緑色の怪獣

■ショートシナリオ


担当:塩田多弾砲

対応レベル:2〜6lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 69 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月28日〜08月02日

リプレイ公開日:2005年08月01日

●オープニング

 ジャパンの森には、様々な怪獣、妖異が潜む。
 そして今日も、新たなる獣が凶悪な顎を開き、獲物を待ち構えていた。
 
 昼なお暗い影を落とす森。その入り口近くにある村では、森から取れる山の幸がちょっとした名物であった。
 野生の木の実、清流からとれる川魚や蟹、食用のキノコ、そして鳥獣の類。
 鹿や猪が多く棲むそこは、猟師にとってもなかなかの狩場であった。
 朝に出かけていった猟師は、夕刻になると獲物を下げて帰ってくる。決して無駄には獲り過ぎず、森の神々に祈りを捧げてから、村の住民は森がもたらす糧を受けていた。
 そして、ここ数日。村はちょっとした騒ぎになっていた。

 一ヶ月前、村に学者の一行がやってきた。この森の山奥の、そのまた奥に、古代王朝の遺跡だか古墳だかがある、とのことで、発掘と調査に来たのだ。
 彼らは翌日、そのまま森の奥へと消えていった。
 途中には、クマや妖怪が出る、とのことではあったが、学者一行もまた浪人や若いウィザードなどを用心棒に迎えており、準備は万全であった。
 そして、彼らは二度と戻ってこなかった。

 古墳に向かってから二週間後、村で待機していた学者の助手、久住隆久が、恩師や皆を助けにと向かうことになった。
「先生が向かった場所はわかっている。この地図の、この場所だ。もしも我々までも戻ってこなかったら、どうか江戸まで行って助けを呼んできて欲しい」
 そういうと、隆久は恋人‥‥志乃に言伝を頼んでおいた。
 志乃は隆久の許婚だった。隆久とは、お互いに学者として一人前になったら、結婚しようと約束していた。
 そして、彼もまた遺跡へと向かっていった。

 更に一週間後。
 戻ってきたのは、たった一人。隆久だった。彼は、全身に傷を負い、右腕を砕かれていた。
「み、緑の‥‥緑色の‥‥怪獣が‥‥」
 おそらく、右腕はその怪獣に砕かれたのだろう。彼の様子を見れば、他の村人達がどのような運命を辿ったのか、想像に難くない。
「‥‥一匹じゃなかった‥‥‥‥苔むした、緑の岩が‥‥知らずに近付いて、いきなり‥‥‥‥」
 隆久はうわごとを繰り返した。出血と傷のせいで、彼が死神の鎌に刈られるのは時間の問題だろう。
「そ、そいつは‥‥岩じゃなく‥‥‥‥ち、畜生、いてえ、いてえよ‥‥」
 彼はそのまま、目を覚ますことはなかった。志乃は、恋人を失ったのだ。
 彼女は泣いた。泣いて、泣いて‥‥決意した。

