犬鬼の毒

■ショートシナリオ


担当:塩田多弾砲

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月25日〜05月30日

リプレイ公開日:2005年06月01日

●オープニング

「ちょっと、火を貸してもらえるかねえ。煙草を一服やりたいんでね」
 キセルを口にくわえたその中年女性は、じろりとギルド内を見回した。
「ふん、まあまあの内装だね。ま、もうちっとばかし警備の気をシメとかないと、すぐに文無しになりそうな甘さだけど」
 そう言った彼女は、懐からいくつかの銭入れを取り出した。
「さっき受付の嬢ちゃんから、あとはすれ違った小間使いや見習いからちょっと預かったものさ。大丈夫、中身には手を出しちゃいないよ。あたしがどういう人間か、この行動でよくわかっただろう?」
 彼女は、今度は自分の銭入れを、足元にくくりつけ隠し持っていたものを取り出し、目の前に差し出した。
「こんなやくざなあたしからの依頼だ。もし受けてもらえるんなら、この銭を払おう。本当に、奴らを殺してくれるんならね」

 彼女は、お菊。幼少時に両親を失った彼女は、スリをしつつ生計をかせぎ、ある日、盗賊団の親分、彦助に拾われた。彼の銭入れをすろうとして、逆に彼に捕まったのだ。
 盗賊でありながら、彦助は子供が好きだった。彼は盗んだ金を使って、身寄りの無い子供を集めては、親代わりになって育てていたりもした。本人は決して義賊を気取ってはいなかったものの、彦助は殺しを嫌う盗賊で、お菊にとっては本当の父親であった。
 そしてお菊は、彦助の実の息子、彦七と結ばれた。彦七と堅気の生活を送って欲しいと考えた彦助は、二人に今まで稼いだ路銀を渡し、祝福してくれた。
 そして、町にて幸せに暮らしていた。彦七はお菊とともに小さな店を開き、そこで慎ましく毎日を過ごしていた。
 が、ある日の夜。二人の店に、血だらけになった男が転がり込んできた。彼は、彦七の弟だった。
 隠居した彦助は、現在はとある山奥の村に住んでいる。村はずれに建っている屋敷が、彦助の住まいであり、盗賊たちの根城‥‥盗品を納めた洞窟‥‥のすぐそばであった。
 盗賊団は彦助の次男、彦作が新たな頭領となり、周辺の村々の、長者や武家などの裕福な屋敷のみを獲物として、盗みを働いていた。無論、殺しはせずという教えを守り。
 が、ある日。盗賊たちは彦助の隠居を祝っていたら、突然の襲撃を受けた。
 犬鬼の群れが、盗賊の一味に襲い掛かったのだ。酒もまわっていた彼らは、完璧に不意をつかれた。
 全員が殺され、彦助もまた、犬鬼の刃の前に倒れた。父の仇を討たんと彦作もまた奮闘したが、討てずに終わった。
 そして、彦作は致命傷を負い、兄のもとへ助けを求めにきたのだった。が、ここまで伝えると、彦作は息をひきとった。犬鬼が放った矢の毒が、彼の命を奪ったのだ。

