毒爪の呪いを破れ

■ショートシナリオ


担当:塩田多弾砲

対応レベル:2〜6lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 69 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月19日〜07月24日

リプレイ公開日:2005年07月26日

●オープニング

「拙者では、もう手に負えない。どうか、みなさんの力を貸してください!」
 息せき切ってやってきたのは、若侍。彼は、怪我を負っているようだった。
 しかし、彼を苛んでいるのは、その怪我だけでない事は明らかだ。熱にうなされた状態で、彼は言った。

 春日大野輔は、数日前に叔父をたずねた。
 彼の叔父、春日智則は、江戸郊外にある村の屋敷に住んでいた。地主である彼はたいそうな金持ちでもあり、海外の歴史や文化の研究家でもあった。
 彼は学術的な興味から、自ら月道で外国に赴いたり、イギリスやノルマンの高価な骨董や古物を買い求めては、それらを研究の資料としていた。
 最近では、エジプトの文化に興味を持ち、月道経由で仕入れたエジプトの骨董や古物を収集し、それらを研究していた。
 大野輔は、叔父を訪ねるたびに、外国の文化についての講釈を聞かされていた。そして今回も、おそらくはエジプトについての講釈を聞かされる羽目になるのだろうなと思っていた。
 大野輔が少年時代より、智則は親しかった。学術好きな彼は、学問を修め、様々な話を大野輔に語ったものだった。
 ついぞ最近になって、彼は身寄りの無い少女、理子を引き取り、その後見人となった。子供のいない彼にとって、利発で素直な理子は、実の親子と同じ愛情で結ばれていた。
 そんな叔父を、大野輔は好いていた。そして、いつものように「江戸の骨董屋に、こういう古物を手紙で注文した。それを受け取って、持って来て欲しい」と頼みごとをするのだろうと思っていた。
 彼は叔父を訪ね、村へと赴いた。
 村に到着したのは、夕日が暮れなずむ夕刻。いつものように、叔父に夕食をご馳走になり、語り合う。いつもの事だ。
しかし村からちょっと離れたところにある屋敷には、人の気配がなかった。広いわりに人の少ない屋敷ではあるが、それでも人の気配がなさ過ぎる。夕食時なのに、なぜか夕食の支度をしたような気配もない。
 門を開き、中に入る。しかし人影はなかった。盗賊か何かの襲撃を受けたか? しかし、その割には略奪の跡が見られない。
 声を呼びかけてみる。が、答えが返ってこない。
 怪しいと思いつつ、中に入る。が、暗く、誰の気配も感じられない。
 いや、人の気配とは別に、何かの気配を感じた。どこか執念めいた、邪悪な気配が。
 刀に手をかけつつ、大野輔は叔父の屋敷の中を進む。

 やがて、書斎‥‥屋敷の裏にあり、書物と古物のいくつかを収めている場所‥‥へと続く渡り廊下に突き当たった。書斎の扉は、固く閉じている。木の引き戸だが、重いムクの木材を使っており、開けるのは難しい。
 智則が屋敷にいる時は、大抵この書斎にいる。彼は書斎の扉を叩いた。
「叔父上! 拙者です、大野輔です!」
「お‥‥大野輔か?」
 中からくぐもった声が聞こえると、引きずるような足音が聞こえ、やがては何か大きなものをどける音が聞こえてきた。
「入れ、早く!」
 引き込まれるようにして、大野輔は中に入れられた。

「大野輔、わたしは‥‥とんでもない大馬鹿者だ。怪物を‥‥異国の怪物を、ジャパンの地に呼び寄せてしまった‥‥」
 書斎にて、彼はバリケードを元に戻しつつ、甥に言った。彼は熱に浮かされているような、苦しそうな息をしている。
「叔父上、一体何が?」
「じ、時間が無い‥‥どうか、聞いてくれ。わたしは、じきに死ぬ。あやつらの、エジプトからの怪物のせいでな」
 彼は、息も絶え絶えの状態で、言葉をしぼりだした。

