狐の娘と山姥退治

■ショートシナリオ


担当:塩田多弾砲

対応レベル:2〜6lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 24 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月08日〜08月14日

リプレイ公開日:2005年08月16日

●オープニング

かつて、その山では捨てられた年寄りが、何人も無念のうちに死んだという。
 そのせいか、いつしか山姥が棲みつくようになった。街道に出ては、山姥は犠牲者を見つけ、さらっては食らった。
 が、山姥の存在を知り、戦いを挑んだ猟師がいた。彼は娶った妻に「すぐに戻る」と言い残し、そのまま戻ってこなかった。
 それと同時に、山姥も出なくなった。捜索したものの、山姥も、猟師も、その姿を見つけることはできなかった。
「きっと、山姥と相打ちになったのだろう」と結論付け、村の人々は捜索を打ち切った。

 そして、数週間前。
 この村に、商人が隊商を引き連れて通りかかった。商人は村に泊まり、一夜を過ごす事に。
 というのも、村長は商人の弟だったのだ。

 村長の虎山新三郎は、兄の小次郎を快く迎えた。
 小次郎は、江戸の古美術商「辰屋」の番頭にまで出世していた。彼は大事な商談を行い、銘の入った太刀を携え、江戸に戻る途中であった。
 が、次の日。太刀は何者かに取られていたのだ。
 見張りの小僧が言う事には、太刀を取っていったのは切れ長の瞳を持つ美少女だったという。
 うつらうつらしていた小僧は、彼女が刀を取っていったところを見てすぐに飛び起きた。
が、少女はやぶに飛び込んだ。すぐに小僧も飛び込んだが、そこには刀を口にくわえた狐がいただけだった。
 驚いた小僧を尻目に、狐はそのまま逃げてしまった。

「その女の子の面相が、行方不明になった猟師の太郎助が最近めとった嫁、おいねにそっくりなんですよ。山姥を退治しようとして、そのまま行方不明になった太郎助ですが、それ以来おいねも行方不明になって、今はどこにいるのか」
新三郎は、ギルドにて依頼内容を口にしていた。
「おいねは‥‥その‥‥噂なんですがね、狐が化けた女なんじゃないかって言うんですよ。だとしても、今の今までイタズラどころか、人に迷惑をかけたことはないんです。刀を盗んだのは、間違いなくおいねでしょう。
 で、話は変わりますが‥‥村の者が、山姥の姿を見かけたそうなんです。すぐ近くを歩いていたのをこっそり見たのですが、手ひどい矢傷をうけていた、とのことです」
 平静を装っていたが、彼は明らかに焦っていた。
「たぶん、太郎助は山姥と戦い、相打ちになったのでしょう。しかし‥‥山姥の方はなんとか助かってしまった。今まで出なかったのは、受けた傷を癒すためで、なんとか動けるまでに回復した。
 そして、それを知ったおいねは、おそらく敵討ちをしたいと考えたのではありますまいか。この村には、ろくな武器がありません。そこに兄の刀を見かけたおいねは、あれを持ち出して‥‥今は山奥で、山姥を探しているんでしょう」
 彼は、ため息をついた。
「私は辰屋に行って『兄は荷車が壊れたため、戻りが遅くなる』と言っておきました。が、このままでは刀は奪われたままです。依頼は、おいねを探し、刀を取り戻す事。ええ、山姥をも倒せばいう事はありませんが」
 彼は、小判の包みを取り出した。
「それで、こちらの条件というか、お願いなんですが。おいねにはあまり、酷いことをしないでやってもらえませんか? あの子はいったとおり、悪い娘じゃあありません。確かに人間じゃあないですし、化物ではあるのですが、少なくとも太郎助は彼女を愛してましたし、彼女もまた太郎助に尽くしていました。今度の事も、悪意あって行った事ではないでしょうし」
 山姥に関する事を聞くと、新三郎は答えた。
「山姥ですか? そやつは街道から離れた場所にある、洞窟や捨てられた屋敷に住み着いています。あの辺りは昼も暗く、ちょっと探すのは大変でして‥‥多分、太郎助はあの辺りで山姥と戦い、倒れたんでしょう。
 ‥‥私たちがこうやってのうのうとしてるとお思いでしょう。それに関しては否定しません。
 ですが、私たちもろくに武器もなければお金もなく、戦えるだけの者もいなかったのです。今回も、兄が用立ててくれたものですから、こうやって依頼できた次第で。
 ともかく、依頼を受けていただけるなら、よろしくお願いします」
 そう言って、村長は深々と頭を下げた。