 父と弟、そしてかつての仲間を奪われた彦七は、隠していた刀を手に立ち上がった。そしてお菊もまた、夫と共に仇討ちに打って出た。
 しかし、犬鬼の盗賊団は恐るべきものだった。彦作の屋敷がある村は、既に襲われて跡形も無く、村人たちの死体が累々と転がっていた。
 そして、かつて自分たちが生活していた屋敷。そこには犬鬼の群れが陣取り、あたかも最初から自分たちがここの主だといわんばかりに我が物顔でのさばっていた。
 怒りに駆られ、彦七は切りかかったが、数匹の犬鬼を殺すだけに終わった。そして、やつらの頭らしき大柄な犬鬼に切り付けられ、深い傷を負ってしまった。
 お菊が引きずり、馬に乗せ、なんとか自分たちが住む村へと逃げ帰れた。しかし、彦七は生死の境を彷徨う羽目に陥った。犬鬼は、刀の刃に毒を塗っていたのだ。
「すぐに、村の医者に看せたさ。しかし、その毒は珍しいもので、村には解毒剤は無かった。それに、江戸の薬問屋でも、なかなか扱っていないそうなんだ。このままじゃ、あたしの悲劇を繰り返しちまう事になるよ‥‥」
 彼女はそう言って、自分の腹をさすった。
「この子が生まれたとしても、父無し児になっちまう。もう、あたしみたいな目にはあわせたくないんだ。この子をね」
 そう言って、彼女は強い口調で言った。
「この銭は、あたしが貯めた貯金だ。これを払ったら文無しになっちまうが、まだ店があるし、なにより旦那が、彦七が生きて戻るんなら安いもんさ。それに、旦那に子供の顔を見せてやれるのならなおさらだ。あたしがして欲しいのは、親と仲間の仇である犬鬼どもに復讐してやる事だよ」
 しかし、彦七が受けた毒の薬はどうなるのか。それを聞くと、お菊は答えた。
「なに、お医者に聞いたんだけど、なんでも犬鬼は武器に塗る毒の解毒剤を常に持ち歩いているそうだ。自分が毒を喰らったりした時の用心にな。犬鬼どもの頭と最初に相対した時、あいつは膏薬のようなもんを持ってた。きっとあれが、解毒剤に違いないよ。
 あたしの望みは、犬鬼どもを皆殺しにして、解毒剤を持ってくること。それだけさ。支払いは、あたしの貯金のこの銭と、根城にしまいこんでるお宝。といっても、最近物入りだったそうから、あんまり残っちゃいないだろうけどね」
 鋭い、しかし悲しみをたたえた眼差しで、お菊は依頼を口にした。
「ちょいとばかし厄介かもしれないけど、報酬は悪くないはずだ。あたしの旦那を助け、親父様の仇をとってくれ、頼む」

●今回の参加者

 ea3880 藤城 伊織(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea7394 風斬 乱(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8483 望月 滴(30歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 eb0479 露草 楓(20歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb1148 シャーリー・ザイオン(28歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 eb1755 鶴来 五郎太(30歳・♂・浪人・ジャイアント・ジャパン)
 eb1891 久駕 狂征(39歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb2170 黄 鸞鳳(32歳・♂・ファイター・人間・華仙教大国)
 eb2319 林 小蝶(25歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 eb2493 霧隠 誠一郎(36歳・♂・侍・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

「ここで、おとなしくしてろよ?」
 村の周辺、藤城伊織(ea3880)は、愛馬を手早く近くの木につなぐ。主人に返答するように、馬は鼻を鳴らした。
「お菊さんに確認を取りましたが、犬鬼は少なくとも十匹以上。そして、率いる頭が薬を持っているはずです」
 絵図面を前に露草楓(eb0479)は、仲間達に作戦の概要を確認させていた。
「村までの地域には、危険は無さそうです。で、屋敷の奥座敷に、犬鬼の頭は陣取っている様子。囮が犬鬼たちを引き寄せたら、何とかなると思います」
「で、囮は犬鬼どもの本体をひきつけている間に、俺達が頭から薬を奪う。俺は町へと一目散。後の連中は犬鬼どもを全滅‥‥うまく行くかな」
「うまく行く事を願いたいぜ。早く終わらせ、温泉でのんびりしたいもんだ」
 藤城の言葉に、太刀を肩に担いだ霧隠誠一郎(eb2493)が言った。
 彼に続き、風斬乱(ea7394)は、誰に言うでもなく静かにつぶやいた。
「殺せば必ず仇(敵)が来る‥修羅の道‥悲しいかな、それが世だ」
 皆は、その言葉を聞いて闘志をあらわにした。一名を除いては。
全ての命あるものを大切に。望月滴(ea8483)はこの様な時でも、自らに課したその教えを守るべく、手を合わせた。

