蔵の中を大掃除

■ショートシナリオ


担当:塩田多弾砲

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:5

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月09日〜04月14日

リプレイ公開日:2005年04月17日

●オープニング

「で、迷惑とは思うんですけどっ、やっぱりほっとくのはいけないと思います! それでっ、みなさんにお願いしたいんですっ! お掃除を!」
 元気溌剌な少女が、ギルドを訪ねていた。
「えっと、わたしは梓。水無月梓って言いますっ! 好きなことはお掃除で、趣味はお掃除、好きなお掃除道具はきれいに出来るものなら何でも、嫌いなことはお掃除できないことで、好きな食べ物はお掃除した後だったら食べられるもの全部ですっ!」

 彼女は今、江戸の中くらいの商店「水無月屋」で働いている。潔癖症というわけではないが、とてもきれい好きで、汚れたまま、汚したままの物を見ると我慢できず、つい掃除してきれいにしてしまう事で有名だった。
 そのため、水無月屋の店舗やその周辺は非常に清潔であり、主人の耕作はじめ、みんなが彼女を好いていた。
 しかし彼女は捨て子で、今の今まで天涯孤独の身であった。まだ小さな店舗だった水無月屋の前で行き倒れた女性の手の中に抱かれていたのが、梓だったのだ。
 しかし本人は、水無月の店の人間や近所の人々の寵愛を受け、健やかに成長した。寂しく思うことはあったが、彼女は孤独を感じることなく、水無月の本当の子供のように扱われ、毎日を忙しく、そして幸せに過ごしていた。
 そんな中、彼女の元に数人の人間がやってきた。
 それは、近くの村に住む長者からの使いであった。彼は昔、妾との間に娘を作ったが、本妻が彼女を無理やり別れさせてしまったのだった。
 そして年月が過ぎ、本妻との間にも子供が出来た。しかし、村近くに住む小鬼たちに襲われ、彼女と子供は殺されてしまった。
 それ以来、長者は後妻も娶らず、妾も作らず、昔の自分の娘、すなわち妾との間に出来た娘、今となってはたった一人の肉親を探していた。そしてようやく見つけたのが、梓だったのだ。
 しかし、その事を本人に伝える直前、件の長者は亡くなってしまった。
 
 使者が伝えたのは、次の内容だった。
 長者は後継者がいなく、晩年には山奥に作った蔵に、全ての財産を入れて固く鍵をかけた。そして、梓に蔵の中にあるもの全てをやろうと。
 ただ、蔵はかなり大きく、管理を怠り放置していた。そのため、中は埃と蜘蛛の巣に覆われ、汚れきっていることだろう。目録も途中までは作ったものの、中途半端なものとなってしまった。
 一応、ちゃんとした目録を作っておきたい。そう思い、調べ始めた矢先。
 蔵の、奥の部屋へと続くところに、何かが蠢いているのが見えた。
 それは、巨大な蟲だった。

「あたしは、そんな財産なんてどうでもいいですっ。あたしの両親は、水無月屋の両親ですから。でもっ、その蔵の中にあるもの。それを放っておくのはもったいないですっ。長者さんはもうお葬式済んで埋葬されちゃったそうですから、蔵の中にある物は、近所の皆さんに分けたり譲ったりしたいと思ってますっ。それで‥‥」
 梓は、依頼内容を言い始めた。
「みなさんにお願いしたいのは、蔵の中に入って、その虫さんをなんとかして欲しいんですっ。このまま放っておいたら迷惑かかっちゃうですし、あたしたちも怖いですからっ」
報酬の話になったが、彼女はちょっとうつむいた。
「あ、あのっ‥‥それなんですけどっ、お金以外のものじゃあ、だめですかっ?」
 実は今、水無月屋はちょっと経済的に危機らしい。そのため、できれば蔵の中にある金目の物で支払いたいというのだ。
「中には、値打ち物があることは確実なんですっ。ですからっ、それで皆さんへのお支払いにしたいんですけどっ‥‥」
 訴えかける少女を見て、むげにはできない。依頼承諾という事で、君たちはその旨を述べた。

