首がささやく首塚

■ショートシナリオ


担当:塩田多弾砲

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 52 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月22日〜02月27日

リプレイ公開日:2005年03月01日

●オープニング

 その村には、小高い丘があり、丘の頂上には寺があった。そして寺には、処刑された罪人を供養する墓地があった。
 罪人は首を刎ねられて処刑された者が多く、そういった者を供養した事から、いつしか墓地は首塚を呼ばれるようになった。
 やがて時が経ち、寺は受け継ぐ人がいなくなり、荒れていった。
 その後、寺には怨霊や妖怪変化、魑魅魍魎の類が出るという噂が立ち、寺に近付く者はいなくなった。

 そんな折、一人の旅の僧がこの村にたどり着いた。名は青雲。若くまだまだ修行不足とはいえ、仏の教えを説き、人々を救う事に熱心な若者である。
 諸国を旅し、彼はこの村にたどり着いた。そして、荒れた寺を見て彼は思い立った。
「首塚の怨霊を鎮め、この寺を建て直そう。そして、この村で仏の教えを説こう」と。
 が、村のほとんどの人間は賛成したものの、なぜか村長や数名の者は乗り気ではなかった。
「お坊様。あの寺には、釣瓶落としという妖怪が出るんです。首の怨霊が呼んだのでしょう。あまり関わりにならず、他の村で仏の道を説かれた方がよろしいかと」
 屋敷を建て、きらびやかな品々で内部を飾り立てている村長、臼井藤次郎はこう言って寺の再建を渋った。
 しかし、青雲はそれを聞いてますます情熱を燃やした。
「ならばなおの事、妖怪を退け、寺を再建すべきです。これは自分に課せられた試練、ならば拙僧は試練を乗り越え、この村に平和を取り戻して見せます!」
 こうして、青雲は寺を再建するために、そこに住み込んだ。
 次の日の朝から、彼は働き始めた。本堂の汚れた場所を清掃し、壊れたところを直し、荒れ放題の墓をきれいにするため、彼は一日中働いた。
 が、青雲は違和感を感じていた。
「荒れ寺で、ここしばらくは人は近付いていない」という説明だったが、かつて人がここに来ていたような痕跡が認められたのだ。
 ろうそくの燃えかすや酒やツマミを飲み食いしたあと、まだ新しい人の足跡が、周囲に認められた。
 密かに、誰かがここに来ていたのか? が、村人達に問いただしたところ、全員が首を振った。
 疑問に思いつつ、青雲は寺の修復を再開した。が、寺の本堂の床板の下から、彼は奇妙なものを見つけた。
 そこにあったのは、埋められたかめ。かめの中には、小判があった。
 かめも小判も、それほど汚れていない。小判は数年前どころか、数日前にかめに入れられ、埋められたと言ってもおかしくないくらいきれいだった。この小判の事など、自分は当然知らない。村のだれかが、この小判を埋めたのか?
 さらなる疑問を胸に、その日は眠りについた。
 が、しばらくして、彼は人の気配に目を覚ました。そして、棍棒を手にした数名の何者かが、自分に襲い掛かってくるのを知った。
 青雲は携えていた金剛杖を振るい、必死になって応戦した。覆面をした賊をなんとか退散させたものの、彼らの持っていた匕首により、怪我を負ってしまった。
 なんとか怪我を手当てしたものの、青雲はある点に気づいた。昼に見つけた、小判が入ったかめが無くなっていたのだ。先刻の賊は、あのかめを狙っていたのだろう。
 しかし、なぜかめの存在を知っていたのか? いや、そもそもなぜ自分を襲ったのか?
 ともかく、あの連中が村の人々を襲うと危険だ。皆に知らせ警告するつもりで、彼は寺から村へと向かった。
 が、途中で彼は血の臭いをかいだ。
 小高い丘の頂上に位置する寺は、長い坂道を通ることで村と行き来できる。その途中で、青雲は血の臭いが濃くなってくるのを知った。
 青雲の松明が照らし出したのは、死体だった。先刻の賊が、何者かに殺され、坂道に転がっていたのだ。先刻に奪っただろうかめは割れ、中の小判は散乱していた。
 松明をかざすと、遠くに首が、数個の首が森の奥へと消えていくのが見えた。
 死体を改めると、それは村長の息子と、その取りまきだった。全員が何かに‥‥おそらくは先刻の首に‥‥食いつかれたような痕があった。

