少女の罪・巫女の罰

■ショートシナリオ


担当:塩田多弾砲

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月20日〜08月25日

リプレイ公開日:2005年08月25日

●オープニング

 江戸の外れの一角にある、中程度の大きさの神社。
 その神社には、少女がいました。彼女は巫女でした。両親は幼い頃に死に別れ、今の神社に拾われ、彼女は巫女として今の今まで浮世離れした生活を行っていました。
 凛としたたたずまいの彼女は、とても美しい少女でした。しかし、巫女を務めているせいか、彼女には年頃の、同年代の友人がいませんでした。
 美しい外見に気圧されてか、それとも巫女という職についているせいか。周囲の人間は、彼女を特別扱いし、神聖視していました。
 ゆえに、彼女には友人ができませんでした。そして、彼女は孤独でした。
 きっとこのまま、友人を作ることなく、わたくしは一生を過ごすのでしょうね。
 いつしか巫女‥‥月影春奈は、自嘲気味に双考えるようになりました。つい、最近までは。

 彼女と春奈が出会ったのは、偶然の出来事。神社の林の中に迷い込んだ彼女を、春奈が見つけたのです。
 が、すぐに二人は打ち解けました。友達のいない春奈は、天真爛漫で屈託のない少女と話すと、自分も楽しくなってくるのを覚えました。
 やがて、春奈は少女と友達になりました。
 彼女は、平役人を務めている下級武士の家の娘。名を、日之元秋保といいました。
 いつしか秋保は、午後から夕方にかけて神社に来ては、春奈と他愛のない会話を交わすようになりました。

「ねえ、頬紅をつけてみた事ある? きっと春奈ちゃんなら、すごく素敵になるよ! あ、下町においしい西洋のお菓子の店が開店したのよ。今度一緒に食べましょうよ。 そうそう、この前お父様の職場で、月道を通ってイギリスからお客様が来たのよ。それでね‥‥」

 下らない、取り留めの無い会話。けれど、春奈にとってはとても大切で、とても楽しい時間でした。
 この時間が、いつまでも続いて欲しい。春奈はそう願いました。

 ですが、ある日。秋保に縁談の話が来ました。相手は秋保の父親の上司で、同じ年頃の若き剣士。
 将来も嘱望され、周囲は乗り気でした。が、秋保は乗り気ではありません。
「だって、こんなの恋じゃないですもの。やっぱり、夫となるべき男の人は、自分で見つけた好きな人であるべきよね。春奈ちゃんは、どう思う? だれか好きな男の子、いる?」
「え? わ、わたくしは、その‥‥」
「あはっ、真っ赤になっちゃって、かわいい♪」
「あ、秋保さん! からかわないで! んもう‥‥」
 春奈は、その時に悪魔のささやきを聞きました。
‥‥この縁談、破談になればいい。そうすれば、秋保といつまでも一緒にいられる。
 巫女である春奈にとって、あるまじき願いでした。しかし、この願いはかないました。

 しばらくして、春奈は知りました。
 秋保の縁談相手が、自殺したと。
 彼は真面目一辺倒な性格で、秋保のことを気に入るも、秋保から「私には、まだ婚姻は早すぎます」と断られたのです。
 それを聞いた相手は、ひどく落胆したものの、おとなしく手を引いたそうです。
 秋保の縁談が破談したのは、秋保の口から聞いて知っていました。春奈は口では「残念でしたね」と言っていたが、心の中では喜んでいました。
 しかし、そのすぐ後に自殺したと聞き、春奈は絶句し、激しく動揺しました。
「わたくしの、わたくしのせいなのですか? わたくしが、あんな事を願ったから‥‥!」
 春奈は悩み、悩む彼女の前に、もう一人の少女が現われました。
 その少女は、春奈にそっくりでした。

