眠れぬ武者に眠りを
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■ショートシナリオ
担当:塩田多弾砲
対応レベル:1〜3lv
難易度:やや難
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:04月02日〜04月09日
リプレイ公開日:2005年04月07日
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●オープニング
「このままでは、浮かばれません。どうか、皆様のお力をお貸し下さい」
ギルドに来ているのは、老婆だった。どこかの武家か名家の者が持つ、品のよさがにじみ出ている。
「私は、橘あやめ。皆様にしていただきたいのは、私の夫を倒していただきたいのです」
彼女は、武家の橘家の者だった。今は子供や孫が家督を継ぎ、引退した身である。
が、彼女には気がかりがあった。それは今よりも若かった頃、夫の橘新衛門と死に別れてしまった事だ。
息子が元服したての頃、新衛門は京に出張する事となった。その帰りに、とある村に泊まったが、そこに大人数の盗賊が襲撃をかけたのだ。
新衛門たちにより、盗賊たちは返り討ちになったが、それでも無傷ではすまなかった。盗賊たちは、新衛門に致命傷を与えたのだ。
馬もなく、一人生き残った家来は徒歩で隣の村まで助けを求めた。助からなくとも、せめて遺体を橘家の墓に埋葬し、妻のあやめに事の次第を報告したいと思い、彼は必死になって走った。
が、村に着いたのはそれから一日。そして、江戸にいるあやめの耳に事の次第が入ったのは、更に数日経ってからだった。
あやめらはすぐに、夫の行方を捜した。家来もまた怪我を負っていたために、隣村にたどり着き、助けを呼んだらすぐに死んでしまったのだ。そのため、新衛門がどこの村で死んだのか、定かでなかった。
おそらくは、死んでいることだろう。しかしそれでも、ちゃんと葬ってやりたい。そのためにも、遺体がどこにあるかだけでも確認しておきたい。そう思って、あやめ自らも捜索に出向いた事もあった。
が、橘家で早急に対処せねばならない問題が立て続けに発生し、遺体の捜索は後回しにされた。
やがて、正式にあやめの息子が橘家の家督を継ぎ、妻を娶り子供も生まれた。ようやくひと段落したところで、あやめに連絡が入った。
新衛門らしき姿をしたあやかしが、とある廃村の墓場で目撃されたと。
ごろつきの一団が、一晩の宿と思ってある廃村の荒れ寺に泊り込んだ時の事だ。そこに、武者の霊を見た。
青白い炎をまとっているかのような妖気とともに、恨めしそうな顔で迫りくる武者を見て、ごろつきたちは恐ろしくなった。が、豪胆なごろつきの頭は、愛用のだんびらで切りつけた。彼は以前にも、その刀で数体の死人憑きを切り捨てた事があるのだ。しかし、武者はその一撃をものともせず、ごろつきの頭をつかみ、殺してしまったのだ。
武者は次に、ごろつきたちに襲い掛かった。かろうじて一人が逃走に成功し、近くの村に駈け込んで、九死に一生を得たとの事だ。
遺体はボロボロの衣服を着ていたが、橘の家紋‥‥特徴的な花の家紋が衣服についていたと、ごろつきは証言した。
「おそらく、その武者は、夫‥‥新衛門に相違ないでしょう。村そのものが廃れてしまっていたために、発見が遅れてしまいましたが、夫がそのような姿で成仏せずにさまよっているのは、あまりに不憫です。それに、息子や親族に頼むのも、また酷な話です」
涙ぐみながら、あやめは言葉を続けた。
「そのごろつきから、村の位置を聞き出し、場所を確認しました。皆さんにしていただきたいのは、その村に赴き、夫を‥‥人外の存在と化した、夫を倒し、成仏させていただきたいのです」