●今回の参加者

 ea0440 御影 祐衣(27歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea7310 モードレッド・サージェイ(34歳・♂・神聖騎士・人間・ロシア王国)
 ea9861 山岡 忠臣(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb1743 璃 白鳳(29歳・♂・僧侶・エルフ・華仙教大国)

●リプレイ本文

「山姥が棲んでいると思われる場所は、街道沿いにある廃屋、山奥の洞窟、滝の麓にある小屋‥‥だったな?」
 ロシア王国の神聖騎士、モードレッド・サージェイ(ea7310)は、村周辺のおおまかな地図、ないしはそこに記された街道を指でなぞりながら言った。
「山姥なら、どこに潜むか。その可能性をまず考えるべきだろうな」
 厳しい顔付きでそれに答えるのは、侍の管弦士・御影祐衣(ea0440)。
 依頼人の屋敷。客間の机の上に広げられた地図は、しみだらけで汚れている。そして、三つある山姥のねぐら候補は、それぞれ離れていた。
「矢傷を負った山姥が目撃されたのは、このあたりだったな? 洞窟からは、かなり離れていやがる。となると、山奥の洞窟は除外だな」
「だな、モードレッド。で、この情報が正しいとしてだ。いるとしたら、小屋と廃屋のどちらか?」
 出された茶を口にしながら、志士の山岡忠臣(ea9861)は疑問を口にした。
「そうですね。私は、滝の麓の小屋。ここが一番怪しいと思われます」
エルフの僧侶・璃白鳳(eb1743)が、お茶で口を湿らせつつ、自分の考えを述べ始めた。
「山姥は深手を受け、どこかで傷を癒していたようです。傷ついた者が向かう場所は、その多くが水場です。特に衰弱した体には、水が不可欠だからです。
 あと、食糧の問題もあります。野山の獣よりは、川の中の魚を捕まえる方が容易いでしょう」
「なるほど、一理ある」と、御影
「だが璃。相手は山姥、普通の獣の理屈が通じるとも限らん。見当違いに終わった時の事も、頭に入れておくべきじゃあねーか?」
「無論です、モードレッドさん。ただ、私たちが山姥を発見するのが遅れれば、それだけおいねさんが危険です。現時点で考える限り、可能性が高い‥‥と私が勝手に思っているだけですが‥‥滝の麓の小屋だけは、探索地に加えていただけないでしょうか」
「そうだね。ここ最近起こった事件で、正直どれが山姥の仕業で、どれが山の獣が起こした事かはっきりしない‥‥となると、璃の言うとおり、滝の麓の小屋からあたって見るか」
「ええ。あと、言い忘れていましたが、もう一つ」山岡の言葉に続き、璃は言った。
「関係ないかもしれませんが‥‥滝の小屋の周辺で、狐の姿が目撃されたそうです」
 
 次の日の午前中。
 街道から、四人の冒険者は森の中に入りこんだ。木々が密生し、歩きにくい。
「新三郎さんも気が利きますね。握り飯を用意してくれるとは」
 四人の腰には、重たい包みがくくりつけられていた。
『体力が必要な仕事ですからね、くさらないうちに食べてください』新三郎はそう言って、彼らに握り飯を渡したのだった。弁当を携えた冒険者たちは狭い獣道を見つけ、森の中へ入り込んでいった。
 狐が目撃されたのも、この獣道だった。
「近くに河の音がする‥‥となると、この先に滝があるのか?」
 山岡の言うとおり、すぐに河が見つかった。
 きれいな水で、川魚が泳いでいる。周囲の暑さから、つい飛び込んで泳ぎたくなってしまう。そして、水音が轟く音も聞こえてきた。滝が近いのだろう。
「やれやれ、暑いぜ。こんなに汗だくになっちまったら、裕衣ちゃんに嫌われちまうよ」
「山岡、その心配ならば無用だ。私はおぬしに心動かされる事はない。存分に汗をかくがいい」
「って、つれないなあ。裕衣ちゃんもおいねちゃんみたいに、愛に生きるべきじゃないのかな? 俺だったらいつでも熱烈歓迎だよ?」
「‥‥おい、山岡。おまえの恋愛論をぶつまえに、呪文の用意を頼むぜ。あれだろ? 滝の麓の、小屋ってのはよ」
 モードレッドが指をやった先には滝が、その麓には、小屋があった。