「それで、私、春奈ちゃんの様子がおかしいから、ちょっと変だなって思っていたんです。それで、昨日なんですけど、春奈ちゃんと会おうと夕方に神社の境内にある林に行ったら、そこに別の女の子の姿があったんです。
 お友達かなって最初は思いました。けれど、春奈ちゃんには私以外にお友達がいないって前に言ってたのを思い出して、怪しいなって思いました。で、こっそり近付くと‥‥その子、春奈ちゃんそっくりで、春奈ちゃんの周りをふわふわ浮かぶようにして、まとわりついてました」
 ギルドの応接室にて、秋保は熱心に話していた。
「その子、あの青年が死んだのはお前のせいだとかいって、春奈ちゃんのことを責めてました。春奈ちゃん、泣きそうな顔で、『違います、わたくしはただ、秋保さんの側にいたかっただけ』って言っても、聞く耳もたなくて。それで私、怒って出て行って、その子に言ってやったんです。
『春奈ちゃんは、何も悪い事してないよ! 春奈ちゃんいじめたら、許さないからね!』って。
 そしたらその子、くっくって馬鹿にするように笑って、こう言ったんです。
『いいや、その子は悪い子だよ。なにせ巫女のくせに、お前の事を‥‥』
 そこまで言ったら、春奈ちゃん『やめてっ!』って叫んだから、何を言ったのか分からなくなっちゃったけど」
 思い出しつつ、秋保はその時の事を話し、伝えていた。
「とにかく、その子はにやにやしながら、そのまま消えちゃいました。一体何なのか、春奈ちゃんに聞こうと思ったんですけど。春奈ちゃんはそのまま神社の奥の、春奈ちゃんたちが普段住んでる屋敷に消えちゃって、それ以来会ってもくれないんです。
 神社の神主さんや、下働きのおばあさんに聞いてみたら、最近春奈ちゃん、林で何者かと口論してるみたいだって聞きました。何があったのか、誰と話し合っているのか、春奈ちゃんはどうしても教えてくれないんです」
「きっと、あれは悪いお化けだと思います。お父様が言ってましたけど、悪い魔物にはそういう事をして、人の魂を取るのもいるとか。
 それで、明日から神主さん、とても重要な神事があって、どうしても神社を抜けなければならないそうなんです。神主さんがいてくれたから、神社のお屋敷にはあのお化けは出てこれなかったんでしょうけど、もしも神主さんがお留守になっちゃったら、きっとまた出てきます。
 お願いです。春奈ちゃんを助けるため、ギルドの皆さんのお力で、あのお化けをやっつけてください! これは、神主さんから預かったお金と、私のお小遣いを合わせたものです。足りなかったら、なんでもします! だから、お願いです! 春奈ちゃんを助けて!」

●今回の参加者

 ea0392 小鳥遊 美琴(29歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea1083 国定 悪三太(44歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ea8499 白 彌鷺(59歳・♀・僧侶・エルフ・華仙教大国)
 eb2719 南天 陣(63歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb2905 玄間 北斗(29歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb3402 西天 聖(30歳・♀・侍・ジャイアント・ジャパン)

●リプレイ本文

「秋保さん。それでは‥‥縁談相手は全く、自殺するような動機は無かったんですね?」
 白彌鷺(ea8499)の言葉に、秋保はうなずいた。
「ええ、白さん。確かに、最初は落ち込んでいたようです。けど、一晩寝たら、次に用意されていたお見合いの準備をし始めた‥‥と、父から聞きました」
「じゃあ、秋保さんが破談にしたから、彼が死んだとは考えられないですね」
「そうなんですよ。今更私との縁談が破談になったからと言って、死ぬような理由になるとは思えなくて」
「‥‥となると、小鳥遊さんと南天さんは、無駄足になる可能性が高いですね」

