明日に駆ける戦馬

■ショートシナリオ


担当:塩田多弾砲

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 94 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月26日〜03月05日

リプレイ公開日:2006年03月06日

●オープニング

 その馬は、とても大切なものであった。
 二つの家の仲を取り持っただけでなく、禍根を取り除いた存在でもある。
 その馬は、これから始まるであろう、輝かしき未来の象徴でもあった。
 ゆえに、取り戻さなければならない。

 きっかけは、園原家と古崎家。二つの対立していた武家。
 この二つの家は、先々代より憎みあっていた仲だった。というのも、元は大親友の園原倉之助と古崎竹三郎は、あるときに二人して化物退治に出た。
 が、危機に陥った園原は、その身を挺して古崎を助け、自らが逃げ道を切り開いたのだ。
「必ず戻り、詩乃と婚姻する。待っていてくれ」と言い残し。
 やがて古崎は生き残り、化物退治を見事にやり終えて凱旋した。が、園原の許婚である詩乃は悲しみにくれていた。園原の行方はようとして知れず、彼は死んだものと思われた。
 そして、それから5年。園原は戻ってきた。
 記憶を失い、彼は近くの武家に世話になっていた。が、此度に記憶を取り戻し、戻ってきたわけだ。が、古崎は詩乃の夫となり、子供も生んでいた。
 古崎は、何度も謝罪した。が、以前から園原と同じく、詩乃に想いを寄せていた古崎は、悲しみにくれる詩乃をほうってはおけず、それがいつしか愛情に変わり、二人は夫婦となった。
 激怒した園原は、古崎の妹である魅乃をさらい、なかば無理やりに自分が婚姻してしまった。彼女はかつて園原を慕っていたが、詩乃と恋仲になった園原のために身を引いていたのだ。
 だが、妹を奪われた古崎は、園原を激しく憎むようになってしまった。
 その心痛から病となり、詩乃は亡くなり、そして詩乃を実の姉のように慕っていた魅乃も、詩乃の後を追うようにして自害した。
 園原と古崎には、それぞれ男児が生まれていた。が、このことを知ってから、お互いに憎み合うようになってしまった。
 それからというものの、二つの家の間では抗争が絶えず、互いに傷つけあっていた。

 が、二人の孫、園原の孫、圭二郎と、古崎の孫娘、沙都乃。
 恋仲となった二人は、この争いをなくすため、互いの命を賭けて止めさせる事を決意した。
 即ち、駆け落ち。
「わたくしと圭二郎様は、覚悟が出来ております。もしも憎しみを捨てず、仲を認めないと言うのなら、私は園原様もお爺様とも、会いたくありません!」
「そうだ、沙都乃どのがおらぬのなら、拙者がこの世に生きる価値は無い! 今この場で、約束せよ。拙者と沙都乃どのとの仲を認め、互いの家で憎しみ合う事をすぐに捨てると」
「さもなくば、わたくしと圭二郎様は命を絶ちます。わたくしのお婆様と、圭二郎様のお婆様との悲劇、忘れてはおりません。ですが、もうこれで終わりにしましょう」
 こうして、二人の仲は認められ、互いに渋々ではあったが、両家は仲直りする運びになった。

 さっそく、婚姻の儀が結ばれることとなり、古崎の家からは仲直りの印として、大切な宝物が送られる事になった。
戦馬『未来丸』。
「この馬は、我が妹・古崎魅乃の愛馬の子馬。未来を切り開くたくましさを願って付けた名だ。沙都乃の嫁入り道具として、圭二郎どのに与えよう」
 と、老古崎からの言葉。
 かくして、嫁入り道具は沙都乃とともに園原の元へ。
 しかし、園原はいまだ信用がおけなかった。むしろ、沙都乃を古崎からの間者か何かで、こちらの手の内を探るために送られたのでは‥‥という疑惑が晴れなかった。

 ともかく、沙都乃は未来丸とともに、園原の屋敷へと向かった。
 しかし、領地の境界線にて。そこに彼らは不意を食らってしまった。小鬼の盗賊団が、襲撃を仕掛けてきたのだ。なんとか撃退したものの、双方の家の人間に多くの死傷者が出て、圭二郎も負傷してしまった。
 そればかりでなく、戦馬も行方不明になってしまったのだ。未来丸は、戦馬であるために勇敢で、主人である沙都乃、そして圭二郎が危機におちいったと見ると、小鬼たちを倒そうと追いかけたのだ。数匹の小鬼が蹴り殺されたが、ほとんどが山奥へと逃げ、それを深追いし、戦馬も行方不明になってしまったのだった。

