狂怖の村

■ショートシナリオ


担当:塩田多弾砲

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 62 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月20日〜09月25日

リプレイ公開日:2005年09月28日

●オープニング

 その村は、とても小さな村。
 周囲を山に囲まれ、畑も小さい。周囲の山間には獣や山菜なども採れたが、その収穫は決して豊かとは言えなかった。
 それでも村人達は、互いに食べ物を分け合い、平和に毎日を過ごしていた。

 そこに生まれた少年、六郎。とある一家の末っ子に生まれた彼は、この村で人生を終える事を良しとせず、江戸へと出て行った。
 家族に「いつかきっと、大物になって戻ってくる」。そう言い残し、彼は旅立った。

 十年後。六郎はとある道場を経営する武家、羽佐間家の婿養子となっていた。
 羽佐間家の一人娘、郁美の両親がジーザス教に入門したため、婿入りした時、六郎もまたジーザス教に入信した。そして、武術とともに全ての人々に平和と安らぎを与える事に、意味を見出しつつあった。
 やがて彼は師範代となり、武術指南、ジーザス教の勉強と布教、そして郁美の夫として、彼は毎日を忙しく過ごしていた。

 が、六郎は風の噂に、自分の故郷の事を耳にした。
 なんでも、数年前に村の周囲で飢饉が起きて、村ごと多くの人々が飢え死にしたと。
 毎日の忙しさにかまけ、故郷を省みる暇もなかった六郎であるが、それを聞いて不安になった。
 自分の故郷は大丈夫だろうか。それを思うと不安になり、久しぶりに訪ねたいと思った。
 両親に暇をもらい、彼は妻を連れ、故郷の村へと向かっていった。

 村に向かう途中で、数人の旅人と一緒になった。行き先が同じなために、呉越道中とばかりに同行する事にしたのだ。
 そして、六郎たちは村にたどり着いた。

 村は寂れているようだったが、人が住んでいた。
 そして皆は、六郎を歓迎し、酒と食べ物を勧められた。
 他の旅人たちは酒をがぶ飲みし、酔って良い気分になった。が、六郎はそれどころではなかった。
 郁美とともに、自分の両親を探しに行った。しかし、自分のかつての生家は崩れ落ち、家族の姿はなかった。
 村の共同墓地に行っても、そこには両親の墓すらなかったのだ。
 六郎は、自分の両親や兄弟がどうなったかを尋ねたが、「死んだ」とあっけなく返答された。
悲しみにくれる彼は、「せめて墓前で、死者に祈りたい」と申し出たところ、「その必要は無いです。お墓はありませんから」と返答してきた。
「この村の、みんなの心の中で生きているんです。ですから、心配は要りませんよ。あなたのご両親や兄弟は、みんなとてもおい‥‥いい人でしたから」
 太った村長のその言葉に、彼は訝しげなものを感じた。

 その晩。
 酒を断り、六郎と郁美は早々に床に付いた。しかし、二人とも眠れなかった。
「六郎さん、あなたには悪いんですけど‥‥この村、ちょっと好きになれないです」
 郁美の言葉に、六郎はうなずいた。
「実は、僕もだ。この村は、貧乏であっても、もっと‥‥健康的なとこがあったと覚えてたんだけど」
 あの村長も、十年前はやせてはいたが、もっと活動的で、生き生きとしたものを感じさせるような爽やかさがあった。
 しかし、今の彼は、どこか虚ろで不健康だ。太っているのに、青白い顔。喋りもどことなく、ほんのわずかにろれつが回らない。
 それだけでなく、村そのものが気に入らない。なぜかは分からないが、雰囲気が嫌なのだ。
 それに、なぜ村長はあんなに太っているのか。
 この村は、食べ物がろくに手に入らない。なのに、村長のみならず、村の皆がふっくらとしている。
 この村の周囲で飢饉が起き、村ごと餓死したところがあるのは間違いは無い。なのに、なぜかこの村では食べ物が行き届いているようだ。
 その事が気になって、さっき出された酒の肴にも手をつけなかった。
 肴は、川魚と野菜、そして何かの肉が出されていた。村人曰く、「山で取れた獣の肉」
が、それからはどうも嫌な感じを受けたのだ。
 ジーザス教に入信してから、野菜中心の食生活をしていたためだろう。だが、だからと言って調理された肉に、いわれのない嫌悪感を感じるものだろうか。
 郁美も、それが気になった
 