「日記も、書付も‥・・怪しいところは無しか」
 縁談相手の屋敷、ないしは彼の部屋に忍び込み、小鳥遊美琴(ea0392)は家捜ししていた。
「『‥‥すぐにまた、次の縁談。相手にふさわしい男になるべく、本日、剣の修行をいつも以上に努力する所存』‥‥前向きだね。少なくとも、自殺する人間の日記ではないな」
 新たな見合いが決まっており、秋保に振られた事を根に持っている様子は無い。だとしたら、一体どういう事なのか?
「どなた?」
 気配を察した女中が、部屋に入ってきた。
 が、既に小鳥遊は、屋敷の外へと姿を消していた。

「南天、どうだった?」
 屋敷から出てきた南天陣(eb2719)に、小鳥遊は合流した。
「いや、だめだった。遺族に話を聞いたが‥‥自殺した理由は分からなかったよ」
「死んだ時の状況は?」
「彼は、夜中に庭で剣術の練習をしていた。数日後には新たな見合いだから、もっと鍛えなければ‥・・と言い残してね。で、朝になって女中さんが、彼が真剣で自分の腹を貫いているのを見つけたとの事だ。ただ‥‥」
「?」
「ただ、夜中に歌声らしきものが聞こえたような気がした、というのだが」
「ま、ここではこれ以上の情報は得られなさそうだね。戻ろう」

「こちらも、進展は無しじゃったよ」
 大柄なジャイアント族の女傑、西天聖(eb3402)が、神社周囲の探索から戻ってきた。
「神社に封印されていたモノが逃げ出したかとも思ったんじゃが、どうやら見当外れじゃったな」
「縁談相手も、自殺するような様子はなかった。調べたが、自殺する理由も見つからなかったし」小鳥遊とともに戻ってきた南天が、白に報告していた。
「では、誰かが殺したという事ですか?」と、白。
「そうだね。春奈ちゃんを陥れるため、何者かが仕組んだに違いないよ。春奈ちゃんに、罪の意識を植え付けるためにね」と、小鳥遊。
「さらに推測するに、春奈さんそっくりのお化け。おそらくそれが、犯人でしょうね」
「ああ、間違いはないのだ」
 白は、戻ってきた玄間北斗(eb2905)を迎え入れた。
「そちらは、どうだったの?」
「ジーザス教の教会に赴き、聖職者殿に話を聞いてきたのだ。以前にも、この界隈に出現しているらしいのだな。今度こそ‥‥逃がさないのだ!」
 いつもは悠然としている彼だが、今は、怒りを滲ませた口調と表情を浮かべていた。
「そういえば、秋保さんはどこなのだ?」