●今回の参加者

 ea9703 グザヴィエ・ペロー(24歳・♂・ジプシー・人間・ノルマン王国)
 eb1148 シャーリー・ザイオン(28歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 eb1174 ロサ・アルバラード(27歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 eb1415 一條 北嵩(34歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb1755 鶴来 五郎太(30歳・♂・浪人・ジャイアント・ジャパン)
 eb1804 甲賀 銀子(40歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

「うーん。この依頼、どうも以前に覚えがあるような、無いような‥‥」
 鶴来五郎太(eb1755)。浪人は、くわえた小枝を噛みつつ、蔵を見据えていた。
「なんとなく、以前に流れた依頼に似ているような、そうでもないような。ぶつぶつ」
 ぶつぶつ言いながら、彼は蔵の周囲を見回し、偵察していた。蔵はかなりの大きさで、後ろの方には穴の類は開いていない。どこから入り込んだのかは知らないが、よほど中が気に入ったのだろうか。
「おーい、偵察終わったら、こっち手伝ってよ。さすがにトリモチなだけあって、粘ついててさ」
 グザヴィエ・ペロー(ea9703)が鶴来に声をかける。彼はトリモチの桶を手に、罠を作っていた。
「どうだった?」
「ああ、蔵の後ろには穴や出入口はない。窓くらいだな。おそらくは蟲は小さな時にそっから入り、中ででかくなったんだろうな」
「ネズミやら虫やらも入り込んでたようですから、餌には困らなかったでしょうね。さてと‥‥」
 二人は、仕事を終えた。彼らの目の前には、大きな箱型をした蟲用の罠があった。その壁と床には、トリモチが塗られている。
 後は、餌でこの中におびき寄せ、動けなくなったところで止めを刺す。それを運んでくる仲間は、もうじき来るはずだ。

 二台の大八車をがらがらと引き、四人の仲間がやってきた。
 蟲退治用の餌を積んでいる大八車には、一條北嵩(eb1415)とシャーリー・ザイオン(eb1148)が、掃除用の道具を積んでいるのは、ロサ・アルバラード(eb1174)と甲賀銀子(eb1804)が、それぞれ引いている。掃除用具の大八車には、梓も乗っていた。
「残念だ、全く、少年でないのですか‥‥ぶつぶつ」
「あのっ、銀子さんっ? なにか言いましたかっ?」
「あはは〜、何でもないわよ梓ちゃん。良い子は知らなくて良いことよ〜?」
 ロサの言葉に、きょとんとした表情で梓は首をかしげた。
「蟲用の餌、持ってきたわよ。これだけあれば、少しは出てくるんじゃないかしら」
 大八車を止め、シャーリーは生肉や野菜を下ろしはじめた。村の店からもらってきた、腐りかけたり汚れたりして食べられなくなったものばかりだ。臭いが漂い始めており、これに誘われ、蟲がやってくるかもしれない。
「おおっと、罠も作り終わったようだね。んん〜、いい出来だ。思わず僕も住みたくなっちゃうなあ」
 罠を覗き込むと、一條は餌を運び、トリモチを塗っていない場所に置いていく。丁度床の真ん中辺り、その場所に餌は置かれている。出入りできるのは天井の穴からのみ。入り込んで餌に食らいつこうとしたら、床や壁のねばついたトリモチに絡め取られるという寸法だ。
 罠の準備が出来、残りのトリモチも塗り終わった。後は、中の蟲をおびき寄せ、退治する。
 それを実行に移すべく、彼らは錠前がかかった蔵へと歩み寄った。

