の手に渡りましたが‥‥みな、殺されるか、手放すかのどちらかでした」
文左衛門は、悲しそうに首を振った。
「でも、治療すればいいことじゃないですか!」
レヴィンが訴えかけるが、同じくかぶりを振った。
「試みた者は何人もいました。高名な獣医様や、魔法を使う方にもお願いし、そして‥‥全員が失敗しました。もう、手の施しようが無いんです」
悲しそうな眼差しを、檻に向けつつ文左衛門は更に言った。
「‥‥恨みが全く無いかというと、嘘になります。ですが、私だって殺したくは無いです。子供の頃に、叔父が買ってくれた小猿を飼っていましたから。ですから、猿を殺すことは、本当はしたくないんです」
「‥‥文左衛門さん。おたくの処置は正しいよ。さっさと殺すべきだね」
ヘリオスの言葉が、レヴィンの怒りに火を注いだ。
「そんなに、哀れなこの猿を殺したいんですか? だったらあなたが殺せばいい。騎士殿は殺戮を好まれるようですからね!」
「俺だって、不必要な殺生は好まんよ! だがこいつは、過去に何人も殺している。それで、それを直す術がないんだ。ならこれ以上悲劇が起こる前に、殺してやるのがこいつのためでもあるだろ! ちがうか!」
「でも!」
「レヴィン、ヘリオス。もうやめるんです。僕たちの仕事は、ここまでです」
壬生が、二人の間に割って入った。しかし、彼もまた苦虫を潰した表情であった。
「‥行こう」
気まずい沈黙を、白が破った。
「少なくとも、この猿がこれ以上の迷惑はかけないだろう。それで‥‥納得しよう」
納得いかない口調と表情で、白は言った。
「そうだな。俺ももっと、精進しないとな。猿一匹救えぬようで、何がグロリアス家の‥‥誇りだ」
ケイグロリアスの言葉が、周囲に響いた。それは重く、苦かった。