一本足の怪群

■ショートシナリオ


担当:塩田多弾砲

対応レベル:1〜4lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 0 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月03日〜02月08日

リプレイ公開日:2006年02月11日

●オープニング

 その村は、今は廃村ですが、かつては細工物や道具を作る事で有名でした。
 しかし、街道から外れていた事もあり、次第に人の交流も無くなっていきました。隣村まではそれほど遠くはないものの、だからと言ってすぐ近くにあるわけでもなく。
 したがって、寂れるのは時間の問題でありました。
 人がいなくなり、村の寺は隣村に移り、村はほとんどの家屋を残したままで放置されました。様々な道具もそのまま放置され、村には壊れた道具類が、さながら墓場に放置された死体のように散らかっていました。
 かれこれ、十年ほど昔の話です。

 さて、時は流れ、ちょっと前の出来事。
 小金を持った農家の娘が、莫大とは言わずとも結構な富を有した商人の若旦那に見初められ、婚姻を結ぶ事になりました。
 娘の名は、礼菜。若旦那は圭一郎と申しました。
 圭一郎は礼菜に贈り物として、自分の母親の形見である見事な内掛けを送りました。
 そして礼菜も圭一郎に、侍だった祖父の残した見事な日本刀を送りました。
 二人は互いに喜び、互いに愛し合いました。

 ところが、そのような二人に水を差す連中が現われました。この周辺を荒らしまわっている、盗賊の一団。死怨組と名乗っていた彼らは、一人一人は大した技量を持たないザコの集まりなれど、統率力と逃げ足の速さが、彼らを手ごわい盗賊団としていました。
 彼らは情け容赦なく、金目のものがあれば、相手が子供だろうが老人だろうがひったくり、自分のものにするという浅ましい盗賊でした。
 そして、彼らの貪欲な目は、圭一郎と礼菜の店に向けられました。

 その夜。礼菜は圭一郎とともに夜遅くに帰宅しました。圭一郎の両親と親戚一同に礼菜を紹介するため、彼らは江戸に赴き、戻ってきたところだったのです。彼らの友人でもある浪人、悟史郎も用心棒にと同行していました。
しかし、二人は店から盗賊団が出てくるのを見ました。死怨組の連中は、二人の姿を見て驚き、そのまま逃亡したのです。
彼らは大切な内掛けや日本刀を手にしていました。それを見た圭一郎は刀を握り、悟志郎とともに彼らを追いかけました。
店の中で礼菜は、縛られていた従業員達を助けました。浅ましい死怨組の連中は、誰かにとって大切な品物でも奪い取る、見下げ果てた根性をここでもあらわにしたのです。
圭一郎と悟史朗は盗賊を追い、彼らの根城を突き止めました。そこは、件の廃村、ないしは寺だったのです。寺の本堂の中に、彼らはたむろしている様子でした。そして、寺の本堂から離れた土蔵。そこにさっきの二人が何かを運んでいるのが見えました。おそらくは、さっき奪った宝物、大切な内掛けと日本刀を運び込んでいるのでしょう。
人数が多いため、二人では分が悪い。一度引き上げ、人を呼んでから‥・・と思った矢先です。後ろから矢と刀を突きつけられ、二人は捕えられてしまいました。
剣をとりあげられ、二人は縛り上げられてしまいました。見ると、盗賊たちは各所で好きに過ごしています。
盗賊の親玉は、二人を見てにやつき、言いました。二人を人質にして、金をせびってやる。だから、おとなしくしていたら危害は加えない。しかし、もしも逆らったらお前達だけでなく、お前の嫁もさらって人質にしてやる、と。
彼の哄笑を歯噛みして聞いていた二人ですが、突如として根城の周囲から悲鳴が聞こえてきました。
見ると、寺の周りで何かが跳んでいます。空を飛んでいるのではなく、地上を跳んでいるのです。それが群れを成し、寺と、寺の内部の盗賊を襲ったのです。
 鳥か何かか? と、最初は思いました。しかし、その姿は鳥にしては奇妙です。半円形、もしくは円形のひらひらしたものが見えますが、羽ばたく様子は見えませんでした。長い脚を持ち、それを使ってその何かは巧みに跳びまわり、盗賊たちを襲っていました。
あいにくその晩は月が出ておらず、それの姿は判別しません。が、松明の明かりが消える寸前、二人はその姿をちらりと見ました。
それは、一本足をしていました。まるで、竹で出来たかのような一本足だったのです。