 智則が言うには、彼はひと月ほど前に江戸の古物商にて、石造りの三角の石柱を見つけた。それはエジプトの遺跡から切り出したもので、表面の彫刻が細かく素晴らしいために、盗掘者は多大なる苦労とともにそれを運び、月道を通って他国の商人に売りつけた。
 石柱はめぐりめぐって、ジャパンは江戸の古物商の下にわたった。それが智則の目にとまり、買い取って自分の屋敷に運ばせ、蔵に据え付けた。
 が、蔵にて調べていくうちに、三日ほど前に誤って指を切り、わずかだが血がついてしまった。それが原因で、恐ろしい事が起こると知らずに。

「原理はわからぬが、その血が奴らを起こす鍵になったのは間違いない。原因はともかく、結果の方が重要だ。その石柱には、棺が内蔵されていた。そして、棺には‥‥不死の存在が眠っていた。それを、わたしの不注意で目覚めさせてしまったのだ」
 石柱は実は棺で、中にはエジプトの不死の兵士‥‥マミーが眠っていたのだ。
 石柱には三つの面に、それぞれ棺が一つづつ内蔵されていた。その全てが血によって開き、中で眠っていたマミーが動き出したのだった。
 マミーは今、屋敷の内部と屋敷周辺を歩き回っている。どうやら、墓場を冒涜したものと思い込んでいるらしい。近付くものは全て皆殺しにしようとしている。実際、館の住民は全員がマミーに殺された。儀式なのか、その死体は棺の前、すなわち蔵の中に積み上げられているとのことだ。
「叔父上、すぐに逃げるんです!」
 大野輔が促すが、彼はかぶりを振った。
「無駄だ。奴の爪の一撃を食らってしまった。ちょうど一週間ほど前にな。もう、毒が回ってしまって、助からぬ。しかし‥‥あの娘だけは助けて欲しい」
 彼が指し示した先には、理子の姿があった。
「‥‥あの子も、毒を受けている」
 見ると、確かに肩口に傷を受けていた。血の滲んだ包帯が痛々しい。
「わたしは、怪物に襲われて怪我を負った。それで、一日経ったら毒が回り、動く事もかなわぬようになってしまった。治すには、解毒剤が必要だが‥‥それは、やつらの棺の中にあるはずだ。理子はそれを取りに向かい、つい先刻に返り討ちにあってしまった」
 理子は、熱を出してうなされているようだ。
「後生だ。あの子を救えるのは、お前だけだ。どうか、あの子を怪物から‥‥」
 そこまで言うと、彼は事切れた。そしてそれが引き金になったかのように、激しく木戸を叩く音が響いた。
 木戸が破られ、汚れた包帯に巻かれた腕が、書斎の中に差し伸べられた。

「そして拙者は、理子を連れてなんとか逃げた。が、逃げる際に怪物からの一撃を食らい、拙者もまた、毒に犯され始めている。だから‥‥薬を取ってきて欲しいのだ。棺の石柱に、隠されてあるという薬をな」
 大野輔の口調が、次第に苦しげなものになってきた。
「理子には、何の罪も無い。なのに、あの子はあと五日で叔父上と同じく、毒で死んでしまう。今、理子は、拙者の家で休ませている。が、子供ゆえ、体力が持つとは限らない。あの娘が死ぬのは、あまりに不憫‥‥どうか、あの子を、理子を‥‥」
 震える手で、彼は銭入れを出した。
「拙者の命に代えてでも、あの子を助けたい! たのむ、怪物の棺から、薬を持ち帰り、この熱病を‥‥‥‥」
 そこまで言うと、彼は苦しそうに突っ伏した。
「‥‥‥‥だ、大丈夫だ。まだ‥‥大丈夫。は、早く、あの子を‥‥‥」
 苦しそうな息で、彼は依頼した。命を賭しても、理子を助けたいという想いとともに。