 ともかく、圭二郎ら負傷者たちを園原の屋敷に運び、手当てを施した。
 が、老園原はそれを信用しなかった。
「どうせ、あちらが仕掛けたのだろう。馬を渡したくなくてな。やつはわしから詩乃を奪い、そして圭二郎までも奪おうとしたのだろう!」

「‥‥まだ、双方の家には、お互いに相手を憎んでいる者が多く居ます」
 沙都乃と、彼女の世話役、隆山栖衛門。そして圭二郎の世話役、冨竹芳治が、ギルドに来ていた。
「わしは、沙都乃様に仕えておりますが、これ以上争ったところで、お互いに傷つくだけ。この婚姻を成功させる事は、園原・古崎両家の明日のために必要なことと存じます」隆山が言った。
「私も、同じ意見です」彼に続き、冨竹もうなずく。
「古崎様と我が主人の間に起こった事は、確かに悲劇。しかし、今のままではその悲しみを引き伸ばすだけで、生まれてくる圭二郎様と沙都乃様とのお子のためにもなりますまい。過去より、明日。悲しみの過去より、明るい明日を育みたいのです。ですが‥‥」
「今のままでは、それはかないませんわ。出来ることは、未来丸を取り戻し、献上する事で、わたくしのお爺様の誠意を見せること。ですが‥‥」
 捕まえることが、できないというのだ。
「今、未来丸は、このあたりの山に居る‥‥といった情報を得ています。ちょうど、小鬼の盗賊が出た場所ですね。それで、捕まえに行ったのですが‥‥未来丸は、捕まってくれないのです。もとより未来丸は気高い馬で、自分が主人と認めない者にはその背中を許しはしませんでした。乗ることが出来るのは、お爺様と父上、今は亡き母上、それにわたくしだけです。最近になって、圭二郎様も主人として認めました。
ですが、家来にはどんなに言い聞かせても、背中に誰も乗せようとしません。それだけ、誇り高い馬なのです。無論、その誇りに見合うだけの勇気も持っています。父上は未来丸に乗り、様々な怪物退治をしてまわりました。今の父上が、そしてわたくしがいるのは、未来丸のおかげと言っても過言ではないでしょう」
 老古崎は、老齢ゆえに探索に出るのは無理。父親も、過去に受けた傷で片足を失っている。
「わたくしが、未来丸の探索に‥‥と思ったのですが、隆山と冨竹さんから止められました」
「当然です、沙都乃様が小鬼の盗賊に襲われたら、それこそ悲劇の繰り返しに他なりません」と、隆山。
「左様。沙都乃様は、負傷した圭二郎坊ちゃまの傷の手当をしていただきたいのです。そしてできるなら、我が主人の心を解きほぐす手助けをしていただければ」と、冨竹。
 彼らの言葉によると、未来丸が追った小鬼たちはまだ健在で、かなりの数がいるらしい。
それらはことによると、未来丸を狙うかもしれない。遠くから弓を射る、罠を仕掛ける、などを行って。そして隆山と冨竹は、沙都乃を危険に晒すのをよしとせず、未来丸の探索と捕獲を、ギルドに依頼したい‥‥というわけだ。
「未来丸は、額に稲妻の模様があります。そのために見分けはつきますが、問題は小鬼と、未来丸の性格でして‥‥どうにかできぬものかと、悩んでおります」
 彼らは、頭を下げて依頼した。
「どうか、未来丸を見つけ、園原の屋敷へとつれてきてはくれませんか? 皆様のお力を、お貸し下さい」

●今回の参加者

 ea2352 ヴァルテル・スボウラス(16歳・♂・レンジャー・シフール・ビザンチン帝国)
 eb2168 佐伯 七海(34歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb2357 サラン・ヘリオドール(33歳・♀・ジプシー・人間・エジプト)
 eb3917 榊原 康貴(43歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb4462 フォルナリーナ・シャナイア(25歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 eb4554 レヴィアス・カイザーリング(33歳・♂・ナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 eb4598 御多々良 岩鉄斎(63歳・♂・侍・ジャイアント・ジャパン)
 eb4629 速水 紅燕(38歳・♀・志士・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