 シャーリー・ザイオン(eb1148)と黄鸞鳳(eb2170)、久駕狂征(eb1891)と林小蝶(eb2319)。四人は本隊から離れ、根城の近く、屋敷を臨めるあたりに来ていた。
「いるいる、犬鬼が。あいつら、気づいてはいないようだな」
「どうやら、罠の類は無いみたいですね」
 黄とシャーリーの視線を受けていると知らず、屋敷の門前で、犬鬼は辺りを警戒していた。
 久駕と林は、互いにスクロールを取り出し、呪文を唱えていた。二人が唱えたブレスセンサーが、屋敷の情報をもたらす。
「‥‥犬鬼の数は‥‥」
「こちらも確認した。十匹以上居る事は確認できたな」
 どうやら、情報は正しいと見て良さそうだ。
「難しいが、不可能じゃあない。よし、露草に報告だ。そろそろおっぱじめる時だってな」
 久駕の言葉に、皆は頷いた。

 日も高い、正午過ぎ。
 二匹の犬鬼は屋敷の門を背に、周囲に目をやっていた。手にした弓は古いものだが、敵を射殺すには十分だ。
 見張りが油断したため、この間は不覚をとった。頭の機嫌を損ねないようにと、彼らは厳しく視線を流していた。
 いきなり、犬鬼は迫り来る気迫に気づいた。二匹の犬鬼が見たのは、迫り来る巨大な火球。
 火球は屋敷の門、ないしはその扉にぶち当たり、爆発炎上した。派手な破壊音に、何事かと犬鬼の群れが屋敷の内部から出てくる。
「へっ、こっちの方が性にあうぜ。退屈な宮仕えよりかな!」
 ファイヤーボムの呪文を唱えた久駕は、満足そうにつぶやいた。
 そしてそれが合図とばかりに、久駕と入れ違うようにして、四人の切り込み部隊が突撃した。
太刀を構えた風斬が突撃し、続いて霧隠が、林が、巨大な斬馬刀を背負った鶴来五郎太(eb1755)が、次々に犬鬼へ突撃する。
 彼らに続いているのは、久駕と藤城。さらに後ろには、物陰に隠れつつ、黄と望月、シャーリーが、犬鬼の様子をうかがっていた。
 冒険者達の姿に、先頭にいる犬鬼は、小さめの弓を引き、矢を放った。
「ぐっ!」
 刃で払おうとしたが、払いきれなかった。霧隠の肩に、矢が突き刺さる。
 更に矢を放とうと、犬鬼は弓に矢をつがえるが、今度は逆に矢を受けた。シャーリーの放った矢が、犬鬼の腕に命中したのだ。
その隙に、霧隠は剣を振り下ろした。刃が、こしゃくな生き物を切り捨てる。
 犬鬼の片方は、迫る林を迎え撃っていた。
「はぁーっ!」
 武器での一撃に勝るとも劣らぬテコンドウの蹴りの一撃が、犬鬼の胸板に決まる。血を吐いた犬鬼だが、めげずにとげ付き棍棒で彼女に殴りつけた。
「きゃあっ!」
 防御した林だが、棍棒のとげは、彼女の肌に突き刺さり、血を流させた。
 しかし、犬鬼の逆襲もそこまでだった。犬鬼は黄の放った矢を腕に受け、そこに風斬の一撃を受け、切り捨てられた。
 が、勢い良く開いた屋敷の門扉からは、更に四匹の犬鬼が現れた。
四匹の犬鬼は、それぞれ長柄の槍や長い鎖などで武装している。その後ろには、さらなる犬鬼が二匹認められた。
「ここは俺に任せろ! 風斬、久駕、藤城! 行け!」
 六匹の犬鬼を前にして、斬刃刀を手にした鶴来が、牽制しつつ叫んだ。風斬らは、屋敷内へと突き進む。それを見て、後方に控えていた二匹の犬鬼が、三人の冒険者を追っていった。
 彼らを見送り、霧隠と鶴来、林と露草は、敵に立ち向かっていった。
 しかし犬鬼どもは、頭によって訓練されていた。
 最初に切りかかったのは霧隠。しかし犬鬼どもは牽制し、隙をついて足に鎖を巻きつけた。そのまま引っ張る。
「うわぁっ!」足に巻かれた鎖を引かれ、霧隠は転倒してしまった。止めとばかり、棍棒の一撃が頭に迫る。
「危ない! ソニックブーム!」
 露草の短刀からの一撃が、衝撃波となって犬鬼に切りつけられた。
 その一撃は小さかったが、霧隠の命を救うに足る一撃。棍棒の狙いが反れ、霧隠の頭は潰されずにすんだ。
 しかし、露草は無傷では済まなかった。仲間を傷つけられ怒った、別の犬鬼からの一撃を受けたのだ。
「危ない!はあっ!」
 林が槍の穂先を蹴り飛ばし、直撃は避けられた。しかし露草は、痛手を負ってしまった。
「くっ‥‥、強いです、この犬鬼たち!」
「みんな、どいてろ! 俺がカタをつける!」
 負傷した仲間を後ろへやると、鶴来は自らが盾になるように進み出た。
 斬馬刀を肩に構える浪人を見て、犬鬼たちもたたらを踏んだ。
 そして、感じ取ったようだ。目前の浪人が、かなりの腕前だという事に。
 気迫とともに、鶴来は睨んだ。