 彼女は、空腹だった。
 手の刃物が、重く感じられる。
 これで、獲物を切り裂いてやる。そうしないことには、自分は死んでも死に切れない。
 が、体中に負った怪我と傷が、彼女の全身を苛んでいた。今しばらく休もう。動けるようになったら、血祭りにあげてやる。あいつを!
「!」
 近くに、何者かがいる。怪我のせいで、気づかなかった。
 気配から数体はいる。そいつらは、徐々に気配を近づけてくる。
 こうなったら、敵に武器の一撃を食らわしてやる!ただではやられるものか!
 が、立てない。小屋の扉が開くのと、彼女が意識を失うのは、同時だった。
「‥‥おいねさん、ですね?」
 璃の言葉が、おいねの耳に届いた。

「‥‥おおっと、目を覚ましたか。いやあ、やっぱりこうやって目覚めている方が、よりかわいいってもんだ。うんうん」
 山岡の声を聞き、おいねは目覚めた。
「‥‥?」
「恐れる事はないぜ、狐娘」
 モードレッドが、おいねの顔を覗き込んだ。
「おまえ、おいねだろ? 俺達は、おまえの味方だ」
 おいねは逃げようとしたが、モードレッドは肩をしっかりとつかんでいた。
「待て! 怪我を治した恩人に、礼も言えないのか?」
 その言葉に、おいねは自分の身体をあらためた。山姥から受けた傷が、すっかり良くなっている。
「リカバーの呪文をかけておきました。怪我は完治していますよ」
 にこりと微笑みかけながら、璃が言った。
「わ、ワタシ‥‥」
 なにかを言おうとしたおいねだが、それは大きな腹の虫に遮られた。
「空腹ならば、ちょうど持ち合わせがある」
 御影が、腰の握り飯を差し出した。

「あいつ、太郎助殺した。ワタシ、仇、取る」
 がつがつと握り飯を口に入れながら、おいねは喋っていた。
「太郎助、勇敢。あいつ、凶暴。太郎助、あいつと、戦った。けど‥‥」
 彼女は、悲しそうにうつむいた。
「あいつ、太郎助、落とした。滝壷に」
「なるほど。山姥に止めをさす前に、逆襲されたのか。さぞ無念な事だろう」静かに、御影は言った。
「ワタシ、滝壷、潜った、太郎助、助けた。けど、太郎助、死んだ」
「‥で、太郎助殿の身体は?」璃が問う。
「埋めた。森に。けど、あいつ、まだ生きてる」
「で、刀を奪って、仇を討とうとしたのか。いやあ、流石はおいねちゃん。しかしどうして、村の皆に言わなかったんだい? 君みたいな美少女なら、手伝ってくれるだろうに」
「村の皆、卑怯。太郎助に、礼言わない。だから、ワタシひとりで、殺す」
 たどたどしい口調だが、おいねははっきりと言った。
「お前たち、ワタシ、怪我、治した。礼、言う。けど、あいつ、殺すの、ワタシ。だから、来るな」
「手前のその覚悟は気に入ったぜ、狐娘」モードレッドが、にやりとしながら言った。
「邪魔はしねえが、その山姥にゃ俺らも用がある」
「そうだ。おいね、おぬしと我々は、目的は同じ。おぬしの手伝いをさせてもらいたい」
 モードレッドに続き、御影が言う。
「そういう事。君や裕衣ちゃんみたいな美少女を放置するなんて、俺のあふれまくる愛が許さないからねー。君のためならなんだってやっちゃうよ?」
「味方が多ければ、おいねさんにとって損はないはず。私達に、あなたのお手伝いをさせてください」
 浮かれた山岡の言葉と、穏やかな璃の口調。
「‥‥‥‥けど、ワタシ、礼、できない」
「礼? だったら、俺と逢引‥‥いててっ」
「黙ってろ、山岡。礼などいらない。ただ、その剣を返してくれればいい。どうだろうか?」
 御影の言葉に、おいねはこくりとうなずいた。