「春奈ちゃん! 話を聞いて!」
「嫌です! 帰って! 帰って下さい!」
 春奈の部屋の、障子の前。秋保は、国定悪三太(ea1083)とともに、障子を開けて部屋に入り込んだ。
「春奈ちゃん、私ね、冒険者さんたちにお願いして、こないだのお化けを退治してもらう事になったの。だから安心して、ね?」
 秋保の言葉を聞いても、春奈は視線を逸らし、秋保の顔を見ようともしない。
「秋保殿、ここは拙者に‥‥」
 秋保に入れ替わり、国定が秋保の前に進み出て、畳の上に腰を下ろした。
「拙者は、国定悪三太と申します。さて、春奈殿。少々、お話をしたい」柔らかい物腰と口調で、彼は語りかけた。
「まず、貴殿は何を悩んでおられる? 友人の縁談相手に嫉妬する、そのような願いは誰もが持つもの。今回の不幸はそれが原因と考えておられる様子だが、貴殿が巫女とはいえ、そこまでの呪文も有していないと聞きます。故に、呪う事は不可能です」
「で、ですが‥‥」国定の口より正論を聞かされるも、春奈はおずおずと反論した。
「わたくしは、巫女。巫女たるもの、たとえ気の迷いがあろうとも、他者の不幸を願うなどと‥‥」
「貴殿は、ただ嫉妬していただけ。たまたまそれが、今回の縁談相手の自殺が重なったゆえ、不幸の願いが成就されたと思い込んでいるだけではないのですか?」
「それは‥‥そんな‥‥事は‥‥」
「拙者の仲間達の調査では、縁談相手は自殺したのではなく、自殺に見せかけられ、殺された可能性が高いとの事。つまりここから、二つの仮説が導き出されます。‥‥秋保殿。それらが何か、分かりますか?」
「え? ううん、わかりません」
「一つは、あなたの見合い相手は、何者かに殺されたという事。もちろん、春奈殿以外の何者かにね。そも、春奈殿は秋保殿の見合い相手の顔はおろか、名前すら存じていないはず。若輩者の巫女が、名も顔も知らぬ相手を呪い殺す。そのような事が、可能ですか?そして、もう一つ」
 国定は、今度は春奈に向き合った。
「生きている人間に不善をなした存在すなど言語道断であり、そのような物は何者であろうとも悪。神に仕えるべき巫女が、そのような悪に惑わされるのは未熟な証です」
「で、ですが、わたくしは巫女として、未熟なままでは‥‥」
 その言葉を聞き、春奈は声を荒げた。が、それをさえぎるかのように、国定の口調は厳しくなった。
「そのような事を言っているようでは、まだまだですね。 自分の都合のため、他人の不幸を願ってしまうことは誰にでもある事‥‥違いますか?」
「な、ならばなおの事! なおの事、巫女が他人の不幸を願うなど‥‥願うなどと‥‥」
「そして、後悔するのは良いが、その為に罪悪感を覚え、自分や周囲の人を悩ませるのは、なおの事バカげています。現にこうして、親友の秋保さんを困らせているじゃないですか。
 悩むな、罪悪感を覚えるな、とは申しません。ですが、未熟である事を自覚なさっているのなら、すべき事は分かっているのでは?」
「‥‥‥‥」
「貴殿には罪は無い。貴殿には呪い殺すほどの実力も無く、それを行う事もまだ出来ない。となると、罪悪感を覚える事も無いわけです。落ち込んでいる暇があったら、貴殿の意志で、悪の存在をきっぱり決別する事を行うべきではないですか?
 神も仏もございません。最後に自分を救うのは、他ならぬ自分自身の意志でございますよ」
「わたくしの‥‥意志?」
「そうだよ、春奈ちゃん。春奈ちゃんならきっとできるよ! 春奈ちゃん強いもの!」
 国定と秋保の言葉に、春奈は無言で見つめ返した。