「最初にみんなに確認しておくけど、未来丸を無理やり引っ張ってくるような事は止めましょう。聞くところによると、かなり気性の荒さで、誇り高い性格の様子。おそらく、未来丸は従わず、かえってこちらにも攻撃を仕掛ける可能性があるからね」
 出発の前に、サラン・ヘリオドール(eb2357)が念を押した。エジプト出身のジプシー女性の言葉に、仲間達の多くは同意を示す。
 ただ一人、シフールのヴァルテル・スボウラス(ea2352)だけは残念そうな顔をしていた。
「そうなの? 僕だったら小さいから、飛び乗っても気づかれないと思うけど。チャレンジしても良いよね?」
「いいえ。下手に刺激したり、こっそりそんな事をしたら、私たちが未来丸に信用されないでしょうよ。いくら沙都乃さんから道具を借りたところで、だましたり、無理に乗るような事をしたら、未来丸は私たちから逃げて、かえって連れ帰れなくなるわ」
「そうだな。起こさなくても良い問題を、わざわざ起こす必要もあるまい。相手は畜生とは言え、誇り高い性格。ならば、こちらにその意図が無くとも、誇りを汚すような真似はすべきではない」
フォルナリーナ・シャナイア(eb4462)とレヴィアス・カイザーリング(eb4554)は、ヴァルテルをたしなめた。
「うむ、フォルナリーナ殿とレヴィアス殿の言うとおりだろう。我らの目的は、あくまでも連れ帰る事であり、未来丸と仲良くする、もしくは乗りこなす‥‥ではないからな」
榊原康貴(eb3917)の落ち着いた声が、異母兄妹の神聖騎士とナイトの言葉を肯定する。
「しかし、警戒させぬように‥‥と思い、糞尿が用意できなかったのはつくづく残念。ううむ、人の臭いを消せば、うまく事が運べるやもしれぬと思ったのだが」
 御多々良岩鉄斎(eb4598)は残念がっていた。彼は未来丸の馬舎に赴き、未来丸の糞尿を手に入れようと考えていたのだ。それを身体に塗りたくる事で警戒心を薄れさせ、未来丸に近付こうと考えたらしい。
佐伯七海(eb2168)は、その目論見が失敗した事を心の奥で密かに喜んでいた。
だが、出発前に沙都乃からはお守り袋を借りていた。サランが今預かっているそれは、沙都乃が未来丸に騎乗する際にはいつも身に付けていたもの。見た目にも派手な朱色のために目立っており、それを見せれば必ず何らかの反応を示すはずと、冒険者達は読んでいた。
「んじゃ、後うちらに必要なんは、小鬼の居場所を確認する事やな」
速水紅燕(eb4629)が言った言葉。今一番の問題はそれだろう。肝心の小鬼がどこにいるのか、そいつらはどこを根城にして、今現在どういう状況なのか。それをはっきりしない事には、作戦も対策も立てられないだろう。
 今のところは、村々でそれらしい小鬼の集団が、群れを成してあちこちに襲撃している‥‥くらいしかわからない。ゆえに、聞き込みする事で、もっと詳しい情報を手に入れる必要があった。
「じゃあみんな、行きましょう!」
 サランの声に、今度は全員がうなずいた。