「それで、夫と悟史朗さんは近くにあった短刀を使い、縄を解いたんです」
 園崎礼菜は、ギルドの応接室にて依頼内容を口にしていた。
「盗賊たちを襲ったのが何か、自分には分かりません。ですが、一本足で飛び回る何かが確かにいたと、夫も悟史朗さんも言ってます。それのおかげで、二人は助かったようなものですが」
「ともかく、二人が言うには、その隙に逃げてきたのです。が、一本足の何かは、逃げる二人に対しても容赦なく襲い掛かりました。夫と悟史朗さんは大怪我を負いつつもなんとか戻り、私たちに事情を話してくれました。今、二人は村の私の家で看病しているところです。
 それで、聞くところによると‥‥どうもこの一本足の化物はここ数日、街道に夜な夜な現われては、旅の人や周囲の村の人たちを襲う、とのことらしいです。おそらくは、盗賊たちを襲ったのもそれでしょう」
 礼菜は、銭入れの巾着を取り出した。
「二人は、内掛けと刀を取り戻そうと躍起になっています。私は、二人の命が助かっただけでも良いのに‥‥。大切なものである事にはちがいありませんが、これ以上二人を危険なことに巻き込みたくありません。ですが、このまま放っておく事も危険です。皆様のお力で、一本足の群れを退治していただけないでしょうか? よろしくお願いします」
 そう言って、礼菜は頭を下げた。

●今回の参加者

 ea4387 神埼 紫苑(34歳・♀・志士・パラ・ジャパン)
 ea7980 蓁 美鳳(24歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 eb0888 マリス・メア・シュタイン(21歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb3242 アルテマ・ノース(31歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 eb3511 ヘヴィ・ヴァレン(34歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb3601 チサト・ミョウオウイン(21歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 eb3843 月下 真鶴(31歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 eb3984 ヴェスル・アドミル(29歳・♂・ウィザード・シフール・ノルマン王国)

●リプレイ本文

 村には人の気配が全く無く、寂れた空気をかもし出していた。
 空気はいまだ冷たく、それが寂れた雰囲気をさらに増している。そのような中をパラの志士、神埼紫苑(ea4387)は歩を進めていた。
「見たところ、例の一本足とやらの気配は無いみたいだね。‥‥ううっ、寒っ」
 しかし、月下真鶴(eb3843)は油断なく周囲に目をやっていた。日中とはいえ、出てこないという保障はない。その時になったら、自分の霞刀を一閃させようと、彼女は刀の柄から手を離さずにいた。
 他に同行しているのは、ノルマン王国のエルフ、アルテマ・ノース(eb3242)、ビザンチン帝国のハーフエルフ、ヘヴィ・ヴァレン(eb3511)。そして、イギリス王国のウィザード、チサト・ミョウオウイン(eb3601)。
「父様のお話にあった‥‥九十九神‥‥唐傘お化けさんでしょうか?」チサトは、両親の母国に伝わるモンスターの知識を思いおこし、その知識の中に当てはまる物が無いか記憶の糸を手繰っていた。
「ツクモっつうと、道具が化けるってモンスターの事か? 物は大事にしろと、ジャパンでは物自らが教えてくれるって訳か」
「ええ、ヘヴィお兄ちゃん。大切にされなかったり、供養されず放置された道具が、化けて祟る事があるそうです」
「すると、今回のモンスターは、傘が変化して発生したもの、なのでしょうか?」アルテマが疑問を口にする。
「おそらくは。きっと、道具も寂しいと思っているのかもしれません」
 エルフのウィザードの言葉に、チサトはうなずいた。

