宝に殺された男
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■ショートシナリオ
担当:塩田多弾砲
対応レベル:2〜6lv
難易度:普通
成功報酬:2 G 24 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:08月22日〜08月28日
リプレイ公開日:2005年08月30日
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●オープニング
彼は、西洋の珍しい宝物を集める事が趣味だった。
地主である彼は、莫大な富を持つ大金持ちの村長となって、村とその近隣を支配していた。
と言っても、彼は概ね平和的に村や土地、その他周辺を治めてはいた。西洋の宝物を集めるために大金をつぎ込む事以外、欠点らしい悪癖は無かった。
西洋の鎧や兜、剣や武器、西洋の宝石や細工物、置物や像などなど、彼の宝物は増えていった。
が、この唯一の悪癖が、後に彼の命を奪う事になるとは、彼も予想できなかっただろう。
赤早藤兵衛は、心配だった。
宝物を集める事はいい。問題は、ため込んだ宝をどこに隠すかという事。
その事に関しては、色々と考えを巡らしていた。
蔵に鍵をかけておいても、鍵を破れば中に入られてしまう。
どこかの洞窟に持っていったところで、盗賊や誰かが聞きつけたら、押しかけて奪い取るに違いない。
どうすればいい? そうだ、盗ろうとする者を恐れさせるようなところに、置いておこう。怖がって、最初から誰も近付きそうにもないところ。
そこに宝物を貯めておけば、自分から盗もうなどとまず思いつかないだろう。
候補地は、すぐに見つかった。
一日歩いた場所にある、小さな銅山跡。かつてそこには銅の鉱脈があったが、あまり量が取れず、すぐに閉山し、廃坑となっていた。それとともに村もさびれ、今では誰も住む者はいない。
盗賊の集団がねぐらとして利用するのにぴったりではあったが、盗賊もそこには近付かないようだった。なぜなら、化物が出るともっぱらの噂だったからだ。
かくして赤早は、口の聞けない男と、読み書きのできない男をやとった。二人とも、力は強いが少々頭が弱く、金を払うと申し出たら喜んで引き受けてくれた。かくして赤早はたっぷり金を払い、宝物をそこに運び込んだ。
そして、宝物を全て運び終え、彼はようやく安堵した。二人の男も、酒の飲みすぎと持病で死んだと聞き、なおの事宝の事を知るものはいなくなったと、彼は更に安堵した。
が、しばらく経ったある時。
彼はまた、値打ちものを手に入れた。
ノルマンで作られたものらしい、亀の像。手足は金で、甲羅は水晶で作られた、それはそれは見事な像であった。赤早が心奪われるのに、そう時間はかからなかった。
江戸の大きな骨董商の店にてそれをみつけた赤早は、大金を支払ってそれを購入してしまった。
そして次には、取られまいと心配になり、彼は亀の像を件の隠し場所へと持っていった。
赤早は、右腕の蒼野桂一郎に「宝物を隠しに、隠し場所へと行ってくる」と言い残し、そのまま廃坑へと向かった。
それが、赤早を見た最後だった。
「あいつは、俺の親友だった。困った奴だが、妙に憎めなくてな。この俺に、すべての土地や財産の管理をやらせてくれたよ。もっとも、面倒な事を押し付けただけなのかもしれないがな」
ギルドに来たのは、蒼野桂一郎本人。
一週間経っても、主人で親友の赤早が戻らなかったために、彼は一人で宝の隠し場所へと向かったのだ。赤早も、親友である蒼野にだけは、真相を打ち明けていた。
「しかし、廃村に行ってみたら、確かに廃坑の入り口で見つかったよ。あいつの、死体がな。
見たところ、外傷は無かった。が、心の臓が止まっていたから、間違いなく何かによって命を奪われたに違いない。
そして手には、小太刀が握られていた。守り刀として護身用に持っていたやつだ。襲われたときに、そいつを使って身を守ろうとしたんだろうな。件の水晶の亀の像は無かったから、何かに襲われたのは帰りがけだと思う。
周囲は暗くなっていて、何かが出そうな雰囲気だった。俺は松明を持っていたから、それで周囲に明かりを投げかけた。