 やがてうとうとしかけた頃、悲鳴で二人とも目が覚めた。
 脇の刀を手に取り、外に出る。
 そこには、凄惨な状況が広がっていた。
 庭の中心では、村の人間達が集まり、何かを囲んでいた。そして、手に持った刃物を次々に振るっていた。
 刃物には、血が付いていた。
 そして、その中心には何かがいた。
 血みどろになったそれは、まだ原型を止めている。
 それは、切断された人間の身体。もっと言えば、六郎と同行した旅人達だった。
「さあ、やれ! やっちまえ! こいつらは外の世界で肥えまくっている。お前らが餓えて死にそうになってるってのにな! こいつらを、食え! 食って太れ!」
 村人達の中で村長が、狂気とともに声を荒げる。その肩には、小さな黒い犬を乗せていた。

「本当に恐ろしい光景でした。私も六郎さんも、あのままあそこにいたら同じ目にあわされていたでしょうね。神よ、私たち夫婦を救っていただき感謝します」
 話す事すら苦痛であるかのように、二人はギルドの応接室にて依頼内容を口にしていた。
「僕たちがその様子を見てると、村長たちはすぐに気づき、そして笑いかけました。『大丈夫、怖がることは無い。君はこの村の人間、君の奥さんもいっしょに、この村にまた帰依すればいい』と。
 一体何の事かと思ったら、村長は哀れな村人の身体から肉を一切れ切り取り、僕たちに差し出したんです。
『食べよ。そして我々とともに太ろうではないか』と。
 そして‥‥信じられないでしょうが、村長が肩に乗せていた小犬。それが喋ったのです。
『さあ、お前らもこいつらと一緒になるがいい。いい気分になるぞ』と」
「そこから先は、ほとんど覚えていません。私と六郎さんは、手にした小太刀を振るい、なんとか馬を奪って、そのまま全速力で駆け出しました。そして一昼夜かけて走りぬき、近くの村で助けられたんです」
「僕たちの依頼は、あの村‥‥村人全員が殺人鬼と化したあの村を、滅ぼす事です。
 介抱してくれた村人たちがいう事には、数年前の飢饉から、あの村の周辺には旅人が行方不明になるという噂が立っていたんです。なんでも、『村全員で旅人をもてなすが、酒で酔いつぶれたところで刃物でばらばらにして、その肉を村人たちで食う』と。まさか、本当だったとは」
「あの様子では、話し合いは通じないでしょうね。老婆はもちろん、小さな子供まで全員が、刃物を持って私たちを追い掛け回しました。村の人間全てが、狂気に飲まれてしまったとしか思えません」
「仮に狂気に飲まれたとはいえ、ジーザス教の教えには犯する事でしょう。ですが、あの村をあのまま放置しておくのは、あまりに心苦しく‥‥。おそらく村では、今日も知らずに近くを通りかかった村人達を襲っている事でしょう。僕の故郷を、これ以上人食いの人殺しの村にしたくはないんです」
「こちらに、お金を用意しました。罪である事は承知していますが、どうか夫の故郷を汚す行為を止めるべく、皆様のお力を貸してはくれないでしょうか?」

●今回の参加者

 ea2019 山野 田吾作(31歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb3155 七坐 慶太(35歳・♂・陰陽師・ジャイアント・ジャパン)
 eb3386 ミア・シールリッヒ(29歳・♀・ジプシー・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb3582 鷹司 龍嗣(39歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

「これはこれは、遠いところをはるばると。お疲れでしょう? 今夜は泊まってください」
「では、世話になるでござるか」
 愛想よく笑う村長に警戒しつつ、山野田吾作(ea2019)は彼の招きを受け入れた。彼に続き、仲間達も村へと入っていく。
 ここで、どのくらいの惨劇が起こったのだろう。それを想像し、山野は怖気を感じた。

 出発前に、冒険者達はすべき事をすませておいた。
 山野は依頼人の六郎より、ジーザス教の孤児院を紹介してもらっておいた。心を病んだ子供たちを、引き取り育ててもらうための施設。
 六郎を介し、もしも今回の事件で行くあての無い子供が出てきたら、そこに引き取ってもらえる約束を結んだ。‥‥もっとも、事件をうまく解決できるかはまだ分からないが。
「断っておくけど、私は村人の殲滅よりも、黒犬の退治を優先するわ」
ミア・シールリッヒ(eb3386)は、六郎・郁美の夫婦に断りを入れていた。
「確かに、人食いという非道に堕ちたわけだけど。けど、おそらくそれを誘ったのは黒犬。ならば、その犬を退治し、村人達は生きて自分たちの償わせるべきだと思うわ」
「しかし、村の皆は‥‥」六郎は、それ以上言葉が続かなかった。
「ともかく、迷っているようだから同行はしないで結構よ。あなたたちは、わたしたちが戻ってくるまで待っていて頂戴。これ以上、辛い思いをさせたくないしね」
 最後に、山野は六郎には村内外の地理を詳しく聞いておいた。
 村長の屋敷は、村の中央に。村人達は、旅人をそこに泊める。周囲は木々が囲み、東西の出入り口以外からは入りにくい、もしくは入れない。などなど。
 用意を整え、四人の冒険者は旅立った。