 午後。春奈は、神社の林の中。いつも秋保と一緒に語らう場所に座っていた。その足元には、黒い影が落ちている。
 離れた場所から、秋保は見守っていた。
「春奈ちゃん‥‥」
「大丈夫、彼女は必ず、拙者たちが護って見せますよ」
 秋保の後ろから、国定が声をかける。
 が、途端に彼は、表情をこわばらせた。
『‥‥まだ、認めないの?‥‥春奈、悪い子。とっても、悪い子‥』
 虚空から現われたかのように、少女が、春奈の顔をした少女が、春奈の前に現われた。
 思わず秋保は声をあげそうになったが、国定に止められた。
 確かにそっくりだ。少女を見て、国定は思った。彼がいるところからでも、少女の顔は春奈のそれと生き写し。が、肌は青白い死人の肌で、生気など全く感じられない。眼差しは穏やかながらも禍々しく、首からは縄らしきものが下がっていた。
『辛いよ、苦しいよ? そんな悩みもったまま、いつまでそこで、苦しい気持ちを味わうの? 女の子なら、素直が一番。一言言えば、楽になるよ。魂あげると、一言ね‥‥』
 ふわりとした動きで少女は、諭すように、嘲るように、座っている春奈に近付く。
「わ、わたくしは‥‥‥!」
 春奈は驚き、おののいている。
『さあさ、早く、魂、頂戴』
「いやです! あなたに魂など、わたしません!」
「かわりに、これをくれてやるのだ!」
 その声と言葉に、少女は怪訝な顔をした。
 近くの木の上から、手裏剣が投げつけられた。それは少女の頬を切り裂く。玄間の放った八握剣だ。
 少女は後方へと逃れるが、新たに現われた者たちが退路を絶った。
「ふん、魔物風情が心の隙をつき、春菜の魂も奪うつもりか! 知っているぞ、お前さんの行いは調べさせてもらった!」
 刀と盾を携えた南天が、少女へと言い放った。
「春奈さん、良く言いました。そんな魔物など、あなたの意志で跳ね返しておしまいなさい!‥‥お前の正体見たり! 悪魔、縊鬼!」
 ディテクトアンデッドで敵の素性を知った白は、その名を声高に叫んだ。
「悪魔め、覚悟するのじゃな!」
 刀と短刀を二刀流で構えた西天が、南天とともに敵を見据える。
「これ以上、誰にも悪事を働けないようにしてあげるよ。春奈さん、早く向こうへ!」
 春奈をかばい、小鳥遊は縊鬼に身構えた。
 春奈と秋保は、国定とともに逃げた。しかし、縊鬼は動じない。
『くっくっく‥‥‥‥』
 南天、西天、小鳥遊、白に四方を囲まれているのに、縊鬼は慌てる様子は見せていなかった。むしろ、馬鹿にした薄ら笑いさえ浮かべている。
「貴様、今まで何人の魂を奪ったのだ! そうやって、魅織さんの魂も奪い取ったのか!?」
 玄間は未解決の事件を思い出しつつ、縊鬼に吼えた。以前に参加の登録したものの、人数が揃わず、手遅れになってしまった依頼。依頼主とその少女は、死体で発見されるという結果に終わった。
 その犯人は笑顔を浮かべ、玄間に答えた。
『自分が今まで手にした魂を、いちいち覚えているとでも? 私は、それほど几帳面じゃなくてね』
 その言葉に、冒険者達は全員が激怒した。
「許さんのぢゃ! 切り捨ててくれる!」西天が、手の武器で一撃を食らわそうと突進した。
 しかし縊鬼の喉から、心をとろかす美声が発せられた。

『刃物は怖い、怒るの怖い、怖い人たち、武器武具捨てて。
 怖い武器など、脇へと捨てて、戦う気持ちも、とっとと捨てて』

「!」
「こ、これは!」
 その言葉に、従うつもりはない。なのに、なぜか従いたくなる。
「な、なぜじゃ‥‥やつと‥‥戦いたくない」
 西天の両手から、オーラパワーを付与した剣が落ちた。そのまま、地面に膝をつく。
「そんな‥‥歌に‥‥惑わされないのだ!」
 意思で呪文の効果を封じた玄間は、背嚢から取り出した八握剣を投擲した。それは縊鬼に命中し、肌を深く切り裂いた。
「!」
 歌声の詠唱が途切れ、「メロディー」の呪文は破られた。
「うおおっ!」
 怒りと共に南天が、剣で切りかかった。
『‥‥心、かき乱れよ。「コンフュージョン」‥‥』それらに対し縊鬼は、口の中で何事かをつぶやく。
「受けてみよ、我が追風斬!」
「我が言葉、枷となりて其を縛れ!『コアギュレイト』!」
 が、縊鬼に南天の剣と白の呪文が襲い掛かる直前、悪魔は別の呪文を唱え終わっていた。
「なっ‥‥動けない!」
「これは!?」
 西天は、目を見張った。白はコアギュレイトの呪文を、南天へとかけてしまったのだ。
「白殿、なぜだ!」
「ち、違う! 悪魔め、なんと破廉恥な‥‥!」
 縊鬼が高速詠唱でかけたコンフュージョンの呪文は、白を混乱させた。目コアギュレイトの呪文を、白の敵でなく味方へと、すなわち南天へとかけさせたのだ。
 悪魔はそのまま西天より逃れ、滑る様に逃げた。
「逃がさないのじゃ!」
 縊鬼は林の中を逃げ、西天がそれを追う。
 西天が追いつく直前。彼女もまた縊鬼の術中にはまった。
「なっ、これは!」
 足元の影から、足が離れない。縊鬼の「シャドウバインディング」にはまってしまったのだ。
 馬鹿にした表情を浮かべる悪魔。が、その後ろから玄間が躍り出た。
「逃がさないと言ったはずなのだ!」
 八方へと広がる刃をきらめかせ、玄間は悪魔へ切りかかった。
 呪文を唱える暇も与えない。矢継ぎ早に放たれる攻撃の前に、縊鬼は防御するのみ。
 逃げようと後退するが、後方には小鳥遊が先回りしていた。
「はっ!」
 彼の武器は、魔力を秘めた桃の木の木刀。殴りつけられ、少女の悪魔は苦悶の表情を浮かべた。その隙を、玄間は見逃さない。
「とあーっ!」
 その喉元に、八握剣を深く食い込ませる。魔を断つ刃に、縊鬼は叫びにならぬ叫びをあげていた。
「これで止めを!」
「心の傷に付け込む悪行‥‥、おいらは決して許せないのだ!」
 西天が放った刀を受け取り、玄間は悪魔の、縊鬼の首を切断した。
 少女の姿をした魔物は、そのまま倒れ、おぞましい形相とともに滅していった。