きっと、怖かったための幻だったのかもしれんが、何かが村の廃屋や、廃坑の奥に漂っているのが見えた。ヒラヒラした、白っぽいものだ。はっきりと見たわけではないのだが‥‥。
ともかく、ものすごく嫌な予感がしたため、俺は恐れをなし、そのまま逃亡した。臆病者扱いしても、別に構わん。実際、その通りだったからな。
けれど、これだけは確実に言える。もしもあのまま、あそこに居たら‥‥俺も籐兵衛を殺した何かに殺されたに違いない」
彼は恐ろしげに、身体を震わせた。
「俺が殺したと、疑いをかけるのも無理らしかぬ事だな。だが言っておくが、籐兵衛の管財人になっていたのは俺だ。あいつを殺さずとも、金が欲しければいくらでも手に入る立場にある。
それに、もとより俺は宝なんかには興味はない。食うのに困らない金があり、仕事とちょっとした娯楽があれば、あとは何もいらん。食えるわけでもない、下らない西洋の宝物など俺には何の興味も無いからな」
そう言って、彼は本題に入った。
「俺の依頼は、親友を殺した何者かを退治する事だ。あいつは愚かな奴だったが、俺にとっては親友だった。親友の仇を取りたい。願いはそれだけだ」
何か情報はないかとたずねたが、彼はかぶりをふった。
「いや、特には。しかし、あそこに何かがいるのは確かだ。怪物や怪獣がいるにしても、山鬼のような血肉を持ったものではないかもしれん。山鬼なら、その場で食い殺すか、でなければ連れ去ってねぐらで食うかするものだ。仮に山鬼だとしても、どうやって外傷を残すことなく殺せるのか?
人間の物取りが、絞め殺したのかとも思った。が、籐兵衛の高価な着物や、持っていた高価な道具や持ち物、財布には一切手がつけられていなかった。
獣なら、噛み付いて殺すだろう。なのに、噛み傷や爪の傷のたぐいは全く見られなかった。
となると、人や山鬼や、獣以外の何かが、殺したって事になる」
引き受けるにしても、残された西洋の宝物はどうするのか。
「ああ、この件が片付いたら、処分してしまいたい。あんながらくたが、あいつを殺したんだ。だから金に換えて、一刻も早く消してしまいたいよ。
その金で何をするかって? 村に診療所や寺子屋を建てる予定だ。ジーザス教の坊さんたちからも、村に教会や孤児院を建てるための資金を援助して欲しいと言われてるしな。少なくとも、金を必要としている奴らは、村や村の内外にいる。そいつらに全て使うつもりだ。あと‥‥」
彼は、付け加えた。
「もしも、あのがらくたの中に、何かあんたたち冒険者が役に立ちそうなものがあるのなら、おまけで一個づつ持っていってかまわんよ。少なくとも武器や鎧などは、あんたらみたいに、実際に使う人間の手にあってこそ役立つものだ。西洋の武具だから、少々勝手が違うかもしれないがね。どうだ? 悪い話ではないだろう?」
●リプレイ本文
「ああ、奴さんの死因が絞殺だと、なんで分かったかって? 俺は昔、医学を学んだ事があってな。ちょっと調べてみたら、どういう死に方をしたかくらいはわかる」
冒険者達が蒼野へ、質問をぶつけている。が、それらに対し、蒼野はすらすらと答えていた。
「医学を修めておけば、万が一にも食いっぱぐれはしないし、身内にけが人や病人がでたところで、安心だからな。ま、医師になっても良かったんだが、医学をほぼ修めたところで、籐兵衛に呼ばれ、管財人になったわけだ」
「絞め殺された、と言いましたよね。籐兵衛さんの遺体に、そのような跡が残っていたのでしょうか?」
璃白鳳(eb1743)が、疑問に思っていた事をたずねた。
「それが妙なのだ。奴の死に顔は、絞め殺された時のそれとほぼ同じなのだ。で、首に絞殺の痕が無いかと調べてみたが、何もなかった。もう少し調べてみれば、死因がはっきりしたかもしれん」
「‥‥蒼野殿、廃坑の方も聞いておきたいのだが」
風斬乱(ea7394)の言葉にも、蒼野はよどみなく答えた。
「もとは、銅の鉱山という事は話したな? あそこで誰か死んだとか、何か変わった事が起きてないかを聞きたいのなら、期待に副えないな。
銅が採れたことは採れたのだが、持ち主はすぐに閉山を決めた。と言うのも、三年ほどで銅が枯れ、ほとんど採れなくなってしまったのだよ。それと、もう一つ‥‥。坑道を掘り進んだら、地下水が出て、落盤事故が多く発生したそうだ。そのために、銅を掘り当てるより落盤の危険にぶち当たる事の方が多いだろうと判断し、引き払ってしまった。これは、去年に老衰で亡くなった持ち主の爺さまから直接聞いた事だ。