「それで、拙僧はすぐに村長の屋敷を訪ねました。村長は悲しみましたが、『なぜ息子が坊さんを襲って、小判を奪ったのかまでは知らない』との事でした。とはいうものの‥‥」
 ギルドの応接室にて、青雲は自分の傷をさすりながら言った。
「どうも拙僧は、あの村長の臼井殿が、怪しいように思えてならないのです。拙僧が寺に泊り込み、再建しようとするのを必死になって止めていましたし。何か隠している事があるのかもしれません」
 お茶を飲み、彼は言葉を続けた。
「他の村の人々にも尋ねてみましたが、村長は以前から柄の悪そうな人間を屋敷に招いたり、何かを話し合っていたりしていたそうです。で、村長の息子たちが夜になったら寺へ向かっていったところを何度も見た者もいました。それを知った村長から、後で『他言は無用。もし喋ったら殺す』と釘を刺されたそうですが。ともかく、村長が何かを隠しているのはまず間違いはないでしょう」
 青雲は、そう言いつつ擦り切れた銭入れを取り出した。
「これは、村人からの依頼でもあります。拙僧も、手持ちのわずかな銅銭をかき集め、ようやくこれだけ集まりました。村長が何を企んでいるにしても、何か化物が出て人を殺したのは事実。このお金で、化物を退治していただきたく思います。どうか、よろしくお願いします」

●今回の参加者

 ea5061 綾辻 隼人(37歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea6437 エリス・スコットランド(25歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea8483 望月 滴(30歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ea9328 セルジュ・リアンクール(28歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)

●リプレイ本文

「モンスターを倒すのは容易だろう。だが‥‥それで終わる問題でないのは明らかだな」
 ハーフエルフのナイト、セルジュ・リアンクール(ea9328)は仲間達とともに話し合いをしていた。ノルマン王国からの青き瞳の冒険者は、異国の教会、すなわち青雲が建て直そうとしている寺のお堂の中で、仲間達とともに今後の作戦を練っている最中だった。
「村長が怪しいってのは俺でもわかるぜ。息子殺されたってのに、未だに青雲さんに『寺から出て行け』だしな。だが、具体的にどうしたらいいかってのがわかんねえんだよなあ‥‥」
 志士の綾辻隼人(ea5061)が、天井を仰ぎ見るようにして悩みを口にした。
「ま、化物退治ならこの俺でも何とかできるけどな。さっき現場を見てきたけど、周囲は確かにうっそうとしてて、夜にでもなったらなんか出てもおかしくない雰囲気だったぜ。な、エリス」
 綾辻の言葉に、同行した神聖騎士、エリス・スコットランド(ea6437)はうなずいた。
「ええ。昼間ですらあのように薄暗いのですから、夜になれば奈落のような暗さになる事でしょう。おそらく、村長の息子さんたちはいきなり襲われてしまったんでしょうね」
 そこへ、望月滴(ea8483)が戻ってきた。
「あ、望月殿。いかがでした?」
「調べはつきました。順を追って話すと、こうなります‥‥」
 座り込んだ彼女は、得た情報を話した。それによると、

:村長の息子は、周囲の村々を荒らしていた盗賊たちとの付き合いがあったらしい。
:盗賊たちは、この寺に通っているところをたびたび目撃されていた。
:釣瓶落としが出たと言いだしたのは、村長の息子たち。彼ら以外は見てない。