 三人は、玄関に入り込んだ。そのまま、奥の座敷へと駆ける。
 ファイヤーボムは、玄関を燃やしていたが、内部はまだ燃えていない。そして、まだ無事な座敷から、犬鬼の頭が出てきた。
 明らかに、気迫が違う。体中に走る傷痕から、そいつは修羅場を潜り抜けた古強者である事が感じられた。腰の帯には、様々なものが下がっている。そのうちの一つに、三人は目を奪われた。木製の膏薬入れ、解毒剤だ!
 先手必勝と、風斬は切りかかった。しかし頭は、太刀の一撃を太刀で受け、弾いた。
 犬鬼の頭は左手で短刀を抜き、二刀流で構えた。短刀には、蜜のように粘つくものが塗られている。毒に違いないだろう。
 藤城は、追いすがった二匹の犬鬼と戦っている。が、すばやく動く犬鬼に翻弄され、彼は片方からの棍棒の一撃を食らってしまった。
 肋骨をおさえ、呻く藤城。その痛みに追随するかのように、風斬もまた呻いた。
 犬鬼の頭は、風斬の太刀を弾き、切りつけ、蹴りで彼を後ろの壁に叩きつけた。その拍子に、重い角材が風斬の上に落ち、身動きさせなくしてしまった。
 しかし犬鬼の頭は、すぐ怪訝そうな顔になった。危機に陥っているのに、風斬の顔には笑みが浮かんでいるのを見たからだ。
「あいにくだが、俺達の勝ちだ」
 久駕の声が、犬鬼の頭に届いた。振り向いた犬鬼の頭は、自分の腰に下がっている解毒剤が、久駕の目前に浮いているのを見た。
「頂いたぜ、藤城!」
「おうさ!」
 藤城は、太刀で二匹の犬鬼をしとめ、薬を受け止めると、脱兎のごとく走り出した。
 解毒剤を奪われた犬鬼の頭は、久駕と風斬を放置し、藤城を追い始めた。
「待て! 俺が相手だ!」
 立ちはだかった久駕に対し、犬鬼の頭は馬鹿にしたように鼻息をもらし、追る。
「こっちだ、来てみろ!」
 久駕は裏口へと、犬鬼を誘った。誘われていると知らず、犬鬼の頭は向かってくる。
 やがて、裏口より外に出た。そこには、日差しが照っていた。
「サンレーザー!」
 日光が集中し、久駕の手に集まった。久駕の手から強烈な光が放たれ、それは犬鬼の頭の身体を、命を貫いた。