で、その後に籐兵衛がやってきて、宝物の隠し場所にしたというわけだ」
幽霊が出る話を期待していた理瞳(eb2488)だが、依頼人の言葉にがっくりした。
「じゃあ、もし犯人が幽霊だとしたら、銅山で採掘してる時に出たとしてもおかしくないわけだね」
蒼野の言葉に、真神美鈴(ea3567)が頷く。
「そういう事だ。少なくとも、自分や籐兵衛が知っている限りでは、あの場所で誰かが死んだという話は、耳にした事がない」
「けど、今回の事件で、人を殺す何かがいるって事ははっきりしたわけだよね。死霊じゃないとすると、一体なんだろう。ミリフィヲさん、ギルドで聞いたらなんだって言ってた?」
アゲハ・キサラギ(ea1011)は、ミリフィヲ・ヰリァーヱス(eb0943)の方に向き直って問いかけた。
「ギルドの方でも、心当たりはないみたい。わからないな‥‥。蒼野さん、発見した時の籐兵衛さんの遺体は、腐敗はしていなかったんですか?」
「いや、そこまで腐敗は進んでいない。だからこそ、絞殺の痕が無いと判断できたのだ。ともかく、宝を運び出す人手とともに、近くまではご一緒しよう。だから、宿泊の心配はしなくとも構わぬよ」
廃坑がある村。そこは、寂れきった廃墟だった。
冒険者達は、皆が警戒しつつ、周囲を見回していた。ただ一人、理のみが、ぞくぞくする感覚を楽しんでいるかのように目を細めている。
蒼野は、数人の人手とともに、この村のすぐ近く‥‥と言っても、馬で半日ほどの距離だが‥‥にある、小さな宿場町に泊まっている。
六人の冒険者達は、自前の馬に、もしくは蒼野から借りた馬に乗って、現場である廃坑のある村にたどり着いたところである。
村の入り口近くに馬をつなぎ、彼らは村へと一歩足を入れた。
「村は、中心に一本道があり、それを突っ切っていくと廃坑の入り口に突き当たる。籐兵衛殿は、廃坑の手前で倒れていた、との事だったな」
風斬が、村の先にある鉱山を指差した。
「ええ。野生の動物が漁っていないのなら、まだ遺体が残っているはず。とりあえずは、籐兵衛さんの遺体を確認しましょう」
璃が、風斬の後ろに付き言った。
隊列を組み、村の中を進む。周囲を見たところで、怪しいものは何も無い。
朝早くに蒼野の民宿から出発したため、到着した現在は正午のはず。太陽も燦々と照っており、サンレーザーの呪文も効果を発揮する、はずだ。
なのに、アゲハは不安であった。村全体、特に廃坑に近付くにつれ、何か嫌な予感がする。
「ねえ、あれ!」真神が、何かを見つけた。全員に緊張が走る。
彼女が指差した先には、白っぽくひらひらしたものが漂っていた。
「‥‥落ち着いて。あれはただの布だよ」
ミリフィヲが指摘した。かつての村人が残したものだろう、長く白っぽい布が、風に吹かれて漂っていた。
真神は恥ずかしそうに忍者刀を引いた。
理はすこぶる不満そうに、鼻息を荒くしつつ構えをといた。
「ここか、現場は」
籐兵衛の遺体は、そのまま残っていた。が、腐敗し始めており、腐臭が漂いウジが湧き始めている。
風斬、理、ミリフィヲ、アゲハが襲撃を警戒しつつ、真神と璃は籐兵衛の遺体とその周囲を検分していた。
「確かに、首筋には絞められた痕が無いね。見たところ、着物も破かれたあとがないし、外傷も見あたらない」真神は、死体を調べ始めた。
「足跡は‥‥二つ。どちらも草履を履いてる。ってことは、人間のものか」
「二つとも、かなり時間が経っています。これは‥‥籐兵衛さん自身のものと、蒼野さんのものでしょうね。それ以外の足跡らしきものは‥‥」璃が、真神とともに周囲を調べる。
「‥‥見当たらない。足跡は既に消えたか、あるいは犯人は足跡を残さないで殺したのか?」
真神は、籐兵衛の刀に注目した。
「良い刀だ。まだ、錆びてはいない‥‥まてよ、血痕が無い? どういうことだ?」
いくら籐兵衛の腕が劣っていたとしても、刀を持っているのだ。
犯人は絞め殺す時に、籐兵衛に切りつけられる機会はいくらでもある。
なのに、血痕が全く無い。つまり、相手は血を流さないのか、もしくは、刀での攻撃が効かない相手なのか?