「四人しか揃わなかったのは、戦力的には厳しいが‥‥やるしかないな」
 陰陽師にして考古学者の鷹司龍嗣(eb3582)が、小声で皆に告げた。
 夕刻、当初示し合わせた通りに、四人は旅人を装って村にたどり着いた。難儀しているふりをして、彼らは一晩の宿をと申し出たところ、村長が現われ、招かれたのだ。
 そして四人には、清潔な感じの広い部屋をあてがわれた。
「村長は、祝宴の準備をしているようぢゃ。間違いなく、酒を勧めて酔わせ、寝込みを襲うつもりぢゃろうな」
ジャイアント族の陰陽師、七坐慶太(eb3155)が、仲間の陰陽師に相槌を打った。
「じゃ、ここからは打ち合わせ通りに行きましょう。適当なところで切り上げて、早々に床につくように。夜中にこっそり出て、黒犬を探すってことで、いいわね?」
 ミアが、用心深く周囲に目を走らせつつ言った。

酒宴がすぐにお開きになり、村長は明らかに落胆していたのを、山野は見逃さなかった。
肴には、肉が出された。それが何の肉かは、聞かなかったし聞きたくも無かった。
ともかく、ミアや鷹司の「旅の疲れが出たために、早く休みたい」という言葉に対し、村人達が素直に応じてくれたのには内心安堵した。
 二人が引っ込み、一時間ほどして山野と七坐も「急ぎの旅ゆえ、自分たちも休ませて頂きたい」と申し出て、床についた。

 布団に包まり、寝たふりをする冒険者たち。
まだ夜中までは時間がある。ミアは、村人達の様子を見て疑問に思っていた。
 彼らは全くといって良いほど、狂気を感じさせなかったのだ。全ての村人が、親切で穏やかで、安堵を感じさせるものであった。
 老婆も、子供も、皆が親切に、優しい言葉をかけてくる。彼ら全てが、狂気に囚われているというのだろうか。
 いや、悩んだところで仕方がない。あの子供や老婆や女性らが、自分たちを食らおうとするならば、倒すまで。
 気を張り詰め、ミアは布団に包まった。

「起きなさい、時間よ」
 うとうとしていた鷹司は、ミアに揺り動かされて目を覚ました。
「七坐殿、どうだ? 何か聞こえるか?」
「何も‥‥待て! 足音だ!」
 山野の問いに、七坐が小声で答えた。ミアの耳にも、同じく足音が聞こえてくる。
「みんな、目を覆っておいて‥‥打ち合わせどおり、やるわよ」
 それにうなずいた三人は、武器を手にして待機した。
 山野と鷹司の耳にも、足音が聞こえてくる。それは、かなりの大人数らしい。
 ひそひそ話も響いてくる。腹が減った、早く食いたい、どこを食おうかといった内容の会話だ。声からして老婆や子供も混ざっているようだ。
 しかし、その声はどこかうつろで、正気が何かに遮られているような印象をも感じさせる。
 もしも‥‥。七坐は思った。
 もしも、正気が遮られているだけならば、なんとか正気に戻れるようにせねば。
 足音が止まった。
 ふすまががらりと開かれる。そこには、数十人の村人達の姿があった。
 後ろも、そして左右のふすまも開かれ、そこにもやはり村人の姿が認められた。
 が、彼らの眼差しは、尋常ではなかった。欲望にまみれたその目からは、異常な光を放っていたのだ。
 全ての村人達が、異様な何かにとりつかれている‥‥狂気を喚起させる、異様な何かに。
 そして村人達全員の手には、例外なく握られていた。鉈や鎌、鍬や鋤、包丁など、凶器となりうる刃物が。
「ばらせ! 殺せ! そして、食え!」
 後ろのほうから、声が聞こえてくる。それは村長のものに相違無さそうだ。
 彼らが襲い掛かるその刹那、ミアは呪文を唱え終わった。
「輝ける鎧、我が身を包め! 『ダズリングアーマー』!」
 強烈な光が、ミアの身体を鎧がごとくおおった。それは村人達の目を貫き、視力を奪った。
 呪文が発動する直前に目を覆った七坐、山野、鷹司ではあったが、それでも光は彼らをちかちかさせた。
 が、光を直視してしまった村人達は、その程度ではすまなかった。皆が皆、武器を放り出して両目を押さえ、悲鳴を上げつつうずくまったのだ。
 ミアはそのまま、外へと突撃した。集結している全ての村人達の視力を奪いつつ、中心と思われる方へと向かっていく。
 彼女の突撃を止めようと、数人の村人が立ちはだかった。が、まともにものを見られない状態で立ち向かうも、他の冒険者達が素手で、もしくは武器で殴りつける事で、無力化される結果に終わった。
 ミアの姿を見て、逃げる影があった。そしてその脇には、小さな黒犬の姿があった。

