熊対熊鬼の死闘

■ショートシナリオ


担当:塩田多弾砲

対応レベル:2〜6lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 69 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月04日〜08月09日

リプレイ公開日:2005年08月12日

●オープニング

 彼女は、熊田由宇。とある山奥の村の村長代理である。
 今や、彼女は代理で無く、村長であった。
「ギルドのみなさん、手を貸してください。このままでは、村は熊か熊鬼のどちらかに滅ぼされます!」

 由宇の住む村は、山に囲まれた場所だった。かろうじて街道につながる山道が通っているため、旅人がわずかに通る以外は人が来る事はまれだった。この道を通らずとも、ちょっと遠回りすれば近くの宿場町にたどりつける。時間も、半日程度余分にかかるくらいで、それほど遠回りというわけでもない。
 故に、由宇の村はあまり大きくなる事もなかった。
 しかし、別に貧乏しているわけでもなかった。その村は山に囲まれているがゆえ、獣や山菜などの山の幸を獲る事で、自給自足できたのだ。さらに、近くの宿場町にそれらを売りに行けば、莫大とは言わないが結構な値段で売れる。
 また、村には清流が流れていた。その湧き出る水からは、いい酒が醸造できた。
 酒を町で売る事で、村は潤い、それなりにいい生活を送る事ができた。

 しかし、ある日。
村の猟師が山に入り、獲物をしとめた時の事。
 鹿を矢でしとめた猟師は、それを持ち帰ろうとしたが、途中で巨大な熊と鉢合わせしてしまったのだ。
 獲物を放り出し、猟師はそのまま逃げようとした。が、生きた肉を食らいたいと思ったのか、熊は鹿には目もくれず、猟師を狙った。
 矢を射かけ、猟師は身を守るために戦った。やがて彼は、村へと逃げ帰る事ができた。‥‥熊の爪に、胸をえぐられるというおまけ付きで。
 その傷が元で、猟師は亡くなった。そしてその後、キノコ採りの男が山に入った時。矢傷が元になって死んだとおぼしき、熊の死体を見つけた。
 それからというもの、山に入った猟師や芝刈りや山菜取りたちが、みな熊に襲われて大怪我を負ったり、食い殺されたりといった事件が頻発するようになった。それらはやがて、村のすぐ近くでも起こるようになった。
 山の中に住む猟師が、熊に襲われたのだ。一緒に住んでいた彼の娘ごと、熊はその凶暴な爪を振るった。
 猟師は娘を守ろうと、熊の爪を受けつつ逃走した。そして、村の集会所で事の次第を話し、そのまま絶命した。彼は手に、娘の身体をしっかりと抱きしめていた。
その娘もまた、すでに死んでいた。頭部に、ざっくりと熊の爪を受けていたのだ。

 この事件が起こった後、村では有志を募り熊退治をすべしと決定した。
 そして、人手を集めようと、彼らは宿場町へと向かっていった。
 が、村長他二名は、二度と帰ってこなかった。次の日、村長は撲殺された死体となって発見されたのだ。
 他二名も、村長とともに死んだと思われた。刀を握った手首と、血まみれになった背嚢が村長の死体の脇にあったからだ。それらはまぎれもなく、二人のものに相違なかった。
 当初、熊のしわざかと思われたが、すぐにその考えは引っ込んだ。村長の傷痕は熊の鉤爪のそれでなく、巨大な棍棒によるものだったからだ。
 また、その場で食い殺したにしても、獣のように食い散らかされてはいない。残された手首は、傷口から刃物を用いて切断したものと判明していた。
 背嚢もまた、物色されたあとが見えた。熊ならば爪で引き裂いて放置してもいいものだが、その様子がない。
 つまり、これは棍棒や刃物を用いる存在の仕業であり、少なくとも熊が犯人ではない。これは村に、熊以外の恐怖が襲撃してきた証拠であった。

 その犯人は、すぐに判明した。
 宿場町の周辺に、最近になって巨体の山賊が現われたという噂が立ったのだ。そして、酒を売りに宿場町へと向かった荷車と村人は、その怪物の姿を見た。
 その巨躯から山鬼かと思われたが、それらは山鬼と異なる猪めいた頭部を持ち、全身毛むくじゃらだった。
 手に握っていた棍棒と斧と大刀から、それは熊鬼の盗賊であると判明した。村長を殺し、二人の若者を食い殺した犯人。
 ひとたまりもなく、酒売りたちは殺された。彼らは熊鬼の、酒の肴にされたのだ。