マリス・メア・シュタイン(eb0888)とヴェスル・アドミル(eb3984)。
 イギリス王国のハーフエルフと、ノルマン王国のシフールは、周囲の村にて聞き込みをしていた。
「失礼。以前に、群れをなす一本足のモンスターを見かけませんでしたか?」
 ヴぇルスが訪ねたが、老婆は首をかしげ、不思議そうな顔をして答えた。
「スマンが。そちらのシフールの外人さん、何を言ってるんじゃね? わしゃ西洋の言葉はとんとわからんでな」
「え、えと‥‥『一本足の、おばけを、見ませんでしたか?』」
「ああ、わしは一本釣りをしてないが?」
 マリスが通訳するも、耳の遠い老婆からの情報収集は困難を極めた。
「まいったなあ、ジャパン語ちゃんと習っとけばよかったですよー」
 マリスの現代語万能スキルが無ければ、意思の疎通と情報の収集はできなかった事だろう。
「で、彼女はなんと?」
 淡々とした口調で、ヴェスルはたずねた。
「とりあえず、みなさんと合流しましょう。その時にいっしょにお話しますよ」

「‥‥ふむ、建物が密集してるね。それに、死怨組の根城にしてた仏閣。あれが中心部って事で良さそうだ」
 冒険者たちは調査を終え、村に続く街道の入り口にて話し合いをしていた。ここならば見晴らしがよく、襲撃を受ける可能性が低いと判断したためだ。
 寺に入り込もうとした時だった、月下は、寺の中から何かが動く気配と、物音を感知したのだ。
 彼女の報告を受け、皆はすぐにその場所から退散した。鼠か、もしくは野生の獣が入り込んだのかもしれない。実際、入り口で鼠の死体があった。
 しかし、月下が見た鼠の死体。それはまだ新しく、何かに踏み潰されていたのだ。
「寺の中には、何かの気配があった。動く何かがね。あのまま踏み込んでいたら、おそらくは襲撃を受けてたと思う」月下は付け加えた。
「他の建物や小屋も調べてみましたが、破れた傘や道具など、壊れたものだけで何もありませんでした。おそらくモンスターは、昼間はあの寺の中にいるんでしょうね」と、チサト。
「で、ここは村中央にある広場。陣を張るならここがいいだろう。回りの建物も多くないし、襲われたところで対処しやすい事だろうし」
神埼が、大まかに書き上げた廃村の地図、ないしはその一点を指差しつつ言った。
「で、マリス、ヴェスル。そっちの方はどうだったんだ?」
「こっちも、いくつか情報を得ました」
 ヘヴィの質問に、マリスは答えた。
「村の人たちに話を伺ったところ、どうも『一本足』の集団は、大きなキノコ、もしくは傘みたいな外見をしてたそうです。それが、少なくとも10体前後は出てきて、襲い掛かってきた‥‥と」
「マリスの通訳を介して何人かに聞いたが、共通しているのは傘状の何かに襲われた‥‥ということらしい。ジャパン語は知らないため、なんと言っていたかは分からないが」
 ヴェルスが、マリスの言葉を補足した。
「村には、死体が転がっていた。鼠だけでなく、死怨組の連中と思われる死体がね。食い散らかされていた様子は無かったから、人間を食べる類のモンスターじゃあないと思うよ。危険なことには変わりないけどね」と、月下。
「依頼人の礼菜さんの内掛けと、圭一郎さんの刀は、モンスターを倒した後で探すとして‥‥やはり村に待ち伏せて、出てきたところを退治する、という事になりそうですね。では、私は夜目が利きますから、見張りをしますね」
 アルテマの言葉に、神崎はうなずいた。
「じゃあ、アルテマ。お願いするよ。それから、みんな。待ち伏せるんなら、それぞれの担当を決めておいた方がいいね」

 かくして、待ち伏せが行われることに。冒険者達は、村の広場にて陣を組んだ。
 壊れた壁が立っており、壁を背にして戦うことが出来る。後ろから不意は付かれないだろう。話し合いの結果、月下、マリス、ヘヴィらは武器を持ち前衛に、残りのメンバーは後衛を受け持つ事になった。
被害者たちが襲撃を受けた時のように、アルテマの提案で即席の松明を作り、各所に灯りをつけておくことにした。
 そして、モンスターが出てくるまでの間、マリスは呪文を唱え、敵の位置を確認しておく。
 陣形を組んだ冒険者達から離れ、寺を望む場所でマリスは巻物を広げ、呪文を、バイブレーションセンサーを念じた。
「‥‥やはり、あの中に居るのは間違いないわね。でも、なんだか数が少ないな‥‥?」
 呪文は、寺の中に何かが存在する事をマリスに伝えた。が、その数は二・三体程度で、十数体とは言えない。
「呪文では感知できない場所にいるのか、あるいは効かなかったのか。どちらにしろ油断は出来ないってわけね」
 マリスはひとりごちた。村の空気がますます冷たくなってくるのを、彼女はその肌で感じた。