「これが、わたしに支払えるお金の全てです‥‥。どうか、隆久さんの仇を取って下さい」
 多額の報酬を差し出し、志乃はギルドの応接室にて訴えかけていた。
「わたしは、隆久さんが戻ってからすぐ、古墳に向かおうと思いましたが、村の皆さんに止められました。『これは、森の神様が入ってくるなと言ってるんだ。だからあんたたちも、これ以上は関わるな』と。村の皆さんは、案内役を引き受けてはくれません。
 ならばと一人で向かい、そして、発見しました。古墳を。場所は大体、村から歩いて二日くらいの距離です。ちょうどたどり着いた時には、夕方でした。
 そこには、緑色に苔むした岩作りの古墳が、森の中に埋もれるようにしてありました。そして、発見しました。先生や、皆さんの遺体も」
 わずかに彼女は、身体を震わせた。
「せめてみなさんを弔おうと思った、そのときです。気づきました。何かの足跡が、周囲にあることを。その足跡の主は、土に沈み込んでいるところから、かなり体重があるものと思われました。そして、暗くなっている古墳の方から、緑色をした何かが近付いてくるのを見ました。おそらくは、隆久さんを殺した何かが。しかし、よく見極める前に、別の方向から何ものかの攻撃を受け、松明を弾き飛ばされてしまいました」
 彼女は、包帯をした手足をさすった。
「その時に腕と足の骨を折ってしまいましたが、怖くはありませんでした。痛みより前に、思ってましたから。わたしの大切な人を奪った憎いやつ。それがどんな存在かを、見極めたいと。ですが‥‥戦って勝てる相手でない事も事実。わたしは、できるだけ観察し、そのまま逃げました」
 悔しそうな顔になり、志乃は歯噛みした。
「あの時ほど、自分が情けないと思った事はありません。仇を目の前にして、おめおめと逃げるなんて。ですが、もしわたしが怪獣どもに殺されたら、仇を討てぬままで無駄死にする事は確実。だからわたしは、逃げました。腕力でなく、知恵と観察で戦うために」
 で、怪獣はどのようなものだったのか。その質問に、彼女はかぶりをふった。
「それが、暗かったのでよくは分かりませんでした。確かなのは、それは大きく、苔のような緑色をしているということです。足跡から、おそらくは四足で歩き、かなりの重量があると推測できます。
 最初、緑色をしていたことから植物の怪獣かと思いましたが、おそらく違うと思われます。隆久さんや先生が負った傷は、獣の咬傷というより、石か岩のような、鈍器による傷痕に似ていました」
 志乃は、さらに言葉を続けた。
「その怪獣は、わたしが古墳から離れると、それ以上は追ってきませんでした。この行動から、怪獣は古墳に近付く存在に無差別に攻撃を仕掛けるものと見ていいでしょう。つまり、埴輪などと同じく、古代の人々が遺跡を守るために置いたものと同類かと。
 わたしが観察し、わかった事はこれだけです。お役に立てるでしょうか?」
 最後に彼女は、こう付け加えた。
「今となっては、古墳も、調査も、どうでもいいです。古墳を暴いたために起こった事件であるとも言えますから。‥‥でも、自分勝手な願いであると分かってますが、それでもあえてお願いします。
 あの化物どもを、完膚なきまで叩き潰してください。わたしの隆久さんを奪った、父を奪ったあの化物を!」
 憎しみを込めた声で、彼女は言った。

●今回の参加者

 ea0666 レオルド・ロワイアー(31歳・♂・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ea5944 桂 春花(29歳・♀・僧侶・人間・華仙教大国)
 ea7742 ヴィヴィアン・アークエット(26歳・♀・バード・シフール・イギリス王国)
 eb1148 シャーリー・ザイオン(28歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 eb1160 白 九龍(34歳・♂・武道家・パラ・華仙教大国)
 eb1174 ロサ・アルバラード(27歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イスパニア王国)

●リプレイ本文

「相談する時間をもっと、とっておけばよかったでしょうか‥‥」
 桂春花(ea5944)は後悔していたが、今は後悔より、行動すべき時と割り切った。
 村は森の中にあった。というより、森の一部が村、というような情景であった。
 そしてその先、森の奥深くに、遺跡は存在するとの事だ。
「村の皆さんには、許可をいただいておきました。あんまりいい顔はしなかったですが‥‥」
 村の広場の一角で、シャーリー・ザイオン(eb1148)は、足跡の武器をこしらえつつ言った。ロープの両の端におもりである石をくくりつけたもので、即席の投擲武器ともいえるものだ。それを作り終えた彼女は、ロープとともに丁寧にまとめ、肩にかけた。
「は〜いっ☆ それじゃあ、ヴィヴィは偵察いってきま〜す♪」
 ヴィヴィアン・アークエット(ea7742)、シフールのバードは舞い上がり、森へと向かっていった。
 
 件の怪獣はゴーレムや埴輪の類だろう。志乃が助かった事から、おそらくは遺跡を護る為に置かれたもの。そして、ある程度離れればもとの場所に戻る。
 ならば、そのぎりぎりの距離から攻撃をしかければいいだろう。
 誰かを囮に、怪獣を追跡の限界距離までおびき寄せる。反応したら、攻撃を仕掛けない距離までぎりぎりに近付き、そこから攻撃を加えていく。
 推測どおりにゴーレムの類ならば、敵は石か岩で出来た相手。
 ロサ・アルバラード(eb1174)は手斧を持っている。これで攻撃し、亀裂が入ったところに矢を打ち込めば、岩を割る事も不可能ではないだろう。
 敵を足止めするにも、シャーリーがロープで転ばせる。それでもだめならば、錘をつけたロープを投げつけ、足に巻きつけるという手もある。
 足を絡めとり、動けなくなったところに、レオルド・ロワイアー(ea0666)と白九龍(eb1160)が攻撃を加えれば、それなりに効果もあるだろう。
 もしもどうしてもうまく行かなかったら、桂のディストロイの呪文を用いよう。岩でできていたとしても、手足を砕いてしまえば動けなくなる。
 知恵と観察で戦うという志乃の言葉。それを実証すべく、冒険者達は行動に移っていた。