 屋敷の中から出てきた藤城を見て、犬鬼の群れの注意がそちらに逸らされた。
 その隙を、鶴来は見逃さなかった。
「食らいな!」
 長槍を持っていた犬鬼。その長槍ごと、鶴来は斬馬刀で真っ二つにした。
 一撃で仲間を真っ二つにされた様子を目の当たりにして、犬鬼たちは動揺し、逃走した。
「逃がさないぜ!」
 黄とシャーリーの弓が、逃げる犬鬼に矢の雨を降らせる。勢いづいた冒険者達も、犬鬼たちを追い始めた。
 しかし、統率する者が倒された今。烏合の衆と化した犬鬼の群れは、冒険者達の敵ではなかった。

「で、犬鬼は全部やっつけたんだね? 間違いなく?」
「はい、間違いありません」
 お菊の問いかけに、冒険者達は答えていた。
 屋敷の門が燃え、周囲には戦闘の後が見て取れた。
 犬鬼の死体は、望月が一箇所に運び、荼毘に付した。たとえ邪悪なる存在でも、命には変わりない。望月は燃える犬鬼の死体を前に、合掌した。
 あれから、藤城は犬鬼の追撃を避け、いち早く薬を届けた。そのかいあって、彦七の容態は回復し、危機は去った。
 そして後日。お菊は墓参りがてら、冒険者達への支払いを兼ねて、ともに屋敷へと赴いていたのだ。
「お医者の言う事にゃ、ぎりぎり危なかったそうだよ。そこの藤城さんや、皆のおかげさ。ありがとうよ」
 お菊は礼を言い、屋敷裏の倉庫へと向かった。冒険者達は犬鬼を一掃した後、倉庫をあらためた。が、中は荒らされ、お宝は無残にも壊されていた。
「くそっ、お宝がみんな壊されちまってるよ。これじゃあ、大したものは残っちゃいないな。売れば、ひと財産になる物ばかりだったのに」
 盗賊団が手に入れてしまいこんでいた宝物は、陶器や書物、掛け軸などの美術品がほとんどだった。しかしそれらは、犬鬼によって壊されていたのだ。
「多分、自分達には理解できないもんだから、腹いせに壊したんでしょうね」と、林。
「けど、わずかだけど無事なもんが残ってるよ」
 冒険者達は、お菊が探し出したものを受け取った。
 霧隠には鬼面、露草には太刀が、林には朱塗りの櫛が送られた。
「あいにくと、それしかなくてね。けど、櫛はそっちのお嬢ちゃんには合うんじゃないか? きれいな髪をしていることだしね」
 久駕と望月には、それぞれ金剛杵と銀杖が手渡された。
「陰陽師と坊さんだったら、ちょうどいいんじゃないか? あたしには無縁のものだが、あんた達だったら役に立つだろうよ」
 シャーリーと黄は、重藤弓をもらった。
「いい弓だろ? あんた達なら使いこなせるはずさ」
 十文字槍をもらったのは風斬だ。
「この槍も、ふさわしい使い手の手にあってこそ真価があるってもんだ」
「なあ、俺には何をくれるんだい?」藤城が急かした。
「ああっと‥‥酒が嫌いでないなら、これで我慢してくれないか?」
 藤城が受け取った徳利には、たっぷりと酒が入っている。
「『化け猫冥利』とかいう珍酒さ。それ以外にも酒はあったんだけど、みんな犬鬼に飲まれるかこぼされるかしてねえ」
 鶴来には、薄汚れた巾着。
「あたしのへそくり、そいつだけはなんとか無事だったからね。銅銭が一両くらいは入ってるはずだよ。さて、そこの坊さん」
 お菊は、望月を呼んだ。
「もし良かったら、親父様や、盗賊のみんなの分のお経も詠んじゃあくれないか? なんだかんだで、墓参りはまだだったしね」
「ええ、謹んで、供養させていただきます」
 望月とともに、お菊、そして冒険者は、屋敷に向け合掌した。