白い闇の恐怖

■ショートシナリオ


担当:塩田多弾砲

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月01日〜06月06日

リプレイ公開日:2005年06月07日

●オープニング

 とある山中に、村があった。
 その村の周囲は山菜やキノコが豊富に採れ、村の重要な資源になっていた。

 しかし、今年に入ってから、奇妙な事件が起こった。
 獲物を求め、山奥深くへと向かって行った猟師。
 彼はそれきり、二度と姿を見せなかった。
 最初に姿を消した猟師は、だらしない性格の嫌われ者だったので、皆はそれほど気にも留めなかった。
 が、次に姿を消したのは、気の優しい山菜取りの老人だった。彼は夕刻には必ずもどってくるのだが、その日は早朝に出かけたまま、帰ってこなかったのだ。
 
 老人の姿を探しに、村人の一人が彼の足跡をたどり、すなわち山奥へと向かっていった。そして彼もまた、二度と帰ってこなかった。
 彼を探しに赴いた者も、また戻ってこなかった。こうして、十数人が行方不明となった。
 これは大事と、村では二十名程の捜索隊が結成された。その中には、元浪人の農夫も何人かいた。何か化物の類が出たら、やっつけてやろうと参加してくれたのだ。
 行方不明になった村人達の姿を求め、彼らは山中へと向かっていった。

 川沿いに上流へと進むと、次第にもう一つの村へと突き当たる。
 そこは、廃村。既に捨てられ、住む者もなく、小屋だけが住人の帰りを待つかのように建っている。何十年も前に流行り病がこの村を襲い、村人達は次々に倒れ、わずかに生き延びた者たちは下流の村、すなわち、今の村へと越した。そしてそのまま、村は捨てられた。
 住人のいなくなった村は、僧侶が経を唱え、供養され、人の姿は無くなった。
 しかし、ひょっとしたら老人はこの周辺に来たのかもしれない。というのも、この廃村の周囲にも、キノコや山菜が多く生えているのだ。
 猟師もまた、この周辺に獲物を求めやってくる事も少なくなかった。村に人が住んでいたころから、鳥やイノシシなど、手ごろな獣が村周囲には多く棲息していた。
 が、ほとんどの者は、この村に近付くのを嫌がった。昔、流行り病が起こったから、君が悪く、死者を冒涜してるようだから、というのが多くの理由だった。中には、白いお化けが出ると言う若い猟師やイタズラ小僧もいたが。
 もっとも、誰も来たがらないのも当然かもしれない。人気の無い廃村は、夜間はもちろん、昼間でも不気味な静寂をたたえていたからだ。

 ともかく、村の入り口までたどり着いた捜索隊は、一休みと腰を下ろし昼食を口にし始めた。
 が、一人があるものを見つけた。それは、上物の弓。最初に消えた猟師が、いつも大切に傍らに置いていた、自慢の品だった。彼はいつも、それを手に届くところに置いていたのだ。
 そんな弓だが、村の入り口付近に無造作に落ちていた。まるで、投げ捨てられたかのように。
 別の者は、奇怪なものを発見した。
 イノシシらしき獣の死骸。この周囲には獣が多く棲んでいるのだから、獣の骸があったところで不思議ではない。
そう、不思議ではない。身体のの大半が、溶けてなくなっているのを除けば。
 捜索隊に戦慄が走った。そして、別の者がさらに戦慄を感じさせるものを持ってきた。
 山菜が半分ほど入った、背負いかご。言うまでも無くそれは、山菜取りの老人のものであった。
 かごは、村の入り口の小屋、ないしはその前に置かれていた。おそらく老人は、かごを下ろして一休みしていたのだろう。その間に何かが起こり、老人はそのまま、どこかに連れ去られたのだ。
 では、起こった「何か」とは? 老人を連れ去った「何か」とは? どこに連れ去られたのか?
 彼らはそれを考えたが、いくら考えても答えは出なかった。
 そして、彼らは村の中を捜索し始めた。