●今回の参加者

 ea0666 レオルド・ロワイアー(31歳・♂・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ea7116 火澄 八尋(39歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea9507 クゥエヘリ・ライ(35歳・♀・レンジャー・エルフ・インドゥーラ国)
 eb1148 シャーリー・ザイオン(28歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 eb2488 理 瞳(38歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 eb2719 南天 陣(63歳・♂・志士・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

 村は、静かだった。
 人の気配が消えた理由。それを知っている冒険者達は、その元凶へと近付いていった。
 村はずれの、大きな屋敷へと。

 依頼人、春日大野輔は昏睡した。彼が救おうとした少女と同じく。
 が、冒険者達はその直前までに、すでに聞きたいことを聞き出していた。
「となると、間取りはこうなるな‥‥」
 こしらえた絵図面を広げ、火澄八尋(ea7116)は相談していた。
 彼らは現在、村へと続く道の途中。急ぎの依頼ゆえ、承諾した冒険者たちは手早く準備を済ませ、早々に出発した。
 無論、準備は怠らなかった。屋敷の見取り図を作り、馬も借りた。後は、依頼を果たすのみ。
 急ぎ旅に出た冒険者たちだが、馬の体力温存のため、途中の川で休憩を取っていた。
 のんびりとはしていられないが、後で体力が必要になる。できるだけ、体力を温存しておかなければ。
「薬を見つけるのはもちろんだが、怪物を放置しておくわけにもいかない。そやつらを倒す事も、考えておかなければな」
 盾と槌を手にした志士、南天陣(eb2719)が、焼いた川魚を齧りながら言った。
「薬を見つけたらすぐに馬で江戸に戻るように、役割分担したほうがいいですね」
 シャーリー・ザイオン(eb1148)。銀髪のレンジャーは、弓の手入れをしている。
「それと、マミーを誘き出し、戦う役割もね。三人がマミーを誘き出し、残りが棺から薬を探し出し、急ぎ薬を届ける‥‥こんな感じかしら?」
 青と真紅の瞳を持つエルフ、クゥエヘリ・ライ(ea9507)が提案した。彼女は、心配そうな表情で彼方を見つめていた。
「大野輔さん。気持ちはわかるわ‥‥私も、子供を預かっているのだからね。火澄さん、薬を届けるのは私にやらせてくれないかしら?」
「じゃ、薬の運搬役は決まりだね。私は、薬の探索をするのがいいと思う」
レオルド・ロワイアー(ea0666)、ノルマン王国のウィザードもまた名乗り出た。
「よし、確認するぞ。自分と火澄殿、それに理殿が、マミーを屋敷の‥‥この庭に誘き出す。その隙にシャーリー殿とレオルド殿、クゥエヘリ殿が蔵へと向かい、棺から薬を探す」と、南天。
「クゥエヘリ殿は、馬で江戸へ急行。残った者が怪物退治。理殿、それで良いな?」火澄が南天に続いて言った。
 こくり。火澄の言葉に、理瞳(eb2488)はうなずいた。

