邪なる妖刀

■ショートシナリオ


担当:塩田多弾砲

対応レベル:2〜6lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 4 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月17日〜07月24日

リプレイ公開日:2005年07月26日

●オープニング

 刀剣に魅せられる者は多い。
 武具としての用途以外に、力の象徴として、美術品として、そして、曰くのある品物として、刀剣を求める者は様々である。

「あの刀は間違いない、捜し求めていたものに相違ない!」
 その男は大柄で太ってはいるが、鋭い眼差しと力強そうな拳を持っていた。
 節くれだったその手には、細かい傷痕が多く刻まれていた。おそらくは若い頃、かなりの苦労を体験したのに違いない。厳しい顔付きは、太った男にありがちな滑稽な印象を相殺していた。
「わしは、木村峰五郎。商人だ。手に入れて欲しい刀剣を、あるものどもが持っている。そいつから、刀を奪い取って欲しいのだ!」

 峰五郎は、武家に生まれた。武家の中では中の下くらいの家柄であったが、木村家の次男に生まれた峰五郎は、武家としてより商才をもって家を盛り立てた。
 長男は戦で亡くなり、峰五郎の妹は別の武家に嫁入りし、結果木村家の家督は峰五郎の手に渡った。
 そして、店の経営は番頭や息子達にまかせ、自分は趣味に精を出すようになった。
 だがそれ以外にも、彼には求めるものがあった。それは、木村家にとっても重要なものである。

 かつて、有名な武家、林道家に仕えていた峰五郎の祖父は、いくさで敗れる直前に、仕えていた主人より刀を授かった。
 その刀、邪心丸は、見事な刀剣であった。あまりに切れ味が鋭く、優美にして剛勇な外観を持つそれは、美術品としても美しいだけでなく、武器としても優れたものであった。
 ゆえに、邪心に駆られ、その剣を我が物としたくなる者も少なくなかった。
 木村家が仕えた林道家も、その一人であった。そして剣の奪い合いから、隣の領主、権現家と争い憎みあい、いくさの火種となった。
 やがて、致命傷を受けた林道家当主は、事切れる寸前に剣を木村に預けた。他の者に渡さないようにという言葉を残し。
 木村家では、そのいいつけを守り、刀をしまいこんだ。そして、二度と世に出ないようにと、厳重に鍵をかけ、世に出ることなく、峰五郎の父親の代まで守り通されてきた。
 その間、林道家と権現家は和平が結ばれ、現在に至る。

 しかし、ある時。木村家の蔵に盗賊が入り込んだ。彼らは金目のものを求め、蔵に押し入り、その奥にある部屋から刀を、邪心丸を奪い取ったのだ。峰五郎は、死ぬ間際の父親から邪心丸の事を知り、奪還せんと心に誓った。
 それ以来、邪心丸の行方はようとして知れなかった。つい先日までは。
 江戸から離れた、とある宿場町。そこのケチで有名な古道具屋が持っているという情報が、雇っていた内偵者よりもたらされたのだ。
 何度も足しげく通った末、その剣が紛れもなく邪心丸で、とある盗賊から買い取ったものと判明した。盗賊は刀の奪い合いから仲間内で殺し合い、生き残った者も殺し合いの時に受けた傷で後に死んだ、との事だ。
 ともあれ、古道具屋を何とか説き伏せ、高額で譲り渡すという約束を取り付けた。しかし、その商談が終わった直後、古道具屋は帰らぬ人となった。
 その晩。古道具屋の屋敷と蔵に、盗賊が押し入ったのだ。彼らは金目のものを根こそぎ、そして武器の類を根こそぎ奪い取り、屋敷の住民を全員惨殺した。
 彼らは人ではなく、茶鬼だったのだ。