「どうやら、この周辺に間違い無さそうだね」
 佐伯の言葉は、前方の山に向けられていた。彼女の隣には、まだ子犬の柴犬を連れたフォルナリーナの姿があった。
 調べによると、額に模様が付いた馬の目撃談はかなりあった。それが多いのは、ちょうど沙都乃たちが襲われた場所の周辺。
 そして、この先にある廃村に小鬼たちがたむろしているという。狩人がたまたま目撃しており、実際にそれらを襲う馬もあわせて目撃されていたのだ。
 馬の額には、稲妻のような模様がある、との事だった。
「‥‥サンワードで確認を取ったわ。この先に小鬼の群れがいる事はわかったけど、未来丸の居場所までは分からないわね。馬そのものはいるんだけど、それが未来丸かどうかまでは、ちょっとはっきりしないわ」
「ううむ、その小鬼らめが、未来丸が狙っている小鬼どもならば良いのだが」
 サランの言葉に、相槌を打つ御多々良。
「ハルヒュイア殿はどうかな?」
「空から見てもらってるけど、今のところ何も見つけてないみたいね」
 サランの連れていた鷹は、遠くのほうで空を舞っている。今のところは、何も見つけてはいないようだ。
「だが、少なくともここ周辺では小鬼の目撃証言はそれだけ。それに、そいつらを追い続けている馬がいる事も事実。ならば、私たちが追っている小鬼どもを、未来丸も追っている奴らだと見て構わないだろう」と、榊原。
「エルはどう? 未来丸の匂い、嗅ぎ付けてない?」
「ううん、あんまり‥‥エル?」
 フォルナリーナの柴犬が、反応を示した。何かをかぎつけたらしい。
「どうやら、俺たちの小さな仲間が見つけたらしいな。未来丸の居場所を!」
 レヴィアスが、期待をこめつつつぶやいた。

 そこは、ちょっとした戦場になっていた。
 小柄だが、邪悪さをたたえた顔の鬼が、小さな剣や斧や棍棒などを手にしている。集団で物陰に群れているそれらは、馬に追われて空き家に閉じこもっていた。
 無謀な小鬼が数匹、空き家から飛び出して馬に向かっていく。その手には長大な槍が握られていた。
 人間、それも戦闘能力を持たない村人や農民ならば襲われて命を奪われることだろう。しかし、その見せ掛けだけの小鬼の気迫など消し飛ばしてしまうほどの、気概と迫力をその馬は持っていた。
 馬は、槍を持った小鬼を見てひるむどころか、威嚇するように嘶いた。後足で立ち上がり、前足を振り回す。その蹄の一撃が、粗悪な槍の穂先を簡単にへし折り、汚らしい小鬼の頭蓋を砕いた。
 後ろから斬りつけようとした小鬼がいたが、後足の強烈な蹴りを見舞われ、仲間達と同じ末路となった。
 数匹の小鬼を血祭りに上げた馬。その額には、紛れもない未来丸の証があった。
 屋敷から、小さな矢が射掛けられる。さすがにそれは防ぎようがないためか、未来丸はそのまま退却し、藪の中に姿を消そうとした。
 未来丸が差し掛かった大木。その木の上から、やはり数匹の小鬼が網を被せたのだ。
 漁師が巨大な魚を手に入れたように、小鬼は馬を網で絡め、虜とした。自分たちの勝利を確信したのか、小鬼は下卑た笑いを浮かべていた。
 短刀を振りかざし、身動き取れない馬に止めをさそうとする小鬼たち。昼飯は豪勢なものになるだろう‥‥。
 そう、近くに冒険者達が居なければ。
「ブラックホーリー!」
 フォルナリーナの唱えた呪文が、短刀を振りかざした小鬼へと直撃する。たちまちのうちに、こしゃくなその生き物は絶命した。
 死んでしまった仲間を見て、ようやく小鬼は自分たちが狙われている事に気づいた。
「儂の銘は、がんってっつさあーい! 喰らうがいい! 貴様らが何匹来ようと、わが武器は休まぬぞ!」
 棍棒の強力な一撃を食らわせつつ、御多々良の咆哮が戦いの場にこだました。
 佐伯と速水、榊原の得物である日本刀、ないしはその刃がきらめく。対照的ななまくら刀を構えた小鬼の群れは、獣めいたうめき声とともに冒険者に切りかかった。
「あいにくやが、そんなお粗末なモンじゃ、うちらを倒せんで!」
 小鬼の装備と様子を観察した速水だが、この相手はそれほどの脅威でないと判断していた。自分にかけたバーニングソードの呪文すら、勿体無いくらいの程度だ。彼女の鋭い日本刀が、性悪な生き物を切り裂き、どす黒い血を流させる。
 屋敷の中から、速水を狙う弓使いの小鬼がいた。そいつは弓を引き、速水を亡きものにしようと企み‥‥後ろに入り込まれた榊原に引導を渡された。串刺しにされた時点で、そいつはようやく自分が襲われた事に気づいた。
 レヴィアスもまた、乱戦に参加していた。右手に握られた大脇差が、小鬼どもの命を切り裂き、突き刺し、殴りつける。
 そして彼の妹は短剣を抜き、虜の未来丸を解放せんと網を切っていた。
 佐伯が、首領格の小鬼と、参謀格の小鬼二匹と対峙する。
「僕は仏師だ、小鬼であろうと積んだ命の為にも仏を刻んで供養してやろう。迷わず閻魔様と面会して来るんだな」
 佐伯の言葉を理解したとは思えない吼え声とともに、二匹の小鬼は錆が浮いた剣で両脇から切りかかってきた。
 仏師の女性は、片方の攻撃を受け止め、片方を一撃の下に切り捨てた。そして、返す刀でもう一匹の命にも、刀の切っ先を食い込ませていた。
 逃げようとした首領格の小鬼は、振り向いたそこに、自らの死神の姿を見た。網から解放された未来丸が、立ちはだかっていたのだ。
 重く鋭い蹄の一撃が、小鬼の脳天に直撃した。