 以後、村は二種類の災厄に苛まれる事となった。宿場町へと続く山道沿いに現われる熊鬼の盗賊と、村の山奥に現われる熊。これらは容赦なく、村人を襲った。
「これ以上、村の人々から犠牲者を出すわけには行きません! わたしの父親を殺した熊鬼、わたしの叔父と姪を殺した熊。これらを退治し、村に平和を取り戻して欲しいのです!」
 
 何か参考になる情報はないか。その問いに、彼女は答えた。
「熊はともかく、熊鬼は酒に目が無いのは間違いないでしょう。以前、誘き出して倒そうともくろみ、森の中に酒樽を置いて待ち伏せたら、現われましたからね。その時に、猟師が矢を射掛けて倒そうとしましたが、返り討ちにされ、酒も奪われてしまう結果になりましたが。
もっとも‥‥それほど酒が好きなのに、気づいていないのか、あるいは単に愚かなのか。熊鬼どもは直接村の方まで来て、村の酒蔵を襲ったことはありません。
 あと、もう一つ。熊は、熊鬼とは仲が悪いようです。猟師が山奥で目撃したのですが、以前に両者が鉢合せし、その時に熊鬼が熊にちょっかいを出して、熊に引っかかれましたから。その時は熊が逃げた事で済みましたが、両者ともお互いに良い感情は持っていないようです」
 そう言って、彼女は報酬を差し出した。
「なんとか、これだけ用意させていただきました。もしも皆様の中でお酒を好まれる方が居ましたら、参考にと買い求めた銘酒がわずかですが手元にあります。それもお付けしましょう」
「方法は問いません。熊と熊鬼、この両者の息の根を止められるのなら、何をしても構いません。どうか、皆様のお力をお貸し下さい」

●今回の参加者

 ea0221 エレオノール・ブラキリア(22歳・♀・バード・エルフ・ノルマン王国)
 ea0392 小鳥遊 美琴(29歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea0517 壬生 桜耶(34歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea0666 レオルド・ロワイアー(31歳・♂・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ea9700 楠木 礼子(40歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea9913 楊 飛瓏(33歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 eb2555 風鳴 鏡印(35歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb3131 朱 麗黄(18歳・♀・武道家・エルフ・華仙教大国)

●リプレイ本文

 荷車には、数個の酒樽の他、肉や魚、山菜など、酒の肴となりそうなものがどっさりと積まれていた。これらの酒と肴が、人の口に入る事はあるまい。
 なぜならば、三体の怪物が現れたからだ。木々が密集する森の中に、猪めいた頭、ぼろぼろの鎧、体毛に覆われた身体に、それぞれの手には得物。三匹の熊鬼は荷車を見つけ、これ幸いと襲い掛かった。
 荷車を引いていた二人は、脱兎のごとく逃亡した。
 熊鬼は二人を見逃し、酒樽にとりついた。一匹が樽を空け、酒に顔を突っ込む。もう一匹が取り合うと、最後の一匹が殴りつけ止めた。そいつが首領格らしい。頭頂部の毛が赤く、禿げあがっているように見える。
「あの赤ハゲが、熊鬼どもの首領だな」
 先刻の二人のうち一人、楊飛瓏(ea9913)が、碧の瞳で鋭く見つめていた。
「そのようだ。見たところ、他の二匹より大柄だしな」
 楊とともに、風鳴鏡印(eb2555)もその様子を見守っていた。
 二匹の熊鬼は赤ハゲの指示のもと、酒樽を荷車ごと持ち上げ、森の奥へと運搬していった。
 その様子を見つつ、二人は尾行を始めた。酒が手に入ったせいか、熊鬼どもはかなり浮かれている様子。それが幸いし、尾行に気づいていない。
 風鳴はつぶやいた。
「貴様らの最後の酒。せいぜい楽しむがいい」
 