「つまり、彼らはわざと化物が出ると言いふらしていたのです。それは間違いないかと」
「だとしたら望月、俺の仮説が成り立つな。もっとも、それを村長に突きつけたところで、とぼけるのがオチだろうが」
「これだけの証拠を突きつけてもか? ったく、ドラ息子をかばいたいのか、それとも自分もおこぼれにあずかりたいのか、わかんねえな」
 綾辻が、お堂の片隅に積み上げられているものを見て、忌々しげにつぶやいた。
 青雲は今、傷の手当も兼ねて村の医者の家にいる。この件が終わるまで、そこで寝泊りする予定だ。
 が、彼をここに連れてきて聞いたところで、「知らない」という返答がくるだろうものがそこには積み上げられていた。セルジュの提案で、寺の内部を徹底的に捜索した結果、出てきたものだ。
 そこには、寺のあらゆる場所に隠されていた、様々な宝物が積まれていたのだ。人の欲を表現しているかのように、それらは鈍く光っていた。

 夜。
 暗闇が周囲を包み込む。地獄の入り口を思わせるような場所と、エリスは思った。クルスソードを握る力が、より一層強いものになってくる。
 エリス以外の冒険者達も、その思いは同じようだ。綾辻は志士らしく、セルジュはナイトらしくなく、それぞれ日本刀をその手に構えていた。唯一、望月のみが刃のない武器を、大きな杖を携えている。
 四人は今、現場にいる。寺へ続く階段の途中。その両脇には森が生い茂る。彼らはそこから、森の中へ、村長の息子達が襲われたところへと入っていった。
 望月が手にした提灯、ないしはその光が不気味なものに思えるような闇が、周囲を支配する。
 そして、一瞬の静寂の後に‥‥悪夢の猛襲が冒険者達に降り注いだ。
 枝の一つから、醜怪なる顔がいきなり落下してきた。人間の顔を恐怖に歪ませ、乱れ髪に狂った眼差しの首。それが狂乱した悪魔のごとく獲物に食らいつこうと、枝から襲い掛かってきた。
 存在を知らなければ、確実に不意を食らったに違いない。不意を食らわずとも、醜悪な顔の攻撃を避けるのは素人には無理だろう。
 しかし、首どもが襲い掛かったのは武器を携え、それなりに死地を潜り抜けてきた冒険者達。エリスのデティクトアンデットが、釣瓶落としの接近を彼らに教えていた。
 綾辻の日本刀が、宙を切る。
「ソニックブーム!」
 日本刀の刃から放たれた衝撃波の刃が、邪悪な首をとらえ、地獄へと送り返した。
 が、その攻撃をかわした二つの首が、冒険者に噛付かんと迫った。
 迫り来るおぞましき顔。だがセルジュとエリスは、恐怖を微塵も感じさせずに行動に移った。
「オーラパワー!」
 聖なる力が、セルジュの刃に付加される。その刃が振り上げられ、おぞましい首の一つが両断された。
 それに続き、エリスのクルスソードが、更なる首を血祭りに上げる。
 たちまちのうちに、釣瓶落としは半分に減った。
「‥‥来ます!」
 だが、恐れを感じないのは釣瓶落としも同じらしい。釣瓶落としの残りは、腐臭漂う口を開けてその汚れた歯を突きたてようと迫りくる。
「いやぁっ!」
「たぁっ!」
 綾辻とエリス、志士と神聖騎士の刃が、それに応えた。
 残った最後の釣瓶落としは、後方に控えている望月を認め、そちらに襲い掛かる。が、彼女も既に呪文を唱え終わっていた。
「‥‥ホーリー!」
 聖なる力が、不死の者を再び葬り、邪悪なる力を消し去った。