 彼女は、山姥のいる場所へと案内した。川を挟んだ、街道の反対側。こちらは更に草木が生い茂り、わずかな獣道があるだけだった。
 村から離れている事もあり、滝の裏を通る以外に、向こう側に渡れる橋もない。そのせいか、村の周辺の獲物で事足りている猟師は、ここまで足を伸ばさなかった。
 そして、森の中の開けた場所。そこには巨大な木が倒れ、洞窟のような木のうろがあった。果たして、そこに山姥は潜んでいた。
 やがて木のうろより、山姥がその姿を現した。山鬼をさらに醜く、しわくちゃにした顔を持つ怪物は、手に大振りな山刀を握っている。あれでおいねに、そして太郎助に、大怪我を負わせたに相違あるまい。もう片方の手には狐らしき獣が握られ、大根でも齧るかのようにかぶりついている。
 本能的に敵と認識したのか、山姥は狐を投げ捨て、咆哮し向かってきた。
「まだ、傷が治りきってないようだな。行くぜ!」
 モードレッドとともに、御影、山岡は、武器を抜いて突撃した。
 手負いながら、山姥の強力は恐るべきものだった。力任せに振り下ろした山刀が、御影を襲う。御影がそれをかわすと、後ろの木の幹に山刀の刃が食い込んだ。
 が、冒険者達も丸腰ではない。御影の霞小太刀は、的確に山姥の急所を切り付け、打撃を加えていく。
 モードレッドのクルスソード、山岡の日本刀も同様だ。神聖騎士と志士の刃は、大柄で動きの鈍い山姥の身体に、確実に痛手を与えていった。山姥の邪悪にして凶悪な瞳が、怒りと痛みにぎらつく。
 それを見たおいねの眼にも、凶暴な光が宿っていた。
「おいねさん。仇は取らせてあげます。わたしが合図したら、山姥に切りつけてください」
 唸り声を上げることで、おいねは返答した。その声は、狐の唸り声そっくりだった。

 三人の攻撃は、当初は山姥を圧倒していた。しかし、だんだんと押され気味になりつつあることも、認めざるをえなかった。
 山姥は御影と山岡を突き飛ばし、モードレッドの剣の一撃を受け止める。
「ちっ! なんてえタフな奴だ!」彼はうめいたが、山姥の一太刀が彼の手からクルスソードを弾きとばした。
「しまった!」
 丸腰になった神聖騎士。振りかぶった刃を、御影と山岡は止めようとした。その時。
「我が言葉、枷となりて其を縛れ、『コアギュレイト』!」
 山姥の背後から、璃が呪文を唱えたのだ。予想外の攻撃に、山姥は抵抗する間もなかった。
「おいねさん、今です!」
 呪文に呪縛され、咆哮する山姥の正面から、おいねが刀を構えて言い放つ。
「太郎助の、仇、覚悟!」
 刃が、山姥の胸板を貫く。仇の命を貫き、復讐を遂げた事を、おいねは刀からの感触で実感していた。

「そうですか。山姥が‥‥」
 屋敷にて。新三郎に、四人の冒険者は刀を渡していた。
「盗まれた刀はおいねが取り戻した。盗んだ山姥は我らとおいねで退治したので、もう二度とかような事は起るまい」
 御影は、虚言と知りつつ、あえてそのように報告した。
「本当に、ありがとうございました。それで、おいねは?」
「ああ、山の奥へと姿を消して、それっきりだよ。残念だったなあ、あんなにかわいい子なら、二・三日ほど逢引を‥‥いててっ」
 御影は、山岡の耳をつねって黙らせた。
「ま、刀が戻ってきてなによりです。きっと、見張りの小僧は夢でも見たんでしょうな」
 新三郎は、どこか寂しそうな、そして悔恨を感じさせる口調になった。
「‥‥考えてみれば、太郎助にも礼を言うべきだったのに、忘れていました。きっと、おいねは‥‥我々を見限ったのかもしれないですな」
「‥‥新三郎殿。ならば、すべき事があるのではないか? 太郎助殿は、この村を守るために戦い、命を落とした。ならば、その感謝の念を、表すべき。違うか?」
 新三郎は、御影の視線をうけ、そして‥‥口を開いた。
「御影様。今、ちょっとした考えが浮かんだのですが、聞いていただけますか?」

 数日後。新三郎は村の人々から寄付を集め、太郎助の墓を作った。
 決して贅沢ではない、しかし、立派な墓。
 墓には「村を救った英雄、ここに眠る」と刻まれていた。

 そしていつしか、墓には時折狐が現われ、見守るようになったという。