「聞くところによると、その茶鬼の盗賊どもは、最近良く出没するようになったそうだ。件の宿場町の周辺の街道や峠に完全武装して現われては、旅人や村を襲うとの事で。村の若い者や腕っ節に自信のある浪人などが討伐に出て、返り討ちにあったと。
 で、古道具屋が殺されてから数日後、わしの商隊がその宿場町の近くを通りかかったところ、そやつらに襲われた。そやつらは商隊の人間全てを切り捨て、商品を奪い去っていきおった。
 そやつらは、間違いなく件の茶鬼盗賊団に他ならない。頭と思われる茶鬼は、赤胴の鎧を身に着けているとの事だからな。そしてなにより、その茶鬼の頭が使っていた剣が、邪心丸だったのだ。たった一人の生き残りが、息を引き取る直前に教えてくれたことだ。
 邪心丸は、刀身に見事な透かし彫りで『邪心』と大きく彫られている。件の刀もまさにその特徴を有し、見間違いという事は考えられぬ」
 峰五郎は、目を閉じてつぶやいた。
「あの剣は、存在してはならないのだ。人の心に邪なものを喚起させ、更なる悲劇を招く。まさに、邪心丸。そなた達に頼みたいのは、その盗賊団の手から、邪心丸を取り戻す事。もちろん、盗賊団を倒せれば、言うまでもないが。
 わかっている、わしの家柄の世間体を守りたいという事に対しては否定せん。それに、妹が嫁入りした武家は、林道家とかつて争った権現家。もしも刀の存在が露になれば、権現家の者が妹に対し、どういう感情を抱くかは想像に難くない。
 どうか、邪心丸を取り戻して欲しい。それがかなわぬ場合は、邪心丸そのものを破壊しても構わない。どうか、これ以上の無用な流血や悲劇を防ぐためにも、この依頼を受けてもらいたい」
 峰五郎は、深々と頭を下げた。
「茶鬼の盗賊どもが潜むねぐらは、内偵の調べによって大体の見当が付いている。件の宿場町からちょっと離れた、山の中の廃村だ。そこに、かつて倉庫に使っていた洞窟があり、その洞窟に戦利品をため込んでいるらしい。茶鬼は、黒い鎧を着た部下と、赤胴の鎧を着た頭。みなかなりの手練で、武器も良いのを装備しているようだ。当然、邪心丸を携えているのは頭だ。
 もしも成功の暁には、報酬とは別に皆に一つづつ、それぞれに合った武器を贈りたいと思う。後生だ、どうか依頼を‥‥」
 そう言いつつ、彼は懇願した。
 そこには、妹を思う兄の気持ちが、まざまざと現れていた

●今回の参加者

 ea0392 小鳥遊 美琴(29歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea2794 六道寺 鋼丸(38歳・♂・僧兵・ジャイアント・ジャパン)
 ea3619 赤霧 連(28歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea4518 黄 由揮(37歳・♂・ファイター・ドワーフ・華仙教大国)
 ea7590 時任 志樹(34歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea8171 卜部 こよみ(30歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea8499 白 彌鷺(59歳・♀・僧侶・エルフ・華仙教大国)
 eb1316 真柴 こまつ(26歳・♀・僧侶・パラ・ジャパン)
 eb2319 林 小蝶(25歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 eb2896 楠井 翔平(28歳・♂・侍・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

 街道を、荷車を引く商隊が進む。
 旅装束姿の商人が数人、大きな荷車を引きつつ先を急いでいた。
 その荷車を、数多くの欲深くも邪悪な目が見つめていた。ごちそうを目の前にした、餓えた獣のような眼差しだった。
 荷車を引き、商隊の先頭を歩く赤霧連(ea3619)と楠井翔平(eb2896)の侍二人は、その眼差しを感じていた。決して駆け出しの侍ではない赤霧だが、それでも緊張が身体を締め付ける。
 もしも邪悪に「におい」があるのなら、今漂うにおいがそれなのかもしれませんね。心の中でつぶやきつつ、赤霧は依頼人との会話を思い出していた。

「木村屋様。妹さんを思う貴方様に、とても心をうたれました」
 女性ものの着物とかんざし姿で、小鳥遊美琴(ea0392)は目じりを押さえつつ言った。
「絶対に鬼達を倒し、邪心丸を手に入れてご覧に入れます!‥‥つきましては、少々お願いしたき儀が」
「‥‥荷車と、衣装?‥‥一体、何をするつもりなのだ?」
 峰五郎の屋敷にて、十人の冒険者達は要望を出していた。
「邪心丸を取り返す作戦のためですわぁん♪ お願いしますよぉん♪」
 無駄に色香を振りまきつつ頼むのは、卜部こよみ(ea8171)だ。しなを作って近付こうとしている。放っておけば身体や胸を押し付け、お願いしそうだ。
「あ、ああ。わかったわかった、すぐに用意しよう。他に、何かしておくべき事は?」
 やや顔を赤らめ、峰五郎は請合った。
「街道を行く商人や旅人に、暫くの間通らぬよう話をして欲しいです。こうする事で、連中を食いつかせるように」
 小鳥遊はさらに要望を出した。そしてその後、皆は打ち合わせを行った。自分達を餌として、茶鬼盗賊団という大物を釣り上げるための打ち合わせを。この漁がうまく行けば、邪な剣を振るって暴れる存在は、金輪際いなくなるはずだ。