 風鳴の鷹、夢幻丸を腕に留まらせたレオルド・ロワイアー(ea0666)は、その足に結び付けられていた地図を取った。忍者の翼ある従者は、主人が見つけた熊鬼の洞窟のありかを、仲間達に伝えたのだ。
「熊鬼どもの洞窟は‥‥ここ。後はうまいこと、熊をおびき出せればいいんですが」夢幻丸が運んできた地図を、レオルドは仲間の前に広げた。
 レオルドを前に、仲間たち‥‥エレオノール・ブラキリア(ea0221)、壬生桜耶(ea0517)、朱麗黄(eb3131)、楠木礼子(ea9700)は、元気付けるように微笑んだ。
「心配ないわ。いま、小鳥遊さんが『虫食い』の姿を探しています。彼を信じ、待ちましょう」
 美しい銀髪を揺らしつつ、エレオノール‥‥エルフの謡い手は言った。
「では、エレオノールさん。熊鬼の洞窟は‥‥こちらの地図で言えば、ここになりますね。ちょうど、獣道と重なります」
 壬生が、村から借りた地図と照らし合わせ、熊鬼の洞窟のある場所に印をつけた。
「で、うちらは風鳴殿たちと合流し、熊鬼の洞窟を監視。そして、小鳥遊が誘導してくる『虫食い』と、熊鬼をかち合わせ、戦わせる、と」確認するかのように、朱は言った。
「そして、どちらかが力尽きたところを、私たちが止めをさす」楠木が、言葉を付け足す。
「二つの脅威‥‥何とかして取り除かなくちゃね」
 エレオノールの言葉に、皆がうなずいた。

 連絡の文を持ってきたレオルドの鷹。それを再び空へと返し、小鳥遊美琴(ea0392)は森を仰いだ。
 木々や草木が容赦なく生え揃い、人食樹が出てきそうな森。それらの間をぬって、彼は熊の、『虫食い』の姿を追い求めていた。
 人遁の術で猟師に変装していた彼だが、一向に『虫食い』らしい熊は見当たらなかった。
「楊と風鳴は、熊鬼の洞窟を発見。みんなも、そちらで待機している、か」
 たった今もたらされた情報を、小鳥遊は思い起こした。
「後は、俺の働き次第か。にしても‥‥思ったより、時間がかかりそうだなあ」
 小鳥遊はため息をついたが、すぐに近くの木の陰に身体を隠した。
 彼の視線の先には、はるか彼方、うごめいている何かの姿があった。その獣は、人間より小さくは無いだろう。熊に間違いない。
 近付くにつれ、さらに二匹の獣の死体を確認した。
 一匹は、猪か何か。獲物にされ、現在かぶりつかれている。
 もう一匹は、干からびた熊の死体。
「耳は‥‥?」
 彼の気配を感じ取ったのか、熊は身体を上げ、忍者の方へと頭を向けた。
 その片耳は、虫が食った葉のようだ。
「‥‥それじゃあ、行くか」
 熊を見据えると、小鳥遊は由宇から借りた弓矢を構え、その場から立ち上がった。
 
 日も傾きかけ、あと一刻もすれば夕暮れ、夜になりそうな時間。
 洞窟の中からは、熊鬼の酒盛りする音と声が響いていた。その耳障りな雑音を聞きつつ、冒険者達は熊鬼の動向を見守っていた。
「‥‥あの様子では、手当たり次第に飲み食いしているようだな。用意した酒が、足りればいいのだが」
 木の上から監視している風鳴は、洞窟をにらみつけた。
「ああ、全くだ。大樽で十個、それも特別強い酒を用意させたというのに、酔いつぶれる気配すら見せないとは」
 風鳴の真下の枝にいる楊も、忌々しげに熊鬼、ないしはその洞窟に視線をやった。
 木の根元近くの枝には、エレオノールらが潜んでいる。熊鬼の洞窟へと赴き、待機していたのだ。
 時折、空になった樽が洞窟から放り投げられるのを見て、苦々しい気分が湧き上がる。
 が、次第に騒ぎが収まり、奇妙な音が響いてきた。ヒキガエルのうめき声のようなそれが、熊鬼のいびきだと気づくのはすぐだった。
「小鳥遊さん、お願いしますよ‥‥?」
 祈るような視線を、獣道へと向けたエレオノール。しかし、森は沈黙を保ったままだった。