「どうした? なんだか浮かない顔だね」
 日が沈み、夜も更けた頃。神埼とヘヴィがチサトに声をかけた。
「怖いのか? 俺が守ってやるぜ、安心しな」
「え、ううん、違うんです」チサトはかぶりを振った。「もしもこのモンスターがツクモ神ならば‥‥今は廃れてますけど、ここは元々物造りの村。きっと大切に使われてきたんでしょう。だから、余計に悲しくなって化けて出たのかもしれないと思って‥‥」
「けど、こいつらは周辺の村人を傷つけるような事してるんだよ? 可哀相と思うのはいいが、放っておくわけにはいかないだろう?」
「わかっています、神崎お姉ちゃん。ですから、もしも退治した後は、供養してあげたいと思うんです。この、死怨組の皆さんのご遺体と一緒に」
「やれやれ、怪物に対しても哀れに思うとはね。けど、そういうの嫌いじゃないよ」
「俺もだ。仕事が終わったら、お前さんの手伝いをさせてもらうぜ。構わんだろ?」
 神埼とヘヴィは、微笑みつつチサトに言った。

「! みなさん、静かに!」
 少し離れた場所から、アルテマの声が響く。
 そして、散開しつつ見張っていた冒険者達は、すぐに陣形を組み、身構えた。
「‥‥寺からだけじゃない、他の場所からもやってきてます!」
 再びバイブレーションセンサーを発動したマリスは、何かが周辺からも出現し、接近している事を感じ取った。それらは冒険者たちの陣形を、扇状にして囲み、徐々にそれを狭めている。
「大きさは‥‥傘くらい? どうやらチサトさんの言うとおり、傘のモンスターみたいね」
 証言どおり、それらは飛び跳ねるようにして、徐々に接近しつつあった。カッカッという地面を蹴る音が、やけに不気味に聞こえる。
 月下は日本刀、ヘヴィは六角のメタルロッドをしっかりと握りしめた。矢面に立つマリスは手のスクロール以外、何も手にしていない。丸腰だが、彼女は素手での戦闘技術と、何より呪文を心得ている。神埼もまた、呪文が役立たない時に備えて愛用のショートボウを使えるようにしてある。
 武器を携えた者は少ないものの、ほとんどの者が呪文を心得ていた。この、謎の相手に対し、呪文が通用すればいいのだが。
 地面を蹴る音は、子供が片足で飛び跳ねる時のような、奇妙なリズムを奏でていた。そして、それは、灯りの元に照らし出された。
「! やはり、傘化け!」
 チサトの予想は正しかった。灯りに照らし出されたそれは、まさしく傘だったのだ。
 それらは破れ、骨が出てボロボロになり、さながら狂乱した蝙蝠か化けカラスの翼を思わせた。柄の部分をくねらせる事で、一本足で飛び跳ねて移動している。確かに薄明かりの中にその姿を見たら、奇妙な翼を持つ一本足の動物に見えなくもない。
 群れをなして出てきたそれらは、マリスの姿を見て、餌に群がる魚のごとく近付きつつあった。
 正面からだけではない。傘は周囲からも、マリスをめがけて近付いてくる。その傘の柄が茶色い染みで汚れているのが、少し離れた場所に居るヘヴィと月下の目にも映った。紛れもなく、血痕だ。
 チサトや神崎たちも、その様子を食い入るように見つめる。
 傘化けたちも、マリスが離れているのを見て、襲い易い獲物と理解したのだろうか。ふわりふわりと彼女の周囲を跳ね回り‥‥不意に襲い掛かった。
「! ローリンググラビティ!」
 その一瞬、マリスの手の巻物、ないしは術者マリスの念が周囲に放たれた。呪文は効果を表し、彼女を中心とした三m、つまり襲い掛からんとした傘化けたちが群がっていた位置に、異変が起きた。
 すなわち、重力が逆に作用したのだ。
 マリスを今まさに蹴り殺そうとしていたツクモ神のモンスターたちは、逆に目に見えぬ力で空中へと浮かばされた。じたばたするその様子は、どこか滑稽だ。
 重力はすぐに正常に戻り、そして傘化けもすぐに地面に叩き落される結果となった。
「やった!」
 思わず神崎は、快哉の言葉をあげる。
 数匹の傘化けは、一本足が折れ、大きなダメージを食らっていた。が、ほとんどは自らの傘を広げ、なんとか落ちる時のダメージを回避していた。
 しかし、すでに月下とヘヴィが、傘化けに襲い掛かっていた。
「バーストアタック!」
「食らいな! 俺のカウンターアタック!」
 混乱している傘化けの集団に、霞刀とメタルロッドの一撃が容赦なく襲う。仲間達が振るう鋭い刃と六角の金属棍を見て、マリスはマグナブローの呪文を用いる必要は無さそうだと判断した。
 が、それでも二・三の傘化けが逃げ出そうとしている。
「逃がしません! 電光よ、わが掌に集い、敵を打ち据えよ!『ライトニングサンダーボルト!』」
「風よ、鋭き刃となりて敵を切れ‥‥『ウインドスラッシュ』」
 アルテマとヴェスルがそれぞれ唱えたのは、電撃と烈風の呪文。それらは、両脇に逃げていこうとする傘化けに命中した。電光は傘を打ち据え黒く焦がし、烈風は傘を切り裂き、木っ端とした。
「これで、終わりだ!」
 ヘヴィの重いロッドの一撃が、最後の傘化けに止めをさした。