「ぶんぶんぶぅ〜んっとヴィヴィが飛ぶぅ〜♪遺跡の周りを怪物さがしてぇ♪‥‥ほえっ?」
偵察してた彼女は、そう時間もかからないうちに、目当てのものを発見した。
 密生した植物に覆われた、石造りの遺跡。それが、木々の間にねじ込まれたようにして存在していたのだ。
 その周囲には、最近のものと思われる、数人の人間の死体が累々と横たわっていた。
 呑気してたヴィヴィだが、さすがに浮かれ気分も吹っ飛んだ。

「あれが、志乃さんの言ってた遺跡でしょう」
 ロサとシャーリー、桂、レオルドと白は、倒れた大木の陰に隠れつつつぶやいた。ヴィヴィは、桂の脇でちょこんと座っている。
 森の中を突っ切る一本道。その先に、遺跡はあった。
 遺跡の手前は開けており、そこには調査隊の遺体が。しかし、彼らを手にかけた存在は見えなかった。冒険者が現在いる場所は、入り口前の広場のすぐ手前である。
「志乃さんは、この遺跡の前までは行けたわけですよね‥‥」
「ええ、どうやら、場所的にはこの位置がギリギリでしょうね。罠を仕掛けるのは、ちょっと無理そうだわ」
 確かに、シャーリーのロープの罠は、この状況では仕掛けにくそうだ。
「肝心の怪獣は‥‥あれだな」
 レオルドが指摘した。遺跡の周辺は木や植物がやたらに密生し、昼なお薄暗い。いきなり木々の陰から竜が出てきたとしても、違和感が無い。
 遺跡の入り口に一つ、入り口前の広場の左右にそれぞれ一つづつ、緑色の塊があった。
 その緑色は、苔のそれだった。が、目を凝らすと、それは何かの姿に見えた。
 うずくまった、熊、もしくは獅子めいた四足獣。子供が作った、へたくそな粘土細工の獣のようだ。
「志乃さんに、依頼を受けた後で更に良く思い出してもらったんです。で、その結果、遺跡の前と左右から怪獣は襲いかかったのだという事が明らかになりました」と、桂。
「ねえねえみんな。これからどうするの?」
「決まってるだろ、ヴィヴィ」白が、口を開いた。
「‥‥仕事を始める時だ」
 白の言葉に、皆がうなずいた。

「ヴィヴィ〜ヴィヴィ〜ブブブンブ〜ン♪ 緑のバカンスブブブンブン♪」
 シフールが漂い来る。そのまま空中を漂いつつ、
 その姿を認め、緑色の怪獣がゆっくりと動き出した。四足を伸ばし、それは立ち上がる。
 遺跡の入り口から、そして広場の左右から、緑色の塊が身体をきしませつつ立ち上がった。それは熊でも、獅子でもなかった。
 大木の陰から見つめていた桂は、自分の考えが当たっていたと確信した。ゴーレムの一種に間違いはない。
それは、狛犬だった。太古に石を刻んで作り出した、命なき物言わぬ獣の番人。その表面が苔むし、植物がおおいつくしていたため、一見したら緑色の植物の塊に見えた。
 「あれ? あれれ? 怪物さんが来ちゃったよ? どうしよどうしよ?」
 空中で、ちょうど人間の頭くらいの高さを漂いおろおろしているシフールを、三体の狛犬が三方から囲んだ。
 一体が後足で立ち上がり、シフールを叩こうとする。が、その鈍い攻撃をやすやすと回避すると、ヴィヴィは空中高く舞い上がり、からかうような口調ではやしたてた。
「へっへ〜ん、残念でした! こっちだよ〜☆」
 一体が、ヴィヴィを追い広場を横切って、森の一本道へと向かう。が、広場の端まで進むと、そのまま追うのを止めた。
「‥‥」
 おっかなびっくり、桂とロサ、シャーリーと白、レオルドが、狛犬の前に姿をさらす。
 が、狛犬は意に介さず、そのまま引き返した。
 見ると、他の狛犬も引き返している。どうやら、ここまで逃げれば安全らしい。
「‥‥皆さん、行きますよ?」
 桂の言葉に、皆はうなずいた。