苦渋の表情で、あやめは依頼内容を口にした。
「どうか、お願いします。夫を、苦しみより‥‥解き放ってください」
●リプレイ本文
村は異様に薄暗かった。住む者のいない建物は、全てが色あせ、死人の色で彩っていた。
動物はもちろん、虫や木、草花も見かけない。晴天だが、太陽も光を射したくないという錯覚すら憶える。
それを払拭せんと、壬生桜耶(ea0517)はかぶりをふった。
「こんなところで命を落とすとは‥‥さぞや無念だったでしょう」
「そうね。愛する家族の顔も見れず、傷の痛みと孤独に苛まれてこの世を去った事でしょうからね。その無念さを、何とかして晴らさないと」
壬生に相槌をうち、弓を手にしたサラ・ヴォルケイトス(eb0993)が言葉を次いだ。
「だな。俺もこんなとこで死ぬのはごめんだぜ。はやく成仏させてやろうじゃん」
金髪碧眼のエルフ、レーラ・ガブリエーレ(ea6982)が周囲を見つつ言った。陰鬱な雰囲気を払拭するかのような明るさが、彼からは感じられた。
しかし、九十九刹那(eb1044)は、不安を隠しきれていなかった。村の雰囲気に飲まれるように、彼女は辺りを見回している。
「大丈夫か、九十九殿?」
仲間の不安そうな様子を見て、武藤豪樹(eb1853)が声をかけた。
「ええ、大丈夫です。すみません、心配をかけて」
「九十九、不安なのは俺も皆も同じじゃん。気にするなって」
レーラは仲間を元気付けた。
彼のこの明るさが続く事をサラは願った。高潔な侍。彼の魂の悲しみが払拭され、笑顔を取り戻せたら‥‥と。
彼らは、件の寺の前まで来た。
馬を近くの木につなぎ、各々が武器を構える。
壬生と九十九は日本刀「霞刀」を鞘より抜く。サラは長弓を構え、撃てるように身構えた。矢の数は九本。慎重に狙いを定めないと。
しかしその前に、ちょっとした望みがあった。矢文を用い、出来れば穏やかに成仏させられるようにという、わずかな希望を。
レーラと武藤は後方からの、呪文での援護を受け持った。神聖騎士と陰陽師。彼らの呪文が、十分に効力を発揮できれば良いのだが。
武藤の手には、壬生より借りた「ファイヤーボム」のスクロールがある。範囲内に敵が到達し、仲間が巻き込まれない場合、これを用いて魔法の火球を放つ予定だ。
壬生は、自分の刀身にバーニングソードをかけていた。魔力を付与された炎が、剣をおおう。
「壬生さん、こちらもお願いできますか?」
「わかりました‥‥九十九さん、どうしました?」
彼女の身体は、震えていた。それなりに修羅場をくぐったとはいえ、戦いの直前になるとまだ身体が震えてしまう。
「もう‥‥大丈夫です」
声を振り絞り、九十九は答えた。
「じゃ‥‥行こうぜ」
全員に「グッドラック」をかけたレーラは、寺へとあごをやった。
離れているが、廃寺は大きく、異様な雰囲気を漂わせている。
陽光の下でも、そこからは陰鬱な雰囲気が滲み出ていた。実行を昼間にしたのは正解だったようだ。夜間は更なる不気味さで、冒険者をくじけさせた事だろう。
武藤は寺を臨み、呪文を唱えた。
「‥‥其が狙うは不死なるもの! 『ムーンアロー』!」
陰陽師の呪文が、光の矢と化し放たれた。
矢は寺院の本堂の中に消えた。そこからゆっくりとした歩調で、「それ」が現れた。
その身体をまとうのは、かつては立派な装束。今は汚れきりぼろぼろになっている。先刻のムーンアローによる軽傷が認められたが、ほとんど痛手にはなっていないようだ。全身からは腐臭が漂い、冒険者達を躊躇させた。
廃寺を背後に、その身体からはほのかに青白い炎が揺らめいていた。炎にしては奇妙にほの暗く、不気味である。
「‥‥レイス」サラが、母国の言葉でそれの名をつぶやいた。怨霊と化した侍は、太刀を手にしていた。