 荷車の後方には、二人の旅人の姿があった。たまたま偶然、行き先が一緒になったのだろう‥‥少なくとも、見た目にはそう見えた。
 が、真柴こまつ(eb1316)、林小蝶(eb2319)もまた、周囲の茶鬼の気配を感じていた。荷車の周辺の仲間達とともに、邪悪な気配が彼女達を苛む。
 荷車には、赤霧と楠井が引き、その脇を、卜部と小鳥遊が変装しつつ付いて歩く。その後ろには、白彌鷺(ea8499)がともに歩いていた。
 先刻、小鳥遊は仲間一人とともに、先行して偵察をしていた。既に罠も仕掛け、準備は整っている。襲撃を受ける事について緊張はしていたものの、怖くは無かった。
「勝つ算段はしてある。傷つくのは、お前らの方だからね」

 その一瞬は、不意に訪れた。
 街道の両脇。そこから悪夢のように、茶鬼が現われた。全員が鎧と武器で武装している。少なくとも二十匹はいるだろう。
 その群れの後ろ。歪んだ笑いを浮かべているのが、三匹の茶鬼だった。両脇の黒胴の鎧を着た茶鬼は、一匹は片目、もう一匹は狐の面を付け、それぞれ槍と六尺棒を手にしている。二匹とも雑魚ではなく、修羅場をくぐってきた手練の戦士であると容易に見て取れた。
 しかし、中央の赤胴の茶鬼に比べたら、二匹は霞む。今までの犠牲者の血で染めたかのように、赤胴の赤色は鮮やかに映えていた。携えた野太刀は、刀身に赤胴茶鬼そのものを表すかのように、「邪」の文字が掘り込まれている。
 紛れも無く、邪心丸。冒険者達は確信した。
「!」
 ときの声をあげ、茶鬼たちは襲撃してきた。が、無力な獲物と思われた商隊が、手練の冒険者たちの偽装である事を、そしてその見極めができなかった誤りを、彼らは自らの命を持って償う事となった。
 衣装をむしりとった卜部と小鳥遊、楠井と白、赤霧、そして後方の真柴、林は、迎え撃つべく身構えた。
「はっ!」
 最初に切り込んだのは、赤霧だ。荷台から愛用の薙刀、「但馬国光」を取り出した彼女は、先頭に切り込んできた茶鬼をすれ違いざまに叩き切った。
 鮮血を吹き上げ、そのこしゃくな生き物は息の根を止めた。吹き上がる血は、まさに彼女の名前どおり、赤い霧となって周囲に漂い、白い肌を一層際立たせた。
 楠井もまた、愛用の金棒で数匹の茶鬼を殴り倒した。
 それが合図になったかのように、冒険者達もまた切り込み始めた。
「敵は二十匹以上、ちょっと多いわねん♪」
「では、逃げるかな?」
「まさか!」
 小鳥遊に軽口を叩きつつ、卜部が茶鬼に殴りかかった。彼女の両拳にはめている金属の護拳が、茶鬼の鼻っ柱や肋骨、顎を砕き、叩きのめした。
「うふふっ、あたしに近付くと怪我するわよぉん♪」さらに数多くの茶鬼と相対し、卜部は不敵に微笑んだ。
 が、不意に降ってきた矢の嵐に、彼女は交代せざるをえなかった。道の脇の土手から、弓を手にした数匹の茶鬼が矢を射掛けてきたのだ。
 後退した冒険者を見て、茶鬼たちは舌なめずりし、荷台に手をかけた。
 そのとたん、荷台に被された布が取り払われ、そこに潜んでいた二人の冒険者が姿を現した。
 たくましい僧兵、六道寺鋼丸(ea2794)と、ドワーフの弓闘士、黄由揮(ea4518)。
「はぁぁーーーッ!」
 手にした六尺棒をもって、六道寺は荷台に接近した茶鬼を、数匹まとめて薙ぎ払った。彼の剛力の前に、たちまち数匹の茶鬼どもが薙ぎ払われた。さながら、長く伸びた雑草を刈る鎌を思わせた。
 仲間を援護しようと、茶鬼の射手が矢を射掛ける。が、黄が構えた鋼の剛弓から放った矢が、逆に茶鬼の心臓や額を貫き、地獄へと送り込んだ。すぐ後ろに、短刀を構えた茶鬼が切りかかったが、黄は逆に鉄弓で殴り返し、返り討ちにした。
 林と真柴の二人も、茶鬼の群れと戦っていた。
「林ちゃん、敵の親玉を!」
「うん!」
 互いにうなずきあった二人の少女は、鎧を付けた三匹の茶鬼に向かって駆け出した。彼女とともに、卜部、楠井も向かっていく。
 が、数が多すぎる。切り込んでいくのは難しく無さそうだが、その隙に逃げられてしまうかもしれない。
 しかし、それに対する備えも、冒険者は怠っていなかった。
「真打登場! みんな、俺に任せろ!」
 近くの木の陰から現われ、数匹の茶鬼を切り捨てつつ現われた忍者、時任志樹(ea7590)が、茶鬼の群れの前に立ちはだかった。
「忍法・大ガマの術!」
 印を空中に切った時任は、巨大な怪物、醜い味方を召還した。呼び出された大ガマは、一体の茶鬼を踏み潰し、別の一体を舌で絡め取って、茶鬼の集団へと投げつけた。
「ありがとよ! これで茶鬼野郎の糞をこれ以上見なくてすむぜ! ついて来れるか?」
「ハッ、当然だ!」
見つめあい、不敵に微笑んだ二人は、同時に足を踏み出した。
 