 焦りが冒険者たちを苛んでいた、まさにその時。
「!」
 近くの木に、派手な赤色の矢が打ち込まれた。エレオノールへの、小鳥遊からの合図だ。
 そして風鳴は、仲間の忍者が、獣道を走ってくるのを見た。
「来たぞ!」
 楊はすぐに、地面の仲間達に伝えた。
 疾走術で走る彼こそ、まさに小鳥遊。彼のはるか後ろからは、巨大な羆が驀進していた。
『あと頼むよ!』
『まかせて!』すれ違いざま、視線で小鳥遊と言葉を交わすエレオノール。
「熊鬼、気づかないでよね‥‥」
 不安に思いつつ、エレオノールは身構えた。
 洞窟の前まで来ると、小鳥遊はへばったかのように立ち止まった。
『虫食い』は追い詰めたと思ったのか、前足の一撃を食らわさんと直立した。
 爪が空を切り、迫りくる瞬間。
「‥‥安息を誘う、静寂なる水面‥‥‥」
子守唄のごとき、心地よく響く呪文が、謳い手により詠唱された。
「‥‥その底へ、その心を沈めよ‥‥‥‥『スリープ』‥‥」
 赤子を優しく寝付かせる母親のよう。柔らかなエルフの言葉は、熊の耳に届き、その効力を発揮した。
 巨獣が倒れていびきをかき始め、小鳥遊はようやく安堵した。
「やれやれ、助かったよ。この熊さん、なかなかしつっこくてねー」
 息を切らせつつ、小鳥遊はにこやかに言った。見ると、由宇から借りた弓は無事なものの、矢筒は空になっている。
「ご苦労。後は私らにまかせといて」
 物陰から、楠木たちが出てきた。いよいよこれから、本当の宴が始まる。死闘という名の、宴が。

 突然、熊鬼どもは飛び起きた。
大刀と斧が、何かを当てられたかのように爆ぜる音が響いていたのだ。エレオノールが、ムーンアローで洞窟外から武器を撃ったのだ。
 首領格の赤ハゲは、棍棒を手にした。ねぼけている手下を叩き起し、洞窟の外へと追い出す。
 が、洞窟を出たその時。鋭い爪が熊鬼を襲った。
斧を握った熊鬼は、防御する暇さえなかった。顔面の半分を『虫食い』の爪によってそぎ落とされ、喉笛に喰らい付かれて放り出されたところで、ようやく自分が襲われたことに気づいた。
 地面に叩きつけられ、一匹目は沈黙した。
 大刀を持った二匹目の熊鬼は、肩を落とし、熊に体当たりを仕掛けた。流石に『虫食い』の巨体もそれを押さえきれず、熊鬼と絡まりつつ後方に吹っ飛んだ。
 熊鬼は大刀を振るい、熊に切りつけた。が、それは『虫食い』の食われていない耳をそぎ落としただけで、たいした痛手では無さそうだ。
 逆に怒り狂った『虫食い』は、凶暴な前足を熊鬼に、ないしは大刀に振り下ろした。
 大刀は、手入れを怠っていたために脆かった。錆びた刀身は根元から折れ、それを役立たずに変えてしまった。
 さらにもう一撃。今度は、大刀を握っていた熊鬼の右手首に喰らい付いた。
 痛みに吼える熊鬼。しかし、熊は容赦なく牙をつきたてる。
赤ハゲが棍棒の強烈な一撃を食らわせることで、仲間を『虫食い』の牙から逃れさせる事ができた。しかし、熊鬼の手首はほとんど切断され、使い物になりそうにはない。痛みに呻く仲間を尻目に、赤ハゲは棍棒を投げ捨て、「虫食い」に組み付くようにして戦いを挑んだ。
 ふと見ると、片手となった熊鬼が首領の棍棒を拾い、立ち上がっていた。それだけではなく、最初に顔を削がれた熊鬼も、斧を手に立っていた。
「俺は壬生殿、楠木殿と斧の熊鬼をやる。楊殿は片手の奴を!」
「心得た! 朱殿!」
「うちにまかせて!」
 手負いの怪物を確認し、冒険者は立ちむかっていった。