無論、斬りつける前に絞め落とされ、死んだという事も考えられる。しかし、相手は首ではなく、胴体を締め付けたのだ。意識を失う前に、一太刀を浴びせるくらいは出来るはず。となると、刀で切りつけても効果が無い相手、ということになる。
足跡を残さず、敵を締め付けて殺す。刀の攻撃が効かない。
自分の刀を握り締め、真神はその犯人像に一致する相手が何かを考えた。
「そうか! わかった!」
「真神さん、私も犯人の見当がつきました。おそらく、籐兵衛さんを殺したのは‥‥」
「‥‥アレ」
璃の言葉が終わらぬうち、理が指差した。
そこには、真神の推理に違わぬ存在が、出現していた。
空中を、ひらひらした細長い布きれめいたものが、まるで水中を泳ぐ蛇のように漂い舞っている。とらえどころの無いその動きを見極めるのは、少々厄介だ。
「どうやら、キミらが犯人のようだね!?」
アゲハが、不敵に睨み付けた。風斬が無言で刀を構え、ミリフィヲもまた、槍を構える。
「ボクの思ったとおりだ! 一反妖怪!」
白い怪物は、真神の推理を嘲るかのように、ひらひらと舞い踊った。
白い怪物は、一匹だけではない。二・三匹が絡まり、蛇のようにのたくる。その動きは、生ある存在を侮蔑し嘲笑しているかのような苛立ちを喚起させるものだった。
冒険者達は、六人で背中合わせになり、円陣を組んだ。これで、誰かが後ろから襲われるという事は無い。
アゲハと璃は、口の中で呪文を詠唱している。
値踏みするかのように、冒険者達の周囲をぐるぐると回っていた一反妖怪は、だしぬけに襲い掛かってきた。一匹がアゲハへ、もう一匹は璃へと、一直線に突撃する。
が、アゲハはそれを狙っていた。
「陽の光よ、我が掌に集え!『サンレーザー』!」
彼女の手のひらから放たれた光、魔力の込められた光が、一反妖怪の一匹に炸裂した。
奇妙な苦悶ののたうちまわりを空中で見せた怪物は、そのまま地面に落ちた。浄化するかのようにくすぶり、次第にそれは動かなくなった。
「其が狙うは、我に迫る一反妖怪!『ムーンアロー』!」
エルフの僧侶が放った魔法の矢も、違わず怪物へと命中する。そいつは痛手を受け、地面に落ちたものの、そこまでだった。
健在である事を知らしめるように、くねりつつ冒険者達に向かっていく。
風斬が無言で、その白くおぞましい化物へと刃を突き立てた。が、痛手を受けた様子は見せない。剣を突き刺したところで、全く堪えないのだ。
持ち直した一反妖怪は、そのまま鎌首をもたげるようにして持ち上がると、近くの理に襲い掛かった。
「!」
しかし、理は焦る様子を見せない。周囲を囲まれ、撒きつかれようとしているのに、彼女の瞳は生き生きとした光を帯びていた。危険と戯れていると実感するだけで、彼女の心にぞくぞくするものが満たされていく。
「癖ニナリソウデス」
怪物が胴体に巻きつき締め上げる寸前、彼女は手に握った八握剣、不死を切り裂く魔力を込めた手裏剣を一閃させた。
風斬と異なり、彼女の振るった刃の前に、一反妖怪は切り裂かれた。ぼろ布のように、怪物の身体は引き裂かれていく。
悲鳴の変わりに、のたうちまわり悶絶し、一反妖怪は切り刻まれ、痙攣する事で声なき断末魔の悲鳴をあげた。やがて、二匹目も沈黙した。
「残りの一匹は?」
ミリフィヲは、そいつが坑道の中に逃げ込んでいくのを見た。
風斬とミリフィヲが持つ松明と、アゲハが持つ銀の短剣、ないしはその先端に灯した魔法の光を頼りに、冒険者達は坑道内を進んだ。
内部には、かなり湿気が充満していた。じめじめして、不快感が闇とともにその場にいる者を苛む。
ひび割れた壁からは、地下水が湧き出ていた。
「危ない!」
真神の言葉に、先頭の理がひょいっと後ろに飛んだ。天井が崩れ、岩が振ってきたのだ。
幸いにも、落盤は小さなものだった。しかし、この様子ではいつ崩れるかわからない。
冒険者達は、頭上に注意しつつ先を急ぎ‥‥やがて、ある部屋に突き当たった。
「ここは‥‥」
閉じられた扉を開くと、そこには様々な宝物がぎっしり詰め込まれていた。籐兵衛の宝物庫に間違いない。
が、冒険者達は、かなりの失望を味わう事になった。
部屋には地下水が流れ込み、水浸しになっていた。それだけでなく、天井や壁の岩が崩れ、数多くの壊れやすい宝物を潰し、壊し、台無しにしていた。
「どうやら、武器はもらえそうにないな。あの盾なんか、道化の絵が描かれてきれいだったろうに」
真神の指差した先には、大岩が、その下からは潰された鎧や盾の成れの果てが見えた。
いや、潰されていなかったとしても、無事ではすまなかっただろう。武器や武具の類は、金属部がぼろぼろに錆付き、すでに使い物にならないものばかりだった。
「湧いた地下水が落盤を起こし、岩と湿気で宝物をだめにしちゃったのか‥‥ん?」
真神の視線の先から、白いものがだしぬけに出現した。一反妖怪だ!