サラはすぐに矢をつがえた。一本目には、矢文が結わえ付けられている。家族からの手紙。それには家紋が描かれ、非常に目立っていた。
少しでも正気が残っていたら‥‥。淡い期待を込め、彼女は矢を放った。
怨霊は矢に対し、刀で薙ぎ払うことで応えた。
矢は断たれた。絶望を増長せんとばかりに、怨霊は突進した。
壬生と九十九は、左右に分かれた。スクロールを手にした武藤が、呪文を唱える。
「ファイヤーボム!」
が、それを察知した怨霊は、火球をかわした。火球は廃寺へと当たり、建物に火を放つ結果となった。
怨霊はそのまま、刀を構えた九十九へと切りかかった。白銀の刃と赤錆の刃、生きている侍と死した侍の剣が切り結ばれる。
「ちっ、うまく狙いが定まらないじゃん!」
ホーリーの呪文で援護しようと身構えたレーアであるが、九十九と怨霊の距離が近すぎる。呪文が命中しても、その拍子に怨霊が振り回した刀で、九十九にダメージが行くかもしれない。
怨霊の後方から、壬生の刃が襲い掛かった。刃が、怨霊の足元を狙う。
九十九の刀を弾きとばし、怨霊は壬生の刀を自らの剣で受け止めた。彼の攻撃は、既に予想していたようだ。
戦う三人を、廃寺で燃える炎が照らしていた。
「くそっ、このままじゃあやばいじゃん!」
レーアは接近した。呪文で、動きを封じるつもりだ。
壬生は、怨霊の顔と対峙した。気圧されぬよう、顔を睨み返す。
「‥‥?」
そこに、彼は見た。
「壬生、どいて!」
サラの声に我に帰ると、彼は後ろに下がった。そして次の瞬間、サラの弓から放たれた矢が怨霊に命中した。
さらに数本の矢が、不死の侍に刺さる。が、堪えていないようだ。
しかし、注意を向ける事はできた。その時既に、レーアは呪文を唱え終わっていた。
「コアギュレイト!」
呪文が発動し、怨霊はその動きを止めた。
「‥‥死は平等に訪れる。土は土に、灰は灰に。『ピュアリファイ』!」
呪文により、怨霊は束縛された。動けなくなった不死に、レーアは最後の呪文を唱え、怨霊に向け力を放った。
「さすがはレーア、見事なものだ」
武藤が、仲間の勝利を称えるように言った。
「怨霊に勝てた。俺のギルド初仕事は成功したって事か?」
「ああ、成功したじゃん。もっとも、勝てたとは言えねーけどな」
「ええ、そうですね。彼は、最後の最後に‥‥わかってくれたようです」
レーアと、震えている九十九の言葉に、武藤は疑問を口にした。
「どういうことだ?」
「彼は、わざとレーアさんのコアギュレイトにかかってくれたんですよ。でなければ、サラさんの矢をものともせず、私にそのまま襲い掛かり、切り捨てたでしょうしね」
壬生は、静かにつぶやいた。
「不死の化物と化しても、人の心はわずかに残っていた。彼は、人として死すことを願っていた‥‥推測に過ぎないけどね」
矢を回収したサラは、矢文を取り上げ、新衛門の亡骸に握らせている。
「ああ。でなきゃ、俺みたいな駆け出し神聖騎士の呪文なんざ、跳ね返しただろうしな」
手を組み、祈りを捧げつつ、レーアは言った。
「彼は‥‥泣いていました。とても、悲しそうな瞳で。そして、最後に怨霊の力を跳ね除け、呪文にかかってくれたんですよ」
「‥‥本当の勝者は、新衛門さん自身って事か」
壬生の言葉に、武藤はつぶやいた。
燃えている廃寺から放れ、彼らは新衛門の遺体を荼毘に付した。
簡単に作った墓に遺灰を埋め、サラが持ってきた線香を焚く。
「新衛門さん、生きてる時に会ってみたかったじゃん」
レーアが、静かに言った。遺族に渡すためのもの‥‥遺髪と紋入りの短刀が、彼の手に握られていた。
「もう、何も心配はいらないぜ。ゆっくり、眠ってくれじゃん」
冒険者達は、静かに祈った。廃寺を燃やす炎が、白昼の闇を払拭するかのように燃えていた。