「わたくしは‥‥あ、秋保さんが、好きです!」
「私も、春奈ちゃん好きだよ?」
「ち、違います! ‥‥友達として以上に、その‥‥愛しい人として、‥‥好き、なんです‥‥」
 赤面している春奈へ、秋保は微笑んだ。
「春奈ちゃん、嬉しいよ。けど、それって一番の『好き』なのかな?」
「え?」
「あのね、昔、親戚のお姉さんから教えてもらったの。『たくさんの人と、お友達におなりなさい。「好き」って気持ちがいっぱい増えるわ』って。それで『その中で一番の「好き」が、恋人の「好き」よ』って。
 それからなの。私が、友達をいっぱい作ろうって決めたのは。それで、春奈ちゃんともこうやって出会えたんだしね。春奈ちゃんも、もっと色々な人と知り合って、色々な『好き』を知ってからでも、遅くないんじゃないかな?」
 こくり。
 恥ずかしそうに、春奈はうなずいた。
 場を外しつつ、それを聞いていた国定は、満足そうに微笑した。

「深刻に考えちゃうのは、いつも閉じこもってるから‥‥かもって思います」
 戻ってきた小鳥遊が、春奈に言った。
 白が、優しく語り掛ける。
「あなたの救いは、この手にあったのよ。秋保さんの、この手にね。春奈さん、良いお友達を持ったわね」
「は、はい‥‥」白の言葉に、頬を染めつつ春奈はうなずいた。
「貴女の次は、秋保殿が狙われたかもしれんな。気合が大事だよ。春奈殿に気合さえあれば、あんな化物なんぞ、何匹来たところで大丈夫だ!」南天が請合う。
「しかし、無事でよかったが、一人は寂しいの‥‥私とも友達になって欲しいのじゃ」西天の言葉に驚いた春奈だが、微笑み、答えた。
「はい、わたくしでよろしければ」
「私も、西天さんやみんなと友達になりたいです!」
 秋保の言葉に、玄間も微笑み、そして思った。
「仇はとったのだ。魅織さん、ゆっくり眠って欲しいのだ」

 春奈は、たびたび下町に出向くようになった。
 時間を作り、できるだけ下町と、そこに住む人々と語り合い、ともに笑い、泣き、喜びを分かち合う事を心がけた。
 秋保とともに、過ごす巫女。
 多くの友人に囲まれた春奈の顔からは、幸せそうな微笑が絶えることは無かったという。