 ガマを土台にして、茶鬼の群れを飛び越えた時任と楠井、卜部、林、真柴は、三匹と相対した。流石に、風格が違う。雑魚の茶鬼に比べ、格が異なっていた。
 黒胴の片方、片目が、手にした槍で林に突きかかった。もう片方、狐面の六尺棒使いは、卜部と戦うつもりらしい。
 忍者刀を手に、時任は茶鬼の頭と相対した。茶鬼もまた、顔を歪めて時任をにらみつける。
 邪心丸を目の当たりにしたら、確かに気圧されそうな雰囲気を漂わせていた。
 そして、それだけではなかった。赤胴の茶鬼は武器の扱いに長けており、予想以上にすばやく、力強い一撃を繰り出してきたのだ。それも、二度、三度と。
 時任は防御に精一杯で、なかなか攻撃に転じられない。時任は軽い切り傷をいくつも受け、確実に手傷を負いつつある事を感じていた。
「時任さん!」
 林が援護に向かおうとするが、彼女も黒胴の片目の茶鬼に阻まれた。
「くっ‥‥強い! それに‥‥早い!」林が手先で槍の穂先をさばくも、さばききれない。よけそこなって、刃が彼女の肩口を切り裂いた。
「‥‥きゃっ!痛いじゃないのよぉっ!」
 足に打撃を受け、卜部は六尺棒で足をすくわれた。そのまま転倒するが、楠井が立ちはだかり、六尺棒の一撃を止めた。
「いいかげんにするんだな、この糞が!」楠井が、狐面に対して身構えた。
「バーストアタック!」
 金棒の軌跡が一瞬消え、鋭く繰り出されたその一撃が、狐面の茶鬼、ないしはその六尺棒に命中した。
 六尺棒は高品質のもので、つい先日に奪った獲物の一つだ。が、硬い木材でできたそれも、楠井の攻撃の前に枯れ木のごとき折れ、ばらばらになってしまった。
 信じられぬものを見たかのように、狐面の茶鬼は一瞬棒立ちになった。その隙を逃さず、卜部は立ち上がり、腰の入った鉄拳を顔面に叩き込んだ。
 狐面は破壊され、面の下の顔もまた潰された。薄汚く血を流しつつ、黒胴の茶鬼の一匹は倒れた。
 赤胴と片目はそれに驚き、冒険者達は活気付いた。
「はっ!」
 林は、片目が繰り出した槍の柄を受け止めた。そして今度は、それを弾いて懐に入る。
「ダブルアタック!」拳を叩き込み、次に蹴りを入れる。強烈な拳の打撃と鋭い蹴りを受けた片目はかなりの痛手を受け、よろけた。その隙に、林はすかさずトリッピングを決め、片目を転倒させた。
 起き上がろうとした片目だが、既に手遅れだった。
「ブラックホーリー!」真柴の呪文が炸裂し、二匹目の茶鬼が倒れた。
 だがそれでも、赤胴は怯まず時任に切りかかった。刀の邪悪な意志に操られているかのように、巧みに刃を振るう。
 赤胴の攻撃を見切り、時任は切りつけた。
 深い切り傷を受け、赤黒い鮮血が流れる。が、赤胴は意に介さず、さらに切りかかってくる。
 楠井の金棒が再び振るわれ、赤胴の鎧が破壊された。
「いい加減にするんだな、お前の邪な欲望もここまでだ!」
 忍者刀の止めの一撃が、鎧を砕かれ、むき出しになった胸部に食い込む。鋭い刃がそいつの心臓に突き刺さり、邪悪な刃を振るって盗賊団を率いていた茶鬼の命を奪い去っていった。
 そいつの断末魔の声とともに、冒険者達は自分らが勝利した事を確信した。