 捜索隊が帰ってきたのは、次の日の夕方だった。
 しかし、戻ってきたのは一人。彼は、体中に、なにかの火傷の痕らしきものを負っていた。
 それは火によるものでないのは明らかだった。彼は浪人あがりの傘職人で、刀を持参していたのだ。しかし、彼が手にしていた刀は、刀身が半分しかなかった。折れているのではなく、まるで‥‥そこから溶かされたかのように。
 介抱された彼だが、うわごとをつぶやくだけだった。上流の廃村に行った。そこで、山菜取りの爺さまの籠を見つけた。そして、皆が襲われた。
 何に襲われたかと聞かれ、彼はうめいた。
「闇だ、廃屋の暗闇から、それが襲ってきた! 白いあれが、白い闇が! 白い暗闇が!」
 そして、浪人はそのまま意識を失い‥‥数時間後に息を引き取った。

「‥‥と、いうわけです。私たちも、『白い暗闇』がなんなのか、とんとわかりません。が、尋常でない奇妙な事件であることはお分かりでしょう」
 村長の言葉に、君たちもうなずいた。すでに先刻から、ギルドの応接室には重い空気が漂っている。
「明らかなのは、何かが廃村に潜んでいること。そして、捜索隊の連中と、今までの行方不明になった者たちを‥‥おそらく、殺害したのも『何か』でしょう。白い闇とやらが何かはわかりません。ひょっとしたら、錯乱し口走っただけのただのうわ言、かもしれませんから」
 が、村長の顔からは、自分で言った今の言葉には納得が行かないという事がありありと浮かんでいた。
 決してうわ言でなく、『白い闇』とやらが事件を起こしたのだと。眼差しからは、確信めいた輝きが認められた。
「こちらに、報酬をご用意させていただきました。皆様の卓越したお力で、どうかこの奇妙な事件を解決してください。お願いします」

●今回の参加者

 ea1665 スタニスラフ・プツィーツィン(22歳・♂・レンジャー・エルフ・ロシア王国)
 ea5944 桂 春花(29歳・♀・僧侶・人間・華仙教大国)
 ea9924 ネイフェリア・ディブレーク(22歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 eb1148 シャーリー・ザイオン(28歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 eb2387 内栖 双葉(32歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb2555 風鳴 鏡印(35歳・♂・忍者・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

「‥‥おかしい」
 スタニスラフ・プツィーツィン(ea1665)の言葉に、風鳴鏡印(eb2555)は問うた。
「おかしい? 何がだ?」
「だからですよ。ここは人が住まない廃村。動物がいておかしくないはず。なのに‥‥」
「なのに、それらの気配がない。確かにおかしいです」
 シャーリー・ザイオン(eb1148)と桂春花(ea5944)が、風鳴の疑問に答えた。
 村の入り口で、彼らは気を張り詰めていた。この村には何かがいる。村人達を殺しただろう、何かが。
「気に食わないわねー、この村。蛇入りと分かってる箱に手を入れる様なもんだわ」
「そうね。でも、村に隠れてる子が蛇程度ならいいけどねえ。クラウドジェルが相手なら、おちおち肌も出せやしないわ」
 内栖双葉(eb2387)の言葉に、ネイフェリア・ディブレーク(ea9924)が相槌を打った。ネイフェリアの肩に止まっている鷹も、それに賛同するように一声鳴いた。

「村を焼き払う許可は、村長からもらっておきました。しかし、山火事になる恐れがあるから、最後の手段という事で‥‥という条件付ですが」
 携えた矢にぼろ布を巻き、スタニスラフは言った。布には、油がたっぷり浸されている。
 冒険者一行は、村の中央広場に待機していた。ここならば周囲を見渡せるし、万が一何かが襲ってきても壁越しに矢を放てば、持ちこたえられるだろう。
 ネイフェリアはここに結界を張り、シャーリー・内栖・風鳴が先発に、後発にスタニスラフと桂が出て、周囲を調べる‥‥という作戦を立てていた。
 そして、村人達を殺した「白い闇」‥‥おそらく、クラウドジェル‥‥を見つけ、誘い出して討つ。
 戦いに際しては、火矢や油を用意しておき、炎を用いる。十分に通用するはずだ。
「聖なる障壁よ、我が言葉により、ここに現れ出でよ‥‥ホーリーフィールド!」
「よし、大丈夫そうですね」
 スタニスラフが、張られたばかりの結界に手を触れた。
「じゃあ、みんな。よろしくね? モンスターは、私のような美女を先に襲うことだろうし、みんなにはがんばってもらわないと。うふっ、美しさは罪ってとこかしら?」胸元をちらつかせ、ネイフェリアは微笑んだ。遊女にしてクレリックの彼女は、下の村でもこんな調子で色気を振りまき、村人達を赤面させていた。
「はいはい。せいぜいがんばるわよー‥‥っと。で、シャーリーさん。どこから行こうか?」
「手近なところから調べていきましょう。何事も無ければ良いのですけど‥‥」
「さ、お喋りはこれくらいにして。内栖さん、私の呼子をお貸しします。何かがあったら、それを吹いてください。いいですね?」
 にっこりと笑いながら、桂は呼子笛を取り出し、内栖に手渡した。