理が身構えるも、そいつは理から一番離れている、ミリフィヲとアゲハに向かっていった。
「このおっ!」
アゲハの銀の刃が、怪物の身体を切り裂く。それとともに、ミリフィヲは松明の炎を押し付けた。
痛手を受けた一反妖怪は、激しく暴れまわり、その拍子に、小さな小岩を跳ね飛ばした。
「! みんな、逃げて!」
真神の言葉が飛ぶ。
怪物が痛みとともに跳ね飛ばした小岩は、中くらいの岩を動かした。それは絶妙なバランスで大きな岩を支えており、大きな岩はさらに巨大な岩を支えていた。
巨大な岩が崩れ落ちると同時に、振動が起こった。その振動は、地響きがごとく鳴り響き、宝物庫全体を埋もれさせる落盤を起こした。
次々に落ちてくる岩をさばききれず、一反妖怪は岩に埋まっていった。先刻の攻撃の傷で死ぬだろう。たとえ死ななかったとしても、この状態では出られまい。
が、冒険者達はその運命を受け入れるつもりはなかった。脱兎のごとく、坑道を走りぬけ‥‥彼らは再び、太陽の姿を見ることに成功した。
「ふむ、そうだったのか。そいつが、奴さんを絞め殺したんだな。それなら合点がいく」
蒼野が、冒険者達より事情を聞いていた。坑道に出た後、彼らは周囲を捜索し、何も危険が無い事を確認した。そして、藤兵衛の遺体を運ぶため、馬で蒼野たちを呼んだ。
「それで、宝物庫の事なんですが‥‥」アゲハとミリフィヲが、おずおずとした口調で話す。
「いや、仕方ない。もともとあの坑道を宝物の隠し場所にする事自体、間違っていたんだろう。それよりあんたたちが無事で何よりだ。しかし‥‥」
蒼野は、すまなそうな顔で、冒険者達に頭を下げた。
「こちらこそ、すまないな。武器を与えるという約束を、破ってしまって」
「気にするな。俺は最初から、宝など必要ない。お前の目的に使ってもらおうと思っていた。むしろ、そのために宝を活用できなかった事の方が残念だ」
「モーニングスター、欲シカッタデス」風斬の言葉に続き、理はボソッとつぶやいた。
「だが‥‥」
「それに、寺子屋や教会を立てることは、宝がなくともできることです。どうか私にも、微力ながら手伝わせてください」と、璃。
「そ、それは構わぬが‥‥。約束の武器も与えず、手伝いまでさせるのは、あまりに‥‥」
「ま、いいんじゃない? 璃さんがやりたいって言ってるんだからさ。おっかない妖怪はやっつけて、籐兵衛さんの仇はとった。そしてみんな、こうやって無事に生き残った。それでいいじゃない」
真神の言葉が、その場を締めくくるように響いた。
ギルドに戻るまでに、璃は時間が許す限り、簡単な漢字やひらがな表を無地のスクロールに書き出し、蒼野に手渡した。
「教材として、使ってください」
その後、村々では寺子屋が立てられ、その教材として璃が作ったスクロールが活用された。
子供達は璃の教材から文字を学び、多くの者たちが学問の道に進んだと言う。