「それで」錠前を前にして、シャーリーは一條にたずねた。
「どうだったの? 蔵については。使者の人に聞いてみたんでしょ?」
「いやあ、たいした事はわからなかったよ。で、未完成の目録も見たけど、正直、作った人はかなりいい加減で飽きっぽいね」
 やれやれとばかりに、彼はかぶりを振った。
「なにせ、どの項目もろくに埋まってないときたもんだ。品物の名前を途中まで書いたら、まるで飽きたとばかりに別の項に移ってるし。で、そこでも途中まで書いては、また別へ。この繰り返しだよ。それに、分類したのとは別のものが書かれてるし。武具の項になんで巻物が書かれてるんだよ。この点を整理するのにも、ちょいとかかりそうだね」
「ま、そいつは後だ。今は‥‥中の蟲を退治するのが先だ。だろ?」
 鶴来が促し、ロサが預かってきた鍵を錠前に差し込み、ひねった。
 扉が開くと、中からはむっとする臭いが漂ってきた。まるで、空気そのものが汚れているかのようだ。
「ううっ、口元を覆っておけば良かったかなあ」
 汚れた空気を吸ってしまったグザヴィエは、うめきつぶやいた。

「‥‥いますね、蟲。かなりの大きさのものが、三匹」
 ロサから借りたスクロールを用い、ブレスセンサーの呪文を唱えた甲賀は、蔵の奥へと目をやった。
「間違いないの?」
「ええ、シャーリー様。蔵の奥を、巣にしているのは間違いありません。わたくしたちが立案した作戦、実行すべきかと」
「じゃあ、とっとと始めるとするか。打ち合わせどおりに、いいな?」
 刀を構えた鶴来は、仲間達を見回し、静かに蔵の中へと歩を進めていった。
 餌となる肉や野菜を用い、それで外まで誘き出す。そして、用意してあった罠に蟲を追い込み、トリモチに引っかかったところを倒す。これが、彼らの考えた作戦であった。
 腐りかけた餌を抱え、六人の冒険者は奥へと進んでいく。周囲は汚れに汚れきり、湿気もまたひどかった。黒い塊があると思ったら、それは無数のゴキブリだった。
「梓さんほどじゃあないけど、私もお掃除したくなっちゃったわね」
 ロセがうめいた、その時。
「! あれを!」
 グザヴィエの提灯が照らした先には、暗闇に蠢く塊があった。

 数秒後、彼らは腐った餌を放りつつ、外へと駆け出していた。
「な、なによ。誘い込むための餌なんて必要なかったじゃない!」
「俺達、生きている奴らの肉が好物だったようだな、あいつら!」
 振り向き、彼らは戦闘態勢をとった。離れた場所では、梓が木の陰にかくれつつ、心配そうに見守っている。
 蔵の奥より、蟲が這い出てきた。八本脚が支えているのは、膨れ上がった腹部。頭部には、複数の目が爛々と輝いている。
 それは、土グモだった。それは、冒険者達が故意に落とした餌を貪りつつ、蔵の外へと這い出てきた。
 一匹が蔵の扉から出てくると、奥からはもう一匹が這い出る。さらにもう一匹が、食事を期待するかのように出てきた。
 二匹が冒険者に向かい、残る一匹は餌、そしてその先にある罠に興味を向けた。
「陽光よ、敵を切り裂く光の刃となれ!『サンレーザー』!』
 呪文を詠唱したグザヴィエは、魔力を用いて集中させた陽の光を、クモへ放った。
 呪文に続き、シャーリーも弓を引く。放たれた矢は、土グモの命を貫いた。
 シャーリーのみならず、ロサもまた弓を引いた。空を切り、矢はクモの柔らかな腹部に突き刺さる。
「あとは、俺達にまかせろ!」
 剣を抜き、一條と鶴来は切りかかった。志士と浪人の刀は、容易にクモの体を切り裂き、その命を奪っていった。
 