 村に太陽が照っているが、闇を払えない。そんな錯覚を感じてしまう。
 動くものの姿は全く見当たらない。唯一の例外は、ネイフェリアの鷹のみ。
 内栖ら三人は、互いに目の届く範囲で、村の小屋を一件づつ見回っていた。
「私は、もうちょい先を調べてくる!」
 内栖の後姿を見送り、シャーリーは周囲に目をやった。
「かつては、ここにも人がいたんだよね‥‥。どうしてこんなになったのかな」
 弓を構え、シャーリーは周囲を探索し続けていた。矢にはスタニスラフ同様に、油を浸したぼろ布が巻かれている。
 ふと見ると、小屋の陰に赤いものが落ちていた。それを拾おうとしたシャーリーだが、異様なものがあった。
「? シャーリー殿、どうした?」
 彼女のもとに、燃える松明を手にした、風鳴がかけつけた。。
 シャーリーが見つけたのは、赤いかんざし。そのすぐそばに、切断された人の手首が。まるで巨大な何かが、手首を残して丸ごと飲み込んだかのようだ。
「? あれを!」風鳴が松明で指し示した。
 その先には納屋があり、扉が大きく開け放たれていた。
 中に、何かがいた。暗くてよく見えないが、もやもやとしたものがいる。
 暗闇の中に潜む、得体の知れない何か。シャーリーは、一つだけはっきりと見極めた。
 それは、白い色をしていた。
 
 スタニスラフは、ネイフェリアの結界から望める場所に、油をまいている。
「あーら、スタニスラフ。探索サボるなんて、私とお近づきになりたいのかしら?」
「違いますよ。ここに油をまいておけば、後で火矢を放ち、炎で攻撃できますからね。無駄ではないでしょう」
 さらっと流され、ネイフェリアは不満顔だった。
「んもー、つまんない答えねー。村のオトコどもは誰もが顔真っ赤にするのに。ロシア王国のエルフって、クールな奴が多いのかしら?」
「エルフが、どうかしましたか?」
 後ろのほうから、戻ってきた桂が声をかけた。
「いやあ、ロシアの‥‥」
 桂に言いかけたネイフェリアは、言葉を止めた。
 上空から、ペットの鷹の声が聞こえてきた。しかし、いつものさえずりではなく、甲高い威嚇の声。
 つまりは、主人の自分に、危機が迫った時の声。
 それが桂の後ろに迫りつつあるのを、ネイフェリアは見た。

「もう! はやく出て来いっつの」
 不満を口にしつつ、内栖は井戸を見つけた。
 中を覗き込んでみる。ちょうど昼時、太陽は井戸の底まで届く。が、深い井戸の底に届いた光は、その場所に蠢く、闇に隠れていたものを照らし出した。
 それが地上に迫る。それを見て彼女はすぐ後ずさり、呼子笛を吹いた。

 闇が異物を吐き出すように、それは現われた。白は本来、生命と平和を連想させるが、目前のそれは、そんなものと無縁だった。
 闇そのものが白くなり、目前に出現した。もしくは、黒い邪悪が、白に塗り替えられた‥‥そう感じざるを得なかった。
 襲ってくるそれに対し、風鳴は反射的に手裏剣を投げた。白いそれは手裏剣を飲み込み、吐き出した。村の浪人の刀のように、溶かされている。
「これは、一体!?」
「少なくとも、クラウドジェルじゃあないですねっ!」
 驚きと同時に、シャーリーは風鳴の松明で矢尻に火をつけた。それを射る。
「白い闇」に、火矢は命中した。そいつは丸ごと、矢を飲み込んでしまったのだ。
 次の瞬間。悠然と漂っていたそれは、あからさまに苦悶の動きをした。ひきつけを起こしたかのように、うなり、震えている。
「効いている!?」
 シャーリーはさらに数発、炎の矢を放った。炎こそ上がらぬものの、そいつは矢を受けるたびに弱っていくようだった。
「とどめ!」
 風鳴は油壺を投げた。可燃性の油が飛び散りつつ、それに吸い込まれる。
 それと同時に、風鳴は松明を、シャーリーは火矢を放った。
 炎が、「白い闇」を赤く染め上げていった。