「ありがとうございました。これで、全てが解決しましたわ」
 次の日の正午。内掛けと刀を取り返し、冒険者達は依頼人の下へと赴いていた。
 礼菜は圭一郎とともに、そして悟史朗とともに、冒険者達に何度も礼を述べた。
「何もありませんが、今日は昼食をご馳走させてください。これは私たちの、ささやかな気持ちです」
「それじゃあ、ご相伴に預かろうかしら。みんな、いいわよね?」
 圭一郎の提案に対し、アルテマが返答すると、皆も微笑みながら同伴する事にした。
「チサト、ジャパンの料理ってどんなのがあるのかしら? 私はジャパンの事はあまり知らなくてね‥‥チサト?」
 ようやくアルテマは、チサトの表情が沈んでいる事に気づいた。
「あ、あの‥‥礼菜さん、圭一郎さん。お訊ねしたいんですが‥‥」
 おずおずと、チサトは言葉を口にした。
「近くに、仏閣はありませんか? 傘を、弔ってあげたいんです」
「弔う、ですって?」
 依頼人達はもちろん、仲間達もその言葉に目を丸くした。唯一、神崎とヘヴィは、チサトをそのまま見つめている。
 あの後、冒険者達は傘を倒し、村をくまなく探った。その結果、傘化けを倒したと判断し、依頼人の内掛けと刀を探しに寺へと入っていったのだ。
 そして、死怨組の遺体を集め、荼毘に付した。が、チサトは神崎とヘヴィに助けられつつ傘の残骸を集め、村にあった大八車に積み、運んだのだった。
「父や母から、ジャパンの事はよく聞かされていました。ジャパンには、古いものに命や心が宿り、それが捨てられると、時に化けて出ると。あの傘も、きっと寂しくなって、あんなふうに化けて出たのだと思うんです。ですから、その‥‥なんだか、不憫に思えて」
「お寺は、この近くにはありません」礼菜は、その言葉に答えた。
「ですが、神社はここからすぐの場所にあります。そちらの神主様に事情を説明すれば、丁重に供養してもらえると思いますわ。ええと、チサトさん‥‥とおっしゃいましたね?」
 礼菜は、チサトに微笑みつつ言った。
「あなたのその心遣いは、きっと傘化けにも届くでしょうね。物に込められた思いは、化物になるだけではなく、時に使う人間を様々なところで助けてくれる事があります。その心がけを忘れることなく大切に道具を使っていれば、いつかはきっとあなた御自身を助けてくれることでしょう」
 礼菜の言葉に、チサトは照れるように微笑んだ。

 以後、かの村には傘化けが出てくることは無くなった。
 寂れた村には、いつしか野の花が根付き、春になると美しい花が咲き誇るようになったという。まるで、村と共に捨てられた道具を慰めるかのように。