「で、なんで坊さんじゃあなく、わしに報告するんじゃ?」
 太った村長が、屋敷を訪ねたセルジュをねめつけていた。慇懃さを強調するかのように、キセルをくわえてタバコをふかしている。
 その煙にちょっと顔をしかめつつ、セルジュは言った。
「今回の事件、ちょっとした裏があると思い、調べさせてもらったのでね。で、その事について知らせようとしたまでだ」
「は、混血風情がなにを抜かすか。あやつはわしの息子とはいえ、愚かなやつだった。わしのバカ息子が化物に殺された、それだけだ。違うか?」
「確かに。だが、なぜ殺されたか。調べてみてわかったことがある。あんたの息子は、盗賊たちに隠れ家を提供‥‥つまり、あの寺‥‥し、おこぼれに預かっていた。そして、ここに人が来ないように、首塚の話を利用して、釣瓶落としが出ると言いふらし、人が来ないように仕向けていた、と。そういう事だ」
「仮にそうだとしても、だからなんだ? それはわしの息子がやってただけで、わしには関係ない。それに第一、証拠が無いしな」
「ああ、証拠は無い。しかし、寺を捜索し、かなり高価な盗品が見つかった。足のつきそうな品も、かなりな。どういう事か分かるか?」
「いいや」
「俺はこの事件の事を、逐一記録している。無論、ギルドに報告するが、それは役人の目にも入るものだ。そこから、被害者たちがこの事を知って、この村に取り返しに来る事は容易に想像できる」
「‥‥何が言いたい、混血」
「数人は金で話を付けられるだろう。しかし、それで全員の気がすむとは限らん。そして、気のすまない者達、金品を盗まれた者達は団結し、報復しにくるだろう事もまた、容易に想像できる。たとえあんたが本当に息子の所業を知らなかったとは言え、彼らがその言い訳を納得するとは思えないがな」
 村長は、何も言い返せなかった。
「村長、証拠は何も無い。だが、だからといってただで済むとは限らないという事だ。あんたの息子がつるんでいた盗賊たちは、隣村の武家屋敷からも大層な宝物や骨董を奪って、この村の寺に隠したようだ。そして、盗まれた武家の人間は、かなり血の気が多い危険な人物と聞く。せいぜい、納得させられるように言い訳を考えておくことだ」
「貴様、わしを脅す気か? いい気になるのも大概にしろ!」
「いいや、俺には関係ない。黒い噂の村長の事など、知ったことではないからな」
 言いたいだけ言った後、セルジュは屋敷を後にした。
「ふん、混血が」
 村長は吐き捨てるようにつぶやいたが、体中に冷や汗をかいていた。
 なぜかキセルを持つ手が震え、それはどうしても止められなかった。

「いや、ありがとうございます。これで、寺も再建できるというものですよ」
 村の医師の家にて。報酬とともに、冒険者は青雲より感謝の言葉をも受け取っていた。
「まあ、村長の息子たちは、因果応報って事だな。荒れていたとはいえ、寺で冒涜めいた事をしてたんだ。そんな事をしでかした奴らにゃ、バチが当たって当然だって」
「そうです。聖なる場所を貶める事をする者には、相応の天罰が下るもの。これを教訓として、二度とこんな事をする者が出てこないように祈るばかりです」
 綾辻とエリスが、青雲の言葉に相槌をうった。
「ですが、残念なことです。できれば、村長さんに悔い改めるようにとお話したかったのですが、セルジュさんから止められまして‥‥」
「ご同輩、拙僧も同じです。何、かの村長を悔い改めさせるのは、拙僧にお任せ下さい。仏の道を説く者として、彼を改心させてみせますとも」
 望月の言葉を受け、青雲は力強く言った。
「そういえば、セルジュ殿は? そろそろ戻ってくるころじゃあないですか?」

 青雲が噂していた頃。セルジュは寺にいた。
 そして寺の「首塚」には、美しくも物悲しい調べが響いていた。
「霊を鎮めるために、一曲奏でさせてくれ。魂に静寂を与える音を‥‥」
 ノルマン王国のナイトが奏でる笛の音が、鎮魂歌のように、寺に、森に染み入った。