 小鬼との戦闘が終わり、未来丸と冒険者達は対峙していた。
 未来丸は、興奮冷めやらぬ状態で、ブルルッっと鼻を鳴らしていた。
「えっと‥‥連れて帰らなきゃ」
 ヴァルテルが促し、フォルナリーナがおずおずと近付いていった。
 彼女は先刻、沙都乃からのお守りを見せつつ網に近付き、未来丸を虜から解放したのだ。最初は暴れたが、お守りを見ておとなしくなり、彼女にやらせるがままになった。
「沙都乃さんと圭二郎さんの幸せのためには、あなたが必要なの」
 武装を解き、彼女は未来丸に語りかける。
 未来丸は、彼女の様子を見つめていた。まだ気を許しては居ないが、少なくとも敵意や殺意はない‥‥と、フォルナリーナは思った。
「お願いだから、大人しく戻ってきて‥‥ね?」
「そうよ、もう十分つとめは果したでしょう?沙都乃さんと圭二郎さんが待っていらっしゃるわ。帰りましょう」
 フォルナリーナの隣に、サランも進み出る。彼女もまた、その場で立ち止まり、迎え入れるかのように大きく手を広げた。
「いい子だ‥‥お前の主人が待っている。帰るぞ」
 家畜にではなく、歴戦の勇士に対して語るかのように、レヴィアスもまた言葉をかけた。
 焦らず、しかし下手に出る事無く。
 どのくらいの時間が経ったことだろう。検分するかのように視線を向けていた未来丸は、やがてゆっくりとフォルナリーナへ歩み寄った。
「ちゃんと主を守ったのね。偉かったわ」
 サランの言葉がわかるのか、未来丸は誇らしげに首を伸ばした。

「ありがとうございました。これで、私と圭二郎様は結婚できますわ」
 屋敷にて、沙都乃は何度も礼を述べた。
「報酬は、すぐに持ってこさせます。それから、よろしければ夕食をご馳走させてください。皆様への、ちょっとした感謝の気持ちです」
 報酬が支払われ、冒険者達の懐が暖かくなった。もっとも、サランは後で復興のために寄付する予定だが。
 帰り道、未来丸はフォルナリーナやサラン、レヴィアスらの言葉には従った。どうやら、彼女たちには気を許したようであった。
 手綱を付けたり、誰かを背に乗せることはあくまでも拒否したが、それでも心を許した冒険者の言葉には従い、ようやくもとの飼い主の下へ戻ったところだった。
 沙都乃の家来たちは、些か驚いていた。接する時間が長い自分たちですら、慣れるのに数日かかったというのに。
 それだけ、未来丸の心に響く何かがあったのでしょうと、沙都乃は感心しつつ賞賛した。
「皆様のおかげで、二つの家の確証がなくなり、未来へと開く一歩を踏み出すことが出来ました。きっとこれからは、両家の間には憎しみではなく喜びが、争いではなく平和と希望が生まれる事でしょう。本当に素晴らしい事をしていただきました。あなた方に感謝します」
 感謝の言葉とともに頭を下げる沙都乃に対し、二つの家が幸福が待つ未来へ駆けて欲しいと願う冒険者達だった。