 馬を村の入り口付近につなぎ、六人の冒険者は屋敷へと足を踏み入れた。屋敷の間取りを見たところ、蔵は裏庭に建てられている。屋敷は増築に増築を重ねたつくりなので、外側から向かうとかなりの遠回りになる事は、すでに知っていた。
 屋敷の内部から、裏庭に。それが一番の近道であった。
 時間はちょうど、午後を回ったところ。しかし、曇り空は薄暗く、屋敷の中はさらに薄暗い。
 部屋の多くが、散らかり放題になっていた。かつてはこぎれいに整頓されていたのだろうが、うろつく怪物が部屋を散らかし、薄汚くしてしまったのだろう。
 がたん。突然の音に、皆に緊張が走った。
 すぐ近くから、何かがカタカタと音を立てている。それは廊下を歩く彼らの、すぐ隣の部屋から聞こえてきた。
 木戸は閉まっている。全員、武器を構え‥‥扉を開いた。
 そこは、台所だった。外へと続く木戸が開け放しになっており、梁から吊り下げられていた道具が、風に揺られ音を立てていた。
 引き返そうとした、その時。
「!」
 鍋や釜をひっくり返し、何かが飛び出してきた。
 理が身構えたが、それはただの鼠だった。鼠はそのまま外へと逃げ、消えていった。
「なあんだ、びっくりした‥‥」
 安堵し、思わずシャーリーがつぶやいた。その瞬間、
 鼠を追っているかのように、台所の奥から鉤爪のある腕が伸びてきた。腕には薄汚れた包帯が巻かれ、腐臭にも似たかび臭さを漂わせていた。
 そいつは闇の中から、全身を現した。身体は包帯が巻かれているが、わずかに露出した地肌は干からび、相当醜いものだと安易に想像できた。
 顔にも包帯が巻かれていたが、目元と口元の部分のみがほどけ、ぎらつく眼差しと醜悪な乱杭歯が露出していた。
 紛れもない、木乃伊‥‥砂漠の国・エジプトの不死の怪物、マミーだ!
 五人の冒険者の背中を怖気が走ったが、一人だけは違っていた。
「オ先ニ」
 先頭の理は、マミーに接近し、八握剣を持った手を一閃させた。マミーの片手の指先が、何本か切断され、痛みを覚えたかのように吼え悶えた。
 理は、台所の木戸より、外へと飛び出した。彼女を追い、マミーも外へと向かう。
「よし、この隙に蔵へ!」
 火澄の声とともに、五人は屋敷奥へと向かった。

 庭を望む廊下。
 そこには、血まみれの野良犬をつかみ、引き裂いていた二体目のマミーがいた。そいつは哀れな犬の死骸を投げ捨て、手ごろな獲物とばかりに冒険者達へと向かって来る。
「次は自分だ! 行け!」
 掴みかかるマミーの下腹を槌で殴りつけ、南天は促した。

 冒険者達は書斎を通り抜け、屋敷の外に、蔵の前にたどり着いた。
 蔵の出入り口は開きかかっているが、その内部からはなんともいえぬ嫌なにおいが漂ってくる。血と腐臭が混ざった臭い、死の臭いが。
「あの中に、最後の奴がいるに違いない。しかし‥‥」
「出て‥‥きませんね。どうします?」
 レオルドとシャーリーの不安を払拭するかのように、火澄が立ち上がった。
「すべき事は一つ! 私に任せよ!」
 刀を手に、彼は臆することなく蔵の扉を開け放つ。
 まるで仕掛け罠が作動したかのように、三体目のマミーの腕が扉の陰から振り下ろされた。
 迫り来るマミーの攻撃を巧みにかわしながら、火澄は怪物を庭へと誘う。火澄がマミーの攻撃をかわすと、怪物の握りこぶしはその後ろの分厚い扉にぶちあたった。
 扉は金属製だが、その一撃で厚紙で出来ているかのようにひしゃげてしまった。
「今のうちに!」
 怪物を引き離し、三人は蔵の中へと侵入した。
 
 内部には、死体が積まれていた。遺体の何体かは、内臓がつかみ出されている。
 その先に、三角錐の石の塊、巨大な石のオブジェがあった。その面はそれぞれ蓋のように開き、都合三体分の棺が内蔵されている。
 すぐに三人は、棺を探り始めた。
 大野輔より、薬と思しき容器が何かは聞いている。彼の叔父が記した書物から、それが虫を模った小さな容器に入っていると判明していた。
 しかし、棺のどこにも、何も無い。
 「‥‥待って、そこじゃないですか?」
 クレバスセンサーを唱えたレオルドが、三角錐の先端を指差した。確かにそこには継ぎ目があり、石の色も異なっている。動きそうだ。
 レオルドの肩を借り、シャーリーは三角錐の頂点に手をかけた。