 頭がやられたのを知った茶鬼どもは、恐怖とともに逃げに走った。下衆な彼らは、自分達が不利と分かるとすぐに逃げ出す。
 しかし、逃亡はかなわなかった。小鳥遊が仕掛けていた罠にひっかかり転倒する彼らを、時任が出したガマと六道寺、黄が、容赦なく攻撃したのだ。
 そして白が、スクロールの呪文で止めをさした。
「大地の赤き流れよ、我が力となりて敵を討て!『マグナブロー』!」
欲で汚された物を清めるかの様に、赤き溶岩が、全ての茶鬼を飲み込んだ。

「ありがとう‥‥本当に、ありがとう」
 涙を流しつつ、峰五郎は感謝の言葉を何度もつぶやいた。
 冒険者達は、皆が怪我を負ったものの、赤霧と楠井が携えていたリカバーポーションを用いる事で、全員が回復した。黄が十本の矢を折られて駄目にしてしまった以外、冒険者達の損害は無かった。
 そして今。奪取した邪心丸を携え、冒険者達は依頼人の屋敷にて献上していた。
「どんなに感謝しても、しきれるものではない。本当にありがとう。今、約束の武器を持ってこさせよう」
「あの、その前にお願いがあるのですが?」赤霧が問いかけた。
「峰五郎さん、私は武器は要りません。その代わり、この子を生かして欲しいのです」
「生かす? それは、一体?」
「刀に非はありません、この子は愛されて生まれてきたのです。なのに、それを使う人がこんなにも酷く‥‥私のお願いは、この剣を清め、この子に正しき道を教えて欲しいのです」
 彼女の願いを聞いた峰五郎は押し黙っていたが、やがて笑い声を上げた。
「欲が無いな。わしも武器を扱う者のはしくれ、お前さんの言葉、気に入ったぞ。この剣は、打ちなおすとしよう。わし自身の手でな」
 そして彼は、使用人たちに武器をもってこさせた。
「これだけの働きをしてくれたというのに、完全に希望通りの武器は揃えられなんだ。まことにすまないが、品質は最高だ。それは請合おう」
 時任には日本刀が、楠井には太刀がそれぞれ与えられた。確かに言うとおり、刃は鋭く研ぎ澄まされている。
「おぬしは、これを所望していたな? ちょうど在庫があったから、用意させてもらった」
 小鳥遊は、希望していた品を与えられた。かんざし「乱れ椿」、普段はかんざし、いざとなれば暗器として使えるものだ。
 六道寺には、大槌が与えられた。彼の体躯にふさわしく、威力も大きそうだ。
 黄と卜部に対しては、当初の希望とは異なるものが与えられた。
「八方手をつくしたが、手持ちが無くてな。すまないが、代わりのものを用意した」
「え〜、ないの?ないの?ないの?」とにじり寄り、体に胸を押し付ける卜部を落ち着かせた後、峰五郎は武器を差し出した。
 黄には、矢が十本。矢羽に鷲の羽根が用いられ、風格が漂っている。「すまぬが、縄縹は扱っておらぬのでな。だが、矢ならばいくらあっても困らぬだろう?」と、峰五郎。
 卜部には、二本組の小太刀を。「見たところ、おぬしは両手ききと見受けた。これならば、両手に持ち戦う事もできるだろう」
 林には金属拳、真柴と白には、それぞれ金剛杵が与えられた。
「おぬし達は、何が欲しいか聞いていなかったのでな、こちらで役立つだろうと思うものを用意させてもらった。気に入ってくれたのなら嬉しいのだが」
 最後に、赤霧。彼女に手渡されたのは、武器ではなかった。
「武器は要らぬとも、防具なら構わぬだろう? おぬしのような者ならば、少しでも長生きしてもらいたい。この鎧は、わしのその気持ちと思って納めてもらいたい。受け取ってもらえるな?」

 その後、邪心丸は打ち直された。しかし、その刀身には「邪」の文字でなく、「清」の文字が刻まれていた。
 この剣が、どのような剣士の手に渡り、どういう運命をもたらしたかは、また別の物語である。