 桂は、一歩広場に足を踏み入れた。
 途端に狛犬は振り返り、侵入者を排除せんと向かってくる。
 ギリギリまでひきつけ、桂は一歩後ろへ下がった。
 狛犬は愚直にも、そこで動きを止めた。間違いなく、この位置には攻撃しない。
 再び戻ろうとする狛犬に向け、桂は呪文を唱えた。
「滅びの力よ、その力を解き放て! 『ディストロイ』!」
 彼女の唱えた呪文が、狛犬、ないしはその後半身に炸裂した。半身を砕かれた狛犬は、そのまま動かなくなり、石塊へと戻っていった。
 脅威が半減したと確認し、冒険者達は怪獣退治にと踏み出した。残りは二体、右と左。
「俺は右のと戦う。あんたらは左を!」白が叫んだ。
「分かったわ! シャーリーさん、ロープを!」
「はい! ロサさん!」
 弓の代わりにロープを取り出し、それを振り回しつつシャーリーは左の狛犬に向かっていった。
 狛犬は、再三侵入者に対し顔を向けた。
 こしゃくな侵入者を叩きのめそうとする狛犬。が、シャーリーが放ったロープが、狛犬の前足に絡みついた。
 倒れた狛犬に、手斧を手にしたロサが襲い掛かる。ぎこちなく動き回る狛犬だが、ロサは巧みに動き回り、その攻撃をかわす。
狛犬の背中、もっとも脆そうな部分を見つけ、ロサはそこに斧を叩き込んだ。
 手斧の刃が食い込み、狛犬の背中に大きな亀裂を走らせた。すかさず、弓を構えたシャーリーがそこに矢を放つ。
「はっ!」
 シューティングPAEXにて、鏃が深く食い込んだ。後退したロサも、一緒に矢を射掛ける。
亀裂がさらに広がり、二体目の狛犬も砕けていった。

 白は三体目と戦っている。狛犬の攻撃をなんとかかわしつつ、彼は拳を叩き込んでいた。
 普通の怪物ならば、とうの昔に斃れた事だろう。しかし、相手は石。蛇毒手も効果はない。
「ウインドスラッシュ!」
 レオルドが空気の刃を放った。が、それは狛犬の表面をわずかに削るだけの効果しかなかった。狛犬をかく乱するのには役立ったが、ダメージは与えられない。
「うーっ、だめだよー! 全然効かないよー!」
 ヴィヴィが、悲鳴を上げる。白は安全な場所へとなんとか後退し、体勢を整えた。再び拳を握り締める。
「白さん! これを!」
 ロサが手斧を手渡した。それを受け取った彼は、再び狛犬に向かっていった。
 鈍重な攻撃をかわし、狛犬の脆くなっている前足付け根部分に斧を叩き込んだ。斧の刃が、亀裂を走らせる。
「はっ!」
「とぁーっ!」
 白が後退し、そのままロサとシャーリーは、矢を放った。亀裂が走り、前足が崩れ落ちる。
 桂のディストロイが、再び唱えられた。それとともに、三体の怪獣は息の根を止めた。

 狛犬をしとめたのち、冒険者達は村へ報告に戻った。村には志乃が待っていた。仕事が終わった後、父親と隆久たちの弔いをするために、冒険者たちに同行していたのだ。
 手斧が砕け、矢が10本ほど折れた事を除けば、冒険者側に被害はなかった。
 その後、簡易ではあったが、滞りなく弔いは終わった。桂が供養の読経を施し、終わった後に、志乃は遺跡を調べた。
「これは‥‥」
 遺跡は、小さなものだった。中には石棺と、横たわる骸骨。
「お墓‥‥みたいだね」
 陽気なヴィヴィも、その様子を見て厳粛な気持ちになっていた。
「そのようね。ま、金目のものはないみたいだけど」ロサが、周りを見回しつつつぶやく。
 志乃が杖を付きつつ、石棺の脇に刻まれた文字を読んだ。
「‥‥『父と恋人に先立たれた我が娘よ。母の名において、病に倒れたそなたをここに弔う。来世では、幸をつかまん事を』」
「あの狛犬、この子を護るために置かれてたんですね」
 シャーリーがつぶやいた。偶然にも、葬られていたのは志乃と同じ境遇の少女だったのだ。
「ここは‥‥このままにしておきます。お墓を荒らす事は、わたしの仕事ではありません。きっと、父と隆久さんも、ここはそっとしておくべきだと言うはずですから」
 志乃は、石棺の表面を撫でながら言った。
 シャーリーは、狛犬のかけらをそっと、少女の骸骨の脇に置いた。忠臣として仕えた彼らを倒してしまった、弔いをするかのように。

 今も、緑の森の奥深く。木々に囲まれた遺跡には、少女の骸骨が眠っている。