 罠のクモにも止めを刺し、蔵内部の脅威を取り除いたが。次の掃除が大事だった。
「つ、疲れた〜!」
「だから、私に家事やらせないでよ〜。ホント不得意なんだから〜」
 シャーリーとロサが、疲れきって地面に座り込んだ。
 一度蔵の中を空にして、そこから掃除を行い、中に入っていたものもきれいにする。数日かけ、彼らはこれを行ったのだ。
 むろん、村から新たな人手をつれてきて行ったわけだが。ちなみにその間、梓はニコニコ顔だった。
「掃除の方が楽かと思ってたが、クモと戦うほうがマシだぜ。掃除しなくていいんなら、あと三十匹のクモと戦ってもいいぜ」と、鶴来。
「あのっ、そんなにお掃除嫌いですかっ?」
「嫌いってワケじゃないけど、ちょっと大変なので‥‥」
 梓の問いに、同じく疲れきった口調でグザヴィエが言った。 
「と、とにかく、目録もできた。後は、清書すればいいんだけど‥・・」
 手元の書付を見つつ、一條はため息をついた。
 中に入っていたものは、確かに色々なものがあった。が、その多くが、壊れて使えないか、価値のないものか、価値があっても欲しくないものばかりだった。
「書物は‥‥奇書や春画ばかりじゃないか。書物を欲しいとは思ってたけど、これではなあ‥‥」
 一條は、取り分けていた巻物のひとつを手にした。
「少なくとも、これは値打ちがありそうだ。俺はこれをもらっておこう」
 彼が手にしたのは、富士山の夜明けを描いた掛け軸だった。状態も良く、見た目にもきれいだ。
「では、わたくしはこれを」
甲賀が手にしたのは、呪文を唱えるための経文。
「甲賀さん、スクロールですか?」
「ええ、シャーリー様。中は白紙ですが、これから呪文を唱えるのに必要となるでしょう」
 骨董も、ほとんど壊れていたり、無価値なものばかり。しかし、素茶碗のひとつがグザヴィエの目にとまった。
「これは良さそうだ。よし、僕はこれをもらうよ」
 満足そうなグザヴィエに比べ、鶴来は残念そうな顔をしていた。武具のほとんどは、状態がひどかったのだ。
「刀はあったが‥‥刃も柄もぼろぼろとはな。くそっ」
 ぶつぶつ言いつつ、彼は自分の戦利品を手に取った。
「ま、この軟皮鎧で我慢するか。後は‥‥手裏剣が二本か。手裏剣ってもなあ」
「なら、俺にくれないか? 手裏剣も使いようによっては、結構使えるもんだしな」
 一條に手裏剣を手渡す隣では、シャーリーが弓を手にしていた。
「うん。この弓は良さそうね。弦の張り具合もいいし、ちょっと手入れすれば十分に使えそうだわ。矢はっと‥‥」
「こっちに十本、使えるのがあるわよ。あとはみんな、ぼろぼろで使えないけど」
 ロサが、シャーリーに矢筒を手渡す。矢筒自体はぼろだが、中の矢は無事だった。
 そういうロサが手にしているのは、朱塗りの櫛だった。
「この赤色がいいわね。これで髪をすくのも悪くは無さそうだわ」
「あのっ、お支払い、それでよろしいですかっ?」
 梓の言葉に、皆がうなずいた。
「ですが、梓様」甲賀が、静かに問いかけた。
「育ての親もそうですが、生みの親もまた梓様にとっての親。どうかその方もまた、梓様の思い出に加えてあげてはいかがですか」
「わたしの、思い出にっ?」
「ええ。この蔵の中、きっと実の親の家にまつわる物もある筈。それを見つけ、梓様の思い出として、とっておくのです」
 甲賀の言葉に、梓はとまどい、うなずいた。

 後日。
 水無月屋の店頭には、大きな、そして変わった形の花瓶が置かれていた。
 花が生けられているその花瓶には、梓の実家の家紋が、大きく描かれていた。