 どす黒い血の臭いが、周囲に漂う。かなり出血しているはずなのに、熊鬼はまだ動ける様子だった。
 楊と朱は驚いていたが、恐れてはいなかった。二人の武道家は狼のように突撃し、左右へと別れる。
 左に回った楊を、棍棒の一撃が襲う。しかし粗雑なその動きは、既に見切られていた。
「酒とともに、とくと味わえ! 我が襲撃術!」
 刃か牙がごとき鋭い蹴りが、棍棒をかわして熊鬼に命中した。鎧の隙間にある地肌に足が食い込み、熊鬼は血を吐いた。
「十二形意拳奥義・鼠撃拳!」
 熊鬼の喉元を、容赦なく朱の拳がめり込む。倒れた熊鬼は、今度こそ立ち上がる力を失い、事切れた。
 片目の熊鬼も、残った目をぎらつかせ、斧で真っ二つにしようと狙っていた。
 風鳴は斧の刃を、オフシフトを用いてなんとか回避している。
「させるか! たーっ!」
 仲間を助けんと、壬生はバーニングソードで切りつける。
 しかし熊鬼は怯む事無く、壬生と楠木を両断しようと、斧を振りかぶった。
「風の刃よ、我が敵を切り裂け!『ウインドスラッシュ』!」
 レオルドの呪文が、熊鬼の顔面を更に襲う。残った目もやられた熊鬼は、混乱して斧をめちゃくちゃに振り回し始めた。
「助かったわ、レオルド!」
「私も少しは、役に立てたみたいですね」
 レオルドに微笑み、楠木は最後の攻撃を放った。
「ダブルアタック!」
 楠木の双刃が、熊鬼の喉笛を深く、えぐるように切り裂いた。

熊と熊鬼の痛みによる悲鳴が、戦いの場に響いた。
 両者の戦いは、熊に有利に進んでいた。爪でわき腹や肩をえぐられ、組み付かれ、噛みつかれた赤ハゲは、そのまま後ろに倒れてしまった。大量の血潮が振りまかれ、さながら周囲は屠殺場の様相を呈していた。
 止めをさそうと迫った「虫食い」だが、逆に深手を負う事になってしまった。赤ハゲは地面に転がっていたものを握り、「虫食い」の胸板に突き刺したのだ。
 それは、先刻に折られた大刀の刃。それを握った赤ハゲは、「虫食い」の胸に深く突き刺し、ずいと切り裂いた。
 痛みに吼える「虫食い」に対し、熊鬼は逆に止めをさそうと歩み寄った。が、赤ハゲは体中に深手を負い、すでに瀕死の状態だった。
 赤ハゲはよろめくように二・三歩歩くと、力尽きたように倒れ、そのまま動かなくなった。
 そして、その後を追うように、「虫食い」もまたよろめき、倒れた。
 両者は互いの獰猛さを見せ付けあうかのように、重なり合って死んでいった。

「ありがとうございます。これで、村にも平和が戻りますわ」
 冒険者達は由宇から感謝の言葉をもらいつつ、村で開かれた宴会でもてなしを受けていた。そして、ひょうたんに入った酒を手渡された。
「約束の、お酒です。私たちが醸造したもので、本当によろしいのでしょうか?」
「構わないよ。むしろ、こちらの方がいい」
 ひょうたんを受け取り、風鳴は言った。
「それでは、ちょっとした祝い酒の肴に、ささやかながら俺の拙い芸を披露しよう。村のみんなに、楽しんでもらえたらいいが」
 そう言って、彼は軽業を披露した。時に笑い、時に驚き。彼の軽業は村に活気と笑いを取り戻していった。
 軽業師の次は、エルフの謡い手が進み出る。
「では、私も。この先、此処に平和が続くことを祈り、一曲謡わせて下さいね」
 エレオノールの美しい唄声が、村に響き渡った。ようやく戻った平和を喜び、これからの平和を願うその唄は、芳醇なる酒のように、心地よく心に染み入った。
「‥‥ん? 小鳥遊さんは?」
 じっくりと酒を味わいつつ、それを聞いていた壬生は、仲間の一人が見当たらないのに気づいた。

「君達には‥‥悪い事をしたと思ってるよ」
「虫食い」からとった、毛皮の一部。それと、ひからびた毛皮の切れ端。
 小鳥遊はそれらを、山を望む場所に埋めていた。
 猟師に確認を取ったところ、やはり「虫食い」を発見した時に一緒にあった熊の死体は、「虫食い」の連れ合いのものに相違ないとの事だった。
 毛皮を埋めたそこは、小さな塚となった。小鳥遊はひょうたんを取り出し、中身を全て塚にあけた。
「戦いに利用して、ごめんね。次に生まれ変わったら、ヒトといざこざを起こさずに生きられるように‥‥」
 合掌し、小鳥遊はそのまま、静かに立ち去った。
 熊の毛皮が埋められた塚は、夜の闇の中、静かにたたずんでいた。