 三人の冒険者は、三体の怪物に追い詰められていた。
 庭に誘いこめたところまでは良かった。しかし、彼らは干からびた死体と思えぬほど、頑丈で手ごわい敵であった。
「食らえ!スマッシュ!」火澄の日本刀が、マミーの右手首を切断した。
 しかし、左の毒爪が襲い来る。なんとかそれを防御するも、このままでは体力負けしそうだ。
理と戦うマミーは、握りこぶしで理を叩きのめし、転倒させ昏倒させた。
「理殿!」南天が叫ぶも、丸太のような足に蹴られ、彼もまた転倒した。
「南天殿!理殿!」
 助けに向かおうとしたが、間に合いそうに無い。その刹那。
「シューティングPA!」
 シャーリーの矢が、マミーに突き刺さった。片目を潰されたマミーはよろけ、理が逃げる隙を作る。
「風の刃よ、我が敵を切り裂け!『ウインドスラッシュ』!」
 レオルドから放たれた空気の刃が、もう片方のマミーを切り刻む。
「シャーリー殿! レオルド殿!」
「薬は見つけました! 今、クゥエヘリさんが持って向かってます!」
 その言葉に、三人の戦士は発奮した。
 豪腕を振るい、毒の爪が迫る。が、臆することなく、火澄は呪文を唱えた。
「氷の力よ、我が元に! 棺となりて、現れ出でよ! 『アイスコフィン』!」
 冷気が怪物を包み込む。不死の身体を氷が包み込み、動きを止めた。
「はっ!」
 よろめく巨体に、シャーリーの矢が止めをさした。
「!」
 理もまた、片目のマミーに攻撃を仕掛ける。
 剛腕の攻撃に焦りもせず、彼女は片手の「八握剣」をマミーの残った目に投擲した。
 両目を潰され、視覚を失ったマミーはめちゃくちゃに両腕を振り回した。そのあおりを食らい、庭の石が破壊される。
 腕の動きを見切った理は、接近し、跳躍し、マミーの喉元を、もう片方の八握剣を用いて深く、えぐるように切り裂いた。
 二体目の邪悪な不死の怪物が、理によって斃れた。
「この世に生きておらぬなら‥‥他国で悪いが、土に還る道案内!この南天が導いてやろう!」
 最後のマミーが攻撃をしかける。が、すれ違いざまに南天は重い槌の一撃を放った。
「カウンターアタック!」
 マミーの頭部が砕かれた。巨体が倒れ、三体の不死の怪物に死が訪れた。

「もう、大丈夫ですね‥‥」
 理子の熱が下がるのを見て、クゥエヘリは安堵のため息をついた。
 早駆けの馬を走らせ、春日家の屋敷になだれ込むようにして辿り着いた時。理子と大野輔はほとんど死にかけていた。
 急ぎ薬を受け取った医師は、すぐにそれを処方し、治療を施した。そして一昼夜。二人の熱は下がり、顔色も良くなった。
 それを知り、ようやくクゥエヘリも安心できたのだった。
「さて、それじゃあお粥かおじやでも作ってあげましょうか。起きたら、少しでも食べて、元気をつけてもらわなくてはね」

 その後。
 村では、殺された人々は全員が丁重に供養され、村の墓地に埋葬された。村人達も戻り、村には生活の空気が戻ってきた。
 理子は再び、天涯孤独の身となったが、大野輔が彼女を引き取り、後に正式に養女とした。叔父の財産は全て、大野輔が受け継ぎ、売り払うなり人に譲るなりして処分された。

 再び、人の生活が戻った村。しかし屋敷のみ、今は誰も住む者が無く佇んでいる。
 が、大野輔と理子は、叔父を忘れぬようにと月一の墓参りを欠かさなかった。
 命を賭して、自分たちの命を救ってくれた恩人を、智則を忘れないように。