 ミアの身体の光が収まるも、追跡は収まりようもなかった。
 自分の屋敷から逃げた村長を追い、ミアは夜の村を走る。その横には、黒犬の姿があった。
「影よ、其の自由を奪い取れ!『シャドウバインディング』!」
 が、ミアの目の前で発動した七坐の呪文が、追跡劇に終止符を打った。足元の影に自由を奪われた村長は、そのまま倒れて動けない。
『ちっ、ボケが!』
 黒犬は毒づき、村長を尻目に逃げを打った。
「其が狙うは、人語を操る黒き犬! 『ムーンアロー』!」
しかし、光り輝く矢が犬に向かって放たれ、突き刺さった。鷹司の唱えたムーンアローだ。
『て、てめえらっ!』
「やはり貴様、悪魔‥‥邪魅ぢゃな!」
「人の弱みに付け込み、外道な行いへと誘いこんだその罪! 決して許さん!」
 七坐と山野が激昂する。が、黒犬‥‥邪魅は、冒険者たちの怒りの叫びをあざ笑った。
『弱みだと? 何か勘違いしてるんじゃあネエか? 村の人間どもはな、飢えに負けて、くたばった奴らの遺体を「自分から」食ってたんだぜ?』
「なに?」
『嘘じゃあねえさ。始めていたのは村長だ。てめえらの目の前で倒れてる、こいつさ。で、村の他の奴もにこっそり隠れて食っていたもんだから、俺はこいつからけしかけたのさ』
「‥‥自分から、人を食うことを選んだと? 畜生道に堕ちる事を?」と、鷹司。
『ああ、そうとも。逃がしちまったジーザス教徒のあいつは勘違いしてたみてえだが、俺は最後の一押しをしただけよ。ここは飢饉のため、みんなすでに狂っちまってたのさ』
「‥‥つまり、お前のせいだけではなく、村の人々は、すでに罪を犯していたと」
 邪魅は、四方を囲まれている。オーラパワーを付加した両の拳を握り締め、山野は邪魅を問い詰めた。
『そういうこった。ま、食人してねえ奴は、最初は抵抗があったらしいが、飢えには勝てネエからな。面白かったぜぇ‥‥母親が、泣きながら死んだてめえの乳飲み子を食ったとこはよ。最後は壊れて笑っちまってた、カッカッカッ‥‥がはあっ!』
 それ以上の言葉は、聞き取れなかった。怒り心頭した山野の拳が、邪魅へと襲い掛かったのだ。
 邪魅は、逃げられなかった。七坐がこっそりと、シャドウバインディングを唱えておいたのだ。
 反撃させる暇も与えず、邪魅は七坐の剣で首を跳ねられていた。
「ねえ、村長が!」
 ミアが仲間に声をかけた。足をとられ転んだ拍子に、村長は石に頭を打ち、絶命していたのだ。

 その後、村人全員を縛り上げ、酒‥‥夕べの宴に出された、睡眠薬入りのもの‥‥を飲ませ眠らせた冒険者たちは、村長の屋敷を家捜しし、今までの犠牲者の持ち物などを発見した。
 程なくして、村人たちは目を覚ました。が、ほとんど皆、全く意に介していない。人を殺し食ったことに対し、罪の意識を全く感じていなかった。
 四人は、彼らに対し何度も説得を試みたが、全くの無駄に終わっていた。子供達ですら、皆が「空腹になったら、人を食う。人も獣も同じ肉だ。それのどこがおかしい?」という言葉を、訂正しようともしなかったのだ。
 七坐は、スリープの呪文を、他の皆は、薬を入れた酒を村人に対して使うしかなかった。そして、眠っている隙に、冒険者達は依頼内容を遂行していくのだった。
 眠る人間の喉を掻っ切る行為が、これほどまでに後味の悪いものだとは。冒険者はその事を痛感していた。

「致し方、ありません」
 苦渋そのものといった顔付きで、六郎は事後報告を受けた。
「全ての人々が、怖ろしい狂気に囚われていたのなら、二度と今後はそれを起こさないようにすべき。この事を、自分は胸に秘めていきたく思います」

 六郎の故郷。今はもう、誰もいない。