「どうして‥‥クラウドジェルならば、霧が発生してから襲ってくるのに!」
 いち早くホーリーフィールドに逃れた桂だが、驚きは隠せなかった。桂の後ろから寄ってきたのは、浮遊する白い不定形の存在。それは桂とネイフェリアをも包もうとするが、呪文がそれを阻んでいた。
「ジェルに似て非なる存在のようですね。これは‥‥白溶裔というモンスターです」自分の知識を総動員させ、スタニスラフはそれの名を思い出した。
「何でもいいわよ! 早くこいつ燃やしちゃって!」
 ネイフェリアの言葉に、火矢を弓につがえたスタニスラフだが、呼子の音に振り向いた。別の白溶裔に追われつつ、こちらに逃げてくる内栖の姿がそこにはあった。
「スタニスラフさん、こちらに構わず、内栖さんを!」桂が叫ぶ。
「わかりました。内栖さん、そのまままっすぐ走ってください。すぐにすみます」
「まっすぐったって‥‥捕まっちゃうわよ〜!」
 内栖がある場所を駆け抜け、彼女に続き白溶裔が差し掛かる‥‥スタニスラフが油をまいた場所に。
 エルフは、火矢を放った。
 地面と矢が、炎をあげて燃え上がった。地面より出でた赤は白溶裔を包み込み、消し炭へと変えていった。
 そして、ホーリーフィールド内の桂も、目前の白溶裔に戦いを挑んでいた。
「滅びの力よ、その力を解き放て! 『ディストロイ』!」
 桂の呪文が、白溶裔に放たれる。怪物は木っ端微塵になり、滅び去った。
「ふう‥‥どうやら、終わったようね?」
 内栖が肩で息をしつつ、仲間達を見る。白溶裔は、燃えて、又は微塵となっていた。
「後は村人の遺品を集め、村へと持ち帰れば‥‥」そこまで言うと、スタニスラフは気配に振り向いた。
 崩れきった小屋。そこから、白溶裔がいきなり躍り出たのだ。
 それは、死人憑きが土中から手を伸ばすようにも見えた。掴もうとするのは、スタニスラフと内栖。
「危ないッ!」ネイフェリアが叫んだ。しかし、間に合わない。
 目をつぶった内栖だが、風を切って飛んできた矢が、彼女たちを救った。
 シャーリーの火矢は、白溶裔に突き刺さる。容赦なく彼女は、火矢を射かけた。
 持ち直したスタニスラフも、残った火矢を全て射る。燃える針刺しのごとき姿の白溶裔は、のたうちまわり、動きを止めた。
 穢れを浄化するがごとく、炎は燃え続けた。

 村へ戻った冒険者たちは、集めた遺品を村長に差し出し、事の次第を報告した。
「左様ですか、そんな怪物が‥‥」
「山菜取のりご老人も、いきなり襲われたのでしょう。でも、仇はとりました。もうこれからは、村人がいなくなるなんて事は起こりませんよ」
 スタニスラフの言葉に、村の人々は皆そろって、安堵のため息をついた。
「あの、それで‥‥」
 シャーリーは、村長に拾ったかんざしを見せた。
「これ、どなたのでしょうか?」
「これは‥‥いや、見覚えがないですな。‥‥‥‥すみません。村の衆も知らないそうです」
 村長は村人たちに、かんざしを見せた。しかし誰一人として、その持ち主を知らなかった。
「おそらくは」村長は言葉を加えた。
「おそらくは、流行り病で亡くなった、上村の娘の持ち物だったのでしょう‥‥冒険者様、よろしければ、もらってやってくれませんか? 亡くなった娘も、誰かに使ってもらいたいと思っているでしょうし」
「村の皆さんが良いというなら、頂きますね」
 シャーリーは、かんざしを髪に挿した。
 そして、思った。これからは、あの村に「闇」が訪れないようにと。
 人々に死をもたらす「闇」が、二度と現われないようにと。